東方人形誌   作:サイドカー

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やっほぃ! 勢いに乗ったサイドカーは止まれないぜ!

皆様、御機嫌よう。
一ヶ月も待たせたり一週間以内に投稿したりと、やりたい放題なサイドカーでございます。
そんなこんなで最新話、今回もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


あと今週のオルフェンズの戦闘シーンに興奮しすぎてヤバかったです。


第四十話 「これはバトルですか? ~はい、いつもはラブコメです~」

「ドラァッ!」

 さっきまで俺達が囲んでいたテーブルをありったけの脚力で蹴り上げる。打撃を受けた卓が荒々しく起き上がり、楕円形の面を横に向ける。それは敵の行く手を阻む即席の壁となり、目の前まで迫っていた付喪神二体と正面から激突した。木材と陶器が奏でる鐘に似た音が室内を木霊する。間もなくして、付喪神だったものは脚が消えてただの食器に戻り、空しげに足元を転がっていた。小鈴の発言はあながち間違いではなかったらしい。とにかく一撃当てればコイツ等を倒すことができるとみた。

 次の標的を捉えるべく、目を凝らして天井を見上げる。キキィーッと耳障りな鳴き声を上げて、バサバサとを飛び回るドラキーをロックオン。ヤツは他の連中と違い、ほとんど同じ所を羽ばたいていた。その様子は灯りに群がる蛾を思わせる。

 その辺にあるものを投げつけたところで、撃ち落とすのは難しいだろう。辞書なら話は別だが、敵も本が当たったくらいでは致命傷にはなるまい。ならば、リーチの長い得物で直接叩き落としてやる。

「ちょいとコレ借りるぜ!」

 そう告げて俺が選んだ武器は、先ほど小鈴が上っていた梯子。立てかけてあっただけの道具を両手で握りしめ、「せぇーのっ」と一旦後ろに溜めを作る。直後、バルバトスの初出撃シーンの如くコウモリ目がけて振り下ろした。重量級の一撃は見事ターゲットの眉間にクリーンヒットし、敵はギギィッ!? と濁った鳴き声とともに霧散した。残り一体。

「天駆様! 左からッ」

「!? グぁッ……」

 阿求様の警告に反射的に仰け反る。顔面すれすれの目の前をサラマンダーもどきが掠めて行った。ヤツの攻撃を完全に躱しきれず、刃物の切れ味を持つ爪が、すれ違いざまに額の皮膚を切る。斬撃のみならず、ズキズキと痛む腹での無理な姿勢に負荷がかかって苦痛の声が漏れた。

 歯を食いしばり痛みを堪える中、赤い滴が傷口から瞼の横にかけてダラリと垂れる。阿求様たちが悲痛な顔で息をのむのが視界の端に映った。申し訳ない。もうちょっとだけ、耐えてください。

「避けて! また来ます!」

 今度は小鈴が叫んだ。彼女の言う通り、攪乱するように周りを跳躍していた爬虫類が再び一直線に飛び掛かってくる。だが、むしろこの瞬間を待っていた!

 小鈴の言葉に反して躱すことなく真正面から睨み合う。鋭い爪と尖った牙が眼前に差し掛かった刹那、無能力者の幻想殺しばりの右ストレートをブッ放つ。

「天元突破ぁあああああ!!」

 クロスカウンター。渾身の拳は敵の刃と交わり傷を負いながらも決して勢いを落としはせず、相手の顔面にしかと突き刺さった。ドサリと力なく落ちた最後の一匹はしばらくもがいていたが、やがてしゅぅと音を立てて煙となって消えた。

 

 

 数分にも満たない激闘が終わり、店に静寂が戻る。

「助かった……の?」

「…………」

 事態がうまく飲み込めずにいた小鈴が、誰に問うわけでもなく呆然と呟いた。わずかな時間で自分の家がこうもメチャクチャにされてしまったのだから、放心するのもあるまい。阿求様も声は出せてなかったが、似たような気持ちだと想像がつく。

 危ないところだったが……何にせよ、彼女達が無事で良かった――ッ!?

