血液由来の所長   作:サイトー

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 勝利、友情、努力!
 世界は素晴しく、人間は頑張れる生き物です!!


啓蒙81:汎人類史の火

 百の極光が一点に収束し、凝縮し、加速する。時空間を圧倒的な概念規模で粉砕し、貫通しながら軌道上のソウルを破壊する。

 魔術の名―――ソウルの奔流。

 束ねられた魂の光。その魂を破砕する百の波動。呼び出された灰達が放つ熱的光帯。触れてしまった魂の因果律、あるいは運命力をも絶滅させる。

 一本一本が神殺しを可能とする魂砕きの魔術であり、物理的にあらゆる生命の魂を肉体ごと破砕するソウルの業の秘奥である。対魂魔術として考えた場合、死よりも悲惨な損害を魂に与え、不死ではない只の人間が受ければ魔法による死者蘇生の奇跡も不可能とする事だろう。

 宝具「誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)」に物理的な破壊力は到底届きはせず、第一の獣のように星を貫き壊す事など火の簒奪者には不可能だが、やはり魂に対する破壊力は絶対的だ。生半可な不死性では、その不死性ごと強引に消炭となる。もはや火を簒奪した灰は、ソウルの業による魔術さえ月を司る白竜を超える。魂を力技で破砕する一点において、奔流に届く宝具は人理の世で観測される事はまず有り得ない。

 

反動展開(ロード)()人理深淵(カルデアス)―――」

 

 静かな盾騎士の一言。十字盾の周りに黒文字の暗い魔法陣が浮かび上がり、味方全員を覆う程の暗い膜が周囲に展開される。

 それは彼女の人間性の具現化であり、絶対に守り通す意志の在り方。

 だがもはや闇に染まり、聖十字の盾に聖騎士の祝福はなく、暗くなった盾騎士の魂が全てを汚染し尽くした。

 

「―――流石です。貴女こそ、人間の可能性です。

 当たれば魂が根源に還る事も許さず破壊する灰の魔術。魔法による蘇生も不可能な程に魂を砕く奔流の神秘を、百を超えるそれを同時に防ぐとは」

 

 死灰の灰(アッシュ・ワン)は求めていた光景を実際に観測し、己のソウルが深化する実感を得る。それは他の火の簒奪者も同様であり、爛々とした暗い瞳で盾騎士の奮闘を喜んでいる。

 この業を簒奪したい。新しい力を手に入れたい。

 今を生きる意味であり、可能性こそ最大の娯楽。

 もっと見せて欲しいと簒奪者の灰達は、一人一人が自分の放つソウルの奔流に魔力を装填し、より凄まじく魂を撃ち砕く威力にしようと魔術を強めた。

 

「相変わらずの硬女です。しかも、イイトコ総取りと来ました。

 私なんて、顔面うんこ。今も糞臭い。

 灰連中相手にすると糞団子はお決まりなのは知ってるけど、あー……今回は私が外れかぁ……」

 

 葦名特異点では、幾人ものサーヴァントが糞呪の簒奪者が作成した糞団子で息絶えた。魂を汚す猛毒は英霊と言う存在にとって、アンリ・マユの呪泥やティアマトの混沌よりも致命的。糞塗れとなって悶え苦しみ抜いた挙げ句、惨い姿で死ぬのは余りにも酷かった。とても胸に迫る英雄の悲劇だった。

 尤も戦場において、人糞は非常に有効な殺人兵器。古くから人間は糞を使って人を殺している。惨い戦乱を生きた英雄ならば、敵に奪われるのならばと、自領の村の井戸に糞を投げ入れる程度の戦略は取る。糞団子と言う武器に疑問はない。

 それはそれとして、魔女は糞団子が当たった運の無さを悲嘆した。一気に精神が老け込む。灰達の極光から皆を守る為、一人奮闘する盾騎士に、狩人に狩られて死んだ漁村民の瞳で魔女は気怠げに絡んでいた。

 

「ちょっと、ダルクさん。防御中で身動き出来ない時、肩を組まないでと言いましたよね。

 後、糞呪の糞団子の残り香が凄いです。下水路で水泳しても、そこまでヤバくないですので、シャワー浴びるまで私に触らないで下さい」

 

「酷い、酷過ぎる!!」

 

「こらジャンヌ、マシュの邪魔しないの」

 

「あれ、マスター。私の事、ナチュラルにクソガキ扱いしてない?」

 

「ふははははは、糞だけにか!

 魔女よ、貴様は中々に上手い事を言うではないか」

 

「マジ殺す」

 

「呑気ねぇ……ま、未来視しても危機ないから、私も一息しちゃってるけど。今の内に輸血しよ。後、目玉マッサージして瞳に溜まった啓蒙(コリ)(ホグ)しておこう」

 

「所長、目が痛いのですか?」

 

「痛くはないわよ、藤丸。使い過ぎると、変異するかもだけど」

 

「キリエライト殿、守り忝なく……有り難い」

 

「どういたしまして。この中だと、常識人は狼さんだけですね」

 

「ちょっと、私も常識人寄りの褪せ人だぞっと」

 

「頭狂い火が何言ってんだか。むしろ、常識が褪せてるのでは?」

 

「―――で、どうする?

 彼奴等、まだ撃ってきてるんだけど……てか、何か長くない?

 流石の灰連中でも、これちょっと可笑しい。節約してずっと撃ってる訳でもなさそうなのに。糞団子洗いたいから、早くキャンプ地に戻ってシャワー浴びたいんだけど」

 

「そうよな。ソウルの奔流、魔力消費が早い筈なのだが……余だとこの消費量、十秒でバテる」

 

「すみません。言ってないですが、護り籠もると詰む場合がありまして……私が弾き飛ばして霧散したソウルを、また加速運用する回路で即座吸収して撃ってるみたいです。灰はソウルの業に適合した独自進化した魔術回路を得てますから、こう言う使い方も葦名で学んだようですね。

 言わば、加速循環ですね。灰の一人がこれを、アオザキ魔力加速理論として葦名大学の学会で発表してました」

 

「と言う事は、キリエライト。出口ないの?」

 

「ないですね、アニムスフィア。相手が一人なら何とかなりますが、百人分の攻撃範囲に加え、厄介なのは百人分の観測範囲って話です。逃げ場の作り様が無いのです。

 ―――で、私は気張るのも限界があります。

 良い脱出案を誰でも良いので、今この場で思い付いてくれると助かります」

 

「…………」

 

 圧倒的な絶望の死。今はそんな状況の筈なのに、周りの雰囲気の所為で藤丸は危機感を感じながらも、死の恐怖で焦れる心境に陥り、首元に迫った断頭刃に対して苦悶することはなかった。

 とは言え、打開策がないのも事実。

 また、あの灰がこの膠着状態を予想していない訳がないと藤丸は考え、早くしないと向こう側からのもう一押しが来るだろうとも予測した。

 

「余、良い方法を思い付いた。

 まず魔女が服を脱ぎ、全裸となって太陽万ざ――」

 

