FEメモ書き集   作:翔々

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ハーディン「おれは しょうきに もどった!」

紋章の謎20章での暗黒皇帝のセリフ「俺はグルニアさえ潰せばそれで良かった」がのどに刺さった小骨のように引っかかる。仕事でも家庭でも心が休まらない、皇帝なのに中間管理職じみた男の苦労話。



03.ハーディンがグルニアを潰した理由・他

 英雄戦争末期。パレス王宮にてマルス達を待ち構える皇帝ハーディンの前に、クーデター首謀者の聖騎士ミディアが引き立てられる。抵抗の痕も痛々しい、見るも無残な姿を一瞥する男に、ミディアが余力を振り絞って問いかける。

 

「ニーナ様をどこへやった!? 王妃を返せ!」

 

 女の名前を耳にした瞬間、皇帝のたたずまいが一変した。対峙するミディアが震え上がるほどの怒気を露わにする。

 

「ニーナだと!? あの女は、俺を裏切ったのだ!」

 

 そう叫ぶハーディンが、一瞬だけ正気を取り戻したように冷静な顔になる。やがて弁解するように、

 

「俺はグルニアさえ潰せば、それで良かった。それを、あの小僧がエムブレムなどを手にしたがゆえに……!」

 

 暗黒皇帝と呼ばれる男には似つかわしくない、後悔にも似た心情を吐露した。

 

 

 

 このマップに来るまでに、プレイヤーは第一部の知識とボア司祭の遺言でハーディンの変質の原因を知っている。妻のニーナが愛しているのは夫のハーディンではなく、グルニアの黒騎士カミュだった。彼の死後もニーナはカミュを忘れられず、ハーディンを愛することができない。傷ついたハーディンの心に、魂だけの存在となったガーネフが目を付けて、闇のオーブの虜にしたのである。

 

 闇のオーブは、持ち主の心に秘めた欲望を露わにする力を持つ。この時のハーディンのセリフは、嘘偽りなく彼の本音である可能性が高い。愛した女の裏切り、盟友マルスへの嫉妬が伝わる、本編中でも屈指の名場面だろう。

 

 が、引っかかる点が一つある。

 

『俺はグルニアさえ潰せばそれで良かった』

 

 妙ではないだろうか?

 

 ハーディンが完全に狂い、ニーナへの怒りだけに身を任せたのなら、ミディアへの返答はもっと違ったものになるはずである。故郷オレルアンを離れ、アカネイアの皇帝として政務に励み、ニーナのために生きる自分。なのに当の女は一向に振り向いてもくれず、死んだ男の影を追う一方だ。おのれ、おのれ、おのれ―――。

 

 そうではなかった。ハーディンはニーナの裏切りを愛情ではなく、グルニア討伐という政策にからめたのである。これはいったい何を意味するのか。グルニア征伐はハーディンにとってどのような位置付けだったのだろう。

 

『なぜハーディンはグルニアを潰したのか?』

 

 これが今回の考察である。

 


 

1.ニーナにカミュを諦めさせる、もしくはカミュの完全抹殺

 

 前作をプレイした人ならご存知の通り、本編にはカミュと同一人物だと思われるキャラクターが登場する。仮面で顔を隠しているものの、パラディン・槍使い・金髪・貴公子然とした振る舞い……「お前もう隠す気がないだろ」と突っ込みたくなるような一致ぶりである。

 

 このカミュと思しき人物が、グルニア領でしばしば確認されたという噂が流れる。そのことを王宮の人間……ボアか別の誰かが聞き、世間話としてニーナに伝えてしまったのかもしれない。

 

 ニーナにとっては僥倖である。カミュを故人として諦め、ハーディンを愛そうと努力し始めた矢先に、かつて恋した男が生きているかもしれないという希望を持たされたのだ。落ち着きのなくなった妻を不審に思い、夫が調べさせても無理はない。すぐに知られることとなった。

 

 ハーディンは今度こそショックに打ちのめされただろう。ようやく自分を愛するようになった女が、元に戻ったようにつれなくなった。あろうことか、その相手は前大戦で殺したはずの宿敵である。まるで幻のようについてまわる男の影が憎らしくてたまらない。

 

