東方人形誌   作:サイドカー

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皆様お元気でしょうか? サイドカーでございます。

平均文字数4,000前後を狙っているのに、今回も分割ポイントが見つかりませんでした。「またか……」と思われた方、申し訳ない! 許してくだせぇ!

此度もごゆるりと楽しんでいただけると、嬉しいです。


第三十二話 「魔法使いの昼」

 吸血鬼お嬢様の思いつきにより一日限定の従者ごっこが行われた翌日。

 いつもの服装に戻った俺達は、大図書館を訪れていた。ちょうど紅魔館に来ているので魔法の研究を進めたいというアリスの希望に応えるためだ。魔女が司書をしているくらいだから、魔法に関する書物は相当なものに違いない。

 紅魔館の頭脳的ポジションを務める魔女、パチュリー・ノーレッジは今日も変わらず大量の本に囲まれていた。

「二人とも昨日はお疲れ様。今日は自由に過ごしていくといいわ」

「ええ、そうするわ。早速だけど何冊か読ませてもらうわね」

「どうぞお好きに。私も自分の研究に集中しているから、何かあったらこあに言ってちょうだい。もう何度も来ているアリスには今更言うまでもなかったかしら?」

「ふふ、そうね」

 二人の魔法使いが軽く言葉を交わす。その後パチュリーは目の前に積み重なった書籍から一冊手に取り、あっという間に他者を寄せ付けない集中力で読書に没頭した。アリスの方もそれ以上は声をかけず、参考資料を調達すべく一人で奥へ歩いて行った。

 はてさて、誠に遺憾なことに俺には特に用事がない。放置プレイとはいわないが手持無沙汰となってしまった。とりあえず二人の邪魔にならないよう、隅っこで大人しくしていますかね。

「ふむ、俺も適当に何か読ませてもらうか」

 これだけ沢山の本があるのだから、面白そうなものも見つかるだろう。天井の高さも含めてだだっ広い部屋にズラリと隊列を組む本棚を眺めつつ、フラフラと探索を開始する。図書館にあるもの全部が魔導書というわけではなく、普通の本も置いてあった。そういえば昨日もアリスがフランに絵本の読み聞かせしていたっけ。わりとバリエーション豊富なライブラリーでござった。

 

 しばしウロウロしていたが、適当な所で立ち止まりこれまた何となくの適当で一冊選び開いてみる。六芒星の魔法陣やら詠唱呪文と思われる長い文章が、紙面を埋め尽くさんばかりに密集していた。

「わかりやすいくらいに魔導書やん。っていうか達筆過ぎて逆に読めん」

 解読不能な文章に目を通しながら、魔法というか魔法使いについて思考をシフトする。俺が知っているのはアリス、魔理沙、パチュリーの三人。見た目イメージでいえば一番魔女っぽいのは魔理沙だろう。服装が典型的な魔女のそれだし。ただ、雰囲気でいえばパチュリーの方がいかにも魔女って感じはする。ならばアリスは魔女っぽくないのかと問われると、もちろん答えはノーだ。もっとも彼女の場合、魔法の国のお姫様だと言われても余裕で信じられる。だって可愛いから。お姫様のドレスを着たアリスを想像したら、完璧なまでにパーフェクトだった。

 魔導書を片手に素晴らしき妄想に耽っていると、後ろから声をかけられた。

 

「魔法に興味がありますか?」

 

「気にはなるってところかな。アリスも魔法使いだし」

 質問に答えながら振り返る。すぐ近くに立っていたのはパチュリーの助手こと小悪魔だった。ワイシャツにネクタイを締め、黒いベストと黒のロングスカートの制服ファッションが図書館を背景によく馴染んでいる。

 最初に会ったときと同じく、彼女は蔵書を数段重ねにして運んでいた。俺は持っていた本を棚に戻し、代わりに小悪魔が抱えている束の上から数冊を持ち上げた。

「あっ、ありがとうございます」

「ここ使わしてもらっているんだ、これくらいは手伝わせてくれや。この本棚にあったやつでいいのか?」

「はい、そうです。一番上のがそこで、その下にあるのがこっちです」

「はいよー」

 小悪魔が指示した場所に本を収納していく。俺の近くで彼女も同様の作業を始めた。お互い担当していた量をこなし、全て元の位置に戻したところで、俺は小悪魔に一つ聞いてみることにした。

