お久しぶり?でございます。サイドカーが再びやってまいりました。
というわけで、今回は番外特別回の続きでございます。ギャルゲーをインストールしつつ、ごゆるりと楽しんでいただければ幸いです。
キーンコーンカーンコーン
「ひゃっほう、昼休みだぜぇー!」
魔理沙の喜びに満ちた喝采を筆頭に、待ってましたと言わんばかりの賑やかな声が教室を包んだ。授業という呪縛から解き放たれた若人たちの顔つきは、数分前とは打って変わって輝きを放っている。彼らの復活っぷりを目の当たりにした慧音先生が苦笑いで職員室に戻っていったのを、はたして何人が気付いているのやら。あの日見た慧音先生の顔を僕達はまだ知らない。
昼休み。学生諸君が自由に過ごせる、憩いの時間。机をくっつけて弁当を広げる女子グループに、数量わずかな人気パンを手に入れんと奮闘する猛者の集団。一番多いのは学食行きだろうか。なお、学食に至っては創設者のこだわりなのか、たとえ全校生徒が押しかけても空席が簡単に見つかるほどにデカい。メニューもダイエット女子必見のヘルシー系から運動部男子も満足なガッツリ系まで豊富なラインナップなうえに、高校生の財布にもやさしいお値段で提供しているのだから、その人気たるや想像を絶するものがある。ちなみに、パルスィも学食派の一人で、先ほど隣のクラスのヤマちゃんに引っ張られていった。キマシタワー。
「あぁ~、腰にくる……」
教科書やらノートやらを机の中に突っ込み、ググッと背伸びをしたりトントンと腰を叩いたりして体をほぐす。畑仕事を終えた爺さんみたいだな、と我ながら呆れる。
ほどなくして、各々の昼食を手に携えた仲良し三人娘が俺の席に集まってきた。
「優斗、行きましょう」
「あいよ、さっきから腹が警告出してて敵わんぜ。不思議のダンジョンだったらライフポイントが減っているな」
「だったら早く行こうぜ、私も腹ペコなんだ」
「そうよ、私だってお腹空いているんだから早くしてよ」
「わぁーった、わぁーった。そう急かさんといて」
「ふふっ、みんな考えていることは一緒なのね」
俺達の空腹アピール大会に、アリスがくすくすと笑みをこぼす。可愛い。
何気ないやり取りを交わしながら四人で教室を出る。目指すはいつもの場所、屋上だ。
意外にも昼休みの屋上は人が少なく、隠れたベストスポットになっている。なぜなら、学生の大半が大衆食堂もビックリな学食に向かうからだ。
最上階まで続く階段のゴールにある扉を開けば、まるで中庭をそのまま持ってきたかのような景色が目に映る。ベンチやテーブルが置かれた休憩スペースに、ヒマワリが咲いている花壇。ここは本当に屋上なのかと疑ってしまうクオリティーである。この学校を建てるのに一体どれだけの大金が動いたのか、私気になります。梅ノ森学園か。あとで迷い猫でも探しに行くか。
「いやー、慧音の授業は頭が疲れるんだぜ」
「よく言うわ、あんた授業中ずっと寝てたでしょうが」
「睡眠学習だぜ、霊夢知らないのか?」
「どう見ても爆睡だったわよ。むしろ見つからなかったことに感心するわ」
「日頃の行いの結果だな」
「もしそうなら即刻バレてるわ」
霊夢のツッコミも魔理沙からすればどこ吹く風。ボーイッシュな少女はなぜか勝ち誇った顔で、サンドイッチをモッシャモッシャと頬張っている。あまりの清々しさに霊夢もすっかり呆れて嘆息し、自分もおにぎりをパクつき始めた。
さてと、こちらもアリスの手作り弁当をいただきませう。いざ、御開帳。パカッとな。
「おお、こりゃ美味そうだ」
「そうかしら? いつもと変わらないと思うんだけど」
「要するにいつも美味しいって意味さ」
「もう、調子いいんだから」
ふりかけご飯に卵焼き、タコさんウインナー&野菜炒めのコンビがイイ感じにキチッと整列している。栄養バランスよし、今朝の野菜炒めを有効活用しているところも経済的だ。几帳面でしっかり者のアリスらしい献立でございます。
いただきます、と両手を合わせてまずは卵焼きを一口。なんと、卵焼きではなくだし巻き卵であったか。やりおるわ。
