皆様、連休はいかがお過ごしでしょうか。サイドカーでございます。
あまりにも長くなりすぎたので大幅にカットしたにもかかわらず、この文字数に自分でも唖然としております。前回に引き続き勢いでやってしまった感じですが、今回もごゆるりと読んでいただけると嬉しゅうございます。
「それでは仕事内容を説明いたします。アリスは妹様の遊び相手を、優斗様は私と館内の清掃に回っていただきます」
「了解です」
咲夜さんから本日のミッションを告げられ、いよいよメイド&バトラーの出番と相成った。アリスとは別行動になってしまうが仕方あるまい。彼女のメイド姿はあとでじっくり観察して、しっかり目の保養をするとしよう。もし、今度またメイド服着てほしいと頼んだら着てくれたりするんかなー、とかちょっと期待してみたり。
さて、アリスはフランの相手をしている間は、俺は掃除担当か。フランはアリスに懐いているから、妥当な役割といえる。もっとも、『外』でバイトを色々と掛け持ちしていた俺でも執事はさすがに初めてだ。とはいえ、ここはビシッと決めてアリスや咲夜さんにイイところを見せたい。
好感度アップ作戦を練っているのに意識を集中していたせいか、俺はアリスが少しだけ複雑そうな顔をしているのに気付いていなかった。彼女は周囲に聞こえないくらいの小声で呟いた。
「優斗と咲夜が二人きり……」
「二人きりではないわよ。妖精メイドもいるから、心配いりませんわ」
「なっ!? べ、別に心配なんて!」
「うおっ、いきなりどしたん? 大きな声出して」
「何でもない! じゃあね!」
咲夜さんから何かを言われてアリスが急に焦り出したと思ったら、次の瞬間にはプンプンと怒った風な顔で部屋を出て行ってしまった。バン! とドアを強めに閉めた音が、彼女の心情を表していた。もしや、俺ってばまた何か悪いことしてしまったのかしら。どうしたのか聞いただけのつもりだったが、デリカシーがないとか思われていたらえらいこっちゃ。
救いを求めて咲夜さんの方を見たが、彼女は小さく肩をすくめるだけだった。
とりあえず、気を取り直してお仕事開始。
大図書館へと続く階段が近くにあるフロアが今回の掃除範囲だ。陸上競技でもできそうな長い廊下だが、常日頃から完璧なまでに掃除が行き届いているため、汚れは見当たらない。正直俺の出番がなさそうなくらいです。咲夜さんといい妖夢といい、デカい屋敷に仕える方々の掃除スキルの高さにはビックリである。ただ、妖夢にはちょっとドジッ娘属性の片鱗を感じているのはここだけの話。
従者達のハイスペックさに改めて感心させられていると、咲夜さんから布巾を手渡された。今回の掃除用具のようだ。
「それで、俺は何をすれば?」
「はい、通路や壁に飾ってあります装飾品を磨いて回るのをお願いいたします。中には壊れやすい品もありますから、取り扱いにはお気を付けください。私も近くにおりますので、何かございましたらお呼びくださいませ」
「お任せください。咲夜さんのお役に立てるとあらば、たとえ火の中水の中。この天駆優斗、全力でご期待に応えましょう!」
「まぁ、頼もしいですわ」
俺のしょーもないジョークにも笑顔で応じてくれる銀髪女神に一段と気合が入る。彼女は「それでは、お願いいたします」と一言だけ残し、パッと目の前からいなくなっていた。マジでスゲーな、時間操る系の能力。
何はともあれ、さっそく作業に取り掛かるとしよう。武器(布巾)を装備し、彫刻やら花瓶やらを拭きつつ館内を前進する。壁に取り付けられている絵画は落とさないように慎重に外し、額縁を磨く。ちなみに絵はレミリアの肖像画だった。金持ちの館あるある光景の一つである。
絵画を元の位置に戻し、次のターゲットを補足する。金持ちあるある其の弐が俺の前に立ちはだかっていた。台の上にドッシリと鎮座しているのは、
「いかにも歴史ありそうな模様をした壺ときましたか、嫌なフラグの予感がビンビンするぜ」
クールに去った喧しい実況者の台詞と似てしまったが偶然だ。これはアレやで、きっと手を滑らせて割ってしまう展開が待ち受けているに違いない。だがしかし、来ると分かっているなら回避できる。当たらなければどうということはない。
強敵に立ち向かう勇者のごとく身構えていると、ふとすぐ傍から視線を感じた。隣を見ると、
