血液由来の所長   作:サイトー

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 流行りに興味が湧きましたので、手を出してみました。自分のイメージを守りたい人は見ない方が良いと思います。


灰(AI画像)
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デーモンスレイヤー(AI画像)
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狩人(AI画像)
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褪せ人(AI画像)
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啓蒙79:凡剣

 ブリーフィングルーム。呼び出された藤丸は、所長代理をしていたロマニのそのまた司令官代理をするキャスターのサーヴァント――ダ・ヴィンチから、任務内容の説明を今から受け始めていた。

 

「すまないね、藤丸君。意識不明から回復して直ぐだと言うのに」

 

「構いません。それでダヴィンチちゃん、魔神柱は何処で?」

 

「君の察しの通り、シバからの新しい反応があった。

 場所は―――日本、東北地方。

 更に詳しい場所はまだ分からないけど、観測はされた。まぁ、されたのだけど……数秒後、奴の反応は直ぐに消えたのさ」

 

「あ、それ罠ですね。つい最近、罠に嵌まったばかりですし。武蔵ちゃんの御蔭で生き延びたけど」

 

「だろうね……はぁ、これも罠だろうけど、落ち着いて聞き給え。

 カルデアの実験召喚サーヴァントである所長のアサシン、狼の霊基反応も確認出来た」

 

「―――ッ……!

 え、だったら、つまりそれって!?」

 

「居ると思う。つまりは、そここそ奴等が本拠地にしている特異点さ。

 裏切り者のアン・ディール……あぁいや、今はアッシュ・ワンって名乗ったんだっけ。まぁどっちでも良いけど、彼女は約束通りゲーティアの時間神殿にも現れなかったが、人理焼却を防いだ後の今になって行動を起こした。

 ―――これ、どう言う意味か分かるかい?

 それも生き残りの魔神柱が起こした特異点を攻略し終えた今、この状態でだ」

 

「どう言うことですか?」

 

「あの女にとって、君がゲーティアを倒すのは予定通りだったって事さ」

 

「……え、有り得ますそれ?」

 

「あれは酷い人間賛美を語る女でさ……まぁ、意気投合した私もある意味で同類だ。そう言う意味だと、ロマニが自分を犠牲にしてまでカルデアを守る男だと言うのも、アッシュ・ワンは一人の人間として正しく信じていたんだろうね。君からすれば胸糞悪い話だと思うけど。

 それと、君には奴からの祝福がある。マシュもだけど、それは全体の運命から外れ、定まった運命に抗う魂への呪いでもある。

 私ではその祈りを観測出来ないけど、ちょっと眼が良い連中だと何となく分かるらしいから、別れのキスがそうだったんじゃないかな?」

 

「じゃあ、ゲーティアを倒せたのもキスの加護?」

 

「それは断じて違うよ。ビーストを倒したのは君の意志であり、ロマニの遺志でもあり、マシュの誓いだ。そして、死を望まない私たちカルデアの願いだった。

 けれど事実として、アッシュ・ワンは君が死ぬ運命を遠ざけたのも本当の話をさ。だから、幸運は儲け物と思うが良い。あれはあれで、ある意味において良縁だったとね」

 

「良縁……?」

 

「疑念は当然だとも。裏切りも事実であり、奴が外道なのも本当だ。勿論、悪人ではあるけどね、正しくない訳でもないのさ。結局、ビースト打倒において、奴はカルデアの味方だった。

 カルデアにおける一番の妙手は単純明快に、マスターである藤丸立香の生存確率の上昇だよ。

 生き残る可能性、その奇跡を運命から手繰り寄せる運命力。元から多分、かなり高かったと思うけど、観測出来ない人間の魂が持つ本質的な能力を、あの女だけは君に授けることが出来る人間だった」

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチは同僚だった者達二人を思い出す。レフ・ライノールと同じカルデアの裏切り者―――魔術師兼神秘学者、アン・ディール。

 彼女は完璧だった。魔術師としても、兵士としても、技術者としても。

 何より、話が合う芸術家だ。まるで幾人分の才能を混ぜ合わせたような画師でもあったダヴィンチの同僚は、魂が絵の中へ引き込まれるような画力を持ち、Aチームが揃った集合油画を描き、それは今もカルデアの一室で飾られている。そして見詰めているとその晩、絵画の中に引き摺り込まれる悪夢を見る程に、人の魂へ叫ぶように訴える感動がある。

 

「つまり、人の心を道具にいている女なのさ。藤丸君自身には悪い人間なのだけど、君の魂にとっては本質的に味方と言うことだ。

 ビーストを倒した今、どう判断しているかは分からないけどね……いや、違うかな。オルガマリー所長を聖杯探索の旅から排除したかったのを考えると、君自身に世界を救わせたかった様に思える。所長とアサシンがいれば、君に英霊達との縁がなくともどうにかなった場面が多かった。奴が用意したフランス特異点とローマ特異点以外、あれほどの徹底した人間性の地獄はなかったからね。

 けれども、その場合、あの女は以降に攻略した特異点にも干渉した事だろう。ある意味、人為的な悪意あるカルデアへの抑止力だったと思う」

 

「相対的に、特異点の敵戦力が上がってたって雰囲気ですか?」

 

「だろうね。まるでゲーム感覚だよ。悪趣味なやり方だ。近代人類史の戦争から戦略を厭らしく学習してるね。

 まぁだからこそ、よりカルデアが生き延びる可能性が高い選択肢として、所長はカルデアを離れて裏切り者を討ち取りに旅立った訳さ」

 

「それは何となく分かってました。でしたら、罠だとしても俺は飛び込むしかありませんね」

 

「―――死ぬかもしれない。何て、君に問うのも野暮か。

 でもね、特異点からの情報は何の異常もない。観測した内部の様子だと、余りにも普通なんだ。現代の普通の日本と同じだとしか判断出来ない。

 魔神柱とアサシンの反応が観測出来たのは一瞬で、それ以外はずっと同じ情報だけしか分からない」

 

「罠ですね。もう凄い誘ってますよ。此処は安全な特異点だと、マスターを送って大丈夫だと、怖くないから来てって言う挑発じゃないでしょうかね。

 挙げ句、カルデアがその挑発を見抜くのも加味した皮肉です。

 分かっていたとしても、マスターをレイシフトするしかない状況にする悪意です」

 

「やっぱ、だよね。人をやる気にさせ、蟻地獄に落とす思惑を匂わせ、結果的に此方を誘い、有利なフィールドへ呼び込む。

 人間賛美が過ぎ、人間性が人類種への期待の余り腐り落ちた女だもの。我々の人間性を理解した上での策謀だろう」

 

