ここから東方ファン&アリスファンの自分が始まったのかと思うと、なかなか感慨深いものがありますなぁ。
「ほい、とうちゃ~く! ここが博麗神社だぜ。って、どうしたんだよ優斗?」
魔理沙に連れられ、やってまいりました博麗神社。空を飛ぶという貴重な経験もし、非常に充実した時間だったであろう、かと思いきや彼女の運転があまりにワイルドスピードだったため、生きた心地がしなかった。安全装置がある分、ジェットコースターの方がまだ易しいだろうよ。
「ぜぇ……ぜぇ……おお、俺生きてる!」
「変な奴だな。いや~、また世界を縮めてしまったぜ」
膝に手をついて呼吸を整えている俺を、不思議そうに見つつ、爽やかに伸びをしている白黒魔法使い。まぁ、乗せてもらった以上、あまり文句は言えないが。あと美少女だし。
それはそうと、某ハチロクを乗りこなす豆腐屋のようなダイナミックなテクニックに、風圧をもろに受けてしまったせいで、髪が乱れてしまった。やれやれと、茶色の髪を手櫛で軽く整える。俺の髪がなんだってェーっ!? と第四部のように叫んだりはしないが。
「優斗、大丈夫?」
すると、アリスが心配そうに聞いてきた。やはりアリスは優しい。全俺が泣いた。
「ああ、もう平気だ。ありがとよ」
「ならいいんだけど。それじゃ、まずは霊夢を呼びましょうか」
「だったらお賽銭を入れると良いぜ」
アリスの提案に、魔理沙がわけのわからないことを言いだした。何で人を呼ぶのに賽銭が必要なんだ?
俺の疑問が顔に出ていたのか、アリスが苦笑いを浮かべながら答える。
「博麗神社は財政事情が良くないのよ。だからお賽銭の音で、霊夢が飛んでくるってわけ」
「なんだか涙ぐましい話だな、オイ。まぁ、いいか。ところで、幻想郷でも向こうの通貨って使えるのか?」
「ええ、大丈夫よ。それよりもお金あるの?」
「おお、偶然にも手持ち資金はバッチリよ」
実は、この前ATMから下ろした全財産を所持しているのだ。バイトをいくつも掛け持ちしていたから、額は大層なものだと自負している。いくらとは言わないけど。
何でそんな不用心なことをしているかと言えば、本来であれば空港に向かう途中で、留学先の通貨に替える予定だったからである。事前にやるのが面倒くさかったので、行く途中でついでにやればいいやという、堕落した思考が生んだ結果が、今回は良い方向に転んだようだ。いやはや、人生とは何が幸運となるかわからないもんだなぁ。
というわけで賽銭箱に向かう。縁起的な面で考えれば五円玉とかが妥当なところだが、貧乏と聞いてしまった以上それは可哀想かもしれない。なので俺は、ズボンのポケットから中折財布を取り出すと、そこから百円玉を三枚ほど抜き取り、ポイッと投げ入れる。二礼二拍一礼は今回省略することにした。別に神頼みに来たわけでもないし。
チャリンチャリーンと、軽やかな音を響かせながら硬貨ズは賽銭箱の中に消えていった。
「あんた、わかってるじゃないの!! 素晴らしいわ!!」
「おわっ!?」
それと同時に、どこからともなく、巫女服というにはアレンジが効きすぎている紅白カラーの服と、セミロングの黒髪に大きな赤いリボンの髪飾りが特徴的な女の子が、やたらハイなテンションで現れた。っていうかよく見たら、あの服めっちゃ脇露出してんじゃん。初音ミクの服みたいになってるぞ。この娘が巫女さんなのか?
