それとバベル時代もこれだから最近の若者は、と言う愚痴を老人は言っていたそうです。多分、メイビー。
何故か、灰は忍びを見逃した。気紛れか、罠か、敵の真意は分からない忍びであったが主の危機が優先される。そして結晶漬けの封印から肉体を破壊することで脱出し、その直後に復活の奇跡で霊体を維持しつつ蘇生で肉体を取り戻し、悪魔は何の障害もなく甦っていた。そして生命を犯す結晶の呪いも、悪魔殺しのデモンズソウルに意味はなく、能力も万全。
そして、聖杯に溜まる混沌へと入れ続ける人間性も十分。
むしろ、忍びは大事な駒。ずっと時間稼ぎで此処に縛り付ける意味はなく、灰は見たいモノを見る為に彼を解き放った。
「来ましたねぇ……ふふ。聖杯が起動しました。
シモンさんが自分自身を殺す程の大願成就、見届けたいのですが―――」
「―――駄目だとも。
貴公の遊び相手は私である。そしてネロの望みを見届けるのも、私の役目でもあるのでな」
「私のネロさんでもありますよ……所詮、魂は同じですからね。
私の闇に浸されたところで、人間を越えた訳でも、人間から落伍した訳でもありませんから」
「人間を相変わらず賛美し過ぎる女だよ、貴公。
所詮は人間だとも。何処までも進んでも我々は我々の儘、人間は人間だぞ」
「うふふふふ。そんな、そんな、実に照れ臭い褒め言葉です。素晴しい貴方にそこまで保証されたとなりますと、私の途も捨てたものではないと実感出来ます」
「折れない心だよ、貴公。皮肉を言いたい放題で助かるが……―――あの忍び、敢えて見逃すのも御愉しみかね?」
「はい。神を一思いに殺して頂きたく、あらゆる不死が狼さんの前では
尤も魂が殺されても、その魂がそもそも死ねない我らのような不死には痛いだけの死ですがね」
「悪趣味な。敵に殺させるのが、良い趣味とは言えんな。そも、貴公が殺めれば良いだろうに」
「駄目です。ほら、私たちが行う魂の殺人ですと、食事も同時に行うソウルの欲求に抗わないといけませんから」
「確かに。抗い難い……まぁ、我慢など容易いが」
「はい。実は何でもない事です。されど、私は美しい業を見て愛でたいのです。きっと神を殺す人と、人に殺される神も、その光景は何物にも代えがたい人間賛歌の絵となって私の瞳に焼き付くのです。
聖杯と言うものは願望器であるらしく……確かに、私が見たいものを見せてくれるでしょう」
グツグツと煮え佛つ混沌の聖杯。魔神柱を融かし、デーモンを生殖する転生炉。アノール・ロンドのその昔―――名を亡くした鍛冶の神が居た。無名の長子と同じく、最初の火を見出した者達から隠された一柱が居た。巨人の鍛冶師を弟子にし、神々の武具を鍛えた者が居た。
灰が簒奪した最初の火には、その記録も焼き付いている。だから、容易い。鍛冶の業を魂に刻んだ彼女は
「なのでローマの聖杯は、色々な私の実験作でして。特異点を生み出す獣の聖杯ではありましたが、詰めるだけ面白半分に詰め込んだ命そのものです。
分かりますか、悪魔殺しの悪魔。あれは元からそう言う生物として命を吹き込まれた
最初は魔術式が作った玩具に過ぎませんが、なに……命とは死んで生まれ変わるものですから」
そして楔石の作り方―――その神秘、灰は分かってしまった。
「成る程な。ならば、余計に貴公を足止めしなければならん。
尤も、嫌がらせに不死を殺すのが侵入者の本懐だ。貴公の目的は果たされるかもしれんが、それを観測者として愉しむのは阻止させて貰うぞ」
「安心して下さい。神秘の業は好きですが、それ以上に私は今が最高に愉しいですよ?
