東方人形誌   作:サイドカー

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夏だ! お盆だ! 最新話投稿だぁ!

というわけで最新話でございます。
暑くて夏バテしそうな気温が続きますが、今回もごゆるりと読んでいただけると嬉しいです。


第二十話 「三角関係の予感? ~可愛いあの娘は妬ましい~」

「はぁ~……妬ましいのが来たわね」

「あっるぇー、軽く流されたぞ?」

 紳士的なファーストコンタクトでお近づきなろうというナイスな作戦だったはずなのだが、目の前の美少女は、いかにも面倒臭い人物を見るような目で俺のことを見ると、深々と溜息を吐いた。「妬ましい」というのがこのお嬢さんの口癖なのだろうか。

 こちらとしても、いつまでもジョジョ系の立ちポーズのままでいるわけにもいかない。とりあえず、「ごほん」と咳払いをした後、何事も無かったかのように極めてナチュラルに橋に足をかけ、俺は彼女の前に立った。おお、近くで見るとなおさら可愛いな。ぜひともお近づきになりたい。

「こんな所に一人でいるのは、ひょっとして誰かと待ち合わせか?」

 これくらい可愛い娘なら、彼氏がいたって何ら可笑しくないだろう。恋愛マンガ定番のデート待ち合わせの最中だったかもしれない。「ごめん、待った?」「ううん、今来たところ」みたいな。むむむ、羨ましい。

 だが、彼女は俺の質問に対し、むっとした表情を浮かべつつ答えた。

「こんな所とは失礼ね。ここは私の仕事場なんだけど」

「おっと、そいつぁ失敬した。そういや名乗ってもいなかったな。俺は天駆優斗、ワケあって今は放浪中の身さ。んでコイツはタヌ吉」

 機嫌を損ねないよう、先に謝ってから自分の名を告げ、あとタヌ吉の紹介をした。タヌ吉は「ヘェ、ドウモ」と軽く前足を上げる。その動作がどことなく、犬猫が覚えたての芸を披露するみたいだなと、しょうもないことを考えてしまう。

 俺達の自己紹介が済んだところで、彼女も名乗った。

「水橋パルスィ。橋姫よ」

 彼女は短く告げると、橋の手すりまで移動し、それを背もたれにするように後ろに寄りかかった。澄ました系の、ちょいクールな感じを受けるが、それもまた彼女の性格を自然体で表していた。例えるとすれば、アリスが柔らかな日向なら、彼女はさながら凛々しい月光か。あ、でもクールビューティーっていったら咲夜さんだな。だとしたら咲夜さんは光り輝くダイヤモンドダストってところかしら。なかなか上手い表現が出来たと自負している。俺ってば何気に詩人?

 一人で勝手に自惚れていると、彼女――パルスィは目を伏せ再び溜息を吐いた。溜息ばっかりしてたら幸せが逃げるんだぞ? と内心ツッコミをいれる。そして、緑の瞳を片方だけ開き、橋の向こう側をすっと指差した。

「地底に来たってことは旧都に行くんでしょ? なら方向はあっちよ」

「橋の通行料とかは取らないのか?」

「そんなの無いわよ。行くならさっさと行きなさい」

「OK、また会おうぜ」

「……変なヤツ」

 一人で過ごしたいのか、彼女は先を急かすように俺に道を教える。あまり話し相手になってもらえなかったのは残念だが、彼女がここを仕事場としているというなら、またここに来れば会えるだろう。ということで、俺はパルスィに前向きな別れの挨拶を交わす。彼女の返事は答えになっていなかったが、拒否はされてないし、肯定的なものと解釈した。

 足元に居るタヌ吉に「行こうぜ」と一声かけて、俺は彼女の示した先を目指して橋を進むことにした。そして、パルスィの前を横切り背を向けた時、彼女は「なっ!?」と何やら驚いたような声を上げた。

 

「ちょっと待ちなさい」

「おう、何かね?」

「『何かね?』じゃないわよ。あなた怪我しているじゃない!」

 焦っているのか怒っているのかよく分からない口調で、パルスィは俺の背中を凝視する。言うまでも無く、変身時のタヌ吉と拳で語り合っていた時に受けた傷だ。

 男のプライドにかけて、美少女の手前で情けない姿を晒すわけにはいかぬ。俺は平然とした態度を装って彼女に答える。

「うむ、実は超痛い。でさ、この辺に医者か薬局とかない? できれば美人女医さんの所が良いんだけど」

「ああもう妬ましいわね! ちょっとこっち来なさい!」

「うおっ!?」

 パルスィがさっきよりも増して語気を強めたかと思うと、いきなり俺の手首をがしっと掴み、そのままズンズンと歩き出した。突然の出来事にワタクシ、動揺しております。ただ一つだけ確かなことは、俺の手を掴んでいるそのソフトな感触が、まごうことなき女の子の手だということか。何か知らんが、美味しい状況になっていることだけは確かだ。ぃやっほーう、グレィトだぜ.!

