投稿するのも随分と久しぶりな気がするせいか、文章力が大分低下している気もまた……
何はともあれ、予告通りのタイトル。ごゆるりと読んでいただけると、嬉しいです。
「いやぁああ!! 優斗、優斗ぉ!!」
少女の悲痛な声が山の中に木霊する。アリスはいつもの冷静さを完全に失い、ただがむしゃらに周囲に呼びかける。
「ねぇ、いるんでしょ!? 出てきてよ優斗!!」
「お、おいアリス落ち着けって」
「離して!」
魔理沙が彼女の腕を掴み、何とか宥めようとする。しかし、アリスは魔理沙の手を振りほどこうと身をよじらせた。その様相はもはや錯乱しているといっても差し支えない。
拒絶するアリスを、魔理沙はいつになく真剣な声で一喝した。
「落ち着けッ!!」
「!?」
滅多に聞くことのない魔理沙の怒声に、怯えたようにアリスは肩をビクッとすくめる。そして全身の力が抜け落ちたように、顔を伏せて黙り込んでしまった。今の彼女は、淡く消えてしまいそうな儚さを漂わせていた。
魔理沙は大人しくなったアリスの腕を掴んだまま、霊夢に声をかけた。
「これ以上ここに居ない方が良い。家まで送っていこうぜ」
「そうね」
魔理沙の提案に、霊夢も短く同意する。二人とも落ち着いているように見えるが、実際は彼女達も内心では動揺していた。それでも、アリスの取り乱す姿を見て、ギリギリのところで冷静を保つことが出来た。このままアリスを一人にしたら、孤独に耐えられず彼女の心が壊れてしまうのではないかという想像が、二人の心配を煽る。とにかく彼女と一緒にいるべきだと、霊夢と魔理沙は自分に言い聞かせた。
もはや一人で空を飛ぶ気力さえも失ってしまった人形遣いを、魔理沙は自分の箒の後ろに乗せる。そして、彼女を自宅まで届けるため、親友二人は魔法の森へ向けて空に舞い上がった。
アリスの家に着くまでの道のり、誰ひとりとして言葉を発することは無かった。
アリスの自宅へは、さほど時間もかからずに到着した。
玄関の前に着地し、魔理沙は後ろに座っている少女に声をかける。
「ほら、アリス。着いたぜ」
「うん……」
魔理沙に促され、アリスは静かに返事をして箒からそっと降りた。扉の施錠を外し、家の中へ入る。霊夢と魔理沙も後に続き、三人はリビングまで足を進めた。アリスがソファーに座ってから、二人も黙って腰を下ろす。
部屋の中を重苦しい雰囲気が支配する。まるで鉛が溶け込んでいるかのような、窒息しそうな空気が場を埋め尽くす。誰もが最初の一言をなかなか言い出せず、気まずい沈黙が続く。壁際に飾られている時計の、秒針が規則正しく動く音が、酷く冷め切ったものに感じられた。現状を何とか打ち破ろうと、魔理沙がやっとの思いで「あのさ……」と口を開いた。
「きっと大丈夫だぜ。優斗は無事だって」
アリスを励まそうと、前向きな言葉をかける。だが、アリスはキッと魔理沙を睨むと声を荒げた。
「いい加減なこと言わないで! 何の根拠もないのに!」
「アリス……」
「あ……ごめんなさい」
魔理沙の悲しそうな声に、アリスは自分の失言に気付き、申し訳なさそうに目を伏せた。アリスの手には依然として彼の上着が握られている。ふいに、その上にぽつぽつと滴が落ちた。それは、アリスの目から零れ落ちた涙。青い瞳から次々と溢れ出し、優斗のジャケットを濡らしていく。
「ぅ……ぐすっ」
感情が抑えられなくなり、嗚咽が漏れる。彼女の心が、繊細なガラス細工のように脆くなっているのが、ひしひしと伝わってきた。
確かに、魔理沙の言う通り優斗が死んだと決まったわけではない。しかし、服に付いている血を見れば、彼が負傷したことは間違いないだろう。それに、幻想郷には人間を食料とする妖怪もいる。もし彼らにつかまってしまったのなら、言葉通り何も残らない。
やっと見つけた優斗に関する手掛かりが、悪い予感ばかり告げる。どうしてこうなってしまったんだろう。どうしてあの時、出ていけなんて言ってしまったんだろう。どうして、もっと素直に……
「アリス」
「れい、む……うぅっ、ふぇえええん」
ぽろぽろと涙を零し、子どものように泣きじゃくるアリスを、霊夢は優しく抱きしめた。アリスは霊夢にしがみつくように、身を寄せる。
見れば、魔理沙も帽子のつばを掴んで表情を隠している。彼女ももらい泣きしそうなのを、ぐっと堪えているのだろうか。部屋に並べられている、上海をはじめ他の人形達も、どこか悲しんでいるような気がした。
安易な慰めの言葉をかけることも出来ず、霊夢と魔理沙はただ黙ってアリスの傍に寄り添う。少しでも彼女の辛さを分かち合えないかと、大切な親友を想う。
そんな折、突如として玄関の扉をコンコンとノックする音がした。
最初に反応した霊夢が、音がした方に訝しげな視線を向ける。
「誰よ。こんな時に」
空気の読めない来客に、不満を露わにする。その傍らで、魔理沙がはっとした様子で顔を上げた。
「もしかして、優斗が帰ってきたんじゃないか!?」
「優斗ッ!」
