それと大いなる意思の正体が少し明かされたので、絡められそうで良かったです。ダクソ世界における最初の火と、型月世界における最初の火を宇宙で一番最初に生まれた恒星と類似させて、その超新星爆発から真エーテルと共に宇宙原初の物質である星屑が散らばって銀河系の群れが作られ、その物質から生命誕生をした輪廻転生の始まり的な設定にしてみましたが、エルデンワールドの宇宙も彼方からの爆発から星屑たる物質が生じて生命が誕生したので、何だかんだで根底は科学的な宇宙論っぽいと感じました。ビックバン後に生まれた燃える恒星の核融合の火が、色々あって宇宙の物質と生命の始まりですしね。
計画通り、葦名を覆う幻術結界は解除された。万里の聖杯であるAFグレートウォールの破壊に成功し、旅路は順調だった。邪神によって宇宙水没が引き起こされ、惑星圧縮による地球のブラックホール化も防がれ、灰達を引き連れた悪魔も過ぎ去った。所長と暗帝以外の五人も、盾騎士が操縦する装甲車に守られ、水圧異界の干渉から遮断されており、無事だった。
―――助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。
―――助けて。
デモンズソウルの叫びが脳裏でループする。
所長はグレートウォールの操縦席で脳神経を繋げた十三首のクローン人間の、人類種に対する絶望と憎悪が混ざる音が脳裏でループする。もはや声でなく、言葉を為さず、狂おしい嘆きだった。
人工培養された擬似肉体。込められた魂は獣が吐く濃霧を着色したソウル。
だが―――精神は、人間性を宿す人のカタチをしていた。間違いなく人間が泣き叫ぶ音であり、頭蓋骨の中に収まる脳が人の心を閉じ込める檻となっていた。
「大分、参ってるじゃない?」
「態とらしい。悪意、隠さない?」
「嫌よ。魔女だもの……―――人形よ、それ。
なまじ魂を最初から作り込んでるから、心の底からの悲しみさえも絵具で描いた色でしかない」
「分かってる。けれど、それなら、人形と人間の境って何だろうと思ってね。
それに、その考え方だと私や貴女も人形になる。私がオルガマリー・アニムスフィアを真似た被造物ってのは割り切ってるし、作った奴に愛される事もないのも分かる。人間側からすれば、人工知能のプログラムと同じなんだろうし。
そうなのに、あの灰が私に与えた人間性の所為かしら……そう言うの、何だか悲しくてね。獣共が人を消したい衝動に駆られてるのも、何となく程度だけど実感出来る」
「今はもうそうは思ないですし、そんな価値観も消えたけど……―――私、生まれたばかりの人形だった時、人間性があれば多分、人間になんてなりたくなかったって泣いたと思うわね。
他人の怨念を自分の憎悪と錯覚して、ただ殺すだけの肉塊で良かった。暴力装置で良かった。フランスを焼く火の嵐で良かった。
……でも、そうは出来なかった。殺戮人形の私に、あの灰は人間性を込めて魂を与えた。
そう言う意味だと貴女と私は同じだし、あのクローンも同じ。所詮、何処で何時、この宇宙で生まれたのかってだけの違いなのよ」
「そうね。私がツイてただけ。こう言う運命で、他には他の運命があった」
「この様で幸運ってのも可笑しな話ですけどね?」
「言えてる。私も、何を如何すれば答えに辿り着けるのか……悪夢を思索して神秘を得ても、自分探しは余り進みません」
「自分探しかぁ……結構してたな、私。貴女はしてないのですか?」
「ヤーナム徘徊と悪夢での聖杯探索はしてました。後、この特異点で日本中を旅したわね」
「そっか。まぁ、人理云々が終われば、旅でもしてみれば?
時代も進めば巧い具合に、人類種も宇宙旅行も出来る文明になるかもですし?」
「そうね。でも私達人間、宇宙とか他の星で元気に戦争経済とか愉しんでそう」
「否定しないです。それはそれで、人が選んだ進化方法です」
「はぁ、貴女って優しくないです。魔女らしい。けれど……――まぁ、宇宙に行った程度で人間が動物として変わる訳でもないしね」
「そうなると、人理はこの星から解放されて、人類種だけが見る夢になります。いやはや、ぶっちゃけた話、人理による無意識下の支配って、宇宙進出した生物として理想的な侵略生命体なのよね」
「言えてる」
葦名を覆う幻覚結界は解除された―――だから、地獄の市である首都葦名を目指し、グンマ封印区画超えを行っている。
皆は盾騎士の
所長は車内より透視で原生林を瞳で観測し―――助けて、と声が聞こえ続けていた。
―――助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。
自分の血の中から、タスケテと音が聞こえる。所長は精神に致命傷を受けているが、そもそも心が死んでいる。それはそれとしてと完全に割り切り、ヒトの悪夢からの叫びを無視し、理性は平常運行させている。心さえも亡者で在らねば、心を亡者にしなければ、人は永遠を生きる魂に進化出来ない。あるいは、より奥底の闇へ深化しなければ、魂が永遠に存在するだけの鉱物と化す。
だからか、煙草が妙に美味しく感じた。血に染めて乾かした葉を紙で巻いた手製の煙草は、血を自覚させ、人である今が現実だと脳に錯覚させる。
「しかし、あれが外なる神か。中々に理不尽だ。とは言え、良き魔術の閃きは得られた」
調香師の技術で作った麻薬を含む紙巻き煙草を吸う褪せ人は、精神を脳へ興奮物質を直接送る事で活性化させ、酩酊と覚醒を繰り返す穢れた悟りで得られた神秘の整理を脳内で行う。
