血液由来の所長   作:サイトー

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啓蒙7:聖剣の彼方へ

 キャスターを置き去りにし、皆は洞窟を歩き進んでいた。足取りは軽くもなければ、重くもなく、ただ真っ直ぐに目的地を目指している。

 

「でも良かったのですか、所長。私たちが洞窟を潜っている間、爆破される危険もありましたけど?」

 

「その時はその時よ。何がなんでも外に戻って、全員で囲んで、ボコボコに細切れにするまでよ。まぁ、少しでも魔力や火薬の気配でもすれば、一瞬で私の隻狼を外に送れるようにしていましたし、いざと言う時は霊体化でもさせて外に出せますから……あ、駄目だった。私の隻狼はマスター適性がない私と契約させる為、楔をカルデアと深く結ばせようと受肉させているんだった。所長、うっかりね。

 あぁ、でも、令呪で空間転移させれば問題ないか………」

 

 レイシフト適性は狩人に寄生されることで手に入れたが、サーヴァントと契約する素質を狩人は所長へ与えなかった。と言うよりかはただの副作用に過ぎず、現実から目覚めて悪夢で起きる異界常識は、所長の肉体を夢の特性を持たせる為に作り変え、それがレイシフトと相性が良くなっただけである。むしろ、英霊と契約を結ぶ素質とは何ら関係はない。鐘を鳴らせば狩人をあの夢の中では呼べたものだが、サーヴァント契約と狩人の共鳴は関係ないらしい。

 しかし、それで諦める所長ではない。ならば、そもそもサーヴァントがマスターとの契約と関係なく現界出来れば良いだけ……と思ったのだが、何故かオルガマリーは隻狼にだけはマスター適性が高かった。サーヴァントとして契約可能だった。恐らくは、何かしらの相性があり、本人間同士で触媒になる何かがあったのだろう。

 それなのに、まだまだ所長と忍びのラインは細いもの。ならばと所長は力技で隻狼をカルデアの技術力と自分自身の研究成果を使い、忍びを人間のように受肉させ、ラインが細くとも彼が万全に活動する事を可能にした。そして長く契約し続けることで、そのラインも通常以上に強く結び付くことになった。

 

「………あら。それは相変わらず悪辣ですね」

 

「安心しなさい。ちゃんと、いざという時の備えはしてるわよ。あ、でも、言いたい事はしっかり言うように。何を考えてるか雰囲気で察するのは簡単だけど、脳味噌の思考回路ってのは言葉にしないと相手に伝わる事はないからね?」

 

「ふふ。了解しました、所長」

 

「宜しい。では警戒を怠らずにね、ディール」

 

 新しい叡知を特異点に来てから啓蒙出来まくっている所長は、暗くジメジメして呪いで空気と太源が澱んでいる邪悪に満ちた闇黒洞窟内だろうと、実は結構上機嫌であった。

 中でも、英霊の血は美味だった。彼らの中身を吸い込んだ瞳が潤い、中々に癖になる血の意志であった。次点がヘラクレスの不死の呪い。やはり神は碌な存在ではなく、死んでまで英雄を神々の使命に縛り付けるとは、あの大英雄も難儀な者だと啓蒙する程だ。

 しかし、そんな思考も直ぐ途切れることになった。

 黒い光塔、肉塊の柱―――恐らくは、冬木の大聖杯。所長のみが見られる前所長の資料通りではないが、あれがこの冬木市で起きた聖杯戦争の聖杯の大元だと考えられる。

 

「聖杯……いや、大聖杯ね。あれ、如何見ます?」

 

『冬木の大聖杯……―――には、見えないね』

 

 それに直ぐ反応したのはロマニだけだった。通信越しからではあったが、彼からは何故かそれが真実だと言う確信を得ている気配がした。

 

「へぇ、ロマニ。根拠は?」

 

「―――ッ……………」

 

 その言葉に所長は少し違和感を覚えるも、反してそれを確信した。だが何処が如何に可笑しいのかは把握出来ず、しかしあれこそが聖杯なのだと啓蒙する。それにそもそも所長は聖杯は見慣れている。確かに自分が知っている聖杯は禍々しいモノしかなかったと彼女は思い出し、そう言う聖杯がサーヴァントのような存在を呼び寄せるのも理解出来た。