「フランスとローマを超えると思った方が良いと思います」

 

「その癖、同行出来る適性かあるのが、あのサーヴァントだけだ。

 何を以て差別化してるのか分からないけど、他サーヴァントは無意味だってシバは判断した。でも、その判断情報も魔神柱の反応が出た時のみで、今は普通の特異点反応しか観測されていない。勿論、現状だと適性サーヴァントはほぼ全員だ」

 

「と言うことは、魔神柱討伐に必要なのはニーヒルさんだけで、多分他は送っても弾かれて駄目そうですね。あるいは、送れても霊基に支障が出ますか」

 

「藤丸君、君も中々に戦術眼が育ってきたようだ。概ね、私もそう判断しているよ」

 

「まぁ何となくですが、マシュを此処に呼んでいない理由もこれで分かってきました。

 所長の安否を囮にして、マスターである自分を罠に嵌めようとしていると知れば、強引にも同行しようとします。ギャラハッドの霊基がなくても、サーヴァントクラスの戦闘能力がありますからね」

 

「その点はオルガマリー所長がねぇ……ロマンチストな天才は災害さ。ぶっちゃけた話、マシュはもうマシュ自身が強いから」

 

「マシュは人間ですからレイシフト自体は問題ないですけど、まだ病み上がりです。戦闘は問題ないかもしれませんが、持久力にまだ……」

 

「そうだよねぇ……―――うん。魔術回路もまだリハビリが必要だ。シャドウで守りも補えるし、君の耐毒性諸々もまだ消えていない。

 藤丸君は不可欠なマスターであり、一番生存確率が高いサーヴァント戦の達人だ。

 有能云々において、こと特異点では万能なる私以上の適任者。そんな君の弱点になる状態だと、むざむざころされに行かせるようなものか」

 

「正直、心苦しいですが……俺達以上にマシュは、自分自身の状態を理解していますから。

 尤も理解した上で恐怖心と戦い、生死の境界線上のギリギリで無茶も無理も同時にしますので」

 

「あー……―――何か今、ロマニの苦労を凄く実感した。

 けれど、成る程。君だけがマシュを守れる。いやはや甘酸っぱい関係だね」

 

「話、変えますよ?」

 

「ごめんごめん。見た目は究極の美女だけど、私の中身は美女好きのオジサマだから。若い子を揄うと心が潤うのさ。

 との事で、あのサーヴァントだけを供にしよう。ランサーのサーヴァント、ニーヒル。過去の人類史にラテン語のゼロを冠する英霊なんていないけど、彼女はエミヤみたいな守護者だったり、人理修復を助けに来た両義式や殺生院祈荒みたいな協力者なのだろうね」

 

「大丈夫ですよ。ニーヒルさんは信用出来ますし、何より超強いですから。何か良く分かんないレベルでつよつよなので」

 

「だね。それはそれとして、シャドウサーヴァントの召喚システムはバッチリ管理しておくさ。生命線の強化は急務だからね」

 

「お願いします、ダヴィンチちゃん」

 

「―――任せ給えよ!

 技術部門の職員からも頭の狂った改良案も出て、それを取り込んでるから安心するが良い」

 

 その後、一時間程度の説明と受けた藤丸は部屋から出た。とは言えレイシフトまでの時間はまだ余裕があり、その合間にマスターとしての準備を多く揃えなくてはならない。礼装一式を整え、携帯非常食を持ち、予備も含めた通信手段を幾つか用意する。

 コフィンが並ぶ使い慣れたレイシフト施設。

 赤く燃えていたが青色に戻ったカルデアス。

 気合を入れ直した藤丸は何時もの職場へ行く途中、その扉の前で待っていたサーヴァント―――褪せ人、ニーヒルと合流した。

 

「やぁ、マスター。良い顔をしているね。どうやら今回の仕事は特別みたいだ」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ……私の経験に当て嵌めるなら、まるで家族の為、戦争へ赴く兵士のようだ」

 

「そうかも。恩人を、助けられるかもしれないんだ」

 

「戦う理由としては、とても上等だ。一心に走り抜けられる事だね」

 

「うん。だからさ、今回も助けて欲しいんだ」

 

「何、気にするな。我々サーヴァントも、君の気遣いには何時も助けて貰っている」

 

 褪せ人は自然と右手を藤丸の前に出し、その手を彼は力強く握り返した。

 

「では行こうか、マスター。何時も通りの、特異点解決の旅さ」

 

「ありがとう。一緒に、戦いに行こう!」

 

 入室した二人は、司令官代理である技術顧問とマシュから最終確認を行い、準備は万全。レイシフトの為にコフィンへ入り、アンサモンプログラムが起動する。

 獣の残党、魔神柱狩り―――レムナント・オーダー。

 カルデア職員は使い慣れた動きでバイタルを確認した後、システム最終安全確認も行い、レイシフト起動ボタンを押す。そして霊子変換された藤丸の眼前に光が渦巻く。それは蒼い輝きであり、特異点まで続く孔。藤丸の脳が認識する何時ものレイシフトの光景。

 直後―――暗く、深く、奈落に落ちる穴となる。

 地獄へ墜ちるのだと藤丸は理解し、決意を固めた。きっとこの先、自分は悍ましい世界を見るのだと言う予感と、必ず生き延びてカルデアに帰るのだと意志を確かにした。

 

 

 

■■□□◆<●>◆□□■■

 

 

 

 何も無い冷たい荒野。薄暗く、寒い冬の時期の日本の気候。濃霧ではないが霧も僅かに停滞し、命の気配が合切なく、空気が汚物となって人を殺す毒と化す違和感。藤丸は呼吸をすると喉が焼ける違和感と、肺に生き物が焼けた煙が充満する感覚に襲われ、咽る程の鈍い痛みを味わっていた。

 太源(マナ)が―――無い。

 魔術回路が鈍く、重く、魔力に慣れた魔術師からすれば真空状態に等しい地獄。

 

「噂に聞く、オーバーカウント1999の地球か。人間の惑星へ対する搾取が臨界を超えた神秘が死んだ時代だね」

 

 藤丸の横に佇む褪せ人の第一声。カルデアで生活している時に着る普段着の、黒い喪服姿や巫女服姿ではなく、夜騎兵鎧一式に着替えていた。

 荒野の風に黒衣を靡かせつつ、兜の中からくぐもった声を放つ彼女へと視線を向け、藤丸は苦し気な表情で質問をする。

 