「不死の老害が。まずはアンタの裸体で実践しろ。

 魔女と嘲られる私でも、血に悪酔いし、僅かばかりの品性まで瞳に蕩けさせてないわ」

 

「――本人から却下されたので、無しだ。

 結構、これで殺し合いが中断することもあるのだがな。仕方無い、芸術の君臨者にして美の化身たる余が、直々にやるしかあるまい」

 

「暗帝殿……静粛に、頼む」

 

「鯉口切りながら、言うな。貴様がチャキチャキ刀を鳴らすと、こっちもリズムに乗りたくなるのだ。

 だか、謝ろう。頑張っておる盾兵(スクタリ)にも悪いしな。では、第二プランだ。ぶっちゃけ、ワープすれば良くないか?」

 

「無理ね。ソウルの霧を使った結界が張られてるわ。ここまで来ると次元断裂ではないかしら」

 

「魂を持つ生物は通れんと……」

 

「仕方無いわ、キリエライト。まだ時間掛りそうだから、もうちょっと耐えて。はい、気力が回復する鐘の音ね」

 

 所長が手持ち小鐘を鳴らすと盾騎士の魔力、体力、体幹が回復し、序でに防御態勢を維持するするこで発生し続ける精神的疲労が癒えた。

 

「……どうも、アニムスフィア。後、数十秒は持ちます。ですが百人分の奔流を受けてますので、表に出してます私の暗黒面がジワジワと浄化されます。全力で急いで下さいね」

 

「オーケー。喋りながらもスパコン以上に思考回路は働かせて考えてるから、安心して守ってなさい……―――ッハ!

 私、良い案を思い付きました。

 やっぱり暗帝の言っていたワープにしましょう。霧に境目に孔を開ければ、外側に空間転移が出来る筈だわ」

 

 思考力を上げる為、細長い思考の紐の乾物を齧っていた所長は、ソウルの霧に人の魂が通れる空洞を穿つ方法を思い付く。

 

「どうやるのだね、オルガマリー。いざとなれば呪血の秘奥、数え上げる呪いを解き放つが?」

 

「駄目です、褪せ人。見た事ないけど、灰連中にも効く様にすると、敵味方も問答無用で皆殺しになる。私は一度、それで死ぬのも気分が良いけど、藤丸が出血大サービス死しますので」

 

「安心しな。上手くやるぞ。ニーヒルなんて名乗ってるからな。だがしないで済むなら、貴公の案で良いのである」

 

「ありがとう、良いサーヴァントしてるのね。ま、失敗しないとは思わないけど、いざって時の為に構えておいて」

 

 所長は目を閉じる。思考の瞳も同時に塞ぎ、脳が外部の情報を得ず、夢が現実から完全隔離された。彼女は灰共が管理するソウルの霧へと自意識を融かし、ソウルの霧を自分の夢の霧として認識する。

 ―――結界、螺旋狂鏡面。所長が啓蒙された神秘の銘。

 原初は要人が、古い獣から啓蒙されたソウルの業。それが灰の生まれた世界において、白竜シースが啓蒙され、太陽由来の奇跡と相克する月由来の魔術と言う技術体系が創造された。灰が使っていたその魔術は人理の世に来ることにより、根源到達によって魔術基盤「ソウルの業」の概念を宇宙の外側より生み出し、魔術回路でも使用可能なマギクラフトとしての側面を得ていた。その神秘は他基盤と違って一人一人の魂から生み出る力であり、ある意味で全員が個人基盤を独占した状態で使っている。故、灰共は魂が修めるソウルの業によっても回路より「ソウルの業」を使い、他基盤神秘も乱用する魔術師兼呪術師と化し、葦名大学にて神秘の暴虐と成り果てる。悍ましきは深化し続ける灰共の貪欲な知識欲だった。ソウルの業に、人理の人類種が作った現代魔術は勿論、神代で神より人が啓蒙された神代魔術も取り込み、より古い時代の魔術が存在しない全てが魔法だった頃の神秘も集積されている。

 即ち、結界には日本独自の魔術基盤、陰陽道と鬼道の神秘が使われていた。

 

〝宇宙の外―――……あぁ、星並ぶ銀河、最も美しき曼荼羅模様。

 それを作り出す場所。私の魂はきっと、この美しい宙を美しいと思う為に、星の魂が巡る美しさを観測する為、根源よりこの宙へ流れ落ちた。暇な時、また夢の中より旅するのも愉しいけど、時を止めた思考内だろうと、今は浸る時ではない”

 

 魂より記録を啓蒙され、所長の意識が領域外に飛び掛けるも、凶悪なまでに強固な意識と、人類全ての精神を発狂死させる程に膨れ上がる狂気を封じた夢見る脳によって、現実に平然と彼女は居続ける。

 その結果、とある事実を知る。この特異点の日本で召喚されたサーヴァントの霊基情報は全て灰が簒奪し、古い獣の霧もまた死んだ全てのソウルを記録することでデーモンを生み出し、サーヴァントは古い獣を擬似的な座として魂を霧から複製・改竄・進化した状態で再誕召喚される。

 よって特異点に満ちるソウルの霧は、拡張された擬似的座と言える。それを瞳で観測することで、何かしら所長は啓蒙されるかもしれないと深く入り――――――

 

〝―――――――”

 

 ――――古い獣を、見た。白い岸、浅い湖面。瞳を啓く間際の獣。目覚める直前の、半覚醒状態の、まだ現実を世界と認識していない夢の微睡(まどろ)み。

 しかし、この葦名特異点では見慣れた狂気。

 魂が捻れ狂う獣性を愉しみ、その夢から視線を逸らし、霧の中に記憶されたソウルの霊基情報を閲覧する。

 

〝これと……これと、これとこれ。後、これと最後にこれ。

 半端に魔術基盤を使って結界の魔術理論なんてロジックを組むから、隙間が生まれる。パワーで押し返すしかないゴリ押しが一番。

 尤も、相手がゴリ押しを受け逸らすテクニックとそれに必要なパワーがあれば、灰の御遊びが正解なんだろうけど”

 

 蘆屋道満、怨霊太陽。テスカトリポカ、暗黒太陽。ガウェイン、聖剣太陽。カルナ、梵天太陽。卑弥呼、天命太陽。玉藻前、九尾太陽。それは六つの日が放つ火。

 太陽の知識を星見の瞳が脳へ啓蒙し、その概念を水銀弾へ注ぎ込む。

 魔術師として宇宙の外さえも夢見る埒外の瞳を持つ魔術師(オルガマリー)は、デモンズソウルより素晴しき煌く星を観測したことで、灰達のソウルが宿す最初の火が取り込んだ神秘をも理解した。

 

「じゃあ皆、キリエライトが守ってるこの時空間域に孔を開けるから、ちょっと耳だけ塞いでおいて。鼓膜破れるので」

 

