血液由来の所長   作:サイトー

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 人によりますが、自分はアビゲイルと聞くと、最初にバスタードの彼を思い出してしまいます。



啓蒙46:ローマン・ハイウェイ

 月がまた照らし出す。一度耐えられたから、二度目も耐えられる精神干渉攻撃ではない。それは猛毒と同じく、人の心の中に蓄積していく病巣だ。

 

「あ”-……っ―――素面じゃあ、あれには立ち向かえない」

 

 荊軻は魔術で酔いを強めた酒を一気呑む。酒気が精神に混ざり、狂気を中和する。そして、戦いに赴く彼女が思い返すのは、月下で死んだ者達の最期。殺された反乱軍はローマに様々な殺戮技巧で虐殺されたが、中でも月の皇帝は性質が悪い虐殺者であった。

 人間が、生きたまま隣にいる人間を食べる光景。

 素手で人の四肢を捥ぎ、内臓を弄って食す光景。

 そもそも月光で精神が壊れて、発狂死する光景。

 生身の人間の軍団を相手にした場合、カリギュラは最悪だった。そして、それが平和な都市で意味もなく唐突に放たれた光景を、抑止のサーヴァントとして召喚された荊軻は見てしまった。

 

「元より、地獄か……」

 

 呟く荊軻の視界の中、世界を照らしながら地面に落下した月下の狂帝(カリギュラ)が、馬車に追い付く速度で疾走している。本来の落下軌道だと馬車に直撃する筈だったが、赤兎馬が更に加速したことで、落下地点が外れ、こうして今は自分の足でオリンピックのマラソン選手のように走っている訳だった。とは言えローマ皇帝であるので、こう言う催し物が大好きであり、カリギュラはとても愉しそうに狂い走っていた。

 そんな光景を馬車から見る荊軻に、今は出来る事は少ない。

 遠距離攻撃手段が短刀の投擲くらいしか持たず、このような状況だと守りに徹した方が良い程だ。それは忍びやスパルタクスも同様で、まさか馬車から飛び降りて戦う訳にもいかないだろう。

 

「取り敢えず―――死ね。蜂の巣よ!」

 

 よって所長がガトリング銃で先制するのも当然の帰結。しかし、カリギュラはそれら弾丸を全て避け切った。ジグザグと変則的な機動で走り、まるでガトリング砲の雨が降り注ぐ旧市街を駆け抜ける狩人のようだった。所長は自分も良く行う銃弾回避走行を見て、遠くからの機関砲撃では埒が開かないと判断。

 だからと言って、ガトリング銃を止める訳にはいかなかった。

 狂気と酒気に酔っている所為もあるのか、荊軻は隣でひゃっはぁーと弾けている女を胡乱気に見ている様子であった。

 カルデア所長、オルガマリー。先程まで藤丸立香と名乗ったマスターとマシュ・キリエライトと言うデミ・サーヴァントを、それとなくイチャ付かせる良い“悪”趣味をした魔術師だと荊軻は思っていた。どうやら月明かりで変な風に少女が狂い始めていたので、そのマシュを一気に赤兎馬(UMA)で発狂させたのは如何とは思ったが、後々に暴発するよりも直ぐに内側に溜まった狂気をガス抜きさせるのも効率的とは言えばそうなのだろう。そのまま精神崩壊しても可笑しくなかったが、藤丸と言う外的要素を巧く使ったと言える。

 取捨選択に全く容赦がなく、只管に効果的、且つ完璧な対応。やはり所長は、英霊と同じく頭に螺子が刺さっていない部類の狂人でもあった。根本的に、闘争と戦略に精神性が適合している。

 

「……ふむ」

 

 馬車後方から鳴るガトリングの重い発砲音(トリガーハッピー)

 屋根より暗帝の戦車を砲撃する射撃の演奏(ガン・パレード)

 だが、馬車が転ぶのは時間の問題。撤退における逃走経路上に、このままでは樹林が障害物として遮る事態となろう。追い付かれれば車輪に植物が絡まり、身動きをすることが出来なくなる。そうなれば、マスターやマシュを運んで高速長距離移動のは難しい。

