東方人形誌   作:サイドカー

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皆様、この作品ならびにこの作者を覚えておられますでしょうか……?

はい、ご無沙汰でございます。東方人形誌の作者、サイドカーでございます。
いきなりですが、弁解をさせてください!
決して失踪しかけたわけではなく、前話投稿後から間もなくして我がパソコンがぶっ壊れちゃったのです!
パソコンがない状況が現在も続いており、なんと今回は近所のネットカフェからの投稿でやっております。

長い前置きはここまでにして、
今回は特別回です。なので本編の時系列(季節)とは大幅に異なっていますが、そこんところはご了承くださいまし。

では、クリスマス特別回。ごゆるりと読んでいただけると嬉しいです。


クリスマス特別回 「ましろ色ファンタジー」

「うぃーうぃっしゅあ めりっくりっまっ♪ うぃーうぃっしゅあ めりっくりっまっ♪」

 浮かれ気分を代弁するように、どことなくネイティブっぽい音調で今日という日を象徴する曲を口ずさみつつ手を動かす。最初のうちは軽く鼻歌でやっていたのだが、あれやこれやと作業を進めていくうちに、テンションが上がって今じゃすっかりカラオケ状態だ。といっても、今日くらいは多少浮かれても罰は当たるまい。お前それ普段と大差ねーべとかいうツッコミはなしで。

 そんなわけで、はいどうも。毎度おなじみアリス宅のリビングルームにて、俺は自分の身長よりも少しばかり高い木と向かい合っています。裾から頂点にかけてバランスの整った三角錐が緑色の葉によって形作られている。木といっても人工物で、プラスチックの素材で作られているレプリカの木だ。どうしてそんなものがあるかと言えば、

「いやはや、霖之助さんも気前が良いな、今日限定でツリー貸してくれるなんて。まぁ、たまたま俺が店の隅っこにあったの見つけただけなんだけど」

 多くの方がご察しのことと思うが、俺が現在せっせと執り行っているのはクリスマスツリーの飾りつけ。クリスマスっぽい雰囲気を演出するため、アリスと二手に分かれて装飾を進めている最中なのである。アリスは用意するものがあると言って、さっき部屋に戻った。はてさて、何をしているのだろう。私、気になります。

 赤やら青やらの定番色から金銀などのゴージャスカラーまで取りそろえたピンポンサイズの玉を枝に吊るしたり、これまた色とりどりなリボンをくるっと巻いたりしてデコレーションしていく。そして、仕上げにクリスマスツリーのメインディッシュといえるであろう、金ピカなキラキラスターを天辺に乗せれば完成だ。一歩下がって全体の出来栄えを確認してみる。うむ、なかなかいいんじゃなかろうか。

「シャンハーイ」

「おう?」

 ドヤ顔で腕を組み、満足げに頷いていると、背後から声がした。同時に、何かを頭部に装着させられる。ピタッとフィットした感触から、どうやらヘアバンドのようなものだと予想できた。

「何を付けたんだ、上海?」

 振り返ると案の定、ちょうど俺の目線の高さで上海がフワフワと浮いていた。俺の問いかけに答えるようにもう一度「シャンハーイ」と言うと、どこかに飛んで行ってしまった。かと思いきや数分もせずに戻ってきた。その小さな両腕には手鏡が抱えられている。見ろということらしい。どれどれと鏡を覗き込むと、そこにはコスプレっぽいトナカイの角を装備した己のビミョーな姿が映っていた。

 別にトナカイの角自体は問題ない。今日はクリスマスだし、角もド○キホーテや百均で売っていそうなありふれた品だ。ただ、それの色と俺のヘアカラーが全く同じせいで両者の境目が曖昧で、一体化している錯覚に陥る。奇抜な髪形か独創的な寝癖でもついているように思えて、ムムムと唸ってしまう。

「うーむ、なんか変じゃね?」

「シャンハーイ……」

「そんな期待外れみたいな声出されてもなぁ」

 どうも上海のお気に召さなかったようだ。残念だといわんばかりのリアクションをすると、上海は再びどこかへ行ってしまった。って放置かい。悪いことをした覚えはないのに、いたたまれない気持ちになってくる。

「あははっ、似合ってるわよそれ」

「褒められている気がしないんだが……」

 俺と上海が仮装審議会をやっている間に向こうの準備は終わったのか、アリスの声が耳に届いた。似合うと言うわりには、明らかに笑っていたのは気のせいではないだろう。限りなくお世辞に近い褒め言葉に答えつつ、彼女が立っているドアの方を向く。そこには、

 

「えへへ……どう、かしら?」

 

