後、作者がAFで一番好きなのがグレートウォールです。あれは浪漫ですよね。
太陽が昇り、夜空が綺麗な光で晴れ渡る。寝起きの魔女はゾンビのような動きで、役割分担として今日の朝食を準備し始める。他の六名も動き出し、自然と焚火の周囲に集まり出す。魔力充電式炊飯ジャーの自動炊飯機能により、朝食を作るタイミングで白米が炊き終わり、魔女は慣れた手付きで和食風の料理をあっさりと作り終わった。
そして朝食を食べ終わる瞬間、爆裂は突然だった。藤丸が軽快なトークで百戦錬磨のホストを遥かに超えた異常なコミュニケーション能力で、盾騎士の精神的外傷を蘇生レベルで回復させる朝の一時。七人の特異点侵入者が居るキャンプ場に激震が走った。
「あー……――グレートウォールか。暗帝、今は如何?」
「―――ふ。魔女よ、余こそは万能暗黒皇帝であーる。死した英霊達の遺志を引き継ぎ、宝具は既にソウルの内側で完成しておる。
ACネクスト、マルス・ソウルレスで出る。
久方ぶりのグレートウォール戦だ。弩腐れ外道の屑森番の気配を感じるが関係ない。今此処で万里の聖杯を撃滅する」
朝食の塩漬け豚肉御握りを食べていた暗帝は、皮肉気に嗤う魔女へ漢気溢れた笑みを返す。その後、一瞬でエロス神が気に入りそうなパイロットスーツに早着替えをしていた。
豊満な胸、括れた腹、張りの有る丸尻。
敢えて目立つセックスアピールの極み。
童貞の理性を木端微塵に破壊する暗帝の格好は藤丸へ精神攻撃を行ったが、果たして藤丸が童貞か否かは疑念のある問題点であり、彼は心臓の鼓動回数が倍以上になるだけの異常状態で耐えていた。結果、毛細血管が血流の圧力に負けて鼻血が出るも、一瞬で出血の違和感を悟った彼は簡単な霊媒治癒で血管を治し、精神統一によって暴れる心臓を心頭滅却で沈める事に成功。
尤もこの場にいる全員が、藤丸の理性が崩れ出していた事に気が付いていたのだが。むしろ、特に意味もなく精神干渉を行う格好になった暗帝に白い目を向けていた。尤もも忍びは拝んでいたが。
「私は内部から攻めるわ。使い魔の灯火持ちを忍び込ませてるから、今からワープして入る。
ま、そもそも気配からして森番の簒奪者……あの腐れ外道の糞野郎っぽいのが運転手してるし、私怨を晴らしたいしね」
「私怨って、何?」
「四肢を取られて、両目を素手で刳られた後、達磨姿で手酷く凌辱されたのよ。挙げ句、首だけになった隻狼へ見せ付けながらね」
魔女の短な疑問に、所長は上位者らしい形容出来ない無貌の笑みを浮かべて答えた。
「アイツには確かに、私も玩具にされた恨みがある。殺さずに生捕りにして勝った女がお気に入りだと、体と魂を犯してから殺してソウルを貪る奴だからね。
エジソンのソウルで作った電気椅子で処刑拷問されつつ、体中を焼鏝に当てながら、熱した棒を穴に突っ込まれたけど、仕返しにあいつのアイツを噛み千切ってやったわ」
「流石、魔女。超クールじゃないの。情けなく叫ぶ強姦魔の顔、今この時に啓蒙されました」
「あの屑を皆でリンチ出来る機会が来るとか、テンション爆上げよ。
さぁて群馬王を名乗るあの腐れ灰野郎、デカい鉄の棺桶ごと派手にブッ殺してやりますか!!」
キャンピングカーに使っていた盾騎士の自家用車が、彼女が思念を送ることで戦闘用装甲車に瞬間変形。そして直ぐ様に乗り込み、グレネードランチャーとガトリングガンが展開され、後部運搬用乗車口を解放する。
「藤丸さんと狼さん、後ろに。他の諸々も乗せて上げます。荒野でのヒッチハイク、面倒でしょう?」
「わぁ、男女差別。何時から男に、そんな咋な媚を売る娘になっちゃったの?」
「嫌ですね、ダルクさん。私も人間です。私は、私に優しい人には特別優しくしたいだけですので」
「私も、優しくしたのに?」
「貴女って不可思議ですよね。心が死んだ復讐の鬼なのに、誰かに優しいって行動が取れるのですから」
「じゃあ、仕様が無い。私も乗せて」
「はい、どうぞ。ほら、褪せ人な貴女も気にせずに」
「どうも!」
「では、暗帝さん。貴女の活躍を期待しています。
葦名で散った英霊の皆さんの遺志を継いだ意味、私の意志に見せて下さいね」
「余に発破を掛けるとは。だが良い挑発だ、気分が乗る。
何、安心せよ―――鏖殺だ。
余こそローマ皇帝、薔薇の君臨者。不死と為る生前より、この手は血に塗れておる」
遠目に疾走するグレートウォールが見える距離となる。暗帝は敵を視認した後、右手を空に向けて呪文を混ぜた真名解放を唱えた。
それは―――唄。魂を呼ぶ音の詩。
芸術を愛しながらも、芸術に全く愛されなかった万能の天才は今、此処を劇場だと空想して台詞を読み上げる。
「機械仕掛けの巨神よ、顕現せよ!