 

「貴公ら、森の方は焼いておこう。迎撃に今は集中するが良い―――」

 

 侵食固有結界自体に対峙する必要がある。悪魔はそれに対する手段を持ち、限界まで極まったソウルを更に進化させた化身(デーモン)の人間である故に、ソウルの業も同じく深化している。

 古い獣の御守(タリスマン)が、魔力とソウルに轟き奔る。

 燃え上がる神秘は竜の神が放つ吐息に匹敵し、魂さえも焼き尽くす火炎となるだろう。

 

「―――火の嵐よ、焼却の時間だ」

 

 悪魔が乗る馬車が走りながら、その周囲から火炎柱が地面より吹き上がり―――美しい、と馬車にいる全員が思った。馬車を見下ろす皇帝らも、走り続ける皇帝も、世界が焼かれる光景に、何故か破滅的な感動を覚えさせられた。

 地獄の浄化だ。

 殺戮の祝福だ。

 噴出地点は溶岩溜まりとなり、ローマの森が火山口に変貌する。

 この世ならざる光景は、悪魔らしい華麗なる炎の業に相応しい。

 

「これこそ燃え上がる我等の覇道、ヒヒン!!」

 

 そして、馬が楽しそうに雄叫びを上げた。それもその筈、火の嵐も走る赤兎馬に合わせて地面から吹き荒れている。彼が走った足跡のように燃え、前方の進路以外全てが火炎地獄に作り変わっている。馬車を取り込もうとした緑の侵食は、赤兎馬が速く走るほどに焼き果てる。

 術者の移動に合わせた焼却地帯は、正しく地上を蹂躙しながら走る嵐のようだった。だが嵐とは本来、一つの場所に止まらず、常に吹き荒れ進むもの。

 ――自然災害として、深化したソウルの業なのかもしなかった。

 悪魔自身も乗り物に乗りながら、嵐を放つのは初めてであった。これならあるいは、自分そのものが嵐の目となり、魔術発動に長時間足を止める必要もないだろう。

 

「アンバサ……」

 

 燃える森を祈った。デーモンに殺害される生命へと哀悼する。神様と人々から崇められた獣の言葉は、魂が霧と消える最期に相応しく、悪魔が唱える業への示しでもあった。

 ――祈りとは、元より魂の徴。

 込めた感情に意味はなく、無感情でも構わない。祈祷とは、その(カタチ)にこそ価値がある。

 

「おい。英霊のネロと、デーモンスレイヤー……だったか?

 もう地上に逃げ道はない。補足されたこのままでは、何時か森に喰い殺されよう。よって逃げる手段の一つとして、私らが使って此処まで来た船が海岸にある。海ならば、ローマの森からも逃げられると思うが」

 

 一瞬で固有結界を焼き払う人外染みた男と、敵の首領と同じ貌をした英霊。荊軻は酔いが強烈な酒を一口呑み、月光に当たっても酒気に満ちた“傍若無人”の精神性で狂気を捻じ伏せ、しかしその酔いも狂いで醒める。酒気と狂気の内的衝突が彼女の精神で起こり、狂いはしないが酔いもせず、まるで二日酔いのように気色悪くて堪らない。

 気持ち悪くなるだけ――なのに、呑まずには要られない。

 

「距離はどれ程なのだ?」

 

「十里もない。最短で五里程度だ」

 

 顔色が最悪な荊軻を心配しつつ、ネロはその情報を吟味する。確かにこのままでは、逃げ切れない可能性が高い。

 

「赤兎馬への案内を頼む、荊軻」

 

「了解したよ、皇帝様」

 

 荊軻はそう今にも吐きそうな雰囲気で笑い、御者台に移動。だが、酔いがさめれば気が狂う。他のサーヴァントは自前の狂気や精神防壁で対処しているも、荊軻は素面の傍若無人では発狂を全て抑え付けられなかった。

 

「おや、如何されましたか?」

 

「進路変更だ。船を隠してある岸へ直行する。私が案内をしよう」

 