「なぁ、俺みたいな外来人でも魔法が使えることってあるのか?」

「うーん……可能性は低いでしょうけど。ですが、もし魔力を扱う素質があれば修行次第では可能になります。外来人ではありませんが、魔理沙さんは人間の魔法使いですし。それに、もしかしたら魔法の森の影響を受けているかもしれませんよ」

「魔法の森の影響とな? どういうことだ?」

「そもそもなぜ『魔法の森』なんて呼ばれているか知ってます? あそこに自生する植物が魔法の研究材料に適しているのと、それ自体が幻覚作用などを及ぼす瘴気を放つこともあるからなんです。なので、森の空気に耐性がなければ人間でも妖怪でも具合が悪くなっちゃうんですよ。ですが、優斗さんは問題なく生活していますから、少しは素質があるかもしくは耐性が身についたかのどちらかだと思います」

「ほわぁー、マジで? 実は選ばれし者だけが入れる領域だったのか」

 どうやら魔法の森という名前は伊達じゃなかったらしい。ニューガンダムは伊達じゃない。近場で素材が調達できる上に、邪魔が入り難くひっそりと研究に勤しむことができるのなら、確かに魔法使いにとっては最良物件なのだろう。

 ここで魔法使いについてザックリ説明しておこう。魔法使いには二種類あって、簡単にいってしまえば先天的なものと後天的なものがある。前者は生まれながらの種族としての魔法使いで、パチュリーがこれに当たる。それに対し、後者は人間が魔法の修業を重ねた結果によるもので、魔理沙が該当する。

 アリスの場合、実は後者に当てはまる。ただ、彼女はあるとき魔法を使ってクラスチェンジした元人間の魔法使いだそうだ。俺も詳しいことは分からないが、一つだけ明らかなのは、人間だった頃のアリスも今のアリスも可愛いことは間違いないということですな。

 脳内チュートリアルをやっていると、小悪魔がある提案をしてきた。

「でしたら、簡単な魔法でも試してみます? 魔法の森で普通に生活しているなら、少しは素質があるかもしれませんよ」

「そうだな、折角だしやってみるか。『少しは』って部分をやたら強調されたことには目を瞑っておこう」

「決まりですね。じゃあ初心者向けの本を何冊か持ってきますから、向こうの広いスペースで待っててください」

 小悪魔はそう言うと、あちこちの本棚を飛び回りつつ、文献を抜き取り始めた。さすがパチュリーの使い魔だけあって、どこに何があるのか把握しているのだろう。

 その姿を少々眺めた後、俺は彼女の言葉に甘えて言われた場所で待機することにした。

 

 さあ、そんなわけで始まりました「小悪魔先生のイケナイ魔法教室 ~初級編~」の時間、本日のスチューデントならびに司会進行はワタクシ天駆優斗がお送りいたします。記念すべき最初の魔法はこちら!

 

「ふんぬっ! うぉおお、まっがーれ!」

「力づくはダメですからねー」

 

 俺は右手に握りしめた銀の匙にひたすら念を送り込む。だがしかし、いくら念じても匙は曲がる兆しすら見せない。指摘の言葉を送ってくる小悪魔が持っているテキストには「カンタン! マジック入門」と書かれていた。

 ぶっ通しで無駄に集中していたせいか、謎の疲労感が圧し掛かってきた。俺は作業を中断し、講師に意見するべく口を開いた。

「ときに小悪魔さんよ」

「何ですか? スプーン曲げじゃなくて、帽子から鳩を出すのが良かったですか?」

「どっちかといえば花を出すやつが良いな。じゃなくて、これ魔法というより超能力の類ではないかと思うのだが。あとテキストに『マジック』って書いている時点で間違えてません?」

「あ、バレちゃいました?」

 たった一つの真実を見抜かれ、小悪魔は悪戯っぽい笑みで誤魔化した。どう見てもからかわれていたらしい。大図書館コンビは師弟揃ってさり気なく人をからかうのが好きなのか。

 やれやれと嘆息し、俺は微塵も曲がることがなかった銀食器を小悪魔に返す。彼女はそれを制服のポケットにしまうと、「冗談ですよ」と軽く流し今度こそ魔導書っぽい書物を広げた。