星を守る古き軍神よ、励起せよ!
英霊達が灰による救世を否定したいと願うなら、貴様もまた未来の人間の遺志を継げ!」
輝く右手を握り締め、胸に当て、暗帝はその名を声高らかに呼び上げた。
「薔薇の唱―――
赤い機体が具現し、暗帝はコックピットへ飛び入る。人型兵器を直感的に操作する為のコントローラーとは別に、パイロットが持つ魔術回路と直接接続される神経電磁針が刺さり、脳と神経基盤がリンクした。暗帝が思う儘にACネクストは機動し、そして同時に材料となった魂の記憶に彼女は脳を汚染された。
灰達が剪定された可能性の人類史から学んだ文明技術により作られた殺戮兵器、アームズフォート。それによって数多の英霊が虐殺され、その魂は集約され、こうして遺志は宝具となって暗帝のソウルに継がれる事となる。
「外宇宙文明が生んだ機神を模した人類文明の、国家解体兵器…………ナニコレ、超カッコ良いのでは?
星が見える、マジスター。
国を解剖した企業連邦形態な文明も、そんな悪い雰囲気じゃないね」
巨大兵器に向かう暗帝を見つつ、浪漫に震える所長だが、ふと視線を逸らすと同じように瞳を輝かせる男の子が一人。そんな藤丸も所長の方を見てグッドと親指を立てると、所長も同じく確かな意志を込めて腕を上げた。
通じ合う意思と感情。人間、やはり浪漫に夢を見る限り、楽しく人生を送れるのだろう。
その光景を見ていた盾騎士は、ボーダーの変形機能に人型モードを追加しようかとも考えたが、止めた。正直、人型にするなら自分自身が戦った方が強い上に修理費も掛らず、懐にも優しい事に気が付いてしまった。リアルとは総じて世知辛く、現実的な思考を持つと狂気に酔うのも苦労する。
「じゃあ―――
邪笑と呼ぶに相応しい魔人の笑みを魔女を浮かべ、人の心を圧死させる濃密な殺意を纏う。まるで蝗の大軍が皮膚を這い回り、視界が真っ黒に染まって地獄へ落ちる錯覚を、藤丸は自分に向けられた訳でもないのに感じ取る。耐性がない者ならば集団を一瞬で昏倒させる悪意は、敵対する英霊に宝具の真名解放をされた時以上の恐怖であったが、彼は確かな意志で平然と流していた。
何より、自分に向けられた意思ではない。
藤丸は新生した令呪を見詰め、そのまま暗帝が乗った決戦兵器が飛び去るのを見届ける。
「それじゃ隻狼、私は行ってくるので」
「……は」
「諸々、宜しく。特に藤丸ね」
「御意の儘に……」
従者らしく跪く忍びの前で、額に右手を当てて天を仰ぐ所長は姿が薄れて消えた。まるで蜃気楼が晴れたような光景だったが、藤丸は所長に関して疑念を抱く事を止めていた。気にしても仕方が無いことが世の中は多い。
「藤丸殿、参ろう」
「そうだね、狼さん」
愛想が全く無い忍びの催促に彼は愛想良く返し、キャンピングカーだった殲滅用装甲車に乗り込んだ。その後に魔女と褪せ人も続き、二人はこれ以後の未来を予知しながら戦術を考える。そして考えても仕方がない事に気が付き、敵の悪辣さに反吐が出る気分を抑え込む。
アームズフォート、最後の一つ。
グレートウォールが残った理由。
あるいは、葦名幕府に逆らって虐殺された英霊達が、これを残してしまった原因。
〝簒奪者共……ソウルで脳を進化させ、座に記録された学者の魂を貪り、何を生み出すと言うのですか”
数理の究極。工学の極点。それを見る盾騎士は、枯れた人間性が僅かに燃える。
〝魂を娯楽品とする意味。それは宇宙の仕組みを解き明かす人類の意志を、玩具にすること。
汎人類史の文明技術と、その可能性が辿る未来の知識も、魂の記録ごと灰達に奪い取られてしまった”
彼女はアクセルを踏み込み、ギアを切り替え、所長と暗帝以外が乗ったボーダーを発進せる。
そして
葦名大学工学部附属軍事企業、アシナビット。
そして親会社の複合大企業、葦名カンパニー。
バベッジのソウルは他英霊と違わず灰達に利用され、悪用され、蒸気文明を夢見る理想もまた継がれていた。
「新型の量産タイプね。それもバベッジタイプのAC」
「何だい、それ?」
カルデアに召喚され、現代技術や文明知識を取り入れた褪せ人とは言え、この特異点特有の技術関連は知り得ない。褪せ人はキョトンと言う可愛らしい擬音の例えが似合う表情豊かなな貌を作るも、その中身は叡智に貪欲な人間性の化身である。
その悍ましさを感じ取りつつ、魔女は気にせず会話を続ける。そうでなければ、永遠を生きるには精神が保たないことだろう。
「灰の奴等、学者や科学者の英霊のデモンズソウルが大好きでね。いや、英霊なら何でも好きなのだけど……まぁ、葦名幕府の日本社会にこうやって英霊の神秘を還元してるのよ。
昨日の核熱兵器だってカルデア産超技術以外にも、原爆関連の逸話を持つソウルの宝具やスキルを使ってるんでしょうし。まぁ、奴等のソウルから作った錬成物も色々と良い趣味してるけどね。
