東方人形誌   作:サイドカー

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いやはや、ネットが10日くらい使えないってだけで結構しんどいものでした……

なんと、今回は過去最多の字数です。分割しようと思ったのですが、ちょうどいい区切りが見つかりませんでした。読み疲れるかもしれませんが、ご了承くださいまし。
「長くても一向に構わん!」と今回も読んでいただけると、嬉しいです。


第二十二話 「そして冥界へ」

「ほら、もう朝よ。起きなさい」

「うーぃ……」

 まどろむ意識の中、布団越しに体を揺すられる。まだ頭がぼやけるものの、俺はゆっくりと目を開けた。視界がはっきりしてくると、俺を起こしてくれた彼女の、エメラルドグリーンの瞳と目が合った。

「よー、おはよっす。パルスィ」

「ええ、おはよう」

 

 さてさて、俺が地底にやってきて、早くも三日が過ぎた。

 現在俺が居るのは、この間飲み会をした宿ではなく、なんとパルスィ宅だったりする。何でそうなったのか、話は宴の翌日、地底組の皆さんにあちこち案内してもらったところから始まる。その晩、俺が泊まる宿を探しに行こうとしたら、「どこ行く気よ?」とパルスィが俺を引き留め、そのまま家まで連れてきた次第だ。彼女曰く、俺のことが妬ましくて放っておけなかったらしい。

 そんなわけで、橋姫のご厚意により世話になっている状況なのである。ありがたや、ありがたや。

「なに朝っぱらから黄昏ているのよ」

「うむ、これまでの道のりを思い返していたのさ」

「格好つけてるんじゃないわよ、妬ましい。どうでもいいけど、冷める前に朝ご飯食べなさいよね」

「お、そうだった。それじゃ、いっただきまーす!」

「はいはい、召し上がれ」

 というわけで、俺はちゃぶ台の上に乗っかっている、見るからに美味そうな朝食に箸を伸ばす。洋風なアリスとは対称的に、パルスィの献立は和テイストだった。白米に味噌汁、焼き魚に肉じゃがという、実にヘルシーなメニューである。しかも、もちろん全てパルスィの手料理ですよ、奥さん。

 ほっかほかのご飯を勢いよくかっ込み、味噌汁をすする。これぞ、ザ・日本の朝って感じですな。その後、味付けが濃過ぎず薄過ぎずの、絶妙なバランスの肉じゃがを頬張る。それを飲み込んだところで、焼き魚の身をほぐしながら、俺はパルスィに他愛のない話を振った。

「そういや、タヌ吉はどうなったんだろうな。姐さんにえらく気に入られたせいで、飲み会終わったらそのまま拉致されていったが」

「さあ。どうせ、その辺で飲み回るのに付き添わされてるんじゃないの?」

「そりぁ色々と大変だな。まぁ、おかげでこうしてパルスィといられるわけだし、俺的には願ったりな展開だけど」

「下らないこと言うんじゃないわよ、妬ましいわね」

「へいへい」

 パルスィがジロリと睨みつけてきたので、俺は食べることに専念する。一つ一つが「びゃぁああ!!」とか言っちゃいそうなくらいにデリシャスでござる。やはり、料理が上手な女の子ってイイよね。ただ、贅沢なことだとわかってはいるのだが、アリスの手料理もちょっとだけ恋しくなってきた。さらに言ってしまえば、アリスからも朝起こされてみたい。きっと天使のように優しく起こしてくれるんだろうなぁ。多分それだけでもう朝からテンションMAXになること必至だ。やべ、想像しただけで鼻の下が伸びる。

 

 

 ブレックファストを食べ終えてから、俺とパルスィは彼女が普段過ごしている場所であり、俺達が出会った場所でもある、いつぞやの橋に来ていた。といっても、特に何かするというワケでもなく、結果的にパルスィと話をするのがメインとなる。

