燃える都市、冬木。そこは特異点となった世界であり、オルガマリー所長が漂着した夜の街であった。
“おー……再生する肉体って相変わらず便利ね。しかも死んでも甦れるなんて、敵からすれば無敵より性質悪いもの”
焼け焦げた肉体。しかし再生した事で本来の血肉を取り戻し、所長は立ち上がった。着ていた服は既に破れ、焦げ付き、少し動いただけで体から剥ぎ取れてしまう。むしろ今取れた。
言うなれば―――全裸。
頭に黄金三角コーンを被れば、聖杯の遺跡で出会った女王殺しと同じ格好になるが、まだ羞恥心を捨てていない所長にその勇気は一切ない。裸族でもない。しかし、夢で体験した獣狩りの夜において、全裸で高速移動しながら蛞蝓ゲロするカリフラワー生やしてジョジョ立ちする狩人も鐘女に呼ばれたことがあるので、正直ヤーナムではそこまで変態度が高い訳ではない。何せ人は皆、獣だ。そうヤーナムの獣なら、別に裸一貫でも問題ないだろう。
所長は人間性に溢れた真っ当な魔術師なので、大いに問題だが。まぁ稀にテンション上がって、顔を隠す装備だけしてヤーナムを走り回ったこともあれど、今はそういう場合でもない。夢の中でもない。
「じゃあ、さてと―――」
無意味な独り言を止め、彼女は周囲を索敵する。どうやら魔物の気配とサーヴァントが多くおり、感じた限り殺し合いはしていないようだ。なので、脳に融けた蛞蝓である狩人の上位者が持つ異界常識―――狩人の夢の住人である使者へ所長は呼び掛けた。何時も通り不気味なれど聞き慣れると愛嬌のある、あの唸るような笑い声が耳に入る。
瞬間、足元に白い小人が湧き出る。
言うなれば、彼らは夢の使者。所長にしか見えぬ使い魔。
そして、その小人は灯りを支えていた。世界が異界に歪み、狩人の夢と此処が繋がった。その気になれば、カルデアの自室にある灯りへ所長は移動出来るが、まだその時ではない。
「――…………ん」
同時に
私の啓蒙冴えてるわぁ……と、狩人的冗談を思いつつ、次は戦う為の道具が必要。万能性を考え、何時も通り彼女はノコギリ鉈を右手に取り出した。これ一つあれば獣を抉り解き、上位者さえバラバラに刻み切れる。無論、相手が人間であれば血肉を抉り取り、斬り殺すことだろう。同時に、左手には獣狩りの散弾銃。水銀弾がバラけて放射されるので威力は短銃に劣るも、命中範囲と衝撃力に優れている。
正に、ヤーナムの狩人とでも言うべきもの。
獣狩りの夜にて、オルガマリーが狩人として血に酔った姿であった。
そうして、装備を完全に整えた所長の横に何ら音もなく、気配もなく―――男が一人、片膝を地面に突いて待機していた。
「あら、アサシン。ちゃんと生きていたの?」
「………回生にて」
静かに、その男は佇んでいる。影よりも暗い陰とでも呼べる存在感。気配殺しの腕前は異様なまでに高く、視認していても認識出来ない領域の達人である。それこそ戦国の世において、達人と呼べる侍だろうと視覚外からならば反応出来ず、同業の
「そう。貴方が不死で良かったわ。私が召喚に成功した私のサーヴァント、特異点消滅前に消滅しちゃうとか悲しいもの。涙が流れる程にね。
……私の裸も、じっくり見ていたようでもあるみたいだし?」
そう所長から見られ、しかしアサシンは鋼の無表情。とても無愛想な男であった。
「御冗談を………主殿」
爆破時、所長の隣に居たカルデア英霊召喚四号。それが一言返したアサシンの正体。
無論のこと爆発に彼も巻き込まれていた。二人は知らぬことだがあの爆薬はサーヴァントさえ殺せるように魔力が含まれる概念的強化がされた火薬で作られており、所長は自分のサーヴァントが木っ端微塵に粉砕される様も見ていた。だからこそ、銃弾を何発も耐える所長であろうと、下半身が吹き飛び、焼死体一歩手前の黒焦げになった。
