血液由来の所長   作:サイトー

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 今年も、明けましておめでとうございます。


深淵死滅亡国「アシナ」
啓蒙77:オーバード・ナイト


 近代葦名街に建てられたビル、その一室。サムライホテル葦名の最上階、スイートルーム。そこのサウナから出た灰は水風呂に入り、広いバルコニーで外気浴を行い、またサウナに入る。それを繰り返す事、三回。冷蔵庫で冷やしておいたキンキンのジーク印のビールを取り出し、一杯一気呑み。

 細胞の一つ一つまで癒しが廻る淡い刺激。

 この為だけに生きている―――と、灰は人理の世で得た人間性によって生を実感した。

 

「クーゥゥウウ、美味いですねぇ……ふふふふ」

 

「マスター。どうも、お疲れだったようですね」

 

「勿論。とても、とても、です。ローレンスさん、貴方も一風呂どうですか?

 サウナは良き文明の一部です。発展した人類種の娯楽文化は、人の魂を癒す素晴しき業でしょう」

 

「結構です」

 

「何とも勿体無いですね。この部屋、100ソウルですよ。

 そこらの人間を百人虐殺しないと楽しめない部屋なのですから、命はちゃんと有効活用しないといけません」

 

「医療教会に血風呂がありますので。良い趣味をした英霊のデーモンを狩れまして、少し彼女の宝具を改竄して風呂場を作りました。ガスコインの娘にも、脳に良いからと使わせていますよ。

 まぁ兎も角、此処でしたら、英霊のデーモンを一匹殺せば百日以上は泊まれるでしょう?」

 

「それはユビさんへの、重めのヒーリングハラスメントです。略してヒーハラは程々にですよ、ローレンスさん。どうせその血風呂、産業廃棄物になった罹患者か、肉塊になったキリエライト素体の生き血でしょうし。世の中、死に続けるより辛いこともありますので。

 ……――あ、チェックメイトです。

 ふふ、この度は私の勝ちですか。碁盤遊戯は直感的に戦えないのでもどかしいですが、やはり勝利は素晴しい快感です」

 

「何と。私の負けなようですね、マスター」

 

「では、勝者としての質問です。何故、私に負けたか分かりますか?」

 

「さて、何故ですかね?」

 

「貴方が―――弱いからですよ」

 

「ハハハハ、手厳しいです。しかし、真理です」

 

「無論この私も、私より強い人間と比較すれば、実にか弱い女性と言う訳です。尤も、獣的な話ですがね」

 

「皮肉好きも極まれりです。少しは、脳も可愛らしくなられては?」

 

「こう見えて、我が脳と魂はアイドルを理解可能です。なら充分、中身は可愛いと言えるではないでしょうかね」

 

「そうですか。あ、そこの一本、頂いても?」

 

「どうぞ。一本と言わず、好きに吸って下さい」

 

 スゥゥウと教区長は煙をとても深く吸い、スパァと内臓ごと吐き出すように煙を出す。表情は変わらずとも瞳は恍惚した色を現し、脳に啓蒙が溜まる実感を得た後、生きる意志が湧き出る。

 煙草は素晴しい。体にも、脳にも、意志にも効く。

 何事も心が一番。快楽が脳髄を癒し、思考に効く。

 

「ではもう一勝負、しますね。はい、します」

 

「拒否権は無しですね、マスター」

 

「無駄話を続けるとなれば、無駄話以外の暇潰しもするのが良いのです。人狩りと同じですよ。ただ獲物を殺すより、好きな得物で狩った方が愉しみが増えます」

 

「成る程。ではまた勝負をしますか。しかし、今度はチェスではなく、将棋にしましょう。

 折角の日本、その葦名です。日本文化が伝わるカインハーストに将棋は有ったかもしれませんが、ヤーナムで私はした事がないので新鮮なのですよ」

 

「将棋ですか……まぁ、構いませんよ。好きですから」

 

 遊び道具をソウルに仕舞い、今度は将棋盤を出す。二人は再び盤上での戦いを始め、思考の潰し合いを行い続ける。

 

「それで医療教会葦名支部は如何ですか?」

 

「順調です。ソウルの業も教えて頂きましたので、根源が作った魂の原理は解明されました。人の上位者化のメカニズムも把握出来ましたし、悪魔と狩人も素晴しい情報材料です。

 何より、良いのはキリエライト素材です。今の人狩り部隊は彼女らを基にしたデミ狩人ですからね」

 

「感謝して下さいね。私がアニムスフィアに協力した報酬として、デミ素材の遺伝子マップをマリスビリーさんから貰えたのですからね。尤も、サーヴァントの呼び声となるソウル精製は私の研究結果ですがね」

 

「其処らで殺した人間の魂を、キリエライトの魂を生成する材料にする技術ですか。実に冒涜的な考えです」

 

「それも出来ますが、今は狩ったデーモンのソウルを使ってます。霧から自然発生しますので、ソウルを作るのには良い材料です。

 それと、葦名には魔女のダルクさんと暗帝のネロさんも来ています。好機がありましたら、人体実験に使ってみても良いでしょう」

 

「ほぉ……―――宜しいので?

 あの二人、オリジナルキリエライトと同じく、貴女のお気に入りでしょう?」

 

「あらあら。その語調からしますともしや、私がキリエライトさんを教会から逃がした主犯格ってバレている様ですね?」

 

「過去視封じはされてましたが、医療教会は私の魔術工房ですからね。言わば、臓腑の中であり、脳が知覚する外部体躯です。

 全く以ってソロモン王には感謝ですよ。良い遺志であり、良き文化を後世に残して頂けました。私のような学術者が尊敬する数少ない英霊の一柱です」

 

「キリエライトさんの件は私が頼んだので、ユビさんに当たらない様にお願いしますね」

 

「勿論ですとも。代わりに、今は医療教会の孤児院で子供の面倒を見る時間を与えています」

 

「うわぁ……―――酷いですね、凄くとても。絶対に彼女、憐れな孤児に愛着を持ちますよ?

