「すみません、先輩。私は、もう駄目なようです……」
「マ、マシュ―――!」
地面に倒れ込むマシュを抱き止め、藤丸は悲壮な顔で叫び声を上げた。何と言う暴虐、何て言うおぞましき所業。たった一人の少女を相手に、大の男が二人揃って暴力を振うなんて、そんな事が許されて良い訳がない。彼が暮らしていたある程度は平和を維持していた日本国と言う国家において、個人よりも法律が優先される法治国家では有り得てはならない光景なのだろう。尤も、この冬木も日本であるのだが。
だが、そんな事は如何でも良いのだ。今の彼にとって、彼女は自分を助けてくれた命の恩人。その彼女が不当な暴力を受けたのならば、毅然とした態度で理不尽なる者へ立ち向かわなければならぬのだから。
「所長。俺は―――」
「ん?」
「―――……いえ、何でもありません」
「そう? 良いのよ、好きな事を言ってね。部下の不満は組織改善に必要なパーツだもの」
「はい。藤丸立香、了解致しました!」
一瞥されて、その気力も失ったが。まるで明日にはお肉屋さんに並べられるのね、と養豚場の食用豚を見る屠殺人のような目をしていた。あるいは、生け捕りした獲物を解体する間際の狩人の目付きであった。
「ごめん。マシュ、俺は弱い……!」
「良いんですよ、先輩。それだけで、私は良いのです……」
所長の計画通り、二人の仲はある程度まで深まったようだ。自分を面白半分で悪役にしてみたが、思いの他上手く事が運んだ事が幸いした。英霊召喚によるサーヴァントならばマスターに対してある程度義理立てする性質を持つが、人間同士だとそう言う訳にもいかない事は所長も良く分かっている。それも今日初めて出会った同年齢程度の異性同士だと、それなりに距離感が生まれるのが自然だ。熟練の兵士ならばそれが戦闘で害になることも無いが、藤丸立香とマシュ・キリエライトではそうはいかないだろう。
よって、宝具解放のついでに二人へ仲間意識を植え付ける事に成功する。イベントがあれば、善人同士且つコミュニケーション能力が激しく高そうな藤丸が勝手にマシュと仲良くなるだろうと所長は見抜き、事実そうなった。仲が良くなり過ぎても問題だが、二人が戦闘時に不仲でギクシャクする事はないと所長は安心した。
「茶番ね。まぁ良いわ。キャスター、アルターエゴ、御苦労様。カルデアを代表して感謝するわ。マシュの為とは言え、本当に、本当に、ありがとうございました」
「良いってことよ。オレも良いもん見れたし、宝具を解放するのも気分が良い」
「同じく。有意義な時間であった」
おう、と格好良く片腕を上げてポーズを決める戦士が二人。僅かにたった親指が、マシュの教育を楽しんでしていた事を物語っている。流石は人間を極めた英霊、鍛練面においては清々しいレベルで鬼畜外道である。しかし、それは所長も同じである。
「マシュ、とても良い宝具だったわ」
所長は近付き、そう言い放った。
「―――え……所長?」
「でもね、真名までは得られなかった」
大盾の概念が生み出す神秘の解放自体は可能となった。だがしかし、その真名解放まではいかなかった。所長はマシュが宿す英霊がギャラハッドだと理解しており、その盾が円卓の騎士を集わせるラウンドシールドだと把握している。
よって、本来の真名も分かっていた。
そもそも宝具など、その瞳で見詰めるだけで名を啓蒙出来た。
「だから―――ロード・カルデアス。
カルデアが守るべき人理の礎となる星見の要。貴女の宝具を、そう名付けると良いわ」
「……所長―――はい!