ワイワイと昼食をとっていると、ふいに「あ、そうそう」とアリスが何かを思い出した。
「優斗、さっきノートに落書きして遊んでいたでしょ? ダメよ、ちゃんと授業聞かなきゃ」
「むぐっ!? な、なぜ分かった!?」
「だって、やけに楽しそうにペンを走らせていたから。それに、優斗の顔がイタズラとか思いついた時と同じだったんだもの。すぐわかっちゃった」
「いや、まぁ、その通りなのだが……でも授業も多少は聞いてたんよ?」
「はいはい。先生に怒られても知らないからね?」
「くくく、アリスの言うとおりだぜ。授業中はマジメにならないとダメなんだぜ? 優斗」
「お前もな、魔理沙。あと、さりげなく俺のタコさん誘拐するのはどうかと思うぞ」
「いっつもアリスの美味しい手料理食べてるんだからイイじゃん。一品くらい私にも分けてくれよ。なんなら私のサンドイッチ一口とトレードしてやろうか?」
「交渉に応じたら最後、一品どころかおかず全員連れ去られそうな気がするのは俺の思い過ごしだろうか……?」
どこか試すようなニヤニヤスマイルで食べかけのパンを差し出してくる金髪少女。そんなことされたら俺だって期待してまうやろ。魔理沙も十分可愛い女の子なのだから。
一方で、先ほどまで我関せずとお茶を飲んでいた霊夢が「それにしても」とアリスの方を向いた。
「優斗のことよく見ているわね。家がお隣なんだっけ? お弁当まで用意して、どう見ても通い妻じゃないの」
「ふぇええ!? べっ、別に変な意味はないわよ! 優斗は――た、ただの幼馴染みよ。それ以外のなんでもないもん……」
『ふ~~~~~ん??』
「って、なんで今度は魔理沙まで一緒になってるのよ!? とにかく違うんだからー!」
やたら「幼馴染み」を強調して親友二人に弁解するアリス。見事なまでに赤く染まった顔は、リンゴかイチゴかはたまたトマトか。オーバーヒートして熱中症になるのではなかろうか。
実を言うと、俺も落書きの合間にアリスを見ていたのだが……黙っておくか。
「あ~、空が眩しいんじゃぁ~」
現実逃避に、少女達のじゃれあいから視線を逸らして青空を見上げる。初夏の日差しに時折聞こえてくる蝉の声。やれやれ、午後も暑くなりそうだ。
「――と、先生からは以上だ。各自気を付けて帰るように、解散」
森近先生は連絡事項を簡潔に伝えるや否や、締めの挨拶もそこそこに教壇を離れる。事務的に済ませるときもあれば無駄に長話するときもあったりと、日によって落差の激しい担任教師なんです。
そんなわけで放課後が訪れた。俺はパッパッと手際よく帰り支度を済ませ、隣の席にいる少女に声をかけた。そう、教室でも幼馴染がお隣なのである。偶然ってスゴイね。
「アリス、帰ろうぜ。ママさんからおつかい頼まれてるんだろう? タイムセールなら急いだ方が良いっしょ」
「あ、ちょっと待って。その前に図書館に寄ってもいいかしら?」
「俺は構わんけど、時間は大丈夫なん?」
「大丈夫よ。今日はタイムセールの日じゃないから」
まだ残っていたクラスメート達からの「バイバーイ」や「お幸せにー(?)」の声に軽く答えつつ、俺とアリスは教室を出た。それじゃ行きますか。この学校が誇る知識の宝庫、通称「大図書館」に。
その場所が「大図書館」と呼ばれる理由は圧倒的な蔵書量にある。なんせ校舎とは別に存在する建築物がフル活用しているときたもんだ。図書室ではなく図書館というのもそういうわけですたい。落とし神が通う学校の図書館もこんな感じだったな。
施設内に足を踏み入れると、さながら城壁のようにたたずむ無数の本棚がズラリと並ぶ光景が奥まで続いていた。広大な空間でありながらも静寂は保たれており、その雰囲気は開演前のコンサート会場を思わせる。
入口のすぐ傍にある受付カウンターに、黙々と読書を続ける物静かな少女がひとり腰かけていた。薄紫色の長髪と冷めた瞳。体は細く、どことなく病弱そうな印象を受ける。