 殺してやる。

 行方不明になどさせない。自分の手で、確実に殺してみせる。

 

 もう二度とニーナがたぶらかされないよう、彼女の目の前で八つ裂きにしてくれよう。そうすればニーナも夢から覚めるに違いない。いつまでも恋する乙女でいてもらっては困る。いい加減に夢から醒めて、王妃としての自覚を持たせなくてはならない。

 

 これは国のためなのだ。王家の人間をことごとく処刑した罪人の首を刎ね、アカネイアが未来に向かって進む礎にする。そのためにはグルニアなど滅ぼしてもかまわない。後を任せたロレンスも老いぼれであり、ユベロ王子などは小童も同然だ。いないほうが都合も良い――――。

 

 

 

 本編プレイ中の私が考えていたのはこんなストーリーだった。

 

 なんとも愛憎渦巻く昼ドラ展開だが、物語の展開としてはありきたりだと思う。何より、ニーナがエムブレムを持ちだす理由に繋がりにくい。というわけで、この案は没。ハーディンの心情的にはありえなくもないか。

 


 

2.アカネイアの貴族達の意向に従った

 

 ハーディンは皇帝ではあるものの、アカネイアでは入り婿の外様である。一族の遠縁にはアルテミスの夫として皇帝になったカルタス伯がいるものの、直系ではないために箔が足りない。自然、どうしてもアカネイアを牛耳る貴族達からの評判は悪く、ハーディンの影響力は弱いままである。

 

 彼らの信頼を得る、ないしは君主として認めさせるには、貴族層が望む政策を執る必要があった。大陸の王者にふさわしい、名誉と実益を兼ねたものでなくてはならない。農地開拓だの税制改正だの、長期的かつ地味な政策は却下である。より派手で、かつ短期に効果の見込める行動。

 

 外征による領土拡張である。

 

 グルニア征伐以前からハーディンは近隣諸国を制圧し、アカネイアの国力を増大させたとあるので、これは間違いではない。ただし、もっとも現実的な目的は領土というより別にあると思われる。

 

 占領地からの略奪。

 

 乱捕りは戦の華というが、それは国家でも変わらない。自分でゼロから生み出すより、相手から奪ったほうがよっぽど楽である。なにしろアカネイアは五年にも渡ってドルーア帝国と戦争を続けた上に、王都パレスをグルニアに占領されたのだ。その間、王家の財産や秘宝はすべて持ちだされている。マルス達が取り戻したのは一部に過ぎず、巨万の富が国外に流れてしまっただろう。

 

 アカネイアの貴族層は、それらの代償を求めていた。そうした要望に応える形でハーディンは外征を続けていき、目ぼしい標的を狩り尽くしたのだ。外に無いのなら、内で探すのが道理である。名だたる将軍達を失い、引退してもおかしくはないロレンスだけが残るグルニアは格好の獲物である。ハーディンの食指がギラリと光った―――。

 

 

 

 一つ目に比べれば現実的である。が、これでは皇帝たるハーディンがアカネイア貴族達の傀儡でしかない。アカネイア王家の人間になろうとする彼が、そのようなポジションに満足するだろうか。よってこれも没。

 

 三つ目は、正反対の説。アカネイア貴族を味方にするのではなく、敵として見るものだ。

 


 

3.アカネイア貴族に対抗するための派閥を作る

 

 ハーディンにとって、アカネイアの貴族層はオレルアン時代からの仇敵である。彼の生まれ育ったオレルアンでは『草原の民』と呼ばれる部族が生活しているが、アカネイア王国は彼らを奴隷として虐げてきた。それに憤ったハーディンは『草原の民』を己の騎士団として取り込み、奴隷階級からの解放を成し遂げたのである。

 

 その事実を承認させるために、ハーディンはアカネイアの貴族達と粘り強く交渉した。幾度となく罵られ、屈辱的な目にあっただろう。そんな相手に対して、皇帝ハーディンは歩み寄ろうとするだろうか。否。

 

 彼らの存在を、徹底的に攻撃する。

 

 なぜアカネイア貴族が権力を持つのか。彼らに力があるからである。ならば貴族達に負けない、それ以上の力を持った存在が現れたら? 彼らの権力は分散し、ひいては皇帝たるハーディンの影響力が強まる。そうして五年、十年と時が立てばアカネイア貴族達は日陰者となり、新たな権力者達が成り代わる。

