血液由来の所長   作:サイトー

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 DLCとは、素晴しい。ボスに殺され続ける地獄に発狂する死にゲーと分かって買うなど、褪せ人は哀れだよ。火に向かう蛾のようだ。ダイスンスーン。
 そう思えば、エルデンリングの兎耳枠って誰なんでしょうね。個人的にはDかなと思ってます。


啓蒙82:サイタマ殺戮区画キャンプ場

 東北地方大日本倭国首都、葦名都。征夷大将軍が住む葦名城は山深い場所に建てられてはいるが、近代化に伴って市街地が平地に作られ、だが今や全て廃都。言わば旧市街地廃都葦名にして、灰が自分達に合わせて楽園化した灰都となる。また特異点化した歴史において、第三次世界大戦を経た核戦争後、古い獣の霧に星は覆われ、もはや人界は日本だけとなり、形だけでも都の体を保っているのは葦名のみ。

 そして七人が居る此処は、旧埼玉県。現在名、サイタマ殺戮区画。

 不死が不死を狩る戦場にして、グレートウォールが疾走する関東大荒野の一区画。

 灰が爆破した戦術核熱兵器の爆心地から30キロメートル以上離れた、そんな地獄みたいな場所の隠れ宿。七人の侵入者は高速で走り続け、十五分もせずに辿り着いていた。

 

「此処がキャンプ地よ。ま、連結改造キャンピングカーを駐車しただけなのだけど。私ってば、良い仕事しました。褒め給えよ、マスターちゃん」

 

「私の、ボーダー、ですよね、ダルクさん」

 

「そんな怖い顔すると可愛い顔が台無しよ、盾騎士のキリエライト」

 

「確かに、です。どんなに美人でも、糞団子臭がすると女の私でも萎えますからね」

 

「キィー、ムカツク!」

 

「ヒスるな、魔女。貴様も糞団子が当たった余とキリエライトに、同じことを言ったではないか」

 

「私としたことが、嫌味で復讐されました……」

 

「それより貴様、今日の調理担当は明日と交換な。死体をドブに一年漬けし、スライム状のヘドロになった汚物の如き臭い故」

 

「へぇへぇ、分かりました。どうせ私はうんこ臭いですよ」

 

「その通りです。ボーダーの中も、念入りに浄化した後、お風呂に入るまでは立ち入り禁止ですので」

 

「流石の私も、人の家に糞臭こびり付ける程、底意地は悪くないわ」

 

「ふむ。しかし、そこまでなら一度死に、肉体を魂から再誕させれば、如何かな?」

 

「そう上手くは行かぬのだ、褪せ人。灰共の糞団子は、糞呪を名乗る火の簒奪者が作っておってなぁ……死ぬ程度で糞臭さが落ちるのは、挑発性能が低いとか何とかな?

 ―――魂に、こびり着くのだ。

 殺人行為で香る死臭よりも尚、死した屍が消化された末の悪臭に塗り潰されると言うことよ」

 

「成る程。故、肉体と霊魂を共鳴させた上で、魂も物理的に洗浄しなければいかん訳か」

 

 そして藤丸を運んでいた忍びが屈み、背中から彼をゆったりと降ろした。

 

「藤丸殿、御苦労だった……」

 

「いえ、狼さん。運んでくれて、ありがとう」

 

「……は」

 

「もう、私が運ぶって言ってたのに。この魔改造車椅子、藤丸で試したかったのに」

 

「主殿、その車椅子は……いえ、人間は死ぬと……む、いや……藤丸殿が死ぬのは、いけませぬ」

 

「ほら、駄目だよ。狼さん、所長の頭の具合に言葉が詰まっちゃってる」

 

「そっかー……駄目なのね、車椅子」

 

「せめて、自爆仕掛けに……安全弁を」

 

「何でよ、隻狼。古都の車椅子乗りは自発的に爆発するボンバー罹患者なのに。あー……それと、褪せ人のニーヒルでしたっけ?

 私、今は特異点で活動していますが、人理保証機関カルデアの所長をしています。名は、オルガマリー・アニムスフィアと申します。これ、名刺です」

 

「これはこれは、ご親切に。私、狭間の地で褪せ人をしていました名無しの人間です。現在はニーヒルと名乗っています。

 あ、こちら私の名刺となります。カルデアにて、同志たるサーヴァントに作成して頂けました」

 

「どうも、御叮嚀に。私共の藤丸立香が御世話になってます」

 

「いえいえ。そんな。此方こそ、貴女の機関には助けられております……―――で、貴公が星見の狩人と。

 他並列の時間軸で悪い噂は良く聞くぞ。

 何でも、アニムスフィアが生んだ阿頼耶識の天敵とな」

 

「観測により、私は全ての私は知ってるわ。勿論、もはや全てが私の人間性に還りました。

 尤も貴女は、全てを自分に融かして還したように見えるけど。全く、瞳を合わせる魂と魂の見詰め合い等、脳が蕩ける酷い業だ」

 

「神と邂逅する為さ。故、私は此処に居る。即ち、神を殺そうとした神の業が、人に神を殺させる。奴等の思索を理解出来ぬ内は道具でしかなく、私は神が神を殺す為に進化した神殺しの刃と言う訳だ。

 憐れだよ、貴公もそう在る人間だと言う事がね。人が神を殺す術を、神が人に憎悪を以て啓蒙するのだから」

 

「運命が、運命を絡め合わせる訳だ。なら、仲良くしましょうか。縁が出来てしまったのら、どうせ永遠の付き合いになるのだし」

 

「宜しく頼むぞ。月の狩人の脳が妄想した、有り得ざる最高傑作よ」

 

「程々にね。私よりも、藤丸と仲良くして欲しい訳だから。

 それと何で霊馬を移動で出さなかったの?

 ちょっとした疑問だから、嫌なら言わなくていいけど?」

 

「凡剣の簒奪者だったか。彼奴の送還がまだ魂に残っているのだよ。どうも召喚関連は上手く出来ないらしい。

 とは言え、対策は思い付いた。マスターの方の召喚術式も如何様にも出来そうだ」

 

「あー、あの悪魔殺しの悪魔が更に改良したアレね。あの悪魔騎士、根は鍛錬狂いの天才肌の魔術師だから、かなり頭脳波な神秘学者で中々に厄介なのよね。

 灰共全員、それ使える上、貴女が対策してもその対策されるので、やるなら最初から対策される対策もしておきなさい」

 

「ふぅーむ、鼬ごっこか。人間、変わらんな」

 

「そりゃ、ずっと人間で在る今を愉しみ続ける人間ですし」

 

「確かに。納得しかない」

 

「―――さて。魔女と暗帝のキャンプ地に着いたし、お喋りは此処までにして、寝泊まりの準備をしましょうか。

 それと言うまでもないけど、ジャンヌ。貴女はちょっと臭うから、何も手伝わないで良いからね。ほら、触った物から残り香が薫ると気分悪いので」

 

「じっと待ってまぁーす」

 