「あ、ちょっとアリス!?」
魔理沙が言うや否や、アリスは反射的に椅子から立ち上がり、わき目も振らずに飛び出す勢いで、玄関に向けて走り出した。霊夢達も急いで後を追う。そして、壊れるのではないかと思うくらい力一杯に、アリスはドアをバンッ! と開いた。
「優斗!」
「わわ!? こ、こんにちは。アリスさん」
「あ……」
ドアの向こうにいたのは、残念ながら彼ではなかった。
そこに立っていたのは一人の少女。短く切り揃えられたまっすぐな髪は、蚕糸のように白い。服装は緑色をメインとした、スカート状になっている洋服で、その腰回りには二本の刀が括り付けられていた。そして何より際立っているのが、彼女にまとわりつくように浮遊している雲みたいな白い物体。実はその正体は幽霊だったりする。厳密には半霊というのだが。
「妖夢……」
彼女の名前は魂魄妖夢。冥界にある白玉楼という屋敷で働いている、半人半霊の庭師である。性格は非常に真面目で、時に主からいじられたりすることもしばしば。
妖夢はアリスの様子に面喰いつつも、礼儀正しく頭を下げた。
「いきなり訪問してしまってすみません。実は、アリスさんにお話ししたいことがありまして」
「あー、妖夢。悪いんだが今は取り込み中なんだ。今度にしてくれ」
アリスに代わって魔理沙が答える。妖夢がアリス宅を訪ねてくるのは珍しく、きっと何か大事な話なのだろう。しかし、今は事態が事態だ。せっかく来た彼女には申し訳ないが、今日のところはお引き取り願いたい。
「ですが」
「ちょっと今はダメなのよ。知り合いが行方不明で」
なお引き下がろうとする妖夢を、今度は霊夢が止める。あえて行方不明という言い方にしたのは、アリスに対する彼女なりの気遣いなのか。とにかく今はアリスに余計な負担はかけたくないというのが、霊夢達の心情だった。
ところが、霊夢の言ったことに心当たりがあるのか、妖夢は何やら考える仕草をする。やがて「もしかして」と本当に何気ない感じで口を開いた。
「知り合いというのは、天駆さんのことですか?」
『え!?』
妖夢の一言が意外過ぎて、皆が息をのんだ。直後、真っ先に飛びついたのは、やはりアリスだった。妖夢の肩を掴み、ぶんぶんと揺すりながら必死に問う。
「優斗を知っているの!? どこにいるの!?」
「お、落ち着いてください。アリスさん」
「お願い……教えて……」
声が弱々しくなると同時に、妖夢の肩に乗せていた手からも力が抜け、アリスはその場に膝をついてしまった。肩を震わせ涙を浮かべるアリスの手を、傍に寄った霊夢がぎゅっと握る。
アリス達の様子に困惑しつつも、妖夢は「えっとですね」と話を再開する。
「お話というのが、まさにそれなんです。天駆さんは現在、冥界に居ます」
「冥界って……まさか、死んだのか!?」
「!!」
魔理沙が思わず口走ってしまったことに、アリスの肩がビクッと跳ねる。すがるように、霊夢の手をぎゅっと握る。霊夢は繋がった手をそっと握り返すと、ジロリと魔理沙に非難の視線を向けた。魔理沙もすぐに失言に気付き「……悪い」と小さく謝る。
一人だけ絶賛置いてきぼり中の妖夢だったが、何となく状況を把握することが出来た。妖夢は彼女達とりわけアリスを安心させるように、優しい笑みで答えた。
「大丈夫ですよ。彼は生きています」
「ほんと……?」
「はい、本当です」
アリスが潤んだ瞳で妖夢を見上げる。その可憐な仕草にちょっとだけドキッとしたものの、妖夢は明鏡止水の精神で心を落ち着かせる。いや、胸に手を当て深呼吸を繰り返すあたり、結構な葛藤があったようだ。
まだ現状に理解が追い付いていないアリスに代わって、霊夢がごもっともな疑問を妖夢に投げかける。
「それで、何で優斗が冥界に居るのよ?」
「そうだぜ。優斗は飛べないんだから、おかしいだろ」
魔理沙も霊夢に賛同する。ちなみに冥界へは、上空にある結界が希薄になっている所から入ることが出来る。言い方を変えれば、生きている人間が冥界に行くには、そこまで飛んでいく必要があるということ。あの男は、一体どういう経緯でそこまで辿り着いたのだろうか。
巫女と魔法使いの質問に、半人半霊の庭師は「ええと」となぜか言い難そうに視線を逸らす。
「それがですね、詳しくは聞いていないので、私もよくわからないのですが」
「何よ。勿体ぶってないで早く教えなさいよ」
「そうだそうだ。隠し事は良くないぜ」
二人から急かされ、妖夢は観念したように溜息を一つ吐いた。そして、「わかりました」と頷き、彼が言っていたことを伝える。
「天駆さんの話では、時代の波だとかビックウェーブだとかに乗り切れず、吹き飛ばされてきたとのことです」
『……はぁ?』
想像の斜め上いく内容に、霊夢と魔理沙、そしてアリスの疑問の声が重なった。
そして時は遡り、一週間前の妖怪の山で起きた、あの出来事まで戻る。
つづく
というわけで、「(シリアスとの)お別れは突然に」でした。
ここからは主人公のステージだ!!