 はにかみながらアリスが感想を求めていたが、俺の口からは「おお……」と感嘆の声しか出てこなかった。彼女の姿を見た瞬間、咲夜さんの能力を受けたみたいに、俺の動きは完全にフリーズしてしまっていた。俺の目は入り口に立っているアリスの姿をしっかりと捉えている。では、何にビックリしたというのか。それは、彼女が着ているものが、いつもの青と白を基調とした洋服でなかったのである。

 モコモコの暖かそうな布地で作られたその衣装は、全体がほぼ赤一色で構成されている。頭には彼女が普段愛用しているカチューシャではなく、先端に飾られた白い綿玉が特徴の三角型の帽子を被っていた。手首まで届く長袖の上着と膝丈ほどのスカートも、襟元や袖口、裾を雪のような綿生地で覆っている以外は赤で統一されている。そして、いつもより短めのスカートから伸びた美脚は、穢れのない純白のストッキングに包まれていて、その可憐さを一層際立たせていた。わかりやすく一言で説明しよう。

 サンタっ娘コスのアリスが、モジモジと照れながらも楽しそうな笑顔をたたえ、その破壊力ありすぎる魅力的な姿を披露しているの。

 俺の脳内では、拍手喝采のスタンディングオベーションで全俺が感涙している。こんな可愛いサンタさんから「プレゼントは何がいい?」と聞かれたら「君が欲しい(キリッ)」って言うのは確実である。間違いなく、マジで。部屋で何をしているかと思えば、アリスが用意していたものってこれだったのか。本格的な衣装やアリスの楽しげな様子から、彼女が今日を期待していたことが伝わってくる。

 昇天しそうになるところを必死に踏ん張って乗り越え、俺はグッと親指を立てつつ、七色の人形遣い(サンタバージョン)を絶賛した。

「最ッ高に可愛いぜ、アリスサンタ! あ、もちろんアリスは普段から可愛いんだけどな。何ていうか、いつもと違った一面が見れたって感じでスッゲーいい!」

「あ、ありがと……変じゃない?」

「全然まったくもって微塵も変じゃない。むしろ反則級に似合いすぎて俺が変になりそうだぜ」

「ふぇえええっ!?」

 握りこぶしで熱弁する勢いでベタ褒めしまくったせいで、彼女が着ている衣服と同じくらいに、アリスは顔を赤く染めてしまう。本当に、美少女は何を着ても似合うものだと、しみじみ実感させられる。それに対してこちとら角ひとつでこの有様だ。誠に遺憾である。もういっそ着ぐるみでいいんじゃないかな、全身すっぽりで暖かそうだし。着たことないからわかんないけど、息苦しいのだろうか。

 とりあえず装備中だったシカの角もどきを外し、テーブルの上に置く。あとで上海の頭につけてやろう。それから、先ほどよりは顔の赤みが治まったところで、アリスが窓の外を見ながら提案してきた。

「ねぇ、ちょっとだけ外出てみない?」

「いいとも。今夜はロマンチックが止まらないぜ」

「ふふっ、何よそれ」

 アリスと同じように窓の向こうの景色に目を向ける。日は完全に落ちて外は真っ暗だが、雪も降ってないようだし、庭先に出るくらいなら申し分なさそうだ。

 

 外に出ると、家の周囲一帯を覆い尽くすように白銀の景色が広がっていた。動物の足跡もついておらず、まるで新品といわんばかりにまっさらに積もっている。森に生える木々も枝に雪を乗せて、さながら天然もののクリスマスツリーといったところかと洒落たことを思う。

 視線を真上にやれば、冬の澄んだ空気によるものか夜空が鮮明に映る。暗闇に目が慣れてくると、少しずつだが星の小さな瞬きが認識できた。ところで、冬の星座には何があったっけか。あれがアルタイル デネブ ベガ、君が指差す夏の大三角。

 半ば無意識でそれらの光に向けて掌をかざしてみる。

「遠いな……」

 呟きと一緒に白い息が漏れた。届くはずがないのに、手を伸ばせば届きそうな気がしたという幼稚な発想。だけどそれが叶うことは決して有り得ないという現実を、何も掴めなかった空虚な感触をもって突きつけられる。ここから見ることはできても、そこへ行って触れることは叶わない。それはまるで幻想のように。だったら、俺が今居る「幻想」の名を持つこの地も、俺には届かない遠い存在なのだろうか。わかってはいる。自分がもともとこの世界の住人じゃないことは。だが、それでも――

 俺が妙に静かだったせいか、アリスが怪訝そうに首を傾げながら俺の名を呼んだ。

「優斗?」

「ん、ああ。悪い悪い、ぼーっとしてた。ちっとばかし寒くてな」

「そ、そうよね。やっぱり寒いわよね?」

「そりゃまあ、雪が降ってなくても気温が低いと冷えるべ」

「えっと、じゃあ……はい」

 アリスはこちらに一歩近づくと、いつの間にか持っていたものを広げた。直後、フワッとした柔らかな触り心地が、俺の首回りを包んだ。手に取ってみると、それは毛糸で作られたマフラーだった。結構なロングサイズで、なかなかおしゃれなデザイン。

