東方人形誌   作:サイドカー

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ひゃっはー! もう我慢できねぇ、投稿しちゃうぜ!

どうも、サイドカーでございます。
まさかの一週間以内に最新話投稿です。一ヶ月以上放置したのは、これで勘弁していただきたいなー……なんて ←チラ見

さて、そんなわけでお待たせしました! 今回もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第二十四話 「君に届く」

「――というわけで、幽々子様からアリスさんの様子を見てくるように言われたのです。あの、私が言うのもなんですけど、天駆さんも反省なさっているようですし、迎えに行ってあげては?」

 優斗がボーリング球のように回転移動しているのと、妖夢がこれまでの流れを話し終えたのは、ほぼ同時刻だった。彼女の話に耳を傾けていたアリスが、ようやく落ち着きを取り戻し、おずおずと話しかける。

「……ねぇ、妖夢」

「はい、何でしょう?」

「その、優斗は元気だったの……?」

「ええ、最初に会ったときは怪我していたみたいですけど、それもほとんど治っていた状態だったようです。食事もしっかり摂られていますし、元気ですよ」

「そう、なんだ。無事……なのね」

 妖夢の返答を聞いて、アリスは安堵するようにほっと一息つく。緊張の糸がほぐれた雰囲気に、彼女がどれほど彼を心配していたのか伝わってきた。

 しかし、優斗の無事を知って安心した一方で、今度は別の不安がアリスの心に影を差した。躊躇いつつも意を決して、彼女は「えっと……」と質問を重ねる。

「私のこと、怒ってなかった? 追い出したりなんかしちゃって……」

「まさか。それどころか、とても気にかけていましたよ? アリスさんのこと」

「そ、そうなの…………嫌われてなかったんだ、よかった」

 後ろの方はぽそっと呟いたため、周りにはよく聞こえなかったのだが、彼女の様子から何を言っていたのかは皆察しがついた。小さく微笑むアリスにつられるように、霊夢が「何言ってんのよ」と可笑しそうにアリスの頬をつつく。

「優斗がアリスのこと嫌いになるはずがないでしょ」

「霊夢。あのね、私――」

「まーまー、みなまで言うな。アリスが言いたいことは分かるぜ。なぁ妖夢?」

 アリスが何か言おうとするのを遮るように、魔理沙が割り込んできた。トレードマークの魔女帽子のツバを右手でつまみつつ、反対の手を彼女に向けるようにかざしてストップをかける。それから隣にいた庭師に、不敵な笑みでアイコンタクトを送った。そのメッセージを受けた少女は「はい、女の子なら当然です」と自信たっぷりに肯く。

 

「アリスさん、行きましょう。天駆さんを……恋人を迎えに!」

 

 瞬間、まるで沸騰したかの勢いで、アリスの顔がぼっと真っ赤に染まった。

「なっ!? ち、ち、違うわよ! 私と優斗は、そんな……ここ、恋人とかじゃっ!」

「え、違うんですか!? 私はてっきり二人とも」

「余計なこと言わなくていいから! 早く行きましょう、ほら急いで!」

 早口で捲し立てるや否や、慌てふためきながらもアリスは一人で先に飛んで行ってしまう。こんなに早く飛べたのかと驚くほどのスピードで、彼女の姿はあっという間に空の彼方に消えていった。

 取り残された妖夢はポカンとしていたが、「えーっと」と疑問を投げかけるように、紅白巫女と白黒魔法使いの方にゆっくりと顔を向けた。

「まったく、やれやれだぜ」

「ほんと、やれやれだわ」

 視線を受けた二人はどこか呆れたように肩をすくめ、首を横に振る。それが妖夢に対してなのか、それとも照れ隠しが下手なアリスに対してなのか、彼女達もよく分かっていなかった。

 

 

「…………」

 大の字になって空を見上げていた。さっきまでの喧しさとは雲泥の差で、一言も発することなく、ただ遠くを見つめる。やがて、むくりと起き上がり身体をパッパッと払ってから、もともと座っていた場所まで戻った。