「承りました! にしても、酒気が強いです。そこで横になってはどうですか?」

 

「労わりは有り難いが、遠慮するよ。眠れば、そのまま悪夢から戻れなくなるからな」

 

「おお、なるほど。しかし、では何故、私はあの月明かりを受けても大丈夫なのでしょうかね?」

 

 元から狂ってるからだ、とそれを聞いた荊軻は断言する気力も残っていなかった。

 

「それは……まぁ、馬だからでは?」

 

「呂布ですので!」

 

 既に侵食してきた緑を焼き焦がし、炎の海は消えている。そして、全方位から障害物は消え去った。赤兎馬は荊軻の指示を聞き、一気に船のある目的地へと進路を変えて突き進む。

 

「うーむ……」

 

 となれば、ネロは手持ち無沙汰となった。屋根では遠距離攻撃を持つ者が射撃砲撃の嵐を為し、マシュは魔力防御とスキルによる円状障壁を馬車の周りに張り、藤丸はサーヴァントの援護をしている。ブーディカの戦車に乗せて貰う訳にもいかず、共に呂布がいれば十分だろう。

 

「暇か、ネロ?」

 

「……まぁ、な。余の方は、あの暗帝と叔父上に備え、白兵戦の構えておこう」

 

 香料を呑み込みつつ、悪魔は敵を見るネロに問う。返事は予想した通りだったので、ならばとソウルよりクロスボウを取り出した。

 それは悪魔にとって、秘蔵中の秘蔵。デーモンスレイヤーと恐れられた人間からしても、悪魔的発想から生み出されたオーバーテクノロジーであった。

 

「お。なんだ、これは? 何処となく、ロマン溢れる存在感」

 

「自作でな。名はない。強いて言えば、古代人の弩だな。元は巨大なバリスタを、ソウルの業で強引に小さくした」

 

 石造りの弩などローマにもない。見た目的には、箱に槍のような矢が装填されている形である。とは言え、使われている技術はソウルの業だけに非ず。

 冬木でカルデアが遭遇したように、この男は世界を漂う彷徨の流人。ソウルを喰らうことで魔術回路と英霊の霊基を自分の魂に取り込んだ様に、人が為す業は魂が腐る程に貪り尽くしてきた。

 

「うむ。成る程……―――で、威力の程は?」

 

「巨神を、撫で殺せる程に」

 

「素晴しいな。良し、では早速使わせて貰う」

 

「反動に気を付けろ。力まねば、死ぬぞ」

 

「分かっておる。余は、万能の天才だ!」

 

 凄まじい重量だが、ネロの右腕なら十分に扱える重さ。暗帝に捥ぎ取られ、腑の中へ捕食されたが、今は悪魔殺しの悪魔(デーモンスレイヤー)の腕を移植して馴染ませてある。ソウルの限界まで強化された悪魔の腕ならば、片腕だろうと何の問題もないだろう。見た目は霊基に適するようにしてあるが、相手が神だろうと殴り殺せる神秘を持つのだから。

 それを持ったネロは、戦車で空飛ぶ自分(暗帝)を狙い撃つべく屋根に上る。

 上を見れば、真祖を乗せた暗帝が、同じく呂布を乗せたブーディカとドッグファイト中。エミヤが馬車より援護射撃をし、スパルタクスはその身で流れ弾を防いでいた。

 

「おぉ、圧政の暴君よ。己が手で、嘗ての己に叛逆する時かね?」

 

「返答に困る……が、今はその通りと言っておく。加勢しに来た」

 

 矢を撃ちつつ、遠距離攻撃手段に乏しいネロが来たことをエミヤは疑問に思った。一瞬だけ敵から標準を外し、横にいる彼女を盗み見し―――その、桁外れの神秘に脳が過剰解析(オーバーロード)を起こした。

 この世のモノではない古代技術。

 竜の神を殺す為だけに編み出された兵器を、個人兵装にしようと考えた狂気。

 挙げ句、更なる業を射出される矢に練り込まれ、一撃で魂を砕く魔術が仕込まれている。恐らくは、死を持たない神であろうと―――いや、死の無い化け物を死なせる為のモノ。

 

