東方人形誌   作:サイドカー

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三月になったよ、やったね! まだ寒いけど。

四季の中で、春が好きなサイドカーでございます。
今まで寒い日が続いていた中、不意に「あれ? 今日はなんだか暖かい?」と思う、春の訪れを予感させる瞬間が、たまりませんなぁ。

さて、今回は春に因んだお話です。お付き合いいただけると、嬉しいです。


第十一話 「となり同士あなたとわたしチェリーブロッサム」

 事の発端は、昼前。そろそろ昼飯の支度でもしようかとアリスと話していたら、バーン!とドアをブチ破らんばかりの勢いで、やたら元気の良い魔理沙が訪ねてきた。そして、開口一番こんなことを言い出した。

「アリス、優斗! 花見やろうぜ!」

「花見? えらく唐突だな」

「いつものことよ。それで、場所は博麗神社かしら?」

 突然の出来事に間抜けな返事をしてしまう俺と、至って冷静なアリス。付き合いが長いだけあってか、アリスは魔理沙の突飛な行動に慣れているようだ。まぁ、俺も突発的に行動するタイプだけどさ。

 アリスの問いに、魔理沙はニカッと笑い「ああ!」と大きく頷く。

「さすがアリス、話が早くて助かるぜ。霊夢にはもう言ってあるから、二人は先に行っててくれ。私は早苗あたりでも呼んでくるぜ」

 そう言い残すや否や、箒に跨りバビュンッと飛んで行った。まさに嵐の如くな勢いである。

 あっという間の出来事に、俺はぽつんと取り残されがちだったが、かろうじて首を動かし、隣にいるアリスに呼びかけた。

「とりあえず、軽食でも作っていくか? 手ぶらで行くのも、何だか悪いしな」

「そうね。サンドイッチくらい持って行ってあげましょうか」

 というわけで、俺達はあり合わせの材料でサンドイッチを作るべく、キッチンへ向かった。その後、完成品をバスケットに入れ、家を出た。目指す先は博麗神社だ。

 

 

 博麗神社に着くと、霊夢が一人でせっせと花見の準備を進めていた。

 いくつもの桜の木に取り囲まれた、境内の一部のスペースに、大きめの布をレジャーシート代わりに広げている。見上げればピンク色の小さな花が、まさに満開といわんばかりに咲き誇っており、それだけで花見っぽい雰囲気が出ていた。

 霊夢のところまで行き、アリスが彼女に声をかける。

「霊夢、来たわよ」

「アリス、いらっしゃい。それに優斗も。悪いんだけど、ちょっと手伝ってもらえない? このあと、蔵からお酒持ってこないといけないのよ」

「おう、お安い御用だ」

「もちろん、手伝うわよ。それと……はい、おつまみ代わりに、皆で食べましょう?」

 アリスが家で作ったサンドイッチを霊夢に手渡す。すると、霊夢はキラキラと顔を輝かせた。よほど腹が減っていたのだろう。そのまま感極まって、霊夢はアリスにがばっと抱き着いた。キマシタワー。

「やったぁ! ありがと、アリス大好き!!」

「もう、大げさね」

 子供のようにはしゃぐ霊夢に、俺とアリスは顔を見合わせると、思わず笑ってしまうのだった。

 

 さて、あのあと蔵から酒を何個か運び出し、花見の準備は完了した。現在、目の前には大量の一升瓶が並んでいる。というか、よくこれだけ集めたな。力仕事を終え、軽く肩をグルグルと回してほぐしていると、それとほぼ同タイミングで、上空から「おおーい」という魔理沙の声が聞こえてきた。見上げると、魔理沙と早苗がこちらに向かって飛んでいた。プラスもう一人。面識のある奴だ。

 彼女達がスタッと着地したところで、俺は「よう」と軽く手を上げる。最初に答えたのは早苗だった。相変わらず、その辺は礼儀正しい娘さんである。

「こんにちは、優斗さん。先日ぶりですね」

「だな。八坂様と洩矢様は元気か?」

「はい、おかげさまで」

「あやや、私のことも忘れてもらっては困りますよ?」

 早苗と話していたら、隣に居た人物が割り込んできた。口調からお察しの通り、清く正しい射命丸文だ。そうそう、その清く正しいっていうのと、幻想郷最速というのが、彼女のモットーだそうだ。速さが足りないッ! とか言っているのだろうか?