なので座に居るアメリカやソ連で逸話を残した科学者は生前に誰かを利用していた様に、死後に利用され、襤褸雑巾みたいになって灰達に利用され続けてるってこと。世界を運営する人理に穢す殺戮兵器としてね。あのAバベッジも原子炉搭載されてるのよ。
何とも憐れじゃない。生前は人類種が運営する政治の道具として使われ、死後は人類種が運命を管理する為の道具として使われる。魂は命が死んだとて魂の儘にあり、その脳が文明を変えようとも人は在るが儘に、因果が変わる事もなし」
「そりゃあ、死んだ程度で救われるなんて都合が良い妄想、する方が脳が弱過ぎる証拠だ。
とは言え、狭間の地にもあの手の兵器は良く居た。良く壊した。サイズ感はガーゴイル程度だけど、あれみたいに達人の武技を模倣する人型兵器って訳ではないかな。ゴーレムみたいな雰囲気だな。
しかし、デモンズソウルね。成る程ね、成る程……此処、楽に脳が鍛えられるみたい。狩れば狩る程、魂と共に脳へ知恵が蓄積すると」
狭間の地の王都、そのローデイル黄金樹勢力による超技術、ガーゴイル製造技術。現代風に例えると飛行機能付き人型高機動戦闘兵器を思い返す褪せ人は、今度自家製ガーゴイルを作ってみたい欲望が湧くが、今はガーゴイルやゴーレムの破壊方法を脳裏から掘り返す。
飛び交う英霊の残骸、Aバベッジ。疾走する破壊戦艦、グレートウォール。そして、その全てに立ち向かう暗帝のACネクスト、マルス・ソウルレス。
「さて、どうしましょうかね……」
今の状況を打破する戦術を考案しようと思考回路を働かせ、未来が曇って先読みが出来ず、盾騎士は思わず苦悶に満ちた独り言を漏らす。同時に脳と神経接続したボーダーの防衛機能を彼女は使い、ガトリング砲門とグレネード迫撃砲を展開する。そのまま高機動戦車としての姿を現し、彼女は運転をしながらも的確に迫り来るAバベッジ達を撃墜した。
爆散するAバベッジたち。彼等自動兵器も重機関銃を発射してボーダーに命中させてはいたが、盾騎士が機関部に収納した十字盾により、魔力防御の
逃げの一手。盾騎士はそれを選ぶ。そもそも彼女は遠距離からグレートウォールを破壊する手段はない。無論、彼女が持つ聖杯を火薬として自爆させてば有効な破壊手段となるが、そもそも灰達が作った兵器である最高防御機能を持つAFが、特異点を破壊する程の攻撃を受けても壊れるか否かも、分からない。同時に、グレートウォールを破壊する為にこの特異点が壊れた場合、封印された古い獣が悪魔殺しの眠りより目覚める結果となり、やがて根源へ回帰する獣によって人理は宇宙全ての魂ごと消滅する事となる。
「……まぁ、暗帝さんとアニムスフィアに任せましょう」
そう結論した盾騎士は宙を感じた。上空で暗帝が操るACマルスが踊り撃つ姿を認識した。そして暗帝のネクストが放つ機関銃掃射がAバベッジ等を十秒で数百体と爆散し、グレートウォールから発射させた超巨大砲弾が真エーテルブレードで一刀両断にされるのを見た。
正しくその姿、斬撃皇帝。
軍神の威光たるフォトン・レイの真髄。
葦名特異点で敗れ散った英霊達の遺志を継ぐ戦いの神。
〝けれども、物量はグレートウォールが圧倒的ですね。ネクストを否定したい才の無い凡人が、天才達が壊した後に作った時代を支配する為の兵器であれば、数だけはいる人員で少数の天才を圧殺するのが確実でしたものね”
人間性を喪ったオルガマリーの人理保証機関カルデアが作る可能性の未来汎人類史。宇宙進出を目指す宙の時代へ至る為の国家解体後の経済戦争。アーマード・コア技術こそカルデアの素晴しき業。即ち、カルデアを継ぐ凡人側の灰と、軍神として蘇った天才側の英霊を継ぐ暗帝。
盾騎士の視点において、この殺し合いは余りに醜かった。諸悪の根源を思えば、この最先端の戦争に辿り着くまで、如何程の人々が未来に希望があると錯覚して魂を散らして死んだのか。
だが―――壊す。
壊して、壊して、壊して、只管に破壊する。
人が国を壊す為に作った機械として蘇った神の宙の機械が、数多の英霊達が流した血の遺志を形にし、アームズフォートを撃滅せんと駆動する。世界を守ろうとする凡愚の思想を抱く灰を、神の機械を操る暗帝が軍神の剣によって否定しようと戦いは激化した。
◎◎◎◎<●>◎◎◎◎
数ヶ月前、まだ
「や、早いね」
尤も、この世で最も人殺しが巧みな灰の一人―――森番の簒奪者、マスク。
彼は所長が転移して来る事も、この場所に基点となる灯がある事も、そして如何にして自分を抹殺しようかと考える事も先読みしており、容易く待伏せ行為を成功していた。
彼は今か今かと可愛い可愛いオルガマリーに思いを募らせながら、この手でこうやって陵辱死させる好機を愉し気に待っていた。