不死の成れ果て―――外なる宙の神性。
宇宙の時空間が崩壊した先まで生存し、死んだ宇宙の内側でビックバンが起き、文字通り時間も空間すら無い暗黒で生きる運命が決まったヒトの末路。
自分がやがてそう成り果てるのだと、褪せ人は正しく理解する。
永遠とは、時間が壊れても生きると言う意味。根源に等しい個体と化し、故に根源へ還れない魂。
――宇宙とは、ただそれだけで美しい。
世界は美しく、世界を美しいと観測する魂がそもそも根源より宇宙自身から求められる。
真実を魂で己へ啓蒙した褪せ人は、灰が外宇宙と交信可能な理屈を解し、その血に神のソウルが蕩けたのを喜んだ。
だからきっと、この宙で生命が生まれる意味を問うなら、答えはソレなのだろう。
エルデンリングとエルデンビースト。命の循環。根源で魂が生まれた理由。自分の存在意義。
「そうか……―――美しいのだな。
感動するとは、これだ。これが欲しいから、奴等はこの星に遺志を贈る」
永遠の環―――褪せ人がなった存在。リングと化した狂い火の王は、この宇宙の何処にも逃げ場はない。宇宙の外側である根源にも居場所はなく、狂死する命も喪う事だろう。
だが、今更だ。全てがもう遅い。
永劫に至る全ての魂は宙の死を超え、時間が摩耗し、空間が冷却されても生まれ故郷には還れない。
「……ム、またか」
葦名特異点にて新しく得られた叡智を脳内で褪せ人が巡らせていると、この前もあった声の予兆を感じた。
『ピンポンパンポーン。葦名電磁脳波塔より、全日本国民の皆様の脳へ連絡をお送りします。葦名電磁脳波塔より、全日本国民の皆様の脳へ連絡をお送りします。
此方、葦名幕府行政サービス、啓蒙共脳党党首田村ケイモウより連絡致します。
この度の国会により、魂魄健康保障費が追加されました。葦名に生きる人間からソウルの強さに応じ、強制的に徴収されますが、税ではありません。今を生きる皆様のソウルを幕府が預かり、社会保障制度と未来への貯蓄に使われます。国家運営ではなく、人類種に還元されるソウルである為、ソウル税と一緒に強制徴収されますが税ではありません。
また緑化に成功したグンマ封印区画の維持に伴い、皆様のソウルより森林補完料を支払って頂きます。此方も税ではありませんが、税と同じく強制徴収させて頂きます。
加え、亡者保護制度と年金保証制度の開始に伴い、魂魄維持徴収が行われます。日々の営みによる消費や、税や保険料の支払いで亡者化した人間を保護し、また亡者化した人間にソウルを配当するシステム維持に使われます。
以上、啓蒙共脳党党首、田村ケイモウより脳波放送を終わりにします。汎人類史の救世主、カルデアが日本国民の皆様を皆殺しにする間、どうか国民の皆様は節度ある生活を御送りする様、行政サービスから御願致します。
では五分後、太陽光が大地を蘇生させます。我ら灰たるダークソウルが、外なる宙に住まう
世界を救おうとするカルデアは日本の宝です。異邦人は葦名の宝です。皆様、世界の仕組みを御理解をし、外国人の為に潔く苦しみ頂けるようお願い致します。この大日本倭国とは無関係な外国人である汎人類史の人類種の為、尊い自己犠牲の精神を持つように心掛け、美しい人間で在る義務を誇りにしましょう。少数である貴方達の死と絶望が、外側の人類種様が甘受する愛と希望の糧となるでしょう。
ではどうか、啓蒙共脳党に清き一票を。どうか、未来在る汎人類史の子供達の未来の為、葦名の未来無き子供を贄と捧げ、魂を喪いましょう。それでは正しき一票を日本国民の皆様にお願い致します。ピンポンパンポーン』
社会正義と言う名の邪悪。
多くを救う為に行う犠牲。
同時にそれらは善である事を理論武装した国家利益であり、汎人類史日本社会を参考にした社会道徳を盾にする人間管理方法。
脳波塔にて田村ケイモウを名乗る者―――彼は、勤勉だった。
如何に、魂の運営を厳重に管理するか。それはヤーナムの医療教会のやり方ではなく、現代社会の方法をソウルが氾濫した葦名幕府社会で施策する好奇心に満ちた政治理論。汎人類史の為と謳い、だが感情を持つ人間ならば幕府を敵と感じ、同時に汎人類史を怨敵と看做す思想誘導。国が汎人類史の為に国民を生贄に捧げていると思わせる政策と法律。
―――善行に見せ掛けた偽善の欲望。
汎人類史の日本国を好む田村ケイモウは、その国家運営の仕組みもまた大好きであった。何故なら、人間が人類種に進化して以降、群れの根底は不変である。彼の視点では、社会機構において重要なのは三つだけ。
生贄。象徴。信仰。
この三点が社会と言う人の群れの律。
贄とは即ち、統治者。責務を負う者。
象徴とは社会の理念。要は統治方法。
信仰は人間が脳で想う形無き仕組み。
尤も、正義に酔う市民が甚振る為の弱者と言う生贄も存在するが、それは悪性由来で生じた思想の吐瀉方法である。
「―――む。この放送のやり口、私は今一分からん。
なぁ、マスター。この啓蒙共脳党党首田村ケイモウと言う輩の思考、理解出来るか?」
「分からないかな。でも、俺が暮らしてた日本社会を真似てるのは分かる。
カルデアを救世主とか言ってるけど、この感じ、何て言うか……あれだ。多分だけど、俺の国って老人の所為で税金を高くしないといけないって政府が言ってるんだけど、あれって税金上げる為のスケープゴートの生贄にお年寄りを言い訳にしてる感じじゃないかな?