 ケレブルムはちゃんとした人間性を彼女に与えてますから、そんな症候群罹患者の孤児の面倒を見たら、結末が分かり易過ぎます」

 

「悲劇に絶望するのが、正しい人の心の働きと言うものです。あの狩人の眷属ですから、冷たい血の女だと思ってましたが、いやはや……まぁ、それも人生です。

 生前、私は子供の悲鳴は聞き慣れましたし、彼女もきっと大丈夫です。それに人の思索がしたいのでしたら、子育ては有意な時間になるでしょうしね」

 

「命の授業と言う訳ですね。狩人が、未来で自分が狩ることになる獲物を育て、自分の愛情も込めた血の遺志を頂くと」

 

「人の尊さと命の貴さを悟り、知り、学ぶ。一人の大人として、彼女には立派な人間性を得て欲しいのです。

 家畜を屠殺して金銭を得るのが素晴らしい仕事である様、狩人が獣を狩って教会から賃金を得るのも社会貢献となります。職務に弔いの意志は持つのは素晴らしいですが、それは己がその手で殺す相手の遺志を継ぐ覚悟が無い無能がしても無価値な人間性ですので」

 

「―――で、何時ですかね?」

 

「まさか。意図的に、私からは何とも」

 

「本当ですか?」

 

「本当ですよ。ただ、そうですね……アゴニスト異常症候群が悪化した孤児が暴走し、他の孤児を殺戮する何て事故が起きるかもしれません。

 あぁ、何と言う悲劇でしょうか。物語としてはありがちな三流脚本ですが、神が思い書く世の中と言う脚本はそう言うものです。もしも、もし不慮な事態が起きれば、ガスコインの娘が愛情を込めて育てた子供達が、子供同士で血肉を喰らい合う事になるでしょう。まぁ、只の可能性の話です」

 

「確かに。可能性の話ですね。ですがケレブレムの視点ですと、良い経験になると思索を喜ぶので、貴方の悪意にとても感謝することでしょう」

 

「ウィレーム先生は下品だと嫌いそうな思索ですが……はぁ、私も好きではないですがね。ただ、そう……血に酔うと、愉しめると言うだけです」

 

「じゃあ、ヤっちゃいましょう」

 

「おやおや、おや。引鉄(ひきがね)を引くのですね?」

 

「はい。絶望は良い経験です。人間性を強くします。悲しみを知る人は、悲しみに沈む誰かへ優しく出来る人に成長するでしょう。

 カルデアの藤丸立香さんの人間性が強く在る様、ユビさんも強く在って欲しいのです」

 

「素晴しい善意です。きっと、人理も御悦びなる事でしょう」

 

「当然ですよ。人理を夢見るこの星と、その星に作られ育った人類種に、私は今の人間性を啓蒙されたのですから。

 しかし、神の様な欺瞞は御免です。貴方の方から、子供達に希望の未来が一切無い事は伝えておいて下さい。心の底から絶望を納得出来る様に、誰かの為に生きる日々の幸福が、憐れなる死へ辿り着く道でしかないことを」

 

「分かりました。地獄への道は善意で舗装されている……と言う訳ですね?」

 

「その通りです。ですが、それもまた人間性です。子供に未来など人理も人道も許さないと言うのに、憐れなまで可愛らしい子供をユビさんは愛さずにはいられませんからね」

 

「承知しました、マイマスター。演劇は早目に開いておきます。あるいは根源より因果律を操り、特異点に来たカルデアのマスターとガスコインの娘を合流させ、その時にでも見せますか?

 あの少年は抑止によって獣狩りの運命に囚われています。実に、可哀想ですがね。

 孤児達はきっと、彼の心を鍛える程々の悲劇には丁度良さ気な生贄に為り得ます」

 

「そこまでの下拵えは要りませんよ。藤丸立香さんには不要な善意です。どうせ、これからの悲劇には耐えられる人間性に成長しますので」

 

「あぁ確か、貴女が接吻をしましたからね。何とも、悪徳な使徒です」

 

「まさか。私は所詮、善意の他人ですよ。しかし、だからこそ運命に抗う人の魂の本質を、彼は理解出来ることでしょう。座に蒐集された集合無意識と言う欺瞞の奴隷、その英霊共の魂よりも強く、絶望に立ち向かう心の強さを手に入れることです」

 

「それは素晴しい物語です。その主人公ともなれば、アヤラが座に惹き入れたくなる程に魅力的でしょう。駒を従えさせる贄の駒には丁度良い存在です。

 ところでマスター、こんな話は知っていますか?」

 

「良いですよ、聞きます」

 

「夜の寒さに凍える子が一人、独りになって家で留守番。父と母はおり、しかして父は獣狩り。殺戮の夜、路地は血に濡れ、広場は火炙り、処刑人と人攫いが出歩き、犬さえ人肉に餓え、烏は屍を突いて肥え太る。子を守るべき母は娘に男を愛する女の貌を見せ、そんな夜に置き去りだ。

 さてはて、女だったのか、母だったのか、どちらを重く愛していたのか。

 悲劇を語る際、悲しみの素材となる命の方向性が大切だと思うのですよ。

 それと同じく、私が扇動した部下は子供に血を流し込み、時には切り刻み、医療の発展に尽くしました。私は孤児院の子を親として愛し、だから素晴しい思索を得て欲しいと考えてました。

 何より、実は私―――童貞ではないのですよ。

 神の血を拝領するならば、処女か童貞であること大切だと思ったのです。だからこその孤児院なのです。他の精が交らない清らかな血にこそ、上位者の精は良く混じるのではないかと思ったのですよ。

 結果、特に関係はありませんでしたね。滲む血は、ただ血に適した胎盤が良く、聖女に処女性は要りませんでした。私は穢れない孤児の血を愛しましたが、私の愛に価値はありませんでした」

 

「分かり易い話ですね。ケレブルムは狩人となる前、童貞だったと思います。殺してソウルを味見しましたので、過去は知ってます。相手も同じですが」

 

