東方人形誌   作:サイドカー

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ポッキーの日までには投稿しようと決めていた(震え)

今回はいつもと少々違う雰囲気かもしれませぬ。
ジャスト?一ヶ月ぶりですが、ごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第三十九話 「今日から俺が!」

 俺とアリスがこいしを連れて地底に遊びに行ったあのときから、数日が経過した。

 外に出て、いつも通り気分と流れに身を任せていたら人里に辿り着いた。集落の中もまた普段と変わらず、人々の活気と喧騒で溢れていた。幻想郷に実在するファンタジーな種族と比べると、人間の命は寿命も含めて儚いものだ。この安全地帯から一歩踏み出せば、知能のない低級妖怪や獰猛な獣に襲われるという話も珍しくない。とはいえ、妖怪退治に関しては霊夢が活躍するときもあるだろうし、民間人だって何かしらの対策を持っているはず。厳しい世界で生き残るために知恵を振るうのもまた人間というわけだ。

 さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろう。一つだけ気をつけておかなければいけない。ズバリ、思いもしないところで危険な目に遭うってのは、現代でも幻想郷でも変わらないのである。

 

 

「ええ! 阿求様も小鈴も一般人なのに能力を持っているのかい?」

「うわ、何ですかそのわざとらしい喋り方」

 久々な俺のマスオさんボイスに若干引いている少女が一人。天真爛漫で表情豊かな彼女は、こういうマイナス方向のリアクションも大きい。鈴奈庵の自称看板娘は色々と遠慮がなかった。そんなわけで拙者、鈴奈庵なうで候。ちなみに一人で来た。アリスは別行動中である。

 加えて、俺のすぐ近くに看板娘の他にもう一人乙女の姿があった。小鈴とは対照的に楚々とした佇まいの彼女は、柔らかな笑顔で相変わらずの大和撫子っぷりを披露していた。

「天駆様はご存じではありませんでしたか? 能力については自己申請なのですが、発現は生まれつきであったり、後々に目覚めたりと人によって異なるものなのです。たとえば、私には一度見たものを忘れることなく記憶する能力があります。厳密に言えば少々異なりますが、稗田家の当主が代々受け継いでいるものです」

「あいやー、どこぞの禁書目録みたいな能力っすね。んじゃあ小鈴の場合は?」

 小動物系少女の方を見ると、当人は「待ってました!」といわんばかりにキラキラと目を輝かせて興奮気味に語りだした。

「ある日突然色んな文字が読めるようになっちゃったんですよ! 古文から英語まで何でもオッケーです! すごいでしょう!?」

「おうふ、二人揃って学生涙目のチートスキルの持ち主ときましたか。そんでもって小鈴の方は覚醒タイプと。文字に関係した能力が発動するあたり、貸本屋の娘さんにはうってつけやね」

「そうなんですよー。やっぱりこれって必然だったりするんですかね?」

 楽しそうにコロコロと笑う小鈴の姿から、年相応の明るさを感じさせられる。しかしまぁ、阿求様はともかくとして完全にパンピー(死語)だと思っていた小鈴ですら能力持ちだったとは、誠に遺憾である。俺って立ち絵もないモブキャラ扱いなのだろうか?

 テンションがヒートアップして愉快愉快と高笑いする看板娘の傍らで、呆れとも苦笑ともつかない微妙な表情を浮かべている稗田家当主に気付いた。ついでにいうと、書物がらみの共通点があるためかこの二人、結構な仲良しさんなのである。

「どうかされましたか、阿求様?」

「いいえ、大したことではないのですが……小鈴が能力を得たおかげで、この頃彼女の好奇心に一層の拍車がかかってしまいまして。時折行き過ぎた行動を起こしてしまうことも」