「……それ、どう言う?」

 

「マスター、今の君は陸に上がった魚と同じ状態と言う事だ。ほら、これを口から飲み給え。こんな事もあろうかと、と言う秘密道具だよ。

 現状、カルデアからの魔力供給も諦めた方が良いだろうしね」

 

「ありがとう。用意が良いね」

 

「友人のキアラから、人類史で必ず起こる枯渇現象を聞いてたのさ。この特異点がそうなのかは知らなかったけど、まぁ予感があった。それと毒素も空気に混ざっているが……雰囲気、君の体質なら問題なさそうだね」

 

 褪せ人から渡された小さな壺を手に持ち、蓋を取って藤丸は中身を見る。それは黄金色に輝く液体であり、芳醇な香りがする果物のジュースみたいではあるが、何の果実を絞って作られたのか分からず、例えようがない自然風味な甘さであった。そして飲みやすそうでいて、美味そうでもある。

 彼は躊躇わず、ぐいと一飲み。

 更にニ、三、四と連続して飲み、壺の中身を空にした。

 

「魔術回路の不調は完治した筈だ。序に私と繋がったラインから君の方に干渉し、サーヴァントの簡易召喚は可能にしておいた。カルデアとの通信は厳しいが、座との繋がりを利用した魔術式なら使える状態だ。この幸運、システム調整を完璧に行ったダ・ヴィンチに感謝しておくと良い。

 それと、魔力消費の方は気にしなくて良い。

 私が死ななければ、カルデアの代わりの魔力タンク役もしておくよ」

 

「え、こわ。ちょっと万能過ぎない?」

 

「サーヴァントなんて無法な位が丁度良いのだよ。ま、そもそも、この特異点は魔力問題が解決出来ないと、最初から詰み状態だからね」

 

「むぅ……あ、駄目だ。やっぱ、カルデアと通信出来ない」

 

「カルデアスは疑似天体であれば、魔力が無い此処は星の意識が観測出来ない無明領域となる。要は星の生命力が死滅した区画となる。なので、カルデアスでも観測出来ないのが必然だ。

 とは言え、君そのものが楔となっている。君だけは観測されてるから、意味消失は心配しなくて良い。私の方からも観測しておくのでね」

 

「何でも知ってるよね」

 

「基本、世界の仕組みって隠せないからね。見れてしまえば、そのまま理解出来るのだよ。

 何より、原因や理由も説明出来た方が、君の脳もスムーズに動くはずだからね」

 

「それは感謝っす。マジ神秘っす」

 

「敬い給えー……と、雑談は歩きながらするか。

 近場に誰か居る気配するから、そっちに向かうことにしよう」

 

「了解。で、そっちってどっち?」

 

「あっち」

 

「あっちね。じゃ、あっち行くよ」

 

「分かった。案内しよう」

 

「頼みます」

 

 頼もし過ぎるサーヴァントの後ろへ続き、マスターは何も無い荒れ地を歩き出す。そして転移した此処は本当に何も無い荒野であり、障害物など皆無に等しく、正直その気配がすると言った人影は少し時間が経てば見える距離に近付いていた。とは言え、まだ一キロメートル以上は離れており、習った強化魔術で視力を良くして何とか見える程度ではあるが。

 

「見えて来たね。座って背を向けてるあの人で良いんだよね?」

 

「あぁ、マスター。気配はただの人間であり、存在感も人のそれだが、悪い予感がする。それはもう、凄くとてもする。

 感覚からして恐らく、神を平気で生きた儘で踊り喰いする類の人類だな」

 

「敵じゃん!?」

 

「善良な神殺しの可能性もある。まぁ、人殺しに罪悪感を持たない悪人なのは違いないだろうが」

 

「後、何で何時もの馬を召喚しないの?」

 

「少し、この特異点を観測しておきない。それとね、接敵する前に君はこの空気に慣れておいた方が良いと思うけど。序にその身体、歩いて違和感を消しておくと良いさ」

 

「何で分かるのさ?」

 

「友人だろ。普段と違えば、雰囲気で分かるのだよ」

 

 そして褪せ人と藤丸の二人は、目的の人物の場所へ辿り着いた。その後ろ姿は全身を覆う騎士甲冑。鞘に入った大剣クレイモアを地面に置き、地面へ直接座り込み、休憩の為か焚火を行っていた。また何故かその焚火を燃やす薪には捻れた剣が突き刺さっており、熱で空気が揺らぎ、まるで注意の時空間が歪んでいるような不安を藤丸に与えた。

 藤丸は焚火を見続けるそんな後ろ姿を観察する。相手は此方の気配に気が付きながら振り返らず、微動だにすらせず、静かな騎士姿の人物に不気味な雰囲気を感じた。それはそれとして、コミュニケーションが英霊級の彼は相手へ躊躇わず話し掛けるのであるが。

 

「あの、すみません。お話、良いですかね?」

 

「……あぁ、貴公らか。この荒野は寒いだろう、座り給えよ」

 

 穏やかな声。魂を鷲掴みにする言霊の重み。思わず、藤丸は褪せ人の方に視線を送る。安全確認を兼ねたサーヴァントへの目配りだった。

 

「座るかね、マスター」

 

「そうだね」

 

「此処は寒い。二人は、熱燗、珈琲、緑茶、白湯、何を飲みたい?」

 

「お構いなく。それより聞きたい事が―――」

 

「―――何を、貴公は選ぶのか?」

 

「……じゃあ、お茶下さい」

 

「其方は?」

 

「珈琲で」

 

「承った。直ぐ出来る。その間、話をしよう」

 

 声からして男の騎士はコップを二つ出し、その中に粉を入れ、水を入れる。そのまま焚火の上に置き、手早く飲み物を熱し出す。藤丸と褪せ人は焚火を挟んで騎士の対面に座り、何も無い冷たい荒野の中、唯一の温かみである焚火で暖を取る。

 

「ふむ。後、すまない。質問も受けるが、まずは此方から聞きたい事があるのだが……青年、良いかね?」

 

「はい、構わないです」

 

「私は見張りでな。先程、あの灰が態と特異点に開けた孔より、ソウルが通り抜けた気配がした。侵入者は珍しくなかったが、最近は余り見ない。古い獣が目覚め出し、太源の類は一切合財蒐集され、我等の御馳走である抑止力の英霊も完全に来れない日々だった。霧より英霊のデーモンは発生するがね。