正直、殺し合えるのなら誰だって良いのです。何だって構わないのです。今よりも強く進化する為になら、善悪も正邪も価値はなく、利害も損得も意味はなく、このソウルを苦しめて頂ける困難を常に私は欲しているのですから。
貴方が愛する古い獣を殺し、その危機から全ての魂を救う救世の企み―――あぁ、とても良い面倒事です。
強大なソウルを持つ貴方との殺し合いも、それの御蔭で愉しめる苦痛と絶望であるのですから。全く、人間の世界と言うのは相変わらず理不尽に満ちていて最高ですねぇ……ふふふ。
本当、可笑しいですよねぇ……ははははは!
こんな女の魂の為に、より大勢が救われるしか選べる
「しかし、それが人間だ。貴公の為す善意無き善行が無くば、そもそも未来自体が消える故に」
「はい。その未来で汚く腐り、それに絶望して足掻いて下されば、私はそれだけで良いのです。えぇ、決して私は導きなど致しませんとも。
絶滅の危機から救いはしますが、生きて繁栄するのは人間だけの意志で行わなくては、人がこの星で生まれて滅ぶ意味がありません。私は人間ではありますが、この人理の部外者でもある私は未来に口は挟みません。そんなことをすれば、人が折角滅びまで生き抜いた価値も消えてしまいます。
この人理が、自分達で考え、苦しみ、悶え、その独りで歩んだ自分達だけの未来を、不死の私に見せて頂ければそれだけで良いのですから」
「うむ。故、私は貴公に協力する。葦名において、だけだがな」
「はい。葦名でだけ、契約は有効ですからねぇ……」
悪魔の装備は標準にして王道な剣と盾。単純明快、強く、迅く、巧く、鋭く、固い。
逆に灰はアンバランスな直剣と刺剣。奇天烈な二刀であるが、故に迅速な対人武装。
殺し合いを続ける二人は手札が余りにも多く、悪魔は相手に合わせて武装を変えた。
「さて、会話も此処までだ。貴公の骨が鳴らす音、これより聞かせて頂こう」
名を―――竜骨砕き。ドラゴンの頭蓋骨を竜鱗ごと叩き割り、一刀で撲殺する職人の狂気が生み出した特大剣。それが呪いの
「それは嬉しい限りです。ですが、そんな苦痛は聞き慣れていますので、えぇ……私は、貴方が上げる断末魔に興味が湧いてしまいます」
灰の手には大曲剣―――ムラクモ。美しく鋭い刃は、重さと巧さの両方で斬殺する大太刀である。だが、その刀身は炎が纏わり付き、斬撃と一緒に傷を焼き焦がす拷問道具にもなっていた。
となれば、もう口上と言う戦場の贅沢は貪った。
二人はソウルを振わせて殺意を具現し、英雄の心を折る殺気が空間を塗り潰す。霊感がない人間だろうとショック死する圧迫感が溢れ、魂が生きようとする意志を奪い取る地獄と化した。
激突する刃は甲高い音を鳴らす。
圧倒的膂力と絶対的技巧を互いに持つが、振う得物に差があった。だが、それが技巧を極め続ける二人には愉しい娯楽。同じ武器を使っても癖の違いもあって良いが、違う武器ならその差は尚の事。この武器で、どうやって相手の武装と戦術を破るのかと悩む思考戦も良いものだ。
「……ふふ」
「ク―――」
舞うように回転する灰を、悪魔は力で捩じ伏せ、それを灰は巧みに流して斬り返し、そして悪魔は体術も合わせて特大剣の重量による隙をカバーした。直後、灰は仕込んでいた呪術の火から黒炎を放つ。それを悪魔は竜骨砕きで防ぐも、本来なら物理的な炎の重さもあって体幹が崩れそうになるのだが、バックステップを同時に行っており衝撃をほぼ全て緩和させていた。
