血液由来の所長   作:サイトー

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啓蒙69:G

 ―――悪魔殺しの悪魔(デーモンスレイヤー)にとって、簒奪者の灰は希望だ。

 何もかもの悲劇が、彼女との邂逅で終わりが始まった。今までの犠牲者が無意味にならず、悪魔が生き続けた価値があったのだと理解も出来た。

 当てのない世界を贄とする旅。流れ落ちる度、誰かにとっての日常を霧で曇らせ、人の世を古い獣の苗床とし、嘗ての要人らが作り上げた法則によってエーテル化した魂であるソウルを餌として捧げる日々。

 しかし、誰かがしなくてはならない。

 古い獣の眠りを続けねば、やがて獣は魂がこの世に流れ出る源流に辿り着く。

 魂が生まれる世界の外側に獣が気が付けば、あらゆる魂がソウルとなってこの世に生まれる事もなくなる可能性が生じる。

 だがそれも、葦名が最期となる。古い獣を狩る為の炎が見出された。

 人類の魂は脅威から確実に救われる。獣は死ぬしかない。二つの特異点を悪夢として利用し、燃料となる闇の種は生成され、後は増殖させ、より粘り気の強い深淵に深化させるだけ。

 

「しかし、灰よ……貴公は賢し過ぎる」

 

 後ろから灰を直剣で串刺し、悪魔は騎士兜の中で称賛と共に嘲った。

 

「ごふっ……いやはや、心臓を後ろから刺されながら……言われ、ましてもねぇ……?」

 

 そして灰は長巻の太刀(アーロンの妖刀)を自分の腹に刺し、切腹の格好で背後の悪魔を同じく串刺しにする。同時に彼女は左手に物干し竿(複合強化)を握り、大太刀と長巻による変則的な二刀流により、心臓に刺さった剣を無視して強引に振り向きながら斬り掛る。

 だが、その二斬を悪魔は左手の盾で完璧に弾き受ける。葦名で技巧を窮めた悪魔にとって、自分と同等の灰程度の技など見慣れ過ぎ、忍びのように体幹崩しを狙うのは容易いこと。しかし、灰からしても慣れ切った危機に過ぎず、この程度で体勢を崩す(パリィされる)灰ではない。

 直後、悪魔は自分より背の低い灰の頭部へ頭突きを放つ。

 ファーナムの鶏冠(トサカ)兜の上から灰の脳髄を揺ら(シェイク)し、その隙を狙って腹部に膝蹴りを叩き込み、鶏冠兜の中で血反吐を吐瀉させ、そのまま首を断とうと騎士直剣を振り下ろす。だが灰は逆手持ちした物干し竿で斬撃を止め、同時に長巻を悪魔の胴を両断せんと振う。その一斬を悪魔は直剣の軌道を咄嗟にズラして刃で止め、騎士盾でバッシュ(体当たり)を行う。それを灰は左足の裏で動き出す前に踏み止め、体重で押し込む堂の入ったヤクザ蹴りで押し返す。間合いを離した悪魔へ対して即座、灰は左手に持った宮廷魔術師の杖よりソウルの結晶槍を放ち、それと同時に悪魔はソウルの業で装備転換した暗銀の盾で完全防御。

 その間、一秒未満。行動を見てから動くのではなく、思考戦による先読みによって相手の戦術を予め自分の未来予測で抑え込む戦意の応報。しかし、それがそもそも対人戦闘の基本。まるで息の合った共同作業のように殺意で殺意を受け流し、その繰り返しを続ける終わりなき流血死闘こそ―――最高の、娯楽。

 愉しくて堪らない。

 殺し合いはそうでなくてはならない。

 それはそれとして、悪魔は灰へ憤怒がある。

 素晴らしいこの闘争を穢す人間的な悪意に溢れ、まるで神域から古い獣を呼び出した要人共の欺瞞にも似た人界を腐らせる進化を求めた明日への願い。

 

「何が気に入らないのですかねぇ……ふふふ。貴方の願いは叶えられ、全ての魂が獣より救われましょうに。

 そして、その過程こそ私には重要なだけです。

 より素晴らしき障害が、私の魂を強くさせる敵となります。

 えぇ、えぇ……それだけで良いのです。その報酬だけで私は幾度でも世界を敵に回し、その世界を終わりから救いましょう。

 必要とあれば―――新しい時代も、私が人々の魂に啓蒙します」

 

「それが気に入らん。そも魂を救う必要など皆無だ。私はただ、古い獣を狩る事だけを貴公と契約したのみだ。

 ……そも人理とは、この人界に生きる魂の戒律。

 我ら外側の魂に関わる道理はない。結果として人理の世に生きる全ての世界の魂が救われるが、それはただの副次的なものでしかない。

 狩る事―――それのみ。

 そうすれば良い。そう在って、そう殺す。

 この世界の行く末に干渉するなど、神気取りの糞の所業だぞ」

 

「隠し事はいけません。単純に、特異点を悪夢に変えたのが許せないだけですよね?」

 