 その日々の中、貴公ら二人が異界より流れ落ちて来た。もしかしなくとも、獣狩りのカルデアだと思うが……合っているか?」

 

「―――――――」

 

「白状し過ぎたか。固まっている。会話をするならば、理解し易く情報量を制限するのも対話では大切か。

 それで、そこの女。太陽のように頭部が黄色に燃える姿、狂い火の王で間違いないかな。サーヴァント遊びをする貴公は、我々が認識する彼女の褪せ人と言う認識で間違いないだろうか?」

 

「魂が見える癖に、相手に確認する必要があるのかね?」

 

「ある。反応を愉しむ心持ちこそ、人間性の証だ」

 

「なら肯定だね。それと良い匂いがするけど、飲み物はまだかな?」

 

「適温まで後少しだ。少し、少し……少し、今だ。受け取り給え。熱い故、気を付けるのだぞ」

 

「ありがとう、火の簒奪者。ほら、マスターも」

 

「あ。あ、あぁ……うん」

 

 騎士姿の男―――簒奪者の灰は、二人の前にコップを地面へ直置きした。藤丸は丁度良い温度のコップを持ち、寒い荒野の気温で冷えた手を温め、飲もうか迷うも、褪せ人が何も言わないのでそのまま一口。美味い。凄く美味かった。素晴しい味の黄金律であり、あの雑な作り方で完璧な風味を出すのが良く分からなかった。

 

「それで青年、質問は?」

 

「あ、はい。此処は何処ですか?」

 

「日本の関東平野だ。貴公に分かり易く言えば、第三次世界大戦で焼け野原になった埼玉県だ。核兵器で日本は首都葦名を除き、瓦礫と荒野と、禿山が広がる死の国となった……らしいぞ。

 私は、人間による人類種根絶の営みを見たわけでないからな。よって、より大きな括りで説明すれば、此処は自滅を尊んだ人類史の一つとも言える」

 

「はぁ……そう言う、特異点?」

 

「いや。そう言う剪定された平行世界を、特異点として人類史に召喚し、特異点化している。何でも、星の意識に悪夢を寄生させる古都ヤーナムの上位者の業らしいぞ。

 生後二十年未満の、生まれたばかりの青年には解り難いかもしれんが、学習すれば理解し、やがて貴公も出来るようになることだ。人間、長く生きると何でも出来てしまう故。

 それと、この特異点はソウルの霧とコジマ粒子に溢れている。そこな褪せ人、マスターの体調管理は出来ているかい?」

 

「無論だよ」

 

「それは良い。死なれては困る。葦名を地獄に落とした意味も消え、悲劇に価値が生じなくなる。最後まで戦い、死なぬようせよ。

 後、マスターの青年。我等の都合でカルデアとの通信も遮断しているので、鍛え上げた己が直感と経験則を信じ給え。これまでの特異点の旅路は、決して貴公を裏切らぬことだ」

 

「はい……―――で、やっぱり敵対するのですか?」

 

 落ち着いた口調であり、敵意も害意も相手にはない。しかし、話す内容は特異点を作った側が分かる事であり、何よりカルデアと言う特異点外の情報を知る事から、この騎士姿の男は自分の敵対者だと藤丸は判断せざるを得ない。

 

「口ぶりから分かることだろうに。特異点殲滅が貴公の役目であり、その心情からも特異点の中で生きる人々を虐げる我等を許せない。首都葦名なぞ、今となっては葦名市民を甚振る為の巨大な強制収容所だ。尤も汎人類史で生きる貴公からすれば、敢えて人類種が意図的に作る聞き慣れた地獄であり、遠い異国の事だと平気で見逃している悲劇の一つでしかないが。

 しかし、それこそ人理の醜さ。

 この様な営みを日常として行う人間の知性と本能を良くしようと、あるいはその醜さをなくそうと世界を変えたいと思い、力を持つ者が人生を賭して行動すれば人間が人間で在る事をやがて許せなくなる。その人類愛は人類悪へ反転し、人類史から生み出た獣性と成り果てる」

 

「分かっています。カルデアが倒した敵―――ゲーティアは善の一つでした」

 

「歴史として今尚、人は人を燃やし続ける。過去から営みを変えられなかった。そして、人が生んだ被造物に燃やされた。人理焼却もまた、人間性から生じた世界の当たり前な悲劇の一つ。

 貴公が今抱く思い、他人の人生を踏み躙る我等を許せないと感じる善なる人の尊厳こそ―――獣の証だよ。

 故、人は皆、獣なのだよ。自らの意志を自分に証明する為、人と言う動物の本質に触れた時こそ、人間性は人として覚醒する」

 

「貴方は、カルデアが間違っていると?」

 

「いや。むしろ、我等の方が人を間違えている。魂にとってどちらも正しいが故、より種族全体の運命に適さぬ方が歴史から排除され、我等の様な汎人類史の異物は糞に等しい汚物として扱われる。

 カルデアの魔術師―――胸を張れ。貴公には、貴公だけの戦う理由がある。

 我等が行う邪悪の本質、その結果をこの先で知る事になるが、貴公が我等を殺す意志を曇らせる必要はない」

 

「分かりました」

 

「戦う訳が互いに在る。しかし、馳走は馳走だ。

 飲み終わるまでは語り合おう。殺し合い等、何時でも出来る」

 

「理屈は把握したよ……で、君の名は何だい?」

 

「ただの灰である。しかし、葦名にて名を得た。同じ灰、同じ簒奪者である同輩へは、凡剣の簒奪者、クレイモアと名乗っている。

 それで、二人の名も聞いておきたい。嫌なら構わんが」

 

「私は褪せ人、狂い火の王。カルデアではニーヒルと名乗っている」

 

「カルデア職員、藤丸立香です」

 

「感謝する。これから私が殺す者、あるいは私を殺して頂ける者との名乗り合いなど、実に贅沢な殺し合いとなった」

 

 そう火の簒奪者となった灰の一人―――凡剣の簒奪者、クレイモアが言い終わると褪せ人はコップの中身である珈琲を飲み干した。藤丸も同じく、緑茶を全て飲み切り、全身に活力が巡り回るのを実感する。

 どうやら体調が頗る良くなったようだ。敵に塩を送るとはこのことであり、藤丸は脳細胞一つ一つを認識する様な思考の冴えと、油を注した精密機械の如き魔術回路の滑らかさを味わっていた。明らかに凡剣灰から貰った緑茶が原因だった。

 

「同意だね。それとほら、コップ返すよ。美味かった、凡剣のクレイモア」

 