 愛銃の血族短銃(エヴェリン)に概念を込めた。それは魔力でも術式でもなく、所長は存在に新たな意味を与えた。太陽で在れ、と水銀弾が火と成り果てた。

 ―――遺志を啓蒙すること。

 英雄と言う死人が死後、英霊と化すその遺志を、血に依って所長は具現した。

 正に芸術的技巧。美しさを感じる魔術の腕前。概念を仕立て上げる様は、繊細にして精密、且つ迅速であり、轆轤を回して粘土を捏ねる陶芸家。

 謂わば、魔術の太陽。神秘の火。

 汎人類史が夢見る太陽の瞳孔だ。

 所長はエヴェリンから太陽水銀弾を何も無く虚空へ撃ち、だが宇宙そのものである時空間に命中させ、特異点内の座標点と座標点を空洞による線で結び付けた。

 

「良し、ここから脱出ね。一瞬だけど、真空無重力空間を通るから、足止めると大気圧に抵抗する体内からの圧力と水分沸騰で自己崩壊するから注意しなさい。それとキリエライト、貴女は守りを維持しながら最後に思いっ切り、この孔へ飛び込みなさい。

 最後に言うけど……足、止めるのは駄目だから、ね?」

 

 所長はそう言うと飛び込み、それに他の者も一斉に続き、藤丸は盾騎士の後ろ姿を見た後、褪せ人に抱えられながら孔を通った。

 ―――宇宙。蒼白く燃える星の流星群。

 恒星が渦を為して銀河を作り、その幾つもの銀河も更に渦巻き、余りにも巨大な不可視の何者かが星々を並べ、実験を行っていた。夢見る光景であり、それは夢だからこその不可思議。

 星だ。輝ける悪夢の星海。美しい脳神経の繋がりに似た光の渦巻。

 宇宙とは地獄でも天国でもなく、魂を持つ星が浮ぶ暗い海だった。

 星が魂を持つ知性体だからこそ、星の上では魂を持つ命が生れる。

 この悪夢の宙は、完璧な曼荼羅を模した夢見る意識の宇宙である。

 藤丸は、啓蒙された。その空の途を通り、脳が僅かに拓けてしまった。瞳が啓き、思考が煌き、赤い血液が流れる蒼白い血管のような、赤いこそ青い宙を妄想し、朱月が蒼白い血に染まった眼球に見え、思考回路が真っ白い白紙の白痴に深化する。

 

「―――皆さん、御無事で何よりです」

 

 最後の盾騎士が途を通った後、孔は一瞬だけ燃えた後に直ぐ消える。孔を通る時に守り消す瞬間、少しソウルの奔流を受けたからか、盾騎士の十字盾は赤色に熱し上がり、彼女の強化アーマードスーツも焦げていたが、火傷以外の分かり易い怪我はしていなかった。

 

「それでアニムスフィア、此処は何処ですか?」

 

「グレートウォールが走る関東平野管理地、サイタマ殺戮区画よ。私と隻狼がキャンプ地にしてる地下秘密基地の近くね」

 

「うわ、あのサイタマですか。ニューライフデスサイタマの連中がいる場所ですよね?」

 

「デスサイタマの奴等は私達が皆殺しにしました」

 

「葦名大学附属軍事企業アシナビットの営業傭兵、アシナビットマンの横流し品の、結構な作りの粗製品を持ってたを思うのですが」

 

「隻狼はロボット斬りも手慣れたものよ。後、私が魔術要塞化した榴弾砲搭載式機関銃装甲車で殲滅しました」

 

「あぁ……あの噂の、アシナカートの元ネタは貴女でしたか」

 

「そう言う事よ、盾騎士のキリエライト。とは言えね、此処の住人は霧を吸って一度でも死ぬと、不死の人間に再誕するので、皆殺しって言っても今も何処かで生きてるわよ。

 ま、遺志よりデスサイタマしてる時の記憶を奪ってるから、ある意味で生まれ変わりでしょうがね。

 なので藤丸、死ぬと死ねなくなるから気を付けてね。此処の住人は特異点消滅をすれば、その不死の因果律から抜けられるけど、外から来た藤丸は別。永遠を生きたいのなら死ぬのも良いけど、この宇宙が牢獄となって根源の星幽界に魂が還れなくなるので注意してね」

 

「良く分からないけど、分かりました。つまりは何時も通り、命は一つ、命大事にってことですね!」

 

「―――パーフェクトよ、藤丸。

 どうやら私が求める仕事のスタイルに、完璧なカルデア職員に成長したみたいだわ」

 

「感謝の極みです、所長」

 

「ふふ、分かってるじゃない。ベリルが持ってた漫画の―――……は?

 え、なにこれ……核熱反応?

 まさか、まさかまさか―――冗談じゃないわ!!?」

 

 遥か先の上空に瞳を向けた所長は、貌を蒼褪めて意味不明な独り言を放った。冷戦時代のソビエト連邦とアメリカ合衆国が主軸となって繰り返した狂気が何故か啓蒙され、ドラゴンの上でソレを構える女の姿を見てしまった。

 

「キリエライト、もう一度!!」

 

「あの元凶、人を何処までも!!

 ―――反動展開(ロード)()人理深淵(カルデアス)!!!」

 

 上空から堕ちる太陽の火に盾騎士は立ち向かい、背後の仲間を守る為、自身の魂と化した絶望と失望で深まり続ける暗黒面を顕現させた。

 

 

 

 

―――◇<◆>◇―――

 

 

 

 

 上空一万メートル。地上で最も高い山よりも宙に近い場所。死灰(しかい)(ばい)のアッシュ・ワンは戦神(せんしん)(ばい)のネームレスキングと共に、竜に乗って飛んでいた。鳥類に似る奇形のドラゴンは、この葦名で数多の竜種と異星生物の細胞で錬成して作られた嵐の王であり、灰はその上でとある兵器を地上に向けて構えていた。

 しかし、まだ発射空域に着いていない。ソウル抑制と隠密、加えて見えない体の魔術によって完璧なステルス飛行を行い、ドラゴンは認知不可能な未確認飛行物体となって二人を乗せて飛んでいる。

 

「個人兵装用戦術核弾頭、デイビー・クロケット。撃った歩兵も核爆発の範囲となる自爆殺戮兵器です。

 我々簒奪の灰からしましたら、英霊にダメージを与えられない糞団子以下の軍事製品ですが……人殺しの道具としては、生命尊厳を冒涜する人類史の自滅兵器です。

 まぁ、ソウルを注ぎ、魔術で概念武装化してますので、私が使えば対都宝具にはなるのですがね。化学兵器、ブラフマーストラとでも思って下さい」

 

「―――――」

 

「溜め息とは、傷付きますね。戦神さんも、人理の人類種が文明より見出した火に、興味が無い訳ではないでしょう?」

 

「人が、人を殺す為の道具だ。業により神も殺せるが、此処の人間は自分達の能力で管理し切れぬ太陽の焔を生んだだけだ」

 

「これもまた―――火です」

 

「人が作った火。文明の進化を尊ぶ人間性より、誕生した火。それは、我とて分かっておる」

 