カルデアの為、汎人類史の為って言って、そのソウルとか言う通貨を巻き上げたいんじゃない?」
「成る程。マスター、君は聡明だね」
「そろそろ選挙権って年だったから。まぁ一通り、社会の仕組みは勉強しないとね」
「違うわよ、藤丸」
「そうなんですか、所長?」
「これ、もっと単純なのよ。そもそも葦名の人、不死でね……―――死にたいのよ。
カルデアが特異点を滅ぼさない限り、この冥界より狂おしい生き地獄で苦しみ続けるだけ。だから、そもそも本能的に解放されたいって欲求があるから、藤丸はガチ目で救世主なの。
貴方だけが、不死の人間を特異点から解放してくれるって言う宗教が、葦名では生まれてる。それはそれとして、そんな解放が今までの苦しみの答えって言うのに不満な高潔な意志を持つ人間もいるけどね」
「……うわぁ……あの人、悪趣味過ぎません?」
「アッシュの趣味じゃない。あいつがカルデアをこの特異点で必要とする理由は別。多分、これを言うと貴方は戦えなくなるから今は言わないし、今この時に言わなかった私を凄く恨む事になると思うけど、それでも言えないから素直に最後は私だけを恨んでね」
「怖いですね。でも、知らない事が必要って事ですね?」
「今はそうなります。愛と希望を夢見させ、自己犠牲を誘導するやり口は悍ましいのだけど、不死なら死なないからアフターケア次第だし。まぁ、あのロマニがさ、この人理が運営する人類史を折角守ったんだし、私も貴方に恨まれるのが責務なら致し方ないかなって。何だかんだ、古い獣を狩るにはアッシュの思索に乗るしかないので。
……で、その話は置いといて。悪趣味な奴の話をします。
田村ケイモウって名乗ってるのだけど、あれは灰でもサーヴァントでもないわ。立場としては私達と同じ異邦人で、この特異点外の人間で、アッシュが獣狩りの為に召喚した生贄って訳でもない。
簡単に言うと、詐欺師以下のペテン師よ。
現代知識で遊びたいだけの糞餓鬼。唯の腐れ弩外道な屑野郎。
人と言う群れを愉しく統制する思索を、思う儘にこうやって思索してるだけなのよ。日本人って人種に対し、剪定事象になった歴史や汎人類史の現行社会から学び、こうやってソウルの業に則したやり方で人間管理を実践してるのよね。言ってしまえば、人類学者がモルモットで動物の行動学を実験するのを、実際に人間社会で実験をしてる雰囲気ね。
貴方に分かり易く例えるなら、ユニバース実験ね。鼠を使った人工楽園における動物行動学の社会構造の変化ってやつ」
「知人?」
「分かり易く言うと、友達の友達ね。ほぼ他人だけど、人格は知ってるわ」
「だって、ニーヒルさん。此処、そんな感じだそうで」
「まぁ、そうだろうな。人間が人間を管理する為の仕組みが社会と言う群れの本質だ。管理している側は己が人生に還る報酬がなくては無価値な時間となり、管理される側は自分達に利益がなくては管理者を無能と断じて処分する。
群れの代表とは、責任を取らされる生贄だ。
色褪せた私ではあるが、何処も人間の生態は変わらないのは理解出来る。裏側に神が居ようと、居まいと、管理されるのを良しとすれば畜生側となる。同時に、畜生には畜生の幸福がある。とは言え、それは素晴しい事だ。私は畜生な無辜の民で良かった。反逆する意に価値は感じず、今と、その先の未来が良ければ幸せだった。見知らぬ人々が地獄の苦しみの中で悶え死ぬのを見て見ぬふりし、幸運な今の自分を大切に出来れば良かった。そんな何処にでも居る普通に醜悪な一般市民だった。
しかし、そう在り続ける意味もなかった。
だからね、褪せ人とは憐れな者だ。あの灰も狩人も、本質は何一つ変わらない。
汎人類史を知った時、人間が人間の為に夢見る欺瞞だと理解した上で、その管理と支配を正しく感じた。やがて、それを気色悪いと破却する為の今の進化だとも分かったからな」
「そうなんだ。だったら何で、ゲーティアの善意と進化を否定したカルデアに召喚されたのさ?」
「汎人類史と言う機構を壊すだけなら、意味はあった。それより先、今の人類が自由な別の道を進める故に。
しかし、奴は汎人類史と同じ事を再誕した人類種に行おうとした。幸福のカタチを定め、未来はこう在るべきと所詮は人理と同じ道を進もうとした。
大切なのは―――混沌だよ、マスター。
この宙の全て、火から生じた被造物である。同時、全ての銀河が一つの太陽から生み出た塵だ。
人の生命も原理は宇宙と同じ。繰り返される事は抗えぬのだとしても、命ある我等が進んで因果を繰り返すのは魂に対する冒涜なのだ」
「もしかして……―――蛸貌の巨人、何か関係ある?」
「鋭いわね、藤丸」
「フランス特異点でも見ましたしね。あの時はジークフリートが倒してくれました。それで所長、何か分かります?」
「彼は本当に勇者だからね。私もあの光景を忘れる事はありません。
―――で、説明、要る?」
「要ります」
「じゃ、話しますか」