「うるさいわよ」

「うぇ!? 俺喋ってなくない!?」

 まさか心の声にツッコミを入れられるなんて思わなかった。

 あれよあれよという間に、俺はパルスィに連れられ橋を後にしたのだった。

 

 彼女に腕を掴まれ移動すること数刻。やってきたのは和風な一軒家だった。日本昔話にでも登場しそうな茅葺屋根の古風な家でござった。

 アホ面で呆けている俺をグイッと引っ張り、パルスィは家の中に入る。そこでようやく腕を放され(ちょっともったいない気もしたが)、彼女にならい俺も靴を脱いで上がった。居間と思わしき畳部屋に通され、パルスィから「座ってなさい」と言われたので素直に従う。ついてきたタヌ吉も困惑しつつも、俺の近くで大人しくしていた。

「ここは?」

「私の家」

「マジで?」

「マジよ」

 俺の問いに答えつつ、パルスィは壁際にある戸棚の上に置いてあった、両手で持てるサイズの木箱を手に取る。それをちゃぶ台の上に置いてから、彼女は俺の隣に腰を下ろした。パカッと箱の蓋を開けると、パルスィは中に入っていたものを次々と卓上に並べていった。出てきたのは、包帯やらガーゼやら何かのビン等々。どうやら救急箱のようだ。ちなみにビンのラベルには「八意製薬」とか書いてあった。製作元の名前なのだろうか?

「ほら、手当てしてあげるから上脱ぎなさい」

「お? お、おう」

 ついどもってしまったせいで、オットセイの鳴き声みたいなリアクションをしてしまった。だって仕方ないだろ? いきなり美少女の自宅に連れてこられたかと思ったら、わざわざ手当てしてくれるとか急展開すぎる。というか、出会ったばかりの男にここまで世話を焼いてくれるなんて、この娘めっちゃ親切だな。やべ、鼻の下伸びそう。

「早くしなさい」

「しゅんましぇん」

 くだらないことを考えてたら怒られてしまった。とりあえず指示されたとおりにシャツを脱ごうとしたが、先のダメージの影響で肩が思うように上がらず、予想外に手こずる。そのモタモタした動きからパルスィは俺が肩を痛めているのにも気付いたようだ。

「あなた、そこも怪我しているの?」

「うんにゃ、ちょっとぶつけたくらいで怪我ってほどでもないんだが。まぁ、明日あたりには治ってるんじゃね?」

「何なのよ、その能天気な答えは。妬ましいわね。というか、何でそんなことになったわけ?」

「それはだな。さっきまでコイツと河原で男の友情を深めていたんよ」

「コイツって……この狸と?」

 パルスィから視線を向けられ、タヌ吉は「ヘヘヘ……」と愛想笑いを浮かべながら前足で頭を掻いた。さっきまでのチンピラっぷりとは正反対の恐縮具合である。

 俺と話しつつも、パルスィは慣れた手つきで、まず傷口を消毒した後、中身は傷薬と思われるビンに入っていた液体をガーゼに含ませ、俺の背中に当てる。その上に包帯をぐるぐると巻いていく。ある程度巻いたところで、はさみで包帯を切り、解けないようにきゅっと固く結んだ。

「はい、おしまい」

「何だか悪いな。初対面だってのに、ここまでしてもらうなんてさ」

「別に。次はあなたよ」

「ヘ? アッシデヤンスカ?」

「他に誰が居るのよ。背中から血が出てるの気付いてないの? いいから、こっち来なさいっての」

 タヌ吉がぐずぐずしている間に、パルスィはタヌ吉をひょいっと持ち上げると、自分の膝の上に載せた。そして先程俺にしてくれたように、テキパキと治療をする。ってあの野郎、何気にパルスィに膝枕されてんじゃねえか。何それズルい。これが小動物の特権だというのか。俺と代われ。

 俺が妬みと羨望の眼差しを送っているのも気に留めず、彼女は並べていた救急セットを箱にしまい、それを元々置いてあった場所に戻した。手際の良さといい、タヌ吉の怪我に気付く観察力といい、かなり女子力高いんじゃないだろうか彼女。