凶悪な膂力でムラクモを軽い曲剣のように手軽に振う灰だが、悪魔もそれは同様だ。力を込めて全力で振えば容易く仕留められるが、それこそ体幹を崩すパリィの良い鴨。極まった二人なら敵が振う得物の重量は関係なく、どんな技であれ受け逸らせるが、タイミングを絶妙にズラすことで攻防はどうしても長く続く。お互いがそれを誘っており、そもそも素手による格闘も極まっている故に、絶技で振われる刀身を生身で捌き逸らす技巧は悍ましいとさえ言える巧さ。
まるで―――夢のようだ。延々と続く殺戮の応酬。
久方ぶりにソウルは感動と言う栄養を貪り、灰は悪魔の足止めを喜んで受け入れ、罠に嵌まった今の現状を愉しんでいた。
◆■◆<◎>◆■◆
――――神。悪の、神。人の魂を蝕す邪神だった。
剥き出しの筋肉。皮膚のない人型の巨大過ぎる神性生命体。筋が骨を多い、頭蓋骨に瞳が四つ嵌め込まれ、暗い穴の子宮がローマの上空に浮かんでいた。
「なんです……か、アレ?」
泥の羊水が穴から漏れ出る。逆さになって巨人が同時に
そのカタチ―――赤子の姿。
……マシュは、自分の視界に入っている何もかもが理解不能だった。
戦闘中に突如として消えた暗帝を気配を辿って追い、到達すればこんな状況である。
「なんなのですか、アレはッ―――!?」
生まれた。魂と心を持つナニカが出産された。命が生まれる瞬間は尊いが、この光景に感動してしまった自分の心をマシュは信じられなかった。どうしようもない事態に陥っている確信があるのに、本当は手を叩いて今の自分の感動を周りに伝えたい猟奇的な狂気が脳髄から伝播して来た。
グルリグルリ、と瞳が廻る。
正気が削れ、狂気が奮え、人の思う神が啓蒙される。
マシュ・キリエライトは人生で初めて、本物の神が生まれる瞬間を垣間見てしまった。
「魔術基盤、グノーシス……―――ヤルダバオド?」
所長が呟いた声が、自然と全員の耳に入った。本当に何故か丁度良く、この瞬間に全員が到達するのに間に合っていた。
エミヤと清姫とアルテラは神祖を警戒しつつも、この状況と所長の言葉に英霊として魂が痺れた。
ネロとブーディカは暗帝から目逸らしたくなかったが、生まれた巨神に視線を向けざるを得ない。
マシュと藤丸は何故か分からないが、自我を発狂させて楽になりたい恐怖に耐えられてしまった。
「いえ、
ローマの悪性によって生まれた悪の神。所長の瞳が見た神の名は歪み、不安定であり、遺志が定まっていない。
あるいは、混ぜられた神同士の子供であるのか。何より、まだ産まれ切っておらず、魂がカタチを得る前なのか。
原因は二つだと所長は理解し、降臨した神の名が一瞬で生まれ変わったのを目視した。
「おぎゃあ……おぎゃあ、おぎゃ―――?」
悪き巨神に理性はない。本当に生まれたばかりの赤子である。生まれ持った本能で動く生命であり、人にそう在れかしと望まれた存在理由を魂の遺伝子として保有する白痴の悪神。人の悪性から望まれた、無垢な神の子であったのだ。
―――ただ、悪だった。
人々の暗い魂から生まれた
灰が作った混沌の聖杯は子宮となり、ローマで人々から蒐集した悪性情報は深淵で煮詰まり、魔神柱の魔力を材料に生まれた人造邪神。
それが地面を転がり、ローマ市街を破壊しながら四つん這いとなる。そのまま赤子の四足歩行を即座に可能とする。カルデアの真正面に、這い寄る悪神の顔面が迫り来る。
「ま、ま……まま、ま……ままままま、まままま……まままままま―――ママ?」
ママ、と何かが発した。気が狂いそうだ。悪神の顔面から生えた四つの瞳がカルデアたちを見詰め、その口が大きく開く。直後、その口から真っ白に綺麗な歯が急に生え、喉の奥から舌が生成される。余りに強烈な悪臭が悪神の口から漏れ出し、まるで臓物が腐敗した臭いがローマ市街に充満する。
何と言う、醜さか。実際は臭いなどしないが、人の五感を刺激する悪神の魔力は嗅覚を狂わせ、脳味噌を汚染する呪詛が空気に融け込み、まともな正気を保つ事も許しはしない。