暗帝と忍びが暇潰しに将棋を始めたのを横目に、所長は藤丸に何を如何説明しようか考える。色々と思考を脳内で錯綜させ、何も交り合わずに悩んだので面倒に感じ、そのまま話す事にした。
「あの蛸貌の人、その御身に名は無いのよ。ただこの人間社会だと近しい似た神性として、近代創作神話小説のクトゥルフと類似しているわ。なので、地球人の視座からすれば娯楽小説より名を借りてクトゥルフ神と呼んで構わないわね。
ただまぁ、外側を啓蒙されたラヴクラフトの創作通りの神性って訳じゃないのよ。
始まりって訳でもないけど、この宇宙に住む私達からすると、ビッグバンが生じて宇宙が創世される前から世界に存在していた魂なのよ」
「はぁ……へぇ―――え、怖」
「私が魔眼で精神保護してるから良いけど、その恐怖心は本物よ。本当の宙を知ると発狂死するから気を付けてね。
で続けるけど、じゃあそもそもこの宇宙が生まれる前の世界って何かって言うと、それもまた宇宙なのよ。正確に言うと、熱的死を迎えて粒子運動全てが凍結し、時空間が死んだ前の宇宙ね。貴方も現代常識として宇宙の仕組みは知ってると思うけど、そもそも時間と空間が生まれたのは宇宙が誕生してからなので、そもそもな話、時空間自体が宇宙そのものであり、且つ熱エネルギーによって生まれた宇宙資源でもあるのよ」
「ほう……?」
「要は繰り返しってこと。宇宙は生まれては死に、死んだ宇宙でまた宇宙が生まれる。螺旋状の環となった巨大な卵の中の卵の世界が此処の本質となります。此処は殻の内側に出来た殻の内に広がる空を繰り返す宙の世界ってこと。
何もかもが死に、空間が死に、時間さえも死に、それでも尚―――魂が生き延びた果て。
貴方に分かり易く言えば、ゲーティアの夢見た永遠の本性ね。時間さえも有限な宇宙において、宇宙が死んでも死ねなかった永劫の正体が、あの蛸貌となります」
「うーん、それって―――元は人間?」
「そうよ。私も宇宙が滅んでも死ねないから、末路は彼と同じです。やがて燃料不足に陥った宇宙の時間が停止して、それでも尚、根源に還れず生きるしかなかった人間です。
……見るんじゃなかったと、今はつくづく痛感する。
今の私が味わっている未来への絶望さえ、この宇宙が滅んだ後は懐古の感動になる。アッシュ・ワンもあの狩人も同じだって言うのに、不死が辿る未来の末路である外なる旧い宙の住人から星を守って、そもそも人類種に感謝もされないってのに、葦名特異点なんて作る意義が分からない」
「何か、すみません」
「良いのよ、別に。どうせ、誰かが背負わないといけない責務ですので。そもそもこの運命、単純に私の愚かな好奇と嫉妬が齎した間の悪さの所為だし。
あー……で、話を戻します。
この話を聞いた貴方は、なら何でそんな吃驚存在を灰達が倒せたかって思うでしょう?」
「うん」
「答えは簡単、葦名特異点に浮んでる太陽よ。灰達は自分達の世界で最初の火って呼ばれる力を簒奪していてね、それを百八の平行世界から集めたアッシュが私達の世界である宇宙における最初の火のソウルを再現したのよ」
「はぁ?」
「あー……ま、カルデアスってあるじゃない。あれは星の魂を写した装置なのだけど、逆説的に地球以外の他惑星にも魂があるのよ。勿論、私達の太陽系の中心に太陽にもね。だけど、ならそもそもな話、人間が人から生み出て魂を宿す様、地球やこの太陽系も被造物ってことになる。
星の生命活動を辿ると、やがて宇宙で一番最初に生まれた星に至るのよ。
その星が生まれ、死に、超新星爆発を起こした事で宇宙の塵となり、原子のガスが広がった。それがまた集まり、星となり、魂が宿って今の銀河系が形成された。だからね、貴方も私も地球も、元々は一つの星から生まれた物質となります。
故、最初の火こそ最初の魂。宙の万物は太陽が死ぬことで誕生した。
銀河の美しい曼荼羅模様が宇宙に描かれた“根源”であり、この宇宙が命を求めて根源より呼んだ始まりの魂となります」
「もしかして、カルデアを真似てるのですか?」
「私のパピーがやった擬似天球カルデアスを、あいつは宙で生まれた最初の星でやっただけね。
最初の火……ソウルを冒涜する存在のは知ってたけど、根源に還った天体の魂をこの世に戻す程とはね」
「―――――それ、今の人がして良い事?」
「人だから、この宇宙に許されたのかもね。宙が滅びるのなら、夜空の美しさを知る誰かに、宇宙が死んでも永遠に覚えていて欲しいのでしょう。まぁ、宙に心があればと言う仮定が前提になる話だけど。
けど、銀河系を作る役目を終えた魂を根源から戻してまで、灰は人理を古い獣から救おうとしている。
そこまでする動機が理解出来ないわ。そもそも宙の最初の火も拓いて得てるだろうし、時間を宙より火で焼き尽くす事も出来そうだしね」
「俺は……何となくだけど、分かる気がする」
「藤丸―――教えなさい」