 悪魔にとって、己が所業を見せ付ける灰の悪行。遠回りをすれば必要ではなかったが、あの葦名で全てに決着する為には必要だった。葦名で旅を終えるには、どうしても大事な犠牲ではあった。

 

「神は、否定せんか?」

 

「はい。物真似は人間の性。そも神の奇跡を愛する私は―――殺したい程、神もまた好きなのですよ。

 それ以上に憎悪しているだけでして、えぇ……好意が塗り潰れる程、闇に沈めたくて堪らない……本当に、それだけですから」

 

「所詮、人間か。私と同じ、己が魂には逆らえない」

 

「―――ふふ。

 そんな自分が御嫌いですかね?」

 

「いや、まさか。魂の儘に生きるのが悪魔に堕ちた人間に相応しい末路だ。

 結局は自分の世界を救えず、女一人守れない男にとって、この魂だけが最後に残った自分自身」

 

「魂さえも、本当は自由ではないのに?」

 

「……貴公がそれを問うとは」

 

「カルデアを獣役にし、抑止力を利用したのが御嫌とは……元々、オルガマリーの魂に人間性を仕込んだのは本当に善意でしたので。

 全く、因果な話です。狩人の遺志に対する防壁代わりでしたのに。

 本来の所長のカルデアによって素晴らしい闘争の世界が拡がるとは言えですよ、神秘が完全に駆逐されるとなれば、まだまだ私はこの魔術世界を愉しみ切れてませんでしたから。

 あぁ思えば、貴方がこんな程度の脆い世界を救おうだなんて思わなければ、私はこの世界に居座らずに最初から外側に流れ落ち、人間が暮らすあの絵画世界に戻って永遠を苦しむだけで良かったのですがね」

 

「ならば、このローマでは私の我で貴公を押し潰す。あの無様な要人と同じ過ちを繰り返しては、私は私を許せん」

 

「無様……あら、気遇です。無様だから、この人理はこの様なのですよ。

 貴方が仰る通り、所詮は人間。あの要人と同様の傲慢と欺瞞によって、自分達が生んだ獣性に滅ぼされました。

 それに同情するのは、それこそ欺瞞じゃありませんか?

 もうどう足掻いても滅びるしかないなんて未来、自分の世界の未来を否定した貴方が一番理解していると思っているのですがね。

 この人理焼却は防げるでしょうが……えぇ、終わり方程度しか自由はないでしょうしねぇ」

 

「貴公……―――」

 

「憐憫です。獣に倣い、魂を数少ない人間の皆様で哀れみましょう―――人類は無価値だった、と。

 私と貴方の苦しみに何の意味もなく、終わりまでの過程で幸福な‟今"を得たとしても、やがて最後は無残に終わる悲劇でしかなかったのだと!

 価値があるのは―――この魂、唯一つなんですから!!」

 

 この灰は魂の底から、他人から奪ったソウルではなく、自分自身の残り滓しかない僅かな感情で嘲笑った。悪魔の世界の終わりと、自分の世界の終わりと、これから終わりを迎えるこの世界の末路を。

 

「―――死ね。

 貴公のその様で歩んだ人生で、暗い魂に強さ以外の価値が生じるものか」

 

「喜んで。どうか私に、死を超える強さを与えて下さい」

 

 悪魔が放つ竜神の火の玉を歪んだ光壁で逸らし、灰はファーナムの鶏冠兜の中で絶笑する。直剣を二刀流に持ち替える。右手は複合変質強化(闇・血・亡者・熟練)されたロスリック騎士の直剣を握り、左手にはレディアの呪術師が振う冒涜者の魔剣(ブルーフレイム)を握る。

 悪魔は相手の装備を見て、愉し気に装備転換。殺した騎士王のソウル情報を注いだ月明かりの聖剣へと持ち替え、獣の触媒を仕込む左腕には北騎士の直剣。

 月光波の巨大斬撃―――同時、灰の魔剣よりソウルの奔流が突き放たれる。

 ぶつかり合う魂の殺意。古い獣の奇跡と白竜の叡智が互いを滅さんと炸裂し、問答無用でどんな魂だろうと死ぬ暴風が吹き荒れた。

 もはや互いに召還した眷属や使い魔は死に絶え、邪魔する者は存在しない。

 だが竜の神や巨竜が死ぬ空間だろうと、この二人にとっては死ぬだけでしかない死闘。どちらかが死ぬと言うのに、余りにも軽過ぎる結果でしかなく、血塗れで命を限界以上に絞り合う殺害劇が娯楽にしか感じられない終わり切った感性。

 命に価値なんてない自分を殺してくれる―――感動的な話でしかない。

 魂を戦いの道具にして闘う二人にとって生死は娯楽。他者の生命も道楽に過ぎず、この死闘こそ今を生きていると実感可能な僅かな時間。

 そして爆発が晴れ、視線が交差する二人。

 悪魔は堪らず叫び声を上げようと思い、灰もまた敵への挑発を楽しみたいと言葉を持つ。

 

