東方人形誌   作:サイドカー

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復活ッ! 何か知らんけどPC復活ッ!

またまたご無沙汰しております。サイドカーでございます。
気が付けば、相棒が少し調子を取り戻していました。「ネカフェがあるではないか。書け」という天のお告げに従った矢先のことでございました。

何はともあれ、今回もごゆるりと読んでいただけると、嬉しいです。


第三十四話 「サトリ様が見てる」

 あ、ありのままに起こったことを話すぜ。風邪が治ったと思ったら見知らぬ少女が俺の上で寝ていた。何を言っているのか分からねぇと思うが俺にも状況がさっぱり分からねぇ。お持ち帰りだとか隠し子だとか、そんなものじゃ断じてない。

 とりあえず、今言えることはただ一つ。

「う、動けん……!」

 件の少女がちょうど腹の位置に覆いかぶさっているせいで、下手に上体を起こすことも危ぶまれる。ベッドから落っこちるかもしれないから。しかしながら、となりの灰色UMAとその上に落ちた五月姉妹の小さい方みたいな構図である。念のため誤解がないように言っておくけど、俺はロリコンやないで。

 誰にというわけでもなく言い訳していると、部屋の入り口からコンコンとノックする音がした。

「優斗、起きてる? 入ってもいい?」

「らっ、らめぇ!」

 自分でもビックリするくらい気色悪い声が出た。いかん、動揺しすぎだ。扉の向こうでアリスが怪訝そうな顔をしているのが容易に想像できる。っていうか、彼女にどうにかしてもらえばいいじゃん。別にやましいことは何もないんだし。

 そんなわけで、俺は人形遣いに救援信号を送ることにした。

「アリスぅ、座敷童に憑りつかれて金縛りにあっているんだが。助けてくれぇー」

「いきなり何を言い出すのよ……入るからね?」

 呆れの反応とともにアリスがドアを開ける。部屋に入ってすぐに、彼女は俺と座敷童(仮)の姿を見て、頭痛に苛まれたみたいな感じで眉間に手を当ててしまった。目の前の光景に、彼女も理解が追い付いていないようだ。

「どうして地底の妖怪が優斗の上で眠っているのよ……」

「地底の妖怪? この童は座敷童じゃないのか?」

「全然違うわよ。とりあえず……ほら、起きて」

 そう言ってアリスは少女の肩を優しく揺する。「んぅ……」という可愛らしい声が聞こえ、やがて眠気眼をこすりながら少女が目を覚ました。

「おはよぅー……」

「ええ、おはよう。早速だけどベッドから降りてくれる? 下の人が起きられなくて困っているから」

「はーい」

 アリスに起こされ、女の子は見た目相応な子供らしい素直さで返事をする。この子が誰なのか、どこから来たのか、いつから俺の部屋にいたのかなどなど聞きたいことは山ほどあるものの、やっと動けるようになって一安心だ。さてさて、ちゃちゃっと着替えて事情聴取といきますかね。

 

 

「私はこいし。古明地こいしだよ。よろしくね、お兄ちゃん!」

「ん、古明地とな? もしかして、地霊殿とやらの古明地姉妹か?」

「私とお姉ちゃんのこと知ってるの?」

「前に地底に行ったことがあってな。そのときに知り合いから話しだけ聞いたんだ」

「へー、そーなんだー」

 向かい合って座っている少女、古明地こいしはニコニコと楽しそうな笑みを浮かべている。この子が、ヤマちゃんが言っていた姉妹の片方か。読心術を持つのは姉の方だっけ。心を読む妖怪といえば、やはりサトリだろう。本人が言うには、少女の胸元に位置する球体は「第三の目」であり、これを通して相手の心を読むという。ただし、こいしのそれは見ての通り閉じているため、彼女は心を読むことができないそうな。第三の目を閉じたということは、彼女自身もまた心を閉ざしたということ。ゆえに、こいしは姉とは正反対の能力すなわち「無意識を操る程度の能力」を持った、ということらしい。

 見た目の幼い女の子がそうなってしまうほどの出来事があったのかと思うと、やるせない気分だ。ただ、今はこうして笑うことができるのなら、俺がとやかく言うのはお門違いってものだろう。