俺が動揺していると、アリスが件の少女に声をかける。
「霊夢、お賽銭が入って嬉しいのはわかるけど、話を聞いてくれるかしら?」
「あら、アリスじゃない。アリスがこの人連れてきてくれたの? ありがとね!」
「ええ、それはいいんだけど。彼、外来人なのよ。だから霊夢に相談しようと思って」
「ちなみに私の箒に乗せて連れてきてやったんだぜ」
「ああ、魔理沙もいたのね」
「おいおい、そりゃないぜ……」
彼女たちは親友グループなのだろう。仲良さげな雰囲気がよく伝わってくる。というか、あの巫女さんもなかなか可愛い。幻想郷は美少女の集まりだったりするのか? だとしたら今後とも期待大だ。
腕を組み、一人うんうんと肯いていると、巫女さんが声をかけてきた。
「自己紹介がまだだったわね。私は博麗霊夢、霊夢でいいわ。この博麗神社の巫女よ。あんたは?」
「俺か? 俺は天駆優斗。どうやら外来人ってやつらしい。よろしく頼む」
「ええ、よろしく。それで、このあとどうするのよ?」
「霊夢、その前に一ついいか?」
「? 何よ」
本題に入る前に、俺はストップをかける。なぜなら彼女に聞きたいことがあったからだ。
「俺とデートしないか――イデデデデッ!?」
直後、腕に鈍い痛みが走り、悲鳴を上げてしまう。何事かと思い痛みがした方を見ると、
「……………」
アリスが俺の腕をギリギリとつねっていた。むすっと頬をふくらませ、若干つり上がった目つきで俺を睨んでいる。明らかに不機嫌そうだ。あるぇー、俺ってば何か怒らせるようなことしたっけ?
「ア、アリス?」
「…………ふんっ」
恐る恐る呼びかけると、手を放し痛みからは釈放されたものの、ついでにそっぽも向かれてしまった。う、こりゃ話題を戻した方が良さそうだな……
ダラダラと冷や汗を流しながら、霊夢に向き直り、わざとらしく話を進める。
「こ、これからなんだが、俺はしばらく幻想郷で過ごしてみたいんだ。っていうか、帰りたくなったら帰れるもんなのか?」
「帰れるわよ。といっても紫の力を借りないといけないし、色々と準備がめんどくさいのよね。だから、しばらく滞在してくれた方がありがたいかもしれないわね」
俺の質問に的確に答える霊夢。ただ、その顔は「面白いモノ見つけた」といわんばかりの笑みで、ニヤニヤと俺とアリスを見ている。なんだよ、人がつねられてるのがそんなに面白いというのか! なんて巫女だ、けしからん!
まぁ、何はともあれ、滞在許可は出たのは嬉しいことだ。となると、次にするべきことは……
「それならまず、住むところを決めないといけないわね」
「What?」
前置き無く第三者の声が介入してきたせいで、日本語以外の言語が出てしまった。
声がした方を向くと、胴部の紫色が特徴的な、カンフーらへんの民族衣装のような恰好をした、腰まで届く長い金髪を持つ美女が優雅に微笑んでいた。
知的な微笑を浮かべるその美女は、まるで空間が裂けているかのような、例えるならば「スキマ」とでも言おうか、そんな奇妙なものに腰を掛けていた。
女性を見た霊夢が「紫、あんた聞いてたの」と呆れたように溜息を吐いた。知り合いらしい。
もちろん俺は初対面なので、尋ねることにする。
「えーと、どちらさんで?」
「あら、この登場に驚かないなんて、貴方タフなのね? 質問に答えると、私は八雲紫。この幻想郷の創設者で管理人みたいなものですわ。お見知りおきを、優斗くん」
「はぁ、よろしくお願いします。でも、その『優斗くん』って呼び方なんとかなりません?どうも子どもっぽい気がして」
「嫌なのかしら?」
「嫌ってわけじゃないですけど……」
「なら問題ありませんわね」
そう言うと、どこからともなく扇子を取り出し、口元を隠すように広げる紫さん。どうやらこの女性、かなりの策士とみた。
「だけど紫の言うことも一理あるな。優斗、住む家はどうするんだ? 人里に行くか?」
「確かにそれが妥当なところね。何なら神社に住んでも良いわよ。お賽銭入れてくれたお礼に」
魔理沙の意見に、霊夢も同意する。人里と呼ばれている集落があることは、さっきアリスの家で聞いた。日常の買い物なんかも、大体そこでするらしい。
さて、どうしようか。野宿もできないこともないが、わざわざ好き好んでやりたくもない。やはり魔理沙の言うように人里に行くのが無難なところか。
そんなことを考えていると、ジャケットの袖を誰かにきゅっと掴まれた。控えめな、どこか遠慮がちな力加減。そちらに視線を向けると、
「わ、私の家……来る?」
頬をほんのり赤く染めたアリスが、上目遣いという反則技を繰り出しながら、クリティカルな一言を放ってきた。よっぽど恥ずかしいのか、それとも断られる心配からか、切なげな瞳で俺を見つめる。この瞬間、俺の答えは決まった。むしろ一択だったといって良い。
「マジで? いいの?」
「う、うん……ほら、その、最初に出会ったわけだし……ね?」
「へぇ~~~」
「ほぉ~~~」
「あらあら」
『!?』
間延びした声に思わずハッとする。霊夢、魔理沙、紫さんが意地悪そうな笑みでこっちを見ていた。
「な、何よ?」
どきまぎしつつ、冷静を取り繕うアリスだったが、お三方には無意味だったようだ。
「いやいや別に何でもないぜ。心配しなくても大丈夫だって」
悪戯っ子のような笑顔で、魔理沙がアリスの左隣に立つ。
「そうそう。心配する必要はないわよ」
魔理沙と同様、別の意味で良い笑顔の霊夢が、アリスの右隣に立った。
そして二人揃って、アリスの耳元に口を近づけ、彼女にだけ聞こえるように小声で
『恋路の邪魔はしないからっ!』
「~~~~~っ!!」
二人に何か言われた途端、ぼっという効果音が出そうな勢いで、アリスの顔が真っ赤になった。一体何を言われたんだ?