目を閉じ、大きく息を吸って時間をかけてそれを吐き出す。全て出し切った直後、背後に爆発か雷鳴が轟くエフェクトでも付きそうな気合を胸に、カッと目を見開いた。

「ぃよっし、帰ろう! こうなったら飛び降りてでも俺は行くぜ、為せば為る!」

 高らかに宣言すると同時に、俺は白玉楼の外門を目指してスタートダッシュを切った。その雄姿、まさにハヤテの如く。走れメロス。全てはアリスに会うために。俺、帰ったらアリスに土下座するんだ。

 隅々まで掃除が行き届いた長い廊下を駆け抜け、玄関できちんと靴を履いてから、ガラガラと勢いよく扉をひき、外に飛び出す。そのまま門まで一直線だ。というか、ここに来るときも走っていたような。

 思考が脇に逸れたせいか、入口に誰かが立っていることに気付くのに遅れてしまった。ズシャーッとスライディング感覚でブレーキをかけ、何とか停止する。そして、改めてその人物を見たとき、俺は自分の目とついでに頭を疑った。そこに居たのは、

「アリス……?」

「…………」

 いつ見ても綺麗な、お日様のような金色の髪が、ゆるやかな風に吹かれてさらさらとなびく。ガラス玉のような青く澄んだ瞳に、透き通るような白い肌。今の今まで考えていた、彼女の姿が目の前にあった。

 俯いて答えないアリスに戸惑いつつも、確かめるように、俺はもう一度声をかける。

「アリス、だよな? 俺の妄想が生み出した幻覚とかじゃないよな?」

 正直自分でもどうかと思う質問だったが、彼女は小さく頷いた。そして、伏せていた顔を上げて、まっすぐに俺を見つめた。

「優斗……」

「おう、何だ――」

「優斗ッ!!」

 それは一瞬の出来事だった。アリスがこちらに走ってきたかと思うと、タックルするように俺の胸に飛び込む。とっさに彼女を受け止め、遅れて足に力を入れるが間に合わない。支えを失い、重心が後ろに少しずつ傾く。せめてアリスが怪我をしないように、俺は彼女の全身を包むようにしっかりと抱えた。受け身を取ることもできず、そのまま背中から地面に衝突する。ついでにゴツンと頭も打って「あ痛ッ!?」とカッコ悪い声を上げてしまった。

 だがしかし、想像をはるかに上回る衝撃的展開が目の前で起き、俺は痛みすらも二の次になった。至近距離というかもはやゼロ距離には、俺にしがみついたままのアリスがいる。そして、彼女の目からは涙がとめどなく流れ、さらに嗚咽まで聞こえてきた。

「あぃぇえええ何々どゆこと!? What’s happen!?」

「ごめん、なさい……ごめ、なさ……」

 しゃくりあげながらも、アリスは謝罪の言葉を何度も繰り返す。それだけでもワケが分からず混乱しているというのに、アリスは自分の腕を俺の背中に回して、ギュッと力を込めてきた。もう、何が何だかカーニバルだ。カーニバルファンタズムだ。すーぱーあふぇくしょん。

「あー、よしよし。もう大丈夫だからな? アリスを泣かせるようなクソッタレは、俺がぶん殴ってくるからな?」

 とにかくアリスを宥めようと必死になる一方で、じわじわと闘志が湧き上がってくる。まったくよぉ、どこのどいつか知らないが、アリスを泣かせるとはイイ度胸してんじゃねぇか、ええオイ。テメェは俺を怒らせた。

 もはやスーパーサイヤ人か北斗神拳に覚醒寸前なほどに怒りが満ちてくる。ところが、アリスが顔をうずめながら首を横に振って否定してきた。誰かにやられたのと違うみたいだ。ふと、ここで一つの可能性を思い浮かんだ。もしかしてだけど、ひょっとするとだけど、あくまで仮の話だけど……悪いの俺なんじゃね? ケンカとか行方不明とか。