マシュ・キリエライト、了解しました!」
「宜しい。素晴しい戦果だったわよ」
所長が見たのは、
ならば、今はコレが真名で十分である。
所長が直ぐ様に真実全てを告げても構わないのかもしれないが、それではマシュの為にならないとその英霊本人は考えている。だからマシュに何も告げずに消えたのだろう。それを思い、実際にそうなのだと所長は真実を啓蒙したが故、まだ黙っておくことにした。
“けれど、良いもん見れたわね。あれ、面白そう。
ローゲリウスの車輪。医療教会の処刑隊が使っていた仕掛け武器であり、カインハーストの貴族を肉片になるまで轢き潰すことで血肉が車輪にこびり付き、又同じく怨念が染み込んだ処刑器具。即ち、車輪内部に封じた怨念を変形させることで解放し、死霊が車輪を回転することで相手を呪いで轢き殺すおぞましく狂った神秘の狩猟具が正体だ。
しかし、あれは違う。
何故ならば、処刑隊がカインハーストを処刑する前に―――ローレンスは悪夢に堕ちた。
そもそもローゲリウスを処刑隊の部隊長に任命した者を考えれば、車輪を貴族共の処刑器具に選んだ悪辣なる者も限られる。となれば必然、あの男が使うは貴族の怨念に染まるローゲリウスの車輪に非ず。言うなれば、
そう考えれば、やはり面白いと断じるしかなく。所長はその、血液を燃料に発火する処刑車輪が欲しくて堪らなくなったのだ。
「むぅ…………」
そんな様子を静かに見守りつつ、不意の事故があれば何時でもマシュを守れるように構えていた忍びが一人。だが宝具訓練も無事終わり、彼は周囲へ気を張りつつも少しだけ呼吸を漏らしてしまった。恐らくは、これから万全な状態とする為に消耗したマシュに対して休憩するのだろうが、彼女に溜まった疲労は藤丸に負けず濃い。いや、それ以上であると忍びは見抜いていた。
よって、その解決方法を持つ彼が行動するのも当たり前なこと。戦闘前に勝率は数厘でも上げるのが忍びの常識だ。その為にも、この学校なる施設で液体の入れ物となる物資も手に入れておいた。
「……マシュ殿。これを」
「え……あの狼さん、これは?」
そして、その疲れた様子を見兼ねた忍びは、マシュへそっと傷薬瓢箪から液体を注いだコップを差し出した。だが、それが何なのか分からない彼女が質問するのも当然だった。
「飲む傷薬だ……苦いが、良く効く」
「飲む………?
えーと、飲むと体が癒えると?」
飲むヨーグルトは知っているが、飲む傷薬など一度もマシュは聞いた事がなかった。むしろ、それってどういう作用で傷が治るのか、凄まじく不可思議に思ってしまう程。
「ああ……飲むと、傷が癒える。苦いが」
「苦いのですね、二度も言う程?」
「苦い。おぞましく苦いが、体には良い薬だ。飲まぬなら、瓢箪に戻すが?」
「いえ……――――マシュ・キリエライト、頂きます!」
折角の好意を無碍にする心などマシュにはなく、忍びが虚言を吐く理由もない。しかし、この寡黙な男が念を押す程に苦いと言う薬を恐れるのもまた当たり前なこと。だがしかし、これから直ぐに戦闘となる事を憂慮すれば、万全な状態にするのがカルデア職員としての義務である。
頭にクソが幾つも付くほど真面目なマシュ・キリエライトは、止せば良いのに傷薬瓢箪が作った良薬を一気に飲み干してしまった。苦い薬は味わうことなく一気飲みするものと考えている彼女にとって当然の行動であったが、今回はそれが仇になったのだろう。
「――――――――――」
まるで彼女は、宇宙深淵を覗き見る
「マシュ……あれ、マシュ。マシュ!」
「―――……ハッ!
あれ、どうしました先輩?」
「いやいや、それはこっちの台詞だよ」
「え、一体何が……―――ゴハァ! ゴホゴホ、ゴガゴッフェ!!