「御馳走様でした。美味しかったです……」

 

「ありがとう、二人共」

 

 コップを凡剣灰はソウルに仕舞い、篝火となっていた螺旋剣を薪から引き抜き、それも自分の内側へ収める。火は消え、先程までの穏やかですらあった語り合いの雰囲気も消失する。

 ―――殺すこと。斬ること。

 藤丸は眼前の敵が余りにも自然体で、何気ない仕草で剣を振い、魂に死を悟らせずに殺すのか、何となく力量が肌で感じる。だがそれ以上に、サーヴァント以下の、それこそ自分以下の魔力反応しか感じないのに、本能でさえ恐怖を理解出来ない程の不気味さを藤丸は感じだ。

 感覚は何も訴えない。だが強いと、もしかしたら人理を集めたあの獣より危険なのかもしれないと、藤丸は表現し切れない小さな違和感を感じ、それが真実だと直感的に理解した。

 

「では………やろうか」

 

「ああ、殺し合おう」

 

 凡剣灰はクレイモアを自然体で手に持ち、褪せ人は死体漁りの曲剣を二刀流で構える。藤丸は魔力回路を振わせ、脳裏に召喚するシャドウを戦術眼で以って準備。

 直後―――褪せ人の眼前、刺突の襲撃。

 褪せ人は左曲剣で受け流し、右曲剣で同時に袈裟斬りを行うも、灰は一歩動くだけで軽く避け、そのまま刺突した大剣を振り抜く。それをしゃがみ込むことで褪せ人は避けつつ、下段からの挟み切り。

 灰は跳躍して容易く避け、即座に顔面に向けて蹴りを放つ。それを曲剣の刃で褪せ人は受け止めるも、甲胄の硬さ以外の何かしらの守りがあり、灰の足を切り裂けず、そのまま後方に吹き飛ばされた。灰もまた褪せ人を踏台にし、自身の脚力によって更に跳び、後方へと退避する。

 

「頼む!」

 

 藤丸より召喚されたシャドウサーヴァント。同時三体召喚した上、出し惜しみ無しの即座三重真名解放。

 エクスカリバー。クラレント。フェイルノート。それは円卓の騎士による絶殺網。カルデアのマスターである藤丸に許された必殺の布陣。

 だが灰は何処であろうと、灰。あろうことか、剣の柄を両手に持ち、防御の型で構え、単純に攻撃を真っ向から我慢した。その姿、宛ら竜血を浴びたジークフリートや太陽鎧を纏うカルナだ。灰は神秘に対して高い自身の耐久力と、ソウルと楔石を限界を遥かに超えて使われた騎士甲冑の防御力と、防御能力が原盤強化した大盾を簡単に超過したクレイモアを持った上で―――戦技『我慢』を己がソウルそのもので行った。

 よってただの凡剣を己が魂として鍛え上げた灰のクレイモアは、刃に触れた神秘を絶対的な概念により斬り裂き、身を襲う僅かな余波は完璧に受け流され、極まった体幹によって一切動く事もない。

 そして、藤丸を狙った灰の投げナイフ。褪せ人は咄嗟に投げナイフを狙い、剣を振うことで嵐の斬撃を斬り放って迎撃。

 その瞬間、灰は絵画世界の鴉の騎士に似た瞬間移動染みた動きで踏み込み、藤丸のシャドウに接近。クレイモアを振い、騎士王の顔面を突き穿ち、叛逆の騎士を脳天から股まで両断し、嘆きの騎士を斬首した上で心臓を突き刺した。

 そして、灰のクレイモアに血が纏われた。殺したサーヴァントの霊基と血液を己がソウルで支配し、凶悪な出血の祝福を施し、その上で最初の火による呪術を使う。

 灰の愛剣が―――血色に染まり、燃え上がる。

 もはや流血太陽と呼べるそれは、剣の形をした地獄である。

 

「――――!!」

 

 同時に褪せ人は、右眼へ全力の魔力を込めていた。速度と破壊力に優れ、何より頭部となった黄色太陽が瞳を噴出口に使い、狂い火を奔らせる。

 ―――空裂狂火(フレンジードバースト)

 黄色の火線が伸びる。狂い火の王が放つ黄火は並の褪せ人の祈祷を遥かに超え、兇悪。直撃すれば魂を犯す混沌の病魔が狂気と共に内側から爆裂し、掠る程度でも魂の本質を狂わせて具現化する。

 尤も、灰は―――クレイモアにて狂気を受け入れた。

 空裂狂火を防いだ血に燃える剣は、灰が葦名で学んだ忍びの業により、狂い火を更に纏うことで黄色が混ざる。灰の愛剣は、より悍ましき狂血太陽の凡剣へ進化する。

 

「まだまだぁ!!」

 

 周囲に大源(マナ)が無く、カルデアからのエネルギー供給もない。サーヴァントである褪せ人へ送る魔力すらなく、今は逆にそのサーヴァントからマスターに魔力が逆流する状態。だがその上で藤丸は召喚術式を起動させ、ラインから一人の英霊を呼び出した。

 暗い髑髏の影法師―――山の翁。

 中東地域で曲剣文化が流行する前の、両刃型の大剣。暗殺教団の信仰に基づく装飾が施された大盾。

 ――――死の形だった。

 濃密で在りながら存在感は薄く、だが絶対的な死。

 

「おぉ、死の信仰とは……」

 

 灰は、このサーヴァントのソウルに感動した。死の業、暗殺の心得、祈りの形、殺し続けた技。そして後継であるハサン達の遺志を継ぐ決意。

 だが―――殺す。いや、だからこそ人を殺したい。

 灰にとって殺人とは魂の食餌でもあり、殺戮は大食いでさえあり、他人を深く知り得る為の業である。

 

「―――死告天使(アズライール)

 

 小手先は無意味、且つ全力以外は一刀で返され死亡。本体ならば話は違うが、シャドウとして藤丸に簡易召喚された山の翁の情報体では、あの灰に死は届かない。

 宝具の真名解放―――容易く、素手で逸ら(パリィ)される。

 積み上げた死の数。魂が悟る死の業。繰り返しの中、幾星霜も続けた殺戮の死が灰の技。単純、火と闇を継ぎ、世を繋げた灰は、この世の誰よりも人の魂を祈っている。それは人の生死への祈りであり、断じて神を崇めるのではなく、個の想い。魂となった己が業への感謝であり、魂への憎悪であり、魂への悟りであった。