「人の魂は愉しいか、アッシェン・ワン……!!」

 

「当然だろう、デーモンスレイヤー!!」

 

 どうせ、安い以前に価値のない命。それを賭け金に価値ある闘争の時間を愉しめるのならば、不死にとってこれ以上の娯楽はない。

 死んで良い。殺しても良い。

 相打ちで皆が死ぬのも、素晴らしく良い。

 互いの信条の違いで今を闘うも、そも理由もなく死ぬ程に戦いたいからと人殺しを楽しむ性根。

 迷い無く悪魔は武器も盾も鎧も透過する聖剣を振い、つまりはその聖剣では敵も自分の攻撃を防御出来ないと最初から理解する灰は躊躇わず双剣を振い、互いに致命傷となる斬撃を同時に受け合う。その直後に悪魔が左手の騎士剣で突き、灰は軌道を見切って刃を片足で踏み止め、その見切りを見切っていた悪魔は蹴りを放ち、その蹴りを灰は剣の柄尻で受け流す。

 止まらない戦闘舞踊。その全てが―――愉しい。

 己がソウルが苦しまなければ、人間的な感情が戦場では動かない。誰かが止めない限り、不死の二人は無限に続く命に従って延々と殺し合いを止められなかった。

 

 

 

 

◇◆◇<◎>◆◇◆

 

 

 

 

 瞬間―――九つの死が忍びに迫った。

 余りに鋭く、迅く、重く、神を解体する神獣狩りの拳打。

 あらゆるローマを内包する覚醒した神祖の神樹槍拳には無論の事、ローマの創生記となる起源の情報も存在する。彼が望めばローマの薬学が生んだ毒殺文化の猛毒を混ぜる事も、悍ましい蛇毒を宿す毒手とすることも容易い。そして、文字通りに神殺しの神秘さえも、神祖からすればローマである。

 掠れば即、死。

 拳から輝く赤光は放射線以上の致死性毒光。

 そもそも毒など無くとも、人肉を物理的に血霧にする超火力。

 

「―――――」

 

 忍びは体感時間を零に圧縮。しかし、それ程の知覚を得ても神祖は神速。だが彼の技巧は此処に到って冴え渡り、一閃目を弾き逸らす。即座、迫る二打目さえも弾き、三、四、五、六、七、八を楔丸で全てを受け弾く。

 体得した秘伝一心に並ぶか、それ以上の連続死。

 即ち、忍びは到達したその境地により、神祖の宝具を感覚する魂に技を得て至っていた。

 だが神祖が放つ最後の九撃―――渾身の正拳突き。気が狂う程の技巧が加速させた技には体重の幾十倍の負荷を拳に乗らせ、巨人が放つ拳の破壊力を遥かに超え、神獣の巨竜が振う一撃に匹敵しよう。

 

「ぬぅ……ッ―――!!」

 

 だが神祖も見抜けぬ事だろう。この忍びは、そもそも龍神の剣士とも斬り合える技巧の怪物。見切れるのならば、防ぎ逸らせぬ攻撃は存在しない。もし彼に防御をさせないのであれば、足元の地面ごと抉る下段攻撃が有効であり、しかしそれさえも容易く見抜いて回避する。

 尤も、神祖はその忍びからしても狂った技量に到っていた。突き攻撃を忍びの眼力でも見切れず、弾くしか生き残る術がない絶技。彼は体幹を崩されてしまい、最後まで受け切るも、次に攻める神祖の攻撃を回避する時間はない。

 死。拳の紅閃。忍びの頭部を砕いて殺す一打―――その神祖の背後を所長は狙う。

 左手に装着した教会砲(チャーチ・キャノン)に装填した水銀弾を纏めて砲弾に練り上げ、躊躇わず発射。爆風の範囲に忍びはいるが、脳漿を撒き散らすよりはマシ。むしろ、吹き飛ぶことで少々のダメージは受けるが神祖と距離が取れて吉となろう。

 

「ローマッッ!!!」

 

 ローマンコンクリートの地面が衝撃波で凹み、空気が弾け散り、空間が歪んで拉げた。神祖の叫びは対軍クラスの空間攻撃に匹敵し、所長の教会砲弾は真反対の方向に吹っ飛んだ。灰の「フォース」や所長の「獣の咆哮」に近い防御であるが、むしろ悪魔が放つ「神の怒り」に近い攻撃である。

 否、それは反射に近い攻性防御。ローマの雄叫びの魔力を纏った砲弾は、撃った所長本人へと倍の威力で撃ち返される。そんな攻撃に付き合う所長ではなく、忍びも無事に離脱したのも確認し、彼女は狩人らしく瞬間歩行で爆撃から回避する。

 

「―――無敵か、あいつ!!」

 

 攻防一体。狩りの根底となる業。

 基礎にして奥義―――一足歩行(ステップ)