「い゛ッ……がぁ!?」

「天駆様!? 小鈴、救急箱! 急いで!」

「わ、わかった!」

 遅れてきた鈍痛に膝を曲げてうずくまる。お得意のやせ我慢が間に合わなかったことが悔やまれた。まったく、最後の最後でカッコ悪いじゃないか。小鈴が店の奥に引っ込むのをどこか遠目に見送る中、そんなしょうもない考えが頭の片隅を過った。

 あと、アリスがこの場に居なくてよかったとか、むしろ居てくれた方がよかったんじゃないかとか、まとまらない思考が無限ループで堂々巡りしていた。

 

 

 ものっそい急いでくれたおかげで、数分とかからず小鈴は救急箱を手にして戻ってきた。というわけで、ただいまワタクシ手当の真っ最中なのでござるが……

 

「すごくカッコ良かったです! 私ビックリしちゃいましたよ。もう戦い慣れてるっていう感じ、実は強いんですね!? あ、でも前に里でも大健闘してたんでしたっけ?」

「あー……いや、そのだな」

「小鈴、今は手当を優先すべきよ。天駆様、このような怪我までされて……他に痛むところはありませんか?」

「えと、大丈夫っす。そんなことより、お二人とも平気なんですか? ……こんな乱暴な男の近くに居て気マズくない?」

 腕やら頭やらに傷薬を塗ったり包帯を巻いたりしてくれている女性陣に、おそるおそる問いかける。すると、二人はピタッと動きを止めてお互いに顔を見合わせていた。わっしょい、沈黙が傷に染みるぜ。

 やがてアイコンタクトが終わったのか、少女らは呆気にとられた表情を俺に向けた。ポカーンなフェイスのまま口を開いたのは小鈴の方だった。

「何言ってるんですか?」

「……えぇえ?」

 まるで馬鹿を見るような目の小鈴と、可愛そうな人を見るような目をした阿求様に、俺も予想外な事態に戸惑いが隠せない。汚物を見るような目をされなかっただけマシなのだろうか。俺はいたってノーマルな趣味の持ち主ゆえ、そういうので興奮したりはしないぞ。って違う、そうじゃない。

 おかしいだろう、この状況は。なんで彼女達はこうもいつも通りなんだ。だって、俺は――

 

 

 

『―――ッ! ―――ッ!』

『――!?』

『―――』

 

 

『乱暴な人は……嫌いよ』

 

 

「……ッ」

 ふと脳裏をかすめた光景に思わずギリッと奥歯を食いしばる。無意識に拳を握りしめたせいで傷口が広がってしまったのか、右手に巻かれた包帯がじわりと赤く滲んだ。

「あの、どうかされましたか? やはりどこか痛むのですか?」

「そうじゃないんす……そうじゃなくて、不快じゃないのか? 俺は暴力を振るったんだぞ? それも君たちの目の前で」 

 阿求様に敬語を使うのも忘れて質問を重ねる。傍から見ても自分が困惑しているのがわかる。ダメだ、どうにも理解が追い付かない。仕方がなかったとはいえ、あんな野蛮な暴れ方を晒したんだ。だから、俺は彼女達から幻滅されるだろう……そう覚悟していたのに。

 一体、なぜ――どうしてこの少女たちは前と変わらない態度で俺と話している?

 焦る自分とは裏腹に、疑問まみれで百面相になっている俺の顔が可笑しかったらしく、小鈴が「ぷぷっ」と遠慮なしに吹き出した。さすがに吹き出したりはしないが阿求様も似たニュアンスの笑みをしている。何でや、ここ笑う場面じゃないでしょうよ。

 だが直後、二人はしっかりと俺の目を見つめて同じタイミングで答えを口にした。

 

『だって、私たちのこと守ってくれたでしょう?』

 

 