 そして、体勢が崩れたアサシンの心臓へ、狂血太陽の凡剣を突き刺した。

 即ち、それはクレイモアが死のソウルを覚えたのと同意。また灰はソウルから晩鐘の業を学び、魂が翁の人生を悟る。

 だが―――死なず。

 いや、死んでも動くのが山の翁。

 

死告天使(アズライール)――――」

 

 そも一回目の剣技は囮。二回目の絶死に繋げる為の戦術。アサシンは大盾を手放し、自分の心臓を突き刺す灰の腕を握って拘束し、クレイモアを動かせない状態で斬首の一閃を放った。

 同時、内臓を破裂させる馬脚の前蹴り。

 無論、信仰心から自分の内臓を掻き出している山の翁に壊れる臓器はないが、刃の軌跡を動かすのに十分な衝撃だった。それでもアサシンは決して掴んだ灰を離さず、腕が形を保てず、そのまま引き千切れた。拘束が外れ、灰は自由となる。

 

「―――シッ!」

 

 屍山血河にて――死屍累々。

 褪せ人が両手で振るう血刀より、灰へ左右からほぼ同時二連斬。呪血を纏う刃で以て、血に飢えた奥義を解き放つ。

 それを灰は容易く弾き逸らし、続く三連斬撃もクレイモアは短刀よりも軽く振るわれ、当たり前の様に防ぎ弾いた。

 褪せ人は一瞬で強靭な体幹を刃を通した衝撃で狂わされ、動きが乱れ、その隙を狙った足元を払う回し蹴りを受けてしまう。普段なら耐えられたが完全に体勢が崩れ、地面へとあっさり転んでしまった。

 

「来たれ、混沌」

 

 背後から迫るアサシンの気配を感じ取ると言う、異次元領域の感覚で暗殺を悟り、灰は倒れて隙を晒す褪せ人への致命の一撃を選ばず、敢えて()を纏う左手を地面へと叩き付けた。

 呪術、混沌の嵐。だが火を簒奪した灰の混沌は、イザリスの領域を遥かに超える。周囲を一瞬で溶岩地域に変え、地面から幾本もの火炎柱が焚き登る。

 

「助かった。ありがとう、ライダー」

 

 藤丸は念の為に予備召喚していたメドゥーサの愛馬、ペガサスに乗り、空を飛ぶことで何とか無事だった。

 そして山の翁(アサシン)は気合でまず溶岩に耐え、火柱も気合で回避し、咄嗟に大盾を浮舟代わりにしてマグマの上でも生きていた。褪せ人も何とか無事であり、周囲全ての足元から吹き出る火柱を重力の暗黒波で抑え込み、助けようと振り向いて見たアサシンのアイデアを盗む。彼女はルーンが渦巻く内より大盾を取り出し、重力波を解き、火柱を大波代わりにしてサーフィン染みた奇っ怪な動きで脱出した。

 

「素晴らしき、難敵だ」

 

 敵の強さ、戦術の冴、生存能力に感動した灰は、クレイモアを混沌の溶岩となった地面に突き刺す。

 

「我がクレイモアを触媒にし、古い獣の霧、デーモンの子宮である溶岩、そして命の種となる死んだサーヴァントの霊基情報を、暗黒より狂い混ぜる。

 褪せ人よ……デーモンだよ。

 それらを錬成したら、この混沌より何が生じるか、楽しめそうではないか?」

 

 態々、自分の戦術を開示する必要は灰にない。だが、敵に脅威を味合わせたい。死に、感動して貰いたい。そんな暗い親切心より、灰は恐怖を生み出した。

 望まれぬ生命の誕生。赤子の名―――聖剣のデーモン。

 煮え滾る混沌より、爛れた鎧の悪魔が這い出る。その悪魔へ褪せ人は星砕き(重力魔術)を放ち、自分の曲剣が届く位置まで引き寄せ、二刀で斬る。連続で切り、斬り、生命力を血液ごと噴出させ、膾切りにする。複合的に属性を混ぜ合わせ、限界以上に鍛え上げた神秘血の死体漁り(二刀流曲剣)は、邂逅一瞬でデーモンを一方的に始末した。

 だが、混沌が凝縮する。溶岩全てがクレイモアに集まり、命を生む偽りの火も狂い混ざる。

 その合間で千切れた腕をアサシンは繋げ、髑髏の大盾を構え直す。そのまま灰へ突進し、大盾によるシールドバッシュを敢行。しかし、灰はその大盾を剣の柄で受け止め、柔術を仕掛けるように逸らし、アサシンの体幹を打ち砕く―――とはならず、アサシンは灰が触れる前に盾を手放し、影となって背後へ回っていた。そして褪せ人はそんなアサシンの後ろか灰へ迫っており、この瞬間にて挟み打ちの戦術が成功。

 

「流石は、カルデア」

 

 無論、灰は全てを理解していた。一対多を不得意としたまま存在する不死と違い、一人で多人数を殺戮する闇霊の鏡である灰は、強者からの挟み撃ちなど余りにも慣れ切った状況。

 何よりも凡剣灰にとって、クレイモアを己が身と業で戦う以外の戦術は―――小手先。

 混沌招来によるデーモン創造など、葦名で神秘学を学んだ簒奪者の灰なら誰でも出来る同然の事であり、火を奪った人間の魂にとって普通の業だ。

 クレイモアを振う、その一閃。その剣技。

 人間以外の魂が観測不可能な、人間の魂そのもの足る剣術が、余りにも容易く敵の二人を斬り裂いた。

 

「そうだ、そうで在る。敵ならば、そう在るべきだ。

 ―――諦めるな。

 ―――挫けるな。

 ―――止まるな。

 戦え。戦うのだ。何が何でも戦い、葛藤しようが戦い、愛する人が地獄へ落ちようとも独りで戦え。

 貴公ら、人間なら戦え。人間なら、己が魂を永劫に証明し続けよ。人間の魂を持ち得るなら、同じ人間である私を殺人せよ」

 

 魂を斬り裂く灰のクレイモア。ただ剣を振うだけで当たり前なように神殺しを行い、根源より死の未来を見る直死の魔眼以上に悍ましい魂の死を灰を振うが、所詮は凡剣。究極の人斬り包丁に過ぎず、あらゆるソウルを斬る凶器と言うだけだ。尤も魂を観測する灰は、自分のソウルで相手のソウルを攻撃するのが普通だが。

 しかし、死で在る山の翁は耐えた。

 根源的な死を悟り、むしろ彼の魂は学習した。

 まだ未熟。まだ修練が足りぬ。だがカルデアの旅路に関わり、新たな死の感触を得た。

 