 盾騎士の隠れキャンプ。結界で魔力と生命反応を隠蔽し、空間を歪めて世界からも隠れ、魂を感じ取れない様にソウルの業による隠密も施す多重隔離結界。この当たりは物騒であり、不死共の殺戮鏖殺が横行するサイタマ殺戮区画であったが、今や殺戮者を更に殺戮する人間が移住して来たことで、アームズフォート・グレートウォールによる集団轢殺を除けば、ある程度は平穏になったのは皮肉だろう。

 とは言え、所長と忍びの生活拠点である移動式聖杯生成地下基地が殺戮区画(サイタマ)の何処かにあると考えると、グレートウォール級の災厄がまだ潜んでいるとも言えた。

 

「後、魔女よ。風呂、貴様が最後な。糞団子を洗った奴の後に、余は入りたくない。誰であろうと、入りたくない。

 それと、出る前に風呂掃除もしておけよ。無論、掃除道具は滅菌の為に使い捨ての焼却処分だ。皇帝特権により余はグランドクリーナーではあるが、糞団子の掃除は当たった本人との決まり。役割分担は共同体生活における潤滑油である故」

 

「神は死んだ!」

 

 焦げた糞団子の残り香がする魔女に、暗帝は余りにも無情な宣告をしていた。

 

「今回は何時ものコジマ除去に加え、コジマが混じった放射能汚染も心配せんといかぬな。

 そちらは余がやっておこう。大学の水爆にはコジマ技術が使われておったし、一寝入りする前の洗浄が面倒よな」

 

「マミーと言うより、貴女ってオカンみたいね」

 

「オルガマリー、余も歳だ。そも生前で三十路越えである」

 

「そっか。そう考えると、私もバアさんね。子供どころか、曾孫が曾孫作ってるレベルで、悪夢を彷徨ってるのよね」

 

「まぁ、こんな炎上系女は子供に要らんがな!」

 

「言えてる!」

 

「糞共。抱き着いて、糞団子臭を移すぞ」

 

「謝罪の意、表明します」

 

「心より、スマヌス」

 

 テヘペロと唇から蠱惑的な舌先を出す所長と暗帝。魔女のセミロングヘアが陽炎のように憤怒の念で揺らぐが、深呼吸することで落ち着こうとし、糞団子に当たった自分の匂いを深く嗅いで目が死んだ。

 灰と殺し合う際、この糞団子攻撃だけは許せない。魔女の殺意が憎悪によって更に深まり、むしろ毎日毎日深まり続け、怨讐の火が暗く深化する。

 

「しかし、この葦名特異点に来てからだが、解毒や洗浄の神秘が嫌に上達したよな。

 あの手の不死共は良く知っておるつもりだったが、あそこまで対人戦闘に有益で利便性があるからと、自家製の激臭糞団子を使う集団が徒党を組むのは珍しいものだ」

 

「殺人行為における習性じゃないかしら。私達が剣で人を斬り殺す様に、武器の選択肢として当たり前にある道具なのよ。

 それにあの灰共、汎人類史が作る地球戦争史も学んでるだろうから、人理によって新しいうんこの使い方を啓蒙されてるんじゃないの。元々、糞を武器にする文化はあったんだろうけど、糞呪って言う糞みたいなうんこ偏愛する灰が居る所為で、更に糞の使い方が巧みになってるし。

 何と言うか、無念無想な剣神の境地で糞団子投げて来るの、技巧の無駄使い過ぎて腹が立って来るんだけど」

 

「それはそう。ビリー・ザ・キッドの早撃ちみたいに糞投げるのとか吃驚過ぎて、最初は咄嗟に隻狼を盾にしてしまいました、私」

 

「オルガマリー。アンタ、私でもドン引く糞人間です。魔女の私が言うんだから、間違いない」

 

「……………ぬぅ」

 

 その時の事を思い返しているのか、忍びが眉間をそれはもう凄まじい深さで皺を寄せる。戦国乱世、人糞は人殺しの武器にされており、火薬の原料になるのも知ってはいるが、灰共のそれは血反吐を撒き散らす劇毒だった。

 

「ごめんって隻狼。見た時、うわぁ……ってなって、無意識で令呪が無拍子で発動されちゃったのよ。代わりにあの灰、森番の簒奪者には糞屍スライム培養の血晶石を組んだ私御手製劇毒回転ノコギリの刑に処したし、良いじゃない」

 

「その一度、ただ一度、殺める為……幾度か……」

 

「わかった。今度、おはぎ作りますから」

 

「主殿、忝い」

 

 大金が詰まった袋を拾った時の様にニンマリと笑う忍びを見た藤丸は、何となく今の所長と彼の関係性を理解する。それを更に気の抜けた顔で見守っていた盾騎士は、ふと雑談から抜ける事にした。

 

「では、御夕飯前の風呂のため準備を始めます。私、薪を焚きにいきますので」

 

「へぇ、凝りしょうね。電化もせず、魔術も使わないのね」

 

「グンマ封印区画で取った薪が余ってますから」

 

「まぁ、グンマ薪の焚き風呂と。楽しみ」

 

「はい。楽しみにしてください。火が違いますからね、火が」

 

 左手を右肩に当て、右腕を回転させながら盾騎士は男らしく去って行った。見た目通り、性別は女性なのだが、纏う雰囲気が法螺貝吹きながら敵軍に突撃する薩摩兵な雰囲気であり、特に意味もなく彼女の後ろ姿に所長は交信ポーズを取った。

 とは言え、交信は交信だ。上位者に構えれば、脳に湿った声が音の文字を啓蒙される様、所長は汎人類史の火を唐突に理解する。

 

「しかし、対核熱は良い連携でした。まずはキリエライトが盾で止める。そして彼女と触れ合うことで、ニーヒルが孔球で吸い取り、ジャンヌが炎の流れを操り、ネロが闇で孔を深め、隻狼が火炎の漏れを防ぎ、藤丸が令呪によってキリエライトに連帯の要とした。

 その最後の仕上げに、私が核熱の火が纏まった球を流星として宙に打ち上げる。

 この七人が居て初めて為し得る偉業です。あるいは、だからこそ、あの灰は核熱兵器を撃ったとも言えるのですが」

 

「話、飛んだぞ。しかしながら、同意だ。星の海を旅した狂い火である私は、生命起源を己が命で解しておる。

 宇宙誕生の虚無からの爆裂より数億年後、最初の星の炸裂が宇宙空間に生物の大元である有機物を生成した。

 小さな粒であるそれらを確か、汎人類史では原子と呼ぶなのだとか。あの灰が空より落とした壺は、宙で起こる星の光を擬似再現した爆発だったな」

 

「―――お、褪せ人。貴女、お話し出来る啓蒙家みたいね」

 

「奇遇にも生物的に、私も貴公も雌。女子会の話題に我等が宇宙の、百五十億年分の観測記録を舌が捻れ切れる程に語り合うのも良い拷問(ザツダン)だろう」

 

「良いわね、宙活(ソラカツ)。今度、時空間を超密度圧縮した脳内交信でもして、女子会トークを数万年も続ける拷問遊びでもしましょうか。

 あぁ、この宙は余りにも完全無欠な美しき曼荼羅模様。

 あらゆる芸術も、地球で生まれた全ての美の概念も、宇宙には永遠に届き得ない」

 

「では触りに、外宇宙銀河で生まれた知的生物の惑星間航行文明、貴公は知ってるか?」

 

「知ってるも何も、地球に不時着した宇宙戦艦の話?

