明後日に自分が住む県で東方祭が開催されます。それを言うと自分が何ケンミンかバレてしまいそうですなぁ。
もちろん狙いはアリスです(真顔)
さてさて、前書きはここまでにして今回もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。
「あっははは! それは災難だったな、阿求殿?」
和風茶屋の一席から発せられた女性の笑い声に店内の注目が集まる。そのテーブルに集う面々が魅力的な女性ばかりというのも、目立つ理由の一つに違いない。声の主は人里の守護者こと慧音先生だった。里で乱闘騒ぎが起こったと報告を受け、寺子屋から素っ飛んできた彼女だったが、現場で見たものが金髪美少女に野菜で叩かれている男の姿だったのだから状況の理解に苦しんだという。
慧音さんが駆けつけ当事者から事情聴取ということになり、取締部屋もとい甘味処で俺とアリスと稗田阿求さんと慧音さんの四人で卓を囲んでいた。寺子屋はひとまず自習だそうな。ちゃんと勉強するんやで、子供たちよ。
「からかわないでくださいな、上白沢先生」
「ごめんなさいね。優斗が迷惑かけちゃったみたいで」
「いえ、もとはといえば私がぶつかってしまったのがいけなかったのですから」
慧音さんのからかうような一言に、隣に座っていた稗田嬢が困ったような苦笑いでやんわりと言葉を添える。その向かいでアリスが申し訳なさそうに両手を合わせていた。阿求様はそれに謙虚な姿勢で答える。実に平和で和む。結果的に三人の麗しき女性に囲まれているという大勝利のオマケ付きときたもんだ。しかも隣はアリスである。これを僥倖と言わずに何と言おうか。いや、もちろんアホな珍騒動やらかした反省はしてますよ?
取り調べも終わり穏やかムードになったところで、ススッと団子が積み重なった皿を彼女達の前に差し出し、場を仕切り直す。
「まぁまぁ、反省会は終わりにしましょうや。ここは俺の奢りなんで、どうぞ皆さん召し上がってくださいまし」
「調子に乗らないのっ」
「あいでっ」
おどけた調子で言ったせいか、アリスから軽いデコピンをお見舞いされる。といっても実際にダメージはなく、むしろくすぐったかった。甘いものを前にしてアリスの機嫌も直ったようで、悪戯染みた微笑みを浮かべている。女の子はスイーツ好きというのは、『外』でもここでも変わらないことに安心した。
みたらし団子を一つ手に取りながら、阿求様が俺達を温かく見守っていた。
「お二方は仲がよろしいのですね」
「ふぇ? そ、そう見えるかしら?」
「はい、とても」
春風のような優しい笑みで答える大和撫子。彼女の純粋な言葉にアリスは少々戸惑い、どう返せばいいのか困っている様子だった。ちょっぴり顔を赤らめてチラッと俺の方を見ると、すぐに視線を戻してしまった。今日もアリスが可愛くて心が満たされる。
やがて、対面している阿求様と慧音さんから向けられるむず痒い視線を誤魔化す感じで、アリスは俺の前にある皿を大げさに指差した。
「ゆ、優斗はこれ食べ終わるまでお団子はお預けだからね! わかった!?」
「イエス、マム。お残しは許されざることだと、忍者学校の食堂のおばちゃんが言っていたよ」
人形遣いの命令に、両手を上げて了解の意を示す。怒ったような顔で声を強めているが、まだ頬が桜色に染まっているので照れ隠しっぽく見えて萌えた。
ちなみに、彼女が指差したのは先ほどの戦いで使われた長ネギでござんす。甘味屋の店主のご厚意で調理してもらったものであります。焼き鳥のネギのみバージョンみたいな具合で、輪切りにしたのを串で通し醤油を垂らしながら炙って出来上がり。「スタッフが美味しくいただきました」とかいうテロップが流れてきそうだ。
それぞれ食べ物を口にし舌鼓を打つ。そんな中、慧音さんが阿求様に問いかけた。