「しかし、核兵器で人を殺した人類史の人間種には、一人の人間として失望しました。死のない不死を一度殺すのではなく、同じ寿命のある人間をこんな物で殺すなど。

 あぁ、まさか自らの人間性に従い、人を殺した殺戮者が神みたいな言い訳をするとは。

 太陽の火を手に入れ、それを人殺しの道具にしておきながら……平和の為、戦争を終らせる為と、真顔で欺瞞を垂れ流す人間社会の本質。その上、その殺戮を見せ付け、殺戮行為を脅迫道具にし、貴族の国が奴隷の国を貪る人間と言う群れの本質。火による平和を一人でも信じる者がいる限り、あるいはその欺瞞を利用する人間がいる限り、人は火に囚われ、神のように火の奴隷となるでしょう。

 人が、神と同じ神性に近寄る人間性を手に入れた世界が、この星の運命でしたね。

 いけません。実に、いけません。

 火を一度でもそう使ったとなれば、汎人類史の末路もお察しではないですか。とは言え、その終末を乗り越えてこその人類であり、また次の終末を自分達で作り出し、また乗り越えるのです。正しく自業自得、悪因悪果の進化方法と言えましょう」

 

 この星の人間が、そんな哀れで馬鹿な人間性が、灰は見ていて飽きなかった。きっと、この様が在りの儘の魂なのだと正しく理解し、人間社会をソウルで正すことはしなかった。

 何故なら、個人で世界を正せば、それもまた欺瞞の火だ。文明をソウルの業で導くことも出来たが、それを灰が行えば火を使って人を管理した神と同じになる矛盾。神となった闇の一匹、グウィンが個人の意思で定めた独善の正しさで、世界を火で歪めたように。

 だから正しさとは善であり、故に獣性だ。

 核兵器によって星で生きる人の社会は変容したが、それは誰もが自分自身に対して良かれと思って生きた故。数多の人間が己へと為す善行によって今の文明が出来上がる。

 ならば灰も、自らの善性に従い、人理の人々が在るが儘に、星の上で進化する魂の在り方を見守ることにした。剪定事象と言う管理基準は灰の人間性が気に入らず、惑星のソウルを簒奪しようかとも迷うも―――それは、この星で生まれた人の定め。

 最初の火を奪った人間として、此処の人がやがて奪い取る世界の魂を横取りするのは人間性を悖り、未来にて自分が行った火の簒奪が無価値になる。

 

「しかし、だからこそ私はその人間性を克服すると信じています。

 自分達が造ったもので自分達を管理し、それ故の、自分達を自分達が進化する為の脅威とする自己進化の矛盾。宗教による殺戮の支配からある程度は脱した現行社会を見れば、やがて核による抑止の支配からも脱するでしょう。

 嘗ての人類種の天敵とは、飢餓、疫病、戦争の三つ。それを今やある程度は克服したならば、自分達で作った核と言う新たな文明の天敵も克服すると、魂より私は信じましょう。

 きっと、人ならば、出来る筈です。

 星を滅ぼすことで、星が夢見る人理にきっと、この人類は届く筈です。

 太陽は真に、汎人類史の火となると!!」

 

「肯定しよう。暗い魂を尊ぶ我等の人間性と、この星のソウルが見守る人類種の人間性は、やはり異なる」

 

「でもね、それも所詮は戯言です。どうでも良い只の事実です。魂の本質は、そう言う話からは程遠いのです。核技術は人の創る太陽ですが、魂を歪める欺瞞ではなく、原因はその太陽で人を殺す人そのものが欺瞞と化していることです。最初の火は罪でも嘘でもなく、只の火で在る様、汎人類史の火も最初の火と同じ世界を照らす光でしかない訳です。

 神は火より生まれ、だが火を人は作れるのです。

 人は自らを薪にして、人の世を照らす光となるのです。

 私が最初の火を簒奪したように、人理の人も空より火を簒奪しましょう」

 

「成る程。貴公、愛そうとはしたのか」

 

「人間ですからねぇ……ふふふ。愛してみたいとは、考えました。結局、私の魂は憐れみも、慈しみも、何も思えませんでしたがね。

 そう言うものだとは、判断出来る思考回路は有りますのに、心が動かないのは不可思議な話です。とは言え、脳の作りは同じ生物ですので、ソウルを使わずとも何時か人間らしさを自前で取り戻したいものです。不死となる前、あるいは不死となって幾度も死んで人間性が死を受け入れる前、確かな私が魂の中にあった筈でしたから」

 

「我も似たようなものだ。祈りの果て、戦神を模す人間性に辿り着き、もはや戦神本人を五感を閉じて殺せる程に彼のソウルと共鳴しておるが、所詮は神真似遊戯だ。

 しかして、我はそれしかない。

 最初の火、始まりの雷を得て、我が祈りは魂の根源へ届いてしまった。闇も火も魂からすれば、同じ価値しかなく、ただ選ぶ事が本質だった。尤も、それは貴公が召喚した全ての灰に共通するがな」

 

「感謝していますよ、戦神」

 

「否。感謝するは我等の方だ。既に幾つもの星のソウルを貪った古い獣であり、数多の世が手遅れとなるも、根源へ至る前に仕留める事が出来そうだ。

 敵を頂くのは、有り難い幸運だ。貴公は最初の火の使い途を、我等に啓蒙した。

 人の世を守り続ける為、幾つかの世を贄にするしかなかったあの悪魔殺しも、この葦名にて僅かばかりは報われよう」

 

「はい。ですので、キリエライトさんには試練が必要となりました。人類が生み出す最悪の災厄、殺戮の火を十字盾で覚える事が大切なのです」

 

「人の世の為ではなく、人の魂の為に、貴公は人類史の邪悪で以て彼女の善性を証明する。

 人理の人間は、貴公の救世(グゼ)を理解出来まい。

 悪で在らねば、獣より人は救えぬ道理を、永劫に解るまい」

 

「闇より這い出る善い魂なのです。きっと彼女は、死に切れぬ不死の遺志を継いでくれましょう。

 それに私は、自分の魂の為にしていますから。悪いことは悪い人として、悪徳や罪科も生々しく愉しむ人間性を此方で得ましたしね」

 

「殺人の業は座の英霊と変わらず。むしろ、魂を根源に還す此方側の殺人行為の方が……いや、生命は生命か。

 命に是非を問う等、魂を貪る我ら灰に資格無し。

 殺し合いを愉しむ為の、消耗品。それで良いか」

 

「我々は、命に見放された魂でありますから」

 

 発射地点。遥か眼下、荒野に居る七人。

 

「だから、安心して下さい。今の憐れな樣に失望するのは人として正しく、絶望も素晴らしい感情ですが、それは未来にて人がより善き文明の火で星を焼き払う為の犠牲です。人が進化するために、人が人を薪にして人理を輝かせるため、今を生きる命を焼いているのです。でなければ、歴史に殺されていった魂に価値は生まれず、その最果ての未来にて、人間が殺戮した人間の価値が決まります。

 犠牲を良しとする人間性は気色悪く、私はとても嫌いですが、この星がその有り様を良しとして人と言う我が子を許し、それに人もまた甘えている様は、一人の不死として見るに耐えないのです」

 

 破壊兵器、水素爆弾(ハイドロゲン)

