東方人形誌   作:サイドカー

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ハーメルンンンン! 俺の最期の投稿だぜ! 受け取ってくれぇええ!!

どうも、サイドカーでございます。
先ほどのセリフは誤解を招くのであとがきで詳細を……

今回は、以前に感想でリクエストもいただいた内容でございます。
人気キャラランキングの結果に若干影響されていたりと、やや路線変更したところもありますが、本筋は変わっておりませぬ。
というわけで、今回もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第三十三話 「風邪ひいたった」

「ぶぇえええっくしょいやぁッ! あ゛ぁ~……」

 夢心地の朝一番に盛大なくしゃみをブッ放し、間抜けな声と共にズズッと鼻をすすった。圧し掛かるような気怠さが全身を襲い、どうにも体に力が入らない。さらに熱っぽさの追い打ちもあって頭がボーッとする。完璧なまでに風邪です本当にありがとうございました。起床するなりこの有様である。昨日の魔力切れ(そもそも俺に魔力があったのかも定かではないが)の後にさっさと休もうとせず、呑気に外でタバコふかしていたのが良くなかったらしい。「少しはカッコつけた生き方を~」とか考えた次の日にコレかい。カッコ悪いことこの上ない。誠に遺憾である。

しかし、ここでダウンしてはアリスに心配かけてしまう。居候である手前それはよろしくない。それ以前に一匹の男として、情けないザマを晒すのは俺の主義に反する。病は気から、風邪など気合でブッ飛ばしてやる。

 俺は腰かけていた自室のベッドから立ち上がるべく、気合一発とばかりにバンッと両膝を叩いた。

 

「うぉおおお! 立ち上がれ俺のマイソウルッ!!」

「寝てなさいッ!!」

「あぶぅっ!?」

 

 ほぼ同時にアリスの手刀が脳天に炸裂し、俺はマットもといベッドに再び沈んだ。しばらくして、不調の体をもぞもぞと起こし何とか立ち上がると、アリスがちょっと不機嫌そうな顔で睨むように俺を見ていた。

 俺が何か言おうとするよりも早く、アリスが口を開く。

「大きなくしゃみが聞こえたから来てみれば、やっぱり風邪ひいてるじゃない」

「あー、いや……ちゃうねん、誰かが俺の噂してるんよ。今日も俺は元気さ、今なら元気玉も出せそうだ」

 疑惑の視線を向けてくるアリスにウソの健康アピールをするため、身振り手振りを交えて空元気を維持する。だが、聡明な彼女には見え透いた芝居だった。第一、熱がある時点で顔に出ているだろう。ついでに言えば息も荒いし、動きがぎこちなかった自覚もある。ダメだこりゃ。

 アリスは溜息を一つ吐くと、青く澄んだ瞳で俺をジッと見つめる。無言の圧力に押さえつけられ、とても逆らえそうにない。白旗を上げる以外に選択肢はなかった。

「優斗」

「うぃ、おっしゃる通り風邪ひいちゃいました。今日は大人しく寝るであります」

「ええ、よろしい」

 根負けして降参する俺を見て、アリスは腰に手を当てて大きく頷いた。満足げな笑みが可愛い。とはいえ、せめてもの抵抗としてもう一度だけ交渉を試みる。

「本当に大丈夫なんだが……」

「だーめ。大人しく言うこと聞きなさい。ちゃんと治るまで私が看病してあげるから、ね?」

「マジすか」

 これはもう今日は安静にするよりほかはなさそうだ。まぁ、このくらいならわざわざ永琳先生のところに行くほどでもないだろう。それに、アリスが看てくれると言っているのだ。乗るしかない、このビッグウェーブに。

 

 

「はい、タオル乗せるから動かないでね」

「ああ」

 アリスは桶に入った冷水に浸していた布を絞り、丁寧に畳むと俺の額の上にそっと置いた。瞬間、心地よい冷たさが額を中心に広がり熱が緩和される。その後、アリスは近くにあった椅子をベッドの前まで引き寄せて腰を下ろした。