「別に忘れちゃいないぞ。取材にも協力したしな。文も魔理沙に誘われたのか?」

「いえいえ、偶然通りかかっただけです。とはいえ、楽しいことにはぜひご一緒させてもらおうと思いまして」

「さすが新聞記者。もはや取材に行かずとも、イベントの方から寄ってくるってか」

 そんな冗談めかしたことを言いながら、布製のシート上の好きな場所に移動し、各々腰を下ろす。酒瓶の栓を抜き、わいわいと皆でお酌し合う。準備が整ったところで、言い出しっぺの魔理沙が、すくっと立ち上がり乾杯の音頭を取った。

「んじゃ、花見と称して……乾杯だぜ!」

『乾杯!!』

 魔理沙の掛け声に合わせて、俺達は手に持ったグラスやらお猪口やらを高々と掲げ、花見はスタートした。天気も良し、絶好の花見日和だ。楽しむとしよう。

 

 

 あれから、どのくらい時間が経ったのだろうか。少なくともそんなに長時間過ぎてはいないはずなのだが。それにも拘わらず、俺の目の前では……

 

「あ~、早苗のふとももってやわらかいわ~」

「お~、確かに気持ち良いぜぇ~」

「ちょ、ちょっと、霊夢さんに魔理沙さん!? これじゃ動けないじゃないですか!?」

 

 なんか百合っぽい光景が繰り広げられていた。本日二度目のキマシタワー。建設ラッシュに、大工さんも大忙しだ。

 絶賛酔っ払い中の霊夢と、これまた絶賛酔っ払い中の魔理沙が、それぞれ両サイドから挟み込むように、正座している早苗の左右の膝の上に頭を乗せていた。早い話がダブル膝枕である。二人とも、早苗の足にすりすりと猫みたいに頬ずりしている。酔っ払い二人組に絡まれ、早苗は情けない声を出した。何というか……うん、どんまい。

 そんな三人の様子を見て、アリスが苦笑する。

「早苗も大変ね」

「そうだな」

 同意しながら、俺はアリスの横顔を眺める。不意に、春特有の優しい風が吹き、彼女の綺麗なショートの金髪がさらさらとなびいた。アリスは髪をそっと手で押さえ、桜を見上げながら眩しそうに目を細めた。その周りを、淡い色合いをした桜の花びらがひらひらと舞い散る。何というか、スゲーいいな、こういうの。

 すると、こちらの視線に気づいたのか、アリスは俺の方に顔を向けた。

「どうしたの?」

「いや、アリスと桜の組み合わせが、あまりに絵になっていてな。見惚れてしまった」

「もう……バカ」

 ほんのり頬を上気させ、恥ずかしそうに微笑むアリスが、べらぼうに可愛いです。俺と目が合うと、ぷいっと目を背けてしまった。あかん、鼻血の危機。

「おお、あついあつい」

『!?』

 と、意地悪そうな声に俺達は思わずビクッとなってしまった。声がした方を見ると、文がニマニマとした笑みを浮かべつつ、お猪口を傾けていた。

「春ですねぇ」

「お前はリリーホワイトか。確かに今は春だけどよ」

「そういう意味ではないのですが」

 俺のツッコミに対し、文はやれやれといわんばかりの表情で嘆息した。何なんだ、一体?