「ム……」

 

 丁度その時、ネロは好機を察して唸った。暗帝の戦車は地上ギリギリを飛び、それにブーディカが追っている。狙うべき状況であり、射線に味方が重なることもない。

 

「……スレイヤー。余の期待を、裏切るなよ!」

 

 引き金に力が入り――ドン、と轟音。

 弩なら魂殺しの杭矢が放たれた。悪魔の警告通り、凄まじい反動に襲われる。

 ネロの皇帝特権(射撃:A+)によって、狙撃の腕前は問題なく、的が空中を高速移動する戦車だろうと偏差撃ちも容易かった。超音速で飛行する戦闘機が相手でも、この技量なら対空狙撃が可能だろう。

 尤も神祖と暗帝も皇帝特権を持つ皇帝。狙撃では殺せない化け物である。

 神祖は皇帝特権(千里眼:A+)によって未来視を可能とし、暗帝も皇帝特権(直感:A)で危険を事前に察知していた。呂布の軍神五兵による射撃攻撃を対処するように、撃たれたと同時に回避飛行が行える。それも今は常に皇帝特権を使って周囲と未来を警戒されており、エミヤが偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)の狙撃に失敗した通り、ネロの狙撃もまた失敗した。

 

「ヌワァァアーッ!!」

 

 そして、まさか此処までの反動とは思わず、ネロは吹っ飛んだ。映画好きな藤丸がその光景を見れば、宇宙人の犯罪者を追い駆ける黒服のエージェントを思い出す程の勢い。

 

圧制(フンヌッ)!」

 

 同時に、バーサーカーの雄叫び。

 

「我が胸に飛び込んで来るとは。圧制の暴君、叛逆で鍛え抜かれし筋肉の抱擁に目覚めたか?」

 

「――目覚めておらんわッ!」

 

 とは言え、馬車の屋根から落ちる事はなかった。丁度良く真後ろにいたスパルタクスの御蔭でネロは無事。広めの馬車でなければ確実に落下し、ネロは森の養分にされていたことだ。

 

「兎も角、兎も角だ。感謝する、スパルタクス」

 

「戦友の為、盾となるのは叛逆者の嗜みである」

 

 スパルタクスに感謝しつつ、逆に同盟者である悪魔には憤怒が臨界突破(マックス)。あの悪魔は人の生命に興味関心が全くないからか、味方に対しても悪意なく即死トラップを準備する危険人物(ボンクラ)だった。

 ネロは悪魔の、予期せぬ吃驚箱のような処が非常に嫌いだ。この特異点で彼と行動し続け、何かに驚かず、心臓に優しい日を過ごしたことが余りにも少ない。

 

「この――ボンクラスレイヤー! 

 余、そなたのせいで落下死するところだった!!」

 

「安心しろ。致命傷だろうが、我が神殿で自家栽培する薬草がある。人間、草を食べれば万事問題なく精力が溢れるぞ」

 

 ボーレタリアの弩は、まこと残念な性能だった。悪魔はその反動もあってか、坑道の奥地にあったアレをいっそのことクロスボウで使いたい思い続け、それを可能とする業をやっと手に入れた。結果、ネロを落下死寸前にしたこの武器を作り出した。

 

¨……草、クサ。エリ草、エリザベートの草。略して、エリクサー?"

 

 ゲーム好きな藤丸が、とあるアイテムを思い出すも、今は関係ないと戦局に集中しようとした。だがフランスでカルデアの為に戦死した少女も連想していまい、ちょっとだけ彼は戦場から意識が離れてしまった。

 

「死んだらどうする!?」

 

「大丈夫だ。ソウルの業がある。私がいれば何も問題はない」

 

「そもそも、反動にも限度があろうが!?」

 

「警告はした。何より安全性の為、威力を下げるなど許されない。むしろ、本家よりも神秘を盛らねば」

 

「~~……ッッ――ボンクラの悪魔(デーモン)め!?」

 