「ゲホッ……ゴメンな、手間かけさせて」

「いいの。私がやりたかったからやっているだけ」

「じゃあしばらくは風邪ひいてようかね」

「もう、バカ言わないの」

 どこか楽しそうにクスクスと笑うアリスの可愛らしさに癒される。鼻歌交じりにタオルを取り換えてくれる様子から、実際に楽しんでいることがうかがえる。母性本能がくすぐられているってやつかしら。

 時折、水の音だけが静かに聞こえる安息の時間がゆったりと流れる。ふいにアリスが壁掛け時計を見上げた。

「もうすぐお昼ね。食欲はある?」

「せやな、言われてみれば確かに腹は減ったかも」

「そう? それならお粥を作るから、ちょっと待っててね。あ、言っておくけど大人しくしていなかったら怒るわよ」

「イエス、マム」

 

 アリスがキッチンに向かってから十数分後。

彼女はお盆に食事と薬を載せて戻ってきた。俺はぬるくなったタオルを洗面器に入れ、彼女がトレーを置けるように卓上のそれを少しずらした。空いたスペースに置かれたお粥は、まさに出来立てと言わんばかりのつやのある光沢を放っていた。ホカホカと立ち上る湯気から漂う匂いが食欲を誘う。

「おお、美味そうだな。さすがアリスだ」

「これくらいで大げさなんだから。でも、ありがと」

 アリスは再び椅子に腰かけると、お粥で満たされた深皿とスプーンを手に取った。そして、一口分すくうと、

 

「ふぅー、ふぅー。はい、ぁ……あーん」

 

「あーん」

 差し出された匙を口に含み、中身を舌の上に滑らせて味を堪能する。米の他に卵の味がするところ、卵粥のようだ。卵は栄養価の高い食材というし、ベストな病人食といえる。こういうところでもアリスの優しさが表れていた。善き哉、善き哉。

「って『あーん』ですとぉおおおおゲホゴホガホグホッ!?」

「きゃあ!? ちょっと大丈夫!?」

 いきなり物凄い勢いでむせた俺にアリスは驚いたが、すぐに水の入ったコップを手渡してくれた。コップを受け取り一気に喉の奥に流し込む。心配そうにする彼女を片手で制しつつ、やっとこさ呼吸を整える。あやうく炎の臭い染みついてしまうところだった。

 そんなことよりも今のミラクルについて確認せねば。普通に条件反射しちゃったけど想像を超えたとんでもない奇跡が起きたで。

「ア、アリス? 一体何を?」

「えっと、その、熱いと食べにくいかなって……イヤだった?」

「滅相もない。むしろもう一回お願いしたい」

「う、うん……わかった」

 ほんのり頬を赤く染めているあたり、アリスも恥ずかしかったのだろう。それでも俺のワンモアプリーズに応えてくれた。いやまぁ、俺も少しばかりハズいのだが、思わず口走ってしまったのだ。体は正直ね。

 さっきと同じようにアリスがお粥をすくうと、ふぅふぅと吐息をかけて冷ます。そして、それを俺の口元まで持ってきて、

「はい、優斗……ぁ、あーん」

「あーん。むぐむぐ」

「味のほうはどうかしら? おいしい?」

「もちろん。最高にハイってやつだ」

「えへへ、よかった」

 美味しいというか幸せです。俺の返事を聞いて、アリスは安堵したように微笑んだ。照れ笑いにも似たその表情が魅力的で、風邪ひいてよかったかもと少しだけ思った俺は悪くないはず。ちなみに食後に飲んだ風邪薬の瓶を見たら、案の定「八意製薬」と書いてあった。ありがとう、いい薬です。

 

 凄腕ドクターお手製の特効薬と、心優しい天使の看病と手作り粥のおかげか、最初の頃と比べてかなり楽になった。少なくとも熱は引いたような。

 というわけで、少しでもアリスの負担を減らすべく、俺は懲りずに復活を申し出た。

「熱もかなり下がったし、これもう治ったといえるんじゃないか?」

「本当に? どれどれ」

 俺の発言に、アリスは椅子から身を乗り出しベッドに手をつく。すぐ目の前にアリスの端整な顔が近づいてきたかと思うと、彼女は俺の額に自らのおでこをピタッと重ねた。触れ合った箇所から彼女の体温が伝わってくる。

