東方人形誌   作:サイドカー

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スマホデビューの第一歩として、ツイッターを始めることにしました。
……これってどういうときに使うんだろう? 独り言?

さて、今回もアリス視点でのお話でございます。ごゆるりと読んでいただけると、嬉しいです。


第十七話 「彼を訪ねて三千里」

 一週間経っても、優斗は帰ってこなかった。

 今日なら帰ってくるかもしれない。明日こそ帰ってくるんじゃないか。半ば祈るような期待が、日を追うごとにどんどん薄れていく。お泊り会から三日くらい過ぎた頃に、霊夢や魔理沙から優斗を捜しに行くよう説得されたが、大丈夫だと言って断った。本当は会いたくて仕方ないのに、強がってしまった。

 もしかしたらもう帰ってこないのでは? 幻想郷が嫌になったのでは? 自分が知らないところで、『外』に戻ってしまったのでは? いくつもの不安が大きなうねりとなり、胸を締め付ける。

「私、嫌われちゃったのかな……」

 想像しただけで怖くて泣きそうになる。拭いきれない寂しさが、今にも崩れてしまいそうな心を飲み込むように押し寄せてくる。どれだけ沢山の人形に囲まれても、一人ぼっちの家の中。当たり前のように居た彼が、ここには居ない。いつものお気楽な笑顔で安心させてほしいのに、それすら叶わない。

 

 

「捜しに行くわよ」

 アリス宅を訪ねてくるなり、そう言ったのは霊夢だった。今までのような「捜しに行かないの?」という質問ではなく、キッパリと断言する。彼女の表情は「もう見ていられない」といわんばかりの気迫があり、有無を言わせぬオーラを全身に纏っていた。

「だ――」

「そんな泣きそうな顔で『大丈夫』って言っても、説得力無いぜ」

 アリスはいつも通りに気丈に振る舞おうとした。だが、魔理沙に先回りされた。魔理沙もまた霊夢と同様、アリスがやせ我慢している姿が見るに堪えず、乗り込んできたのだ。

「そんなこと……」

 そんなことない、と言いかけて言葉が詰まる。実のところ、アリス自身も悩んでいた。優斗に会いたいという思いと、無事に会えたとしても何を言えば良いのか分からないという不安の板挟みに。だから、本音は捜しに行きたくても踏み止まってしまい、なかなか行動に移せずにいた。そして、時間だけが経過し、余計動けなくなるという悪循環に陥っていたのだった。

 相反する二つの感情に押しつぶされ、苦しんでいるアリスを助けてくれたのは、いつも一緒にいてくれた二人の親友だった。アリスを安心させるように、霊夢がニコリと微笑みながら、彼女に手を差し伸べる。

「会いたいんでしょ? ほら、捜しに行くわよ。大丈夫よ、私達も一緒に行くから」

「霊夢……」

 アリスは自分の手を恐る恐る霊夢の手に伸ばし、そっと握った。彼女が抱いている不安を少しでも取り除けるように、霊夢は繋がった手を優しく握り返す。すぐ傍では、魔理沙が頼もしげな笑みを浮かべて、グッと親指を立てていた。

 大切な友達の温かさに、ちょっとだけアリスの心が軽くなる。アリスは今の自分に出来る精一杯の笑顔で、彼女達に答えた。

「ありがとう、二人とも」

 

 

 三人が最初に手掛かりを求めて訪れたのは、優斗のバイト先でもあるジャンクショップもとい骨董品屋、香霖堂だった。とりあえず近場から当たることにしたのである。

 ここの店主と最も馴染みのある魔理沙が、先導して扉を押し開く。ドアに括り付けられた鐘の軽快な音に反応した、森近霖之助が手元の帳簿から顔を上げた。

「何だ。君達か」

「何だとはなんだ。失礼だぜ」

 接客とは程遠い霖之助の態度に、魔理沙が憮然とする。それを脇に押しのけ、霊夢が彼に質問する。

「ねぇ、優斗見てない?」

「どうしたんだい、藪から棒に。今日は来てないよ。というか、彼のことならそこの彼女の方がよく知って――」

 霖之助が言い切る前に、魔理沙が「おい」と妙にドスの効いた声色で制する。その様子から察したのか、「ワケありか……」と一人納得したように頷く。

 ひとしきり頷いた後、手持ちの情報を提供するべく、霖之助が口を開く。

「彼なら一週間ほど前に来たよ。ガラクタを買いに」

「他には? 何か言ってなかった? 何でもいいの。手掛かりが欲しいのよ」

 わずかなヒントも逃さないとばかりに、アリスが質問を重ねる。すがるような目が、彼女の必死さを物語っていた。

 霖之助は腕を組んで「うぅむ」と唸りながら記憶を掘り起こす。しばらくして、何かを思い出し、再び口を開いた。

「先日、アルバイトに来てもらった時だけど。地底について知りたがっていたよ」

「地底……優斗は飛べないから、行けるはずないわ」

 アリスは嘆息して頭を振る。せっかくの情報だが、参考になるとは言い難い。ここでは、捜査がこれ以上の進捗することはなさそうだ。次の場所に移った方が賢明だろう。

 