「そういえば、阿求殿も鈴奈庵に行っていたそうだな?」
「はい。小鈴も相変わらず本のこととなると勢いが止まらなくて」
「元気なのが彼女の取り柄だ。良いことじゃないか」
二人の会話に耳を傾けていたおかげで、本来の予定を思い出した。サブイベントが濃過ぎて忘れるところでござった。本当に、本当に、何て遠い回り道。スティールボールラン。
「おっと、そうだった。そこに行こうとしていたんだった」
俺の発言に女性三人の視線が集まる。最初に口を開いたのはアリスだった。
「鈴奈庵に行こうとしていたの?」
「今度二人で一緒に行こうって、前に紅魔館で約束しただろう? その下見しようと思って」
「あ……覚えててくれたんだ」
「アリスとの約束を忘れるなんてあるわけないさ。たとえ記憶喪失になっても覚えているとも」
「……バカ」
目の前で繰り広げられる初々しい雰囲気に、二人の歴史家が顔を寄せてコソコソと耳打ちしていた。
「二人とも本当にお似合いだな」
「ふふ、そうですね」
食後、会計を済ませて店を出る。慧音さんと阿求様とはここでお別れとなった。慧音さんの場合、土壇場で自習時間にしてしまったのだから早く戻らねばならないだろう。子供たちが休み時間にしていないか心配である。そうなった原因作ったの俺だけど。
「ご馳走様、それでは私は寺子屋に戻る。あとは二人でゆっくりしていくといい」
「私も屋敷に戻ります。本日は楽しませていただきました。ありがとうございます」
「はいっす。お二人も道中お気をつけて」
「また一緒にお茶しましょう」
去りゆく後ろ姿が小さくなるまで見送る。予想以上の出費に財布の中がやや軽くなってしまった。近々また香霖堂で入荷商品の鑑定依頼があることを期待したい。
俺とアリスの二人だけになったところで、彼女に今後の予定を尋ねる。
「アリスはどうするん? 博麗神社に戻るのか?」
「ううん、このまま優斗と一緒にいるわ。また変なことしないように見張っているから……ね!」
「ハッハッハッ、こいつぁキビシー。んじゃ例の本屋さんに行きましょうかね?」
「ええ、そうしましょうね」
二人して冗談を交えた作戦会議が可笑しくて、顔を見合わせて一緒に笑ってしまう。下見のつもりが本チャンになったが、私は一向に構わんッ。俺の隣を楽しげな表情で歩くアリスを見ていると、こっちも嬉しくなりニヤけているのが自分でもわかった。
はてさて、目的地目前で寄り道するという、はじめてのおつかいレベルのハプニングもあったものの、ようやく鈴奈庵の前まで辿り着いた。店先に吊るされた暖簾をくぐり、「ちはーす。三河屋でーす」と呼びかけながら中に入る。
「いらっしゃいませー! あ、どうもアリスさん」
元気な掛け声とともに出迎えてくれたのは、小動物を思わせる小柄な少女だった。亜麻色の髪をツーアップにしてまとめている。着物の上に黄色いエプロンをかけているため店員だと分かりやすい。阿求様とは対照的に活発な印象を与えるタイプだった。
本を読んでいた少女はつけていた真ん丸レンズのメガネを外し机の上に置くと、席を立って接客モードに入った。メガネは読書のとき限定の装備品らしい。ついでに机の上置いてあるラッパ型のレコードにレトロを感じた。
「こんにちは、小鈴ちゃん。元気そうね」
「もちろんですよ。元気いっぱいの鈴奈庵を今後ともよろしくお願いしまーす」
なんとまぁ商売魂溢れる女の子だった。天真爛漫な感じで実に清々しい宣伝である。新聞記者をやっている烏天狗とコンビ組んだら面白いことになるのではなかろうか。
「あれ?」
アリスに小鈴ちゃんと呼ばれた少女が、ようやく他にも来客があったことに気付いた。クリクリとしたパッチリお目目で、「ん~?」と興味深そうにじっと見入ってくる。
「な、なんぞ?」
「どこかで見たことあるような……」