「アリス、どうした?」
「何でもないわよ!! バカ!!」
「突然の罵倒!? 俺にMとして覚醒してほしいと!?」
俺の住居が決まったあたりで、日も傾き始める時間となったため、今日は解散ということになった。その後、アリスと一緒に帰宅したのだが、なぜか霊夢と魔理沙も一緒に来た。
「なんで、お前らもついて来てんだ?」
「まーまー、細かいことは言いっこ無しだぜ! 折角知り合えたんだし、もっと話そうじゃないか」
「そーそー、できれば夕飯もご馳走してくれると、もっと嬉しいわね」
「もう、仕方ないわね。今から作るから、少し待ってなさい」
こういう事態に慣れているのか、アリスはエプロンを身に着けるとキッチンへ向かう。
これから居候させてもらうわけだし、俺も手伝った方が良いよな。
「アリス、俺も手伝うぞ」
「そう? なら、お願いしようかしら。優斗って料理できるの?」
「男の一人暮らしだったからな、簡単なものだったら作れるさ」
「おお! こりゃ凄いぜ!」
夕飯の席に、魔理沙の感嘆の声が響く。
テーブルの上には、ジューシーな香りを漂わせる熱々のハンバーグ、緑黄色野菜たっぷりの彩り鮮やかなサラダ、マイルドな味わいが身も心もリラックスさせてくれるクリームシチュー、香ばしさがなんともいえない焼きたてのパン等々、ホームパーティーみたいな豪勢なメニューが、所せましと並べられていた。
「優斗が幻想郷に来て最初の日だもの。歓迎会も兼ねて、ちょっと贅沢にしてみたわ」
「うぉおおお!! ありがとうアリス! 俺ぁ幸せもんだぁああ」
「もう我慢できないわ! 早く食べましょうよ!」
よっぽど空腹だったのか、霊夢がさっきから食事をガン見しっぱなしだ。今にでも涎が零れそうな勢いである。
「よし、じゃあ私はコレを提供するぜ!」
そう言って魔理沙がゴソゴソと懐から何かを取り出し、ドンっとテーブルの上に置いた。おいおい、これって……
「ちょっと魔理沙、また勝手に神社のお酒持ってきたのね」
「いいじゃないか。こういう時にこそ飲むものだろう?」
やっぱり酒瓶だった。そうか、幻想郷は未成年飲酒の概念が無いのか。すげぇな。
「まーまー、歓迎祝いに酒が無いなんて寂しいこというなよ! よし、私が全員に注いでやるぜ」
「まったくもう、しょうがないわね。飲みましょ、アリスも」
「ふふ、そうね」
呆れ顔の霊夢と、優しいお姉さんのような微笑みを浮かべるアリス。ホント、仲が良いんだな。
全員に飲み物が行き渡ったところで、各々自分のグラスを持つ。すると、女の子三人が何やらアイコンタクトでやり取りする。そして、アリスが「せーの」と調子を取り――
『優斗、幻想郷へようこそ!!』
花が咲き誇るような笑顔で、俺を迎えてくれた。こいつぁこれから面白くなりそうだ!
つづく
コーヒーばかり飲んでいるせいか、たまにはアリスを意識して紅茶を飲んでみたいと思ったり…
アールグレイとか、いいね(名前的に)
ちなみにコーヒーは微糖派です。甘みと苦みが交差する、あの絶妙な加減具合がたまらぬ。