なんなんですか!? どうしてですか!!? え、どうしてこんなに私の口が苦くて堪らないんですかぁ!?」
「ちょっとマシュ! そんなどうして、さっきまで平気だったのに!?」
一難去ってまた一難。身内からの障害によって危機に陥っているような気もしないではないが、忍びは元気に回復したマシュを見てとても安心した。そう思うことにした。
「………良薬は、口に苦し」
証拠を隠滅するように傷薬瓢箪をそっと腰に下げて隠す。忍びは全く以って忍びらしく、父から子へ引き継がれるように卑怯者なのだ。しかし、そこまで苦いものなのかと今になって疑問に思った。忍びはこれを下さったエマ殿の、良薬はむしろ苦いほど良いと言う薬師の拘りを垣間見て昔を懐かしく思い、同時に瓢箪に染まった自分の味覚が怖くなった。
そして、彼は知らないのだ。剣神の領域に達した無の境地がなければ、もはやその苦味は精神が耐えられない地獄なのだと言うことを。
『狼君、マシュをからかうのは程々にね』
「……否。揶揄などせぬが、承知。心掛けよう」
何時もと変わらぬ無表情……ではなく、眉間に皺を寄せた忍びが以後気を付けようと決意した。そして、いざと言う時は躊躇わず使うと言うことも忘れずに頭へ記憶させておく。
「おう、所長さん。オレとしちゃ、休憩はこんなもんで良いだろうと思うんだけどよ。そっちはまだ休み足りねぇかい?」
「う~ん……まぁ、良いかしらね。マシュの疲労も隻狼の御蔭で回復出来たし、十分と言えば十分以上かしら。藤丸も極限状態から離れながら結構休めて、精神的な衰弱も人と話せたので良くなったしね。
ディール、貴女達も良いでしょう?」
「勿論ですとも。何時でも大丈夫です」
「しかし、まぁなんつぅか、結構アンタらって愉快な奴らだよな。戦場のど真ん中で笑いが絶えないとはね、生まれ故郷のあいつらを思い出すぜ」
「いやね、それって私たちカルデアがケルトみたいってこと?
カルデアも戦争屋をやってる所は十分ありますけど、あそこまで戦狂いじゃないわよ。まぁこの状況ですから、ケルトの戦士のような勇猛な方はとても大歓迎ですけど」
「言うじゃねぇか。けど、そう言う人を食った言い方が、アンタをケルトの女戦士っぽくしているんだと思うぜ。オレが話をしていてもそう感じるんだ。
カルデアの他の連中からすりゃ、怖いアンタのこと、結構ビビっていたんじゃね?」
「否定はしないわよ。VR訓練が充実してたから、新しく来た私を……マリスビリーよりオルガマリーが劣っていると侮ったマスター連中を、まず殺してからプライド圧し折ったしね。色んな分野で有能性を示し、中でも得意とする戦闘訓練では特にね。特異点の詳細が分からない状況ですと、カルデアはそもそもマスターが特異点で死なない程度に強くないと、幾らレイシフトが出来た所で無価値だったもの。
だからそう言うの、ぶっちゃけとっても好きなのよ。私もそうやって心も体も圧し折られて強くなったから、皆もそうされて、され続けて、今よりも強くなり続ければハッピーに成る筈だものね」
「はっはっは、そりゃ正しくケルト魂だ」
「……そうなの?」
「あぁ、そうだぜ」
所長は、人間を極めたと言う意味では英霊と等しい存在だ。彼女が持つ狩りの業は、それこそ人類史の中でも最上位に位置する殺戮技巧となる。強い弱いは関係無く、須く生物は内臓を取られて死ぬだけだ。相手が神だろうと、何ら関係無く死ぬことだろう。サーヴァントになって所長と同じ領域であり、下手をすれば業だけでより上位の存在も殺せてしまう狩人だ。