「主殿……」
何をすれば良いのかも分からない状況にて、忍びは余りにも冷静だった。いや、冷徹と呼んでいい冷たさで所長の後ろで気配もなく佇んでいた。
「あれなら一人で大丈夫そうね。お願い、私の隻狼」
それを聞いた周囲の者は、所長の言葉を理解する余裕さえなかった。あんなモノを一人で倒すなど理外の思考。それを命じる非合理的な非情さも意味が分からず、ここまでの邪悪ならば全員で協力して対処すべきなのが当然の戦術の筈。
「……は」
「令呪で以って命じます―――斬り殺せ」
「御意の儘に―――」
二刀、解放。忍びは背中の鞘から抜刀した赤の不死斬り「拝涙」を右手に持ち、宝具としてもう一刀――黒の不死斬り「開門」を霊基から取り出した。そして、義手から怨嗟の炎が漏れ出た。
呪いに取り憑かれた異形の姿。だが、義父の教えが忍びの意志を失わせない。
殺人の業を振うのであれば、必ず僅かな慈悲も刀と共に握り締めなければならない。
それが、彼を人に縛り付ける。鬼になれず、修羅に堕ちず、人の儘に人を殺すのが狼と言う忍びの業。
「―――――」
所長とのラインから流れ込む魔力を五体と二刀に込め、自身の魂に積もった死人の遺志である形代を燃焼させる。それ即ち、怨嗟の火が忍びをサーヴァントの領域からも逸脱させ、黒い念で燃える不死斬り達は一斬で魂を斬り伏せる神狩りの宝具と化した。
忍びは疾走を開始。同じくして、暗帝が宝具の戦車に乗って忍びを急襲する。そして超軍師が暗帝の戦車に搭載した中華ガジェットが起動。神代インドの古代文明からの流れを汲む古代中国式
「――――!」
所長に迷いはなかった。その殺戮兵器に対し、己が殺戮技巧はあっさりと狂気を上回る。普段より多めに骨髄の灰を込めたガトリング銃に獣狩りの銃器を持ち替え、自分のサーヴァントを襲う“弾丸の群れ”に向かった水銀弾を連射した。
そう、狙いは暗帝ではない。暗帝の戦車から放たれた銃弾である。どのような技巧と視界なのか、超人的な技術を持つサーヴァントでも意味不明な銃撃技法であった。
ガトリング銃の弾丸一発一発が、結晶の弾丸を空中にて―――撃ち落とす。
開眼してしまった所長にとって、瞳が見る世界は体感時間を停止させ、未来を見切ると言う領域を超えた高次元の感覚となる。五感でも、六感でも、七感でもない。八感でも、恐らくは九感の体現者ですらない。神域に辿り着いた人間が持つ知覚とも別種の、本当は至ってはいけない異次元の知覚だった。
よって機関銃の弾丸同士が空中にて衝突。忍びに当たる前に弾け跳び、彼はマスターが撃ち開いた道を走り続ける。
「―――お、おぉぉお? 何だ、それは?
背筋が凍り付く。まこと、古都のハンターと言う人種は理解出来ぬな」
暗帝はその理解不能な狂気に魂が震えるが、その程度の未知で戸惑える生易しさはない。とは言え実際、機関銃の弾幕をガトリング銃で迎撃する光景を目にすると現実感を失うが、そんな
「ヒヒィイン―――!」
双頭の騎馬が鳴く。敵の魔技に怯まず暗帝は戦車で突進し―――忍び一人と、侮ったのが運の尽き。
覚醒した忍びの目にとって、戦車の速度は遅過ぎる。空中に跳んだ彼は擦れ違い様、怨嗟に燃える不死斬りを振って騎馬の双頭を斬り落とす。余りの早業に暗帝は瞠目する暇もなく、眼前に義手から投げられた不死斬り「開門」が迫っていた。
墜落する戦車から脱出出来ず、その不死斬りを宝剣で弾き逸らすも、既にもう忍びが目の前。命から涙を流せと
その短刀こそ義手忍具、瑠璃の錆び丸。
刃から毒霧を散らし、鮮血を噴水のように飛ばし、暗帝を一瞬で忍殺した。