 とりあえず一段落したところで、俺は改めて彼女に礼を言うことにした。

「サンキューな。おかげで大分楽になった」

「アリガトウゴザイヤス」

「別にいいってば。それで、あなた達これからどうする気?」

「ふむ、旧都ってところに行ってみようと思う。色々と面白いことが起こりそうな気がするんでな」

「アッシハ旦那ニ付イテイキヤスゼ」

 俺達の答えを聞くと、パルスィは「はぁ~」と本日何度目かになるかもわからぬ溜息を漏らす。

「仕方ないから案内してあげるわ」

「マジで? いいの?」

「仕方なくよ――」

 彼女が言い切るか否かのタイミングで、

 

「おーい、パルスィいるかー?」

 

 突然の来客があった。

 玄関の引き戸をガラッと開けながら現れたのは、長身の女性だった。腰まで届く長い金髪と額に生えた一本の角。八坂様のような、凛々しい雰囲気を漂わせている。服装は体操服っぽい半袖に、縦縞模様の袴かロングスカートみたいなやつ。角と、隣のタヌ吉が腰を抜かすほどの圧倒的なパワーオーラ……鬼だな。どことなく萃香に似たものを感じ取り、俺はそう結論付けた。

 女性は、あたかも自分の家のごとく居間まで上がってから、ようやく自分以外に来客がいたことに気付いた。

「お、パルスィが男連れ込んでる」

「うるさい勇儀。そんなんじゃないわよ」

「はっはっは。まぁ何だっていいさ」

 パルスィの妬みの視線もカラカラと豪快に笑い飛ばす女性。そのまま俺の対面にどかっと座り、「それで」と話しかけてきた。

「見たところ、霊夢や魔理沙と違って普通の人間のようだけど、どういう経緯で地底に来たんだい? いや、その前に自己紹介しとこうか。アタシは星熊勇儀、鬼だよ」

「天駆優斗っす。ところで、一つ良いっすか?」

「ん? 何だい?」

「姐さんって呼んでも良いっすか?」

「ア、アッシモソウ呼バセテクダセェ!」

「くっ……はははっ! いいよ、いいよ。好きに呼びな」

「何なのよ、このやり取りは……」

 俺の突然かつ意味不明なお願いも笑って了解してくださった勇儀――姐さん。その隣ではパルスィが額に手を当てて、やれやれと頭を振っていた。

 そこからは、俺がパルスィの家に来るまでの経緯を、順を追って姐さんに説明していった。パルスィにもここまでのことはまだ何も話していなかったので、一緒に聞いてもらうことにする。

 今朝、アリスを怒らせてしまったところではパルスィが相当の眼力で俺を睨みつけ、タヌ吉との死闘(ちょっとだけ盛った)のところでは姐さんが身を乗り出して聞き入る。最後に俺が敵だったコイツを助けたあたりでは、「かぁーっ! 熱いねェ!!」と拳を振りかざして感嘆した姐さん。彼女の手には、いつの間にかでっかい盃が乗っていた。いや本当に、いつの間に出したんだろうか。

「アンタ、面白い人間だね」

「いやはや、どもどもっす」

「気に入ったよ。これから皆して旧都に行くんだろ? ならアタシも行くよ。ついでに飲みに行こうじゃないか」

「ついでというか、最初からそれが目的でしょうが」

「はっはっは! まぁいいじゃないか!」

「うっす! お供しますぜ、姐さん!」

「アッシモデサァ!」

「よーし、付いてきなアンタ達!!」

『サー! イエッサー!!』

「………もう好きにすると良いわ」

 俺達のテンションに置いて行かれつつも、パルスィもちゃんと来てくれるようだ。何だかんだ言って世話焼きタイプだな。俺としても、もっとパルスィと話したかったし、嬉しいことだ。

 俺の視線に気付いたのか、彼女は疑わしげな表情でその緑の瞳をこちらに向けた。

「何よ?」

「いや、パルスィの優しさに癒されていたところだ」

「バカ言ってんじゃないわよ。……ほら、さっさと行くわよ」

「りょーかい」

 視線を逸らしてそそくさと先に行ってしまうパルスィを追って、俺も彼女の家を後にした。ちなみに姐さんとタヌ吉はテンションが上がりまくったのか、俺達を置いて先に飛び出していった。遠足とか修学旅行だったら減点ものの別行動っぷりだな、オイ。

 

 

つづく

 




次話投稿は早めにします! と宣言してしまうサイドカーです。
あ、もちろん次回も地底編ですよ。
アリス登場はもう少しだけお待ちくださいませ……
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