「ウォーミングアップはここまでにしまして。そうですね、軽度の身体強化魔法でもやってみますか?」

「俺は構わんが、弾幕みたいなやつの方が目に見えて分かりやすいんじゃないか?」

「魔力を放出する類は消耗量が大きいですし、結構難しいんです。上級魔法ともなれば術式が複数組み合わさるので、その構成はさらに複雑になります。一方で身体強化であれば、少量の魔力を体内に維持するだけでも本人が変化を感じ取れるくらいの効果は期待できます」

「おお、一気にマジになったな。大したもんだ」

「これでもパチュリー様の秘書をしていますからね!」

 エッヘンと自慢げに胸を張る小悪魔がどこか可愛らしい。個人的には火とか雷とか、いかにも魔法出してます感が出ているのを試してみたかったのだが仕方あるまい。そもそも自分が魔法使えるかもしれないというのが、いまだに実感が湧かない。

 気が付けば小悪魔が白のチョークで床に魔法陣を描いていた。人ひとりなら余裕で入りそうなサイズの円の内側に五芒星。ところどころに文字らしきものを書き加えている。英霊召喚でも始まりそうな感じだ。問おう、貴方が私のマスターか。

 俺が見ている間に準備が整ったらしく、小悪魔が床から立ち上がった。

「お待たせしました。この円の中心に立ってください」

「この魔法陣は?」

「魔法の効果が上がるようにするための補助です」

「そーなのかー」

 リトルデビルに指示された通り、五芒星のど真ん中に移動する。それだけでも何となく魔術師になった気分になって楽しい。あれ、魔法使いと魔術師って別物だっけ?

 俺がふと湧いた疑問に気を取られているうちに、小悪魔が本のページをパラパラとめくり、あるところで止めた。

「では、私がこれから言う呪文を復唱してください。上手くいけばそれで発動するはずですから」

「ああ、わかった」

 俺が頷いたのを確認し、小悪魔が魔導書に書かれている内容の朗読を始める。幸いなことに、とんでもない早口とか再現不可な発音はなく、見様見マネもとい聞きマネで彼女の言葉を後追いできた。ついでにいうと詠唱する小悪魔の声が綺麗で、まるで歌を聞いているみたいだった。うっかり聞き惚れてしまうところであった。

 やがて全ての内容を言い終え、小悪魔は本を閉じて一息ついた。書物を近くの小机に置き、俺の方を向く。

「これで完了です。どうですか? 体に何か変化は感じられますか?」

「せやなぁ、何となく体が軽くなったようなー、感覚が鋭くなったような―?」

 ぶっちゃけると特に変わった様子はない。イメージとしては髪が逆立った金髪になる超戦士だったのだが。いやまぁ、ド素人がお試しでやる魔法でそれは無理か。というかアレは魔法じゃない、気だ。

 成功したのか自分でも分からず困惑していると、小悪魔が何かを思いついた様子で、キランッと目を輝かせた。「ちょっと待っててください」と短く告げ、パタパタとどこかに行ってしまう。数分後、多種多様なアイテムを両手いっぱいに抱えてホクホク顔で戻ってきた。それらをバラバラと床の上に撒く。

 スリッパ、ハエ叩き、ピコピコハンマー、ハリセン、モップ、百科事典……エトセトラetc。

 並べられた品々を見て何となく嫌な予感がした。それは見事正解し、リトルデビルは楽しそうに言った。

「身体強度を検証してみましょう。私がこれらで叩きますから、一つ試すごとに詠唱からやり直しますよ」

「いやいやいや、強化しなくても痛くなさそうな物もあるんですが。っていうか魔法もやり直すのか?」

「いきなり武器で殴ってもし殺しちゃったら私が殺人犯になるじゃないですか。こういうのは一番下から段階を踏むのが安全なんです。あ、別に私が面白がってるわけじゃないんですよ? それと、いくら補助魔法がついているといってもここまで簡略化した方法じゃ効果なんて一瞬で切れちゃいますよ」

「大変よくわかりましたぜ。ですが、何だか凄まじいほどにヤル気が感じられますぞ、ティーチャー」

「いつもパチュリー様から教わってばかりで誰かに教える側なんて滅多にないですからね! さあ、先生が認めるまで終われませんよー!」

 こうして使い魔の魔法教室は「呪文を唱えた後、物理で試す」という体育会系まっしぐらな科目と化したのであった。もう魔法の練習なのかMの調教なのか分からんね。

 