「多分だけど、生きたいって願った誰かが居たんじゃないかな?」
「あの女が、人の為―――?」
意志が褪めた瞳となった所長は、だが自分も誰かの為に殺人行為をした罪を思い返す。切っ掛けは些細な過去なのかもしれない。何より人助け以前、根源に眠る魂を古い獣に貪り喰われてしまえば、輪廻を繰り返した宇宙の過去も消失する。
即ち一番最初から、最も外側の世界である根源より魂をやり直す。
まだ宙は兆の年月に届かず、幼年期も過ぎず死ぬだろう。灰が古い獣を見た時、その獣を宙の外側から呼んだ現行人類種の罪に何を思ったのか。
「剪定事象しか出来ない人理に代わり、誰かが責務を負う生贄にならないといけない。旧い時代の人間が犯した罪科へ、人が償いを為す事に意味がある。
どうせ人殺しの悪人だからと、贄を選ぶ悪行を必要とする償いさえも娯楽なら―――」
そこまで考え、所長は脳の血管が怒りの余り千切れて脳内出血を起こした。ピチャピチャと脳が血の海に沈む錯覚を感じ、だが直ぐ様に気を確かにするだけで蘇る。
「―――独りで、何もかも清算する気か。
裏切りの動機。即ち、カルデアと敵対する価値。それ故に、特異点で殺戮を行う意味が見い出せる。
旧い人類史が行った魂への冒涜。
罪人である要人の遺志を継ぐ業。
結果、悪魔は贄となる世を選び、ソウルの霧を一つの世界に封じ込める贖罪の繰り返し。それを終わらせる因果を自分だけが持たえるなら、灰は邪悪を愉しみ、何時も通り人の為の世を救うのだろう。
「だが―――仕方が無かった。仕方が無かったんだ、オルガマリー所長」
混沌の瞳に燃える褪せ人が、優しく所長に微笑んでいる。褪せ人も所長と同じく、その瞳によって過去の未来の因果を見通し、ある程度の流れを特異点や灰達を見た事で理解している。
この惨劇、今までの邪悪、全て後始末だった。
不要な可能性を枝切りする剪定事象。それでも消えず、ソウルの業と言う人類種の可能性を齎した古い獣。この葦名特異点と、灰が関わったフランス特異点とローマ特異点は、大昔の人間が魂に対する冒涜と罪科を行った因果を清算する為の"
「灰は、苦しむ事さえも愉しい痛みだ。贖罪の業苦を他人へ押し付ける意味がない。何故、自分だけがと、思い悩む必要もない。どうにもならない因果へ怒りを向ける意義を持ち得ない。
私がそうだ。昔は兎も角、今の私はそう在る混沌だ。
狩人も同じだろう。悪魔も同じだろう。そして、君もそうなる。自分だけにしか価値のない穢れた悟りで、やがて自分の魂を啓くだろう」
「―――――ハッ!
馬鹿ね。人殺し、屑、悪党、外道と罵られるのもあの女からすれば良き感動に過ぎません」
「魔女よ、オルガマリーにそれを言うのは酷であろう。余もその意見には同意するがな」
煙草を吸いつつ、散弾銃の整備をしていた魔女が口を挟み、暗帝もまた彼女の意見に頷く。褪せ人も二人と同様、あのアッシュ・ワンと名乗る灰の魂を見た為、その言葉を良く理解出来た。そもそも共感も出来ていた。
「他人の為、自分の為、世界の為、人類の為―――そう言う理屈ではない。
マスター、君なら実感出来る筈だ。生きるとは、そう在る現象だ。走り続けた先に何があるのか分からずとも、終わりがない旅路であろうとも、人間は生きる限り彷徨いながらもこの因果を歩み続ける」
「為すべきことを為す……故、己の途は己で決める。斬らねばならぬ敵も、我等と同じ」
忍びは、静かに悟っていた。相手を殺す自分も、自分に殺される相手も、同じ人間であり、同じ苦悩を抱いて生きている者。
―――人の心を解さぬ化け物でさえ、その魂を生んだ親は同じで在る。
だからこそ、慈悲を。この手で殺す全ての命に、如何程に邪悪なる外道だろうと、命を断つのならば、刃を振うしかない己へ自責の念がなくては修羅に堕ちる。
「立香殿……―――斬る命へ、同情は無用。
されど、それを為すと決めた己へ……後悔の念を抱くのは、生きる所以となる」
「狼さんでも迷うの?」
「開き直れぬ……――殺しを、愉しむ己に」
この場において、あるいは葦名においても、最も純粋に人斬りを愉しみ尽くす剣の修羅。恩義と忠義によって芽生えた人間性によって殺戮の火を身の内に抑えているが、忍びはもはや神域を超えた人斬りと言う現象に成り果て、その先である何者かへ転じている。
一重に、忍びが今も忍びで在るのは、生前の主君に仕えた人間として遺志。殺す為に殺す衝動と欲望への自責。
怨嗟はもう―――魂と成り果てた。忍びはもはや、忍びだけの憎悪と怨念で怒りを覚えない。死を看取って来た全ての死人の憎しみが、彼の本性である殺戮者としての業を強くした。
「ま、あれよ藤丸……気にするだけ、無駄。アッシュの場合、開き直ってますので。
剪定事象でも消えなかった要人の罪、古い獣とソウルの業。今までの悪行はその贖罪であったけど、そもそも人類史の為の償いを愉しんでるし、その過程における殺戮と冒涜を娯楽にしてる。