 信号が青に変わるかの如く、顔からサーッと血の気が引く。俺の中の天使と悪魔が、罪悪感という名の核爆弾を持って仲良くパタパタと上昇する。って何で共闘してるんだ。

 そして、アリスがさっきよりも強く抱きしめてきたのを合図に、奴らはその手を放し、ブツが落下する。着弾と同時に俺の心にサードインパクトが起こった。

「ぐすっ……うぅ」

「わぁあああ!? スマン本っ当にスマン申し訳ないマジごめん!! 切腹以外なら何でもするから泣かないでくれ!!」

 もはや男のプライドも紳士道も一切ない。ホールドされてなかったら神速で土下座していたであろう。俺は思いつく限りのボキャブラリー総動員で、ただひたすら謝りまくった。もはや俺の精神世界は、カーニバルから暴動にクラスチェンジである。

 しかし、またしても俺の読みは外れたようで、アリスは「違うの……」と涙声で答えた。

「私、が……ぐすっ、優斗は、悪く……ひっく、ないのに……わ、たしのため、だったのに……えぐ」

「あ……もしかして、咲夜さんとの内容バレちった?」

「うん……ゆうと、ゆうとぉ……ふぇえええん」

 それまで堪えていたものがとうとうあふれ出たように、アリスは声を上げて泣き出す。せめて少しでも安心させられるように、俺はアリスの涙が止むまで、彼女の頭を撫で続けた。もっと気の利いたカッコいいことができれば良かったんだけどな……

 数分後、霊夢と魔理沙、そして妖夢の三人が遅れてやってきた。この構図というか、再会早々アリスを泣かせている状況に、俺の必死の弁明も空しく、無言&無表情で彼女達が俺を見下ろしていたのは記憶に新しい。おかげでライフがゼロになりかけた。せめてもの救いだったのが、騒ぎに気付いてひょっこり顔を出したゆゆ様が「あらまぁ」と驚いた様子もなく普段通りだったことか。

 

 

「落ち着いたか? アリス」

「ええ……その、恥ずかしいところ見せちゃったわね」

 アリスは俺からそっと身を離し、涙の痕を隠すように目尻を指で拭う。思いっきり泣いてしまったのが気まずいのか、彼女はバツが悪そうに答えた。

「気にするなって、可愛かったぜ。でもまぁ、笑ってくれた方がもっと可愛いんだが」

「……もう」

 俺の軽い冗談にやっと心が緩んだようで、アリスは少し拗ねたような感じで言いつつも、口元は笑っていた。アリスに笑顔が戻って安心した。ホントよかったよぉ!

「んん、ごほんごほん」

『!?』

 と、俺達に聞こえるように、霊夢がわざとらしく咳払いをした。

 まるで「私達が見ているの忘れてないでしょうね?」と言わんばかりである。俺達は慌てて立ち上がり、何もなかった風を装いつつ、話を振った。

「あー、わざわざ迎えに来てくれたのか。妖夢のお使いってそういうことね」

「まったく、どこにいるかと思えば、まさか冥界に来てるなんて予想外だわ。アリスがどれだけ心配してたと思ってるのよ」

「ちょ、ちょっと霊夢」

「まーまー、許してやれって。だけど、迷惑料は今度きっちり貰いに行くから覚悟するんだぜ?」

「そうだな、すまんかった。皆にも心配かけたな」

 目の前の少女達に向かって、しっかりと頭を下げる。ここは素直に反省しておこう。そもそも、俺が紛らわしいことをしていたのが原因なわけだし。

 俺の意思が伝わったのか、彼女達は顔を見合わせるとふっと笑みをこぼした。

 

 反省会が終わったところで、俺は「さて」と場を仕切り直した。

「んじゃ帰りますか。ゆゆ様に妖夢、お世話になりました」

 白玉楼組の二人にお礼を告げる。冥界に来ることは全くの予定外だったが、結果的にはここでも有意義な時間を過ごすことが出来た。彼女達との出会いにも感謝しよう。

「はい、また遊びにいらしてください」

「今度は二人一緒にね~」

 妖夢はペコリと頭を下げ、ゆゆ様はふわふわと手を振って見送ってくれた。二人もこう言ってくれていることだし、近いうちにまた来るか。もちろんポックリ逝く以外の方法でな。

