東方人形誌   作:サイドカー

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土曜に投稿しようと思ったのに、待てませんでした。
イベントが楽しすぎて創作意欲が湧いたのがいけなかったんや!(前回の前書きの続き)

いつもにも増して妄想乱舞していますが、今回もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第三十話 「君がメイドで執事が俺で」

 颯爽と現れたメイド長の発言に、俺とアリスは揃って首を傾げた。言葉のとおりと受け取るならば、彼女の主が何かを企んでいるようだが、その内容がまったくもって分からない。

 何か一つでも情報を得るべく、咲夜さんに質問してみた。

「一体何が始まるんです? 咲夜さん」

「申し訳ありません。私も『面白いこと思いついたから、あの二人を連れてきて頂戴』と仰せつかっただけでして、詳しいことはお嬢様ご自身が説明なさるかと」

「随分と突拍子もない話ね」

「とりあえず、行ってみないことには始まらないか。あー、でも今から紅魔館に向かうとだいぶ遅くなりそうだな……」

 なんやかんやで現在時刻は昼をとっくに過ぎてもう夕方間近だ。これから紅魔館を目指して出発するとなると、到着する頃には夜になっている可能性が高い。いや、吸血鬼にとってはむしろ丁度良い時間なのだろうか。

 どうしたもんかと悩んでいると、その懸念を取り除くように咲夜さんが自信ありげに言った。

 

「ご心配には及びません」

 

 その声を聞くや否や、周りの景色がガラリと変わった。

 時代を感じるこじんまりとした古本屋から一転し、広々とした長い廊下のド真ん中に俺達は立っていた。すぐ目の前には見上げるほどに大きな扉が立ち塞がっている。西洋貴族の城を思わせる厳かな雰囲気と気品が漂う。はい、どう見ても紅魔館でございます。近道だとか時間短縮どころの話じゃなかった。身をもって体験したおかげで、彼女の能力がいかに凄いかがよくわかった。

 手品師もビックリのテレポートを披露してくれたメイドさんに向けて、パチパチと称賛の拍手を送りつつ思った疑問を口にする。

「ところで、時間を止めている間は咲夜さんしか動けないんですよね? どうやって俺達二人を運んだんですか?」

「それについては企業秘密ですわ。ヒントを差し上げますと……メイドですから」

「はっはっ、こりゃ一本とられましたなぁ」

 実際にはヒントになっていないが気にしてはいけない。女性の秘密を探るのはあまり褒められたことではあるまい。何より、クールビューティーが茶目っ気あるウインクを決めたギャップ萌えが辛抱たまらぬ。うっかり鼻の下が伸びる伸びる。

 しかし同時にある問題が浮上し、俺は隣にいる彼女に声をかけた。

「なぁ、アリス」

「……何よ?」

「俺の足踏んでいるんだけど気付いてる?」

「……知らない」

「えぇえー……」

 アリスは不満そうに口を尖らせ、どこか拗ねた感じで俺から顔を背けた。そっけない返事とは裏腹に、俺の足にグリグリと圧し掛かるピンポイントな重みが自己主張してくる。これもまた一つのギャップなのか。つーんとそっぽを向くアリスに戸惑い、痛みを受けながらアホなことを考える。

 そうこうしているうちに、このままではらちが明かないと思われてしまったのか、咲夜さんが一歩前に出ると「失礼します」と一声かけ眼前のドアノブに触れた。廊下と部屋を遮っていた仕切りがなくなり、部屋の中心に伸びる一本の道が拓かれた。この館の名に相応しく赤い、いや紅い絨毯が真っ直ぐな通路を描いている。直線の先には玉座が仰々しく構えていた。君主の席に腰かけているのは一人の少女。俺達よりも小さい容姿をしているが、その雰囲気と彼女の背中に広がる黒い翼が只者ではないことを物語っている。

 誇り高き吸血鬼にして紅魔館の主レミリア・スカーレットの瞳が、こちらを見据える。

「よく来たわね。アリス、それに優斗」

 優雅な笑みで出迎える姿が様になっている。知らない人が見れば、そのカリスマっぷりに圧倒されるであろう。しかしながら、こちとら既に何度も顔を合わせている間柄である。ゆえに変に畏まることもなければ恐れ戦くこともなかった。さらに彼女の妹に関していえば、アリスにくっつくのが好きな無邪気で甘えん坊なイイ子ですしお寿司。