とは言え、アサシンの不死性は所長よりも利便性が高い。死に難い所長も死ねば現実から目が覚め、夢で甦る不死。だがアサシンは死んでも幾度かその場で蘇生し、死に尽くすと回生されずに神隠しによって甦る。
故にアサシンは死んだ。直後、甦った。
主が生きていることをラインを通じて察し、だが不死である彼女に対し、アサシンはするべき事はなかった。傷薬瓢箪で回復しても良かったが、輸血によって回復する彼女には無意味。下半身が瓦礫で潰れるマシュに与えても、ただ死期が伸びて苦しむだろうと見ていただけであり、同時に彼女の中にいる何者かの御霊降ろしも察していた。手出しは無用だろうと判断するのも自然。
今の彼は、静かに今生の主であるオルガマリー・アニムスフィアの隣で佇み、事の成り行きを見守るのみ。
「それで、どのような雰囲気かしら」
「あちらと……そちらに……」
アサシンは視線を向け、敵の気配がある方角を見た。正確に言えば、自分達に意識を向ける者がいる方角でもあった。また味方も同時に存在する場所でもあり、今正に戦闘が始まろうとする気配が発生している。
「ふーん、本当ね。血が匂い立つわ」
「………は」
「それで……うーん。やっぱりあの人、生きてたわね」
「………あの人、とは?」
「本名不詳、偽名アン・ディールと名乗るカルデアのマスターよ。しかし、変ね。あの時のアナウンス、再設定されたのは藤丸立香だけだった筈なのに。それとも最初に登録されていたから、事故の影響で飛ばされてしまったのかしら。召喚範囲に居た所為で、巻き込まれた今の私達みたいにね。
貴方はこの状況、どう考える?」
「まずは、敵を斬るべきかと……」
「なるほど……そうね。まずは脅威の排除が一番よね、隻狼」
ニコニコと笑う所長から、アサシンのサーヴァント―――隻狼は目を逸らした。何故かこの女性は、自分を無条件で信頼している。その上で、私人としても信用している。恐らくは、その刃で心臓を串刺しにされたとしても、彼女は一切の邪念なく隻狼を死後も信頼するのだろう。
狂気に達した感情。
オルガマリー・アニムスフィアが信頼するとは、そう言うことだった。
隻狼にとって、彼女だけがカルデアで不可思議な女だった。忍び故に女を抱いたこともあり、そう言う情緒にも理解を持つ隻狼であるが、愛なのか、情なのか、友なのか、どのような感情なのか分からない。澄み狂う瞳を持つ女など、忍びの中にも居なかった。
だから、隻狼には永遠に分からない事だろう。所長はとても単純に、一番最初に自分が召喚したサーヴァントだから凄まじく依怙贔屓しているだけなのだと。そんな子供染みた独占欲が、それ程の狂気にまで達しているなんて言うことを。
「何時も貴方は分かり易く、シンプルよ。うんうん、素晴しい私だけの忍びだわ」
「……主殿。お戯れを」
内心、その称賛を否定しようとアサシンは考えたが、止めた。確かに、召喚された自分はもう嘗て仕えた御子様の忍びではない。全てを為し終え、責務も使命も無き今、彼は天文台の忍びである。生涯使えるべき御方はあの方唯一人のみだが、次の生涯を天文台で送る今であれば、この召喚者を主とするのも掟に反することでなし。何よりも、忍びの御子様は不死の因果を断つ志を持つお人。幼き身でありながら、葦名より竜胤を失くす意志を貫き続けた主。
世界を救うのを、拒む狼に非ず。
世界を救いたいのだと呼んだ一人の女を、今生の主と認めるのも信条に反せず。
「とは言えね、まずディールは放っておいて良いわ。普通に魔力や気配の察知が出来るしね。相手が気配を完全に消せば分からないだろうけど、まずは安全に合流する為に、彼女も向かうべき場所へ最初に向かう筈。私達と同じ考えだと思うのよね。
だから、さっさとマシュの気配がする方へ向かうことにする。それで良いわね?」
「御意」