クー・フーリンはもしかすれば、あの魂が腐った女神さえも殺せるかもなと思いつつ、その自分の直感を疑わなかった。何故なら、戦士としての彼がこの女の何もかもを侮るなと訴えていたからだ。命を奪う純粋な殺戮だけではなく、死なぬ化け物も一度死なされれば恐らく確実に殺される。そう思わせる歪な存在感がオルガマリーには有った。
「そっか。うん、じゃあケルトも良い所なのね」
「そーだぜ。姉さんみたいな人が生き生き出来る世界だ」
横で聞いていたディールはそうかなぁと思ったが、取り敢えず笑うだけにしておいた。確かに、オルガマリーはマリスビリーとはまた別系統の有能性の塊であったカルデア所長。恩師の娘があんなにバイオレンスな訳がない、とかキリシュタリアが簡単に要約するとそんな事を喋っていたのも思い出し、しかしカルデア職員ならば仕方がないと諦めていたのも知っている。何よりも、彼女は彼女自身が怪物なだけだった訳じゃない。
人の働きをつぶさに見抜き、その人格と人間性まで把握し、人間を職務に対して効率100%で徹底して労働させる眼力。自分よりも自分が専門とする仕事を完璧以上にこなし、その上で自分の事を自分以上に理解して命令を下す事が出来るあの深く澄んだ瞳。下で働く人間からすれば、悪夢のような上司がオルガマリー・アニムスフィアなのだ。権力、能力、人格、そして理不尽さが絶妙なバランスとなっていた。そして、そのオルガマリーはコミュニケーション能力も不可思議な程に高く、理不尽だと畏怖されるのに一切逆らう気にさせない奇妙な存在感さえあった。ヤバイ、コワイ、エグイと言われることはあれど、性格や仕事ぶりを陰口されることも無い程に、まるで宇宙のように暗く深い器がカルデア職員の精神を鷲掴みにしていた。
「それでキャスター。貴方が確認する限り、敵の残りは?」
そんなディールの思考も余所に、二人の話は進んでいた。
「黒くなった後で死んでるのを確認出来たのは、まずランサー、バーサーカー。後は所長さんが殺したって言うライダーの三騎だな。
んー……でま、残るはキャスターのオレと、セイバーとアーチャーとアサシンだ」
「成る程ね。そうなると、未だ隠れているアサシンが一番危険ね」
「だな。サーヴァントより弱い人間からするとそうだろうぜ。なんで、所長さんには余り問題はない相手だ。殺される前に気配に気が付いて殺し返すなんて多分だけどよ、その業を見れば慣れてんの分かるしな」
「はぁ……やり辛いわね。私の業を見抜くなんて、そこのアン・ディールくらいしかしてこなかったけど、英霊にもなるとその鋭い眼力が特別じゃないのかしらね?」
「人によるぜ。けれどもよ、アンタはちょっと血生臭いわな」
「むー……ま、良いわ。課題にする」
「そうかい」
「あぁ……いや、ごめんなさい。そう思えば、話を逸らしちゃったわね。どうも私って長話をする傾向があると言うか、どんどん違う話題も出してしまうのよ。謝っとくわ」
「いや、そりゃこっちの台詞だ。アンタみたいな気の強い美人さんと話すのは生前から結構好きだしな」
「あら、そう。ふふ、男にちゃんと女として褒められたのは久しいわ。ありがとう、クー・フーリン。
―――で、戻すけど、敵は何処?」
「―――柳洞寺。勿論、案内するぜ」
「感謝するわ。出来る男は格好良いわよ」
「へ。こりゃまた一本取られたか。ま、アンタみたいなのが召喚してくれりゃ、オレも楽しく戦争出来んのにな」
「カルデアは何時でも貴方を歓迎します。職員一同、盛大にね」
「ハッハッハッハッハッハ!!