「悲劇ですね。人間として考えた場合、彼はガスコインの娘と同じ、子供ですよ。女と交じり合う前の、童貞の子供です。性欲の自覚すらない感性です。親から子供として愛されず、女から男として愛も向けられず、だが愛を必要としない優れた人間性を得ているのでしょう。

 瞳で見た雰囲気、生まれは奇形の忌み子でしょうね。体格は早熟だったので、若くして古都へ旅立ち、辿り着く体力があった大人に保護されるべき子供。

 血の医療で遺伝子異常が治り、ある意味で生まれつきの獣が、狩人と為って人へ為る訳です」

 

「狩人が、羨ましいのですか?」

 

「はい。その境遇こそ、彼が今の彼に進化する土台となる過去です。知性に欠けた白痴で在りながら、生まれながらの高い知能こそ、学術者として最高の理想なのです。

 結果、獣血も啓蒙を得て、寄生虫も蛞蝓も蕩け、彼は狩人として完成された。もはや神々しいまでに脳が次元そのものと化し、月の血は人類種の進化に還元された。

 我等の邂逅、我等の悪夢、全てが正しかった。ならば、全てが善き惨劇だったのですよ。勿論、道徳としては論外ですが―――幸運で、幸福な、地獄でしょう」

 

「ふふふ……―――幸福とは、拘束です。人生が、その今に囚われます。

 人は不幸で在らねば自由に為れません。その不幸が旅に出る自由を狩人に与えました。人間性が無限の可能性を得るには、人の魂は地獄で在らねばなりません。強い心の持ち主が不幸を得た時、人間性は真なる自由を啓蒙されるのです。

 なのでローレンスさん、今の貴方は残念ながら幸福なのです。

 研究と実践、神秘の探求、耽美なる学術の日々。幸せが選択肢を拘束し、欺瞞を真実だと錯覚させます。貴方は医療教会と言う幸せから逃げられない状態なのです」

 

「――――……あぁ、それは確かに。確かに、そう在る人間性です。

 ならばマスター、私は棄てるべきなのでしょうか。これしかないと思う事が、折角の啓蒙を殺すのですか」

 

「はい。私は、何物にも為れない私なのです。価値を持つ事が幸福であり、だから私は自由を以て己が人生が自分以外に無価値である真実を証明します。

 殺す為に殺す。その価値からも脱して下さい。

 救う為に救う。無私すらも虚構と為り得ます。

 だからね、この葦名は誰もが自由な儘に存在できるのです。欺瞞を失うとは、過去と未来の幸福を捧げる昔の自分の遺志なのです」

 

「思う儘に、在るのですね。私は医療教会を大切に思うから、人間性の儘に大切にするのですね。様々な理由付けを理解した上で、感じたその思いを受け入れる自己への肯定。

 何か分かる様な気がします。生前、私は目的に辿り着けない事を不幸だと感じてた。

 だが不幸とは違う……そうだった。そうだった筈だ。何故、私は知りたいと希ったのか。神秘を知り得る必要もなく、私は私だ。人間だった。衝動だった。走らずにはいられなかった」

 

 教区長の人生、自分以外の人間には無価値だった。求める真理さえ、人類にとって無価値だった。

 

「私にとって私の人生は……善いこと、だったのですね?」

 

「―――はい。貴方は善い人生を歩みました」

 

「でしたら、死後の余生は―――在るが儘に」

 

 パチン、と彼は将棋の駒を盤に置く。それは素晴しい思考より生まれた戦術であり、灰を防戦に回す切っ掛けとなる神の一手だった。

 

「愉しんで下さい。その魂が、自分で在ると言う絶対の事実だけはね」

 

 遠くを灰は見た。いや、特異点の全てを知覚した。理解し尽くし、未来を見通し、だが素晴しい魂は宇宙闇黒よりも暗く、何一つとして見通せない。世界を手に入れても、己の不幸を愉しむ自由な人間性は支配出来ない。教区長の人間性を自分らしく祝福し、この地獄を魂の儘に生きてみようと普通に思った。特別な覚悟も、幸福な未来も、輝ける希望も、願いの成就も要らず、本当にただそう考えた。その思考の果て、何時も通りに葦名を滅ぼす為に呼んだ女を盗み見る。

 ―――ORT(オルト)と古い獣のソウルが混ざる結晶森林。

 上空から日本国首都『葦名』に潜入出来なくなり、栃木と茨城の北部は全てが腐れ毒沼に沈む。その沼地を抜けても対空砲火と対地砲火が十全に装備された戦線防壁に覆われている。関東南部から葦名へ歩きで進むには、どうしても魔物が住まう森林を抜けるしか無く、葦名は封鎖されてしまった。しかし、脅威はそれだけではない。

 第二次世界大戦、史上最狂の爆撃機乗り。

 ドイツの大英雄、ソ連兵殺しのルーデル。

 抑止力によって葦名で召喚され、アームズフォートを宝具の爆撃機により単機撃破したサーヴァントであったが、彼は現行文明を殲滅する程の異聞帯兵器と相打ち、死に、そのソウルは灰らに簒奪されてしまった。即ち、葦名上空はドラゴンの他、量産されたルーデル式爆撃機「葦名昂号」が飛んでいる事となる。ローレンスが教区長に就く葦名支部医療教会による人狩り部隊は、兵器使いとしても運用されており、飛行要塞とも形容出来る究極の爆撃機が葦名の上空を守っている事となる。

 

「遂この前までは、こんな森林なかったんだけど……―――えぇぇえぇ、何でこんな事になってんでしょう?」

 

 沼地から湧く奇形の化け物。森林に潜むオルト魔獣。戦線防壁は怪物らが首都に来るのを防ぐと同時、グレートウォールと言う蹂躙兵器は森林も沼地も気にせずに関東平野を爆走し、魔獣も化け物も走り殺す地獄となっていた。

 

「さぁ?」

 

「何か、爆撃機も飛んでますよ?」

 

「サーヴァントの宝具を模したのだと思いますよ、ダルクさん」

 

「そうね……ちょっと見ない内に、森は出来るわ、沼は湧くわ、防壁が築かれるわ……はぁ、スピード感が凄過ぎて付き合い切れないじゃない?