 俺は、橋の手すりの上にヒョイっと跨り、パルスィに目線を向ける。彼女は最初に会った時のように、手すりに寄りかかっていた。「ところで」と前置きしつつ、話しかける。

「昨日、異変の時にドデカい間欠泉が出たとかって場所は案内してもらったが、他にも何か地底の名所ってないのか? 主に温泉とか」

「温泉はあるわよ。ただし、入るなら背中の傷が完全に治ってからにしなさい。あとは、他に名所と言えば、地霊殿かしらね」

「地霊殿?」

「地底で一番大きな館よ。古明地って姉妹と、やたら多くの動物がいるわ。もし行くならバカなことは考えないことね」

「どういうことだ? 好戦的な相手なのか? 戦ったらオラ死んじまうだ」

「そうじゃないわよ。姉の方が――」

 

「さとりんは心が読めるからね。変なこと考えたらバレるよ」

「二人とも、こんにちは……」

 

「おいっす」

 俺達の会話に割り込むように、第三者(複数形)の声がした。聞き覚えのある女子のものだったので、俺は特に驚くことも無く、返事をしながら振り返る。そこには案の定、土蜘蛛とその相方の姿があった。彼女達が橋の上まで来たところで、俺は改めて質問する。

「さとりんって誰だ?」

 俺の疑問にパルスィが答えた。「姉の方ね」と付け加えてから説明する。

「地霊殿の主よ。というか『さとりん』はヤマメが勝手につけたあだ名で、本名は古明地さとり。相手の心を読むことが出来る能力の持ち主よ」

「そんなエスパーみたいな能力がいたとは驚いたわい。確かに迂闊なこと考えたら墓穴だわな。じゃあ妹の方も読心系の能力者か?」

 俺の次の問いに、今度はヤマちゃんが答えた。「ううん」と首を横に振りつつ、

「妹の方は姉と正反対かな。『無意識を操る程度の能力』があの子の能力だね。ちなみに名前は古明地こいし。さとりんのこと大好きな可愛い妹だよ」

「ほほう、それはキマシタワーの予感がするぜ」

「き、キマシ……?」

 俺がうんうんと肯いている傍らで、キスメが困惑したように、頭上に「?」マークを浮かべていた。いや、あんまり深く考えないでほしい所なのだが。

 古明地姉妹について教えてもらったところで、パルスィが「で?」と俺に尋ねてきた。

「これから地霊殿に行くわけ?」

「んー、いや。気にはなるが次回のお楽しみってことにしておく。実はそろそろ帰ろうかと思ってさ」

 俺が帰宅の意思を伝えると、ヤマちゃんが「えー、もう帰っちゃうの?」と不満げな態度を見せる。チミは僕をオモチャにしたいだけでしょうが。主にパルスィをからかう目的で。キスメが「まぁまぁ……」と彼女を宥めているのを尻目に、パルスィが質問を重ねる。

「そう。帰る方法はどうする気なのよ?」

「もちろん、策はあるぜ。それに関して、ちょいとキスメに頼みたいことがあるんだが良いか?」

 俺から突然名を呼ばれた桶娘は、アイドル系土蜘蛛の相手を中断し、きょとんとした表情でこちらを見る。

「はい、何でしょう……?」

「もし持っていたら貸してほしい物があってな――」

 俺はキスメに「ある物」の有無を確認する。もしかしたら彼女なら持っているんじゃないかという予想はドンピシャだった。キスメは「ありますけど……」と小さく肯定した。

「お、マジで? 借りても良いか?」

「はい、家に取りに戻りますので、少しだけ待っていてもらえますか……?」

「おう、すまんが頼む」

「あ、私も一緒に行くよ。いいでしょ、キスメ?」

「うん。じゃあ行こっか……」

「おっけー。天っちにパルパル、またあとでね!」

「ああ、またな」

「急いで転ぶんじゃないわよ」

 小さくお辞儀するキスメと、ブンブンと元気よく手を振るヤマちゃんの温度差に苦笑しつつも、俺とパルスィは二人が去っていくのを見送った。やがて彼女達が見えなくなるくらいまで遠くに行ったところで、俺は座っていた手すりから腰を上げ、スタッと着地した。