死んでからも愉しめるとは、全くこれだから英霊ってのは面白い!!」
「…………」
静かに忍びは
―――仮の拠点を出れば、そこは地獄のままだった。
忍びは……いや、狼と言う一人の男は戦火によって火の海に沈む街並みを見て、義手に燻る修羅の火種が怨嗟のまま憎悪を叫ぶのを聞いていた。怨嗟の炎を飲み乾して修羅を超えるが、人の世がそうであるように、狼の中で積もってしまった業が消えることはない。確かに、成り果ててしまった仏師殿のように、人間が焼かれる苦界から生まれた怨嗟の積もり先にはならずとも、それでも自分自身が積もり続けた怨嗟は自分に積もるしかない。修羅にならずとも、それだけは逃れられない。殺し極めた故に、今でも怨嗟を纏う狼は、その刃に念を纏わせて人を斬ることが出来るのだから。
「…………此処ね?」
「おう、此処だ。この洞窟がセイバーの根城になっている」
「セイバーのサーヴァント。騎士王、アルトリア・ペンドラゴンですか……」
「……不安なの、マシュ」
「はい。相手は伝説のアーサー王ですから」
無菌室で暮らしたマシュにとって、書物は生活の一部であった。世界中の神話、伝説、伝承を読み漁り、有名な小説もほぼ読破した過去を持つ彼女にとって、アーサー王伝説とは身近に有りながらも、最も遠い世界だった物語である。
「おいおい。弱気になるなって。オマエらには頼もしい仲間に加えて、このクー・フーリンが付いている。そう思っとけ」
「そうですね……はい―――その通りです!
あの伝説のクー・フーリンさんが味方なんですから、弱気になる方が失礼ですものね」
「そうだよね。確か、ウィッカーマンでしたっけ。あの巨大ファイヤーロボ、凄く強そうだった」
意味も無くテレビで見た某ロボットアニメ、あの機動戦士を思い出した藤丸であった。
「いや坊主、ありゃロボなんて気前の良い品物じゃねぇが、まぁ宝具としちゃ似たようなもんだ。なんであれ、相手からすれば巨大兵器だからな」
「え、そうなの?」
「おうよ。ぶっちゃけ、ありゃ罪人を中で纏めて火刑にする処刑器具だ」
「―――OH」
「そんな顔すんなって。オレが好き好んで人を焼き殺して宝具になった訳じゃねぇ。
ありゃ
その刹那、全員が悪寒を感じた。まるで眉間に銃口を突きたてられているかのような、しかし狙撃兵らしくなく殺意に満ちた視線が洞窟前の辿り着いた皆を貫いていた。
「主殿……敵が……」
「そうね。多分、こいつ―――」
「―――おう。出て来いよ、アーチャー!
テメェらしくもなく背後から不意打ちで矢を撃ちもせず、どう言うつもりなんだ!?」
森から出て来たのは、黒く汚染された男だった。褐色の肌に白い短髪のその姿。武装しておらず徒手空拳であるが、キャスターが言った通り冬木で生き残っているサーヴァント―――アーチャーであった。
「戯け。気付かれていたからだ。貴様も、そちらの忍びが気が付いた事に気付いたから、私を注意出来たのだろう?」
「うるせー野郎だ。呪われた所為で、厭味も皮肉も鈍ってるぜ」
「善処しよう。ならば、貴様は特に煽ってやる。今から何と呼べ良いのかね、番犬……いや、牙を抜かれてキャスターになった貴様なぞ、犬ですらないかもな」
「……訂正する。やっぱテメェは変わらねぇ贋作野郎だ。その皮肉も、どうせ誰かの口癖でも真似てんだろ?」
「ほう―――ならば、此方も訂正しよう。人に噛み付くその様、やはり貴様はキャスターだろうと何も変わらない」
「―――っち……やっぱ、とっとと戦って殺しておくべきだったぜ。今までコソコソ隠れやがって、逃げるのだけは巧い野郎だぜ」
「まさか。逃げ足の速さは貴様に負けるさ。私は単純に、貴様よりも兵士として賢かった。それだけだ」
「「………‥ッ――――――!」」
「おっと……これは、あれですかねぇ」