「…………」
メイド服を着た小さな女の子がじーっと俺を見上げていた。体はチルノよりも小さく、背中に透き通った羽が生えている。少女は言葉を発することなく、物珍しそうにこちらを眺めていた。
「ああ、妖精メイドか」
説明しよう。少女が何者かというと紅魔館に仕えている妖精メイドなのである。この館には咲夜さんや美鈴の他に、この子のような妖精達を従者として従えているのだ。知能が低く、喋ることはできないが言葉は理解できるらしく、主に人海戦術でこの広い屋敷の仕事をこなしている。ただ、厄介なことに知能は低くても悪知恵は働いて悪戯することがあるそうな。悪戯好きは妖精の本能ですから、というのは咲夜さん談。メイド長の負担がそれほど減っていないのが不憫でならない。
この子も掃除担当なのだろうか。妖精メイドを観察していると、彼女はおもむろに壺の縁を小さな両手で掴むとフワフワと浮き始め、俺の目線と同じくらいまで上昇した。そのおかげで壺が置かれていたスペースが空き、全体の拭き掃除ができそうだった。
「もしかして、手伝ってくれるのか?」
俺がそう問いかけると、彼女はニコッと微笑んだ。なんだ、イイ子じゃないか。そうよ、喋れなくても意思の疎通はできるのよ。この子は真面目で働き者なタイプと見た。
置き場をササッと拭いて「よし、もういいぞ」と妖精メイドに合図を送る。それを受け取った少女は、
「……♪」
壺を持ったまま廊下の先まで飛んで行ってしまった。
「デリバリーサービス!?」
びっくらこいて思わず叫んだ。何てこったい、手伝ってくれたんじゃなくて悪戯したかっただけかい。意思疎通ができたとか勘違いも甚だしい数秒前の俺をブッ飛ばしてやりたい。
「って、それどころじゃない! 何処へ行こうというのだね!?」
ラピュタ王の台詞を拝借しつつダッシュで追跡を開始する。追いかける二人の姿はさながらルパンと銭型のとっつぁん。ここから始まる大レース。君に賭けたデッドヒートのアイラビュー。
脇目も振らずにひたすら走る。非常に不味いことに、前方を飛行する逃亡者の手元がブツの重さに耐えられなくなってきたのかプルプルと震えていた。
「モウヤメルンダ!」
「……!」
ジャスティスのパイロットの叫びと同時に妖精メイドの手から壺が滑り落ちる。落下していく様子がスローモーションで再生されているような錯覚に陥る。このままでは……このままでは、他人様の物を壊したとアリスに嫌われてしまうではないか!
「さっせるかぁああああああ!!」
瞬間、火事場の馬鹿力か潜在能力が覚醒したのか。俺は自分でも驚くほどの超加速で助走をつけると、バレー選手みたく高々と跳ね上がった。今なら時をかけることもできそうな気がした。
ターゲットに手を伸ばし、ガシッと空中でキャッチに成功する。そして華麗に着地を決めたと思われた時、その違和感は訪れた。重心が前方に傾く奇妙な浮遊感。なぜか足場が安定せず前のめりになる。何事かと視線を足元に落とし、理解した。あーなるほど、走り回っていたせいで前をよく見ていなかったけど、そういうことね。
俺が着地したのは廊下の上ではなく、地下へと続く長い階段のスタート地点でした。
「あらららららわぁああああッ!?」
しかも助走しすぎたせいか止まれない。それどころか重力の後押しも加わってますますスピードアップしていく。大泥棒の三世が落としたワイヤーロケットを追いかける、カリオストロのある場面に酷似していた。シーンを忠実に再現しようというのか、やがて壁みたいな分厚い扉が見えてくる。このままでは正面から激突して壺と俺のメンタルが割れてしまう。回避する手段は一つしかなかった。
「飛べよぉおおおおお!!」
下り切るまで残り数段というところで、俺は力いっぱい踏み込むと再び時かけポーズになった。そのまま宙でぐるりとUターンして背を向ける。数秒後、特攻さながらの体当たりで扉が蹴破られ、デカい風船が爆発するような激しい音が図書館中に響き渡った。
『え?』
「あ」
俺を含めた三つの声が重なる。