 あるいは、核熱兵器(サーモニュークリア)

 戦術核兵器に搭載されているのは、現行人類史における最悪の小型戦略核弾頭。爆縮レンズにより核分裂連鎖反応を生じさせる臨界状態を引き起こし、それを基点に核融合反応を起こす物質を追加することによって爆破能力を向上させる兵器だった。

 それを未来におけるカルデアの科学力と神代魔術を使い、大幅な小型を行い、ソウルの業によって科学兵器に火を宿らせる。爆破する少量の核分裂物質と連鎖核熱する核融合物質により、汎人類史冷戦時代に開発された戦略核弾頭に匹敵する個人兵装を葦名大学研究機関は作り上げてしまった。理論上、更なる核融合反応を引き起こし、惑星を物理的に破壊する事も可能となる。

 何より既に、実験済みだ。剪定事象となった異星生物が目覚めた世界、あるいはアリストテレスが襲来する未来。灰により、肉体ごと魂をこの兵器で粉砕された星が生む一が多くいる。既に惑星の命が尽き、魂が燃え終わる寸前の人理無き完璧な人代は、灰によって宇宙生物から救われ、星が死んでも生き延びる人間を気色悪く思った地球の殺意によって人類は滅ぼされた。

 その悪夢―――無反動砲より発射された。

 十キロ以上離れた地面に撃たれ、十秒後に爆裂する地獄。

 

「聞こえているのでしょう、オルガマリー?

 私から貴女へ贈る鎮魂火……――汎人類史の火ですよ」

 

 遺志宿る夢へ、祝福を。

 悪夢見る魂へ、啓蒙を。

 

 

 

―――◇<●>◇―――

 

 

 

 核熱反応。原子が炸裂し、火が放たれた。地表を抉り取る純粋な破壊エネルギーに魔力が宿り、ソウルが奔流となって熱波に流れる。大地を破壊する火力は、地球を殺してでも繁栄と生存を求める今の人類種の人間性そのものと言え、最悪の地獄を生み出し続ける汎人類史の在り方である。

 爆心地の爆縮。地表を吹き飛ばすと共に、捲り上げ、皮ごと肉を剥ぎ問う様に核熱の波動が大地を奔る。その上での、ソウルの業。星の躰に大穴を開けると同時に、星の魂を殺し尽くす魂殺しの概念とエーテルが爆裂し、惑星を確実に仕留める破壊兵器と化してきた。

 物理的な破壊と、概念的な破砕だけで非ず。その相乗が破滅の胆。

 この兵器の本質は人理を夢見る星の魂を死滅させる星砕きだった。

 六千度を超えた熱波は肉体だけでなく、魂を熱する地獄の炎と化し、核熱の奔流は一瞬でソウルを消炭にする。

 

「―――マシュ!!!」

 

 キリエライトと呼ぶことも忘れ、所長は盾騎士に叫ぶ。灰の葦名が創造した核熱の一撃は月の真祖は勿論、他惑星から飛来した異星の化け物を殺す人類進化の暴力、その悪因と悪意。

 十字盾で防ぐ盾騎士の闇―――全てを防ぐ彼女自身の人間性が、その全てを受け止めるとなれば、彼女は今この瞬間、不死の魂を焼き尽くす汎人類史の火で焼却され続けている事を意味した。

 ならば、僅かばかりでも―――と、所長は盾騎士に手で触れ、魂を焼く熱を自分に流した。

 盾と盾騎士を通じて熱波が所長を焼き、魂が蒸し上がり、血液が発火する。結果、人体発火現象が引き起こされ、体中の孔から火が吹き出る。

 

「主殿……!」

 

「貴方は、止めて置きなさい……って、もうしてるし」

 

 怨嗟の火を受け入れる様、忍びもまた盾騎士の肩に触れ、彼女を焼く火を自分に流し込んだ。所長と同じく、体に火が纏わり付き、忍義手が噴火したように焔を吹き出した。

 

「もう一焼き、セルフ火刑しなきゃいけないってことね。ほら暗帝、アンタもちゃんと焼かれなさい」

 

「分かっておる。ソウルの奔流の方が魂砕きの概念は遥か上であるが、物理的な破壊と焼却能力は核熱爆弾の方が上だからな」

 

 魔女と暗帝は燃え死ぬのを理解しながら躊躇わず盾騎士に触れ、彼女を魂の内側から熱する炎を自分達のソウルに流し落とした。二人も所長と同様に燃え上がり、細胞が融解する温度に気合と魔力と神秘で我慢し、排熱噴射孔となって盾騎士を助けた。

 魂を焼く熱、死の火。それは星の内に籠もる熱を遥かに超える炎を排熱する為、人型の生命に耐えられる火力ではない。無論、神や妖精でも魂が焼却され、本来なら一瞬で無にすら還れず、根源に堕ちず、灰と化す。

 

「永遠の闇。暗き我が星よ、人の火を呑み給え」

 

 そして褪せ人は盾騎士に触れ、自身を燃やしながらも熱を魔力変換。盾騎士と繋がり合うことで十字盾ともラインを通じ、盾の守りの外側に暗黒球体を創造する。

 褪せ人の暗黒星は十字盾の守護と衝突する前に核熱のソウル奔流を吸い取り、熱波を抑え込む。だがそれも微々たるものに過ぎず、変わらず十字架ごと盾騎士は焼かれ続けた。

 

「君は俺の知るマシュじゃない。

 でも、その背中を守りたいから……―――君を、守るよ」

 

 藤丸は盾騎士の隣に立ち、手に触れた。彼では火で焼かれる苦しみは分かち合えないが、それでも手を重ねることで魔力を流した。先程の戦闘で失くした令呪は褪せ人からの魔力逆流で補完され、彼は躊躇わず全て消費した。

 それでも熱で彼の手は火傷し、そして焦げ付き、やがて炭化を始める。それでも尚、藤丸は彼女の手を離さなかった。

 

「―――はい。先輩」

 

 盾騎士の暗い魂に火が灯る。彼女を守りたいと願う全ての魂が繋がり合い、汎人類史が生み出した大量殺戮兵器が抑え込まれる。仄かな火が、人を融かし殺す核熱の火を鎮火する。

 輝ける星―――盾騎士の闇に堕ちたソウルに、一筋の導きが流れ星のように奔った。

 嘗て聖剣が放つ極光を跳ね返した様、それは優しく煌く。核熱の衝撃は十字盾によって一点に凝固され、地球圏外の暗い宇宙に向け、汎人類史の火は光となって解き放たれた。

 

「これが、人の魂が至る心なのね……」

 

 所長は思わず、啓蒙を超えた感動が零れ落ちる―――その時、彼女の脳にのみ声が聞こえた。

 根源的な統一言語をよりも魂に響く、人間のソウルに直接的に話し掛ける音だった。そして、その声は魔女と暗帝、盾騎士にも繋がり合う所長を通じて聞こえて来た。

 

「核。人類史の業。それによる殺戮は負の一面。現在における使用例、日本人を幾万人も虐殺した人類史の火。嘗て人類史を守った貴女へ、灰である私が送る歴史からのメッセージには丁度良い皮肉でしょう。