 俺達が立っている入口からレミリアが座る椅子まで距離があったため、中に入り彼女の前まで歩み寄った。

「よっす。呼ばれて飛び出て只今参上したぜ」

「それで、どんなことを思いついたのかしら?」

 アリスが早くも用件を尋ねる。レミリアは余裕に満ちた表情を崩すことなく、「それはね――」と答えを告げた。

 

「貴方達二人に今夜限定で従者になってもらうことよ」

 

 しばしの沈黙。

 彼女が今言ったことを頭の中でリピートしてみる。つまりは「私の執事をやらないか?」というわけか。なんという三千院家。レミリアの思いつきの中身を把握したら予想外な考えだった。あ、咲夜さんも珍しくちょっと驚いている。

 アリスが呆れに近い表情を浮かべながらレミリアを見た。

「どうして、その考えに至ったのかしら?」

「だって面白そうじゃない。どう? 今夜だけでいいから付き合ってみない?」

「いいぜ、その話乗った」

 アリスに代わって俺が答える。即答級のOKサインに、レミリアが満足げに頷いた。その一方で、アリスが何か言いたそうに「優斗」と俺の名を呼んだ。あまりにも考える時間が短かったからノリだけで答えたと思われたのかもしれない。半分正解だけど。

「いいんじゃないか? レミリアの言うとおり、確かに面白そうだ。それに、咲夜さんの手伝いにもなる。彼女にはお礼したいことが色々あったし、丁度良い機会だと思うんよ。咲夜さんは俺達が働く件については構いませんか?」

「はい、お嬢様の提案ですから。私としましても手伝っていただけるのでしたら大助かりですわ」

「だそうだ。アリスはどうだ?」

「もう、仕方ないわね。いいわ、付き合いましょう」

「話はまとまったようね。そうと決まれば、まずは形から入りましょうか。咲夜、二人の着替えを用意して」

「畏まりました、お嬢様。ではお二人ともこちらへ」

「了解です。んじゃレミリア、またあとでな」

 咲夜さんに先導され、俺達は謁見間を後にした。再び扉が閉じられる間際に「ふふ、今夜は楽しくなりそうね」というレミリアの上機嫌な声が聞こえたのが、妙に印象に残った。

 

 

「執事服なんて初めて着たんだが……高そうだなコレ」

 紅魔館の物なら実際高級な品なんだろう。滑らかな肌触りから素材の良さがうかがえる。俺は姿見の前に立つと、服装のチェックに入った。目の前に移る自分の姿は、色々なフラグを乱立させる借金執事と同じものを身にまとっていた。それもコスプレ用の衣装ではなく、本物のバトラー服だ。

 慣れない格好をしているのもあってか若干ぎこちないものを感じないでもないが、本格的な衣装を着たおかげか気分が高揚する。制服って大事だよね。学生服は学生の特権だし、職業の専用服は一種のステータスだと思う。

 当たり前だが、男性更衣室として用意されたこの部屋には俺しか居ない。アリスと咲夜さんは別の部屋で着替えをしている。まぁ、執事服を着るのは初挑戦とはいえ、基本的にはスーツと似通っているから問題が生じることはなかった。着物とか袴だったら手こずったかもしれない。

 軽くストレッチして少しでも体に馴染ませようと試みていると、コンコンと部屋の入口をノックする音が耳に届いた。

「優斗様。入ってもよろしいですか?」

「問題ないです。ちょうど着替え終わったところなんで」

 返事をすると、「失礼いたします」との一言に続いてドアが開かれた。

 先に入ってきたのは瀟洒な銀髪メイド。そして、彼女の後ろから控えめにそっと入ってきたのが、

 

「えっと、あの……お、お待たせ」

 

 その光景を見た瞬間、理性が破壊させるかと思った。

 まず目を惹いたのは、白と黒のコントラストで描かれたその芸術の全体像。表面の大半を占める純白のエプロンをさらに強調するように、黒の洋服が襟元や肩から覗く。袖は肩回りのみを覆い、きめ細やかな肌をした華奢な腕が露わになっていた。スカートの丈とエプロンの裾がほぼ同じラインで重なり、膝上から足元にかけて続く健康的な脚を包む黒ストッキングが、何とも言えない艶めかしさを放っている。