ドアにぶつかり勢いが殺されたおかげで徐々に落下していく中、俺が見たのはアリスがフランに絵本を読み聞かせている微笑ましい光景だった。椅子に座るアリスの膝の上にフランが乗っかり、アリスがフランにも見えるように絵本を広げている。平和な一コマに武力介入する第三者のド派手な登場の仕方に、二人の金髪少女は揃って呆気にとられた顔をしていた。
その様子に癒されているのも束の間、背中から床に叩きつれられるみたいにダイレクトアタックが炸裂する。それでもまだ勢いが完全に止まり切らず、俺は彼女たちの前をF1カー並みに高速のスライディングで通り抜け、行き止まりにあった本棚にドガシャーン! とゴールインした。
「ゲブホォオオッ!?」
「え、ウソッ優斗!? どうして何があったの!?」
「わー! すごいすごい、もう一回やって」
アリスが混乱しながらも慌てて俺のところまで駆け寄ってくる。一方でフランはキラキラと目を輝かせてアンコールを希望していた。すまんが勘弁してくれ……
それから間もなく、騒ぎを聞きつけた小悪魔とパチュリーがやってきた。パチュリーは微塵も取り乱していなかったが、その分小悪魔の騒ぎっぷりが一段と大きかった。
「な、何事ですか!? 敵襲ですか!? また魔理沙さんですか!? って優斗さん!?」
「こあ、落ち着きなさい。それで、状況を説明してくれるかしら?」
「ああ、実はな――」
かくかくしかじかと経緯を述べる。上のフロアで備品を磨いて回っていたこと、メイド妖精が手伝ってくれたかと思ったら悪戯だったこと、壺を割らずにキャッチしたが大図書館への階段に着地してしまい暴走機関車と化したことなどなど。
事情を理解してもらうと、パチュリーが小悪魔に咲夜さんを呼びに行くよう指示した。小悪魔が図書館を出たあたりで、アリスが俺の傍にしゃがんで心配そうにこちらを覗き込んだ。
「大丈夫?」
「ああ、問題ない。ほら、この通り壺には傷一つないぜよ」
「もう! そうじゃなくて、優斗は怪我していないかってことよ。お願いだから、無茶なことはしないで……」
「……悪い。心配かけちゃったな、これからは気を付けるから」
「うん……」
アリスが俯き小さくうなずくのを見て、罪悪感と反省の念が込み上げてくる。普段のノリでやってしまったが、確かに結構危なかった。あれだけダイナミックに激突したのに怪我しなかったのが不思議なくらいだ。
そんな俺達のやり取りを見ていた、もう一人の魔女が特に気にした風もなく口を開いた。
「アリスにとっては紅魔館の備品よりも彼の方がずっと大事だものね」
「ぱっ、パチュリー!? いきなり変なこと言わないでよ!」
「変なこと、ね。そういうことにしておいてあげるわ」
「~~~~~ッ!!」
しばらくして、小悪魔が咲夜さんを連れて戻ってきた。
来るや否やメイド長は深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。私の監視不行届きです。あの妖精メイドには私から厳しく躾けておきます」
「いえいえ、こちらこそ危うく装飾品を壊すところで、本当にすみませんでした。とりあえず、コレどうします?」
「あの妖精メイドに罰として責任をもって戻させますので、ご安心ください」
「いやまぁ、ほどほどにしてやってくださいね。悪気は……あったかもしれませんけど」
「お気遣いありがとうございます。それと、お嬢様がお呼びでした。優斗様と話しがしたいと」
「レミリアが? わかりました。ちょっくら行ってきます」
お嬢様がお呼びとあらば執事(仮)としては向かわねばなるまい。君主が待つ場所を目指し、俺は図書館を後にした。アリスと一緒にではなく俺単品をご所望というのが気になるが、行ってみれば分かることだ。
再び謁見間へ赴くと、先ほどと同様にレミリアが腰かけていた。肘掛けに頬杖をつき、「来たわね」と赤い瞳がこちらを射抜く。
「お待たせしました、お嬢様」
「いつも通りレミリアでいいわ。敬語も不要。本当に従者になってほしいわけじゃないから」
「じゃあ何故、俺とアリスに従者ごっこをさせたん?」
「言わなかったかしら? 思いつきだと。貴方もアリスのメイド姿が見れて嬉しかったでしょう?」
「あややや、お見通しってわけかい。それで、話というのは何ぞ?」
俺が質問すると彼女は表情を崩すことなく、頬杖をしていないもう片方の手を前に出し、人差し指の先端をスッとこちらに向ける。ピストルを突きつけられるのに似た感覚がした。