 

 あれから結構な時間が経過し……

 俺達が居る場所を中心に使われた実験道具が散乱している。柄が折れて「く」の字に曲がったモップを両手に持ち、臨時講師の小悪魔先生はやけに爽やかな笑顔でバッサリと無慈悲な結論を下した。

「うん、ビミョーですね!」

「清々しいほどにハッキリ言ってくれるな……」

 俺の方はと言えば心身ともにボロボロです。何度も頭どつかれてタンコブが三兄弟しているかもしれない。悲しきかな、成果はまるで得られなかったにもかかわらず、代償はキッチリ持っていかれたようで、さっきから妙に体が重い。体中のエネルギーを使った気分だ。空打ち繰り返してMP尽きるってどういうことよ。

 マラソン完走した後のような疲労感にすぐに立ち上がることができず、床に座り込んでしまう。俺のグロッキーっぷりを見兼ねた小悪魔が魔法陣を消しながら気遣いの言葉をかけてくれた。

「あとは私が片付けておきますから、優斗さんは休んでいた方がいいですよ」

「……そうだな。すまんがそうさせてもらう。それとサンキュな、わりと面白かったぜ」

「いえいえ、こちらこそ」

 彼女の厚意をありがたく受け取り、俺は近くにあった椅子を求めてノロノロと足を引きずる。辿り着いた座席に腰を下ろした瞬間、ドッと体の重みが増して机に突っ伏してしまった。

「あー……慣れないことは、するもんじゃない、な……」

 そのまま次第に瞼が下がる。重度の眠気に勝てるはずもなく、俺は眠りの底に落ちていった。

 

 

「あら?」

 何冊か参考にしていた図書を戻し、新しい資料を求めて館内を歩いていると、アリスはとある光景に目にして足を止めた。

 それは、盛大に机に突っ伏して爆睡している同居人の姿だった。彼が小悪魔と魔法の練習をしていたことなど、もちろん彼女が知る由もない。アリスは優斗が座る席に歩み寄り、机の上に本を置くと彼の隣にある椅子に座った。彼女が傍に来ても、同居人は一向に起きる気配がない。

「もう、よく寝ちゃって」

 腕を組んでその上に顔を伏せているため表情はよく見えないが、よほど眠気が溜まっていたようだ。聞こえてくる規則正しい寝息が安眠を表していた。アリスは頬杖をついて、優斗の寝顔をじっと見つめる。いつの間にか、彼女は自分でも気づかないうちに頬が緩んでいた。

 しばらく寝顔を観察していたアリスだったが、そのうちちょっとした悪戯心が芽生えた。自分の手を彼の顔に近付け、人差し指で彼の頬をツンツンとつついてみる。深い眠りに落ちている青年はその程度で起きることはない。だけど、リアクションはあった。

「んぐぅ……んごごっ」

「ふふっ、変な寝言」

 きちんと反応があったことの可笑しさと嬉しさに、楽しげな笑みがこぼれる。胸の内が温かくなるような、安心感にも似た気持ちに満たされていく。優斗の隣にいる心地良さに、アリスの心がトクンッと跳ねた。ほんの少しだけ、顔が熱くなってきたのは多分気のせい。

 照れ臭くなってきてアリスは彼の頬をつつくのを止めた。かわりに彼の頭をそっと撫で始める。本人も特殊だと言っていた固めの髪質が手のひらに伝わり、くすぐったさを感じる。

 優斗の頭に乗せた手をゆっくり動かしつつ、彼女は慈しむような表情と共に誰にも聞こえないくらいの小さな声で囁いた。

「おやすみなさい、優斗」

 

 

 その後、アリスは引き続き読んだ資料を戻して回っていると、ちょうどパチュリーがいる場所まで来た。向こうも休憩しているところだったようで、椅子に座ったままこちらを向き、声をかけてきた。

「成果は順調? アリス」

「ええ、有意義な時間だったわ」

「そう、それならよかったわ。もっとも――」

 パチュリーはそこで言葉を区切ると再びアリスに背を向けた。「?」と疑問が顔に出ているアリスにも聞こえるように、されどボソッと図書館の魔女は言葉を紡いだ。

 

「本よりも誰かさんの寝顔に夢中だったみたいだけどね」

 