下から覗き込む形で俺の顔を凝視しながら、何かを思い出そうとうんうんと唸っている。一つ一つのアクションがデカい娘さんだ。あまりにも大仰に悩んでいるもんだったので、「大丈夫か?」と声をかけようとした途端、
「ああーーーッ!!」
「ポゥッ!?」
耳をつんざく鋭利な大声が鼓膜を貫通した。近所迷惑じゃないのか、今の絶叫。思わずマイケル化してしまったではないか。思わず華麗に後ずさりするところだったぞ。
叫び終えた彼女はまるで犯人を名指しする名探偵のように、俺にビシッと指を突き付けながら高らかに言い放った。
「いつぞやの新聞に載っていたアリスさんの彼氏さん!!」
「ふぇええ!? ちょっ、小鈴ちゃん何を言い出すの突然!?」
少女の言葉を聞くや否や、カァアアッと赤面したアリスが俺を押しのけて説得体勢に入った。あー、そういえばそんなこともあったっけなぁ。懐かしや懐かしや。
しみじみと思い出に耽っている間にも、アリスは誤解を解こうと奮闘していた。
「アレは文の思い込みだから! そもそもあの新聞が偏見混じりなのはいつものことって知ってるわよね?」
「えー? 本当のところはどうなんですか?」
「もう、いい加減にしなさいっ」
「あいたっ。はーい」
アリスのチョップが店員少女の脳天にコツンと当たる。ノーダメージだったみたいだが、にやにやスマイルで詮索してきた彼女も、ペロッと舌を出しつつの返事をして更なる追及はしなかった。
それから下世話な笑顔からナチュラルな営業スマイルに変わると、少女がこちらに向き直った。
「改めまして、鈴奈庵へようこそ。当店は妖魔本から外来本まで多数取り揃えている貸本屋です。立ち読み大歓迎ですが、できれば借りていってくださいね。そして私はこの店の看板娘、本居小鈴といいます」
「よろしゅう、俺は天駆優斗。アリスとは……何ていえばいいんだろうな?」
「そんなの私に聞かないでくださいよぅ。彼氏さんじゃないんですか?」
「だとしたらどれほど素晴らしいことかねぇ」
自己紹介が終わると、来たはいいがこれといった要件がなかった俺達は、小鈴も含めてそれぞれ自由に過ごしていた。壁を沿ってズラリと並び立つ本棚に敷き詰められたタイトルを眺めながら店内を闊歩する。幻想郷クオリティとでも言おうか、懐かしいタイトルのマンガから自分が生まれる前の頃の出来事を特集した雑誌まで置いてあった。アリスの方はすっかり集中モードのスイッチが入ってしまったらしく、長椅子に座って熱心に読書をしている。
俺が本棚の前で立ち止まっていたのを見た小鈴が、こちらに歩み寄った。
「何かいいものはありました?」
「うーむ、そうだな。そういえば、幻想郷でも珍しい本とかってあるのか?」
「それなら妖魔本なんてどうでしょう。うちなら貴重な資料まで色々取り扱っていますよ」
「魔導書みたいなもん?」
「そうですね。妖怪が綴った歴史本や妖怪が人間に向けて書いた本など、何かしらの形で妖怪が関与している書物をそういいます。グリモワールも妖魔本の一種に入りますね」
「赤い本とか出てきそうだな、ザケルガ撃てるやつ」
「ざけるが?」
「こっちの話さ。気にせんといて」
「はぁ、そうですか?」
優斗と小鈴が話している間も、アリスは目の前の活字を夢中になって追いかけていた。彼女が読んでいるのは『外』の世界で執筆された小説。それもファンタジー要素も入った恋愛小説だった。主人公がヒロインを守るために命懸けで強敵と戦う王道なストーリーで、特にバトル要素よりも恋愛描写がアリスの心を鷲掴みにした。物語の佳境で、二人が最初に出会った場所で主人公がヒロインを守り抜くことを誓う場面を迎えたところで、アリスは本から視線を少しだけ上げた。