アリスは少女の元まで近づいて、「パチュリー、返却お願い」と声をかけた。だが、件の少女――パチュリー・ノーレッジは本から顔を上げようとしない。ん、とカウンターの空きスペースを指差して終わりだった。そこに置いとけという意味だろう。
今日も平常運転な友人に肩をすくめ、アリスは言われた場所に本を置く。と、
「もぉー、パチュリー先輩。ちゃんと対応してくださいよぅ」
近くで本棚の整理をしていた、紅色ロングヘアが特徴的な少女が俺達のところまでやってきた。プリプリと頬を膨らませる仕草は、あざとくも可愛らしい。
「こんにちは、こあちゃん」
「よっす」
「どうもです。アリス先輩、優斗先輩」
アリスから「こあちゃん」と呼ばれたこの女の子。俺達とは一コ下の後輩であり、彼女もまた図書委員である。パチュリーをえらく慕っていて、身の回りの世話もしているとかいないとか。もはや後輩というより助手ですな。
すると、我々のトークがうるさかったのか、ずっと読書に徹していたパチュリーがパタンと本を閉じた。やる気のなさそうなジト目でこちらを見上げ、「ああ」と声を漏らした。
「あなた達だったのね」
「いやいやいや、相手も確認してなかったんかい」
思わずツッコミを入れた俺は間違っていないはず。だが侮れないことに、彼女は先生以上にここを知り尽くしており、どこにどんな本があるか完全に把握している実力者なのだ。ぶっちゃけ、図書館の主はこの少女だと思っている。
揺るぎない大図書館の裏ボスに、アリスは呆れ半分諦め半分の様相で一つ忠告を試みる。
「そうやってるから、魔理沙が勝手に延長しちゃうのよ。パチュリーってば、読書に集中すると何を言っても生返事しかしないんだもの」
「心配いらないわ。またアリスが代わりに返しに来てくれるんでしょう?」
「もう……魔理沙もそうだけど、あなたも大概自由よね」
誠に遺憾なのだが、魔理沙は無期延期の常習犯で図書委員(主にこあ)が手を焼く相手なのである。本人いわく「卒業するまで借りていくぜ」。アリス達が話している延長云々も、おそらくパチュリーが固有結界しているタイミングをみて「卒業まで延長するぜー」とでも言っているのだろう。ついでにいうと、魔理沙がDVDをレンタルしてきた際もアリスが返却に行くことがあったり。大丈夫なのか、色々と。
その後、パチュリーは返却された本の確認を始めた。それが終わると、彼女はカウンターに山積みになっていた本のうち、一番上にあったものを手に取ってアリスに渡した。
「その本の続きなら取り置きしておいたわよ」
「ありがとう、パチュリー」
「常連へのサービスよ。もしくはギブ&テイクというべきかしら」
「なぁ、アリス。どんな本を借りてたんだ?」
「気になる? えっとね――」
アリスが借りていたのは小説だという。内容はこうだ。現代日本のどこか、不思議な境界の向こう側にある世界が舞台の物語。神様や妖精がいる幻想的な場所で、魔法使いの少女と一人の青年が偶然出会い、やがて恋をする……
アリスがおおまかなストーリーを話し終えると、パチュリーがボソッと口を開いた。
「登場人物が誰かさん達にそっくりね」
「だ、誰のことかしら?」
「そういう素直じゃないところが、よ。……その本を参考にするのは構わないけど、もし図書館でいちゃつくなら静かにやってちょうだい」
「~~~~~~っ!?」
パチュリーに小声で何かを言われた直後、瞬く間にアリスの顔がカァアアッと紅潮してしまった。この図書委員系女子、さりげなくアリスをからかうスキルを持っているのも油断ならない。っていうか、どんなこと言ったんだ。
そうこうしているうちに、耳まで真っ赤になってしまったのを隠すように俺達に背を向ける我が幼馴染み。そのまま有無を言わせぬ力強い足取りで、出口に向かって歩き始めた。
「も、もう帰るわねッ! お買いものしなきゃ! また明日ね、二人とも!」
「はいはい、お幸せに。あと図書館では静かにしてくれるかしら」
「パチュリー先輩、その返しはヘンですよー」
誰のせいだと思っているんですかねというツッコミを喉で留めた俺エライ。
……うん? もしかして俺ってばまた置いてかれた?