客観的に見れば、人類存続の為に悪役を引き受けた善意の救世主。
けれども、その本人が罪を喜ぶ極悪人だから、誰かの為の悪行が報酬となるし、自分の魂を強く進化出来れば何一つ問題もない」
その言葉に藤丸は、僅かばかりの羨望が混じっている事に気が付いた。葛藤や苦悩なく、その最善手を非道外道の悪行だろうと行える人間性は、人と言う生き物自体を悟り切っているのだろう。
救いたいとすら思わず、理想も願わず、今よりも先に進む為の罪。
所長は世界を救う為に、此処まで徹底的に理念を詰められるか、疑念を思い浮かべる。だがそもそも、救う為に救うなど自分の行動原理的に有り得ないと悟り、その過程で得られる思索への利益次第だと所長は判断した。
「あ、悪夢の前橋ドームだ」
「前橋ドーム、なにそれ」
「前橋ドームだって……?」
「まさか、あれが噂の前橋ドームと?」
「前橋ドーム、この世にまだ存在しているなんて」
「……前橋、どぉむ」
「皆さん、着きました。グンマ区の前橋ドームです」
葦名幕府が開戦した大東亜戦争、あるいは第二次世界大戦。それは汎人類史において、大日本帝国による大東亜戦争の目的はアジア圏のヨーロッパ勢力の駆逐であり、白人社会によって植民地奴隷化した人々の解放だった。結果、日本は敗北するも、戦後冷戦時代にはアジア各国の植民地時代は終わり、ヨーロッパの駆逐に成功はしたのだろう。
ある意味、肉を切らせて骨を断つ。皮肉なのは、理想だけが叶った事だった。大日本帝国の繁栄は灰燼と帰し、國に夢見た者は犯罪者として虐殺を成功させた正義側の法に則り殺戮された。
しかし、この特異点では違った。不死たる葦名一心が数百年支配する文明開化した近代日本は、ヨーロッパによるアジア圏植民地支配に加担した事だ。この大日本倭国は汎人類史とは違い、蝕まれ、隷属され、搾取される奴隷化したアジア人を放置し、当たり前の様に自由貿易を行った。
第二次世界大戦開戦の原因とは即ち―――領土侵犯。
清を奴隷化したブリテンが台湾から沖縄に入り込み、それによって葦名幕府は宣戦布告した。
結果、ナチスドイツと手を組み、そこから一気に世界大戦へ広がった。汎人類史との大きな違いとしてアメリカが一番と敵ではなく、清を支配するヨーロッパ人が敵だった事だろう。
結果、アメリカの原子爆弾はドイツに落され、殺戮が行われた。
相手が申し込む和平を日本は受け入れ、大東亜戦争は終わり、そして日本は原爆技術と手に入れた。加え、領土を拡げ、大東亜日本圏を手に入れた。
だがその二十年後、古い獣によって霧が漏れ出し、第三次世界大戦が勃発し、世界中が冷戦時代に進化した核弾頭の熱波によって焼き払われた。何より悍ましいのは、人々が見た悲劇の記憶から核弾頭を落とす戦闘機がデモンズソウルより生まれ、それよって核攻撃が広がり、他国からの核攻撃と勘違いした国が無意味な報復の応酬を繰り返したことだろう。
前橋ドームとは、その時の遺産だった。
世界各地が灼熱に焼却され、僅かばかりに残った建築物の残骸だった。それを記念碑兼研究所として改築し、このグンマ区緑化計画の要所として利用していた。
〝此処がグンマ区の中心と。
あー……やっと耳鳴り、慣れて来たわね”
七人全員が盾騎士のボーダーから下車し、大自然の中で聳え立つ巨大ドームの前まで進んだ。所長は内心、此処に来た事に気が進まなかったが、計画上仕方無いと嫌悪の念を抑え込む。同時に、タスケテと脳内から嘆く声も抑え込む。
人工知能として使われていたクローン脳缶の遺志を貪って以降、所長は脳細胞一つ一つが震えていたが、その悲嘆に自身の狂気が適応し、彼女の人間性として蕩け合さった。死と恐怖に泣き叫ぶ彼女達の遺志は融け、オルガマリー・アニムスフィアと言う悪夢を構築する狂気の一部と化したのだろう。
「しかし、アニムスフィアさん。本当に、此処の灰と会う必要があるのですか?」
「そうよ、キリエライト。グレートウォール撃破で葦名に侵入可能になったけど、この灰から話を聞くか、聞けないなら殺してソウルを奪うかして、情報は得ておかないと面倒そうですから」
「気が進みません。森番の灰とも仲良しさんだって話ですよ?」
「基本的に灰共、殺し合う程に仲が良いので。むしろ、戦いになって殺して上げた方が向こうも喜ぶんじゃないの?」
「はぁー……そうでした。元々、腐れた変態集団でしたね」
「――――おやおや、酷い。
御友人になれそうな御客人だからと見に来れば、私本人へ聞こえる様に陰口で罵倒とは」
気配など、無い。その声は唐突に空気を震わせ、その者は影もなく集団に混じり、所長の後ろに何時の間にか存在していた。
「おひさ、ピグミー」
「オヒサ、御友人。一人好きな君にしては大所帯になったな」
「隻狼とは何時も一緒じゃないの?」
「竜胤の忍びか。彼は空気に融け込んでいると言うか、気配が薄いと言うか、居るか居ないか分からない故。
それはそうと、何用かね?