「帰る前に、姐さんにも挨拶していかないといかんな。何処にいるか知らん?」

「変なところで律儀なのね、妬ましい。今日も飲み屋で騒いでるんじゃない? 行くなら早く行くわよ。キスメ達を待たせるわけにはいかないでしょ」

「パルスィも来てくれるのか?」

「ついでよ、ついで」

 

 

 それから二人で旧都に行ってみると、パルスィの予想通りなことに、時間お構いなしに酒盛りをしている鬼の姿を見つけた。加えて、彼女に連れ去られていった狸の姿も同時に補足する。俺達が近づくと、こちらが声をかける前に向こうが気付き、「おーい!」と大声に呼んできた。姐さん、声のボリュームがデカいっす。周りの皆さんビビったじゃないっすか。

「どうも、姐さん」

「もうちょっと静かにできないわけ? うるさいんだけど」

「はっはっは! 細かいこと気にするもんじゃないよ」

 パルスィの文句もあっさりと聞き流してしまう、その相変わらず具合にむしろ安堵してしまう。おそらく連日ぶっ通しで飲まされたのであろう、彼女の隣に居たタヌ吉が、どこぞのアルプスみたいな弱々しい足取りで立ち上がる。酔っ払っているというよりは、もはや瀕死といった方が近いかもしれない。

「ダ、旦那……ドウカシヤシタカ……?」

「お前の方がどうかしていると思うが。まぁいいや、実は地上に帰ろうかと思って一応言っておこうかと」

「デシタラ、ア……アッシモ――」

「いや、ダメだ。お前はちゃんと酔いを醒ましてから、誰かに送ってもらえ」

「承知、シヤシタ……」

 最後にそう一言だけ告げて力尽きたのか、タヌ吉はパタリとひっくり返ってしてしまった。とはいえ時折ピクピクと動いているし、死んだわけではないようだ。まぁ、コイツには悪いがここから先は俺一人で行きたかったし、この辺でお別れとしよう。いつかまた何処かで会うだろう。

 タヌ吉がKOダウンした傍らで、姐さんは「そうか」と了承しつつ、ビッと俺の方に酒瓶を向けた。

「また来な。いつでも歓迎するよ」

「うっす! 今度はアリスと一緒に来ますぜ」

 

 

 姐さんに別れを告げた後、ヤマキスコンビが来るのを待つため、俺達はパルスィの家に戻った。帰宅するなり彼女が台所の方へ行ってしまったので、俺は居間で一人のんびりと胡坐をかいて待つ。しばらくすると、パルスィが戻ってきた。

「昼飯の支度には早過ぎないか?」

「別にそうじゃないわよ。ほら、これ持っていきなさい」

 そう言って彼女は巾着袋を一つ、俺に手渡した。受け取って中身を見てみる。入っていたのは、笹団子みたいに葉っぱで包まれた手のひらに収まるサイズの球体だった。

「キビ団子……じゃないな。もしやコレはおにぎりか?」

「帰る途中でお腹空かされても妬ましいから、適当なところで食べなさい」

「おお、サンキュー! 台所に行っていたのはこのためか」

 

「なになに? それって愛妻弁当? んもー、パルパルってばイイ女♪」

 

「……いつから見てたのよ」

 パルスィがジトッとした恨めしそうな視線を玄関に向ける。その先にはなぜか「イエイ!」とピースする土蜘蛛と、その後ろに隠れるようにこちらを観察する桶少女の姿。

 橋姫の問いにキスメが「い、今来たばかりです……」と必死に弁明する。その様子が健気を通り過ぎて若干不憫に見えたのか、パルスィは「別にいいわよ」と軽く流した。

 パルスィの許しが出て安心したのか、ほっと一息つくとキスメは俺のところまでやってきた。そして、自宅から取ってきたものを俺に見せる。

「あの、これで大丈夫ですか……?」

「バッチリ、バッチリ! ありがとな」

「それで、天っちはそれ使って何するつもりなの?」

「まぁまぁ、焦るでない。よし、んじゃ行きますか……先日案内してもらった、間欠泉センターにな」

「……あなた、まさか」

 ヤマキスコンビが首を傾げる中、パルスィは俺が何をする気なのか予想できたようだ。俺はそれに言葉ではなく余裕に満ちた笑みで答え、彼女の家を後にした。

 