人類史において短刀で喉を刺して自害し、母親に盛られた毒で苦しんだ皇帝を殺すには余りにも概念武装として相応しく、故にネロにとって最大の皮肉となる殺人手段。忍びはネロの生涯など詳しく知らないが、業を宿す直感でその忍具を選ぶ当たり、彼の死に対する感覚は鋭利に過ぎると言うもの。
そして、義手から鉤縄を飛ばし、投げた不死斬りを即座に回収。再度、修羅と化した忍びは不死斬りの双剣に構えて疾走を開始。
「――――――」
首を斬られた人間の死に様は壮絶だ。心臓がポンプの役割となり、鼓動に合わせて血が吹き出る姿。そして臨死の光景であってまだ暗帝は死んでおらず、故に錆び丸の猛毒で苦しむしかなく、同時に霊核を斬られたことで死ぬ以外の運命は許されない。
暗帝は毒に苦しみ、喉を押さえながら悶え、戦車ごと墜落。ネロは複雑そうにそれを見て―――隣の、ブーディカが喉を苦しそうに抑える様子に悪寒が走った。
「―――……あれ?」
けれど、その時――マシュは違和感の正体に気が付いてしまった。そして赤子の悪神に感じていた違和感が親近感に変わり、その親近感に対して恐怖心が連動して湧き上がる。
何故、あんな存在を祝福する気になってしまったのか。
何故、人を食らう悪の神を尊いと感じてしまったのか。
何故、何故―――と疑念が一気に啓蒙された。瞳は嘘を脳に吐かず、現実は悪夢に汚染された
「わた、し……――?」
デミ・サーヴァント計画。人間へ英霊を憑依される生体兵器。所長の呟いたグノーシスのヤルダバオドと、それと関係がない筈の悪魔神のアンリ・マユ。
〝ママとは……―――誰、ですか?”
直後、気が付いた。マシュの思考回路が恐慌した。本当は気が付いてはいけない真実。如何程に改造を施されようとも聖杯は聖杯。願望器は願望器。願いを叶える物であり、それは人間の欲望がなければ起動しない。魔力に指向性を与える人の意思が必要である。
その答えを、既にマシュは無意識に呟いていた。
赤子の悪神を作るのに、その神核に何が使われたのか―――見抜いてしまった。
「……ぁ―――――――」
そんな事が許されて良いのか。
混沌。深淵。シモン・マグスのグノーシス。その思想より作られたヒトの神、ヤルダバオド。
そしてグノーシスの神より遡り、より古い原初の悪を英霊の座から情報を引き抜く錬成儀式。
神霊ではなく、肉を持った神として受肉。聖杯を子宮にして生命を煮込み、ローマを素材に悪性情報を煮詰め、神核をソウルとして聖杯より錬成された存在。
「ま、ま……ま、ママ、ママ。ママ、マママ、ママママママ」
「―――!」
叫び声も上げられぬ。対巨獣用武器を無意識に展開。マシュの大盾に仕込まれた武装は十を越え、機関銃から榴弾砲に換えた。そのまま介錯の慈悲と現実への絶望の魔力を込め、カルデア技術部製のグレネードを発射。そして義手の武装化形態も十を超えるも、まだ使いこなせるのは二つか三つ。
名付けて変形武装運営システム、アーマード・コア。
悪夢の才人オルガマリー・アニムスフィアがプログラム開発した狂気。
グレネードランチャーを僅かに口元が歪む狂笑で放つマシュは、カルデアの科学力が生んだ恐るべき
「ママァァァアアアアアッ――――!!」
榴弾が破裂し、肉塊は爆散。邪神の赤子は
直後、赤ん坊は背中から翼を生やした。悪魔のような蝙蝠の羽であり、そのまま全身から暗い深淵の炎が溢れ燃える。
「あぁぁ……ぁぁああ”ああアアア”ア”ァァアァアアアアーーー!!」
成長した赤子は悪の神へと進化。悪意のない悪行を為す無邪気な邪悪は、混じり気のない純粋悪として破滅の悪意を持つ人間性へと化す。
所長のガトリング砲が火を噴き、ネロは火炎斬撃を飛ばし、ブーディカは黒い魔力弾を宝具の魔剣で撃つ。