 

 ハーディンは精力的に働いた。オレルアンに置いた旧臣『狼騎士団』の戦力を強化しつつ、外征と略奪を繰り返して国庫を潤す。アカネイア貴族に敵対する人間を中心とした子飼いの部下達を雇い、彼らに権力を与えて対抗馬に仕立て上げる。

 

 暗黒戦争でドルーア帝国に裏切り、アカネイア王国での立場を無くしたアドリア候ラングなどは格好の人材だった。なにしろ後が無い以上、権力者に返り咲くためならどんな汚れ仕事もやってのける。まさにハーディンの欲しい駒だった。最終的には切り捨てればいいのだから。

 

 そうして集まった自らのシンパに、いよいよ領土を持たせる時が来た。アカネイア大陸の外では意味が無い。あくまでも大陸内で、かつ裕福な国を持たせなくてはならない。どこかにないか……国内を睨めば、実に魅力的な土地があるではないか。

 

 グルニア王国。

 

 有力な将軍達はすべて死に、引退同然の老将ロレンスが残るのみ。国王ルイは病死し、後には年若いユベロ王子・ユミナ王女しかいない。なにより未開の土地ではないというのが素晴らしい。開拓の段階はとっくに過ぎ、開発もほとんど終わっている。占領統治も楽に済ませられる、絶好の獲物である。

 

 ハーディンの狙いは決まった。グルニアを滅ぼして、自らのシンパに分割・割譲させる。それぞれを幾つもの小国家の王に任命して、同時にアカネイア貴族としての権力を持たせる。彼らは旧態依然たるアカネイア貴族の一員になどならず、皇帝ハーディンの意のままに動くのだ。

 

 これが一番現実的な理由だと思われる。アカネイア王国内では外様のハーディンが皇帝として振る舞うには、既得権益の主であるアカネイア貴族達を排除しなくてはならない。それを成し遂げるには、武力や暗殺といった血なまぐさい手口ではなく、五年・十年と長期的な時間をかけた政略の必要がある。

 

 強引といわれようと構うまい。属国を虐げ、民の生き血を啜って繁栄するアカネイア貴族こそが国家の癌である。癌を摘出するためなら、自分は鬼にでもなろう。それが長じては国家のため、愛する王妃ニーナの子孫のためになるのだ。

 

 いつかニーナも自分を愛してくれる。その日を近づけるために、その後の幸せのために、ハーディンは皇帝として戦うことを誓う。

 

 

 

 ―――彼の誤算は、愛するニーナこそがアカネイア貴族の象徴であるという点を失念していたことだった。

 

 ハーディンの政策は強引に過ぎた。アカネイア王国の貴族主義と真っ向から衝突し、怯むことなく改革を進める彼の姿勢は、アカネイアに暮らす貴族達を恐慌へと追いやった。自分達の権勢に脅威が迫っていることに気づいた貴族達は、助けをもとめてニーナの元へ日参する。

 

『どうか皇帝を思い留めてほしい』

『アカネイアを統べる王としての自覚を持たせてもらいたい』

『このままでは、我ら臣下が立ち行かなくなってしまう』

 

 日に日に増え続ける嘆願が、ニーナの心をひどく責める。彼女には夫を愛せないという負い目がある。強い苦言をすることもできず、皇帝派と貴族派の対立が悪化する一方のパレス王宮の片隅でひっそりと過ごすほかない。

 

 ハーディンは何故こうまで争うのだろう。必要だからそうするのは理解できる。だが、ここまで荒げることはないはずだ。幾度も戦争を繰り広げる姿は悪鬼羅刹としか思えない。どうして、どうして、どうして―――。

 

 ニーナはそこで気づく。数日前から夫のもとに出入りする商人が、怪しく黒光りする宝玉を持参してきたことに。心を虜にするような輝きに惚れ込んだハーディンが所望すると、商人は笑顔で応じた。以来、そのオーブは皇帝の懐中で鈍い輝きを放っている。

 

 あれは魔物だ。

 私の夫は、悪魔に魅入られてしまったのだ。

 