 三人娘が店を出る直前に、他にも何か思い出したのか「ああ、そうだ」と霖之助が声をかけてきた。

「優斗君が君のことをどう思っているのか、聞いてみたんだが」

「ふぇえ!?」

「さらりと爆弾発言するわね」

「で、優斗は何て言ったんだ、こーりん!?」

 突然のことにアリスは動揺し、霊夢は呆れたように(だが目の輝きは興味を隠さず)、魔理沙に至っては興味津々に食いつくという、三者三様のリアクションが各々の個性をよく表している。

 魔理沙に急かされつつも、やや勿体付けてから霖之助は愉快気な笑みと共に答えた。

「彼は君のことを『大切な人』だと言っていたよ」

「~~~~~っ!!」

 それを聞いた途端、アリスは顔が熱くなるのを感じた。とっさに頬に両手を当てて隠そうとするが、隠し切れていないどころか、余計わかりやすくて逆効果だ。

『へぇ~~~』

 霊夢と魔理沙がある意味良い笑顔で、アリスに視線を向ける。

 アリスは恥ずかしさを誤魔化すように「も、もう! 次行くわよ!」と、これ以上追及される前に足早で一人先に店を出た。もっとも、赤く染まった頬が元に戻るには、もう少し時間がかかりそうだ。

 

 

 次の行き先は、捜査の本丸とも言えるであろう紅魔館に決めた。この間の優斗の発言からして、ここのメイドと何かあるのは確実だ。

 安定と信頼の居眠り門番を華麗にスルーして、さくさくと敷地内に入る。おそらく彼女には後ほど、ナイフか拳骨の制裁が加えられるであろう。今度は霊夢が先陣を切って、見上げるほど広大な洋館の扉を、ノックもせずにあたかも討ち入りのごとく堂々と開く。

「レミリアー! いるー!?」

 探しに行くのが面倒なのか、霊夢は大きな声で屋敷の主の名を呼ぶ。その声に答えるかのごとく、間もなくして二つの足音と共に、吸血鬼とメイドのコンビが現れた。吸血鬼の方、レミリア・スカーレットがアリス達を見てふっと笑みをこぼす。

「あら、別に珍しくも無い組み合わせね」

「余計なお世話よ」

 霊夢とレミリアの軽口をさらりと聞き流し、アリスはレミリアの隣にいるメイド、十六夜咲夜を見据える。声色が固くなってしまっているのが、自分でもわかる。

「ねぇ、咲夜。ここ最近優斗と何をしているの?」

「何のことでしょう?」

「とぼけないで。優斗が何を隠しているのか教えて」

「それは答えられません」

「――ッ!!」

 咲夜の澄ました態度に、苛立ちが募る。思わず声を荒げそうになるのを、ギリギリのところでぐっとこらえた。だが、怒りを抑えた代わりに、言いようのない悲しさが心を侵食する。

 二人だけのヒミツを作っているという事実。やっぱり、優斗は咲夜のことが……そんな考えが頭をよぎり、アリスの目にじわりと涙が浮かぶ。彼女の辛そうな表情を見兼ねたのか、レミリアが咲夜に命令を下した。

「咲夜、教えてやりなさい」

「お嬢様。ですが」

「当人抜きで修羅場やられても退屈なのよ」

「……わかりました」

 咲夜は主に一礼すると、アリスに向き直った。そして「アリス、聞いてちょうだい」と彼女に話を聞くよう促した。少女は涙目ながらも「ええ……」と耳を傾ける。

「優斗様は、美味しく紅茶を淹れる方法を私から学ばれています。優斗様としてはサプライズのつもりだったようですが」

「紅茶の淹れ方?」

 予想外の返答に、アリスは首を傾げる。何でそんなことを? 不安よりも疑問が上回り、理解が追い付かない。困惑気味のアリスに、咲夜はさらに付け加えた。

「あなたのためよ、アリス」

「私のため……?」

「この前、夕食をご一緒したでしょう? その後にお願いされたのだけど。理由が『アリスを喜ばせたいんですよ。何ていうか、いつものお礼……みたいな? まぁ、後付けの理由なんですけどね。本当は、俺がアリスの笑顔が見たいってだけです、ハイ』だそうですわ」

 そんな細かいセリフまでよく覚えているなと感心してしまうほどに、咲夜はつらつらと優斗が言っていたことを伝える。咲夜が一通り言い終えたタイミングで、レミリアが腕組みをしつつ、ずいっと一歩前に身を乗り出した。

「つまり、アリスが心配しているようなことは無いってことよ。何があったかは知らないけど」

「そう、なんだ……優斗が、私のために……」

 アリスは咲夜の言葉を、頭の中でゆっくりと反芻する。優斗が何をしているのか分かって、わだかまりが解けたことよりも、彼が自分を想って動いていたことに、先程とはまったく違う温かい感情が、胸の中を満たしていく。