彼女の眼差しが向けられる先には一人の青年が居る。見られていることに気付いていない彼の後ろ姿を、物語の主人公と置き換えて想像してみる。大切なヒロインを守るため、勇敢に立ち上がる騎士の姿に。
「私のことも、守ってくれるのかな……」
やがて、アリスが読書を終えたタイミングで、小鈴が「一休みしましょう」と提案してきた。
俺もそれに賛同し、アリスが座っている長椅子の空きスペースに腰を下ろす。しばらくして、小鈴がせんべいとお茶が載ったお盆を運んできた。礼を言い、ありがたくいただくことにする。バリボリと音を立てて醤油味の焼き菓子を齧っている傍ら、アリスは読み終えた余韻に浸っているのかどこかボーっとしていた。
乾いた口の中をお茶で潤していると、アリスが話しかけてきた。
「あのね、優斗」
「んむ?」
「例え話なんだけど、もしも私が危ない目に遭うかもしれないとしたら……どうする?」
彼女にしては珍しい質問だったから少しばかり意表を突かれた。そもそも聡明な彼女なら極限までリスクを避けられる手段を模索するだろうし、俺とは違って危険なことに無暗に首を突っ込んだりもしないだろう。もっとも、これはそういう成功率云々の質問ではない。彼女が聞きたいのは夢や可能性を想像する「if」の話だ。
アリスの例え話に興味をひかれ、小鈴も何やらワクワクした感じの輝いた目で俺を見ていた。
「んー、そうだな。バトルマンガなら『世界中を敵に回しても、お前を守る!』なイケメンシーンなんだろうけど、俺じゃ力不足でそんな気障な台詞は似合わんし……」
「う……それもそうよね」
「ちょっと、優斗さん――」
「だから」
小鈴が表情を一転して非難の声を浴びせようとするのを遮る。
人形を自在に操れて弾幕も撃てる魔法使いのアリスを、ただの人間の俺が守ろうとするなんておこがましい話かもしれない。だが、一人の男としてこの可憐な美少女の危機に何もしないなどできようか、いやできない! 反語!
たかが例え話と侮るなかれ。俺は一つの決意を示すため大真面目で答えを返した。
「その時は世界中を味方に入れて、誰よりも早くアリスのもとに駆けつける」
『……………』
「ちょいと、お二人さん。なんでそこで無言なん? 俺の回答ダメだった?」
二人とも顔を赤らめて硬直するという予想外のリアクションが返ってきた。これはアレか? クサすぎて聞いてるこっちが恥ずかしいわ、みたいな感じなのか。だってねぇ、アリスのピンチとなれば幻想郷の皆が動くと思うんですよ。だけど真っ先に乗り込むのは自分だという男の意地もあっての答えだった。っていうかどうすりゃいいのよこの空気。
「いいえ、素敵な答えでした」
「What? ああ、咲夜さんでしたか。不意打ちすぎて驚いちゃいましたよ」
「うふふ、申し訳ありません」
アリスと小鈴が沈黙する中、突如として聞こえてきた第三者の声にネイティブ発音とともに振り向くと、俺とアリスの後ろに控えるようにメイド長が佇んでいた。いつでもどこでもメイドな彼女は、恭しく一礼して微笑みかける。ふつくしい。
咲夜さんは一歩横に移動してアリスの真後ろに立つと、人形遣いの肩に手を置いた。
「アリス、起きなさい」
「ふぇっ!? あ、あら咲夜じゃない。どうしたの?」
「え、あ、え? いらっしゃいませ……?」
咲夜さんのおかげでアリスが放心状態から回復する。ついでに小鈴も正気に戻ったみたいだ。というか最初の一言が「いらっしゃいませ」かい、商人ソウル半端ねぇな。
アリスの意識が戻ったのを確認したところで、彼女は再び頭を下げると要件を告げた。
「お嬢様の思いつきに付き合っていただきたく、お迎えに上がりました」
『……思いつき?』
つづく
次回、第三十話「君がメイドで執事が俺で」
タイトル予告でネタバレしている件については見逃してやってくださいまし。
このタイトルを使いたかったんや……! ←デジャヴ