「う~ん……まだ熱いじゃないの。駄目よ、寝てなきゃ」

「あー、なんだ。この状況じゃ熱も上がるというか何というか」

「え……?」

 彼女は俺が言っていることにはじめは戸惑った顔をしていたが、自分たちの現在の状況を理解したようだ。お互いの顔がゼロ距離レベルで接近しているこのポーズに。

 数秒とかからずに、アリスはその碧眼を大きく見開き、白い肌がボッと真っ赤に茹で上がった。

「~~~~~~ッ!!」

 彼女は声にならない声を上げながら、跳び退く速さで俺から身を離した。傍から見れば二人揃って顔が赤くなっていることだろう。あ、あれだ。もしかしてアリスに風邪が感染してしまったのかなぁ~。そんで俺の方は熱がぶり返してしまったんだろうなぁ~。きっとそうだ、そうに違いない。間違いない。

 

『……………』

 

 目が合わせられない二人の沈黙が続く。悶絶しそうな雰囲気が部屋を包む中、ハッとしたようにアリスが赤みを帯びた顔を上げた。

「みっ、水替えてくるわね!」

 早口で捲し立てるなり、アリスはすぐ脇にあった桶を抱えて部屋を飛び出していった。一人取り残された俺は、まだ残る熱っぽさと頬が若干ニヤけていることを自覚しつつ、ボフッと寝床に身を沈めた。

「やべ……幸せすぎて死ぬかも」

 呟いた直後に「ふわぁ……」と欠伸が出た。眠気に身を委ね、俺はそっと瞼を閉じた。

 

 

 懐かしい光景を見た。光景というより、スライドショーを見ているといった方が近いかもしれない。場面の繋ぎ方がえらく雑なのは、これが夢だからか。再生されているのは『外』での日々。もっとも、高校時代から始まっているあたり、わりと最近の内容なのだが。え、というかコレまさか走馬灯じゃないよな? そんな俺の不要な心配を余所に景色は時系列を進む。

 かつて通っていた母校。いつも通った商店街の賑やかな大通り。便利な近道なのだが夜は危険と噂された路地裏。これまでの人生の大半を過ごした実家。優秀すぎる兄と、それを自慢げに誇る両親。新しい根城となったアパートの一室。新しい舞台となった大学。何かある度によくつるんだ二人の友人。そういえば、俺が向こうを発つ最後の日も、あいつらと飲んだっけ。元気にしているだろうか。

 そして、そのあとに俺は彼女と出会ったんだ――

 

 

「ん……」

 自然に目が覚めた。どのくらい寝ていたのだろう。あまり覚えていないが、何とも言えない気分になる夢を見ていた感覚だけが、頭の片隅にぼんやりと残っている。悪夢でも予知夢でもないだろうし、別に気にすることはないか。

周囲を見渡すがアリスの姿はなかった。俺が寝ているのを見て、起こさないように気を使ってくれたのかもしれない。とはいえ、アリスはいなかったが誰もいないわけではなかった。

「シャンハーイ」

「見ててくれたのか」

 アリスの代わりに椅子に座っていたのは、セリフからご察しの通り上海人形だった。

俺が起きたのを確認すると、上海は俺の目線の高さまで浮き上がり、何かをアピールするかのごとくクルクルと回り始めた。

「何かして欲しいことないかってか?」

「シャンハーイ」

 当たりらしい。上海は回転を止めてコクコクと頷いた。面倒見の良い主に影響されたのか、それとも相手が寝ていたせいで退屈だったのか。自分の出番を待ちわびている様子が少し微笑ましかった。ふむ、そうだな。それじゃ……