 貴女が葦名街から逃げた時だと、まだ三つとも無かった筈よね?」

 

「地上殲滅用の爆撃機も無かったと思いますよ。挙げ句、あの爆撃機、あの人のパクリでしょうし」

 

「パクリは駄目じゃない。邪魔なACはぶっ壊したってのに、そのACやAFを破壊した魔王様の愛機を、こんな風にリサイクルするとかちょっと鬼畜外道過ぎる」

 

 パチパチ、と焚火の薪が弾ける音。重厚な鎧を着込む盾騎士は、篝火に火掻き棒を突っ込んで火の調整をする魔女へ、とても胡乱気な瞳を向けた。

 

「本当、カルデアから来るのですか?」

 

「大した未来視出来ない雑魚眼の盾ちゃんは疑っちゃ駄目ですよ?」

 

「直ぐ、煽ります。育ちが出ますね」

 

「アハハハハハ。良い環境で育った自覚はあるわ。自由に伸び伸びと、レイプ魔のクソブリテンと、裏切り者の腐れた王国民に復讐しましたので。

 思えば、それが魔女の原典ですね。大人になる前に、子供な私はカルデアに殺された。

 キリエライトはどうかしら。煽ったの、貴女なのだから、その育ちって言うのを無知な私に教えて下さる?」

 

「では、脳を開いて下さい。良い機会ですし、私があの女を恨む理由を見せましょう」

 

「ん~……じゃ、教えて」

 

 魔女の視界に夢が映る。夢の光景の中で見る映像内にて、星見の狩人は実に御機嫌良し。鼻歌を吟いながら、踊るようにカルデア職員を殺し回っていた。

 

『――……ふん、ふん、ふんふん……ふん、ふん、ふんふん。

 ふふふんふん、ふふふんふん、ふふふふ、ふうーふうーふぅ………』

 

 怒りの日。即ち、人が世界を灰塵へと帰す運命の日。

 

『ふふん、ふ、ふ、ふぅ―――……はぁ、夢のような素晴らしさ!』

 

 だが、鎮魂歌にしては血生臭く、何より雑過ぎる。

 

『狩人とは、やはり血に酔ってこそだもの。ならば、流血なくして悪夢に目覚めなし』

 

 カルデアの技術で作られた監視カメラの映像解析度は肉眼のようにくっきりとし、集音機能も高いので小さな独り言も聞き取れる。

 

『どうして……どうして何故です、所長―――!?

 私たちは貴女だったから……貴女だからこそ此処まガヒョ―――!!」

 

 短銃より放たれた水銀弾が、職員の頭蓋骨を木端微塵に粉砕する。

 つまり、彼女は部下を―――殺した。躊躇わず銃殺してしまった。

 

『うわぁぁああーーー!

 いやだいやだ、や、やめ、やめて下さ―――!』

 

『うわぁぁあああああああああ!!』

 

『裏切り者、裏切り者!!』

 

『止めて、止めて! どうか、殺さないで下さい!!』

 

 散弾銃の銃口を顔面に押し当て、射殺。

 腹部に手を入れ、内臓を鷲掴み、惨殺。

 愛用の曲刀で膾切りを繰り返し、斬殺。

 火炎放射器で生きたまま火炙り、焼殺。

 怨念が廻り入る車輪を振り回し、轢殺。

 墓石付きハンマーを叩き下ろし、撲殺。

 

『宇宙は空にある! あぁ、血みどろな心、粘りつく気!

 我らの呪いが海に還るなら、きっと深海にカルデアは沈むのね!!』

 

 歩き、狩り、殺す。視界に映る生命全て、狩り尽くす。

 

『だから、だからね……マシュ。貴女は、きっと普通に生きるの。貴女はもう、星から解放された。

 自由に生きれば良い。魂に従い、在るが儘、夢から目覚めて獣性を棄てる時が来たわ』

 

 血に酔った善き狩人だった。死に酔う良き狩りだった。正しく、ヤーナム。正しく、獣狩り。素晴しいと言う形容がこれ程に似合う惨劇はない星見の狩り。

 ―――これが本当のことだった。

 こうしてキリエライトのカルデアは滅ぼし尽くされた。

 思念に乗って憎悪が伝播し、盾騎士の怨念の記憶は魔女の脳内に入り、脳細胞を死滅させる様に広がり、その時の映像がイメージとして啓かれる。

 

「私が此処にいるのは、そんな感じです。これで満足ですか、魔女のダルクさん」

 

「ま、聞きたいことは聞けたし、満足っちゃ満足よ。でも、その哀れな(ザマ)、ぶっちゃけ如何にか何ないの?

 私が言えたことじゃないけど、負け犬臭くて堪んないわ……マシュ・キリエライト」

 

「―――訂正を。その名は棄てました。

 キリエライトと、ただそう呼ぶようにして下さい。次にその薄汚い呼称で私を呼べば、貴女の脳漿を盾で撒き散らします」

 

「はいはい、キリエライト。アンタとは殺し合いたくないから、絶妙に煽るだけにしとくわ」

 

「相変わらずの構ってチャンですね。少し、大人になったら如何でしょうか?」

 

「イヤよ。復讐者ってのはね、承認欲求の塊なの。我が報復、此処に在り……と世界に刻み込まないと、何一つ憂さが晴れないでしょう」

 

「―――フン。そんなだから、無様に魚類貌の男に踊らされる。

 自分自身の憎悪ではなく、ブリテン生まれの塵雑巾に強姦(レイプ)されたオリジナルを自分の記憶と思い込み、無価値な所業を特異点で為すのですよ」

 

「あっそ。でもね……―――最高(サイッコォオウ)に、復讐は愉しかったわ。

 復讐者は憎悪しなければ呼吸さえするのに苦しくて、何もかもが憎くて堪らない。誰が憎いのかも、最後には分からない。

 でも、でもね…‥私は侵略者を存分に―――鏖殺(コロ)したわ。

 その後に行ったフランスに対する復讐は、復讐者としてはオマケよ。

 憎くて堪らないし、殺さないと自分が死にたくなったけど、本来この手で殺すべき相手は残さず殺したものね!」

 