 謂わば、武術における踏み込み。一歩を歩む技。サーヴァントならば縮地としてスキルに具現し、戦闘において多大なアドバンテージを得ることだ。

 狩人はこれを極めることが狩りの巧さであり、守りを捨てた彼らにとって絶対の防御手段。どんな仕掛け武器を使おうが、あるいは銃器や秘儀を愛用しようが、ステップは必須であり、中にはカラリパヤットを極めた達人のようにただ歩くだけで攻撃を自然と流れる様に避ける狩人もいるが、その者もステップを極めたが故にその境地に達したと言える。よって超音速の銃弾や超次元暗黒の光線を容易く見切る瞳を持つ狩人の動体視力にさえ、その一切が映らない次元の瞬間歩行こそ古狩人の業であり、もはや幻獣の次元跳躍に匹敵する無敵性を誇るのだろう。

 所長の業はその域にある。あらゆる弾幕を潜り抜けて攻め入り、対軍範囲攻撃だろうと瞬間的に回避する。隕石の雨が降ろうと避け切り、レーザーに襲われても驚かずに避けてしまう精神と技術を手に入れた。

 

「ローマ!」

 

「ぐぅ……っ」

 

 ならば、神祖の槍拳は多次元を貫き殺す。狩人の回避跳躍(ステップ)そのものを見切り、極めたステップ中のほぼ夢幻に等しい狩人の体の土手っ腹へ、その手を突き刺した。

 生きた儘に所長は、内臓を鷲掴みにされる寒気を感じ――直後、神祖の手は赤く発熱。

 それは命を焼く熱さ。生きようとする魂の意志を奪われる実感。

 同時にロンギヌスの神秘が混ざったローマ創生樹の魔力が所長の血に混ざり、魂ごと存在を浄化する聖なる劇毒が全身へと回る。

 

「ァァぁああああああああああああ!!」

 

 体内全ての血液が蒸発する劇的苦悶。両目は融け落ち、歯茎も蕩けて歯が落ち、皮膚が沸騰して融け落ち、髪の毛が液状になって流れ落ちる。

 まるで放射能の熱波で焼かれた人間のようだった。そして魂からすれば放射能汚染よりも尚、神祖の樹槍拳は邪悪な赤色熱光。生命を蕩けて溶かす神人の槍は、強き生命体こそ容易く命を奪い取る。

 だが狩人の命とは――生きる意志。

 所長は自分の内臓に触れる神祖の腕を掴み、そのまま左手に握る散弾銃を顔面目掛けて零距離発泡。衝撃で神祖は仰け反り、しかし掴んでいた所長の腸も一緒に腹から飛び出る。

 即座、狩人は姿だけは復元。顔面に散弾を受けた神祖は傷を癒すまでもなく無傷であり、その後ろ首筋に―――楔丸が突き刺さる。

 そう忍びは錯覚していた。幻視の忍殺だった。

 

ほへおあは(それもまた)ほーは(ローマ)

 

 正か、顎で刃を噛み止められるとは。首だけ後ろを向いた神祖は忍びの一刺しを受けたまま、振り向き様に拳を一突き。その刹那の間にて、咄嗟に霧がらすの忍具で回避行動を取れた忍びは流石であった。

 直撃を忍びは避け―――半分、内臓が吹き飛んだ。

 掠っただけでこの威力。しかしながら、魂に直接的にダメージが与えられ、血反吐と共に命と言うエネルギーそのものを嘔吐する。

 

「ぬぅん!」

 

 敵は死体同然。そして、神祖は油断しない。広げた両腕からそれぞれに向かって赤い閃光が迸り、この様だと言うのに所長と忍びはまだ動けた。

 

「ゲェ……ぐえ、がぁ……この、畜生」

 

「………グ」

 

 それを何とか避けるも、それで終わり。勝ち筋が見えない殺し合いは苦しく、所長は心臓へと直接的に輸血液の針を突き刺し、忍びは傷薬瓢箪の薬液を一気に飲む。転がりながらも何とか回復し、だが生命力が補充された筈なのに、体を動かす意志が挫かれる寸前だった。

 

「せき、ろう……なんか、勝てる手、ある……?」

 

「―――……すみませぬ」

 

「そう……そりゃ、そうよねぇ……」

 

 へたり込む血塗れの所長と、膝を付いて楔丸を杖代わりにする忍び。そして、煌めく讚美のYポーズをする無傷の神祖。

 もはや、勝敗は決したのだろう。神祖の拳は容易く時空間を貫き、夢も現実もなく、遂には霧がらすの幻さえ捕らえ、忍びに一撃を与えることが出来た。

 

「では、行くぞ。終わらせねば、この世が始まらん」

 

 愉しくも悍ましく、美しくも穢れた殺し合いを再開する。

 それは尊厳の奪い合いを改める愚行。元より愚かさの比べ合い。

 故に神祖はこの闘争が自分達人間にとって何の価値もないと理解した。抑止の後押しを受けた灰の暗い魂を覚醒させ、もはや全知全能に比する皇帝特権を有し、何もかもを思い通りにする神秘を魂に宿し、その力全てが今此処に必然的に凝縮した抑止の特異点だと分かり、冠位英霊と言う見えざる抑止の器となった身を嘲笑う。