エミヤは浮かべた投影宝具を放ち、清姫は竜化して火炎を吐き、藤丸は簡易召喚した騎士王の聖剣を放つ。
そしてアルテラは三色光剣から虹の波動を放射し、マシュも義手からカラサワによる魔力光線砲撃が奔る。
「―――
その大破壊攻撃を、神祖は闇に侵された結界宝具で防ぎ込む。愛の城壁は神祖が抱く愛の強さであり、空間を分断する絶対羅馬領域だ。しかし、それでも一斉攻撃を止めるには質量不足は否めない。
「―――
尤も、その程度の問題は容易く解決するのが初代羅馬王ロムルスである。槍の樹林を解放し、城壁の前に展開することで攻撃に対するクッションとなり、ローマは何もかもを受けいれる絶対的な守護空間を作り出す。
勿論の事その防御は攻撃にもなり、暗帝を戦車諸共
故に忍びは燃え上がる。修羅の火ではなく、土地神の霧からすによって羽が焼け、消えるように樹木も城壁も全て擦り抜ける。
そして、悪神が浮かべた火球が一つに凝縮。
空中で混沌の火の球となり、その太陽は周囲全ての太源を貪り、空間が釜の中のように灼熱で気温が急上昇。ローマ市街全てが熱波に襲われる。
ローマン・コンクリートの石作りで作られた建築物が融け、溶岩のように崩れ出し、ドロドロの赤い泥となって人間の街が崩壊した。対環境防御機能を持つ礼装を着込む藤丸は離れているのもあって蛋白質が焼ける人体融解で死ぬことはないが、明らかに使用者を殺しに掛っている灼熱のサウナ室に入ったような状況に陥った。もはや太陽下はサーヴァントだろうと死ぬしかない炎獄であり、近付くだけで霊基融解は避けられず、ジークフリートやヘラクレスのような宝具の守りがなければ即死だろう。
だが―――
己の中に積もる遺志の怨嗟が、悪魔の火を飲乾す焔の陽炎となる。
むしろ、悪魔の赤子の怨念に満ちた火炎が修羅に積もり、二つの不死斬りに宿る怨嗟の炎がより燃え上がった。
「――――――――――!」
赤子の悍ましい泣き声。太陽が忍びに堕ちる。しかし、それこそ
修羅の如き―――纏い斬り。
そして、秘伝・不死斬りによって忍びは念を限界まで込め、力を引き出し―――炎と更に交じり合った。
「……ぬぅ―――!」
忍びは常に冷静冷徹にて滅私奉公の精神で動くも、熱さと呪いの混沌で呻き声が漏れてしまう。それ程に二刀の不死斬りに宿る神秘が強大に過ぎた。
そのまま刀を義手で握った儘、彼は器用に忍義手に仕込まれた鉤縄を放つ。赤子の皮膚に鉤が引っ掛かり、一気に巨躯を上がり切った。
場所は喉元。地面はなくも忍びの体術で業は万全。
空中にて、不死斬り双刃が解放された。言わば、修羅の秘伝――纏い不死斬り。
「アアァァァアアアア―――!!!」
断頭が為せず、しかし皮一枚だけ赤子は頸が繋がった。しかし、肉も骨も断たれ、無論のこと神経も斬れている。体の体勢を維持出来ない挙げ句、不死斬りの念にて神体だろうと蘇生は出来ず、地面に倒れるしかなかった。
だが怨嗟の炎を使い果たしたことで修羅から人間に戻った忍びは、追撃の手を一切弛めない。即座に鉤縄を頭部へと放ち、瞬く間に赤子の頭へと接近。その勢いに任せ、双刃は四つ目の内の二つの瞳に突き刺した。そして動きは一切止まらず、突き刺した状態で不死斬りに念を込め、二刀を更に二つの瞳を斬り潰すように斬撃を放った。
「――……御免」
相手は生まれたばかりの神の赤子。悪で在れと望まれたが、まだ罪を犯す白痴の心であり、悪しきことをする前の無実の者。それは人が為すには余りにも罪深き殺生であり、罪のない子供に血の涙を流させて殺す罪科の業苦。
―――僅かばかりの慈悲を忘れず、しかして何の慰めになると言うのか。