あれから、どうにかこうにかアリスに追いつき、俺達は当初の目的を果たすべく商店街までやってきた。
今時にしては珍しく、この町に住む人のほとんどは商店街で買い出しをする。また、学生受けするおしゃれな店も多く、俺達と同じ制服を着た人もちらほら見かける。別名「人里」と呼ばれるショッピングゾーンはいわゆるシャッター街とは無縁の活気をみせていた。
「まったくもう、パチュリーったら急に変なこと言い出すんだから」
「俺まで内容が気になってくるのですがアリスさん」
「ダメ、教えない……言えるわけ、ないわ」
「えー」
俺は米袋を担いで、アリスは自作の買い物袋を手に提げて、夕暮れ時のアーケード通りをのんびりと歩んでいた。彼女のマイバッグからは食材が見え隠れている。人参、ジャガイモ、玉ねぎ、牛肉、カレールーなどなど。お隣の晩ご飯のメニューを品々が物語っている。
「おっ?」
人里商店街を出る手前で、とある張り紙が目に留まりついでに足も止まった。そういえば、どの店にも同じものが掲示してあったような。買い物中は華麗にスルーしていたぜ。
俺につられてアリスもその場に立ち止まる。
「どうしたの?」
「ん、もうそんな時期かと思ってな」
怪訝そうな顔をするアリスに、俺は自分が見ていたポスターを指差した。夜空と打ち上げ花火を背景に、赤い鳥居が構えているイラストが毎年恒例のデザイン。この町においては夏の風物詩ともいえる催し物『博麗神社 ~夏の縁日~』の開催を知らせるものだった。
アリスもポスターを見て「そういえばそうね」と同意してくれた。
「霊夢もこれから忙しくなるわね」
「神社の一人娘っていうか巫女さんやってるんだよな。巫女服も似合っていたし。したっけ、今年も準備の手伝いに行きますか」
「ええ。ちょうど夏休み中だし、またみんなで宿題を持ち寄るのもいいわね。そうすれば当日は気兼ねなく遊べるもの」
「そいつぁグレートだぜ。それはそうと、今年もアリスの浴衣姿を期待しちゃってもイイか? 去年のもスッゲー可愛かったから今回もぜひ」
「ふぇええ!? ぇ、えっと、うん……でも、せっかくだから浴衣も新調しちゃおうかな」
「うぉおお! マジっすか!?」
テンション上がりすぎてつい声がデカくなってしまった。とはいえこれは極めて重要な問題である。
俺の問いに、アリスは恥ずかしそうにモジモジと両手を重ねながら小さく頷いた。俯いた顔からわずかに覗く頬がほんのり桜色に染まっているのは夕日によるものなのか、それとも……
やがて、彼女は顔を上げると可憐な花が綻ぶような微笑みを浮かべて俺を見つめた。夕焼けに彩られたその表情は、ありきたりな言葉では表せないくらいに……綺麗だった。
「ねえ、優斗。今日はうちでごはん食べていかない?」
「いいのか?」
「もちろん。いつでも呼んでいいのよってママも言っているじゃない」
「ん、そうだな。ならばお言葉に甘えようかね。ごちになります」
「決まりね。ほら、早く帰りましょう?」
「ちょ、いきなり走るのはナシ! 米がッ、米が圧し掛かってくるからぁ!」
「あははっ! 待たないわよー」
アリスはまるで子どものような、いや、子どもの頃から変わらない心惹かれる笑みでこちらを振り返った。
俺もまた彼女を――誰よりも愛おしい女の子を追いかけて、帰り道を駆け出す。
なぁ、知っているか? アリス、俺はずっと君のことが――
とある日の宴会場、守矢神社の大広間にて。
酔ってすっかり上気した頬で秘蔵の原稿を公開する風祝と、それを食い入るように目を走らせる少女たちの姿があった。
「えへへー、どうですか? 結構な自信作なんですよー」
「あやややや、これは面白いです! さすが早苗さん、『外』の女子高生は格が違いますね! ぜひこの小説を我が『文々。新聞』に掲載――」
「させるわけないでしょ! 上海、やっちゃいなさい!!」
「シャンハーイ!!(ビリビリッ)」
『あ゛ぁ゛―――ッ!?』
「あー! 何てことするのよアリス!? 私まだ全部読んでないのに!」
「そうだぜ! あんまりなんだぜ!」
「知らないわよ! そもそもなんで私と優斗が中心なのよ!? 却下だからね、却下!」
「そ、そんなぁ~……せっかく続編も執筆途中なのに――あ」
「ふぅん、そうなんだ? 早苗、全部処分してあげるからひとつ残らずもってきなさい?」
「あ、アリスさん……! 綺麗な笑顔なのに何だか怖いですぅうう……ッ!?」
あとから訪れた吸血鬼とメイド曰はく、その晩、守矢神社には人形遣いから逃げ回る泥酔した少女たちの姿があり、その周りになぜか紙吹雪が舞っていたという。
おまけ。
同日同時刻、同じく守矢神社。別室にて。
「オラァッ! 脱げや天駆ぇえええええ!!」
「おっ、いいね諏訪子! やっちまいなぁー!!」
「イヤァァアアアッ!? 酒の勢いで生贄にされちゃうぅううう!!」
~番外特別回 おしまい~
ギャルゲーの力ってすごいね。
次回は本編の続きです。
今年こそ、完結できれば……いいなあ(遠い目)