 というか、俺が知りたいのは過去話ではなく現状ですたい。

「して、どうしてこの家に来たん?」

「んー、どうしてかな? 私にもわかんないよ。何となく来ちゃった」

「これも無意識のうちにってところかしらね。こいしは能力の影響で、考えて行動するというよりは無意識で行動したり、彼女自身が周りから認識され難かったりするのよ」

「なるほどなぁ。にしても詳しいな、アリス?」

「多少はね。面識はあるもの」

 本人に代わってアリスが説明する。相槌を打ちつつ視線をずらすと、さっきまで大人しく座っていたこいしは、今度はリビングをウロウロと歩き回っていた。なんだろう、こいしの事情を知ってから気になってしまう。いや、ロリコンじゃないぞ。もう一度言うけど。

 わだかまりが残ってどうにもスッキリしない気分だ。だが、それはひとまず置いておくとしよう。俺は窓の外をじーっと見ている少女に質問を投げた。

「今朝から俺の部屋にいたってことは、もしや昨日から来ていたのか?」

「うん、そうだよ。お兄ちゃんがアリスに色々してもらっているのもずっと見てたんだよ?」

「おぉう、マジでか。スネークもたまげるステルス迷彩じゃけえ。って、そんなことより――」

「おうどんたべたい?」

「確かに……じゃなくて、姉ちゃんに何も言わずに一泊したのか。そりゃいかんな、心配しているだろう。また遊びに来てもいいから、一旦帰った方が良いぞ」

「じゃあ帰ろうかな。あ! それならさ、お兄ちゃんたちも行こうよ! きっとお姉ちゃんも歓迎してくれるわ!」

 名案を思い付いたと言わんばかりに、こいしが俺の上着の袖をグイグイと引っ張ってねだる。心を閉ざしたとは思えないほどの明るさだ。さっきからどうもこの子のことが放っておけないんだよな。

「ああ」

少女に腕を引かれ立ち上がりつつ、ふと謎が解けた。合点がいったとでも言うべきか。そうだ、俺とこの子は似ているんだ。気分というかノリで行動するところとか、あてもなくフラフラと流れるようにどこかへ行くところが。だから、他人事に思えなくてお節介なほどに気にかけてしまうのだ。

 こいしをぶら下げたまま、俺はアリスにも聞いてみた。

「アリスはどうする?」

「もちろん、一緒に行くわ。それに、優斗は飛べないんだから自力で行けないでしょ」

「言われてみればごもっとも。これにて話はまとまった。こいし、俺達も行くぞ」

「わーい!」

 こいしは両手を高く掲げ、大阪の某看板みたいなポーズで喜びを表す。そのまま彼女はパタパタと腕を上下に振りながら玄関まで走って行った。「お兄ちゃーん、はやくー」と催促の声が外から聞こえてくる。

 俺とアリスは顔を見合わせて、可笑しさに思わず吹き出してしまった。

「ずいぶん懐かれちゃったわね、『お兄ちゃん』? ルーミアのときもそうだったけど、優斗って子供に好かれやすいのかも」

「そりゃお互い様じゃないか? アリスだってフランのお気に入りっしょ。アリスなら良いお姉ちゃんになると思うね」

「うふふ、それもいいわね」

 二人で茶化し合いながら玄関に向かう。外に出ると、無意識少女の姿はどこにもなかった。

「こいしいねぇ!?」

 

 

「それで、探し回っていたらここに居たと」

「その通りでございます。いやはや、はぐれないように手でも繋いでおくべきっした」

 古明地妹を発見したのは、魔法の森の入り口にある何でもござれな道具屋、香霖堂だった。店主の森近霖之助さんに経緯を説明し、何気なく自分が言ったことを想像してみる。グリコポーズのこいしの右手を俺が、左手をアリスが握って歩く……何か、昔そういう絵か写真があった気がする。エイリアン捕獲みたいなやつ。

 ちなみに、いきなり姿を消した娘は現在、店に置いてあったマジックハンドが気に入ったらしく、「びょーん、びょーん」と口で効果音を再現して遊んでいた。アリスが傍にいるから、今度は失踪の心配はあるまい。

 二人の少女を見守りつつ、男二人のトークを再開する。

「ところで、君達はこれから先を急ぐのかい?」

「そこまで急ぎではないっすけど、あの子の姉が心配のあまり倒れる前には送り届けたいってところです。何かありました?」

「ああいや、別に大したことじゃないんだが――」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 霖之助さんの台詞を遮ってこいしが割り込んでくる。その後ろで、アリスがちょっと困ったような苦笑で肩をすくめていた。こいしの両手がフリーになっているところを見ると、マジックハンドは飽きたのだろうか。