 キリエライトの義手が握り込まれる。積もった怨嗟が頭蓋骨の模様となり、人を狂い殺す呪詛が流れ出た。

 

「貴女達のような、生きる価値の無い屑がいるから……」

 

「いるから、なに?」

 

「……結局、私もそうだから、誰も救えない」

 

「そうよ。殺人相手がサーヴァントだろうと、殺人は殺人。憎悪を以て戦えば、命を愉しむ人殺しなのよ。

 きっと藤丸は貴女を慰めるけど、あいつ自身は自分は罪人だと断じて戦うでしょう?」

 

 皆殺しにされた。一人残らず、誰も生かさず、殺された。頑張ったのに、耐えて、足掻いて、その果ての報酬が異聞帯だった。

 殺したのは―――同じ、カルデアだった。

 カルデアが、人類史の汚点となったカルデアを殺した。平行世界にまで因果律を狂わせていたと、人理の為に何時も通り殺戮した。

 人生に価値は無く、人道に意味は無い。

 永劫でしかないのに、限りある生命を慈しむ何て余りにも下らない。

 キリエライトは報復すると決めた。人理が塞がれば焼却し、カルデアが邪魔をすれば鏖殺する。故に決して、オルガマリー・アニムスフィアだけは許してはならない―――

 

 

 

 

 

亜種特異点

深淵死滅亡国 「アシナ」

 

【オーバード・ナイト】

 

 

 

 

 

 指の狩人、ユビ・ガスコイン。医療教会葦名支部の狩り業務に勤める雇われであり、悪夢に住む月の狩人から送られた派遣狩人兼聖職者。彼女は葦名における自分の上司である教区長から新しい職務として、孤児院での生活を頼まれていた。

 ―――幸福だった。人間らしい生活だった。

 笑顔が絶えない日々。人間性に尊厳が宿る満ち足りた日常。集団生活は人間の本能的社会性が充実し、理性面でも子育ては素晴しい仕事だと喜んでいる。そして他の職員は優しい人格をした人が多く、(ユビ)は同僚にも恵まれ、人殺しに反する人助けの毎日を送った。

 人を殺さない日々。それは人狩りを疎ましいと思える充実した幸せだ―――けれど、終わり。

 死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。愛していたのに、死んだ。死ぬと分かっていたのに、後で辛くなると分かっていたのに愛してしまい、死んだ事実を受け入れたくないと思う程、苦しくて堪らない。思う必要もないと分かっているのに、苦しむと分かった上で思考して、苦悶する。

 

「あ、ぁ……―――あ、ぁぁあ。あ。あ。あああああああああああああああ、あああああああああああ……あぁあああああああああああああああああああああああああ」

 

 一人暮らしをしていた家から引っ越した後、孤児院暮らしをしていた彼女は自分自身に絶望する。分かっていた筈だ。死に別れは確定する未来。死ぬ者への愛着など、精々が犬猫の愛玩動物に向ける程度に抑えなければ、愛する程に苦しむだけ。同類ではない畜生と割り切っていなかれば、自分の魂が切り裂かれるだけ。

 

「メリナさん……―――死んじゃった。ねぇ、死んじゃったよ。皆、皆、死んじゃった」

 

「そうね、ユビ」

 

「どうしよう。ねぇ、どうしよう私まだ、奇跡をちゃんと覚えてない!

 ダイモン先生に蘇生を頼めば大丈夫だよね。子供達は死から助かるよね!!?」

 

「蘇生……?」

 

「ソウルは一杯あるから、大丈夫。きっと大丈夫。苦しんで死んだアカネさんも、ユウジさんも、イチゴさんも、キヌコさんも、妹を庇って死んだサイさんもきっと大丈夫、大丈夫。

 だって、死んじゃうなんて可笑しい。こんなの可笑しいよ。

 人は死なない。私みたいな人以下だって死を克服出来るんだから、人間の仔な皆なら死なんて病いは治らないと可笑しいじゃない?

 そうでしょう、メリナさん。魂が死んだって、人は大丈夫だよね?」

 

「………………」

 

 変異亡者化現象、アゴニスト異常症候群。病魔を魂に罹患する孤児院の子は、獣の霧を吸い続け、魂が奇形となって肉体も変容した。だが理性は保ち、そして時間と共に狂い出す。

 ―――食人衝動。あるいは、混沌衝動。

 食べ合う孤児と孤児。肉を食べ、肉となり、その肉をまた食べ、肉が廻る。血肉が交じり合い、肉塊が膨れ合う。全て一つとなり、蠢き、孤児達は一人の孤児となった。血肉の落とし仔となった。

 

「……死んだけど、死ねないわ。ほら、ここは葦名だ。罹患者を、死では救えない」

 

「―――違う!!」

 

「なら、私が殺そう」

 

「え、だって……なんで?」

 

「何でって、もう命の形が狂ってる。生を強制されて、死に切れないなんて駄目でしょう?」

 

「でも、子供なんだよ……?」

 

「殺して欲しいと、彼等は苦しんでいる」

 

「――――……けど、そうだけど!?」

 

 全ての孤児は混ざり合った。命の混沌。人命だけの生命系統樹。変異することで獣化し、上位者化し、デーモン化し、英霊化し、その変化現状全てが混沌とするのが変異亡者化現象。

 運命の死で黒く燃え上がる使命の刃。狂巫女(メリナ)の冷酷な殺意が周囲を冷やし、死なずの亡者を殺す不死斬りにも似た絶死の恐怖が孤児達の塊にも伝播する。彼女の手に掛れば、死の無い生命に死を与え、その上で魂を滅する事が可能だろう。無論、黒色に混ざる黄色の火は魂を発狂死させ、嘗てより禍々しい運命以上の死が具現する。

 

「私は、初めて―――命を賭けて皆を守りたいって思えたのに!?」

 

「なら、貴女が殺しなさい。獣狩りをした貴女は、誰かにとっての守りたい人だった筈の獣も、その手で狩り殺した過去を持つのだから」

 