「運命が見えたのよ。貴方達二人のね」
「運命、ときましたか」
レミリアの能力は「運命を操る程度の能力」と聞いている。早苗の能力もそうだがこっちも大概ぶっ飛んでいるな。運命を見たと彼女は言っているが、未来予知の類だろうか。
何より気になるのが、彼女は「貴方達二人」と言っていたことだ。俺ともう一人。誰なのかは大体予想がつく。俺の願望というのもあるけど。脳裏をかすめた彼女の笑顔は、いつも通り可愛かった。
「聞かせてくれるか?」
「もちろん、そのつもりで呼んだのだから」
そう言ってレミリアは頬杖を解き、両手の指を組んだ。祈りのポーズにも似ているが、彼女のそれは威厳と余裕の象徴だった。その姿勢のまま、まるで判決を下すかのように吸血鬼が告げる。
「運命は二つ。一つはいずれ大きな困難が立ち塞がるということ。もう一つは、これまでのようにはいられなくなるということ」
「うーむむ、何だか抽象的だな」
「そういうものよ」
具体的に教える気はないのか、はたまた彼女自身も知らないのか。レミリアはそれ以上のことは語らず、面白そうに俺を見るだけだった。
レミリアの発言の内容を整理しようと、頭の中では疑問や憶測が飛び交う。一つ目の大きな困難とは何だ? 定番で言えば、強敵でも現れるか無理難題でもふっかけられるあたりだが。だとしたら、二つ目は? これまで通りにはいかないということは、今のような生活はできないということだろうか。俺が現代に帰るのとは違う意味を指しているとしたら……なるほど、わからん。
頭を回していると、レミリアが問いを投げかけてきた。
「この運命にどう立ち向かう? 少なくとも良い知らせとは受け取らなかったでしょう」
「これから先に何があるにせよ、為せば為るさ。こういうのは出たとこ勝負の方が楽しいんでね」
「そう。つまりどうする気もないということ?」
「自分らしく気の向くままに動くってことだ。あー、でも一つだけ断言できることがあるぞ」
「ほう、それは?」
「アリスを傷つけるような結末だけは断固拒否する。そういう展開なら運命だろうがなんだろうがねじ伏せてやんよ」
言ってから気付いたけど、運命を操る相手に運命をねじ伏せる発言とは宣戦布告っぽいな。捉え方によっては相手のアイデンティティに対峙しているようなもんだし。
これは失言かと思ったが、どうやら無用な心配だったらしい。カリスマ吸血鬼は大層愉快そうにくつくつと笑みをこぼしていた。それに加えて、優美な感じの拍手で俺を褒め称えた。
「ククッ。素晴らしい答えだわ、エクセレント。先に呼んだのは正解だったわね――だそうよ、アリス?」
「……なぬ?」
レミリアの最後の一言に耳を疑った。しかし、どう見ても彼女は俺ではなくその後ろに視線を向けている。なんかもう考えられる状況が一つしかないんですけど。ほぼ確信に近い予感を抱きつつ後ろを振り返った。
そこには、熱に浮かされて上気した顔で立ち尽くしている人形遣いがいらっしゃった。
「あー、どしたん? アリス」
「えっとね、その、食事の用意ができたから呼びに来たの……」
「そーなのかー」
オーケー牧場、彼女が何でここに来たのかは把握した。問題なのは、
「……もしや、聞かれてた?」
「ええ、バッチリね」
独り言に近い俺の問いに、顔を伏せてしまったアリスに代わってレミリアが丁寧に答えてくれた。
うぉおおおい、どうすんだよ。さっきの「アリスを傷つけるような~」とかってクッサイ発言を本人に聞かれてしまった。しかもキリッてな具合でカッコつけちゃってたし。しかも恥ずかしッ、マジで恥ずかしッ!
言葉にできない空気がついに限界に達する。アリスは赤くなった顔をバッと上げると、あたふたと部屋を飛び出していった。
「わ、私お洗濯してくる!」
「おぉおお待ってくれぃアリス! これはその違わないけど違うんやー!」
本日二度目の追いかけっこが唐突に始まり、二人の騒がしい声と慌ただしい足音が遠ざかっていく。部屋に一人残されたレミリアは嘆息すると虚空に向かって言葉を放った。
「こんなにも月が紅いから、本気で退屈しないわね。あの二人を見ているのは」
つづく
そろそろラブコメの王道を仕掛けようかと思う、そんな今日この頃。