「…………そりゃ反則っすよ」

 あまりにも真っ直ぐな答えに、もうなんか色々と負けた気がして脱力する。乾いた笑いが漏れるが、どこか清々しい気分でもあった。

 言葉にできない感情の揺れに、油断するとうっかり泣きそうになる。それを誤魔化すように俺は天井を仰いだ。

 やれやれ、どうやらこの世界は俺が思っていた以上に一味違うみたいだ。ゆゆ様が言っていた「幻想郷は全てを受け入れる」という言葉が、今になって心に染みる。もしかしたら――この世界には救いがあるのかもしれないな。

 

 

「ところで、問題が二つほどあるんですがどうしましょう?」

 突如として、小鈴が神妙な顔つきでそんなことを言い出した。話しを遮るわけにもいかず、俺は彼女に続きを促した。

「問題とは何ぞ?」

「こほん。えー、一つはこの惨状と化した店内の片付けです」

 そう告げると、彼女は室内をぐるりと見渡す。撒き散らされた本の数々、ひっくり返ったテーブル、破片となった瓶の亡骸などなど。挙げればきりのないゴチャゴチャパラダイスだった。俺もこの状況を作った一人なので耳が痛い。といっても非常事態だった故、やむを得なかったのだが。

「Oh……さすがにこのままじゃマズイよなぁ。しゃーない、皆で片付けるか。よいしょイエ゛アァアア!?」

 立ち上がろうとした途端、腹がズキッと悲鳴を上げて俺自身もどこかで聞いたことのある悲鳴を上げた。バカな、もしや骨にも響いているというのか。ヒビが入っているというのか。

 ビクビクと気色悪い痙攣をしている俺を見やり、阿求様が小鈴に確認をとる。

「もう一つの問題は、これかしら?」

「せいかーい。良さそうな薬がないんだけど、どうしたらいいと思う?」

「へ、へる……へるぷ……」

 瀕死の一名も交えてうんうんと頭を悩ませていた、まさにその時、

 

「こんにちは~、薬の交換に来ました~」

 

『いらっしゃいませぇえええ!!』

「ひいッ!? な、何なの!?」

 俺と小鈴の熱烈な歓迎を受けたウサミミ少女がドン引き通り越して恐怖に顔を歪ませた。特に、床に倒れていた男がバネを思わせる勢いで飛び起きたのだから、彼女のSAN値に影響したかもしれない。一方で阿求様だけ大声を出さなかったあたり、さすがのお淑やかさだと思いました。

 

 

「あらら、これは随分派手にやっちゃったわね。体の方も、店の方も」

 素晴らしきタイミングで訪ねてきた鈴仙にかいつまんで事情を説明すると、彼女はすぐに俺をペタペタと触診して、残念そうに目を伏せた。ちょっと、手遅れみたいなんで止めてくれません? 可愛い女の子から触れられるのは嬉しいんだけれども。

「詳しいところは師匠に診てもらわないとわからないけど、どうする?」

「うぅむ……こうなった以上は行くしかないか。あー、できれば痛み止めとセットで処方箋をいただけるとありがたい。アリスに心配かけたくないから、こっそり治していく方向で頼んます」

 鈴仙にこちらの希望を伝えると、彼女は苦々しい表情で「あぁ~」と俺から顔を背けた。さすがにそこまで都合のイイ展開はなかったか?

 しばらくして、ウサミミ少女はポリポリと頬を掻くと非常に言い辛そうに口を開いた。

「ごめんなさい。その要望は応えられそうにないわ」

「いやいや、俺の方こそ無理難題言ってすまんね。そんな便利な薬あるわきゃないよな」

「ううん、薬の方は大丈夫よ。師匠なら作れるだろうから。問題はね……」

 またしても口をつぐむ鈴仙。見れば、どういうことなのか阿求様と小鈴も似た表情をしている。こう、負けが確定している戦いを見ているのに近い、悲愴の顔であった。

 俺だけが状況についていけない中、ついに鈴仙がその事実を告げた。

 

「あなたが怪我を隠したい相手……来てるわよ」

 