 

 というわけで、やってきたのは至る所から湯気が噴出している、灼熱地獄みたいなシチュエーションの岩場地帯。かの異変で地上まで湯が噴出したという間欠泉センターである。ちなみに、「キケン」という立て看板はあったが、「立ち入り禁止」とは書かれていなかったため、俺は何のためらいも無く立ち入っている。よい子はマネすんなよ。

 ざくざくと奥に進み、他と比べて一際湯気が濃そうなスポットに目星を付ける。ちょっと開けた場所まで行ったら、なかなか良さげな所を見つけた。「ここにするか」と俺はキスメから借りたものを地面に置いた。

「それで、天っちは洗濯用の大ダライで何するのさ? いい加減に教えてよ」

 いつまでも秘密でいたせいか、ヤマちゃんが不服そうに唇を尖らせた。

 彼女の言ったことからご察しのことと思うが、俺がキスメから拝借したのは、昔ながらの洗濯で使う特大サイズのタライだ。桶に入って移動する彼女なら、きっと持っているんじゃないかと踏んだのだが、大正解だった。

 「ああ、それは」と俺が答えようとしたのに被さるように、パルスィが口を開いた。

「それを足場にして、間欠泉に乗って帰ろうって考えでしょ」

「おお、さすがパルスィ。よくわかってるじゃないか」

「バレバレなのよ、妬ましいくらいに。そんなこと出来ると思っているわけ? 大体、そんなことしなくても送っていくわよ」

「大丈夫だって、為せば為る。やって出来ないことは無い。それにだ、ここには自力で来た以上、帰りも自力じゃないと俺の主義に反するのだよ」

「どういう主義よ。もういいわ、好きになさい」

 諦めたようにパルスィが嘆息するが、俺のことを心配してくれているのは十分伝わってくるので、「サンキュ」と短く礼を言う。彼女は「ふん」と視線を逸らしてしまったが、それもいつも通りだ。

「へぇ~、大胆なこと考えるね」

「男たるもの決めるときゃド派手に決めんとな。というわけでキスメ、コレ返すの大分後になりそうなんだが構わないか?」

「あ、いいですよ。もう使わない物なのであげます……」

「マジで? そいつぁかたじけない。それじゃお言葉に甘えて頂戴するぜ」

 とかなんとかやっている間にも、時間は近付いてきた。もちろん、間欠泉が噴き出す時間だ。話によると、一日で噴出するおおよその時間は決まっているらしい。といっても出たり出なかったりとまちまちなので、本当におおよそでしかないのだとか。しかし、何となくだが周りの空気が変わっているような気もしなくもないので、多分もうすぐ来るのだろう。

 ぼちぼち出撃に備えようと、俺はタライの上に足を乗せた。ちと間抜けくさいが仕方あるまい。本当だったらサーフボードとかに乗って、交響詩篇みたいにクールに空を駆け巡りたかったのだが、ここは妥協しよう。せっかくキスメにもらったものだし、贅沢は敵だ。

 しかしながら、キスメがやったら愛らしいものも、成人男性がやったらシュールこの上ない。実際、可笑しさを堪えることなく「ぷぷっ」と吹き出しながら、ヤマちゃんが冷やかしてきた。

「それで今日、間欠泉が出なかったら天っち超恥ずかしいよ?」

「ぐ……そん時は皆して笑えよ。笑えばいいと思うよ!」

「ご健闘をお祈りします……」

「キスメはええ子やなぁ……おっととと?」

 桶娘の純粋さに涙していると、突如として地面が揺れ始めた。一瞬、地震かと思ったが、どちらかといえば何かが湧き出してくる前兆のような感じ。どうやら、今日は無事にやってくれるようだ。安心、安心。