 別れの挨拶も済み、帰りの準備は整った。しつこいくらいだが、空を飛べない俺は自力では帰れない。というわけで、俺が幻想郷に来たばかりのときのように、彼女にお願いする。

「魔理沙、また乗せてくれ」

 ところが、イタズラを思いついた子供のような、どこか含みのある表情で「悪いな」と短く言うと、魔理沙は自分だけ箒に跨って上昇していった。

「残念、今日は一人が定員なんだぜ」

「ちょっ、おま、冗談よしてくれよ」

「あーあー、困ったなぁ。優斗は飛べないんだもんなー。一人じゃ帰れないよなー」

 何やら芝居がかったオーバーリアクションだが、それどころではない。このままでは迎えに来てもらったのに置いて行かれるという、意味不明すぎる展開になってしまう。

「頼むって。マジで困――る?」

 交渉しようと一歩踏み出しかけた時、トンッと誰かが俺の後ろから身を寄せてきた。自転車を二人乗りするときみたいに、俺の胴体に両腕をそっと回す。さらに、何やら大きくて柔らかい独特の感触が、温もりと共に背中から伝わってくる。

 もしやと思い、首だけ動かして後ろを振り返ると、頬をぽーっと赤く染めたアリスの顔がすぐ傍にあった。こちらの視線に気づいて、チラッと上目遣いで俺を見る。「その……」と恥ずかしそうに、だけど手を離すことなく、

 

「私が抱えて飛ぶから……ね?」

 

 まごうことなき天使がいた。圧倒的破壊力の照れ顔を目の当たりにし、理性が吹っ飛ぶか鼻血を吹き出すかの二択まで迫られかける。うむ、久しぶりだが早速断言しよう。やっぱりアリスは可愛い。今の幸運を神に感謝しよう。八坂様、洩矢様、ありがとうございます!

「おお、助かる。サンキュな」

「お、お礼なんて言わなくても」

「それでもだ。アリスがいてくれてよかった」

「~~~~~っ!!」

 

 

 優斗とアリスの仲睦まじげなやり取りを、一足先に空中に浮かんでいた霊夢と魔理沙が、上からニヤニヤと見物していた。魔理沙の箒が今日限定で一人乗りだというのは、もちろん嘘である。彼女がわざわざそんなことを言い出したのは、アリスの背中を押すためだったようだ。

「やるわね、魔理沙」

「なにせ私は、恋の魔法使いだからな」

 二人が互いにグーにした手をコツンと軽く合わせる。もう一度下を見ると、ようやく彼らがこっちに向かってきていた。

 

 

 何やかんやで色々あったものの、俺達は無事に白玉楼を後にした。あれだけ長かった階段も、飛んでしまえばあっさり通過し、例のブラックホールもどきを潜り抜ける。真っ暗な空間を出ると、視界が一気に開ける。晴れた青空の下では、新緑の森が一面に広がり、四方へ向かうかのようにいくつも枝分かれした河川が流れ、妖怪の山が聳え立つ自然満載の光景が目に入った。

 やっと、やっと帰ってきた。一週間ほどでこんなにも懐かしく感じるとは、俺も相当この地に馴染んでいたっぽい。普段あっちこっちフラフラしている節がある分、尚更珍しい体験だったと思う。きっとここは、俺にとって特別な場所なのだろう。それもそうか、アリスがいるんだし。そういえば、大事なことを忘れていた。最初に俺がやるべきこと、ある言葉を彼女に伝えることを。

 俺は再び後ろに顔を向け、彼女の名を呼んだ。

「アリス」

「うん?」

「ただいま。ずっと会いたかった」

 アリスは驚いたように目を見開いたが、それもわずかな間だけ。そのあと、彼女はとても嬉しそうな、色鮮やかな大輪の花が開くような笑顔と共に、その言葉を返してくれた。

「うん、おかえりなさい!」

 

 

つづく

 




ようやくここまで来れた……

次回、「第二十五話 『シアワセありす』」

このタイトルを使いたかったんですよ。けど、何だか最終話っぽいですな。
じゃあ次回エピローグかって? いや、全然?
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