 

『…………――――あぁ。いや、ごめん。少し考えていたよ。

 でも、あれって明らかに呪われてる。願いを叶えるって話だけど、あんなんじゃまともに魔術師の願望を叶えるとは思えないな』

 

「ふーん……そっか、そう言う風に見えるのね。実は私もそう見えていたの。

 だからこその特異点。言い得て妙とはこの事。あんな存在がもし私達の世界の冬木にあったら、西暦2004年に世界が滅亡していても不可思議じゃない。

 となれば、特異点発生の原因はあれでしょうね……―――良し、消しましょう」

 

『え?』

 

「消すのよ。今からあの聖杯の破壊をカルデアの第一目的に定めます。だから、これから対軍規模の魔術を遣うわ。太源も豊富だし、とっとと消すのが一番そうね」

 

『いやいや、ちょっといきなりそれは……?』

 

「嫌な予感がするのよ。殲滅するわ―――隠れている敵ごとね。

 マシュ、命令です。詠唱中の私を前方から守りなさい。命を預けるわ。それと聖杯の破壊に成功した場合、爆風も予想できるから、最後まで気を抜かないこと。後、目的達成したら直ぐに脱出しますので、逃げる準備も忘れずに。藤丸はマシュのサポートを」

 

「マシュ・キリエライト、了解しました……!」

 

「――はい!」

 

 大盾を構え、マシュは全てを守るように黒い聖杯に立ち向かった。

 

「皆さんも私の背後に隠れてください!」

 

「背後からの奇襲も警戒しておいて」

 

「……御意」

 

「任せてください」

 

「了解した」

 

『所長!?』

 

「ドクター・アーキマン。管制は、貴方なら出来るから任せたの」

 

『~~~ッ……あーもう所長は―――はぁ、ボクも了解です。どんな些細な変化も見逃しませんからね!』

 

「うん、宜しく」

 

 即断即決の速攻。相手に奇襲させる隙間なく、全てを絨毯爆撃する戦術眼。所長は対軍規模の周囲一帯全てを破壊尽くす神秘を為すべく、魔術回路を全力全開で廻し、アニムスフィアの魔術刻印も最大限活性化させ、脳内の夢に隠していた生きた触媒―――軟体精霊を掌の上へ掲げた。

 ―――宇宙は空にある。それこそが、この世の真実。

 星空から光を呼び落とす星見の大規模魔術を我流改良し、その魔術を自らの神秘としたオルガマリー・アニムスフィアだけの秘儀。

 

“あぁ……―――素晴しい。正にそれこそ、神秘に溺れた教会が見出した宇宙。星歌隊の皆よ、見えているか。宇宙は空にある、やはり空に在ったんだ!

 あれが、あれこそが、我らが求めし彼方への呼びかけだ……ッ―――!!”

 

 ローレンスが感動の余り、内心で叫びながら血の涙を流すのも無理はない。その血が燃えて、瞳が暗く澱むのも道理である。普段の自分を装うことさえ不可能となり、神秘学者ローレンスの本性が顕わになる。だが藤丸も、マシュも、この啓蒙に飢えた人獣を気にする事など出来ず、通信越しのロマニも一変した大空洞から目が離せない。

 大空洞の上部が―――宇宙となった。

 空に浮かぶ宇宙が、全てを黒い深淵の宙へ塗り潰されていく。本来の狩人が許された秘儀の範疇ではなく、この神秘は上位者でなければ許されぬ秘儀の領域。星歌隊の狩人では、頭上に開いた小さい宇宙から星の小爆発を呼び掛けるのが限界だった。しかしオルガマリー・アニムスフィアは、狩人を超えた上位者の狩人に脳を犯された魔術師なのだ。彼女は失敗作と捨てられた彼らと同じく、空に宇宙を浮かばせる秘儀に辿り着いていた。

 ―――宇宙は空にある。

 この言葉は比喩でも虚言でもない。概念そのままに、人は宇宙をこの星の空へ呼び寄せる。高次元暗黒は確かに空へ浮かび上がる。彼方への呼びかけとは、その言葉を真実とした上位者から見出した秘儀である。

 

“アアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァアアアア……ッ―――――!!!”