忍びの中に怨嗟の遺志がまた積もる。落下も終わって地面に降り立ち、忍びは霊基に不死斬り「開門」を仕舞い、背中の鞘に愛用の「拝涙」を戻そうとしたが、彼の優れた感覚がまだ命の胎動を捕えてしまった。
「ま、ま……まま、ママ」
喉が斬られて音は出ないが、忍びにはその声無き泣き声が耳に入る。四つ目が潰れて、喉も裂かれ、肉体は動かないと言うのに赤子はまだ死にたくないと足掻いている。母を求めて、悪の為に生き延びようと意志だけで死を乗り越え続けている。
不死斬り―――介錯の、最後の一刀。
忍びは赤子の額に拝涙を刺し、その脳を破壊するように念を解き放った。
魂が死ぬのを感じ取り、刀身を引き抜く。赤子は泣き止み、黒い返り血を全身で浴びる。彼の一肢を除く五体に悪魔の呪詛に満ちた血液が、まるで修羅の熱を冷ますように忍びを癒した。そして、呪詛の全てが怨嗟の炎を秘める義手に流れ込み、呪いによって業は更に深まった。
「
「………」
忍びの視界にいる神祖。だが彼の手に神樹の槍はなく―――赤子の心臓に、何故かそれが突き刺さる。
「灰の語るお前の宝具―――開門か。
だがローマと世界を救う
そして、赤子は神樹の栄養分と成り果てる。子供の屍を土壌に暗い樹木が一本だけ生え、根っこが伸び、その頭部が樹の実となって宝具に吸収される。
まるで、命のない鉱物と植物を混ぜた古竜のような。あるいは、巡礼者の繭から孵った天使の如く。
「――――!」
忍びの感覚で壮絶な悪寒が奔る。即座に神祖を殺さないとならない。手遅れだと直感したが、その予感を斬り捨てなければならない。
ならば、迷う暇なし。奥義、大忍び刺し。
忍びの業独自の歩行で接近。そのまま神祖の心臓を突き―――その手応えの無さに、忍びは秘伝大忍び落としに技を繋げることなく離脱した。
その判断は正解である。神祖の霊体は宝具と融解しており、もはや人間性を進化させた不死たちのように肉体を古竜と似た樹木みたいに変貌している。霊核は消え、霊基も虚ろとなり、宝具と灰の魂の欠片によって自分ごとローマの大樹を再創造してしまった。
「転生させた者を更に転生させる……重なり、歪む、輪廻の環……ッ――悍ましい事を。
こんなことすれば人理以前に、世界を観測する為の魂が生まれた星幽界の輪廻が崩壊するわよ!?」
叫び声を上げる所長の瞳が一体何を映しているのか全く周囲の者は分からないが、何か悍ましい悪夢が生まれ出ようとしていることだけは直感した。
「良き智慧者だな、貴様。見ただけで解するとは。
そうだとも。これこそ、余が創造せし新生ローマ帝国の――――始まりだ!!」
宝具である戦車と死体になった騎馬は既に神樹の根波に取り込まれるも、暗帝は忍びに殺されたのに健在。彼女は
直後―――額に風穴。
所長は持ち替えた貫通銃で水銀弾で狙撃を行い、暗帝は何でもないように死から蘇生した。
「―――不死ね!?」
「そうだ、星見の狩人! 余のソウルのラベルはブーディカと同じ名だ!
今の貴様の瞳なら、我が女神の業で隠されていた名を視えるだろう。世界は不条理だが、しかして矛盾を許さぬ馬鹿げた舞台劇場である故に―――余は、不死である!!」
それが、シモンが残した最後の土産。宮廷魔術師は己の魂の本体部分をブーディカに隠し、だがその大部分を暗帝に託している。それがソウルに定着することで、暗帝の女王の二人は同時にシモンとしても特異点で存在する生きた人間でもある者。
暗帝は、死ねないのだ。ブーディカが死なない限り。
一度死んだことで灰の施す偽装魔術がソウルから剥がれ、暗帝はもはや所長に露見することが分かり、この絶望をカルデアへと告げたのだった。
「あっハハハハハハハハハハハ――――ブーディカよ、残念だったな!