 文明を作った知的生命体が死に絶え、他星のヒトの被造物が地球で人類種に神と崇められてた過去話じゃなかった?」

 

「この星には、この銀河は無論、他銀河系列の宇宙文明史が飛来しておる。挙げ句、外宇宙異次元暗黒領域より、神秘物も漂い付く。

 ハーヴェストスターの生まれ故郷も気になり、彼等に狂い火を啓きに行ってはみるが、あの神秘機械文明も気になる故、時間を遡り、滅びる前の文明へ行ってみようか」

 

「太陽をエネルギー源にする恒星文明らしいです」

 

「宇宙における一番の資源だろうな」

 

「等と言いつつ、まずは周辺惑星の人類種に敵対する星の眷属共を皆殺しにして、資源にしたい。本音は惑星間戦争文明の発展なのだけど」

 

「一番、貴公が人間らしい人間よな、オルガマリー」

 

「当たり前でしょう。何時かは、この宙で生きるヒトに人間を啓蒙する為だもの」

 

 所長と褪せ人は段々と早口となり、瞳より視線が交り合い、眼球交信が始まる。瞳をアンテナに脳波送受信をし合う様になり、念話を超える意識対話を始め、むしろ交信する事でより高度な対話に進化し続ける。こうなると高速思考に対応出来ない脳であれば、膨大な情報量に脳細胞が燃焼して頭蓋骨が爆発し、思考悶死するだろう。

 その時、七人全員の脳に(オト)が響いた。

 耳に心地良い優しい声。まるで日本の娯楽文化で働く声優が喋る声質であり、少女でも成人女性でもない生温かい女の声だった。

 

『ピンポンパンポーン。此方、葦名電磁脳波塔よりお送りします全国脳波放送でございます。此方、葦名電磁脳波塔よりお送りします全国脳波放送でございます。日本国民全ての脳へ、葦名幕府行政サービスからの連絡放送です。

 葦名幕府国会与党、啓蒙共脳党より、議会決定の内容をお送りします。

 この度、殺人税徴収法案が可決されました。この度、濃霧管理局運営資金調達の為、殺人税徴収法案が可決されました。つきましては、人間対象の殺害行為のみ、一殺一ソウルの徴収を行います。亡者、悪魔憑き、獣憑き、またデーモンの殺害は対象外となります。自意識を保つ人間の殺害に限定し、税徴収を行います。また徴収方法は濃霧による間接徴収を自動的に行います為、国民皆様の生活にご負担は掛けません。

 それに伴い、葦名幕府行政サービスはこの度より現金資本は廃止し、全て自動徴税ソウルシステムに統合されます。全自動化により、金銭売買によるインボイスとセールスタックスなど全て完全廃止し、商店事業者の事務作業は不要となります。日本国民の皆様は好きに鏖殺をお楽しみくださいませ。

 追加として同時に、名誉殺人税徴収法案も可決されました。魂の尊厳を守る為、名誉殺人を行った際、此方もソウルを自動徴収致します。魂の為にソウルを奪う行為は人道に適した行いですので、一殺十ソウルとなります。葦名幕府行政サービスは皆様の慈悲が正当化される様、殺された人間のソウルが十ソウル未満の場合、殺人者のソウルから不足分を徴収致します。尤も、此方も人間以外に変異した亡者は適応されませんので、人外は無税で殺戮出来ますので、変異した身内の人間は御遠慮なく殺害して下さいませ。

 また、カルデアからの侵入者が確認されました。大日本倭国の滅亡が確定致しましたので、日本国民の皆様は人類史が救われる為、一方的な皆殺しを受け入れ、清く正しく死にましょう。人類史繁栄の為にカルデアによる無慈悲なジェノサイドを拒まず、迷惑を掛けない様、潔く死にましょう。日本人らしく、惑星最後の民族に相応しい死に様で、救世主カルデアに殺されましょう。デーモンの濃霧より救われる為、カルデアが下さる慈悲の死に感謝し、魂の最後を祈りましょう。

 最後に、グンマ封印区画の完全緑化に成功しました。今より二十八時間五十七分前の濃霧管理局大魔術実験により、自然豊かな大森林地帯となりましたので、葦名産の養殖人肉や培養人菜以外の食糧輸入にご期待下さい。

 人類最後の民族、日本人の蒙を啓き、皆の魂を一つの脳で共にする幸せを。以上、啓蒙共脳党党首、田村ケイモウよりお送りしました。ピンポンパンポーン』

 

 電磁脳波放送が終わると、藤丸は宇宙を漂う上位者猫のような、何とも言えない奇妙な表情を浮かべた。

 

「かー、マジで糞っ垂れ社会。ディストピア過ぎて笑えてくる惨状です」

 

「魔女よ、貴様の好きそうな世界観でないか?」

 

「フィクションなら好きなだけよ、暗帝ちゃん。現実になると心が痛むの。

 まぁ、復讐に酔って殺戮を行った罰として、他人の苦悶と共感するのは受け入れてるけど」

 

「それ、生後一ヶ月の赤子の時の話だろうに。しかし、人間性に年齢は関係ないか」

 

「自意識は在ったわ、捏造品の作り物だけど。とは言え、その哀れな肉人形が私の本質なら、その様を否定するとこの魂まで意味を失うことでしょう。

 そういう意味において、葦名特異点は私と貴女を映す鏡になるって訳なのよ」

 

「ローマのパクリだものな。全く、罪と邪悪を物真似るとは、恥知らずめ。

 余の女神とは言え、人間として斬らねばならぬ」

 

「彼奴等、平然と糞団子投げを愉しむ精神性なので、恥とかないですね。しかも発酵して高熱状態な上、中身はまだ湿ってるとか最悪過ぎて面白い」

 

 その時、褪せ人は唐突に魔女へ近付き、顔に接吻する寸前まで寄り、スンスンと鼻を鳴らして体臭を嗅ぎ出した。凄まじく失礼な上、明らかに糞団子がで臭くなっている女性に対し、拷問染みた羞恥心を与える行いだった。

 よって、魔女の表情は一瞬で死んだ。次の瞬間、凄く、とても、目茶苦茶に臭そうに表情筋を歪め極める褪せ人に、予備動作一切皆無の無拍子で、その眉間に銃口を押し当てた。

 

「何なのよ、テメェ……?」

 

「素晴らしく臭く、堪らなく臭うのだ。血便と壺の中で混ぜ合わせ、発酵させ、新たなる壺を作れる啓蒙を貴公の体臭より得た。

 成る程。糞団子、ダング・パイ。成る程。血蝿も喜び集る素晴しき糞の業だ。

 死体より発露する祝福と良く似ておる。この糞も死体に死体を食わせ、熟した呪い糞と見える。故の、糞呪か」

 

「―――は?」

 

「持っておるのではないか、貴公。それに、暗帝と盾騎士も。あの灰共を一度でも殺せる好機が有れば、我等不死の大好物な特技である死体漁りの業により、奴等のソウルから幾らか盗んでおるだろう?