 

 啓蒙が脳に入り、思考の瞳が花開く。ローレンスは何日も徹夜で神秘を語り合った学友ミコラーシュと同じく、その余りに濃い上位の叡智が叫び声となって脳味噌が狂い始めた。ああ、しかしながらも、その思考に慣れてしまったのも事実。理性が狂って壊れてしまう前に、血の中に融けた狂気(意志)を体外に瀉血させ、そして目の前の神秘に自分の意志を慣れさせた。相手へ狂気を流し込むことで故意的に発狂させるのならば、それを防ぐには狂気を瀉血する以外に理性を治癒させる手段を狩人は持たないが、この神秘は啓蒙こそ高いが意志を発狂させる瞳の神秘ではない。単純にローレンスが神秘学者として嬉し過ぎた所為で勝手に発狂し、その秘儀がどう言うモノか詳しく瞳で知りたい余り深く啓蒙し過ぎた為に狂っただけだ。一度慣れてしまえばもう発狂を直す為に瀉血する必要はなく、だがこの啓蒙高い神秘学者が一度は発狂せねば深淵まで分からぬ秘儀となると、この所長が辿り着いてしまった宇宙の深淵は悪夢に住まう上位者共に等しい領域なのだろう。

 だから―――宇宙は空にある。宙にある。穹にある。

 狩人が空に浮かべた高次元暗黒から、キラキラと流れ星が降って来る。

 小爆発を呼び寄せるのではない。オルガマリーが呼びかけたのは、宇宙の小爆発を生み出す星々だった。

 

「―――……彼方への呼びかけ(アコール・ビヨンド)

 

 空から青白く燃える流星群が―――落ちて来た。

 大聖杯を目指し、宇宙になった洞窟天井から綺麗な流れ星が降り注ぐ。彼女が唱えた呪文は神秘以上の宇宙を開く意志となり、この世の宇宙ではない高次元暗黒で地上の空を塗り潰した。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 尤もその空に浮かぶ宇宙は、そんな真名と共に斬り払われてしまった。黒い極光の斬撃が空を地上から真っ二つに叩き切り、青い星々が墜落する前にオルガマリーの秘儀を抹消する。対城宝具でありながらも、夜空を切り裂く対界宝具の如き所業を可能とする極光の剣。

 騎士王の聖剣―――エクスカリバー。

 大聖杯の正面に現れた黒鎧の少女は、確かにその名を告げていた。

 

『間違いない。あの姿、あの宝具、騎士王アルトリア・ペンドラゴンだ!!

 所長、次の真名解放が来る……早く、マシュ達に―――対処の指示を!?』

 

「―――あー、駄目ね。ロマニ、一歩遅かったわ。あの女、こっちの奇襲を待伏せしてたわね。だからマシュ、聖剣二撃目来るわよ。防ぎなさい。

 その盾ならば、カルデアならば、あの黒い剣に負ける道理はないと―――証明なさい」

 

「―――はい!」

 

「マシュ、令呪を―――!」

 

『~~~……マシュ。君なら出来る、信じるんだ!!』

 

「お任せを!!」

 

 再度、その聖剣に光が充填されていく。人間が振う大きさだった刃は、更なる刃として黒光を纏い、巨大な光の黒剣と成り果てた。

 瞬間―――セイバーは跳んだ。

 恐ろしい事に宝具の真名解放する為の魔力充填を行いながら、ミサイルのように宙を駆け抜けた。逃さぬように近距離から叩き込む算段であった。

 

約束された(エクス)―――」

 

 薙ぎ払う為に捩られる少女の鎧姿。彼らの真正面に着地した瞬間、既に聖剣は解放されてしまっている。真名を唱えるまでもなく、呪いに満ちた空気が光によって焼き尽くされた。

 

「―――勝利の剣(カリバー)ァァァアアア!!」

 

「あ……ぁあ、あ―――ああああああああああああ!!」

 

 地獄の熱さと太陽に勝る黒い輝きを―――盾の騎士が、たった一人で受け止めている。その聖剣を一目した時、マシュ・キリエライトは本能と理性で自分の力を理解した。一時だけ止めるだけなら、真名解放をする必要もこの盾にはない。身を焼く覚悟があれば、この盾と英霊の技能だけで光を防ぐには十分だ。