貴様にだけは、決して余は殺せぬのだ。そしてカルデアよ、仲間殺しの罪を背負う慈悲が無くば余は殺せん!」
全ての狂気に、此処では理由があった。灰の魂に狂わされたシモン・マグスのグノーシスを完成させる特異点。既に張本人は死に、その魂が遺志として二人の女王に継承された後。ブーディカが恨むローマは既に崩壊し、本当に憎むべき宮廷魔術師は自分と暗帝の魂に忍び込んでいた。
その事実に彼女は眩暈がした。
憎悪にさえ価値があるこの特異点を作る遺志。
特異点創造の原因を生み出した真の元凶―――火の簒奪者、アッシュ・ワンを恨む気力も失う圧倒的な絶望感。
「これこそが、余の暗黒帝国創生の第一歩。
国造りの新たな土台―――魔神樹クゥイリーヌスの創造である!!」
神樹から伸びた蔦が暗帝に絡み、四肢と同化し、背中から樹の根の翼が形成された。神々しい白い羽は天使のようで、あるいは蝶のように美しい。
聖杯とソウルを融合させている暗帝は、幾度も聖杯を転生させることで羽化したのだ。そして、この特異点もまた暗帝と同じく繭だった。蝶が生まれる前の蛹の中がドロドロに蕩けている様に、特異点の中身が溶岩のように人魂の泥が煮込まれているのは道理。
「文明の獣性など生温い―――!
人間は、人間だ。我らは、我らだ。余たちの魂は、決して
母なる星など要らぬ。人理など要らぬ。抑止など要らぬ。我ら人類種は、己が魂だけで世界を謳歌する存在へ進化するのだ!!」
これ程の悪夢を“
シモンが夢見たグノーシスの、神も人理も阿頼耶識も捨てた人間だけの世界。人間が何も縛られず、人間同士だけで繁栄する人の世界。完全に独立した魂たちだけが存在を許されたソウルの王国。
人の暗い
「――――ぁ…………余は、其処まで……獣性からも、魂が不適合に……」
ネロは生前の自分の余りの有り様に、目を逸らすと言う自己防衛も忘れる。左手で顔面を覆い、頭蓋骨の中身がミキサーに掛けられた頭痛に襲われ、だが目を大きく開いて瞳が輝いた。
暗い魂が染み込む。血の涙をネロは流し、贖罪を行いたい衝動に襲われる。
死にたかった。死ねば、誰かの魂になれば良い。死ねば、誰かの遺志が憎悪から晴れるなら幸せだ。
「憐れな死人だな。だが、死した後に得た文明の獣性である淫婦の伝承。それを混ぜられた座の余……英霊、ネロ・クラウディウス。
貴様のソウルは余と鏡映しである故に、ただの人間の女に過ぎぬ余もまた獣の資格を持ち得るが……あぁ、人理に封じられた悪性など要らんよな」
魔神樹が最後の転生を行うこの瞬間。
ローマの
「この人理を欲するならば証明せよ―――カルデア!
人が人理を不要とする余の新しき世界を、己が魂で滅ぼしてみるが良い!!」
読んで頂き有難う御座いました。
とのことで、やっと既に死んでいる元凶の宮廷魔術師さんがアップ出来ました。聖人の弟子をしていた魔術師でしたので、色々と人間性について拗らせている雰囲気です。分かり易い順番を説明しますと
時間神殿の聖杯
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聖杯を拾ったシモンが聖杯に願い、グノーシスの神を望むシモンの意志が溶ける
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聖杯を混沌にシュート
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悪神ヤルダバオドの因子が聖杯に具現
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混沌より、聖杯のデーモン誕生
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デーモンを殺してソウル化
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錬成炉と鍛冶の神の業で、そのソウルを灰が鍛える
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混沌の聖杯
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マリスビリーから貰った遺伝子マップから作った葦名特異点のマシュ・クローンに反英霊アンリ・マユを憑依させたデミ・サーヴァントを、混沌の聖杯にシュート
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ローマ特異点を繭にし、悪性情報を聖杯に流して煮込む
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成長し、ヤルダバオドの思想を最初の悪神アンリ・マユが中核となる
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魔神柱フラウロスの魔力で肉を得る
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悪神のデーモン、アンリマユ・セプテムが誕生
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狼が不死斬りで介錯。開門を使った事で、転生の為の新たな道が聖杯に開く
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神祖がそのソウルを道に流し、宝具が形が崩れ、創世の大樹に戻る
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魔神樹クゥイリーヌスが誕生
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聖杯と同調する暗帝が覚醒。英霊ネロの伝承が持つ獣性も使い、魔神樹ネロ・クゥイリーヌスとなる
と言う雰囲気にだいたいなります。