 是非、分けて頂きたい。きっと、灰共を呪い毒する良き死の壺が作れそうなのだ。勿論、対価は渡す故」

 

「その前に、顔、近い、キモイ、離れなさい」

 

「何と。数年掛けて造形した美貌だぞ。その我が芸術が、キモイと?」

 

「反吐が出る欲望が顔に出てんのよ」

 

「確かに。それは気色悪かった。素直に謝ろう。すまん。私は私が、どうしようもない下衆だと自覚する故、その欲望を当てたとなれば、無礼極まるのも理解しておるのでね」

 

 退廃的な煤けた黄金の美貌。まるで人間の薄汚い欲望で穢された聖女のような表情を醸しつつ、褪せ人は甘い吐息で言葉を出している。それを魔女は魂に直撃した所為か、脳裏でブリテンの聖職者に集団強姦された記憶を思い出し、糞の様な赤子時代の記録に死にたくなりつつも、死に至る心的外傷の深さに比例した憎悪の怨念が煮え滾る。

 彼女の瞳が殺意と憎悪が混じり、怨念と邪悪が雑じり、誰でも良いから殺したくて堪らなくなる。あるいは、誰かの命を奪っていないと自殺したくて堪らなくなる。

 褪せ人の眉間に当てた短銃の引き金を感情に従がって引こうと思うも、血塗れた狩人の理性が指を凍り付かせて動かさなかった。

 

「良いわよ。糞団子ね、糞団子。脳内空間に幾つか持ってるわ。後で上げる。勿論、対価は頂くけど」

 

「ありがとう。貴公は……いや、君は善い人狩りだ。実に善人だ。

 私のとっておきの神秘、貴公の脳に刻もう。深く、蕩ける様に、血の神秘を啓蒙しよう」

 

「それは超期待します。モーグウィン、どんな感じの憐れなる落とし子なのでしょうね」

 

「あれはとても良かったぞ。後、疑問だが……名誉殺人とは何だ?」

 

「あぁ……褪せ人である貴様は知らんか」

 

「知らんな。戦場で敵兵を討ち取る名誉……と言う雰囲気ではないな。貴公は知っているのか、暗帝」

 

「あぁ、見た事もある。其処な魔女も、な。簡単に言えば、汎人類史の歴史にある殺人文化。人理焼却が起きた現代でも行われる人身御供や生贄に近い因習だろうな。

 例えば、そこな魔女のように男共に陵辱されるだろう。その後、親族が穢れた女が醜いからと殺す。身分違いの男女の恋は禁忌として、その女は欲に溺れて醜いと殺す。それと文化を守らないからと、何か苛立つから殺す。

 まぁ、汎人類史の本質とも言えるな。

 人間は、そうやって薄汚い社会正義に従い、人間の命を剪定し、社会適応する遺伝子進化を繰り返した知性故にな」

 

「ほぉ……―――何だ、共感出来る下衆さだ。

 汎人類史の人類種、褪せ人と何一つ変わらんのか。成る程、灰が救いたくなるのも頷けるぞ。古い獣などと言う温い外的要因で滅んで良い生命ではないようだ。

 苦しみ抜き、自業自得の悪因を克服し続けた未来の果て。そこに至らねば、自滅も許されぬ。否、自滅以外の死滅は許されぬ。我等と同じく、今更に清く在る事が欺瞞となり、醜く在らねば過去が憐れとなる」

 

「やはり貴様、余の同類の儘か……―――カルデア、当たりを引いて何よりだ。

 平和に見えようが、醜さが薄れただけで、人類史の何処の国も人間性は変わらんさ。勿論、特異点化した葦名幕府が支配するこの日本もな。

 尤も、それが素晴しいのだ。何もかも焼き尽くす情熱の愛もまた、獣の心を持たねば愉しめぬ故にな」

 

「止めなさい。人間性の話なんて、辛気臭い。私達みたいなのが人間を語ると、結論は獣性に辿り着くって決まってるじゃないの。魔女と嘲られる私にだって分かっています。

 結局、関わるべきじゃないのよ。幾ら殺しても殺戮に満足はない自慰の坩堝。

 そもそも政治家や国家、あるいは宗教の為に人を殺す奴等と共感し合えない。

 他者を守る為に無実の人を殺す何て意味不明だし、生きる以外の殺人は極悪。

 私達は自分の為に人を殺す。自分の為に銃を握り、殺戮を行う人でなしの輩。

 私も所詮、人の罪から孵った赤子が、唾棄すべき邪悪に育った幼年期の姿だ。

 そんなどうしようもない憎しみや憤りより、風呂入って、飯食って、糞して、寝て、日常を繰り返して、自分の魂から逃避して―――で、仕方無いと悟れば良いだけの話だわ。

 結局、そう在るから私は魔女として存在する。

 皆、根源は同じでしょう。目の前の命を救えるなら、何も考えず気楽に救っときゃ良いのよ。んで助けられたら、痩せ細った自尊心を満たせて良かったと善き悪行に酔う快楽へ浸る。うだうだ悩むなら、その日は自殺したい気分で自害したって事だけなのですし?

 そもそも平和に生きる人間の視点からすれば、私等みたいな殺人狂い、とっとと死刑判決してこの世から一秒でも早く死んだ方が良い精神異常者でしかありませんし?」

 

「そうよな。社会不適合者な上、生きるに苦しむ存在不適合者は、倫理に苦悶しようが我を貫くのみ。そんな事より今の貴様は、とっとと風呂に入りたいだろうしな」

 

「当たり前じゃない。お湯、沸いた?」

 

「うむ。盾騎士の温度調整は完璧だ。奴こそ風呂奉行よ」

 

 丁度その時、簡易浴場から盾騎士は戻って来た。彼女にも葦名電磁脳波塔からの脳波放送が聞こえていた筈だが、彼女は何一つ思っていないのか、先程と何一つ変わっていなかった。

 

「薪、焚いてきました。順番は何でもいいですが、ダルクさんは最後です。その間に御飯の準備は進めますので、最後のダルクさんは念入りの長風呂でお願いします」

 

「分かってるわ。との事で藤丸、もし誰か一人でも入浴シーンを覗く場合、最後の最後まで皆と致す決死の覚悟で覗くことね」

 

「分かった。死にたくないので、狼さんと五目並べして待ってます」

 

「意気地無しね。夢のハーレムじゃない?」

 

「―――ふ。今日はまだ死ぬのに良い日ではないと思うんだ、ジャンヌ」

 

「そうね。隣で銃をクルクル回して威嚇する所長ちゃんも怖いので、今日は御誘いだけで我慢しましょう」

 

「何と。なら魔女よ、今日は余と―――」

 

「―――黙れ、変態皇帝。そんなに盛りたいなら、他の変態を誘ってなさい」

 

「なら、褪せ人。余、致したいよ」

 

「すまん、暗帝。私、好きな人間がいるのでな」

 