 アリスの顔が再びカァァッと朱に染まる。いや、さっきよりも鮮明に赤くなっている。このままだと湯気でも出そうな勢いだ。それに加えて、彼女の心の内を代弁するかのように、心臓の鼓動が高鳴る。ドキドキが大きすぎて、まるで全身に伝わっていくみたいだ。嬉しくて、恥ずかしくて、どうにかなってしまいそう。霊夢が「よかったわね、アリス」と言ってくれたが、その言葉が耳に届いているかも疑わしい。

 ぽーっとしているアリスを我に返すため、咲夜が「こほん」と咳払いをして注意を促す。その甲斐あってか、アリスは「はっ!?」と正気に戻った。せわしなくは髪を整えたりして落ち着こうとしているが、傍からは照れ隠しにしか見えない。現に魔理沙がニヤニヤと見ているが、下手にツッコんだら墓穴を掘りそうだ。

 テンパっている人形遣いとは対照的に、瀟洒なメイド長はいつもと変わらぬクールさで話を再開する。

「それともう一つお願いされたことがあります。内容は、地底までの道のりを教えてほしいというものでした。口頭では説明出来ませんので、地図を描いてそれを渡しましたが」

「ここでも地底のことを?」

 どうやらあの気分屋は、地底に行く気満々らしい。一体どういう手段で赴くつもりなのか見当もつかないが、次の行き先は妖怪の山の一角にある、あの巨大な穴で決まりか。そこに彼が居るか、居ないとしても何かしらの手掛かりはあるはず。

「もうすぐ会えそうだな、アリス」

「ええ、そうね」

 魔理沙の一言に、アリスは頷きながら答える。その顔は、一週間分の不安などすっかりなくなっていて、いつもの調子を取り戻していた。再会したらきちんと謝って、だけど心配させた罰としてデコピンの一発くらいはお見舞いしてやろうかな、なんて悪戯心もちょっとだけ芽生える。このあとの期待に胸をふくらませながら、アリスは紅魔館を後にした。

 

 

 そして場所は、捜索劇のゴールとなるであろう、妖怪の山に移る。アリス達は地底入口の場所を知っているため、迷うことなく一直線に目的地に向かう。山の上を飛んでいくと、やがて目的地が見えてきた。ひとまず高度を下げ、着地する。彼女達の目の前には、例の大穴が広がっている。優斗は能力も無いただの人間なのだから、空を飛べない。よって、ここから先は行けないはずなのだが、一体どうするつもりだったのだろうか?

「とりあえず、手分けしてこの辺捜してみようぜ」

 魔理沙の提案により、三人はそれぞれ周囲を探ることにした。

 木々の間をキョロキョロと見渡しながら、アリスは足を進める。後ろの方では、魔理沙が「優斗ー、いるかー?」と問いながら茂みをガサガサと漁る音が聞こえてくる。残念ながら彼女の問いに答える声は無かった。どうやら本人は此処には居ないらしい。最初から来ていないという可能性もあるのだが、アリスには「優斗は此処に来ている」という予感があった。

「どう、アリス? 何か見つかった?」

「こっちは全然だぜ……」

 しばらくして、霊夢と魔理沙がアリスの元にやってきた。二人ともめぼしい手掛かりは見つからなかったようだ。視線を巡らしながら、アリスも成果なしを伝える。

「ううん、こっち……も……」

 突如、言葉が詰まった。彼女自身の動きが、まるで彫刻と化したかのように、ピタリと停止した。アリスはある一点を凝視している。彼女の異変に気付いた霊夢が「アリス?」と疑問符を浮かべながら、彼女の視線の先を目で追う。魔理沙も首を傾げながら、霊夢にならう。

 アリスが見ていたのは、ここから少しだけ離れた場所にある一つの茂み。いや、正確に言えばそこに引っかかっていた物だった。

 まるで吸い寄せられるかのごとく、アリスはフラフラとおぼつかない足取りで「それ」に近付く。親友二人も彼女の変貌に困惑しつつも、慌てて後を追う。アリスは件の茂みの目前まで来ると、引っかかっていた「それ」を手に取った。そして、気付く。

『!!』

 アリスに追いついた二人が、彼女の手元にあるものを見て、思わず息をのむ気配が伝わってくる。が、アリスはそれを気に掛ける余裕すら失っていた。

「ぁ……」

 喉の奥から絞り出したような、掠れた声が漏れる。アリスが持っている「それ」の素材は布。何日も野ざらしにされていたせいか、ところどころ土埃で汚れている。だが、もともとの色がグレーであることは、彼女自身よく知っている。なぜなら、毎日のように見てきたのだから。そう、「それ」は……

 

 優斗が愛用しているジャケットで間違いなかった。

 アリスの手が震える。顔からも血の気が引き、膝の力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。それだけでは済まされないのか、彼女に追い討ちがかけられる。

 

 アリスはさらに気付いてしまった。

「ぃ……ぃゃ……」

 

 彼の上着がまるで鋭い刃物のような何かで切り裂かれ、切り口を中心に、乾燥した赤黒いシミが染まり広がっているのを。その液体が何であるか理解した瞬間、

 

「いやぁぁあああああああああああ!!」

 

 まるでガラスが砕けるような悲鳴が、妖怪の山に響き渡った。

 

 

つづく

 




次回 第十八話「お別れは突然に」

とか予告っぽいことをしてみたり
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