「タバコ持ってきてくれないか?」

「バカジャネーノ」

「辛辣な返しだな」

「当たり前でしょ」

 俺と上海の会話に第三者の呆れた物言いが加わる。声がした方を向くと、ちょうどアリスが部屋に入ってくるところだった。ナイスタイミング。

「飴で我慢しなさい。上海、持ってきてくれるかしら?」

 アリスの指示を受け、上海は「シャンハーイ」と返事をするとふよふよと宙を漂いながら退室していった。それを見送り、アリスは「それで」と前置きしてこちらに向き直った。

「具合はどう?」

「ああ、ぐっすり寝たおかげか本格的に良くなった。もちろんアリスが看病してくれたのが一番だけど。サンキュな」

「うふふ、どういたしまして」

「ところで、なして上海が代理してたん?」

「さっきまで魔理沙が来ていたから、代わりに看ているように頼んだの。寝てるならお見舞いは次の機会にするって言っていたわ」

「魔理沙が来てたのか。相変わらず仲がよろしいことで」

「ええ、当然よ。魔理沙もそうだし霊夢も私の大事な親友だもの。あ、そうだ。ねぇ、優斗の話聞かせて?」

「俺の?」

「だって、優斗が向こうでどんな生活していたのか知らないから。聞きたいな」

 アリスから期待の籠った眼差しを向けられる。何だか絵本の読み聞かせを期待しているときのフランみたいだ。そんな風に言われたら断るわけにもいかない。それに、調子が良くなってきたのに寝てばかりじゃ退屈だ。話し相手がいるのはこちらとしても願ったりです。

「シャンハーイ」

「お、戻ってきたか」

「お疲れ様、上海」

 これまたグッドタイミングなことに、上海が飴玉が詰まった小瓶を持って戻ってきた。

容器を受け取り、一粒選び口に含む。ほどよい甘味と酸味を味わいつつ、何について話すか考える。よし、決めた。

「OK。んじゃ、まずは大学でよくつるんだ二人の友人の話から始めようか」

「私にとっての霊夢と魔理沙みたいなものかしら?」

「そうかもな。やたらカッコつけなヤツとえらく素朴なヤツでさ。出会ったのが――」

 

 そんなこんなで、俺はアリスと上海に幻想郷に来る前にあった出来事を聞かせた。

 ありふれたしょうもない日常の一コマを、アリスは途中相槌を交えて興味津々に聞いてくれた。彼女を楽しませたくて俺も色々なことを話した。もっとも、幻想郷に来てアリスと一緒に過ごし始めてからの方が何倍も充実している、みたいなことを言ったら「バカ……」と目を逸らされてしまったが。早く治して、また彼女と出かけたくて仕方ないね。

 

 

 

翌朝。

「ふぁ~あ。お、風邪治ってる。一日で治るもんなんだな」

 スッキリした実に清々しい朝を迎える。脳に靄がかかった不快感は霧散し、体力も回復している。本当、アリスには感謝だな。気分も良いし、今日は何だかいいことが起きそうな予感。新しい一日の始まりだ。

 ベッドから身を起こそうとした時、俺はようやくその違和感に気付いた。

「なんだ? 体が重……くはないけど」

 体調は順調に快調なはずなのだが、なぜか軽く力を入れた程度では体が動かなかった。腹部のあたりに感じる、布団以外の物体が乗っかっているかのような重み。何事かと首だけを動かし原因を確認する。それを見た瞬間、俺は驚きを通り越して思考が止まった。

 肩ほどまでの長さに伸ばされた、緑色というかは瑠璃色に近い髪。大きめの袖口にフリルがあしらわれた黄色の洋服と若草色のスカート。なにより特徴的なのが、閉じた目を彷彿とさせる外観の球体とそれに繋がっている細長い管のようなもの。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 俺の上に覆いかぶさっていたのは、可愛らしい寝顔で安眠する幼い少女の姿であった。

「……え゛」

 この子、誰?

 

 

つづく

 




4ヶ月前に修理に出したPCがまた壊れました。
なので、今後更新が滞るやもしれません。

前書きのは「俺の(今のPCからの)最期の投稿だぜ!」というわけですね。

新たな(PCからの投稿よる)物語が始まる予感がしますぜ。
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