「巫女のメリナか。やれやれ、一途な事だ。あの娘、貴様には意図的に素っ気無い雰囲気だったが?」

 

「それが良いのだよ。深く好かれようとされず、程々の友人程度の距離感を保とうする意地らしさが、とても可愛らしい。

 他の人間は分からぬ無能で在れば良い。

 私だけが、彼女の可愛らしさを理解していれば、それで良い」

 

「そう思えば貴様、あの娘の為に分かった上で欺瞞に飛び込み、むしろ真実を理解した上で、自分の狂気の儘に狂い火の王になった口だったか」

 

「何も無い私にとって、守るべき者は最初から一つしかなかった故。ラニさんには悪い事をしたが、そもそも律と言う宙の欺瞞を焼き払いたい欲求を否定するのは、私は私自身の魂に出来なかった。

 結果、狂気が正気と化した。

 救えぬ者の運命を啓き、積もる怨念を晴らす路は、黄色の病魔のみだった」

 

「貴様も余と同じ、何もかも焼き尽くす情熱に浮かれた化け物だったな」

 

「同類、故に友だ。故、共に憐れむ無様さで在る。合わせ鏡は互いの狂気を正しく映す」

 

「―――そこ、無駄話する前に入浴準備して下さい。

 ほっとくとする人生哲学を語り合う癖、説教臭いから私は嫌いです」

 

「キリエライト、なら若い話をしよう。貴様、どんな性癖の持ち主だ。余は全てが自分の思いの儘と考え、実際にそんな能力を持つ人間を従順な召使いに調教するのが大好きだ」

 

「貴公、好きな体位を教えて欲しい。実はこれ、狭間の地に伝わる文化的な占い方法なのだよ」

 

「セクシャルな質問は若くありません」

 

「余達の年齢を考えれば、中年が嗜む下世話な下ネタは、まだまだ若いだろうに」

 

「そうだそうだ。貴公は本物の清純ではあるが、年齢を考え給えよ。清き湖面も停滞すれば、爛れる様に腐れるのだ。

 ならば、清らかな年増など腐敗の眷属と何が違うのか?

 盾騎士、キリエライト。私は乱れ狂うもまた健康だと思うのだよ。

 との事で、一番風呂は貴公が入り給え。頑張った奴が一番報われるのが人道と言うものなのだよ」

 

「あー……御好意は受け取ります。皆様は?」

 

「準備出来た風呂の前に、コジマと放射能の汚染除去しましょう。その後、結界魔術で無菌空間を作りますので、そこから風呂に入るのが良いんじゃないの?

 勿論、風呂はキリエライトからでオッケーね。

 まだちょっと雑談タイム延長したいし、時間は腐る程にある訳だし、急ぐ必要もないのだし」

 

「御意の儘に……」

 

「オルガマリーに賛成」

 

「余、構わんよ」

 

「俺も所長に賛成」

 

「私も」

 

 個性豊かな意見がバラける集団な様でいて、一致団結する速度は一瞬。正体不明にして概念錯綜する理解不可の魔術理論―――即ち、正気が抉れる魔術を所長は即席で作り、オーロラ色に発酵する波動を右手から出し、盾騎士の汚染除去を始めた。

 その上で小型結界を作り、移動式個人結界と言う魔法レベルの神秘を盾騎士に張り付け、風呂場まで無菌状態を維持する様にした。

 

「ニョニョニョパニョ~ン……―――と、はい終わり。

 細胞自体は勿論、細胞内の遺伝子やミトコンドリアなどの細胞小器官も綺麗にしといたから、汚染症候群の罹患は気にしなくて良いからね」

 

「脳と内臓が良い気分です……まぁ自前でも出来ましたが。とは言え、御厚意には感謝します」

 

「キリエライトみたいな御嬢さんに感謝されて、おばさん嬉しいわ~」

 

「そですね、アニムスフィア」

 

 冷徹な目付きで素っ気無い返事をした盾騎士は、脳内空間に下着と部屋着が入っているのを思考で確認した後、グンマ薪で焚かれた浴場に進んで行った。

 

 

 

 

―――◇◇◇<◎>◇◇◇―――

 

 

 

 サイタマ殺戮区画の夜空はとても美しい。星団が光り輝き、月が異様なまで大きく煌く姿。第三次世界大戦後に起きた第一次世界核戦争による惑星環境破壊によってオゾン層はほぼ崩壊し、太陽から生物の細胞を破壊する有害宇宙線が地上に降り注ぐ様、地球を覆う自然の防壁は消え去った。大地から見る宇宙の姿は在りの儘の姿となり、星が死滅することで澄み切った空気は、ソウルの霧が薄れた日はとても綺麗な夜空を演出していた。皮肉にも灰による核熱爆弾により、霧は吹き飛ばされていた。

 本来、美しい故に人間の細胞を破壊する死の夜空。

 だが、所長と盾騎士が張る結界により人間の生存隔離空間が作られ、団欒な夕食会を演出する事が出来ていた。

 

「ゴチ」

 

 そして、短く、力強く、魔女は手を合わせて祈りの言葉を言い放つ。

 

「にしても藤丸、何故覗かなかった?」

 

「行くなと囁いたんだ、俺の第六感(ゴースト)がね」

 

「意気地無しね。灰が支配するこの特異点の日本、覗き規制する法律なんてないじゃない。混浴云々は基督教圏の影響でしかなにってのに」

 

「古き良きローマも、中世日本と同じく混浴だった。余も人を選ぶが混浴派だ。どうせならば、身と同じく心も情熱的に暑くなりたいのだ」

 

「エロ目的じゃない」

 

「私、性欲は褪せてないぞっと。その気になれば、顔はそのままに男の肉体に変身も出来るぞ」

 

「お。行ける口か、褪せ人」

 

「私は歴戦の戦士だ。寝まくったデスベッドでコンパニオンな美女……うむ、これは言い方が悪いかな?」

 

「悪いな。だが敢えて、そう言う意味でも余はインペリアル級である」

 

「では、英雄を抱くのを使命とする死衾の乙女と、暇があれば円卓で壺大砲したものだよ」

 

「―――壺大砲。即ち、ジャルキャノン。

 キリエライト、機関盾を愛する貴様はどう思うか。ローマ的に浪漫へ通じる貴様は、余を通じて壺が見えるだろうか?」

 

「愛、そのもの。壺を愛する狂気が啓かれますね……ッ―――はぁ、もう良いです。

 少しこの特異点、脳が溶けて苦しいです。脳細胞が少々蕩けた様で……はは、まぁ核熱兵器の放射能でソウルが焼けたのですから、お風呂入ってご飯食べた程度では、精神がまだまだ回復しませんね」

 

「脳と魂でダメージが残ってるわね。寝ても回復し切れないから、ちょっと後で私の所へ来なさい。ロマニ直伝の精神分析からして貴女、例えるなら統合失調症手前な脳を精神力で抑え込んでる雰囲気で……うーん、脳神経細胞が自責の念で生物機関的に狂い出してる感じかな。

 カウンセリングと私自家製の精神鎮静剤で応急手当でもしておきましょう」

 

「やっぱり、そうですか。自分の脳機能を自己暗示と薬物投与で殺戮思考に特化させた所為かも知れませんが、戦闘関連以外だと最近は考えが纏まり難くなってるのですよね。戦術戦略はむしろとても冴え渡り、人を守る時は何一つ迷いが消えて無を悟れるのに……人殺しを愉しく考えてると、どんな風に女子供殺そうかショッピングするみたいに迷ってると、鈍い頭痛もアミグダラからしないのですが。

 あぁ、エミヤさん……貴方の苦悩が啓かれます。葛藤が痛みを消してくれます。

 鉄の心なんて持つものじゃなかった。そう在らないと止まってしまうのに、歩き続けないといけなかった。ドクター……あぁドクターロマン、どうして貴方は私を動物から人間にしたのでしょうか?