「首を―――出せ」

 

 シャドウに本体からの意識が浮んだ。クレイモアによる切傷より死が魂に流れ込み、アサシンは己が霊基全てを焼却して霊体が崩壊するエネルギーを生み出す。

 ―――死で在った。

 人間が人間を殺す様、星の魂も葬る死が根源より悟られた。

 

「成る程、これが……ッ――」

 

 神殺しの業を持つ鍛冶師が鍛え上げた業物を幾つも持つ褪せ人は、故にクレイモアの恐ろしさを正しく理解する。

 アサシンが覚醒したのも分かったが―――死は、人の業。

 灰もまた、同じ事。葦名で学んだ新たな戦技とサーヴァントの技能により、加速の業にて猟犬の縮地(ステップ)を行い、死と同じ迅速さでアサシンの首斬りを避けながらも背後に回り、致命に届く一刺し。だがアサシンは切腹の動作で自分の胴体ごと背後の灰へ、一突き。灰へ死を叩き込み、アサシンは消滅した。

 それにより生まれた隙を逃がさず、褪せ人は全力を解放。燃え上がる大鎚を構えて突撃し、そのまま轢き続け、灰を引き摺り回す。死ぬまで轢き、呪血にて出血をさせ続け、最後は宙に打ち上げる。

 瞬間―――爆散。

 因果応報の奇跡を無拍子の祈りで灰は自分に仕込んでおり、執拗に苦痛を連続して与える敵へ、苦しみの因果を応報した。何より悪辣にも、灰はクレイモアで攻撃のほぼ全てを防ぎ、敢えて少しばかりの損傷が肉体に入るように防御を調整していた。

 直後―――致命。

 吹き飛び、倒れる褪せ人の心臓をクレイモアで串刺し、更に押し込む。引き抜いた後、もう一撃と顔面に剣を力任せに叩き落とした。しかし、褪せ人も灰と同じく我慢し、相手の攻撃で死ぬ間際で生き延び、倒れた状態で黄金の怒りを解放。尤も灰は、その衝撃波をクレイモアで切り払った。同時に刀身は黄金刃を纏い、更なるエンチャントの深化に至る。

 

「不手際だぞ、褪せ人。私の死に届かなかったのは、戦友の命を無駄にしたと同義だ」

 

「ほざけ、灰。死を克服している癖に、効いた振りするとは、英霊の尊厳を愚弄する行いである。そもそも、その業の至りながら、凡剣を自称するなど詐欺だろうが」

 

「嘘ではないぞ。凡俗で在らねば、貪欲な剣には為れぬ故。だが確かに、すまなかった。手加減し、小手先で遊んでいた。

 我がソウル、我がクレイモア―――味わい給え」

 

 騎士甲冑の灰。火の簒奪者の一。人理を未来へと繋げたカルデアを試す為、待ち受けていた不死―――凡剣の簒奪者、クレイモア。

 彼は剣を構えた。これより、あらゆる剣術が戦技と化し、褪せ人を殺すだろう。

 褪せ人も死体漁り(双曲剣)を構え、敵を垣間見、武の頂きを理解する。眼前の灰はもはや剣聖以上の領域で在らねば、神域を超えた殺戮技巧を魂が認識出来きず、何も理解出来ず、ただ死ぬだけ。そんな業より剣技が放たれる。踏み込みと同時に刃が振り上げられ、褪せ人は受け流そうと動いてしまった。

 防御はクレイモアによって一方的に剥ぎ取られ―――褪せ人は、体勢が崩れた振りを行う。敢えて隙を見せることで攻撃を限定し、次に迫るクレイモアの斬撃に対応しようと動く。だが灰は、その手の戦術眼に手慣れ切っており、先読みによる思考戦は得意中の得意。何よりも変哲もないクレイモアに拘り、同じ灰を同時に何人も殺す手腕を持つ為には、どうしても相手にする敵全員より思考能力が優れていなければならない。

 戦技―――燕返し。

 防御を剥ぎ取り、動きを制限し、回避不可能の魔剣が振るわれる。構えからの二段絶殺。

 戦技―――猟犬のステップ。

 褪せ人は刃の範囲網の出口である後方へ、咄嗟に退避。尤もその手を灰は先読みし、燕返しを振いながらも同じ速度で踏み込んでおり、褪せ人を斬撃から決して逃さない。

 であれば、仕方が無い事。褪せ人は多重次元屈折現象で増えた二刀は二刀流で構える曲剣で防ぎ、残る一刀を潔く受け入れる。これも極限以上に鍛え上げた戦灰『我慢』で何とか耐えるも、命が零れ落ち、自分に死が迫るのを褪せ人は実感する。

 

「ぐぅ……ッッ―――」

 

「―――死、在るのみ」

 

 狼騎士の業であり、灰等にも伝承が伝わる剣技―――跳躍縦回転斬り。

 体幹が総崩れし、瞬間的な回避行動が出来ない褪せ人へ、灰は更なる追撃を無慈悲に、且つ愉し気に叩き込む。左肩から肝臓までクレイモアの刃が斬り裂き、褪せ人は吐血すると共に、臓腑を体外に漏れ落とした。そして灰は刀身を相手の心臓に串刺し、動けない様に体内からソウルを流して拘束した後、褪せ人が被る夜兜を剥ぎ取る。

 

「美しい女の貌だ。芸術品に通じる、手作りの顔だ。しかし、その本性……狂い火の黄色の瞳、混沌を宿す眼球の太陽か。

 あぁ、貴公―――善きソウルだ。素晴しき火だ。

 さぞ、殺したと見える。我等と同様、人の魂の味を覚えた人間性と見える。貴公の魂へ、火に焦げた暗い魂より、その人間性を祝おうぞ」

 

 凡剣の灰(クレイモア)は脳に粘り付く声で、褪せ人の耳元で祝福を唱える。兜の内より、外宇宙の暗黒領域より暗く深い、人の魂だけが発する言霊が彼女の脳内へ入り込み、狂い火となった黄色の太陽頭が痙攣し出す。

 その光景を見て、藤丸が彼女を助けない訳がない。

 シャドウサーヴァントを六騎も再召喚し、自分のサーヴァントを救い出そうとし―――

 

「送還」

 

 ―――灰のその一言で、藤丸が簡易召喚した英霊は特異点から退去した。

 

「……ッ――ゲー、ティア?」

 