灰達が全員集まり、君等を奔流砲火した件を抗議しに来たのかね?」
「いえ。太陽について、聞こうかと」
「あぁ―――……となると、計画も次の段階に進むか。マシュ・キリエライトが藤丸立香を、あの原子爆弾から守った成果とも言える。
アッシュ・ワンの奴も極悪人だ。汎人類史から人間性の学びを得たと我等灰に語ったが、繁栄を免罪符に行う一方的な天罰など薄汚い神の所業であり、だか故に人の意識は神域を超えたとも言えよう」
「所詮、人真似。あいつの悪意、そもそも人類史から得た人間性ですし?」
「ならば、我等灰がこの度の召喚で得た人間性も同様だ。不死と言う事実を得る前の、神が火で偽る甘き命を過ごした時代の心を取り戻しはしたが、同時にこの星に刻まれた全て人類種の悪と善も啓蒙されている。剪定事象により消えた人々の断末魔として記録された遺志さえもな。
君―――同じモノを知っている筈だ。
一匹でも我等灰の誰かを殺し、ソウルを簒奪すれば、記録を学べただろう?」
「そうよ。だから、此処に来た」
「残酷な事だ。憐れ故、同情もする。だが、悪行に走る程の憐憫の善意は獣性だ」
「そうね。だから、此処も獣を真似た所業じゃないかしら」
「素晴しい思考だ。称賛する。愉しみを得た礼だ、我が別荘を案内しよう」
「ありがとう。造物の簒奪者、ピグミー」
「どういたしまして。星見の狩人、オルガマリー。
ではその他諸々の諸君、君等もまた我等灰にとって大事な生き駒だ。仲間外れはせぬ、案内しよう」
謂わば、猟奇的美人。妖魔の美麗。
とは言え、整形好きな灰達は、奇形か美貌が多い。あるいは、奇怪な美人も多い。アッシュのような普通な人貌は逆に珍しいのだろう。
「では諸君、此処がグンマ区研究所の前橋ドームだ」
見た目はただの普通のドーム型建造物。とは言え、人工物はこのドーム以外なく、他全てが自然であるグンマ区において、普通の建物と言うのが異常だ。そして灰は元から予約を入れていた客を案内する様に、御客人七名を居酒屋のアルバイトのように義務的な丁寧さで案内する。
「とんとん拍子。藤丸、敵に平気で付いて行く展開に、置いてきぼり喰らってる?」
「はい、所長!」
「じゃあ、このピグミーに何か質問して大丈夫よ」
「分かりました。つまり、分からないならどうせ理解出来ないので、今は頭空っぽにして感情を抑制した方が良いって事ですね!」
「曲解だね、カルデアのマスター」
造物灰は変わらず作り物の美貌で微笑み、人類を人理焼却から救った男を見た。あの灰による人間性の加護を感じ取れ、凶悪なまでの因果律の強靭さを魂に持つのが分かったが、藤丸はその人間性がなくとも問題ない運命力があることもまた理解する。
時に、馬鹿で在る方が賢い選択肢の場合もある。
頭を使う場面と心を使う場面を知り、藤丸が英霊を従がえる為の理想的な人間性を保有する事が灰には分かった。
「為るべくして為り、為すべき事を為す。星見の狩人、彼を求めたのはカルデアではなく、彼の様な英雄ではないからこその救世主の、生きる意味を御友人に啓蒙する人間らしい人間を求めたからかもしれんな。
―――成る程。ならば、全て僥倖となる。
質問があれば答えよう。君を近くで見れた上、問答が出来るのは私にとっても益となろう」
「じゃあ、幾つか良いですか?」
「歩きながらで構わぬか?」
「はい」
「では、良いぞ」
「―――貴女の願いは、何ですか?」
この場面で個人の願望を聞かれるとは思わず、だからこそ藤丸を正しく灰は一人の個人として認識した。
「そうか。お互い、魂を尊ぶ人類種同士。話す言葉に宿る相手の意思を知るのが、何よりもの対話。
君、賢いね。私のような長く生き、学と業だけ脳に溜めた賢人の真似事をする者より、どうしようもなく人間として優れている」
「そうよ、私の部下なんだから。私だって、彼から学ぶ事が沢山あります」
「御自慢どうも、御友人。ではカルデアのマスター、君の質問に答えよう。
―――知ることだ。
そして、知り得た業を形にしたい。
簡単に言うと物作りだ。葦名で流行っているマシュ・キリエライト人形にも私は関わっているが、遺伝子や細胞は無論、人間の魂、精神、記憶、記録、感情など、諸々を作りたいのだよ。その上で人間が作り出す被造物全てを私は全知し、創造したい。造物を只管に、永遠に、繰り返したい。
我々、灰は……そうだね。何かを叶えたいと言う願望はなく、こうしていたい、こう在りたい、これをしていたいと言う魂の方向性とも言える業で動く人間性だ」