「すまぬな。自覚ありだとも」

 

 馬車の屋根からネロは激怒し、何故か馬車内にいる悪魔は律儀に返事をしていた。カルデアは、何となくこの二人の関係性が分かりつつあった。

 そして気配を消し、悪魔を監視しながらも敵に構えていた忍びも、少しだけ冬木で出会ったあの強敵が懐かしくすらある。印象が変わり過ぎるも、だが脅威の程度は同じなのが恐ろしい。

 

「神祖殿……あれ、如何程?」

 

「うむ。当たれば、霊基が崩壊する。(ローマ)であろうと、あれは厳しい」

 

 神祖をして、あの悪魔(デーモン)は本物の悪魔。そして、太古に蠢いていた真性悪魔からしても悪魔となる人間の到達地点。手頃に何気無く出す道具であろうと、些細な見逃し易い動きでも、彼は本当に何を仕出かすかまるで分からない。

 そして、実は矢は戦車に掠っていた。完璧に避け切れず、双頭馬も足を負傷。電磁バリアの機能障害を起こし、飛行速度も低下してしまう。

 

「ヒヒン! 駆けます、呂布が駆けますぞ!」

 

 そして、暗帝の戦車が大きく回避行動を取ったことで、馬車から一気に距離が離れる。ブーディカも無理に追撃せず、その場から飛び去った。

 直後、更なる加速を赤兎馬は行う。

 悪魔によるクロスボウで暗帝(ネロ)神祖(ロムルス)と大幅に距離が稼げ、狂帝(カリギュラ)は悪魔が地上を火の嵐で噴火させ、それ以降は姿を見せていなかった。

 

「所長。少々マシュに、やり過ぎではないですか? 効率的ではありましたけど?」

 

 ちょっとした逃走中の小休止。標的が見えなくなったのでガトリング銃を撃つのを止め、一旦銃身を冷却していた所長に清姫は話し掛けた。

 

「清姫は優しいわね。でも、敵と邂逅する前に狂気は爆発させておいた方が、戦闘中に暴発するよりマシじゃない。

 ……私の経験上、戦ってる時に気が可笑しくなると手元が狂うのよね」

 

「誤魔化しでも嘘でもない本音な所が、(わたくし)からしても貴女が狂ってると思います」

 

「そうかしら? ……いえ、そうかもね。

 人の精神や人格を、数値で見るのは私の悪い癖かも」

 

 サーヴァントのステータスを数値化するマスター特有の透視のように、所長は人間の心を覗き込め、狂気や憎悪を含めたあらゆる感情をリアルタイムで視覚する。気が狂う、と言うタイミングさえも思い通りにする人間。愛憎に狂う清姫からしても、自分でさえ抑えきれないバーサーカーの狂気さえ、所長は十分以上に把握して会話を行っている。

 丁寧さや荒っぽさと言う次元ではなく、須く論理的。

 実際、既にマシュの内心に巣食っていた嫉妬と羨望の狂気は発散され、彼女は戦闘に集中出来る精神状態を取り戻していた。

 

「ふはは◆◆ハハ■◆■hahaは刃派覇覇覇ハハハ■■◆■◆■■■―――ッ!」

 

 全焼した上に溶岩地帯となったローマの森。

 その炎獄を独り――月光の狂帝は疾走する。

 狂おしい笑い声が鳴り響き、なのに彼はまだ全身が燃えていた。足が融けながらも一歩進み、また進み、サーヴァントであろうとも霊基が焼け熔ける筈なのに、男は問答無用で駆け抜ける。

 

「カリギュラ―――!?」

 

 所長が驚きの余り、その名を叫ぶ。彼女の瞳から見ても、あの火の嵐を受ければ特級クラスの英霊であろうとも―――否。英霊だからこそ、魂ごと霊基と霊体が焼き崩れる。霊核が保つ訳がない。本質は火力ではなく、ソウルによる魂魄焼却。魂が絶対的な不死でない限り、肉体ごと魂を灰燼に還すことだ。

 しかし、狂気の月明かりが彼を加護した。魂が焼かれているのに、その火に辛うじて耐え抜く生命力を与えていた。

 単純明快、対処出来ないなら我慢するだけ。余りに強引な解決手段であったが、可能にするだけの闇と魂を貪った。皇帝特権(火除けの加護)も合わされば、生存率は更に引き上がる。後は月光の大剣から流れ出る神秘を貪り、魔力として霊体を修復すれば良い。

 

〝何と言うことなの。何と言う―――これは……ハ。ハハハ、あははははは!!