 だが極光を抑え込み、更に相手へ撥ね返すならば―――唱えねばならないだろう。

 守るべきは自分だけではない。自分だけ守るなら真名など要らない。マシュは自分の後ろに居る全ての仲間を、カルデアの皆を守るべき盾の英霊(シールダー)であるのだから。

 

「やろう、マシュ!」

 

「はい、先輩!」

 

 それでも盾である彼女の隣には―――藤丸立香(センパイ)が居る。自分が今この瞬間に感じている同じ恐怖の感情に耐えて、それでも前に進める色彩に溢れた人が、彼女と共に立っていた。

 

「宝具展開。顕現せよ―――擬似展開(ロード)/()人理の礎(カルデアス)……ッ!!」

 

「―――面白い。貴様、あやつとの契約者か……!」

 

 令呪による補助と、マスターからの魔力が、鉄壁のマシュを城壁に作り変える。その上で宝具を展開し、もはやエクスカリバーでさえ遮る英雄の盾が騎士王の前に立ち塞がる。

 如何に聖剣エクスカリバーであろうとも……いや、聖剣の騎士王だからこそマシュの盾を打ち破ることは不可能だった。

 

「ぐぅ、ぁあああああ……ッ―――!」

 

 連続解放された聖剣。しかし、その光全てを撥ね返された。シールダーの宝具をセイバーの宝具は打ち破れず、聖剣の解放は騎士王が光に呑まれたことで治まった。彼女の盾は斬撃をただ防ぐだけではなく、そのまま相手へ反射させるほど強固に過ぎる宝具であった。セイバーはその場に居ることに耐え切れず、苦痛を抑えるような呻き声と共に弾き飛ばされた。

 そして―――騎士王を囲む四つの影。

 

「……あの者を囮に使うか。カルデア」

 

「結果としてね。受け攻めを幾つか用意するのは当たり前で、その内の一つが巧い具合に型へ嵌まっただけ。けれども、部下をそうしなければならない葛藤なら、貴方はわかってくれるでしょう?」

 

「成る程。ならば、その言い様、貴様がこの者らの王か。名は?」

 

「オルガマリー・アニムスフィアよ。それで貴女、降参する?」

 

 あの奇襲方法をする輩が相手だ。直ぐ様に問答無用で殺されると考えていたセイバーはキョトンとした表情を一瞬浮かべ、どうやら自分が死ぬまでに問答をすることを意外に思う。

 たが、セイバーは相手の考えを悟り、裏はあれど実際に甘い連中だと言うことも理解出来てしまった。

 

「ああ、敗けは敗けだ。宝具を自壊させて自爆する魔力もない」

 

「宜しい。ならカルデアの名の下、捕虜として貴女を保護します。他の黒いサーヴァントと違って、ちゃんと意識が確かみたいだし、殺さず生け捕りに出来たのは実に僥倖ね」

 

「そうか。随分と甘いヤツがカルデアを指揮しているのだな。しかし……」

 

 星に蕩けるような爛々とした綺麗な瞳。澄み切った星見の眼光。セイバーを油断なく、しかし興味深く観察する神秘学者の狂気が、ただ見詰めるだけで相手の心を狂わせる。

 狂っている。そう直感したのに、セイバーはオルガマリーを何故か信用できると錯覚してしまう。確かなのは、彼女が本気で特異点修復を目的とし、この冬木の惨劇を解決しようとしていることだけである。

 

「……ふ。なんて様だ。それで貴様は人間なのだな、アニムスフィアの末裔よ」

 

「だから、こんな様よ。英霊を頼れない人間が人理保証するには、こうなるのが唯一の手段だもの。

 けれども、まぁ、今は私のアレコレは関係ない。貴女が消耗し過ぎて死ぬ前に、聞かないといけないことがあるの。一つじゃなくて、沢山あるのよね。この特異点を消す前に、知らないとちょっと不都合なの」

 

「褒美だ。言うだけ言うが良い」

 

 つまるところ、あの夜空の隕石も騎士王が相手なら防がれると所長は分かっていたのだろう。大まかな作戦を幾通りか周囲に伝えたが、細かい調整や目的変更はその場で行い、果たせた騎士王捕縛も可能なら行う目的の一つだった。