 最後はカッコよく決めようと、俺はビシッと敬礼のポーズを取った。

「じゃあな。今度は温泉入りに来るぜ。あと、地霊殿にも案内しておくれ」

「おっけー!」

「お元気で……」

「ちゃんと仲直りするのよ」

 三者三様の返事に、自然と笑みがこぼれる。何だかんだで色々とあったけど、アリスに聞かせるお土産話も出来たし、イイ友人も得た。結果オーライで大団円だ。いつか移動手段を考えて、また来るとしよう。

 地面が揺れる中、ここ三日ばかりの思い出に耽る。だが、そのすぐ近くで、パルスィが怪訝そうな顔で辺りを見回した。そして、ぽつりと疑問を漏らす。

 

 

「ねえ、何だかいつもより揺れるの長くない?」

「あ、パルパルもそう思う?」

「それに、いつもよりも大きいです……」

『…………』

 気まずそうな沈黙が女子三人の中を駆け巡る。彼女達の様子とは対極的に、地下から湧き上がる振動はどんどん激しさを増していく。ちゃんとバランスを保たなければ立っているのもおぼつかなくなる。もはや地球は爆発寸前ってな勢いだ。

 彼女たちの顔から、暑さとは違う原因の汗がダラダラと流れる。これはヤバい。真っ先にそう思ったのはパルスィだった。珍しく焦ったように、彼をその場から離れさせるために叫んだ。

「戻りなさいッ!! 優斗――!!」

 しかし、彼女の叫びは届くことなく、優斗が「へ?」とこちらを見た直後、彼が立っていた場所からは、滝のような轟音と共にチュドーンと勢いよく噴き出した間欠泉が、まるで巨大な一本の柱が佇むように何処までも伸びていた。もちろん、彼の姿は既にどこにもなく、上空から「おぎゃー!?」とかいう悲鳴が小さく木霊しているのがここまで聞こえてきた。もしかしなくても行ってしまったようだ。

「行っちゃったね、天っち」

「大丈夫……かな」

「変な声聞こえてきたし、平気でしょ。まったく、騒がしくて妬ましい奴だったわ」

 ヤマメとキスメが呆然と空を見上げる一方で、パルスィは腕を組んで憮然とした態度を示す。しかし、某鴉天狗ほどではないにしろ、妙に目ざといハイテンションガールは、ニヤッとイタズラじみた笑顔を浮かべた。

「ところでさ、パルパルが天っちの名前呼んだのって初めてじゃない?」

「突然何言い出すのよ?」

「それと、天っちの肩がまだ痛んでるかもしれないから、反対の手でも食べられるおにぎりにしたんじゃないの?」

「優しい……」

「んなっ!?」

「うっふっふ、もうパルパルってばステキなんだから! これは勇儀にも教えなきゃだね~」

「こ、こ、このぉおおお!! ふざけるのもいい加減にしなさぁああいッ!!」

「いやーん、パルパルが怒ったー。逃げろー」

「あ、待って……」

「こらぁあああ!! 待ちなさぁあああい!!」

 ケラケラと笑いながら駆け出すヤマメと、慌てながら後を追いかけるキスメ。そして般若のような形相で怒鳴り声を放ちながら全力で走るパルスィ。今日も地底は賑やかなようだ。

 

 

 空を超えてラララ星の彼方。アイキャンフライ。インザスカイ。これらが意味するものは、現在の俺の状況をピタリ賞で言い当ててくれている。そう、空を飛ぶってことだ。なるほど、アリス達が飛んでいるときってこんな感覚なのかもしれないな。さらにそれが自由自在に高度や方向を変えられるのだとしたら、さぞ気持ちいいことだろう。やはり空を飛ぶのは人類の夢だな。

「しかしこの状況は、どげんかせんといかんなぁ」

 肩をすくめ、やれやれと頭を振る。間欠泉に乗り、地上までエスカレートするという計画は、ある程度は狙い通りの結果をもたらした。そう、ある程度までは。

 俺は今なお上昇が止まらぬ状況で、ふと視線を下に向ける。そこには広々とした緑の大地が自然の尊さを物語っていた。目線をちょっと上げれば、境目が眩しい地平線が何処までも続く。宇宙に来たわけでもないのに、地球は青かったとか呟いてしまうぜ。