 まぁ、いいか。折角の花見なんだし、ちゃんと桜の鑑賞でもしようかね。最初に博麗神社に来たときは、幻想郷に来た初日だったっけ。そのせいか、桜を眺める暇なんてなかったが、なかなかどうして此処は良い花見スポットではないか。風情があって大変よろしい。ぽつりと、つい感想が漏れてしまった。

「いい桜だな」

「博麗神社は花見スポットですからね。他に桜の名所と言えば、冥界ですね」

「……冥界?」

 文の言葉に思わずオウム返してしまった。冥界って、あの冥界だよな。あの世的な。

 よほどのアホ面になっていたのか、俺の表情を見て、アリスが「優斗の想像している冥界で合っているわよ」と教えてくれた。いやはや、お恥ずかしい。

「というか、文は死んでないのに、何で冥界のこと知っているんだ?」

 俺の疑問に、アリスが親切丁寧に説明してくれた。

「前に、春の時期になっても冬が終わらない異変があったのよ。その原因が、冥界に住む亡霊の仕業だったの。それで、異変解決のあと、幻想郷と冥界の間の結界が希薄になって、それぞれの行き来が容易くなったのよ」

 つまり此処じゃ、生きたままあの世に行くのも可能になったってわけか。つくづくとんでもねェ世界だな。だが、面白い話だ。

 アリスの説明を聞いて、不敵な笑みを浮かべた俺に気付いた文が、キランと目を光らせると、ペンとメモを片手に身を乗り出してきた。言うまでもなく、取材モードである。

「優斗さんは、冥界に興味がおありで?」

「その言い方は誤解を招きそうだが、まぁそうだな」

 あの世に興味があるって言ったら、自殺志願者みたいだな。また変な記事を書かれないように、後で釘を刺しておくか。『外来人は死にたがり』なんて記事を書かれたら、慧音さんあたりに説教されそうな気がする。

 

 冥界のことを聞き、この世界についてまた一つ詳しくなったあたりで、早苗があまりに不憫になったのか、アリスが彼女の救援に向かった。相変わらず優しいな、アリスは。

 俺はと言えば、手元にあった酒瓶を引き寄せ、それを飲みつつ傍観していた。酔っ払いはスルーするか、軽くあしらうに限る。大学の飲み会で、この手の輩を散々相手してきた経験談だ。なお、現在この神社内だけでも、空き瓶がいくつも転がっていた。ピン代わりに並べれば、ボーリング大会でも開催できそうな勢いである。幻想郷の住民は酒に強いようだ。

 ぐいっと杯を傾けていると、文が感心したように聞いてきた。

「優斗さんは、お酒強いんですね? 外来人にしては珍しいですよ」

「そうか? まぁ、大学生は三度の飯よりも飲み会が好きだからな。そういう文だって、まだまだ余裕みたいじゃん? さすが天狗、うわばみってわけか」

「いえいえ、それほどでも」

 謙遜しているわりにはドヤ顔を見せるという、矛盾に満ちた鴉天狗。自分に正直なタイプとみた。というか、天狗と飲み比べするとか、向こうじゃ絶対に出来ない体験だったな。

 ふふんとドヤ顔を浮かべる文だったが、不意に「まぁ……」とポリポリ頬を掻きながら、どこか言い難そうに前置きすると、

「私達天狗でも、鬼には敵いませんけどね」

「鬼? これまたポピュラーな存在が出てきたな」

「我々にとっては、今でも頭が上がらない相手ですよ。力の強さも、酒の強さも桁違いですからねぇ」

 別にこの場に鬼が居るわけでもないのに、文が緊張しているのが伝わってくる。例えるならば、苦手な先輩と鉢合わせしてしまった後輩君みたいな感じ。よほど格上の存在なのだろう。やっぱ鬼って強いんだな。

「優斗さんも、鬼に会っても、失礼なことはしない方が良いですよ」

「んなこたぁしないって。でもまぁ、一度くらいは鬼と杯を交わしてみたいものだな」

「またまたぁ。知りませんよ、そんなこと言って」

 俺の言葉に、へらへらと笑う文だったが、

 

「ほほう、嬉しいこと言ってくれるじゃないか~」

 

 その声を聞いた途端、笑顔のまま凍りついた。

 

 

つづく

 




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