「トラブルメーカーというわけですか。ある意味俺も同類なので、その好奇心は否定しづらいところです。が、阿求様にご負担がかかるのはいただけませんな」

「うふふ、ありがとうございます。でも、私のことはお気になさらないでくださいな。あの子は昔からそうでしたから」

 そういってお淑やかに一礼する阿求様の気品溢れる振る舞いに、ついついだらしなく頬が緩む。阿求様マジ大和撫子。守りたい、この笑顔。

 俺と和風令嬢の和やかトークに花が咲いていたところで、演説レベルの語りを繰り広げていた小鈴が、表情を一転させてぷくーっと頬を膨らませてきた。

「ちょっと、私の話ちゃんと聞いてます?」

「ああ、悪い悪い。それで、何だって?」

「ですから、妖魔本の封印を解くのも可能になったんですよ。前にも話しましたけど、妖魔本というのは何らかの形で妖怪が関与している書物をいいます。妖怪が書いた本が典型ですが、中には妖怪そのものが封印されている類もあるんです。ただし、こちらは貴重なので貸出料は高いですけどね。借りていきますか?」

「だが断る。それ以前に封印されていた輩を解き放つとか、フラグ臭が半端ないのだが? 野放しにできないような危険度だから本に閉じ込めたんでしょうよ。あぶねーべ?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。逆にいえば本に閉じ込められてしまうくらいに力が弱まったとも言えますし。たまーに勝手に出てきちゃうこともなかったわけではないですが、その時はその時で意外と何とかなりましたから。それに、いざって時は霊夢さんにでもお願いしちゃいます」

「とんでもねぇプラス思考やで、この子。いやはや、阿求様の気苦労が忍ばれます」

「ご察しいただけて何よりです……はぁ」

「何々? 二人して、女の子の顔見て溜息つくなんて失礼じゃない?」

 俺と阿求様に憐みの眼差しを向けられて、小鈴は再びハムスターを彷彿とさせる頬袋を作る。つくづくこの嬢ちゃんは小動物っぽい仕草が似合う。隣の令嬢がもつ上品さとのコントラスト効果もあって、互いの個性が良く映える。白玉楼のコンビとはまた違った良さを見た。

 話を戻すと、俺が先ほど阿求様に言ったように、小鈴の気持ちが分からんでもない。彼女は好奇心と探究心が人一倍強いタイプなのだろう。かくいう俺だってそもそも留学しようとしなければ、幻想郷に来ることもなかったわけで。ってことで、この娘の手綱は身近な人たちに任せませう。言っておくが、決して逃げでも責任転嫁でもない。

 はてさて、さしあたっては噂の妖魔本でも見させてもらおうか。実のところ、俺だって気になるのである。

「んで、鈴奈庵イチオシの妖魔本はどのようなもので?」

「ふっふっふ、やっぱり気になっちゃいますか? いいでしょう、お見せします」

 なにやら怪しい笑いを見せながら、少女は本棚に立てかけてあった梯子をよじ登り、棚の上に置いてあった一冊を手に取って戻ってきた。このように他にも本棚に入りきらなかった本は、棚の上だったり床の上に積み重なっていたりと、至る所で店のスペースを占領している。収納スペースを追加する予算はないのか気になるところだ。紐で縛ってあるやつとか、間違って廃品回収に出されても文句はいえへんで。

 あと、スカートで高いところに行くのはいささか無防備ではないだろうか。あー、でも文もミニスカで飛び回ってるよな。もっとも早すぎて見えないし、万が一にでも見えたらアリスに確実に怒られる。

 

 その後、三人でテーブルを囲んで件の本を広げた。パラパラと捲っていく中、小鈴がとあるページで手を止めた。紙面にはいかにもな妖怪の絵と、波線にしか見えない歪んだ文字らしきものが記されている。見たところ、別段これといった違和感はない。

「ふむふむ、中身は魑魅魍魎が一、二……全部で五体か。こう言っちゃ失礼だが、普通の図鑑と違いがわからんな。何でも鑑定団に出品するか?」

「鑑定しなくても間違いなく本物の妖魔本です。それも妖怪が直接封じられているもの。何がすごいかというと、実は中身が増えているんです。初めは三体くらいだったのに、気が付いたら五体になってました。近いうちに百鬼夜行絵巻の類似品になるかもしれませんよ?」

「ちょっと待って小鈴。鈴奈庵にこんな本あったかしら?」

「さすが阿求、よくわかってるわね。そうよ、さらにこれは最近仕入れたばかりの新商品でね。さらにさらに、多少だけど妖気を感じるわ。かなり新鮮な妖魔本ね」

「また危なっかしいものを……」

 どうやら阿求様は小鈴と話すときはタメ口になるらしい。いや、そこは重要じゃない。

 改めて、本に描かれたそれぞれに注目する。RPGの序盤に出てくるモンスターという例えがピッタリな、小型と推測される怪物。大きな口から牙を覗かせているコウモリはドラクエにでてくるアレっぽいし、ヤモリを鋭くさせたようなドラゴン未満もいれば、残りは食器やら瓶に足が生えた見た目の付喪神。