 機械の左腕が痛いです。怨念が冷たく熱く、鋭く鈍く、亡くした生身が、この痛みが、喪った過去を教えてけますか?」

 

「あら、ロマニの幻覚に加えて幻通も発症してるじゃないの。成る程……あぁ、そう言う関連か。

 藤丸に会ったのが、心に致命傷を負ってる訳ね。癒えない魂に清い良心は劇毒だから、善性が罪と言う傷痕に塩を塗る。仕方ない事だけど、仕様がない事だし、壊れちゃったら治せるから良いんだけど、そう割り切るのは奴が与えた人間性が私の魂へ痛みを与える」

 

「アンタも良い感じに、この葦名で外道具合が腐れたわねぇ?」

 

 その様を魔女は嘲笑った。心の底から可笑しくて堪らなく、彼女は自分に融けた遺志が獣性に酔うのを喜んだ。

 

「ふふふ。貴女は随分とフランス特異点とは違って、人間味が増した様ですね。女子供を竜に喰わせる何て真似、もう出来そうにはないわ。

 心、痛むのでしょう?

 復讐、もう酔えないでしょう?

 灰も非道よね。復讐しかない火と悪徳の赤子を、今の善なる正しさを得るのを想定してそう作ったのだもの」

 

「――――拷問よ。今の一分一秒全てが、心地の良い地獄なのよ。

 私の魂に融けた子供達の怨念が復讐しろと囁くの。赤子だった私に、今も赤子な遺志が、自分達を殺した魔女を作った元凶を苦しませろと、赤子に人殺しをさせた人理を焼き尽くせと嘆いている。殺戮を良しとした人理を滅ぼせと、人殺しをしたくないのに願ってる。

 長い時間の果てで、皆が私の罪を赦したの。

 何で人生を奪った私を、どうして赦したの?

 でもね、私は星見の貴女が全てを理解しているのを知っている。頭蓋骨を啓いて、脳漿を啜れば、きっと全てを理解出来るのも分かってる」

 

「求めるなら、別に構わないけど?

 ほら、カルデアに力を貸してくれる対価に、私程度の命と脳で足りるなら、むしろ毎日ずっと上げます」

 

「だから好きになれないよ、星見の狩人。ほら、キリエライトが狂い始めてます。

 大事な人間の一人で、貴女みたいな外道女が大事に思える稀な善人なのですから、ちゃんと助けて上げなさい」

 

「そうね。でも、自分で罪を犯した自分を許せないって人間性を得られたのに、殺した相手に憐憫によってその人間性を許される何て、ある意味で貴女もまだ幼年期みたい」

 

「罪科について語り合うなら、今晩からでも良いのですよ?」

 

「今度ね。今はキリエライトの精神を治したいので……はぁ、ごめんだけど隻狼、藤丸の方の様子は見ててくれない?」

 

「御意の儘に……」

 

「じゃ、宜しく。んー……あ、そうだ藤丸。キリエライトの事は心配しないでって言っても、絶対心配し続けるだろうから、取り敢えず明日の朝に一杯構って上げる為に今晩はちゃんと寝なさいね」

 

「わかりました、所長!

 明日、メッチャ心配するために良く寝ます!」

 

「凄い割り切り、安心するわ」

 

 所長はひょいと盾騎士を抱き上げると、寝床まで歩き進めた。症状からして精神的損傷は、核熱爆破以上に百人分のソウルの奔流を守り続けた時に使い潰したソウルの摩耗具合だと見通し、弱った魂で核熱を防いだのが止め一歩手前にまで精神錯乱が進んだと判断した。

 灰との殺し合いは、魂を否定し合うソウルの削り合い。

 精神的摩耗も同時に起き、死と共に心が折れる絶望だ。

 火の簒奪者を百人相手に回したと思えば、心が折れる直前で踏み止まり、魂が少し崩れる程度で抑えた盾騎士の精神力が桁外れに強かった。

 

「では藤丸殿、俺とチンチロでも……やらぬか?」

 

「昔、時代劇で見たね。盲目の剣士が、イカサマするヤクザを斬り殺しまくってたアレでしょ?」

 

「カルデアにて、嘗て見た。動く絵巻、良き文化なり……」

 

「オッケー、私も参加するわ。金を賭けても意味ないし、負けた奴は脱ぎましょう。言わば、脱衣チンチロね」

 

「魔女よ、愉しそうよな。ならば余も参加せねばなるまい。

 ローマの混沌極めし性文化に敵う娯楽か、否か……暗黒皇帝たる余が直々に遊んで見極めてやろう!」

 

「脱衣となると、マスターは不利なのでないかな。今の礼装、肌に張り付くほぼ一枚みたいな装備にしか見えぬのだが?」

 

「―――断固、反対!!」

 

「しかし、それが良い。マスターが羞恥に染まる貌を見るのを想像すると、胸に迫る感動のような衝撃がある。成る程、やはり褪せ人たる私は、人間の生の感情こそ最高の娯楽となるのだろう。

 ふぅむ……う、思わず、我が聖槍がニーヒルしそうになる」

 

「ニーヒルさん!!?」

 

 ―――これより十分後、忍びはフンドシ一丁の姿となった。

 所長が盾騎士に精神処置し、眠るまでの間に楽し気に会談を行う他五人。灰が召喚した火の簒奪者の一人、機巧の簒奪者(エアダイス)が擬態によって小石に変化して観察しており、サイコロ遊びで忍びがほぼ全裸になったのを訝しんだが、魂レベルで小石になっているので感情面で一切の揺らぎはなかった。

 この灰は、技術狂いの一人。工房のフォルロイザと絡繰のファロスと共にカルデアの核製造技術を学んだ後、灰が撃った核熱兵器作成に協力した男。彼はソウルの奔流と最初の火によるエーテル干渉タイプの核熱が引き起こす放射能汚染が、人体に与える悪影響を知る為に此処へ来たが、思った通り全員が無事であり、少しばかり安心することになった。

 灰に召喚される前、彼が人王をしていたのは自分が火を奪った暗黒時代の人代帝国。不死たる人間が何処まで進化可能なのかと技術力の発展を好んだ灰は、己の王国を神代以上の文明技術によって巨大帝都に作り上げ、蒸気機関文明まで押し進める事が出来ていた。