「ふぇえええ!? みっ、見てたの!?」

 瞬間、まるで火がつく勢いでアリスの顔がボッと真っ赤に染まる。思わず素っ頓狂な声を上げてしまうほどに、見事な動揺の仕方だった。

 人形遣いの慌てふためき具合など気にも留めず、パチュリーは大して興味なさそうに落ち着いて答えを返す。

「私は偶々よ。だけど、これだけ広い空間で誰も見ていないと思ったのかしら?」

 その言葉を聞くや否や、弾かれたようにアリスがハッと振り返る。彼女の視線の先には、いつから来ていたのか三人の少女の姿があった。三人とも笑顔なのだが、その意味合いがあまりにも違い過ぎていた。レミリアはニヤニヤと意地悪い笑みを、咲夜はやたら温かい笑みを、そして美鈴は明後日の方に視線を逸らしながら乾いた笑みを浮かべていた。さらに別の方向からは、

「ユウの頭チクチクしてたよ」

「アリスさんのマネしちゃったんですか?」

 仲良く手を繋ぎながらこちらに戻ってくる二人の悪魔が見えた。会話の内容から何かもう色々と明白だった。

「~~~~~~っ!!」

 紅魔館のメインキャスト全員に先ほどの光景を目撃されていたことを理解し、アリスは羞恥のあまり言葉も出ない。頑張って口を開いても「あ……」とか「うぅ~」しか出てこなかった。皆の微笑みに見守られている状況の中、紅潮した彼女の耳にその声が届いた。

「ふぁ~あ。ダメだこりゃ。まだ体がだるい……」

 

 

 いまいち覚醒し切らない頭を掻きつつ、欠伸もしながらアリスを探して闊歩していると何やら賑やかな声が聞こえてきた。声がした方に足を進めると、なぜか皆さん勢揃いの状況が出来上がっていた。よく分からんがアリスを囲むように紅魔館の住人がそれぞれ位置している。というか皆さんやけにイイ笑顔してますな。あとアリスが顔赤くしてテンパっていた。

 俺はアリスのもとまで近付き、特に警戒することもなく呼びかけた。

「おーい、どしたん? アリス、何かあったのか?」

「なっ、何でもないわよ! バカバカバカァーーーーッ!!」

「おぉおおお!? ちょっ、待っ、タンマ! 強化魔法はもう切れているからぁあああ!!」

 赤面した人形遣いが振り向き際に分厚い魔導書でフルスイングを放ち、俺の顔面にクリーンヒットする。さらに錯乱したように何度も振りおろし、無限コンボが止まらない。美鈴が慌てて止めに入らなかったら、フルコンボだドンとか聞こえてきたかもしれなかった。

 

 

 そして、無事とは言い難いものの、かろうじて帰宅したその日の晩。

 体力がすっからかんではあるが外でタバコを吸いたい気分になった俺は、森の夜風に当たりながら紫煙を燻らしていた。腰を下ろしている岩のひんやりとした冷たさがズボン越しに伝わってくる。

 ほぅ、と吐き出した煙で輪を作る。歪な形だが一応輪にはなっていた。しかし、それも少しの風が吹けばいとも容易く霧散してしまう。

「今日は……っていうか昨日からか。色々あってさすがに疲れたな……」

 まさか魔法を練習することになるとは思わなかった。結局、外来人で一般人の俺では魔法なんてファンタジーな力は扱えなかったけど。誠に遺憾である。でも早苗は外来人だけど能力あるよな。俺も魔法は無理でも能力は出たりしないだろうか。

 色々と考えてはみたが、結局のところ答えは以前と変わらなかった。

「まぁ、いいか。どっちにしたっていつも通りだろうな」

 一人まとめに入り、再び輪を描いた煙を吐く。先ほどよりは形も整っていたし長続きした。それに満足したところで灰皿に吸殻をねじ込み、俺はだるい体をかろうじて上げて帰宅の道を歩き出した。今日のところはさっさと寝よう。

 ああ、それと……魔法も能力もないなりにも――

 

 願わくば、ちょっとくらいはカッコつけた生き様を残せますように。

 

 

つづく

 




前回の投稿時に、この小説が日間ランキング入りしていたり、400名近くの方々がお気に入り登録をしてくださったりと、感謝感激なことがありました。

この場を借りまして……皆様、本当にありがとうございます!
今後とも、「東方人形誌」をよろしくお願いします!
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