「そうですか……―――願いは、ないのですね」
「無いな。私は私の業が一番愉しく、葦名は楽しめる故に召喚へ応じた。それだけだ」
「アッシュ・ワンも、そうなのですかね?」
「そうだな。あの女に限らず、私や他の灰もそうだが、我々は殺戮と強奪によって人類の魂を救った人間だ。繰り返し、幾度もな。
人間は醜く、下衆で蒙昧だが神も同じであり、自分自身と同様に他人を救う価値は人間にないが、救うことそのものに価値はある。死に続けるだけの意味を魂に与える。
要は―――刺激だ。
古竜のように私は魂が石と為り、生命を超越する事に価値を見出せなかった。やがて時間さえも冷却して死ぬ世界の未来を我々は迎えるが、それでも灰は灰として存在する。永遠に」
「救済の為の救済ってことですか?」
「否。己が魂の為に世界を救うのだよ。世界に苦しめられる他の魂を、更に自分の業によって苦しめた上で、人間が歩む遥か未来まで因果を観測し続けたい」
「成る程。つまり、人類存続がアッシュにとって一番の未来ってことですか」
「肯定だ。即ち、繁栄を超えた絶頂だ。
彼女は既存の人理を徹底的に滅ぼしても、この星で生まれた君達人類種を宇宙の終わりまで歩かせ続けるぞ?」
「つまり、人間大好きと言う感じですか」
「解釈は各々の感情と論理に任せよう。故、君の思考を助ける為の参考意見として言うが……まぁ我等からすれば、私が生まれた世にとって人も神も獣も闇から誕生した暗い一匹に過ぎぬ様、君等は根源と言う虚な宙から生じた一匹。
魂は君も私も等価であり、強弱や大小は比較する必要もない。重要なのは、在りの儘にと言う事だ。
「理解でき……いえ、理解出来ないですが、道理は何となく知れました。
あの人は恐ろしい極悪人ですけど、それはそれとして人助けも大好きな変人みたいですね」
「そうだな。尤も、誰かを殺して退かすことで幸福の椅子を空席にし、選んだ誰かを其処に座らせる程度の偽善と欺瞞だ。
私が葦名で殺した英霊に、確か……エミヤシロウだったか。固有結界、無限の剣製は便利な異界常識となったので良く覚えているが、彼の行動原理に似てなくもない。彼の様に罪悪感に苦しむ事なく殺し、無意味な永遠に摩耗せず、正義をそれはそれとして故意的に愉しむ外道ではあるがね。
サーヴァントを従がえるカルデアの君には、それなりに分かり易い例えだと思うが」
「人間らしいですね」
「人間だからね。君のような平和を常識とする社会で生きる人間にとって殺人は悪であり、我々のような殺し合いを常識とする世間で生きる人間にとっても悪ではあるが、同時に善でもある。
それは、何故か。平穏に生きたいならば、周りもまた平穏を愛する人間で群れる必要があるからだ。しかし、我等灰は魂を簒奪し合うことで刺激を得る人種である故。
悪であろうと、その業は己の魂にとっての善行なのさ。この度の殺戮も所詮、偶然にも獣より人類種が住む星を救世する意味合いが含まれたに過ぎん」
「だからと、利用しようと言うのが気に入らん」
苛立ちの余り、暗帝が口を挟んだ。自分にとっての善行が偶々世界を救済し、それが他個人にとって悪となる罪に過ぎないと言う事実。しかし、それこそ人が騙る建前。
「可愛らしい感想ではないか、暗帝。だが、この星において、繁栄こそ霊長の故となる。
そして、星が見る人理と言う夢の主役こそ君等、人類種、ホモ・サピエンス。
所詮、弱肉強食。単純に弱い故、勝者が与える救済を受け入れるしかない。あの灰が求める様、君等は君等の人間性で在るが儘、この宇宙が滅びるまで永遠に繁栄する人間として旅を続けるしかない。
だからこそ、汎ゆる未来を歓迎する。人類種が自由な未来を歩むことこそ、我らにとっての報酬となろう。
―――人間性が、豊かとなるのだ。
それこそ自由の本質だよ、君。その物語が、枯れた不死のソウルに僅かばかりの潤いを与える」
そして、ドームゲートに皆が辿り着く。丁度、それが会話の切れ目となった。
「では御友人方。ようこそ、私の館へ」
読んで頂きありがとうございました!
型月ワールドとダクソとデモンズとブラボを混ぜた世界観に、エルデンも混ぜてみようと考えてましたが、DLCの影の地を冒険して愉しかったので、結構巧くご都合主義ですが辻褄合わせで出来そうで良かったです。
簡単に言えば、影の地の壺は良い壺です。いえ、善い壺でしょう。ボニ村の善良な村人達がボニらなければ、女神が黄金を掲げる意味を得ず、その律を砕く未来に価値を見出す事もなかったのかもしれません。