「―――グッ……」
奇跡、緩やかな平和の歩み。言うなれば、絶対平和圏内。狩人の要となる脚を潰し、速度を制限し、走行と跳躍を禁止する強制的な平和的歩行。森番灰が火の無い灰となる前、一人の不死だった頃、違う世界の不死同士でソウルを奪い合うの手段として良く流行った一方的な卑劣極まる虐殺手段である。
不死が求める平和とは、全く以ってそれで良い。
一方が撫で殺される立ち場となることで、世界は何時も通り争いのない平和な時間となる。
「……ゥゥウ”!!」
ボン、と二発同時大発火。左右の手に呪術の火を宿した森番灰は、そのまま所長の左右の腕を握り、両腕爆破を行った。咄嗟にステップを行うことで身動きが一瞬止まった所長は両腕を掴まれるのを防げず、腕と共に仕掛け武器と短銃を落とし、一瞬で武装化解除を行われてしまう。
だが攻撃は止まらず、そのまま反魔法領域の神秘を付与した短剣を腹に刺し込む。所長の魂は体の内側から魔力を制限され、魔術回路の起動は勿論、あらゆる呪文も禁止された。
「良い匂いだ。可愛いソウルを持つ人間を最初の火で焼くと、魂が幸福に満ちる人間性を感じ取れる」
魂を殺す奇跡など生温い。最初の火の炉と化した灰の炎は魂を根源に還さず、つまりは無にすら返さない火。灰に焼かれて死ねば、そのままソウルが灰となって終わる事だろう。とは言え、所長もまた不死。死んでもこの宙から逃げられはしない。
だからか、森番灰は遠慮をしなかった。最初の火で燃える暗い手で所長の太股を撫で、掴み、指が肉へ突き刺さり、大発火。地面に転げ落ちた千切れ焦げる片足を拾い、特に意味もなく更に焼いて灰燼とする。所長は平和の奇跡によって転ぶ事も出来ず、両腕と片足が捥げ堕ちた状態で直立を強制されていた。
直後―――眼球が隕石となって森番灰に直撃した。
予め神秘も右目に仕込み、右眼自体を自分から独立した術式と稼動させ、所長は自分が待伏せされる事を理解した上で相手の不意を穿つ好機を狙っていた。
「馬鹿が。直ぐ殺そうとしないから、そうなる」
上位者化への進化が葦名での日々で進み、所長は脳の内側の悪夢から湧き出る使者が体に纏わり付き、そのまま白い肉塊となり、使者達の塊は千切れたオルガマリーの四肢となって夢見る脳と同化した。そして心臓から流れ込まれた血が通り、人肌の色を取り戻し、血の遺志によって人の形を取り戻す。同時に使者が所長に刺し込まれた文字通りに魔法の領域の神秘を封じる反魔法領域の短剣を抜き取り、それを渡し、彼女は灰に向けて短剣を投擲して突き刺した。
短剣により、歩みを強制する平和領域は解消。そして地面に落ちていた仕掛け武器の曲刀と血族の短銃を使者達は拾っており、所長は近付いて来た彼等が敬い掲げる愛武器を受け取った。同時に彼女は輸血液の針を血管に刺し、血液を操ることで急速注入して生命力を一気に活性させた。
「どうも。ありがとう、皆」
「――――」
悪夢に苦しむ病人の呻きにも聞こえる奇妙な笑い声を上げ、使者たちは泥沼へ沈む様に彼女が夢見る悪夢へと帰還する。もはや脳魂一体となり、彼女の脳を構築する神経細胞に等しい使者達は、血に因って人の形を得て、啓蒙高い蒼褪めた白い
―――素晴しい、悪夢の業じゃないか。
感動の余り森番灰は、頭蓋骨が隕石で消滅していると言うのに、肩を震わせて嗤っていた。肉体自体を意識的に操ることで、灰は手を使わずに刺さった短剣を排出していた。
「や、強いね。読まれているのを読んで、こう殺すなんて、実に可愛い。君の魂はそう、とても可愛い夢のソウルだね」
ソウルを震わせ、人の魂が宿る脳へ森番灰は首無しの儘で語り掛ける。口もないのに首に空いた喉の穴へエスト瓶の中身を流し込み―――その間にて、所長は短銃より強化徹甲水銀弾を発砲。
しかし、その回復狩りを先読みしていた森番灰はエストを飲む真似をしていただけだった。容易く左手に何時の間にか装備した盾で防ぎ、そのまま一気呑みを敢行。一瞬で頭部は再生され、被っていた仮面兜もソウルより修復されていた。
「黙れ、変態が。強姦魔風情が格好付けるな」
「ひゃひゃははははは……では、私は君にこう言おう。
人殺し風情が、人道側に立った顔で私を語ると言うのかな。あぁやはり、物を知りながらも感情を人間性の儘に発露させる等、実に実に人間らしい可愛らしさじゃあないか。
けれども、仕方が無い。君の穴はとても良かった。例えるならば、生命が生まれる魂の部屋に繋がる道。直接的に言えば、子宮に繋がる産道だ。何よりも、君のダークリングはとても美しかった。ついつい、皺の数を数えたくなるような気分になったぜ」
「屑野郎が……!」
「良い、凄く良い瞳だ。あぁ凄く興奮する、興奮するじゃないか。そうだ、この感動だよ。美しき人が憤怒と憎悪に染まる様、この様!!