 事実、殺す気で戦うも、生き残る算段が付けば敵からの情報収集もカルデアとしてやらねばならぬ職務。殺害してしまえばそれまでと諦めるが、マシュ・キリエライトが騎士王を殺さず打倒するキーであった。たがそれ以上の目的として、所長はマシュをカルデアが作り上げたデミ・サーヴァントではない生きた天文台の英雄として覚醒させる良い試練と見抜き、その憑依した英霊と騎士王の関係と、実際に見ることで相性の良さを啓蒙し、即断でエクスカリバーをマシュの為だけに利用し尽くした。

 所長は安全をなるべく確保しつつ、彼女を英雄に育てる責務がある。高い死のリスクがある危機に当たらせつつ、確かなマシュの生存を啓蒙した地獄を踏破させる。この冬木の騎士王はマシュにとって、英雄に昇る第一歩に相応しい因縁の相手であった。

 

「まず最初に、そもそもカルデアを知ってる貴方は何者? 

 貴女って歴史に記されてないだけで、生前にアニムスフィアの魔術師にでも会ってたのかしら。でも、それならアニムスフィアは知っていても、カルデアは分からないわよね。千里眼でもなければだけど」

 

 そんなおぞましい思考を隠し、所長はこの特異点の秘密を得るべく王手を掛けた。

 

「ただの死に損ないだ。だが貴様らが此処に来た時点で、世に思い残すこともない亡者となった」

 

「どう言う事よ?」

 

「はぁ……そうだな。泥の呪いに染まりはしたが、今の私は……ッ―――」

 

 問答をする騎士王と所長に近付いて来たシールダーとそのマスターを見つつ、疲れたように溜め息を吐きながらセイバーは―――余りのおぞましさに、直感まで凍り付いてしまった。

 

「―――アレも、貴様らカルデアの者か……?」

 

 本当にソレは唐突だった。誰も気が付くことが出来ず、誰も理解しようがない幻影だった。まるで最初からその場にいたような人物が、一体何者なのか誰も分からなかった。

 何故、騎士甲冑の人物が其処にいるのか?

 何故、キャスターとアーチャーの――生首を持っているのか?

 朧な気配とは裏腹に、この場に居る誰もが寒気で意識を凍えさせている。脳の蛞蝓に落とされた悪夢にて、繰り返す夢の果てに夜明けを見た所長は、それでもこの騎士が子供の頃に目覚めた悪夢よりも、邪悪な何かなのだと啓蒙された。

 

「そんな。キャスターさんが……ッ―――!」

 

「……―――!?」

 

 所長達の所へ付いた時、異常に気が付いたマシュと藤丸の二人は振り返った。振り返ってしまった。先程まで確かに生きていて、自分達と会話をしていて、自分達の為にアーチャーの足止めをしてくれた人が死んだのだと、分かってしまった。

 仲間だったキャスターが―――生首にされ、片手で吊り下げられていた。

 

「ロマニ……?」

 

『そんな……所長、あれは人間です。普通の人間の反応が、そこに突然現れました……!?』

 

「人間……―――あれが、冗談?」

 

 本来なら霊核が砕ければ消える定めのサーヴァントの、その生首を強引に現界させ、そして恐らくは魂を霧散させずに維持しながら持ち運んでいる―――唯の、其処らの人間でしかない存在。感じ取れる存在感は、カルデアの測定と同じく人間と言う結果だけしか彼らに教えてくれない。

 まるで、悪い夢が人の形をしているようだ。

 あるいは、触れぬ霧が目の錯覚で人影に見えてしまっていると、そう思い込みたくなるようだった。

 

「―――――」

 

 喋りもせず、ふらりふらりと騎士は歩いている。何とか立ち上がったセイバーはカルデアと馴れ合うつもりは一切なく、一人でその騎士と相対した。所長も相手のことを把握出来ず、だが騎士王を止めることもせず、部下とサーヴァントの安全を考えて静観を選んだ。まずは情報を得ることが先決だと判断した。