 ニーナは助けを求めるように女官のリンダを呼び、王家の秘宝『ファイアーエムブレム』を託した。このままでは、アカネイア王国は再び戦乱を引き起こしてしまう。頼るべきは、かつてハーディンと並び称されたアリティアの王子マルス。ニーナはリンダをパレスから脱出させ、マケドニアに参陣するマルスの元へと向かわせる。ひとりになったニーナは、王宮に立ち込める暗雲に心を乱されるしかなかった……。

 

 

 

 ファイアーエムブレムはアカネイア王国を象徴する秘宝であり、王家そのものといっても過言ではない。これを国外の、それも属国の王子に譲り渡すという行為が、どんなメッセージになるか。

 

『ハーディンにアカネイアを統べる資格無し』

『貴方がハーディンに代わってアカネイアを統べよ』

 

 よりにもよって、それを実行したのがアカネイア王家に唯一残された王妃ニーナである。これは完全にハーディンへの抗議表明であり、皇帝への不信を喧伝することに他ならなかった。

 

 ハーディンにしてみれば正しく裏切りである。そもそもハーディンはニーナのため、アカネイアのために、日夜心労を重ねて政務に励んでいるのだ。感謝はされても咎められることはない。それがどうしてこうなるのか。

 

 もはやハーディンの構想は破綻した。なんとしてもファイアーエムブレムを取り戻し、アリティア王子マルスを「王家の秘宝を盗んだ罪人」として討伐しなければならない。でなければ、ファイアーエムブレムを持たない自分が『王ならざる者』として討伐されることになる。

 

「おのれニーナめ! よくも俺を裏切ってくれたな! お前のために働き続けたこの俺を、逆賊として討たせるつもりか!!」

 

 ハーディンの怒りに呼応するかのように、懐中のオーブが輝きを増し続ける。彼の心に巣食った悪魔は、いつしか彼に成り代わるまでに成長を遂げるのだった。

 


 

余談.ハーディンの雄壮なる戦略

 

 もう一つ気になる点が出てきたので書いておく。

 

『俺はグルニアさえ潰せばそれで良かった』

 

 この言葉が真実である場合、当初のハーディンの戦略では、討伐はあくまでもグルニアだけに留まるものだったことになる。老将ロレンスに反乱を起こさせて殺害し、ユベロ・ユミナのふたりの王族をグルニアから引き離す。完全な空白地帯となったグルニア領土をアカネイアに取り込み、腹心達に分け与える。本来ならそこで終わる予定だったというのである。

 

 つまり、そこからの展開はハーディンの想定外。マケドニアの反乱、マルスによるグルニア解放とラングの切り捨て、隙を突いてのアリティア攻略。これらは戦略の変更を求められた結果だった。

 

「我々は嵌められたのです。グルニア征伐もマケドニアの反乱も、最初からアリティアを襲うための罠に過ぎなかったのでしょう」

 

 ジェイガンの推理は半分正解であり、半分が間違っている。

 

 

 

 では、当初のハーディンが描いていた構図とは何か?

 

 ハーディンはアカネイア王国内で孤立している。あさましくも権力にしがみつくアカネイア貴族を一掃するには、彼自身の権力を強めなくてはならない。それには腹心達を小国家の王に仕立て上げるのと同時進行で、国家間の新体制をまとめ上げる必要があった。

 

 アカネイア神聖帝国。皇帝ハーディン。

 アリティア王国。国王マルス。

 オレルアン王国。国王ハーディン兄。

 マケドニア王国。女王ミネルバ。

 グラ王国。女王シーマ。

 タリス王国。国王モスティン。

 グルニアに建国予定の小国家群。

 

 これらの十数ヶ国からなる、新生アカネイアのトップとしてハーディンが君臨する。ほぼすべての国家が皇帝の縁戚・腹心・盟友で構成された、極めて堅固な結びつきの一群である。ドルーア帝国に尻尾を振ったグルニア・マケドニアのような属国を出すまいという、ハーディンの意思が明確にうかがえる。

 

 なんとも雄壮な戦略である。『草原の狼』ハーディンらしい、現実に則した政策ではないだろうか。

 

 王妃ニーナの投じた一石が、彼のすべてを瓦解させたのは、もはや皮肉という他あるまい。

 

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