「否。だが剣狂いの灰でしかない私だが、あの悪魔よりソウルの業は学んでいる。貴公の、つまりはカルデアの召喚術を我等に対し、正常に使うのは酷く難しいぞ。

 これは魔術王が飼う獣の業に非ず。人間ならば、修練で誰でも使える普遍的な神秘の技術だ。しかし、殺し合うを愉しむには下の下の手段である故、非常につまらない。それはそれとして、灰共がこのような手段を全員が使える事を貴公には知っておいて貰いたい。

 はぁ……だが全く、戦闘中の長話は宜しくない。

 役目故、仕方がないが……魂の感触だけを刃にて感じ続けたいのだがな」

 

「何なんだ、おまえは……!?」

 

「火を簒奪した灰だ。そして、貴公と同じ人間だよ。唯の、当たり前な、其処らの人間と同じ魂だよ。少々クレイモアが好きだが……何、好きな存在(モノ)に拘るのも人心を持つ証だろう」

 

 暗い簒奪者の手(ダークハンド)で褪せ人の首を握り、空間を歪めて拘束し、右手にクレイモアを握って灰は近付く。

 

「……うむ。駄目だな。貴公、運命の力が絶望に負けておる。

 あの灰より暗い接吻を受け、獣狩りの宿業に打ち勝つのだろうが、まだ助けが入らない」

 

 残念そうな雰囲気で灰はクレイモアをソウル内に収め、灰は右手に黄金色の瓶を取り出し、その液体を褪せ人に振り掛ける。魂だけは助け、彼女のルーンが破砕しない様にしたが、抵抗可能なまで命を回復させはしなかった。

 

「世界を救ったと言うに、まだ意志の力が弱いのか……いや、そうだったな。

 そもそも抑止力もなく、人類種からの後押しもなく、貴公を生かそうとする全人類からの祈りも此処には届かない。人類史を尊ぶ人の身勝手な願いも聞こえない。

 此処では、貴公自身の意志が大切だ。心を強く持ち、魂を強く在れ。

 力の強弱は運命には関係無い。仲間を信じる人間性が、貴公が信じる者に宿る人間性へ呼び掛ける」

 

「………」

 

 統一言語よりも重く、深く、人の魂に語り掛ける灰の声。強く在れと言われ、藤丸は魂より強く在りたいと思い、眼前の恐怖に負けそうな自分の心を、その恐怖そのものが勇気を持てと震わせる。

 

「貴公の内にて、愛する者の姿を浮かべよ」

 

 盾を構える姿。何時も見守る少女の後ろ姿。幾度も命を救ってくれた彼の命、彼の運命、彼の相棒。世界の為、カルデアの為、彼を護る為の英雄と為る藤丸立香のサーヴァント。

 藤丸立香が一番最初に自然と浮かんだのが、彼女であった。彼女の後ろ姿にこそ、躊躇いなく彼は愛を抱いていた。

 

 

「マシュ……!」

 

「あー……すまぬ、カルデアのマスター。

 助けに来た余、期待のキリエライトでなく、暗帝だ」

 

 

 暗黒なる一閃。極まった剣術。そして褪せ人を助け出し、藤丸の隣にまで移動した女こそ―――暗帝だった。

 同時に褪せ人を握る灰の腕を切り落とした後、暗帝は酷くつまらなそうな顔で藤丸に姿を見せた。灰の背後からの攻撃を可能にしたのは、相手を殺すつもりがない人助けの為の斬撃だったか、あるいはソウルの業と狩人の業などを学んだ御蔭か。それとも、今までの旅路が尋常ではない地獄だった所為か。

 ともあれ、藤丸は助かった。凡剣灰が望んだ通り、人理も関係無く、アラヤの後押しもなく、彼自身の魂の本質が呼び寄せた必然の奇跡であった。

 

「ローマ特異点の、ネロ皇帝!?」

 

「うむ。貴様の怨敵にして、偉大過ぎてやはり偉大な皇帝である」

 

「やっぱりネロちゃまじゃん!!」

 

「え、カルデアの余ってそう言う雰囲気なのか?

 ともあれ、あれだ……――おい、褪せ人。その様、その負け姿、灰が本気なればマスターを死なせておったが?」

 

「そうは言うが暗帝、あの灰は私より殺し合いの経験を積んでいるのだよ。君だって勝てないだろう?」

 

「まぁ、そうだが」

 

 聖杯瓶を飲み、全回復した褪せ人は夜鎧を着直し、友人である暗帝と奇跡的な再会したと言うのに平然と泣言を吐露した。

 しかし、不気味なのは腕を切り落とされ、褪せ人を奪われたと言うのに、灰は身動きをしない。攻撃に移行せず、ソウルの内よりクレイモアを出す素振りも見せない。

 

「―――素晴しい。貴公は勇者である。正しく人間の鏡だ。

 藤丸立香、決して己を勘違いするではないぞ。必然となった奇跡は偶然でなく、貴公が自力で出した賽の目だ。運命が貴公を生かしているのではない。運命に手を抉り込み、貴公が意志によって死の可能性を剪定した」

 

 抑えていたソウルの存在感を解放し、灰は愉しいと言う人間性を剥き出しにする。エンチャントを切ったクレイモアを何時のか握り持ち、一歩、また一歩、気配を強めながら三人に近付いた。

 

「そして暗帝、貴公が此処に在るならば、貴公の愛する魔女もまた居ると言う訳だ」

 

「うむ! 相思相愛、魔女も余を愛しておる!!」

 

 満面の笑みを浮かべ、誰もが見惚れる美を暗帝は体現する。葦名にて人間性を得て感情も取り戻し、人の笑顔に感動する感性が戻っている灰は、思わず暗帝を可愛いな感じ取り、思考を一瞬だけ意図的に止めた。何故なら、可愛い女を素直に可愛いと思える事が、素晴しき感動に他ならない。

 なら、欲しいと考える。この世で一番素晴しき存在は人間の魂であり、人間そのものが美しい。暗帝のソウルを手に入れるのは、己が魂に善い行い。灰を召喚したあの灰が、地獄より生み出した灰達の為の贈り物。

 

 

「――――吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!!」

 

 









 読んで頂き、有難う御座いました。
 灰が葦名に召喚した灰の一人でありますので、ぶっちゃけると沢山居る内のネームドモブ灰の一人です。後、ロスリックで対人戦をずっとやってるタイプの灰しか召喚されず、言うなれば最初の火を継いでも人殺しが止められない連中ですので、対人も攻略も箆棒に強い設定になってます。

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