私は感動する為――――今も尚、人を暴きたいからソウルを簒奪する!!」
人間性を振わせることで本能的性欲を活性化させ、森番灰は股間のソレをイキリ立たせる。星のように血色で輝くオルガマリーの魂を味わう為だけに今、彼は陵辱して殺そうとソウルを全開にした。
最初の火の炉となった暗い魂。火の簒奪者としての本性を現し、灰は愛剣のツヴァイヘンダーを装備する。そして忍びよりも忍者らしい瞬間的高機動体術で重装備のまま動き、彼はレイピアを振うよりも軽やかに連続突きを行った。それを狩人の踏み込みで避けながら接敵して所長は獣狩りの曲刀を振い、だが灰は愛剣を攻撃から一瞬で防御の構えに移し、余りにも容易く攻撃を弾き流す。だがそれでも所長は曲刀を振って防御を崩そうとするも、灰の体幹機能は鉄壁を軽く超えて城壁と化し、隙を狙った銃撃も灰は一歩動くだけで回避。逆に所長の腹へ前蹴りを叩き込み、血反吐と共に臓物を吐き出す威力で胴体を穿ち、灰は蹴り一つで相手の魂に罅入れる。普通なら死ぬより悲惨な最期を迎えるが、所長は無傷の時と変わらない動きで蹴られながら短銃を二連射するも、灰は『我慢』するだけで体幹崩しの銃撃を簡単に耐えてしまった。
此処から先、時間が停止する密度で二人は殺し合った。
十秒間に幾千の死が交錯し、命が死に、だが魂は死ねず、殺し合う。
「
平和主義者の我に相応しき心象風景。私が夢見る美しき平和な自然の異界常識」
その心地良い死の舞踏を、灰は心で世界を冒涜する事で停止させた。今この瞬間、グレートウォール内部の金属の床に草が生い茂り、樹木が具現され、天井全てが余りにも美しい宙の法で運営される星団の夜が現れた。
「貴様、何処までも――――!?」
「殺し合いは好きだけどね、人殺しも好きなんだ。私だけが平和に、一方的に、殺すのがね」
侵食固有結界、平和の夜森。森番灰が葦名で学んだ魔術の一つ。異界常識である己が魂で世界を塗り潰すのでなく、塗り変えて変色させる人間性の禁忌。
彼の周囲は全ての動きが停止され、歩く事も許されず、魂さえも停止する。動けるのは物質だけ。だが所長は灰の異界自体を観測する事で精神までも停止する事はなく、だが肉体を動かせる状態ではなくなった。
「さて、陵辱の時間だ。輝ける星が見守る森の中、良い夜を過ごそうじゃないか?」
灰は四肢を切り落とす為、早速の御愉しみとツヴァイヘンダーを振う。だが彼が使ったのは心象風景と化す程にソウルに慣れ親しんだ奇跡の異界を、ソウルと魔力で魔術回路を運用して具現した魔術である。
ソウル使いとしてならば、違う話になったかもしれない。
しかし、魔術師としての技巧であれば、所長は天才を超えた異才である。
「ほぉおお……?」
灰が世界を冒涜するならば、その冒涜を更なる狂気で犯すのみ。心は心で折れば良い。星団が煌く美しい平穏な夜は、隕石が降り注ぐ悪夢の夜に侵食された。
「美しい――――!」
所長は灰の異界常識から、自分の異界常識を周囲に展開することで平和の拘束を無効化する。そして夜空に空いた孔は所長が夢見る悪夢の夜空と繋がり、蒼白く燃え上がる隕石群が高次元暗黒より招来する。
だが、灰の周囲は灰の異界。既に異界化した絶対平和包囲圏は全てに適応され、隕石だろうと例外ではない。宙の石飛礫は空中で停止し、星の平穏を暴く宙からの脅威は無効化された。火を得た灰にすれば、宇宙からの大絶滅だろうと人間性によって今の文明を守り抜く。
―――灰は杖より、幾十にも乱れ湧かれたソウルの結晶槍は発射。
一つ一つが今を生きる神の魂を砕き殺すソウルの重みを持ち、権能を持つビーストをだろうと撫でる様に宇宙から抹消する。だが所長は魂砕きの魔術一つ一つを視認し、因果律を歪めて自動追尾する結晶槍を、自分自身の因果ごと加速することで時空間を歪めて回避する。
瞬間―――灰は、自身の敗北を理解した。
先に固有結界を出した結果、この因果に導かれたと悟った。
〝成る程。君を犯した気になっていたが……その実、私もまた魂を悪夢で犯されていた訳だ”
嘗て勝利した後、灰は所長を強姦して殺害した。犯した所以が灰に残り、その脳に啓蒙足り得る小さな種子が夢となって残留する。
千分の一秒より短い万分の一秒、脳が夢見ることで肉体が停止する。
神経全てが彼女の脳が繋がる悪夢を垣間見、美しい宇宙の星雲に感動する。
葦名で人間性を得たことで魂を強くする意味を灰達は取り戻し、同時にそれはこの世界の美しさに涙を流す価値を取り戻した事を意味する。人間が生きる宙に価値が存在するのだと人間性が訴える故、召喚された簒奪者達はこの宇宙を獣から守ろうとするあの灰と悪魔の企みに賛同し、そう在るからこそオルガマリー・アニムスフィアが夢見る星見の美しさには抗えない。