「ふふ。貴方、その台詞好きよね……―――うん。それで、そうね、貴方はこれから単独行動をして。あの二人に間に合うよう、少しでも急ぐように。
そっちの方が私より足も速いし、障害物を跳んで移動出来るでしょう?」
「……は。御意のままに。
しかし……いえ……何でも、ありませぬ。直ぐにでも?」
己が主を一人にすることを不安に思うも、だが主が目の前の狩人であることを再確認。隻狼と同程度の技量を持つ所長を思えば戦力は十分であり、そもそも死なず。従者である自分がこう考えるのも如何かと彼は思ったが、主の命は換えが利く。死んでも良い者を優先せず、死して死ぬ彼らを優先するのが戦力増加を思えば必然。
死なずの戦士が主ならば、と隻狼は一瞬で納得をする。
主へ盲目的に絶対の忠誠を誓っているように見えて、実は自分で考えて行動し、主からの使命の意味を自分なりに吟味する。そんな忍びらしくない最強の忍びが隻狼であり、それでもやはり彼は忍びらしく従者として主に忠実であった。
「そうね。ふふふ、そうして頂戴」
「御意」
その一言を残し、忍びは一瞬で所長の視界から消えた。直後全力で走りながら、忍びはからくり仕掛けの左腕を起動。義手から鉤爪を射出し、高所のビルに引っ掛けて飛び去って行く。更に建物の壁を走りながら跳び、空中で自在に進路変更しつつ、更に移動速度を加速させる。
その光景を所長はポケーと見守った。
忍びの技量は理解しており、訓練施設で刃も交えたが、こう言う広い場所での移動する姿は初めて見た。日本の戦国時代で生きていたと本人から聞いたがあの姿を見るに、絶対に建物が少ない時代よりも、コンクリートジャングルと呼ばれる現代都市の方が活躍出来そうだ。しかもあれだけ派手に移動しているのに、最初から忍びが存在していると脳で理解していなければ、あそこで跳んでいる姿も認識出来ない程の気配殺しである。
特異点F攻略勝ったわね、と彼女は心の内側でほくそ笑んだ。どう足掻いても、忍びが得意とするフィールドだ。あれと接敵する相手が可哀想と思い、やっぱり私のアサシンは最強よ、と所長は表情を変えて微笑んでいた。
「うーん……本当、私の忍びってばスパイダーなヒーローよね。そうは思わない、そこの人?」
なので、まずは挨拶を。獣のような気配だが、それでも人の気配でもある。敵であれ、味方であれ、無関係であれ、この街で最初に出会う人か如何なる者か、見定めなければ情報不足。ただただ狩る為ならば言葉など無用なのかもしれないが、今重要なのは些細な事も把握する為の情報だ。
言葉を交わせば、それだけで膨大な情報を手に入る。
所長はこんな機会を逃すつもりもなく、戦闘に入るのが避けれないのだとしても、この人物から情報を出来る限り抜き取る予定だった。
「…………ぁ、アア。まだ人間が、いたのね? 生きた人間が?」
「え、なにそれ。凄く際どい服ね。古い部族出身の英霊かしら」
胸も股間も隠してはいるが、本当にそれだけ。剣と盾を持っていることで戦士だと分かるが、それがないと水着か、あるいは民族衣装の一種に見えることだ。
「私は、私は―――……あれ、殺す。そうね、貴女を殺すの」
「なるほど。理性は僅かと。資料通りなら、貴女のそれ、言うなれば黒化ね」
サーヴァントの生態系を調査したカルデアの資料庫。本来の性質から英霊が変異するのを、オルタナティブ現象、黒化、反転などと記されていたのを思い出す。確かにあの姿を見れば、そのどれもの言葉が当て嵌まるを実感する。
何かしらの呪詛により、霊基が黒く染まる姿。
その呪いが霊体全体を変異させて、形さえ変えてしまう現象。
所長はマリスビリーの知識を有り難くも有能に使い、今陥っている現状を正しく理解した。
「けれどもね、今の貴女ってえづく程に血生臭い。どれだけ人を狩り殺して、何人くらい斬り愉しんだのかしらね。勝利の女王様?」