 黒い帽子を被った小さな頭に手を置き、「どうした?」と聞いてみる。

「私ね、お姉ちゃんにプレゼントがしたいの」

「大好きな姉に何かしたいって言うから、贈り物で気持ちを伝えたらどうかしらって勧めたんだけどね。この子お金持ってきてないのよ」

「あー、そういうことか」

 アリスがわかりやすく教えてくれたおかげで、すぐに内容を把握できた。本当に、古明地姉妹は聞いていた通りの仲好しシスターズのようだ。スカーレット姉妹もそうだが、幻想郷の姉妹愛は美しいぜ。今日も元気にキマシタワー。

 そんな俺達の会話を聞いていた霖之助さんが、「それなら」と一計を案じた。

「君もついてくるといい。先ほどの話の続きだけど、実はこれから仕入れに行くのを手伝ってほしくてね。優斗君には無縁塚まで同行願いたいんだ。もし、個人的に気に入ったものがあったら自分のものにしてくれて構わないよ。妹さんの方も、無料で贈り物が入手できる。何せ、売り物にする前の段階だからね」

「商売人らしからぬ考え方ね」

「香霖堂は利益よりも嗜好に重きを置く店だ。むしろ貴重な品は手放したくないくらいさ。急な仕事ですまないが、頼めるかい?」

「モチのロンっす。こいしのことまで気遣ってくれて、ありがたい限りっすよ」

 アリスの言葉をサラリと受け流す店主の提案を採用し、俺は臨時アルバイトも兼ねて少し寄り道することになった。さとり姉には申し訳ないが、妹の帰宅までもう少しだけ待ってもらうこととしよう。というか、気分屋がタッグを組んでいるのだから、まっすぐ向かう方が無理ってもんだ。

 

 

「さあ、そんなわけでやってまいりました無縁塚。ここは名前の通り縁者が居ない者どもの墓地でございます。その大半が外来人ということで、『外』の世界に結界が緩み始めているとも言われています。さらにさらに、墓地ということで冥界にも近いといわれ、何が起こってもおかしくない、まさに辺境! ミステリースポットなのです!」

「急にどうしたのよ、もう……」

「せっかくなんでバスツアーっぽくしてみた。この方が雰囲気出ていいじゃん?」

「えへへ。私は楽しいよ、お兄ちゃん」

 何をやっているかといえば、調達品を運搬するための台車(箱型の荷台に二輪がついていて、人力で引っ張るやつ)にアリスとこいしを乗せて、タクシー代わりに俺が運転していたのである。先導する霖之助さんが「楽でいいねぇ」と手ぶらで移動できることに満足していた。

 デュラハン号二世(今名付けた)から二人が降りたのを確認してから、辿り着いた場所を見渡す。小さな道を抜けた先にある行き止まり、木々に囲まれたそこまで広くはない空間だが、ざっと眺めただけでも所々に何かしら落ちている。加えて、どこか空気が不安定な感覚が体中にまとわりつく。今日は風が騒がしいな、とか言っちゃいそう。

「何か使えそうなものや売り物になりそうなものがあったら、どんどん荷台に積んでほしい。あと、珍しい品があったら教えてくれるかい? 非売品で店に置くから」

「了解っす。こいしも好きなもの持って行っていいぞ。ただし、このあと地底に行くんだから、あまり遠くに行くのはダメだからな。約束できるか?」

「うん、わかった。約束する」

 その後、「それじゃ、頼んだよ」という霖之助さんの一言を合図に、俺達はそれぞれ採取クエストに手掛けた。霖之助さんは手馴れているため一人で調達に行き、こいしもいつの間にか姿を消していた。もっとも、時々戻ってきては台車に拾ったものを入れているから、きちんと約束は守っている。あの子なりに俺の仕事を手伝ってくれているみたいだ。何を拾ってきたのかは気になるが。

 そんなこんなで今はアリスと二人で無縁塚を探索している。彼女は何かを考えているようで、俺の後ろを静かに歩いていた。しばしの沈黙かと思いきや、「ねぇ」と声をかけられた。続いて放たれた言葉に、俺は少しばかり意表を突かれることになる。

「こいしと自分を重ねているの?」

「バレていたのか。まぁ、似た者同士って程度で、そこまで大げさなものじゃない。何ていうか、あの子は俺と違って帰りを待っている家族がいるだろう? 余計なお世話かもしれんが、こいしにはそのことを覚えていてほしいのよ。勝手に俺の願いを押し付けたみたいで、大層迷惑な話だけどな。お、未開封のコーラが落ちてる」

「…………」

 偶然見つけた瓶を拾ってみると、昔懐かしの王冠キャップの類だった。そりゃ幻想入りするわな。栓抜きが必要だが、確か店にあったはずだ。賞味期限の数字がかすれて読めないが、未開封だし大丈夫だろう多分。