「これは?」

「クリスマスプレゼントよ。今日渡そうと思ってこっそり編んでいたの」

 サプライズが成功したかのような、茶目っ気あるウインクをきめつつアリスはそう言った。そうか、これアリスの手作りなのか。アリスサンタから本当にプレゼントをもらえたことに感激すら覚えてしまう。首だけでなく心も温かくなった。

「サンキューな、大事にする。あと、これは俺からのクリスマスプレゼントだ」

 俺は上着のポケットにしまっていた小さな紙袋を取り出し、アリスに手渡した。実のところ、俺もアリスに気づかれないようにこっそり買っていたのである。ちなみに購入場所は、幻想郷に来たばかりの頃にアリスと二人で立ち寄った雑貨屋です。何気にセンスいいのよね、あの店。

 紙袋を受け取ったアリスの「開けてもいい?」との確認に「もちろん」と快諾する。彼女が封を開け手の上で包みを傾けると、お菓子くらいの大きさで淡い色合いをした固形の物が出てきた。

「これは、キャンドル? それに何だか良い香り……もしかしてアロマかしら?」

「正解。アリスって人形作りとか魔法の研究とかで机作業が多いんじゃないかと思ってさ。ちょっとしたくつろぎタイムにでも使ってくれ」

「優斗。ありがとう、嬉しい」

 アリスは微笑みながら、宝物をしまうようにプレゼントを愛おしげに胸元に抱く。喜んでもらえたようだ。俺としてもガッツポーズしたいくらいに嬉しさマックスハートでござる。

「じゃあ、このあと早速使ってみましょう」

「へ? いやいや別に今すぐでなくても」

「今日だからいいの。…………だって、優斗と一緒に楽しみたいんだもの」

 やべぇ、キュンと来た。

「……そうだな。だったらこっちも二人で使わないとフェアじゃないっしょ」

「え? きゃっ」

 俺はアリスの肩に手を乗せてそっと自分の方へ引き寄せると、マフラーの首元を緩め彼女の首にかけた。長めに作られていたため、二人で巻いても長さにおいては大丈夫だった。

 だがしかし、頬が触れ合いそうなほど近くにお互いの顔が寄せられていて、

 

『ぁ…………』

 

 相手との近さに思わず漏れた吐息交じりの声が重なった。肩から肘にかけてピッタリと密着し、アリスの体温が伝わってくる。アリスは顔をイチゴみたいに赤くし、上目遣いをこちらに向けた。勢いでやったはいいが物凄く照れくさい。もしかしたら、俺も顔が赤くなっているかもしれない。それでも、俺もアリスも離れることなく、抱き合うような体勢で互いに見つめ合った。

 

 ――ああ、そうか。何てことなかった。幻想の中にも本物はあるし、俺の手はちゃんと大事なものに届くんだな。頬を赤らめつつも俺の上着の袖を掴んで寄り添うこの愛しい女の子は、決して遠い存在ではなく、すぐ隣にいるじゃないか。そして、この幸せな気持ちは偽りでも幻でも誤魔化しでもなく、本物の……

 

 

 幾分の時間が経っただろうか。

 ほどなくして、空から揺蕩いながら流れ落ちるように、白く冷たい粒がチラリチラリと降り始めてきた。まるで桜の花びらが舞い散るような儚さで、夜に白い模様をつけていく。

「お、雪降ってきたな」

「えと、そろそろ中に戻りましょうか?」

「そうだな。そうするか」

 さすがに雪の中をいつまでも突っ立っているわけにもいかないので、俺とアリスは家に入ることにした。まぁ玄関はすぐ後ろなんだけど。ドアノブに手をかけたところで、あることを思いついた。正確には、思い出したというべきか。扉を開けない俺を不思議に思ったのか、アリスがきょとんとしていたが、俺が悪戯じみた表情を浮かべていたのを見て理解したようだ。これが以心伝心ってやつだったりするのかしら。

 そして、彼女もニコッと微笑み、俺達は同じタイミングで祝いの言葉を贈った。

 

『メリークリスマス!』

 

 さて、それじゃアリスと一緒にご馳走の支度でもしようか。きっとこの後にでも紅白巫女と白黒魔法使いが遊びに来るだろうし、多めに作っておきましょうかね。それまでは、この可愛いサンタクロースを独り占めしても良いですよね、イエスの旦那?

 

 パタンと扉を閉じたそのしばらく後、夜空のどこからかシャンシャンシャンという鈴の音が聞こえてきた気がした。

 

 

Happy Christmas




東方鈴奈庵の最新刊を買いました。
メロンブックス限定のブックカバーもついてきて僕満足!

この話が無事に(?)投稿できて本当によかったです……
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