啓蒙が脳で花開く。瞳がまた強く瞼を開いたのだ。何時も慣れない感覚であり、それこそ狩人が求める神秘の醍醐味。脳が酷く、凄く、とても、恐ろしく、どんなに形容する言葉さえ超えてしまう程に気持ち良い。その啓蒙が黒い女の名をオルガマリーに告げた。
名を―――ブーディカ。
哀れにも屍人形として使役される女王の正体。それが黒化したライダーのサーヴァントであった。
「殺す。ただ、殺す。ただただ、殺す。死ね、人間。この終わった街に、人間は、死んで消えないとならない―――!」
走り出すライダーを前に、所長は何も構える事もせず。何せ間合いではなく、相手が間合いまで接近して来てくれる現状ならば、今この状態が好機。隙を晒すことで相手を攻勢に回し、その隙を穿つのが狩人の狩りだ。一秒も待つまでもなく近付いたライダーは剣を振り上げ、その勢いのまま振り下し―――発砲音がした。
一瞬で引き金を引きながら散弾銃の銃口を向け、狙いが定まると同時に散弾を撃っていた。
相手が避けるタイミングを完全に潰し、盾を構える機会さえ一切与えない狩猟の業。それは正しく徹底的に鍛え抜かれた早撃ちであり、迎撃の為の曲芸撃ち。
所長にとって散弾銃とは―――盾だ。
能動的に作用し、相手の動きを止める為の防具。
脳や心臓を破壊しても殺せぬ獣が溢れるヤーナムにて、血質が宿らぬ銃は獣殺しに至らず。分厚い護謨の如き皮膚すら通らず、貫通したところで鋼鉄の筋肉が弾丸を受け止める。重要なのは急所を的確に潰すのではなく、急所を的確に狙うことで動きを止め、その上で相手の肉体を損壊させる。臓器ごと破壊し、生きる動力となる血を流し出させる。あるいは、その骨格ごと潰して破壊し尽くす。
「ッ―――!」
停止させられたライダーへ、彼女は音も無く殺意を込めた一撃を振う。慣れた作業であり、ノコギリ鉈がライダーの腹を横一閃。皮膚が抉り取れ、肉が斬り抜かれ、臓物が露出する。その終わりと同時、鋸が所長の右腕に吸収される。彼女の血に融け、その腕を異形の獣へ変異させた。
おぞましい威圧を纏う爪。黒く染まり、殺すことだけを求める獣化だ。
切り裂かれた腹部を更に破壊する形で爪が入り込み、その手が内臓を突き進み、心臓まで一気に掴み取った。狩人が好んで使う殺し方であり、内臓攻撃の始まりだ。
直後―――何ら躊躇うことなく、所長は腕で体内から殴り付け、後ろへ吹き飛ぶライダーから一気に臓物を抜き取った。
「ゲェハァッ―――!!?」
例え人間以上のサーヴァントであろうとも、霊核である心臓ごと内部全てを破壊されれば生き残れない。腹部から吐瀉される内臓が周囲に飛び散り、それ以上に血液が地面を汚す。勿論、所長もまた全身真っ赤に血で染まる。しかし稀にだが、それでも死なぬ化け物がいるのも事実。だが相手が例え不死であろうとも、殺害に成功すれば生きる血の意志を吸い込む狩人は、その者の意志である魂を確実に自分へ吸い込む。死ねば最後、狩人に意志を吸い殺される。
故に所長は、ライダーの血に流れる意志を瞳から吸い込んだ。
上位者の血液が蔓延するヤーナムの血とは全く違うが、獣や上位者とはまた違う赤い熱量が所長の血液の中を循環する。
“ふむ。初めて殺したけど、サーヴァントってそう言う生き物なのね”
所長は脳内で試案する。幾つものカレルのルーン文字で刻み埋まった脳味噌が、その内臓ごと抉る
冬木。戦争。七騎。聖杯。暴走。虐殺。汚染。死亡。復活。黒化。
記録の断片を取り込み、今を理解し、脳を啓蒙した。恐らくは、セイバーに殺された事でまるで生贄のように聖杯へ焚べられ、そこで魂を聖杯の泥に汚染され、また聖杯から強引に復活させられた際、その魂が黒く狂っていたのだろう。
“でも、遅過ぎて鈍間でさえない。技が温過ぎる下手糞。
これじゃあ、業が極まった英霊から程遠い偽物ね。こんな人形、本物の女王ブーディカが見れば、自分から殺したくなることでしょう”