 これもまた、人間性の真実。

 人とは、何処までも薄汚い。

 罪を理解しない妖精と同様。

 より強い死が在り様を示す。

 しかし、貴女にとって気色の悪さは見殺しにする理由には為り得ません」

 

 脳が、震える。

 心が、罅入る。

 

「人は救われるのだと、貴女は知っています。人間性が、人の魂を動かす実感を得ています。人間は人間との繋がりにより、人類種自らが生んだ愚かな業を打ち倒せる訳ですね。

 即ち、それは人間性の克服です。

 マシュ・キリエライト、貴女は孤独でも強い女です。しかし、それは強い人間だからという至極当然の理由であります。

 けれど、その魂は繋がり合いこそ、私は貴女の本質だと思うのです。

 数多の英霊達との繋がり合った縁が人間性を刺激し、今の貴女の強さを形成しました。同時に後の悲劇が、孤独が貴女から弱さを余分として削ぎ落してしまわれました」

 

 究極の、人間賛歌。灰は人間があらゆる欺瞞を語って同族を殺し、殺戮手段に核兵器を使おうが、この星の人間が未来に走り続けて進化すると理解していた。

 信じる、信じないの話ではない。彼女は人が人理を夢見る星の魂を砕き、それでも繁栄する生存を勝ち取ると未来を見通していた。同時、星を殺してでも生きる道を諦めた時、灰は根源からソウルを蒐集して自分と言う地獄に落とす悟りも得ていた。

 

「貴女を守りたいと念じる友人達の想いを受け入れ、貴女は星砕く文明の火を超えました。それも人理を思う惑星の魂さえ木端微塵にするこの対星兵器は、この先の人類史が創造するだろう真エーテル兵器に並ぶでしょう。それこそ、アリストテレスを真っ二つに両断する斬撃皇帝にも並ぶ破壊力でした。

 ならば、その人間性が人類史の業を凌駕したのです。

 他人と繋がり合う心こそ……否―――繋がった人を守りたいと願う貴女そのものが、魂の強さなのだと」

 

 人間が生み出す人類史を滅ぼす業。

 一つ目、宗教――神を形為し、遺志を継ぐ。

 二つ目、国家――宗教によって群れを成す。

 三つ目、経済――個人に職と役割を与える。

 四つ目、学問――神秘を経て科学となる業。

 五つ目、戦争――その総決算にて他を貪る。

 人の営みの果て、全て混ざり合う形こそ文明。そして飢餓と病魔に並ぶ人類種の天敵を自分達で作り出す。戦争は進化し、そして現在も進化し続ける。人は星ごと自滅する知性を得たのだろう。だが灰は、これらに因る悲劇が盾騎士の在り方を歪める力はないと信じる事にした。

 

「人が人間性を凌駕した時、星が夢見る人理から目覚め、人類は星から宙へ踏破するのです。しかし残念ながら、個人の意志で最初の一歩が踏める人類種は、とても限られています。神を作った星を超える人の心を得た魂を、どうにかして古い獣を狩る為にも作る必要がありました。

 魔女―――贄を求める人間社会の克服。

 暗帝―――嘘のない無垢な欲望の肯定。

 星見―――過去を顧みない進化の未来。

 今、盾騎士となった貴女は三人と繋がり、忍びと褪せ人とも繋がり、心を持つ人間として、友情を以て核熱の脅威を凌駕しました」

 

 魂の生き物だと、灰は心底から信じていた。魂が命を得て生む心の力を、灰はどの人間よりも人間として信じていた。

 

「何より、久方ぶりの藤丸立香の魂は懐古で咽び泣く程に感動した事です。孤独に戦い続けた貴女の心に、命を賭しても守り相手を愛する人間性も蘇りましょう。獣を狩る為にも、人間性が生み出す愛と希望の物語が大事なのです。

 ソロモン王、叡智を極めた男―――アーキマンさんは、魂で以って己が人生を証明しました。

 愛は素晴しい火であり、希望は魂を未来へ運ぶ方舟。私は彼の献身を信じる事にします。人理が良しとする人類史が生んだ大地を焼く火、核熱の魂砕きを超えた今、人間の業を克服する準備を貴女方は終えたのだと」

 

 戦神と共に灰が乗るドラゴンが観測可能域から消え去った。それと同じく灰の(オト)は聞こえなくなり、所長の脳は魂を狂わせる音で震えなくなった。同時に狩猟衝動で脳が奮え、瞳から意思が彩る。

 ―――白い湖面にて、幻影が見えた。

 現実で意識を保ちながら見る白昼夢で、所長は眼前の女に問うしかなかった。

 

「――――……貴女は人間の魂を、信じるの?

 この星の人代で、ずっと人間を見守っていたのに?」

 

「はい。私は人間ですからね」

 

「これからも、皆で皆を殺し続けるのに?

 古い獣から人も星も救っても、何も変わらず殺し続けるのに?」

 

「それが人間です。それを間違いだと個人が人間性の在り方を変えれば、神の立場となり、人類種を幸福の奴隷に作り変えるだけですよ」

 

「私は……何か、嫌だ。そんなの、救いたくない」

 

「誰も救えませんからね。極論、死を否定して不死の命を与えても、永遠に宇宙から生まれ故郷の根源へ還れず、永劫から救われないのが悲劇的です」

 

「なら、何で?

 別に、根源の星幽界なんて喰わせれば良いじゃない?

 これなら、あの古い獣が新しい宇宙になって、中でソウルが巡るだけでしょう。人間の営みはこの宇宙から、古い獣の中に移動するだけ。それにこの宇宙も、星が夢見る様に、根源が見る夢みたいなものだし」

 

「欺瞞が題材にされた絵画の中で、腐っても死に切れないのは悲しいことです」

 

「今もそう見えるけど?」

 

「しかし、自由です。今の人理は、人が自由で在る故に見る夢ですからね。それが腐るまでは良いと思いますよ。

 誰かが甘くて自由な偽りの幸福から更なる自由を求め、何かが作ったこの宇宙に魂を閉じ込めた根源こそに自由があると気付くまではですがね」

 

「嫌いなのに?」

 

「灰みたいに、個人で永遠を生きられないのなら、仕方無いと思います。他人の魂に、そこまでの頑なさを求めない程度には人を諦めてはいますよ。

 だから、闇から生じた我々ではなく、根源から生じる魂を、暗い私が期待出来るように手心を加えました。それが魂を貶める神と同じ邪な業と分かりつつも、奴等の業を祈ると共に、私は私が嫌う神の心も祈ることに決めました」

 

「貴女は、守りたい信念が沢山あるのね。器が大きいわ」

 

「いえ、そもそも広がる為の器がないですから。それに好き嫌いと、魂の在り方は別に考えてます」

 

「じゃあ、良いわ。私も本当は、アニムスフィアの命題を気にせず、完璧な狩人って言う別人格(ワタシ)を夢見て眠った本人格(オルガマリー)の為にも、自分が美しいと感じる宙の人類史を描いてみたかったけど……まずは自分の魂を大事にしてみるわ。