 しかし、人理の人代を知り、核文明を啓蒙された。魂が物理干渉を受けるソウルの業を根底とした神秘法則の絵画たる異界だが、物理法則はソレとして確立されている。そして異界だろうと物質も元を辿れば、ビッグバンより数億年後に生まれた巨大恒星の超新星爆発による原子創造であり、星の大地も人間を構成する有機物も、遥か太古の宇宙で爆裂した星があらゆる星と生命の母であり、それらの宇宙塵が集まって銀河の星の一粒一粒が生み出た。

 ビッグバンが時空間と最初の物である水素を作ったのであれば、最初の星は命と銀河の始まり。大元を辿れば灰の生命起源もまたソレより生まれたモノであり、全ての宇宙生物の始まりだろう。

 己の魂が、宙に求められた故。

 機巧灰(エアダイス)は、星見に感動された。

 余りにも美麗な曼荼羅模様である銀河群の正体を灰は知り、閉じられた自分の世界にはない宇宙を知り、しかしこの広大な宙の世さえも閉じられた世界の一つ。やはり、自分たちにとっての闇たる生まれ故郷が、この宙の世界で生まれたヒトにもあるのだと。

 

「あれま。貴方、私の魂に感応して宇宙を夢見てた?」

 

「ああ、君のソウルを見たからか。感動により、隠密が破られるとは。

 しかし、空か。美しい。

 闇の次に目指すべき地点ではないか。あるいは、空もまた暗い深淵に見える。命の根底、物質の根源を考えれば、この世もまた我々と同類だ」

 

「で、暴れる?」

 

「しない。ただ心配だった。特に、カルデアの少年が」

 

「核、撃っておきながらよく言う」

 

「マシュ・キリエライトに必要な火だった。現人類による汎人類史の火こそ、彼女のソウルに絶望を焚べ、人間の進化に対する失望を与えよう。

 君達を裏切る際、彼女には心底から納得して貰いたい。

 我々の知性の本質が闇の一匹である様、君等の知性も所詮は猿。如何程の残虐性も、原始の縄張り争いと何一つ変わりはしない。

 始まりは変えられない。変質しない根底がある。

 魂からして、人とは人の儘に人の命を簒奪する」

 

「貴方は、そう言う人間性が好きみたい」

 

「悪が為す罪もまた、事実。魂の為に火を奪ったならば、魂に嘘を吐くのは心苦しい感傷が生まれる。

 だからか、獣狩りの彼には彼女との絆を結んで頂こう。

 悲劇の土台となるのは、幸福だった今までに他ならぬ」

 

「じゃあ、もう帰って。今日は眠いし、戦う気分じゃない。

 百八もいる火を宿す灰の一人でしかないとしても、その貴方一人が本気になると私達七人全員より強いし、殺し合いも巧いから嫌なのよ」

 

「ああ、分かった。他ならぬ、オルガマリー・アニムスフィアの願いだ。叶えよう。

 君には、人類叡智を我ら灰に啓蒙した恩義があるのだから」

 

 ゆらゆらと小石は揺らぎ、時空間に蕩けるように姿が消え去った。

 

「ふぅー……」

 

 溜息一つ、所長は吐く。

 

「……煙草、吸お」

 

 モクモクタイムに外に出れば、小石に化けた灰。リラックスをする筈が神経を擦り減らし、彼女は独り言が漏れるのを抑えられなかった。

 ―――その時より二時間後の深夜、関東平野を疾走する巨大過ぎる物影。

 名称、グレートウォール。葦名で作られたアームズフォート最後の一機にして、今は森番灰(マスク)が運転手をしている殺戮機構であった。

 

「君、運転が荒い。動力炉の魔神柱型聖杯、壊れ掛けてたよ。自動弾薬補充システムがアラートを出してた。まぁ、直したけどね」

 

「エアダイス、メンテ御苦労。感謝だ。しかし、アンタら技術屋の灰さん等が作ったあの核熱の火、とても美しかった。特に、森に自生していた茸人も思い出す見事なキノコ雲だったさ」

 

「マシュ・キリエライトの為だ」

 

「オリジナルのソウルに火を啓蒙する所以、分からぬ善意ではないが……うぅむ―――好みではないな。

 汎人類史の火を使わずとも、彼女の魂に火を宿す手を捩じ込み、捏ね繰り回し、精神を手厚く冒涜すれば良かった事だろうに。

 失敗は、カルデアの英雄が真なる救世主へ転生する自体となろう。

 余りにも悲劇的過ぎる末路は救済を茶番へ落とす。見るに堪えぬ。

 やはり人間、森が一番だ。自然と共に生きるサバイバルが宜しい」

 

 森番灰(マスク)は自作の仮面兜―――父母子の三面頭を揺らし、グレートウォールの巨大砲門を見ながら、甲板のテラスで葦名産エスト緑茶をシバきつつ、水生水羊羹を一本丸ごと丸齧りしていた。

 更に自前で鍛え上げた黄金巨人鎧を森番灰は普段着としても着込み、鎧は金剛石より遥かに硬く、粘土以上に柔らかく粘り、羽毛の様に軽い仕上がりとなっていた。何でも、この葦名に来て学んだギリシャ方面の宇宙文明の神話技術をソウルの業と混ぜ、特殊素材巨人鎧に改良したらしい。尤も他の灰も似たような装備の葦名式改造を行っており、森番灰の鎧の特殊性は珍しいものではなかった。

 謂わば、スペース三面仮面巨人鎧アンデット。

 それこそ森番の簒奪者、マスクの正体だった。

 とは言え、灰達の技術発展を大幅に齎した灰の一人こそ機巧の簒奪者、エアダイス。工房灰(フォルロイザ)絡繰灰(ファロス)と意気投合したのが悪かったのだろうと彼は思いつつ、殺戮兵器で抑止力の英霊を撃滅するゲームは愉しかったので何一つ問題はなかったと判断した。

 

「では、君が家庭菜園するグンマ封印区画は良かったのか」

 

行商灰(メレンティナ)から、アンタらが英霊狩りに使った最後のアームズフォートを啓蒙に導かれて買ったからな。森での人狩りゲーム用奴隷に飼ってた英霊憑依型キリエライト素体を数匹と、英霊のデーモン数百匹分のソウルは良い値段だった。

 ならば、使わないのは実に勿体無い。あぁ、この勿体無いと言う感覚、日本人を殺してソウルを奪って得た素晴しい人間性だ」

 

「節約精神とはまた微妙に違うからね。しかし、メレンティナめ……人狩り好きな森男へ兵器転売とは」

 

「森男と言うのは止め給え。でアンタ、何しに来たさ?」

 

 そして、森番灰は動力源聖杯と管理AIシステムが直った兵器を再起動。不死化した住民に機関砲とミサイルをグレートウォールから試し撃ちをしていた森番灰は、まだ試射遊びを愉し気に再開。殺戮兵器の的になる事で死に生き続ける人間地獄を茶の肴にし、断末魔と共に発露するソウルを貪り、命を森狂いの不死らしく娯楽にしていた。

 此処は―――チバ遊園区画。

 灰に召喚された灰共が開発した兵器を、対人で遊ぶ旅行先の行楽地であった。

 

「―――カルデアを、襲撃し給え」

 

「成る程な。我等の召喚者、アッシュ・ワンの救世思索に反する気か?」

 

「いや、逆だな。思索内に収まる異常だよ。葦名市を覆う幻覚の結界、その術式の核はグレートウォールに搭載する魔神柱の聖杯に組み込まれている。

 星見のオルガマリーが、本格的に動き出そう。

 古い獣狩りの一環となる試練だ。元より全てのアームズフォート、破壊される運命だった」

 

「おい、待て。俺、この玩具をソウル払って買ったんだが?」

 

「故の転売だ。憐れだよ、最強の一人である森番の君が、より素晴しき災厄としてカルデアに立ち塞がる壁となった。

 行商の簒奪者は、己よりも君こそ相応しいと娯楽を譲ったのだろう」

 

「はぁ……―――フ。悪役遊びが、これの本質か。

 ―――素晴しいじゃないか!!!