 酷い言い方だが、正しく所長は捕虜を都合の良い囮にしたのだ。セイバーの情報は欲しいが、そもそも特異点の元凶自体は眼前の聖杯だ。彼女がどうなろうが、まず生き延びて破壊しないと最低限度の任務も達成できない。冷徹なまで優先順位を見失うことなく、今の危機的現状を把握していた。

 

「貴様は……何だ?」

 

「アサシン」

 

 だが無言を貫いていた騎士は、確かにセイバーの言葉に対し、小さな声だが答えを返した。

 

「……何だと。だが、アサシンのサーヴァントは確かに―――」

 

「―――……苗床を」

 

 そして、確かな意志で彼女の言葉を遮る。足音さえせず歩き、隙だらけに見えるのに、それでも手出しした次の瞬間に、その者が死に果てると言う歪な予感が皆を襲う。だからか、誰もが騎士の言葉も歩みも止められない。

 

「我が古い獣の苗床を、探しに来た。この地において、暗殺者の匣を与えられた者である」

 

 しかしセイバーは、このような暗殺者(アサシン)英霊(サーヴァント)など知らなかった。彼女が殺したアサシンはハサン・サッバーハであり、黒化したアサシンも変わらず髑髏の仮面を付けたハサンであった筈。

 

「ふざけるな……貴様が、私が殺したあのアサシンの筈がない。戯言をこれ以上囀るならば、力尽きた身であろうと関係ない。

 死ぬ間際の私だろうと、聖杯への道連れ程度は容易いぞ……っ――!」

 

「嘘ではない。私は英霊として召喚はされずとも―――暗殺者の霊基を、このソウルに宿している。ならば、やはり私は、アサシンのサーヴァントであるのだろう」

 

 鎧の上から胃袋がある箇所を撫でながら、男だろうその声を発しながら、騎士は気配だけで笑みを溢している。霧のような存在感のまま、人間の気配のまま、この世ならざる何かであるのだと、この場に居る全員が悟ったのだ。

 

「彼の心から私はこの地について、とても良く教授させて頂いた。サーヴァント、マスター、英霊、魔術師、ヘブンズフィール、ホーリーグレイル………諸々可笑し面白く、成る程。

 ―――聖杯戦争か。

 そして、君が最後に残ったサーヴァント。セイバー、騎士王、アルトリア・ペンドラゴン。残るは聖杯と関係のない異邦者のみ」

 

 二つの生首を握った左手をセイバーに向け、しかし何も起こらず―――少し、仄かな青い光が一瞬だけ灯った。そして、セイバーの首が消えてなくなった。

 ……余りに唐突。反応出来た数名も、彼女を守ることは出来なかった。

 自分が狙われたならば回避は出来ただろうが、隣に立つ人間を庇うことさえ不可能な速度。その淡く青い一筋の閃光は、正に光と呼ぶに相応しい速攻である。心身共に弱ったセイバーでは、直感もまともに機能しなかったことだろう。

 

「―――え?」

 

 藤丸は、その余りに唐突な光景に絶句した。それしか出来なかった。相手がサーヴァントとは言え、黒い彼らと違って正気を保っていた相手が敵だった。人と人として、対話が出来そうな人だった。サーヴァントが人間じゃなかろうと、人の形をした者を自分がマシュと共に殺害すると言う結果は、やはり心の奥底では避けたかったのだ。だから本当は、マシュの宝具で撥ね返した聖剣でセイバーを無力化した上に生きていた事にホッとし、所長達が彼女を殺すつもりがない事にも安堵していた。相手が最後には必ず死なねば自分が生き残れないのだと分かっているのに、彼はそう考えてしまう人間だった。

 良かった、と思う事は避けられない。例えセイバーが数分もしない内に力尽きるのだとしても、その原因が自分にあるのだとしても、藤丸は人を殺めた者として見届けるべき敵の最期を心に置き止めたかった。それが惨劇から生き残った無力な自分が為すべき事であり、自分が生きる為に死なせる相手への供養なのだと思っていた。

 

「良い結果だ。生首を混ぜた光ならば、霊体の核も一撃で消し飛ぶか」 

 

 そんな藤丸立香の心情を、騎士は薄い存在感のまま踏み躙る。同時に、揺らめく蜃気楼のようにアーチャーとキャスターの首も消滅。詳細は分からないが、先程の青い光を使う為の触媒として、人の生首を使い潰したと言うことなのだろう。