 

「まさかなぁ……地上突破して空まで打ち上げられるなんて思わなかったぞ」

 

 これぞ重力反比例、射手座午後九時ドンビーレイト。俺は夜空に大輪を咲かす花火の如くただ真っ直ぐに空を目指していた。もちろん、俺の意思とは無関係に。ちなみに、キスメからもらったタライは、間欠泉の圧力に耐えられず一瞬にして粉砕した。もらったものとはいえ、申し訳ない気分だ。

 まだまだ昇竜拳が衰えることはないが、これが上矢印から下矢印に変わったら俺死ぬんじゃね? やっべーよ、どーしよーとか内心焦りながら仰ぎ見ると、普通の空とは違う部分に自分が接近していることに気付いた。

「何だありゃ。ブラックホール……?」

 そこはまるで青空の一部分にぽっかりと穴が開いたような奇妙な空間だった。真っ暗で先が見えないが、紫さんのスキマに似た印象を受ける。近づくものを遠慮なく吸い込みそうな、とてつもなく大きな円形の裂け目が広がっていた……俺の真上に。

「ちょっ!? タイムタイム! さすがに消滅エンドは勘弁しといて!」

 ルパン泳法の如く、空中で必死に平泳ぎのアクションをするが、その抵抗も空しく……

「パトラァアアアアッシュ!!」

 どこぞの忠犬の名を叫びながら、俺はブラックホールに飲み込まれていった。

 

 

「…………お?」

 気が付いたら、俺は長い階段の下の方に居た。何言っているのか分からねぇかもしれねぇが、空の向こう側は博麗神社よりも長い階段が続いていた。さすがは幻想郷、もう何でもありだな。周囲が真っ黒だったため、宇宙に来てしまったのかとビビったが、呼吸も普通にできるし大気圏突破はしていないはずだ。

「しかしまぁ、何だここ?」

 俺は果ての見えない長い上り坂を眺めて唖然とする。ここでの選択肢は、この何処までも続く階段を上るしかないのだが、いかんせん面倒臭い。だって遠いし。二十四時間テレビのマラソンじゃないんだからさ。

「しかし他に手段があるわけでもない。でも気が乗らないんだよな。あーあ……ん?」

 だらけオーラ全開でうじうじしていた俺だが、ゴール地点があると思われる先から、とある気配を感じ取った。この、心の奥底から精神力がみなぎってくる感じ……間違いない!

「ハイレベルな女の子の気配! それも二つ! お嬢さん方、今行きますぞぉおおおお!!」

 さっきまでの欝な気持ちは明後日の風と共に去りぬ。俺はマキバオーのような勢いで、ドドドと猛スピードで階段を駆け上がった。元気があれば何でもできる、おっしゃる通りです猪木さん!

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……さ、さすがに疲れたぞ」

 ゴールした頃には完全グロッキーになりつつも、俺は気合と根性であの道のりを踏破した。何とか呼吸を整え、ついでに身だしなみ(主にヘアスタイル)も整える。ジャケットを手放したせいでパーフェクトとは言えないが、ある程度ましになったところで「よし」と目の前を見据えた。

 眼前には、和風ヤクザか極道の屋敷みたいな、でっかい門がドンと聳え建っている。これで強面なオニイサン達が出てきたら二重の意味で泣くところだが、俺の直感が告げるのは可愛い系と綺麗系のダブルコンボの存在のみ。ここで引き返したら、色んな意味で男じゃねえってもんだ。

 俺はすぅーっと息を吸い込み、中の人に聞こえるような大きな声で呼びかけた。

「たのもー! どなたかいらっしゃいませんかー!?」

「はーい、ただいまー」

 

 

つづく

 




長くなったのはもう一つ理由がありまして……次回あたりには時系列が戻り、念願のアリス再登場の予定だからです!
作者だってアリス出したかったんや!
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