 幻視に過ぎない運命を操る奇跡。

 必然とは、最初から決めて仕組まれた偶然。

 

「ローマ、なり」

 

 血に染まる()。時空さえも貫くローマの()

 並みのサーヴァント―――否、神霊ではない生きる神だろうと、問答無用で魂を砕く拳で以って幾度も致命傷を与えた。しかし、狩人と忍びは死なず。

 神祖の手で受けた傷は痛覚だけではなく、魂そのものに苦痛を与える劇毒。人間ならば問答無用で霊体が激痛の余り崩壊し、神ならば神で在る故に自殺する前に発狂死する痛みである。あの大英雄ヘラクレスはヒュドラの毒液によって毒死はしなかったが、その後遺症による痛みで自殺を選んだように、どうしようもなく耐えられない痛みがこの世にはある。ローマの歴史としてロンギヌスさえもローマの槍として手に融かした神祖の矛とは、そう言う類の魂と言う現象に対する絶対性を有する。

 ならば、この二人は死んでいる。魂が最初から生きていない。

 死と言う現象に慣れ、乗り切った為の不死性。肉体が死んでも蘇る者の永続性。

 

「いや……ローマ、なのか?」

 

 誰も今の神祖には勝てない。人も魔も神も、もはや唯の獲物に過ぎない。今の彼は冠位英霊でありながらも、受肉した個の今を生きる人間だ。矛拳の一撫でであらゆる魂を害し、殺した命に宿る魂を喰らって成長する。死がない相手だろうとその魂を直接的に存在ごと殺し、魂が無くとも物理的に破壊し尽くし、外宇宙に隠れようとも無限の時空を貫いてローマは必ずや辿り着く。

 魂が―――ローマとなった。唯一無二の、ローマのソウルなのだ。

 勝てないとは、その事実が具現した為。事実、敵対した所長の四肢は機能しない。血塗れの肉塊に等しく、呼吸する度に血反吐を吐き、鼻の穴から血河を垂れ流し、両目から血涙が零れ墜ちる様。忍びさえも義手が壊れる寸前まで酷使し、回生も使い切り、今もう一度死ねばカルデアに彫って置いた自作の鬼仏に戻る事となる。

 

「しかし、お前らもまた……その痛みに耐える高潔(ローマ)な魂こそ……」

 

 瞬間―――月の音がした。

 それは脳の水分を振るわせる綺麗で透明な、青褪めた月の声だった。全能と比する神祖が理解出来ないルーン文字が脳内に浮かび、その形が何故かその音を現す上位なる言語だと理解する。しかし、それが何なのか理解は出来ない。

 何かは分かるのに、何も分からない矛盾。

 あの古都の学術者を神秘の探求に狂わせる甘い秘密。

 考えるほどに深く悪夢の闇へと沈む好奇心を神祖は自覚し、触れ得ぬ幻視を魂が夢見る錯覚と解し、故にそれが自分の意識が知覚する事実だとも実感する。即ち、幻視とは現実には存在しない意識の錯覚であり、その意識体にとっては幻が現実となる夢の世界からの呼び声。

 そこまで分かるのに、神祖はこの声が意味する音が分からなく、無限の暗い宇宙のように拡がる未知が愉しそうで堪らない。その楽しむ好奇さえ、幻視がもたらす脳髄の錯覚だと言うのに、人間は人間性を棄てられない。

 

「お前は……」

 

 神祖は何故、勝つためにカルデアの所長を追い込む程、魂に氷柱が突き刺すような悪寒に襲われていたのか理解する。

 分かったのは、何故か分からない程に、唐突過ぎる程に、眼前のカルデア所長がオルガマリーではなくなった事実だ。

 

「……誰だ?」

 

 そして今も神祖の脳を揺らす波長は、彼の知るあらゆる文字で形容不可能な異音。この惑星の言語で表せず、あるいはこの既存の宇宙の知性では言葉に出来ない声のような何か。

 一瞬、彼は世界を見失っていた。

 攻撃、防御、回避と言った戦術的手段を完全に忘れてしまっていた。

 

「サーヴァント――フォーリナー。

 我が弟子、我が導き、我がマスターに代わり、目覚めた狩人だ」

 

 それは、どうしようもない不吉。人型に固められた悪夢。

 

「主殿……?」

 

「狼君、今は退き給えよ。君に死なれると、私のマスターがとても悲しむ」

 

 その過程が神祖には確認出来なかった。まるで夢でも見ているように、先程まで何もなかったと勘違いする程、オルガマリーだった筈の誰かの傷は癒えていた。

 カツン、と石作りの道を一歩進んだ足音。その瞬間、神祖の目にさえ映らなず仮面兜を被っていた。まるで銀色の脳味噌の如き頭部。そして、その姿は銀色の騎士甲冑に何時の間にか変っている。

 

「お主、何者……」

 

「悪夢こそ、現実となる。狼君、彼女の守護者で在れば、幻視に惑わされぬことだ。何者と問う必要もなく、君が見たままが私の有り様だとも」

 