「ゆ、優斗」

「うん?」

 ふいに、どこか上ずった声でアリスが俺の名を呼んだ。振り返ると、彼女は視線を泳がせて、そわそわした様子で言葉を選んでいた。心なしか、頬が上気している。じっと続きを待っていると、やがてアリスは意を決したように口を開いた。

「えっとね、優斗にもいるのよ……? 優斗が帰ってきたら、『おかえりなさい』って言うのを楽しみにしている……そんな相手」

「え? それって――」

 次第に声が小さくなって途中から聞き取りにくかったが、とても大事なことを言われた気がする。

 詳しく聞こうと、アリスに近づいた時、

 

「お兄ちゃーん!!」

「キャァアアアア!?」

「カハァ……ッ!?」

 

 彗星のごとく現れた無意識系妹キャラに、アリスは黄色い声を上げながら掌による一撃を俺の鳩尾に叩き込んだ。世界を狙える突きが決まり、格ゲーなみに吹っ飛ぶ俺。それから間もなくして声の主が俺達のところまでやってきた。

 地面に伏してピクピクしている俺を、こいしは不可思議そうに見下ろした。

「何してるの?」

「なっ、なな、何でもないわよ!? そ、それよりもプレゼントは決まったのかしら!?」

「うん、これに決めたよ!」

 アリスのあからさまな話題逸らしが功をなし、こいしは手にしていたものを愛らしい笑顔とともに彼女に向ける。満足のいくプレゼントが見つかってよかったな。だけどね、倒れている人を放置するのは兄ちゃん感心せんよ。

 どうにか自己再生で復活して立ち上がり、彼女が姉への贈り物に選んだものを覗く。小さな手が大事そうに持っていたのは、なんとも女の子らしさが溢れる一品だった。

「こいつぁ珍しい、青いバラの花か」

「外の世界の花には枯れないものもあるって、お姉ちゃんから聞いたことがあるわ。これならずっとお姉ちゃんの部屋に飾っていられるでしょ?」

 花びらに軽く触れてみると、天然ものとは明らかに違う手触りだった。確かに造花なら枯れる心配は無用だ。もしかしたら、姉への想いが枯れてなくなることはないという、こいしからのメッセージが込められているのかもしれない。というのは、俺の深読みしすぎだろうか。

「どうかな? お姉ちゃん喜んでくれるかな?」

 可愛らしい妹の問いに、俺とアリスはアイコンタクトを交わす。そして、二人とも優しげな笑みでそれぞれの手をこいしの頭にそっと重ねた。

「いいセンスだ」

「さとりも大喜び間違いなしね」

 

 

それから、再び戻った香霖堂にて。

「お疲れ様、助かったよ。君達のおかげで今回は大漁だ。時間を取らせてしまって悪かったね」

「いやいや、そんなことはないっすよ。結果的にイイことばかりでしたし、俺達も助かりました」

 霖之助さんから労いの言葉とともに受け取ったコーラをグビグビと喉に流し込む。うむ、一仕事の後の一杯はしみるぜ。こいしも気に入ったらしく美味しそうに飲んでいる。一方で、アリスは炭酸が苦手なのか一口飲んで顔をしかめてしまった。

 黒い炭酸飲料でエネルギーを充電したところで、いよいよ出発の時が来た。

「君達なら心配はいらないと思うが、くれぐれも気を付けるんだよ」

「ういっす。それじゃ、行きますか!」

「ええ、そうしましょう」

「行こう、行こう!」

 霖之助さんに別れを告げ、いつぞやの大きな穴を目指して俺達は香霖堂を後にした。久しぶりに地底に行くことになって俺自身も楽しみだったりする。前回は怪我することがあったせいで温泉を逃したし、これを機に一風呂いくのも良いな。もちろん、例の古明地さとり氏がどんな相手かも気になるし、すでに知り合ったメンバーとも再会できるかもしれない。

 

 それに、地底といえばあの娘がいる。緑の瞳と金色の短髪が綺麗で、「妬ましい」と言いながらも世話を焼いてくれる、魅力的な女の子。彼女に再び会えると思うと、自然と足取りが軽くなった。そうそう、おにぎりのお礼も言わないと。メッチャ美味かったし。

 道中、アリスが不審なものを見る目を俺に向けていたのは、きっと気のせいだろう。

 

 

つづく




次回、東方人形誌
第三十五話 「トライアングラー ~君は誰と……?~」

とか久しぶりに次回予告っぽいことをしてみたり
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