 貴女がくれた人間性だもの。人理の在り方を嫌う獣性(シカク)も得られたしね」

 

「是非、どちらか選んで下さい。可能性が狭まれ、道が一つしかないのは憐れでしたからね」

 

「私に遺志を継がせた師……私を作ったあの月の狩人も、今の私を喜んでいるのでしょうし」

 

「はい。上位者と化した自分の精神を人理に寄生させ、人類種を己が眷属にし、進化し続ける為の戦争を自滅しない程度に行い続ける文明が、人間性無き貴女の夢見る星。

 私は……いや、それを止めるのが欺瞞だと分かってはいましたし、貴女に文明を滅ぼし得る獣の愛憎を与えるのも分かっていましたが……為すべき事を為したと言うことです。

 どちらにせよ、まずは貴女が人間を取り戻してから未来を選ぶ方が、貴女の魂への善行になると考えました」

 

「感謝はするわ。人間を可哀想って思える様になったのは、貴女の御蔭だもの。学術的進化以外も、人に対して素晴しいと感動を心から出来ますしね。

 それに、恨み憎めるから本気ってのもあります。

 人間を嫌うって実感が、自分も人間だって言う実感に繋がったわ」

 

「それは良かったです。ならば星見の狩人、善き悪夢をこの葦名で見て下さいね」

 

「そっちこそ、火が映す夢幻から目覚めることね。執着なんてらしくない」

 

「―――……確かに、です。

 なら御望み通り、貴女達を魂の為に殺します」

 

「ええ。だったら夢の為、私が貴女の希望を打ち砕く」

 

 灰は微笑み返し、所長は白昼夢から意識の一部が目覚めた。夢見る間、彼女は起きて現実で行動していたが、確かに心の中で灰と同じ場所で夢を見ていた。

 

「どうかしましたか、アニムスフィア?」

 

 汎人類史の火を克服した盾騎士は、隣で自分の腕を両手で握って祈る所長に問う事しか出来なかった。本心ではどんな宗教画よりも美麗な彼女の、真心からの行動を止めたくはなかったが、何故そんなにも綺麗なのか知りたくなってしまった。

 

「夢を見ていたの。今、その夢の続きを見ているわ。

 キリエライト……せめて貴女は私の前で、心折れる姿を見せないでね。介錯の為、その頭蓋に銃弾で孔を開けるのは心苦しいですから」

 

「……未来を見る千里眼は止めた方がいいですよ。根源からの情報、灰の特異点では意味ないですから」

 

「知ってる。根源経由した未来観測を、灰が魂で描く絵画の中では使えませんのはね」

 

「なら……ッ―――まぁ、良いですけど。どうせ関われないのなら、私には関係の無い悲劇です。

 それに千里眼で観測されて定まった運命なら、私の盾で打ち砕くのは簡単ですが、貴女の瞳で見て、私がそうなるのだとしたら、無力を実感しますね。私もまだまだ努力不足と言うことですか」

 

「私も同様な話よ」

 

「良く言う、誰よりも強い癖に」

 

「そう在りたいものだわ。でも、それは貴女も同じだし、今より先を目指すなら誰だって同じじゃない」

 

「そう言える時点で、人が頑張れるって信じられる時点で……はぁ、良いですけどね」

 

 盾騎士は何時もは前髪で隠す右眼―――因果律観測用義眼、モールドシバを使い、周辺時空間と人間自体を観測する。

 そして彼女は溜め息を吐き、やっと危機が過ぎ去ったのだと確信した。

 







 現状の簡単な人物紹介

◇死灰の簒奪者、アッシュ・ワン
 魂の形を得た闇。暗い魂。根源の星幽界から生じた魂ではなく、全ての灰と繋がる彼女の魂の生まれ故郷である闇も、既に根源に接続しても観測出来ないナニカと絵画世界の中で深化している。今は古い獣が進化の果てに根源へ至り、星幽界全ての魂をソウル化させて喰い尽くし、宇宙から全ての魂が流れ落ちず、宇宙誕生から遡って魂と言う現象がなくなり、この人理が生まれた宙から魂の概念が消失するのを防ごうとしている。人理と抑止力は、葦名特異点にその脅威を閉じ籠め、全ての魂をソウルの業から守ろうとする灰に協力しなければならない状態。
 尤も本人は自分が為すしかない救世主の立場を悪用し、自分の魂が進化する為の鍛錬として利用している。本人の人間性は人殺しが好きな虐殺狂の邪悪人間で糞団子を人の顔面に当たるのが趣味な女だが、自分の罪を滅茶苦茶凄まじく平和利用する知恵を持った鬼畜外道でもあり、何だかんだ集合無意識は生存する為に灰の魂に絶対服従となっている。

◇悪魔殺し、ダイモン
 愛した火守女との誓いを守りたい騎士。元々は異聞化した人類史の地球人類種だが、古い獣によって根源生まれの魂と規格が違い、魂の在る次元が根源からもズレている。古い獣が根源に至るのを防ぐ為、また古い獣が地球から逃げ出さない様、剪定事象になった世界や、剪定事象になりそうな世界に赴き、ソウルの霧で満たし、その世を獣の為の贄に捧げていた。要は未来がなくなった世界を独善によって選び、剪定事象で抹消される前に餌にしていた。それによって眠らせ続け、根源から生まれた全ての魂を守っていた。
 現状、灰によって古い獣狩りの成功が確定し、葦名特異点にて自分の役割を全うするのに専念。

◇月の狩人、ケレブルム
 古い獣の根源漂着は不都合な為、今は灰の救世に協力している男。またメンタル勝負において異次元レベルの化け物であり、根源から生まれた魂の筈なのに、灰や悪魔と同じくそれに反している存在。古都で上位者化した後は地球の魂や人類種の阿頼耶識に、惑星外宇宙精神体が寄生するのを防いでいたので、地味に全人類を宇宙の脅威から守り続けていた。宇宙圏外の暗黒領域からの毒電波や遺物も、彼が月の狩人になった後からは届かず、実は巨大隕石落下の確立にも干渉して恐竜絶滅の様な危機から人類文明を守っており、何気に善行を積み上げまくり過ぎな狂人となる。尤も思索に有益だったり、人類種全体の死滅や変異でなければ、地球での様子を見ている場合もある。
 今は自分の頭を良くすることが一番の目的。既に上位宇宙を脳内悪夢に作っており、オルガマリーは彼の悪夢における最高傑作となる。

◇星見の忍び、狼
 オルガマリーに召喚された忍び。カルデアの召喚術式に所長が人類圏外の神秘を加え、サーヴァント化してしまっているので、受肉した上で肉体が生前より強化されている。生前の使命は全うしているので未練も後悔もないが、第二の生を与えてくれた上で、忍びに忍び以外の人生の在り方を教えてくれた所長の為、今は主への忠義に報いたい自分の欲に従い、為すべき事を為す。
 現状だと、完璧な忍び。所長との関係上、生前の御子と、旅した巫女との忠義とは別にしており、所長が男女の中になろうと迫って来た事も多々あるも、鋼の意志で拒んでいる。本人曰く、いざと気合を入れると怖気で死にそうになるとか。