 前後に繋がりはあれど、唐突過ぎる意味不明さ。その様子、夢幻と変わらない。

 狩人が悪夢に囚われるなど、嗤わせる。悪夢の方こそ、狩人に捕まり、永遠に目覚めぬ環に囚われる。この狩人がマスターから迷い出た瞬間、何もかもが悪夢のような失楽園と塗り潰される。

 

「しかしながら、サーヴァントとしての初任務。その仕事相手が獣狩りの冠位とは、狩人冥利に尽きる幸運。

 されど古都の外も所詮は誰かの箱庭か。我らに自由は訪れず、何処も悪夢のような現実を夢見る獣の世。余りにも余りなこの末路、人ならば誰しも目を覆いたくなる。

 故この惨劇にてローマの神祖よ、貴公は何者に成れたのかね?

 何者にも縛られぬ暗き魂を啓蒙され、人理と言う人間に不定の未来を錯覚させる欺瞞を悟り、其れでも尚……何故、貴公はローマを導けるのか?」

 

 仮面兜で隠れていても分かるその真っ直ぐな視線に、神祖は抗う気になれなかった。効率や戦術と言う常識を優先してこの問答を切り捨て、殴り掛かる訳にはいかなかった。狩人の瞳は、何処までも澄み切って真摯だったのだ。神祖と言う一人の人間に対し、恐ろしく深く、尊厳性に溢れた意思に満ち、それは確かにローマだと彼に実感を与えていた。

 あるいは、狩人の言葉を聞かないと言う行為が禁忌に感じられた。

 逆らえないのではなく、意志を縛られるのでもなく、この魂に直接的に語りかけるような、そんな脳を拓いて想いを込める神託に感じられてしまった。

 

「それは(ローマ)が、最初のローマの王である故に。それこそ、ローマの歴史を始めた王の責。つまりはローマの全てを背負う為。

 幸福も、惨劇も、(ローマ)の業である。

 責務から逃げる事は許されぬ。否―――それを我が魂の責務だと、私自身がそう決めた」

 

「ほぅ―――素晴らしい。そして、美しい遺志だ。

 貴公こそ冠位に相応しき意志を持つ人類。そして人間は、誰しもそう在らねばなるまい。己が業から目を逸らした時より、その者は人を辞め、ただの薄汚い獣となる」

 

 銀甲冑を纏う血の騎士(ハンター)は声だけで、嘗て死んで英霊となったロムルスと言う男の遺志へと微笑んだ。

 そして言外に、カルデアや神祖が守ろうとする人類種を蔑んでいた。ビーストを全て狩った所で獣性は無くならず、人間もまた獣の一種であるのだと。

 しかし、だからこそ―――人間は、素晴らしい。

 獣性と言う赤い血の根源に足り得る蒙昧さこそ、月の狩人へと血の探求を永遠に続ける意欲と渇望を与えるのだから。

 

「問いには応じた。こちらも質問しよう。お前こそ何者だ?」

 

「何者でもない。そして何者にも成れぬ故、悪夢から目覚めない遺志である。

 だが強いて言えば―――G‐オルガマリー」

 

「G‐オルガマリー……」

 

「うむ。Gと言う略称が好ましい。蟲の如きしぶとさこそ、良き狩人の所以でな。それと面倒ならば単純にGとだけ呼称して欲しい」

 

「G……確かにな。その様、名乗るに相応しい悪夢か。

 本来、お前は迷い出るべきサーヴァントに非ず。オルガマリーの遺志の奥底に封じられるのが正しい選択か」

 

 神祖に見抜かれたことをGは喜ぶ。月の夢に眠る遺志とGは統一されているとは言え、故にこそ狩人はGと名乗る。今の自分はやはり自分でしかなく、個の定義に悪夢に溜まった血の遺志は拘らない。

 

「その通りだとも。貴公の英霊としての意志の強靭さが、私と言うイレギュラーを介入させた。瞳で見た通りならば、彼女と彼女のカルデアで事足りた。しかし、大本が誤算である。

 何よりも本来ならこの分け身たる私が自由気儘に人理を啓蒙し、アニムスフィアの悲願を我が夢に塗り潰し、世界を素晴らしき永劫の悪夢へ落としている未来を、このオルガマリーが意志を保つことでまだ人理焼却と言う慈悲が与えられる猶予を得た。思えば人間として私が一番、オルガマリーへ感謝しているとも。

 いやはや、世界とは今の私にとっても摩訶不思議且つ吃驚仰天な玩具箱。

 愉しみなのがこの苦難を以って我ら人類種、一方的な滅びに抵抗する運命が訪れた。

 カルデアが技術提供したカルデア支社の軍事企業を使った国家解体戦争の後、コジマによって死の大地となったこの星を……と言う程良い闘争と進化の人理を、現世を生きながら書き直す娯楽を我がマスターは与えてくれた」

 

「それもまた、ローマか」

 