即ち、灰自身が願う平和への歩みが、灰本人に適応されてしまった。固有結界が僅かばかり、反転した。歩み寄る事に価値を得て、灰は所長の心から美しき平和を啓蒙されたのだろう。
「―――死ね」
その言葉を発する前にて、所長は灰の首を切り落とした。直後、地面へ頭蓋骨が墜ちる前に発砲した水銀弾を命中さえ、脳味噌を空中で爆散させた。そのまま曲刀を変形させて大曲剣にし、股から背骨を通じて両断した後、四肢を刃を一周させることで全て切除する。そして出来損ないの失敗作を真似、隕石を灰の遺体目掛けて絨毯爆撃した。
「ごめんね、魔女。囲んでリンチするって言ってたけど、私一人で充分だったようです」
「―――そうか?」
ポン、と灰は所長の肩を優しく叩く。
「…………魂、消し飛ばした筈」
「うむ、だな。しかし、蘇生したまでのこと。篝火で蘇る程の、完全な死には遠い。死の度合いが低ければ、奇跡と火で如何とでもなる。
だが、残念だ。私としてはまた犯したかったのだが、こうして私に一度は重ね掛けしておいた蘇生の奇跡を消費した。戦術で上回る脳の強さを得たとなれば、少しお喋りの時間が必要となる。
君が嫌ならば、またこのまま殺し合いを続けるがね?」
「はぁ……―――殺したい。けど、聞いとく。
殺しても死なない不死な癖、どんな手段でも殺せない程に用心深い上に強いとか、糞過ぎる人間性じゃない」
「負けるのは嫌いでね。篝火で蘇るのが屈辱なのさ」
一人では殺し切れない事を悟り、所長は会話中の不意打ちを狙う程度にした。何よりも、こうして灰をグレートウォールの操縦から離してAI自動運転モードにしておけば、仲間も撃滅作戦を行い易くなる。狙いはAF稼動炉と化した万里の聖杯であり、むしろ会話時間が伸びる方が本来の第一目的に適した作戦行動となる。尤も灰はその事情を分かった上で、可愛い女とのお喋りを優先する人間性に忠実な男であった。
「で、何よ?」
「まずは盾騎士のキリエライトの件、感謝する。アレの人間性が揺らぐと星が滅びる。我等は獣より根源と宙を守るが、人理を火より守るには星の暗き盾が要るだろう」
「何となく、分かるわ。汎人類史の火、核熱の光を覚えさせた理由もね」
「人間性を人理保証の為に捧げて貰いたい故、な」
「御都合主義極まる話ですね」
「平和主義者な私にとって、素晴らしい計画だった。一人の人間の心を折って亡者とするだけで、人理が管理する美しい人のソウルの楽園が維持される訳だからね。
だが、良い終わり方になるとは思うんだ。生きる意味がないのに、我等は永遠に生きるしかない不死。世界に価値を感じないと言うのに、過去の価値を守る為に心を持ち続けるのも辛かろう。せめて苦しいと言う感覚を持つ人間性を捧げれば、この宇宙と言う時空間が冷却死するまでの時間も無意味に出来ることだ。
根源に還れないとは、そう言う運命だしね。
その点、君も辛くなれば人間性を喪い、とっとと亡者となることだ」
「良く言う。貴様、この星の宙を美しいと思う為だけに、生きている癖に」
「世界は、こんなにも美しい。出来れば、永遠に繰り返して貰いたいんだ」
森番灰は、この世全ての愛に満ちた瞳を仮面兜の中で輝かせる。暗い星とも言うべき闇の火を炉となった魂で滾らせ、彼は世界全てを暴きたいと知的好奇心をソウルを焚べて燃やしていた。
「―――だから、最初の火を葦名の宙に描いたのね」
自分達の真理を聞き、灰は優しく微笑んだ。
「その様子、星見のオルガマリー……我らの太陽が描く星の正体、気が付いたようだ。それも脳の瞳が啓蒙したではなく、己が思考と直感によってとは素晴らしい。
君にとって、もはやその脳は魂と化した。
思考することが世界に対する概念干渉だ。
最初の火で焦げた暗い魂の血、その顔料こそ宙を魂の楽園とした最初の星たるソウルの煌きの具現。あの魂は、この宇宙で生まれた君達にとっての最初の火である」
「絵画世界の住人が語る宇宙か。いや、だからこそ貴方達は繰り返される宇宙が見えると?」
「あの灰に呼ばれた我等火を得た灰は所詮、輝ける最初の星を描く為の顔料だ。古い獣を狩る為に必要な道具に過ぎず、この人理を夢見る星の宙を守る為の生贄だよ。
しかし、致し方が無い事。火を奪う為、王殺しを行い、椅子に首を並べた我等が、自分が贄と捧げられるのを嫌がるのは人間性が許さぬのさ。人間だからこそ、人間で在る為の最低限度の尊厳性は重要だ。尤も火の炉と化した暗い魂である我々は、贄にされた程度ならば地獄の苦しみを受けて死ぬだけ故、取るに足らぬ悲劇でしかないがな」