ああ、懐かしき殺し合いにおける煽り合い。ディールにとって殺人は遊戯に等しく、殺し合いは娯楽であった。様々な工夫を凝らした殺戮技巧と、刺激的な死に飽きぬよう如何に相手の感情を湧き立たせるか、色々と創意工夫した過去が本当に懐かしい。殺した相手の死体に糞団子を投げ付け、串刺しにした敵をやれやれと呆れながら追撃で殺し、コロシアムのように霊体を召喚して人と人を殺し合わせる事を娯楽にする人でなしを大弓で狙撃したり、大弓やフォースで人を奈落の底へ突き落としたりと、まぁ色々とディールは徹底した
あぁ言うのは、何だかんだで無機物的な感情に血が通って面白かった。
しかも見た雰囲気であるが、あの二人は知り合い同士となる。そこから更に見抜くと、どうやら互いに互いを幾度か殺し、殺された事もあるようだ。彼女の個人的な信条ではあるが、キャスターが手伝って欲しいと言えばその娯楽に参加するのも楽しく、逆に一人で相手を殺したいのであれば後ろでワイワイ応援するのもまた一興。はっきり言って、アン・ディールは人でなしの屑であった。無論、本人も自覚のある腐れ外道である。
「すまねぇな。アンタら、こいつはオレが殺すぜ。先にそのまま進んでくれや」
「ああ、私からもその方が有り難いと言っておこう。全員で挑むのであれば、こちらも道端の英雄らしく決死の覚悟が必要になるからな。
洞窟の入口―――爆弾を仕掛けさせて貰った。
そして、その場合、洞窟を崩壊させた上、私自身は逃走しつつアーチャーとして狙撃戦を選ぶとしよう」
「そー言うこった。時間稼ぎをこいつにさせると、あー……これから相手するオレが言うのもあれだが、かなり巧いヤツだ。
戦術家としては、そこそこの腕前だったからな」
「ふむ。お褒め頂き恐悦至極、とでも言っておこうかな、キャスター」
「ぬかせ、アーチャー。仲間と情報は正しく共有しなきゃなんねぇだけだ―――って、訳だ。ここらで短いお別れにしようや」
現状を把握した所長は、その途切れぬ思考回路が直ぐ様結論を出す。一切のタイムラグなく、彼女はキャスターへ返事をする。
「―――良いわよ。
でも、確実にそのアーチャーを狩ってよね。こちらはアーサー王に専念しますので」
「ははははは、怖い所長さんだ。さ、行きな!」
敵の交渉に乗るのは癪だったが、こちらが相手を殺す前に逃げられると流石に面倒だ。爆破で入口を塞がれるのも以ての外。土砂崩れでも起こされると、入るのに時間も掛る上、その間もアーチャーを警戒する必要有り。よしんば入れても、洞窟内で挟み打ちをされるのも分かっていればそこまで怖くはないが、その程度のことはアーチャーとて分かっていることだ。
そして、アーチャーも全員がセイバーの元へ行くのは防ぎたい。中でもクー・フーリンは知った顔である故、その厄介さも良く知っている。取り敢えずは、まずこの男は仕留めておきたいと考えていた。
「―――さて、これでテメェの望み通り一対一だ」
全員が洞窟に入った事を気配で確認し、キャスターは杖をアーチャーに向けて改めて構える。
「そのようだな。いやはや、まさかあれ程の戦力を貴様が整えられるとは思わなかったが……まぁ、良い。まずはこの厄介事を済ませれば、それで良い。
セイバーと宝具で挟み打ちをすれば何人か殺し、そこからは済し崩し的にどうとでもなる事だ」
「相変わらず、せこい事を考えてやがるな」
「効率的なのさ。人を殺すのなら、その方が良い」
「そうかい、分かったぜ。だったらよ―――テメェもそうやって死に果てな……ッ!」
「もはや語るべき事もなし。貴様の見飽きた顔を見るのも―――おさらばだ……ッ!」
激突するキャスターとアーチャー。その因縁の戦いは一秒ごとに激しさを増していき、ルーンと矢が幾度も交差する。
しかし、闇の中―――暗殺者が一人、姿を隠して戦いを見守っていた。
読んで頂き、ありがとうございました。