「――――……」

 

 葬送の意味を身で味わう苦悶。何故、ゲールマンが狩りを弔いとしたのが、指は正しく理解する。そもそも獣は徹底して人間なのだ。匂い立つ血にえづき、微笑み殺す狩りを良しとすれば、狩人自身が獣以上の獣に堕ちる。人殺しを人狩りとさえ認識せず、尊厳ごと踏み躙る人殺しを作業と思って狩り殺す。

 せめてもの―――弔いを。孤児を知らない狂巫女ではなく、皆を知る自分が送ろう。

 葬送を思う彼女は夢見る脳から斧と散弾銃を取り出し、ラフな私服から狩り装束の神父服から即座に着替える。

 

『ユビちゃぁぁああん!』

 

『あそぼ、ユビちゃ!』

 

『まま、まままま、まま』

 

 肉塊から泡の様に生えた可愛らしい子供の貌。その口が開き、混ざり合った脳味噌から言葉が発声。

 ―――殺せ。

 斧を下ろす。血が出た。斧を下ろす。肉が削げた。斧を下ろす。首が堕ちた。銃を撃つ。血が弾けた。それでも苦しみ悶える孤児達の塊。油壺を投げ、火炎壺を投げ、火達磨にする。肉塊から生えた貌が断末魔を上げ、生えた手足がバタつき、苦しみ悶え暴れ、更なる変異亡者化現象が進む。

 孤児らは肉塔となり、救いを求めて天を目指す。

 臓腑が蠢き溢れ、脳が膨れ上がり、手足が百足の様に生え狂う。

 これが―――魂なのか?

 これが―――人の可能性なのか?

 しかし、これもまた根源から生じる人の本質であり、そう在る事が許されるのが人の世。悍ましい在り方さえも宇宙にとっては善い事だった。

 

「あっはっはっはははははははははははっはっはああはははははは―――!!

 私は指。所詮、指。御父様の脳片から生じた腐った紐。だから仕様がないの、意味がないの、価値がないの。ごめんね、皆、ごめん、ごめん。ごめんなさい。

 ―――救えない。

 やっぱり救えない。人を、人間性からは救えない!!」

 

 遺志を継ぐ為、その手で狩る。狩人でしかない自分を愛してくれた孤児達へ、魂がこの世で生きようとする意思を断ち切る一撃を。無へ至る斬首により、孤児らは正しく息絶え、死ねぬ故に遺志は指の夢の中へ送られた。

 

「ユビ……―――何で、こんな事に?」

 

「メリナさんには分からないわ。でもね、これは決められた悲劇だったの。孤児たちに限界が来るの、私だって分かってたから。

 でも、分かってなかった。何でも無い様に、こうなったら狩れると思ってた。

 私が愚かだったの。心さえ獣になれば、迷うこともないのに。血に酔えば、間違えることもないのに」

 

「……ッ―――夢の律ね。黒幕が居る」

 

「いないよ、そんな奴。ローレンスさんからは、やがてこうなるのは教えて貰ってた。彼は何一つ嘘を吐かず、未来が絶望なのも隠さなかった。成り果てた子の処分も、教会で働く私の仕事。軍人が侵略する敵国で、今を生きる民間人の子供を虐殺するのと変わらない。人狩りを営みにする文明社会の邪悪な気色悪さを、私は分かってた筈なのに。

 でも、それがどれだけ薄汚い獣の所業か、分かって無かったってだけ。

 やっぱり人間は獣なのね。血に依り姿さえ獣になっても元が獣なら、やっぱり獣が人間なの」

 

「貴女……それ、全部が本心ではないわね」

 

「―――え?」

 

「無意識下の刷り込みでもない。貴女、罪悪感を継いでいるだけ。誰のかは知らないけど、人の死を悲しめる優しい心を理解出来るよう、そんな祈りの中から生まれたのね。

 あるいは、その感情をその者へ啓蒙する為の――――いや、それは貴女も理解しているみたい」

 

 巫女は死を見る宵眼と、狂い火の星の瞳を両目に持つ。見抜けない概念もなく、現象も理解し、心の動きさえ色で分かる。だからか、指の思考も読み取れた。

 それは、死に至る病からは程遠い。並の人間の精神力なら百度は自死する精神的外傷を受け、全力で嘆き悲しみ、その上で彼女の意志は無傷だった。他人の痛みと感応する精神性を持つ狩人と同じだった。

 

「そうよ。心の底から悲しいけど、悲しいだけ。魂もあるし、心もあるから、涙も流せる。

 けど、それで自害を選ぶような人間らしさはないの。でも不死だから、自殺なんて自慰と変わらない下衆な慰めだわ」

 

 だからこそ、(ユビ)は祈る。指先で十字を宙で切り、父と仕えた同じ神へ死を哀悼する。葬送の意義を知るには、誰かの為に流す涙を知らなければならない故に。

 

「そうね。私も、それは同じだから。

 だから、せめて……どうか貴女が祈る彼等が、安らかに魂が巡りますように」

 

 絶望に慣れる二人の魂は、この現実が世界にとって無関心な事実だと理解する。人間の魂が如何程に地獄へ落ちようが、人の魂を根源から流し落とした宇宙自体は綺麗な曼荼羅模様の儘、観測されることで完全無欠と言う美しさを維持するのみ。

 何が偽りなのか。何が、誰の望む欺瞞なのか。

 魂の循環への祈りに何ら価値がない事実を巫女は見通しながらも、彼女はそれでも人だから、祈るしかなかった。

 

 

 

 

◎◎○◎◎<●>◎◎○◎◎

 

 

 

 

 ―――大日本倭国首都、葦名。

 葦名幕府を京の朝廷から赦しを得て開き、一大名に過ぎなかった葦名一心が征夷大将軍となり、既に四百年が経過した。

 だが、もはや国家など意味がない。

 伝承の写し身――悪魔(デーモン)が闊歩する世の中では、人の営みなど砂上の楼閣。

 

「関東を大蹂躙するアームズフォート、グレートウォール。

 太陽系外部の異常生態系が作られた封印禁断区、グンマ。

 汚泥が吹き溜まる糞と屍の葦名市街地下下水路、病み村。

 日本国の新しい観光地……――イヤだわーホント、イヤ。もっと気持ち良く愉しい場所じゃないといけないわぁ」

 

 格好は人形用のスペア服を来た幼い美少女貌の狩人。だが声は野太い低音ボイス。

 

「オカマキャラが定着していますね、狩人」

 

「やぁーね~……ケ、イ、モ、ウ!