「それは、如何でも良いのよ。むしろ、惨たらしく絶命しろって感じです。
でもね、それが真実なら……外から呼んだのは悪手じゃない。古い獣を外なる宙から呼び、ソウルの業を始めた惨劇と同じ事を繰り返す破目になる」
「―――ふふ。同感だ。
だが外側と言えど、その広さには深度がある。古い獣は魂が発生する生まれ故郷、根源の星幽界よりも更に離れた根源領域における深淵から来た魂だよ。獣が拓いたソウルの業と言う神秘は、それ自体が宇宙の運営法則に反する魔法であり、あの灰がこの宇宙に啓蒙した魔術基盤、ソウルの業は火に焦げた暗い魂の血に属する地球で観測する魔道だろう。
言った事だ、何事も繰り返しとな。永劫回帰する螺旋である。人間の視点ならば外宇宙は根源に属する外側と勘違いするかもしれぬが、あれはまだこの宇宙の外側であるが、宇宙の内側であり、世界の外側である根源ではない。異次元の暗黒領域ではあるけどね」
「そう言う話ね……――だから、あの狩人は星を守る?」
「宇宙で命を生む最初の魂こそ、我等が描く星の太陽だ。生命起源となる物質の誕生は、恒星の炸裂から始まった。銀河の夜空は太陽が描く魂が宿る命の絵画であり、輝ける曼荼羅模様だろう。
だが世界を始めた爆発は別だ。物体が動く時空間を始めた宙の起源。即ちね、命と同じく、世界も冷たくなるのだよ。冷却死した宇宙にて、また宇宙の始まりが破裂する。
その時、熱の無い冷たい世界で生き延びた魂は、次の始まりから弾き飛ばされ、前の宇宙の生き残りとして高次元暗黒領域となった死んだ宙で、今のこの命に恵まれ、新しい魂が根源より流れ込む温かい宇宙を観測する暗い宙の神性と成り果てる」
「今だとCCC―――共形サイクリック宇宙論だったかしら?」
「CCCか、君の生きる汎人類史の言い方だな。描かれた銀河の光より、前回宇宙の存在を見た。魔術世界も暗黒領域を観測した事により、繰り返しが繰り返される。故に宙はまた、宙に回帰する。宙が宙を描き、永劫回帰する無限の螺旋構造。即ち、ビッグリップの先だ。ゴールのあるクランチも救いだがな。
どの終わりを選択するかは、世界次第だがな。しかし、外側の観測により、繰り返しをまた選ぶのが魂の在り方なのかもしれぬな」
「あの小説家は、宙の先の宙を見た。この宙を描いた宙に生きる者を」
「ならば、分かるだろう。悪魔殺しの悪魔と同様、そもそも我等簒奪者全てが要人のソウルも得た。葦名にて、得てしまった。故、外側より魂を呼ぶ術理を所持しておる。世界を創世した最も外側の根源は無論、この宇宙の殻となる外宇宙からもな。
阿僧祇の年月を阿僧祇程に繰り返した時間を経て、時空間が崩壊した宇宙で生き延びた魂の最果て。
更にその繰り返しを見ていた外宇宙の外側における外なる宙に生きる深淵。しかし、時空間は存在せず、高次元暗黒は全て蕩けて合さり、夢見る階層が悪夢となって今の宇宙を覆い包む」
森番灰は最初の
だが何一つ、特別な神秘で非ず。根源で生まれた魂にとって当たり前な業であり、長い時間を経た人なら誰でも出来る技術。何よりも、簒奪の灰は根源生まれの魂ではない。根源に接続する資格を持たず、還る為の死も無く、観測する事しか出来ない人類種だ。それでも理解し、行使するのであれば、星見であるオルガマリーにも進化し尽くした未来でなら可能な神秘と言うことだろう。
「さぁ、舌を咬む程に語り尽くした今―――神秘の時間だ。
星見の女よ、君ら学術者が求める外側の死んだ宇宙との邂逅、存分に愉しみ給えよ」
グレートウォールが走っていた関東平野上空、光り輝く星の曼荼羅が浮かび上がる。高次元暗黒より孔が穿たれ、時空間無き外の空より魂が零れ落ちた。それは真エーテルを得ることで魂が肉を帯び、この物質次元宇宙の法則を愛で上げる様に産声を上げ、嘗て自分の魂が根源より流れ落ちた宇宙を生きていた時代を懐古した。
クトゥルフ神話として現行文明に広がった宇宙の物語。
旧宇宙が絶滅し、新宇宙が生まれる事で得た暗黒神性。
ならば、生命を始める最初の火に惹かれるのは必然だ。
それは神と呼ぶには余りに強大で、人の認識が矮小だと理解させる存在は余りにも巨大で、星が宙に浮ぶ一粒の礫でしかない事実を人間の脳へ叩き込む。
「過去、君はフランス特異点で見ただろう。彼だよ、彼。彼女かもしれんがね」
人類史に絶望した救国の元帥が呼び、勇者ジークフリートが身を呈した倒した蛸貌の邪星。その究極の一が等身大の魂で受肉する絶望的悪夢。だがそれ以上に悍ましい事に、その召喚を簒奪者達は誰でも可能と言う事実。
この狂気が、葦名では当たり前な人の業。