 鈴仙の発言の真偽を確かめる必要はなかった。

「優斗……!!」

「ファッ!?」

 店の入り口からご立腹の様子でこちらに迫ってくるのは、まぎれもなくアリスだった。ご本人登場であった。ビックリし過ぎてうっかり変な声が出た。

 彼女は眉を吊り上げて鋭い目つきで俺を見据えている。天使のような可憐な容姿からは想像できない、魔王の如き威圧感に腰が抜けた。アリスから放たれる覇者のオーラに、全てバレているのだと本能が悟った。先ほどまでとは別の危険を感じ取り、気付けば俺は情けないくらいにオロオロしながら弁解していた。

「ま、ま、待てアリス! 話せばわかる! っていうか情報早すぎじゃない!?」

「紫が来て逐一丁寧に報告してくれたわ。小鈴ちゃん達も危なかったから仕方なかったことも理解してる。だけどね……どうしてそうやって無茶ばっかりするの? 気を付けるって紅魔館で言ったこと忘れたの? もし取り返しのつかないことになったらどうするの?」

「ぅぐ、返す言葉もございません――いひゃい、いひゃい。ゆるひへ~」

 静かな怒りを身に宿したアリスにギューッと頬をつねられる。今度は声を荒げず無表情での質問攻めという斬新なお説教に戦慄が迸る。言い訳のしようがなく俺が悪いので、ここはひたすら謝るしかない。というか紫さん、俺の監視でもしてたんですか。しばらくお会いしてなかったけど、相変わらずやってくれるぜコンチクショウ。

 折檻の姿勢のまま、アリスは小鈴にもお叱りの言葉を投げた。

「小鈴ちゃん、これから慧音が来る手筈だから片付けを手伝ってもらいなさい。そのあとの指導も任せてあるから。危険なものを軽々しく使った罰よ。阿求さん、後はお願いしてもいいかしら?」

「そ、そんなぁ~」

「ええ。承りました」

 四つん這いの体勢でがっくりとうなだれる小鈴。今回の原因が彼女にもあることさえ知られているようだ。そのうち霊夢からガサ入れが入って、妖魔本を根こそぎ没収されるのではなかろうか。

 かくして、人形遣いが来たことで決定権が全て彼女に委ねられてしまった。アリスは俺の頬から手を離すと、こちらを見守っていたウサギ少女に話しをつけた。

「鈴仙、今から永遠亭に優斗を連れて行くから手伝ってくれる? 私が手を抑えるから、あなたは両足をお願い」

「わかったわ。アリスったら容赦しないのね、彼は怪我人なのよ?」

「いいの。心配かけた罰なんだから。治療も一番痛い方法でしてね?」

「ああ、それはうちも助かるわ。その方が早く治せるもの」

 ニコニコとガールズトーク?を繰り広げながら、アリスは俺の両手首をしかと掴み、鈴仙は俺の左右の足をガシッと両脇に抱える。完全に拘束された。担架がないからとはいえ、いくらなんでも運び方がダイレクトすぎませんかね。しかも会話の内容が不穏よ。

 こうなったら最終手段、義理と人情に訴える作戦でいくしかない。

「堪忍や~、オラぁ注射はイヤだぁ……仙豆をくれぇー」

「あら、優斗ってば注射が怖いの? いいこと聞いちゃった」

「逆効果!? ごめんってアリス! 反省してるから許してくれまいか? な?」

「イヤ。一度くらいは痛い目みないと許さないんだから」

「あのー、もう遭ってるでござるよ?」

「知らない。優斗のバカ……ホントに心配したんだもん」

 

 必死の抵抗もむなしく、俺は人形遣いと兎っ娘の二人に四肢の自由を奪われた状態で鈴奈庵から外に連れ出された。己の情けない姿が白日の下に晒され、たまたま近くを通りかかった人たちの視線がすごく痛い。もはや公開処刑です。

その恰好のまま空を目指して浮き上がり、俺は永遠亭に搬送されるのであった。

 

 しばらくして、人里の方からガンッと!というデカい打撃音に続けて『にゅぁ゛あ゛あ゛あ゛』という少女の悲鳴が木霊して聞こえてきたのは記憶に新しい。

 

 

つづく

 




次回
「第四十一話 流されて永遠亭」

へるぷみー、えーりん
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