黒化もあるが、あれは一度死んで頭が馬鹿になっている。映画で良く出るゾンビみたいな存在に過ぎない。黒くなる前の女王であれば、あのような血に酔う獣を狩る為の見え透いた一撃、盾で受け流していた事だ。獣狩りの迎撃射撃と、狩人狩りの迎撃射撃では殺戮技巧も違うもの。しかし、より効率的に狩る為の業は、このブーディカを素早く殺す最適解を導き出していた。
“さて、ね。まずは皆と合流しないとならないわね”
思考の瞳が街を見渡すも、そもそも忍びと所長は視界を共有可能。また視覚のみならず、聴覚や嗅覚も同調する。天文台の忍びは、既にマシュと藤丸立香の確認は出来ていた。やはりと言うか、マシュはデミ・サーヴァント化に成功した模様。先程狩ったライダーと同様、中々に破廉恥な格好をしていた。流石にアレはマシュの趣味ではないので、恐らくあの英霊の趣味なのだろう。伝説的な父親の節操の無さを考えれば、欲の意志も親から子へ継がれるのも道理だと理解した。狩人の意志は何時だって正しい啓蒙なのだ。
そのまま分割思考を使い、自分とは別に忍びの目を観察する思考回路を形成。
視界を使ったまま気配を探り、今の自分の位置と合流地点の位置を照らし合わせる。
「―――――――……ん?」
視線に殺気。あるいは、憎悪と嫌悪。遠くから監視されていると言うよりかは、直ぐ傍の両目から覗かれているような違和感。所長が初めて味わう視線の焦点であり、高次元から見下されている事を正しく実感。
つまるところ―――千里眼だ。
だが、何一つ問題はない。覗き込むならば、視線を辿って覗けば良い。
所長は全てを見通す千里眼など持たぬが、何もかもを見抜く啓蒙の瞳を脳へ宿しているのだから。
“あぁ―――成る程ね。そう言う……でも、見たわ”
そして、その相手も覗き返された事を理解した。視線と視線が絡み、向こう側から視線が切られた。この場は特異点であり、その覗いていた“魔術師”もまたこの特異点Fに居た。見慣れた男の姿であり、ロマニ・アーキマンと同程度に所長が信頼していた相手でもあった。
「―――フラウロス……ねぇ?」
姿は一緒だが、名が違う。故にそれは、所長にとって初めて出会う人間である事を意味する。爆破時の状況から裏切り者と断じていたが、正しくそうなのか疑問が浮かぶ。だが、それは問題ではない。持ち主となる意志は兎も角、あの肉体は間違いなく“彼”のモノ。
しかし、答えは出会えば分かること。今はこの疑問を啓蒙し、考察し、訪れるだろう未来の思案するだけで良い。まずはあの三人と合流することが先決だ。所長は自分の装備品が全て破損しており、マシュか藤丸立香が持っているだろう連絡装置を使い、カルデアの現状を知る義務がカルデア所長としてある。その後、ディールとも合流し、あわよくばマシュの盾を利用することで英霊召喚を行う。そして、最後に特異点Fの元凶を叩く。同時に職員を虐殺した犯人を見付け、報復を全うする。
安全確保、職員保護、状況連絡、戦力補強、元凶撃破、報復完了。
この六つを如何に効率的に完了させ、カルデアはファースト・オーダーを終わらせる。現状の目的がはっきり分かれば、戦略もまた立て易い。
“あー……―――?”
等と、楽観的なれど建設的な戦略を考えつつ、脅威が迫るのを感じ取った。あの腐れ緑モジャめ、覗き返された腹癒せに何かしたな、と内心で所長は罵りまくる。もはや時間が皆無だと分かり、味方がいる地点へ疾走を開始した。
「■■◆◆■■◆■――――!」
恐ろしい獣の雄叫び。それが、その脅威が発した死の合図。
燃える街から離れた森より、黒く狂った巨人―――
この作品の所長は狩人様本人ではありません。召喚された狩人様が脳味噌に寄生しているマスターと言う設定です。なので、このような狩人の戦いが出来る魔術師となります。