 

「―――先輩、下がってください!!?」

 

「ほお、素晴しい盾だな。美しく、その上で実用的だ……―――良し。可愛らしい貴女を殺せば、そのソウルから私だけの珍しい大盾を作れそうだ」

 

 マシュがマスターを守るべく、一歩前に出るのは当然のこと。それを見た騎士はゆらりと一歩進み、既に何故か―――盾を構えるマシュの前に騎士は居た。とん、とそのまま何時の間にか取り出していた剣の柄で盾を上から叩き、まるで達人に柔術を掛けられた素人のように、マシュは自然と盾を横方向へ弾き流されていた。

 

「……ぁ―――?」

 

 死ぬのだと、彼女は理解した。何気ない騎士の動作が、あの聖剣の極光以上の死であるなんて、今日からデミ・サーヴァントとして目覚めたばかりの彼女が分かる筈もなかった。

 何故なんて疑問も思い浮かべる暇もなく――――短銃の発砲音が、彼女を救っていた。

 だが、騎士は呆気無く銃弾を防ぐ。左手に持っていたナイトシールドが真正面から弾き飛ばす。所長の水銀弾は音速を超えて飛来するも騎士には無駄。命中時に炸裂することでダムダム弾と似た殺傷性能を誇り、銃弾を貫通させずに生き物の肉体を効率的に破壊する対人兵器であるものの、純粋に硬い盾の前には無力であった。

 しかし、それでも遠慮なく二射、三射、四射と短銃を連続発砲。

 所長は騎士を濃厚な血質で対物狙撃銃に劣らぬ水銀弾の弾速と破壊力により、恐ろしい男をマシュと藤丸から引き離しつつ、その二人に近付いて自分の後ろへ庇っていた。

 

「……―――デーモンスレイヤー?

 貴方、その名は一体……いえ、そもそもこの特異点に来た私達と同じ来訪者?」

 

「君は我が獣の霧が見えるのか、悪夢を宿す者よ」

 

 血生臭い気配を纏う旧式拳銃―――エヴェリンの銃口から煙りを出させ、所長は相手の名前を啓蒙した。分かったのは、デーモンスレイヤーと言う真名だけ。そして、確かにサーヴァントの霊基を身に宿す者であるということ。

 

「どうしますか、所長?」

 

「狩りなさい、ディール。此方が保護した無抵抗の捕虜を殺した人でなしよ。遠慮は要らないわ」

 

「了解しました。ローレンス、気張りなさい」

 

「ほう……分かった、マスター」

 

「我がアサシン、あのアサシンを殺せ。命令です。藤丸とマシュは、まだ消耗が激しいわ。ここは任せなさい」

 

「―――御意……」

 

「「所長―――!」」

 

 騎士王を殺されたのは所長にとって非常に痛い。何よりもカルデアのマスターである藤丸立香と、デミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトが為した貴重極まる戦果だった。自分の期待以上の働きをすることで、カルデアにとって一番理想的な展開になった筈なのに―――この騎士が、全てを台無しにした。

 故にオルガマリー・アニムスフィアは―――死を覚悟する。

 眼前の騎士は強過ぎる。今まで出会ったどんな相手よりもおぞましい意志を持ち、そして強大な力を持つ怪物。ここでそれを倒さねば、カルデアが終わるのだと理解した。
















 ボス化したデーモンスレイヤーさん。カンストしたステータスで、手段を問わず相手を殺す黒ファンをイメージして頂けると分かり易いです。不意打ち大好きではありますが、今回は狼さんを遠くから見て断念。不意打ちしようとすれば、その不意打ち返しで逆に自分が殺されそうだと判断し、真正面からまずセイバーを挑発し、弱った敵から殺そうと画策していました。このデーモンスレイヤーさんのソウルの光は、サーヴァントの生首を消費型触媒にした最初の一発は、ガチでエグイ速度で攻撃してきます。
 後、この人も型月世界の人間を殺してソウル吸収してますので、型月の魔術師が持つ魔術回路なども自分に植え付けています。サーヴァントの霊基も喰い漁っています。世界観ごとキャラの戦闘能力や知識面も融合させています。
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