 ボクの名前はケイモウよ。灰ちゃん、気持ち良くボクと啓蒙しようよ?」

 

「その嵌まり様、役者とかに憧れていたのですか?

 あるいは、お笑い芸人のコント師ですかね。日本文化におけるお笑いの歴史は奥深いですし、貴方がそれへ故意に感応するのも理解出来なくはありませんが」

 

「故意に恋したの、あはぁ!」

 

「その手の親父ギャグ、前頭葉が劣化により理性が緩むから出るそうですよ。締まりの無い脳に衰えたのでしたら、この葦名で文学でも勉強して頭脳を鍛えて下さいね」

 

「しんらつー! けど、その罵倒が脳に気持ち良い!!」

 

「―――っち。精神が無敵ですね、このオカマさん」

 

「やぁーねー。キャラはこんなだけど、性自認はオトコ。つまり、ボクは廃人形な女装家男娘なの」

 

「分かりましたよ、ケイモウさん。今はそう言う設定で良いのですね」

 

「うん!」

 

「で、何に影響されて……その、あの何です。今の気持ち悪い様になっているのですか?」

 

「色んな遺志を混ぜたら、ビックバァアン!! 宇宙は空にあるのだわ!!」

 

「良く理解しました。仕方無いですねぇ……はぁ、溜め息出ます。不法滞在ではないですし、抑止の糞団子思想みたいな特攻要員を地雷みたいに仕込む卑劣戦法でもないし、良いですよ。別に本名でも良いんですが。

 代わり、役には立って貰います。私も道化を演じるのだから、益は分配して頂きます。狂い火の褪せ人さんが来る様でして、カルデアの対応も変えないといけませんし、あれには根源から因果律に干渉して運命を操作するって言う反則も効きませんからね」

 

「ケイモウって名前がアレなら、ボクの第二プランの姫汚(ヒメオ)で良いよ」

 

「結構です、ケイモウさん」

 

「ノンノン。ケ、イ、モ、ウ、だよ。もっと愛を込めて!」

 

「フン―――!」

 

「うわぁお、糞団子をこの美少女フェイスに投げやがったわ!?

 恐ろしい恐ろしい。ボクが加速の神秘を覚えてなかったら、うんこ塗れになってたじゃん」

 

「――……ッチ、これが苛立ちですか。人間性が豊かになるのも、善し悪しがありますね。

 はいはい、修復修復っと。装備品の修理以外にぶちまけた糞団子を綺麗にするのに、時間を戻すこの魔術はとても便利です」

 

「もぉー、粘着く汚物を人に投げちゃダメだZE!」

 

「安心して下さい。もし、その可愛らしい顔面が糞塗れになれば、ちゃんと顔を修復して上げました。序に脳も良くなるかもしれませんから」

 

 あざとい貌と仕草で微笑むも、廃人形が発する声の野太さはグランドクラス。筋肉質な大男の声帯と同レベルの野性味豊かな声質で、萌え声を模した話し方をされた時、灰は自分がどんな表情をすれば良いか判断に困り、取り敢えず日本人の対人文化から学んだ曖昧な笑みを浮かべた。

 これは獣からの呪いか、魂の為に殺した人々からの罰か。

 しかし、発酵し尽くした文化が化身として具現化した狂人だろうと、狩人は狩人。凄腕にして、高次元暗黒思考を持つ神秘学術者。灰は廃人形と言う革に惑わされず、その本質を見通し、人類種の自由に繋がる遣い方を選ぶ事にする。

 

「ま、明るい変質者キャラの方が良いですね。此処、ロスリックやヤーナムみたいに暗めな街ですからね。カルデアの皆さんも、こう言うのが一人位居る特異点の方が、思い出に残るでしょう」

 

「人をイロモノキャラみたいに扱うなんて、灰ちゃんのエロオンナ!

 このこの。良い男、見付けたの。良かったら、ボクも灰ちゃんのセフレンリングの一員に入れても良いんだよ?」

 

「すぅー……はぁ―――良し、殺します」

 

「あはぁ、ごめんごめん、ごめんなさい。ほら、貴女って全ての人間性を許してくれるから、ついつい調子に乗っちゃうの。

 ―――で、良いソープランド、紹介してくれる?」

 

「無料案内所に逝って下さい。とっとと、逝って」

 

「もぉー、いやね。日本国独自の娼館施設を聞いただけだわ。狩りで染み付いた獣血臭さを、女と交わって匂いで上塗りして、ボクも血を中身から女臭くしたかっただけなのに。

 何事も、形から入って中身も詰めて、心から愉しむのが夢見る白痴の流儀って思うのよん!」

 

「へぇあっそうですかぁふぅーん」

 

「オッケーね。自分で探しまぁーす」

 

「是非、そうして下さい。知人のシモの世話までする気、私はありませんので」

 

「それと、ちょっと葦名でカルト宗教団体を実験的に作る予定よ。良いわね?」

 

「お好きにどうぞ。葦名市民の人生は、別に私の所有物では在りませんからね」

 

「サンキュー。名前はズバリ―――共脳啓蒙党!」

 

「はい」

 

「うわぁお、糞団子程に興味無し!!」

 

「まぁ、カルトとか有っても無くても、存在がどうでも良いですね。それはそれとしてカルト宗教政党とか、現世に嵌り過ぎではないですか?」

 

「いやん。元々この葦名、西欧の議会制政治も入れた幕藩体制だったって知ったから、カルト政党ごっこしよう思ったの」

 

「政治家ごっこで宗教遊びですか。悪趣味な女装家ですね、廃人形さんは」

 

「後、カレル文字のルーン刻印を身体に彫ったわ。カレルタトゥーを葦名に流行らせようと思うのよ。

 後々、灰ちゃん見て、舌ピと臍ピ開けた。めちゃ強い指輪をインしたら、中々シャレオツじゃない。

 後々々、ハーレムってやつすると良い気分だわ。ボク、人類種の原動力が性欲って言う本質、好き。

 あぁ―――おっぱい。丸みに神の心は宿る。美人のおっぱいに昂奮する事は、素晴しき人間性なの!