 もう霊基だけじゃないのね。根源狂いの魔術師だって考え付かないおぞましき所業。人間にしか暴力を振わない神だって、そこまで人の魂を冒涜しないでしょうに”

 

 そして、溶岩地帯を生身で爆進中。皇帝特権(魔力放出(跳躍))により彼は足に魔力を纏って身を守りながらも、それをジェット噴射させて馬車に追い付いていた。

 神祖に匹敵する脚力。

 赤兎馬が馬車を引いて稼いだ距離が数秒で零となる。

 脳内でその狂気にオルガマリーは感動し、白痴がまた大きく啓かれた。そして、当たられた狂気の儘に月光(ムシ)の聖剣を脳髄(ユメ)から取り出す。

 死しても死に切れず蟲になった竜の大剣が相手ならば、同じ月光が相応しい。

 ヒトの()に住み着く神秘なる寄生虫(セイレイ)は導きの光と思い違われ、大層にも月光の聖剣と名付けられた。そんな哀れな男の武器こそ、蜘蛛(ムシ)に取り憑く寄生虫(ムシケラ)になってまで終わることが出来なかった白竜の狂気を打ち払える力となるのだろう。

 

「―――ネェェロォォオオオオ!!」

 

 カリギュラは走りながら月光の大剣を振い、狂気の光波を馬車へ放つ―――瞬間、馬車より聖剣の光波が解き放たれた。

 

「おぉおぉおおお! 正しく、導きの狂気なり!!」

 

 所長が振う月光の聖剣を刮目し、カリギュラは歓喜の余りまた月光を振った。同時に所長も聖剣を振い、光波を光波で相殺する。

 瞬間―――ソウルの光が、獣の写し身(タリスマン)から放たれた。

 悪辣にも程がある悪魔の不意打ち。魔力と殺意の気配も全く無く、眩い一筋の光と同時にカリギュラは右足を穿たれる。そのまま彼は地面に転んでしまった……まだ火の嵐で、溶岩になっている森の跡地で。

 

「ネロ、ねろぉお……ねろねろ、ネロォオオオオオ!!」

 

 そんな叫び声だけを置き去りにし、馬車は直ぐ様に戦線から離脱した。狂帝は一人、火沼の中に沈むのみ。

 

「容赦ないわね……」

 

「あの手合いには丁度良い塩梅だとも」

 

 魔術師の一工程(シングルアクション)より迅速な光弾射撃。宛らガンマンの早撃ちであり、デーモンスレイヤーによる簡易的な魔術行使は狩人の射撃能力に匹敵していた。そして、彼の魔術は思念操作によるある程度の弾道誘導効果も持ち、サーヴァントの霊核を一撃で砕く重みがある。

 カリギュラは咄嗟に月光の大剣で霊核を守ったが、その隙を悪魔に突かれて足を撃たれてしまっていた。

 

「そして、まだ死んでいない。貴公も、それは分かる実感であろう?」

 

「ふん。貴方みたいな怪人と、私を同じにして欲しくないわね」

 

「そうかね。同族意識を持つ私にとって、心が痛む解答だとも」

 

 胡散臭そうな瞳で所長は悪魔を睨んだ。読み取れる感情は、彼が本当に本心からそう想っていると言う信じられない結果。

 明らかに偽装された情報だが、この悪魔は魂から生じた心の底から「私は悲しい」と考えていることになる。あの清姫が無反応なのを見る限り、やはり根本から偽っていると思って間違いはないだろう。

 

「で、ネロ。変更した目的地はまだか?」

 