 そして、まるで水面に反射する日の光のような輝きをみせる、彼女の鮮やかな金色の髪に、メイドの象徴ともいえる波打つデザインの白いカチューシャが重ねられていた。一つ一つが見惚れてしまうほどに完成されすぎたアートだった。

 メイド服に身を包んだアリスが恥ずかしげに俺の前に立つ。照れているのが非常にわかりやすいくらいに頬が赤く染まっている。吸い込まれそうになる青く澄んだ瞳が、上目遣いという反則技を繰り出した瞬間、それがトドメとなった。

「ごふっ……!!」

「きゃあっ!? ちょっと優斗どうしたの!?」

「いかん、アリスのメイド姿が可愛すぎて鼻血出そうなんだが……萌え死にしそうなくらいに似合いすぎて可愛すぎて。最高すぎるぞ、アリス。このままずっと見ていたいぜ」

「~~~~~~~っ!!」

 ドストレートな感想を伝えた瞬間、アリスの顔全体がボッとさらに真っ赤に茹で上がる。待って、それ以上は俺がヤバいから。飛ぶ、理性が飛んでいってしまう。い、いかん……とにかくクールになれ、俺よ。落ち着いて素数を数えるんだ。九九でもいい。というわけで皆様、しばらくお待ちください。

 

 数分後。見えない衝撃波が直撃して崩れ落ちた体勢から、かろうじて回復に成功しよろよろと立ち上がる。アリスの方も深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻していた。そうして改めて向かい合ったところで、アリスは俺の襟元を見て「あっ」と声を漏らした。

「優斗、ネクタイが乱れちゃっているじゃない。 直してあげるから、じっとしててね」

「お、おう。すまない」

「……これでよし。うん、カッコいいわよ」

「ゑ?」

「あ……」

 アリスの言葉を聞いて、俺はいつになく間抜けな声を出していた。それにより、アリスは自らの発言に気付いて目を見開いた。数秒とかからず再び彼女の顔がリンゴのように紅潮していく。直後、アリスは慌てた様子で俺の襟元からパッと手を離した。

 

『……………』

 

 なんてこったい、お互い目を逸らしたまま言葉に詰まってしまったではありませんか。アリスの不意打ちすぎる褒め言葉に、咄嗟に気の利いた返しができなかった。一生の不覚である。第三者から見たら、今の俺達は一体どんな感じに映っているんだろうか。アリスが凄まじい勢いで赤面しているのは見えた。実のところ、俺も顔が熱くなっていたりもする。もしかしたら今度は二人とも赤面しているのかもしれない。

 向かい合っているのに言葉が出てこない、気まずさとはまた違った雰囲気が場を包む。いかんね、久々にきちゃったよアレ。こう、むずむずして悶絶しそうになるこの感じがよォ! だ……誰か、誰かヘルプウィー!

 そんな心の声が届いたのか、この止まった時を動かす救世主が現れる。それは時を操る能力を持つ彼女だった。ただし、今回は能力を使わず、

 

「こほん」

『――ッ!?』

 

 事務的なまでに冷静さ溢れる咳払いを一つ、ただそれだけなのに俺とアリスは思いっきり肩を跳ね上げて動揺した。天井高くジャンプでもしそうなくらいに盛大なリアクションだった。

 それすらも咲夜さんは意に介さず、普段以上にクールな眼差しで俺達を射抜いた。あまりにも瀟洒レベルが高すぎて戦慄が走る。メイド長すげぇ。

「お二人ともよろしいでしょうか?」

「もっもも、もっちろんヨロシイですヨ!? バッチオーライ何時でもカモンッ!!」

「だ、だだ大丈夫大丈夫よ! 早く始めちゃいましょ!!」

 ずっと見ていたにもかかわらず、顔色すら変えずに話を始めた彼女は相当な大物だと思う。一方で俺とアリスは二人揃ってテンパっているのが丸わかりだった。バレバレユカイ。踊ってみたのタイトルで動画アップされそう。

 

 仕事を始める前から一波乱発生したこのイベント、レミリアの思いつきがとんでもない爆弾発言だったことに今更になって気付いた。どうか、吸血鬼姉妹の今日の晩餐に俺の鼻血で満たされたグラスが出てこないことを、守矢家の神々に祈るとしよう。

 

 

つづく

 




メイド喫茶行きたい
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