「同意する。ローマもまた幼年期に続く人類史の一頁。

 あぁ思えば好奇心が抑えられず、外なる宙の中心に眠る赤子へ目覚めを与えてみたが……うむ、まだまだ足りん。あれはまるで泡のように星々の世界が消えて素晴らしかったが、やはり私は獣性も混ざった未来を叡智としたい。

 宇宙とは、宇宙に旅出れば叡智も常識となる。空から大地に堕ち、神性はまた人間性を得て獣に戻る。人間と言う素晴らしき知性に関わりを持たねば、神は神だけで事足りる完全無欠の赤子要らずの儘で在られると言うのにな」

 

「あぁ、その通りだとも。空の神とは、お前の言う通りなのだろう。

 故に、遊星による破滅の果て。人は人だけの人世へ至り、父の遺志を知る(ローマ)は地上にローマを作った」

 

 始まりの英霊召喚。魔術儀式として失敗だったがサーヴァントは確かに呼ばれたのだ、彼女自身の現実(ノウズイ)に。脳に神秘が最初から植えられ、そもそも彼女は古都の狩人のように上位者の体液を輸血されたのではない。古都の青褪めた血ですらない。

 その身に流れた最初の血―――幼年期を迎えた狩人の、赤く無い血液だ。

 神秘の赤子となった狩人に流れる青褪めた血。彼女は最初から獣性と啓蒙を克服した狩人の夢に囚われた者。

 ―――上位者(Great one)、オルガマリー。

 狩人は赤子の上位者となっても狩人でしかなく、この者に名前を与える親はなく、故に今の狩人はオルガマリーでしかなかった。肉体がそうなら、そう在れば良いだけの事実だった。

 

「ではローマよ、闘おう。貴公は我が弟子を上回った珍しき者。久方ぶりに初見の未知を狩れるのは愉しくて堪らない。

 そして啓蒙深き者との問答は好きだが、長く彼女の体を私が使うのは好ましく無い故に」

 

「人の魔物よ……その様、その業、冠位として狩らねばならぬ」

 

「……フ―――」

 

 狩人は愉しくて堪らない。本来の自分なら戦いの場で、このような問答と言う贅沢を愉しむ人間性を持ち得ない。だが殺すだけの獲物の人間性を未知として捉え、人の心を啓蒙する感性を今は持つ。

 敵は冠位、人類の自滅因子を狩り取る人理の自浄作用。

 拳一つで魂を砕く創生樹の化身。

 ローマそのもの。

 暗い魂の神祖。

 正しくこの狩り、血の歓びに匹敵する悦楽だ。この偉大なる英霊の遺志を前にし、その血の遺志を貪る歓びを拒む狩人など有り得ない。マシュ・キリエライトに寄生していたあの騎士のような潔さなど、生まれるべきではなかったこの狩人には存在しない。

 仮面兜の中で、狩人はオルガマリーの顔面を借りて壮絶な笑みを浮かべる。顔面に亀裂が入る深い笑顔であり、誰の目にも映らなかったが、ただ笑うだけで空気が血腥く歪む。

 殺意と狂気が融け混じる血気。神祖の殺意を高まらせるには充分に過ぎ、必殺を繰り出す切っ掛けにも十分。彼の拳は真っ赤に輝き、宝具として真名を静に、されど世界へ轟かせる程の気迫で以て宣告する。

 

射殺す百頭(ナインライブス)―――」

 

 初手にて必滅。接触、即死。灰より継ぐ業と、あらゆるローマと神祖が融合した魂が、父たる軍神マレスから学んだ技を具現する。

 対する狩人は居合を構える。千景の血刃はまだ鞘へと納刀され、その宝具の脅威を感じる程に血気が研ぎ澄まされる感覚を高める。

 

「―――羅馬(ローマ)

 

 神祖が握り締める右手の魔力がブラックホールのように凝縮し、その圧力から放たれた手刀が白い閃光となって放たれる。

 ―――抜刀、血閃。

 連撃の始まりに狩人は合わせ、相打ちの形で拳と刃が重なり、互いの得物が弾け合う。

 

「ッ――――」

 

 その迎撃により、神祖は自分の技術が敵に優らないと理解。あろうことか、超連続攻撃として繰り出している筈の二撃目に、狩人は純粋な技量と速度で間に合っていた。だがそれは防御の為ではない。

 ロンギヌスの対魂概念とヒュドラの劇毒魔力が混ざる一撃。

 どう足掻いても、どんな生命だろうと、死ぬしかない宝具。

 それを生身で受けながらも一切狩人は体幹を崩さず、むしろ攻撃を一撃貰いながらも左手の短銃から瞬間一射。そして神殺しの手刀を受け、むしろ興奮の余り獣性が高まり、狩人の殺傷性能が上昇。

 

「――――っ!」

 