「そろそろだ……はぁ、やれやれ。にしても、やっと逃げ切れたか」

 

 海岸線が見え始めた。ここまで逃げ切れたのは、意味不明な程に神秘と工学による改造が施された頑丈な馬車と、凄まじい脚力を持つ赤兎馬の御蔭だろう。ブーディカと呂布も馬車に戻り、場の雰囲気に安堵感が漂い始める。

 その時、背後から地面を粉砕するけたたましい騎乗音が鳴り響いた。

 

「飛行速度が落ちたなら、いっそのこと地面を走れば良い……まこと、神祖殿は全能の天才であられます!」

 

「やめよ、我が子。世辞ではない褒め言葉は、(ローマ)とてこそばゆい」

 

 何故か童女のような満面の笑みを浮かべる暗帝と、ニタリと恐ろし気な笑顔となった神祖が馬車の背後より迫り来た。しかし、距離は大幅に離れており、向こう側も攻撃をする気配がない。これなら海に準備された船に辿り着き、沖まで一気に逃げられよう。

 だが馬車からゆったりと降り、彼女らの軍艦に乗り込む程の時間はない。しかし、まだ赤兎馬は速度を上げられる。霊基が崩壊する寸前の、後時速一キロを超えると霊核が軋み出す直前の、霊体が砕ける限界まで引き出されていない。生身なら血反吐を撒き散らし、血涙を出し、穴と言う孔から出血する程の臨界状態には至っていない。

 

「赤兎馬よ、速度を上げ給え。神殿産の自作人参、貴公との約束の三倍にしよう」

 

「ひゃっほー!」

 

 馬の鳴声も出さなくなり、呂布と訂正することもなく、赤兎馬は瞳を薬物中毒患者のように輝かせた。悪魔はとある猫らしき生物(なまもの)存在(ぽかぽか)する妖精郷で暮らしていた経験から、ソウルの業で無駄に空間拡張された無人の楔の神殿(ネクサス)にて薬草増殖用の畑を作っている。とある封印の塔や異星の舟も旅した経験から、由来も分からぬ植物も栽培していた。人参もその一つ。もはや開拓村だった。

 とは言え、悪魔からして英霊と言う概念は素晴しい。あの神殿も心象風景に由来する宝具となった故、こうまで自由に扱える部分もある。宝具や技能と言った新しい能力項目は、自分の魂を改竄する際の強化対象として実に有益だった。

 

「ヒヒィン! このまま乗り込みます故、衝撃に備えて下さい!!」

 

 結果、人参に釣られた赤兎馬は海岸に到着と共に馬車ごと飛び跳ねた。乗っていた者は当然の浮遊感を味わい、直ぐに着地の衝撃に襲われたが、そこは悪魔とネロのお手製馬車。壊れることもなく、衝撃も十分以上に吸収したため全員無事。

 しかし、まだ駄目だ。

 まだまだローマからの逃走劇を終われない。

 

「総員、準備開始せよ―――」

 

 カリスマ性が溢れたネロの雄叫び。彼女は理解していた。ローマ帝国は、敵が海に逃げた程度で諦める者らではない。森の侵略は海岸で止まるだろうが、追手はまだ迫る筈。

 故に、ブーディカらも効率性を考えてネロに従った。

 皇帝特権を考えれば、帝国から鹵獲した物を改造したこの中型軍艦も十分以上に扱えることだ。

 

「―――発進する!」

 







 悪魔が彷徨っていた世界ですが、取り敢えず、フロム系列と型月系列以外の場所は行ってません。クロスオーバー的に広げられる風呂敷は、キングスやシャドウくらいまでにしています。AC系列のロボを出しますと、対抗出来る鯖はカール大帝、オデュッセウス、エウロペ……と、考えれば以外とロボ持ち鯖っているものですね。
 ネコ精霊の妖精郷は、まぁフロムと型月が悪魔合体した産物だと思って頂ければ幸いです。猫の妖精さんたちが何処かの街の地下でぽかぽかしてると思って貰えれば大丈夫かと。
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