 カルデアと遊んだ凡剣の野郎を羨ましく思っていた処だ。ソウルの奔流で盾騎士の心を甚振り犯すだけじゃ、人間性より無限に湧き出る嗜虐心を癒せないでいたんだよ」

 

「ありがとう。協力して貰えるなら、このグレートウォールを少し改造しようと考えてた」

 

「宜しくな!!」

 

 本来の森番灰は、森での殺し合いを極限まで極めた殺戮者。自分と同程度の敵を同時に十人相手にした一対多の戦闘だろうと、平然と勝ち残る殺し合いの化身。葦名に召喚された全ての灰がそう在るが、森番灰は殺戮技巧が測定不能なEXランクの中でも上澄みに位置する。

 即ち、殺したサーヴァントのソウルから簒奪した霊基概念に因り、今までの不死人生で鍛えた業に付いたその名こそ―――殺戮技巧。

 既にEXランクではあるが、灰は今を生きる生粋の人間である。

 あらゆる業が成長過程であり、魂も進化を終えていない幼年期。

 グレートウォールで人を殺す程にソウルは深まり、より豊かに成長し、不死化した日本人を蘇る度に殺し続け、ソウルを食べる度にその人間が歩んだ悲劇的人生を映画感覚で愉しんだ。

 

「しかし、汎人類史か。うむ、良い歴史観だ。俺がこうして霧に犯された不死身の日本人を殺しているが、向こう側の正しい善なる世界では確か、アメリカ人が日本人を生きたまま空から火炎壺を落として焼き殺していたんだったか。核熱兵器の元になった核爆弾も、人殺しが堪らないそのアメリカ人とやらが日本人殺戮実験で使ったのだろう?

 何とも、正義の味方らしい。俺は愛と正義が大好きだからね、この世の人間性から魂の正しさを学びたいのさ。

 故、これは素晴しい殺戮だ。本音を言えば、もはや嫌い過ぎて奴等の様な屑へ皮肉を言うのが愉し過ぎて、凄く好きになった感じだね。

 ……全く、指先一つで人殺しをするとは。自分を神だと勘違いする正しい善人は、やはり生きているだけで気色悪い。命を奪うのならば、己が魂を賭すのが我等の人間性の在り方であり、人理に生きる人間の進化では魂が致命的に腐れようて」

 

「人が人を殺すのは何時もの営みであり、アメリカ人による日本人の焼却虐殺はほんの少し前の話だ。しかし、歴史の勉強は良い事だ。外側の人間が日本暮らしをする礼儀でもある」

 

「だろう。俺も一人の在日火の無い灰だ。文化文明、全て吸収したいのさ。素晴しいものは、やはり素晴しい事に変わりはないのだからね。

 ひゃっははははは……この特異点、その歴史も変わらん。

 やはり自然、特に森で人殺しをするのが一番だ。とは言えね、このグレートウォールは別腹としてソウルの食餌を行っているぜ」

 

「皮肉が好きなのは本当だな。私も同じだ。あれが他世界を殺し尽くす程に価値のある正しき在り方ならば、人間らしい様に錯覚するだけでの神気取りだ。

 人間性だけは、人間の魂に嘘は決して許されぬ。

 選定し、剪定する等、欺瞞そのものだ。我等を人間にした雷の神が空に描いた太陽と同じ、偽りの甘い生で魂が世界に騙されている」

 

「だがアンタ、殺したい程に好きなんだろう。皆、同じだよ。俺も好きなんだ、命と魂がね」

 

「あぁ、そうだ。だから彼等の人間性を学び、こうして人理に倣って特異点で殺戮を引き起こす兵器を作った。

 ―――明日だ。良いかい、明日だよ。

 サイタマ殺戮区画へ砲門からグレネードを撃ち込み、全てを轢殺し給え」

 

「承った。良し、殺そう。どうせ人間、死など直ぐ慣れる。

 ソウルの奔流を撃った翌日にまた遊べるとは、森に感謝しなければ」

 

 三面仮面兜を被る森番灰は肩を揺らして笑う。彼は翌日を愉しみにした所為か、嬉しそうに巨大列車から弾幕を撃ち放ち、死にたくとも死に切れない不死共を焼却した。

 愉しいから殺し、森に引き籠って殺しの業を窮め、愉しいと言う感情が消えても殺戮を極め、だが火を継いだ。その後、燃え尽き、遺体は埋葬された。

 森番灰は確かに、人が人らしい方が良いと思い、神の欺瞞を嫌悪した上で限りある人生を尊んだ。その末路―――時代の最後、灰となってロスリックに蘇り、やはり無価値な欺瞞だったと理解させられた。

 永遠の魂で在りながら、命を貴ぶのは錯覚である。

 美しいと思って個人の意思で他人の人生を歪める等、唾棄すべき欺瞞の極み。

 

「人間は強い。頑張れる。きっと誰もが、永遠に戦い続ける魂で在るのだろう」

 








 読んで頂き、有難う御座います!
 ぶっちゃけた話、火の簒奪者ルートの灰が出る二次創作を読みたいが、余り見ないので欲望が解き放たれて作った作品です。後、かぼたん殺しルートの古い獣な悪魔殺しと、幼年期上位者ルートの狩人様も読みたいので、悪魔合体させたクロスものとなります。書いてる間にエルデンが発売されて、狂い火ルートの褪せ人も読みたいので合流した雰囲気です。顔面狂い火なんて絶対面白いですからね。で、型月厨な自分としてはFGOも書きたかったので、一度に全部するしかないと思いました。
 しかし、それはそれとして、効率厨王殺しな対人狂いなのに糞団子を投げない灰が全く想像出来ないんですよね。糞団子投げない癖に灰を名乗ると凄まじい矛盾に襲われ、もはやキャラ崩壊レベルですので、自分がゲームでしていた事は全部ぶち込まないと脳液が切れてしまうのですよね。なので、糞真面目に糞団子を濃密に描写することでしか得られない脳液が得られる事を啓蒙され、私は糞団子の大切さに気が付きました。あぁ導きの糞団子よ、初見プレイ時に妙に強い道中の雑魚キャラを安全に殺してくれてありがとうございました。
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