◇狂い火の王、ニーヒル
 実は元神秘超特化な褪せ人。今は全ての能力がカンスト突破してるが、やはり神秘系が好き。本名を忘れたので名前はなかったがカルデア入りすることで、幾千幾万回と殺しに殺したデミゴットの必殺技の叫び声を自分の名前にした過去を持つ。またニーヒルは零や虚無の意味を持つラテン語なので、ローマ系英霊からは御年頃な名前だと勘違いされている。
 王となった後、狭間の地の全ての生命と魂を自分に融かし、狭間の地の外側に出て惑星上全ての魂を自分に融かし、星から生物を死滅させた。それによって狂い火の星となり、エルデを殺す流星となって宇宙に旅出た。目的は自分の星にエルデンリングの獣と指を送った元凶の、宇宙の何処かに居る本当の神を打ち滅ぼす為である。で、色々あってその神を殺し、今に至る。尤もその神も全てが死に絶えず、残滓となる遺志が残り、狂い火の王を狙っている状態。なので実は、今はもう褪せ人がエルデの律を生み出すソウルそのものとなる。

◇星見の狩人、オルガマリー
 狩人を夢見た本人格が生む別人格。アルターエゴ。精神崩壊を引き起こして本人格が廃人となる前、自分の脳内に集めた血の遺志を凝り集め、自分の写し身として、死人の思念を細胞みたいにして形作ったのが今のオルガマリーの精神である。元より魂は一緒であったが、悪夢での狩人生活でオルガマリー本人を起源とする擬似魂が出来、第二人格は根源ではなく悪夢より擬似魂を写しにして本当の魂を得て、それを今の人格が完全同化している。なので、人間の脳から生まれた完全無欠な感応する精神生命、人工上位者が、星見の狩人の本質。
 本当なら学術的好奇心の儘、阿頼耶識に精神寄生した後に星の魂を発狂死させ、全てのアリストテレスを地球に呼ばせた上で太陽系全ての知性を蒐集する存在であった。その為に、地球文明をアーマード・コアによる戦争経済で爆発的に発展させ、宇宙を焼き尽くす星を利用した文明の炎を生む予定でもあった。尤も第二人格の狩人な彼女を作り上げた月の狩人は、その未来が好きではないので、そうなると余り彼女と関わらず、孫を見守る御爺ちゃんみたいな立ち位置になるらしい。
 今は灰が人間性を与えたことで、カルデア所長しているのが好きな気持ちなので狂気そのものと化してはいない状態。しかし、それによって人間を嫌う感情を得ているので、何かの拍子でビースト霊基に覚醒する資格を得た。

◇魔女の狩人、ジャンヌ・ダルク
 元々は完璧なる復讐のソウルに深化する人間性の卵。素材としては、聖女ジャンヌの子宮から取り出した水子の魂を核にし、様々な死人の遺志で凝り固めたソウルの暗い火と、灰自身の暗い魂の血と、抑止に召喚された適当なサーヴァントを殺して簒奪した数多の霊基情報となる。彼女と彼女の竜が特異点で殺した人間のソウルと人間性を全自動で流し入れ、怨讐として死ぬまで成長した。また実は人理側も古い獣を狩る為なら仕方無いと全力サポートをしており、実はフランス特異点での魔女によるフランス人殺しが上手く進む様に後押しもあり、より惨たらしくフランス人が死ぬと魔女の精神が暗く深まり、古い獣を狩るのに有意義な死となるので、滅茶苦茶残虐に民間人が死ぬようにもしていたりもする。それはそれとして、最後はカルデアがちゃんと綺麗に後始末出来る様、特異点解決段階となってフランス人虐殺が必要量に達すると、カルデア側を後押ししていた裏設定。ぶっちゃけた話、魔女と灰が行った罪は繁栄の未来を求めた全人類の意識による共犯でもあり、フランス特異点とはフランス王国が聖女を火炙りの生贄に捧げたように、灰が世界を古い獣から救うために全人類が意味のある犠牲として捧げた生贄殺戮劇場な茶番劇でしかない。尤もそれは、ローマの殺戮も同様となる。
 特異点消滅後、月の狩人の悪夢に送って彼に預けた。灰は魔女に死と絶望の遺志を継がせ、怨念を磨き上げ、古い獣を狩る火として利用するつもりであり、月の狩人は魔女が可愛いので普通に悪夢で好き勝手生活させていた。強くなりたそうにしていたので、自分の思索と暇潰しに、狩人の業や狩りの心得、啓蒙方法などを遺志より伝授もしていた。
 色々あって外宇宙の神性の一が、この宇宙を夢見ることで150億年分の宇宙人理を作り、その外宇宙存在の精神世界における地球のある宇宙へ月の狩人に送られ、生活していた過去がある。また、その宇宙を作った神性は一度だけ地球のある宇宙に干渉し、地球にまで変な交信波が流れ、それを逆探知した月の狩人が宇宙圏外の神性の精神宇宙に侵入して夢から覚醒させ、一度ぶっ殺してその神が夢見る宇宙を滅ぼしている過去があり、その縁によって魔女の修行の地に良いと送られている。
 サーヴァント体がカルデアに召喚されており、彼女の分身霊体としてバカンス謳歌中。本人は悪夢の中を彷徨い続け、今は本人自体が葦名特異点に顕現して活動中。

◇暗帝、ネロ
 灰が作り上げた汎人類史の闇の王。人の魂が膿む悪性情報を人間性に流し込まれ、人類史全ての邪悪を理解し、その上であらゆる罪を許し、その罪を快楽として愉しむ女。結果、魂を陵辱する罰を他人にするのが大好きとなり、直ぐ人を心身共に自分のソウルで犯したくなる。ドラゴーと違ってビーストの資格はなく、元々はローマ帝国を永遠に生きる人が永遠に人生を謳歌可能な完璧なる楽園とするべく奮闘していた。
 灰によって並列世界の絵画世界に送られ、最初の火の始まりと終わりの時代を幾度も繰り返す。永遠を無尽蔵に繰り返したと思い、死んだ心でソウルを生きるようになった時、その絵画世界で神殺しの流星となった褪せ人が漂着して、その世界から強引に連れ出された。色々と世界を彷徨い、時間軸が関係無い月の狩人と邂逅してしまい、魔女と同じ外宇宙暗黒領域の神性が夢見る宇宙に送り込まれ、また何とか戻って来て、自分の絵画世界を書いて引き籠っていたが、葦名特異点を感知して顕現し、今となる。


 読んで頂き、有難う御座いました。
 勝利、友情、努力。それは美しいものを観測したい誰かの欲望により、完成されます。究極、黒幕は古い獣を星から滅したい平行世界の全人類であり、死にたくないと願う星の魂も黒幕でもあり、灰の手でお前も救われたいなら頑張れ頑張れと、黒幕として努力させられている雰囲気です。
 結局、人間は、人間ではない人間に深い所から支配されているのでしょうね。
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