 体勢をほんの僅かに崩し、連続攻撃に間を作ってしまった神祖の眼前―――血塗れを喜ぶ仮面の狩人。

 近付く一歩の間に納刀。狩人は隙を曝してしまった神祖へと、神殺しと蛇毒が混ざった自分の血液を千景に纏わせ、そのまま神たる人へと―――抜刀、二閃。

 その一撃は余りに迅く、重く、膝を付かせるには十分。そのまま返しのニ斬目が神祖の頭蓋骨を斬り叩き、両断は出来ずに耐えられて血刃が滑り落ちるも、確かに脳に刃が届いていた。何より銃撃一発で神祖の体幹を完全に崩すことも出来なくはないが、それには彼の攻撃を耐える凶悪な意志の強靭力の隙間さえ狙い、精神的な死角も抉って驚愕させる必要もある。

 

「―――――」

 

 脳へのダメージは冠位英霊だろうと隙を一切出さないのは不可能。それもその一刀は魂殺し。並みの不老不死ならば永遠を幾度も終えらせる程。挙句、狩人自身の血液による劇毒と発狂に加えて、今は神祖による蛇毒と神殺しの概念さえも含まれる。

 魂が死に逝く実感。走馬灯が流れる臨死の零秒。

 神祖はこの時に気が付く。この眼前の狩人は恐らく、この遣り取り、この展開、この時間を、既に千を超えて踏破している。あるいは、絶対に寸分の狂いなく可能になるまで、万でも億でも繰り返している。

 現実と何も変わらない脳内の夢の中(イメージ)で、狩人は幾度も神祖を殺して準備を完全無欠にさせ、思い通りに事を進め、何でもない当たり前の作業をするように偶然の奇跡を数学的必然へと塗り潰してしまった。

 1+1=2であるように、狩人が神祖を殺せるのは世界にとって当然の未来。

 

「何と言う……!?」

 

 己が臓物を握り締める狩人の右腕を見下ろし、神祖はこの可能性全てが‟一"に収束する結末を啓蒙された。否、これはもう現実を悪夢で書き換える‟無"からの呼び声。それによって体を動かす意志の一切合財を奪い取られ、もう神祖は指先一つ震えない。

 そして仮面越しに、宇宙となった脳を持つ()の声が聞こえる。神祖の耳元に顔を寄せ、神への愛を告げる聖母のように、その魂を祝福する。

 

「これもまた悪夢(ローマ)だとも、神祖。だからこそ我ら人類種、決して果て無き夢を諦めぬ。

 故に素晴らしき幼年期、どうか末永く、空より見守り給えよ」

 

 あぁ、血の遺志が流れ込む。冠位の霊基とローマの全てが脳に啓蒙される。そう狩人は血に融け出す神秘と叡智に歓喜した。

 まるで愛しい人間を愛撫する優しい仕草で、狩人の手は内臓ごと血を抜き取った―――血塗れの、聖杯と共に。

 

「すまない。ローマの聖杯なぞ、あの女の暗い魂の排泄物に過ぎん汚泥だが、我がマスターのカルデアに必要でな」

 

 神祖の魔力を維持する核が消える。人為的な奇跡はもう有り得ない。死と言う現実を、偶然が覆す幻想は狩人が狩り取った。

 

「……だがお前の勝ちだ、フォーリナー。

 持って行き、己が主の願いをかなえると良い」

 

「ああ。容赦なくマスターのカルデアが、貴公のローマを狩り潰そう」

 

 死した神祖と、その魂。だが、抑止力が死体の儘にまだこの男に干渉する可能性を狩人は観測する。エーテル一粒残さずに滅ぼさねば勝ちは確定しない。狩人にとって残念な事だが、念入りに殺せと自分の瞳が脳を啓蒙した。

 

「恨むならば抑止力を……いや、出来れば貴公を狩る私だけを恨んで死に給え」

 

「まさか。恨みなどない―――」

 

「―――では、その遺志こそを継ごう」

 

 引き金に掛る指が動く。撃鉄は落ち、火薬は爆ぜ、水銀弾が銃口から放たれる。神祖の頭蓋骨は砕け散り、そのまま霊基全てが破砕された。抑止の傀儡にされる可能性も、その強靭な意志によって死体だろうと動いて戦う未来も壊された。

 そして、神祖の魂が遺志となって狩人に流れ込む。直ぐに狩人は所長に戻るだろう。この出来事も入れ替わったと同時に追憶し、経験が脳に入るのだろう。

 しかし、この獲物を狩ったのは‟狩人"だ。この目覚めは素晴らしかったと仮面の内側で笑みを浮かべ、男はオルガマリーへと意識を遷していった。

 










 上位者(グレート・ワン)オルガマリー。で、Gオルガとなります。
 蒼褪めた血の月と同一存在ですので、ヤーナムで幼年期を脱する為に色々と画策中な狩人様本体の分け身となります。
 それと灰が所長に人間性を隠れて与えていたのは、所長の中に居るフォーリナー狩人様に対する精神防御の為と言うのが本来の目的でした。所長がオルガマリーと言う人間性を維持する為の友人としての手助けでしたが、結果的にそれは獣性をも守っていたので、人理焼却とアラヤの関係を俯瞰的に見た時に、まぁ利用しようと言う雰囲気で今の状態になっています。
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