 その中に一つ気になったところがあった。指差しながら小鈴に問う。

「この雑すぎる稲妻模様は妖怪の文字か? 俺じゃ全く読める気がしないのだが、小鈴だったらこういうのを読めるん?」

「ふふーん、そうですよ。では、私が代わりに読みましょう。えぇっと、『封を解きし言の葉、――』」

「ッ!?」

 彼女が発した内容の意味から、厄介な事態が起きると瞬時に理解した。危ない、と本能が警鐘を鳴らし、不快な寒気が背筋を這い登る。考えるよりも早く、俺は咄嗟に傍らにいる少女たちの肩を掴んでテーブルから引き離した。それはまさに紙一重の差だった。

 直後、本の中に封じられていた魑魅魍魎が実態を持ち、一斉にページから飛び出してきた。想像以上のスピードは、まるでドラゴンボールが世界中に散っていくさまを連想させる。紙に描いてあったサイズより一回り大きくなっている異形の怪物は、店内の書物や道具を次々と蹴散らしていく。壁に張り付いたかと思えば本棚へ飛び移り、間髪入れず天井へ向けて跳躍したりと、決して一箇所にとどまることなく駆け回る。まるで台風がご来店されたのかと錯覚する、見境のない暴走。

『きゃああああああ!?』

「やべぇな……!」

 完全に油断していたと反省するがもう遅い。力が弱まって封印されていた類といっても相手はガチな魑魅魍魎。しかも言葉の通じない低級妖怪となっては一般人にはあまりにも分が悪すぎる。彼女達の身が危険に晒されている以上、早くどうにかしなければ。

 焦りでブレる思考回路をフル回転させて打開策を模索するのも束の間、小鈴が悲痛な声で叫んだ。

 

「阿求ッ!! 危ない!!」

「やっ……!」

 

 弾かれたようにバッとそちらを振り向くと、瓶の付喪神が阿求様に向かって今まさに体当たりを仕掛けようしていた。華奢な彼女にあんなものが当たれば無事では済まない。それだけは……俺の目の前で女の子が傷つくなんてことだけは、絶対にあってはならない!

 付喪神が彼女に突撃するよりも早く、俺は阿求様の前に滑り込んだ。

「天駆様!?」

 彼女が俺の名を呼ぶのが後ろから聞こえる。その言葉に応える暇もなく、陶器による鈍器クラスの一撃が俺の腹にめり込んだ。内臓もろとも押し潰そうとする圧力に、吐き気を催す痛みが胃の奥から込み上げてくる。加えて体内からメシッと鈍い音が聞こえた。

 耐えろ。リバースするなどもってのほかだ。このくらいフランのロケット頭突きに比べれば三分の一の威力もないだろうが。壊れるほど愛しても三分の一も伝わらないのだ。

「ッガァアア!」

 ゼロ距離にいる付喪神が俺から離れるよりも先に、ターゲットをガシッと捕獲する。そして抵抗する隙も与えずに、俺はそいつを床に思いきり叩きつけた。体が瓶のそれは衝撃に耐えられるはずもなく、甲高い音をたてて粉々に砕け散り、物言わぬ残骸と化した。

「ふー……」

 スイッチ切り替えの合図として、深く息を吐く。

 仲間をやられた怒りか単にデカい音に興奮しただけなのかは定かではないが、どうやら残りの魑魅魍魎は全て俺に狙いを定めたようだ。敵意がビシビシと向けられているのを肌で感じる。

 念のため少女たちに注意を促す。

「危ないから二人とも下がっているんだぞ」

「優斗さん!」

 本当はやりたくなかったのだが、阿求様に手を出そうとしたのを見てしまったからにはやることは一つ。ここから先はいつぞやのデート権争奪戦とはわけが違う。俺は久しぶりにおふざけなしの喧嘩モードで身構えた。

 

 

つづく

 




久々にアリスが出なかった。
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