 灰ちゃん、穴さえあれば何でもイケる変質者の遺志を継ぎ、その魂さえも宇宙が求めた知性の一つだと穢れた悟りを手に入れちゃった」

 

「良いんじゃないかと思いますよ、もう……」

 

「それじゃあ、一緒にボクと一緒に水着霊基になろうよ!」

 

「拒否します。見せる相手も居ませんので」

 

「ボクは夢の妖精さんだよ?」

 

「実際、その本質が本当にそうだから否定出来ないですね」

 

 段々と女装家廃人形に対応するのが面倒になって来た灰は、とっとと葦名都二十三区の一つである新壬生区二丁目のソープ風俗街に行って欲しいと思いつつ、人間が面倒と思う自分の人間性を愉しみながら会話を続ける。

 

「じゃ、ボクはボクで愉しみます。フロイト先生のセックス心理を夢の中で理解する為に、ね?

 純粋なる分身存在(アルターエゴ)は子作りなんかじゃないけど、哲学を愉しむには心もまた超人じゃないと駄目じゃなぁーい?」

 

「エロい瞳で私を見ない様、魂の底よりお願い致します。歳相応に潔癖でして、もう体も心も若くないのですよ」

 

「関係ないね!!!」

 

滲む血(オドン)さん並の繁殖欲求ですねぇ……はぁ、暗い血の夢の赤子を求めるのは分かりますが。

 私が子供を孕んだ所で、その赤ん坊に宿るソウルこそ私の分身でしかなく、私の胎盤を使っても既知の暗い魂が生み出るのみです。魂を身から出すのに根源は要らないですが、それは私自身による創造。結果、上位者の赤子みたいに魂と魂を混ぜた新しい魂を悪夢から生み落とすこともない訳です。勿論、人間のように根源からこの宇宙に魂が流れ落ちる事もないです。

 やるなら、私の血の方を精子代わりに、女を孕ました方がまだ未知が拓けますよ?」

 

「ふぅーむ……むむむ、あそこがムラムラする程の啓蒙じゃないの。

 良いわね。生き血とは魂が融け込む通貨。貴女のソウル、上質な触媒にもなるってことかしら?」

 

「そうなります。なので、ダークソウルをもう啓蒙されているのでしら……ケイモウさん、やりたい事を葦名でしてはどうかと思います。

 やるべき責務も、人代に対する責任も、何一つ貴方は持ち得ないのですからね」

 

「あらーん、うっふふふふひゃははははひゃっひゃひゃひゃひゃ!!

 道楽じゃ娯楽じゃ生殖じゃ、あー素晴しき哉、人間道。無責任な子作りこそ人間性なき神の営み、上位者の心じゃないの」

 

「しかし、それは生物として善き本能です。善き未来を思考すれば、人は子供と言う責任を背負う負債を避ける高度な知性を獲得していますので。

 まぁ、葦名は不死。子供を作ろうともこの特異点、根源より宇宙へ魂は流れ落ちず、獣の霧によってソウルが循環する地獄のこの世です。此処自体が擬似的な星幽界にして、根源となる獣の夢の中と為り得ましょう」

 

「正に―――悪夢!!

 ボク、凄く興奮して来たなぁ……はわわぁ、誰でも良い気分だわ。此処から次の瞬間、その誰かを狩り犯すしかない」

 

「此処では、魂は自由です。そう思う事が許された魂なら、その罪科を好きに犯して下さい」

 

「それじゃーねぇ~」

 

「では、さようなら。善き滞在を、ケイモウさん」

 

 美少女貌の廃人形(ケイモウ)が部屋から立ち去り、灰はちょっと計画変更を余儀なくされた古い獣狩りまでの脳内脚本を書き直す。

 オーバーカウント1999―――変異計画、始動。

 カウンターダウン2000―――人類実験、再開。

 瞬間、獣が目覚めた。分身存在こそ夢と現を区切る空の境界線上の死亡確認。

 もはや既存の法則に意味は無い。根源から学んだ人類種の神秘と科学に価値は無く、魂だけが確かに実在する現夢の特異点が覚醒する。

 

「あは」

 

 素晴しい人の世界を始めよう。

 悪夢の様な現実に目覚めよう。

 

「あはははははははははははは」

 

 悪魔殺しの悪魔、ダイモン。月の狩人、ケレブルム。

 この憐れな人代を守りたいと希った灰と同じ人類種。

 

「あーっはっははっはっひゃっひゃっひゃひゃはははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 太源は消えた。擬似的な真エーテルであるエーテルは消失し、真エーテルは全て古い獣のソウルに吸収された。この特異点から星の力は抹殺され、極限の空白地帯が生み出された。

 正しく此処こそ―――空白の創造。

 白痴にして白紙。特異点と言う現象ですらない白地の絵画。

 剪定事象にも選ばれず、人理に認識されず、選ばれる対象として阿頼耶識の中で透明となった廃棄物。

 

「ダイモンとケレブルム。お前らは、私と同類の人間だ。どうしても、世界を地獄にしなければ人類種を愛せない。

 見たかっただろう、誰もが強く在ろうとする魂の世。

 さぁ……―――獣狩りを始めようか。人の魂が闇より深い生まれ故郷よりも先の、本当の誕生を知る為に」

 

 









 読んで頂きありがとうございました。今まで葦名編を始める長いプロローグでしたが、此処まで作者の我が儘に付き合って貰い感謝します。
 これからは書きたい話を詰め込んで、物語を積んでいきたいと思います。
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