星が生む神を超え、その星の魂も超えた先の先の、更なる先。
人類種の魂が決してこの宇宙で至ってはならない究極を普遍とする灰達の業。
ソウルを自在にする意味、古い獣を呼んだ要人を超えた業の最果て。つまるところ、葦名特異点は人類史の特異点ではなく、星が夢見る悪夢の特異点と化していた。
「――――――――」
巨大な人蛸が動く。邪眼を輝かせ、脳を汚染する電磁魔力波を垂れ流す。この宇宙の法則外の、無の闇に生きる神ならざる神性ではあるが、今は魂を物質化させて命を得た。得てしまった。本来ならば、命ある魂の宙には存在出来ない暗黒領域の知性であり、前宇宙の生き残りだと言うのに。
火で焦げる暗い魂の血より描くソウル―――最初の太陽。
百八の最初の火が魂を導く輝ける星となり、光を忘れた旧宇宙のヒトに命の温かみを思い出させた。
この地球で生まれた人類種の娯楽作品により、作家が根源ではない外より啓蒙された狂気により、クトゥルフと言う
―――神が願う、神。
宙を運営する律。今此処に在る現実。
物質が生まれ、物質が消滅する時間。
百五十億年と言う生まれたばかりの幼年期の宇宙。
世界の滅びを幾度か見た人蛸は、根源を魂の起源とした究極の最先端である地球人類種を見て、愛と希望と言う魂の感動を啓蒙され、心をまた得て、其処の底より慟哭した。
「君が星見した暗い光の一つさ、オルガマリー……―――では、狩り給えよ。
魂が夢見る悪夢の住人である月の狩人君の弟子で在れば、宙の悪夢より星を守るのも容易い奇跡であろう?」
森番灰は消えた。彼は宙の神性へ祝福の言葉を送って葦名へ転移し、人蛸は人間性が囁く祈りの言葉に耳を貸してしまった。
―――贄。捧げられた命。
魂で魂を見る人蛸は所長を見て、その魂魄を理解し―――感動した。
人間性である。彼は人と化した。暗い魂の火を通じて星に来た神性は人となり、神の肉を以て人心を魂の脳で感じ取ってしまう悲劇を経た。
『魂は全て、平等だった。私も君も、同じ存在だ。
悪夢を共に見よう、人類種。宙に存在するのであれば、きっとそれだけで命に価値はある故』
魂を愛でる為、人蛸は命を喰らい、同じ命となるべく人を虐殺する。そして物質として存在する奇跡に涙し、また脳を得た人蛸は感動出来る今に感動する。
そして―――火の落とし仔を見た。
自分の魔力が交じって誕生した聖女の赤子。自分の魂と通じる魔導書より、欠片が魂に雑じる竜の魔女。
『赤子。竜の魔女……魔女の狩人、ジャンヌ・ダルク。我が落とし仔。
そうか、君が導きか。君こそ、暗黒の中で輝ける星の火だ。あぁ、あの絵描きに力を啓いた様……否、我が娘へ愛を授けなければ。
暗黒の元帥。国を救った狂気の我が分け身、君の遺志を此処で継ぐ』
脳波の送受信が起き、統一言語に近い
それは上位者の
空気ではなく、時空間を振わせる音。
だから、呪いは継がれ続ける。赤子の赤子まで呪いが紡がれ、だが暗い宙の彼方からの祈りでもあった。
『ならばこそ旧い宙より、この宙へ我が遺志を送ろう。共に、永劫へ回帰しよう。
宇宙が滅び去る無限の前にて、我等が為の悪夢へ逝き、邪星が夢見る地獄の宇宙へ今、至る』
フランス特異点より、悪夢は回帰した。願いは紡がれ、遺志は継がれる。
人蛸の邪神は動き、それだけで時間が狂い、空間は歪み、次元に亀裂が走った。
読んで頂き、ありがとうございました。
一応、この二次創作型月時空の宇宙の終わり方はビッククランチでもビックリップでもビックバウンスでもなく作者が浪漫を感じるCCC、共形サイクリック宇宙論としています。この宇宙法則にしますとクトゥルフ的外宇宙にも浪漫が科学的にも個人的には生まれましたので、そんな感じにしています。
前回、型月宇宙における最初の火の役割を、この宇宙で最初に生まれた恒星と言う設定にして、その星に型月宇宙における一番最初の魂が根源より流れ落ち、その星が死んで超新星爆発を起こして生命起源となる原子物質が宇宙に充満した説明をしました。
なので今回のは外宇宙存在の成り立ちとして、そもそもビッグバンが弾けて今の型月宇宙が生まれる前の旧宇宙における知性体の誕生と言う二次創作的設定となりました。簡単に言えば、宇宙は繰り返されていますので、前の型月宇宙が死んで時空間が崩壊して、物質が存在出来ない素粒子だけが世界に存在する暗黒でまたビッグバンが発生して今の型月宇宙が生まれた事にしましたので、外宇宙の暗黒神性は前回宇宙の生き残りとなる魂にしました。前の宇宙か前々の宇宙でもクトゥルフ神話っぽい物語も実際にあり、その宇宙も十の三千乗くらいの年で滅んでいる感じにしています。