東方人形誌   作:サイドカー

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夏コミに参加できなかったとしてもッ、メロンちゃんで委託されたのを買い漁るまでだッ!

同人誌と某紅茶サークルのドキドキディスクでアリスを補充したら漲ってきました。
アリス尽くしでサイドカー満足でございます。
あ、一冊だけサグメ本も買いました。


妄想暴走の最新話、ごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。



第五十一話 「向日葵畑で捕まって」

 今日もハレバレ幻想郷。緑が生い茂る魔法の森も、木々が日差しを遮ってくれる場所を除いては、太陽の光がサンサンと降り注ぐ。俺が居候させてもらっているアリス邸がまさにそうだ。たまたま木が生えていない場所に家を建てたのか、はたまた建築時に伐採したのかはわからないが、洗濯物がよく乾くベリーグッドな立地であるのは間違いない。

 家の周りも良さげな平地となれば有効活用しないのは勿体ないというもの。どうやら家主もそう思ったようで、ちょっとしたお庭スペースとして花壇が作られていた。洋風な家に添う小さな花畑は、いかにも彼女の可愛さを象徴していると力説したい。

 さて、いきなりアリス邸のお外事情から始まって疑問を抱いた人もいるかもしれないので種明かしをしよう。まぁ、理由はいたってシンプルなもんで、

 

「うんとこしょ、どっこいしょ。それでもカブは、引かぬ! 媚びぬ! 顧みぬぅ!」

 

 現在進行形でその庭の手入れに勤しんでいるからでござる。最高にナウってやつだぜ。

 言うまでもなくお察しかと思うが、事の発端は先日のお茶会にありけり。紅魔館のご立派な庭園を鑑賞したり、ガーデニングの話題に花が咲いたりしたらこうなるのは自然の理ともいえよう。加えて、あのとき美鈴がずいぶんと活き活きしていたのは記憶に新しい。

 つーわけで、今日は朝からアリスと二人で土いじり。ちなみに俺のお仕事は花壇の拡張工事です。

「ハァ~、アリスのためならえんやこらっと」

 もともとあった長方形を伸ばしてスペースを増やすという脳内設計図を再現すべく、横のラインを延長していくかたちでレンガを並べていく。枠ができればあとは土を詰めるのみ。仕上げに軽く手で叩いたりして土の高さを均等に調節すれば、はい完成。

「ふぃー。ま、こんなもんかな」

 こちらの仕事はひと段落したので、他の花壇で作業をしているアリスの方へ顔を向けると、

 

「フーンフフフーン♪」

「シャンハーイ」

「ふふっ。そうね、みんな元気に咲いてくれているわね」

 

 健気な花たちに微笑みながら水やりをしている天使がおった。彼女が手にしているジョウロが生み出す雨を浴びた草花が、日を反射させるほどに瑞々しさを纏う。アリスの綺麗な声が紡ぐ歌に合わせて、彼女の傍にいた上海がクルクルと回っていた。それを見て少女の笑みがさらに優しいものになる。

 おとぎ話の一ページみたいな光景を前に、成仏しかねない勢いで心が洗われていく。

「ふつくしい……」

 

「シャンハーイ」

 うつかり出た呟きに反応したらしく、上海がアリスのもとを離れて俺のところまで漂いながら流れてきた。ようやく止まったかと思えば、今しがたできたばかりの増設された花壇を見下ろしている。俺の仕事の出来栄えを採点しているのかしら。

「こんな感じでどうよ? 上海先生」

 ちょっとおどけて上海に意見を求める。まぁ、この子が鳴き声以外の言葉を発した記憶なんてバカジャネーノくらいしか……

「……ヤルジャネーノ」

「!?」

 な、なんかいつもと違うセリフが出なかった!? 実はボキャブラリー豊富なのか!?

 かつて予想していなかった上海喋れる説が浮上して驚きのあまり硬直する。すると、水やりを終えたアリスもこちらにやってきた。

「優斗、そっちはどう――あら、いいじゃない。綺麗に形作られているわよ」

「聞いてくれアリス! 上海が妙に渋い口調で俺の働きを褒めてくれたんだけど!?」

「なにを言って……ってなんでそんなに泥んこなのよ? もう、ちっちゃい子じゃないんだから。どうやったら顔まで土がつくのよ?」

 アリスは俺の衝撃発言に聞く耳もたず、体中いたるところまで土だらけになっている俺の恰好に呆れの表情を浮かべた。「しょうがないわね」なんて嘆息して、衣服に付いた汚れを手で払い落してくれる。その優しさと気遣いはとても嬉しい。汚れた甲斐があったぜ。ってそうじゃない。

「そ、そげなことよりも上海が!」

「わかったから暴れないの。いいから、お風呂に入って着替えなさい。その間に今着ている服もお洗濯しちゃうから」

 必死の訴えもにべもくれず、あれよあれよという間に家主の手によって家の中に押し込まれていく。こうも華麗にスルーされると自信がなくなってくるというか、自分でも疑わしくなるというか。ひょっとしてさっきのアレも俺の聞き間違いだったんじゃなかろうか。ああ、きっとそうだ。嫌だわアタシったら恥ずかしい。

 変な疑いかけてすまなかったな、と謝罪の意味を込めて上海を見る。相手は俺と目が合うと首をかしげる仕草で返した。いや、わからないならいいんだ――

「ヤレヤレダゼ」

 !?

 

 

 風呂から上がったあと、俺とアリスはメガ進化した花壇に何を植えるか作戦会議を開いた。ついでに仕事終わり&風呂上がりの牛乳は格別に美味かった。

「やっぱり花がいいんじゃない? そもそも花壇なんだから」

「いや、ここは逆転の発想で家庭菜園というのも捨てがたい。自家製の採れたて野菜とかイカしてると思う」

「うぅん、悩むわね」

 二人で色々と案を出し合う。折角だし、やるからには拘りたい。アリスもかなり張り切っているのが見て取れた。水やりも楽しそうにやっていたし、もともと好きなんだろうな。さっきの絶景を思い出したら頬が緩んでしまう。

 そんな折、ふいにアリスが「そうだわ」と何やらピンと閃いたっぽい声を上げた。

「こういう時こそ幽香に相談してみるべきよ」

「幽香?」

「お茶会でも話したでしょう? 風見幽香、太陽の畑にいる花妖怪よ。もしかしたら種も分けてもらえるかもしれないし、行ってみない?」

「そいつぁグッドアイデア! なら、今日はヒマワリ畑にピクニックと洒落込みますか。あ、だったら弁当を持って行かないとな。それから冷たいお茶も欠かせないぜ!」

「いいわね。幽香の分も合わせて多めに作っていきましょうか」

 かくして、俺たちは件の風見幽香氏に会うべくお出かけの支度を始める。手始めにランチの用意からでしょうかね。

 

 

 太陽の畑。

 妖怪の山とは反対方面の幻想郷の奥地に進んだ先に、彼の地はあるという。人里をスタート地点にしたらゴールするにはいささか距離があるが、道のりを差し引いたとしてもその美しさは一見の価値があるそうな。ちなみに、夜は陽気な妖怪たちの夏のコンサート会場となる。それもまた幻想郷ならではの風物詩なのかもしれない。

 

 

 眺めがいい場所があるの、なんてイタズラっぽく顔をほころばせるアリスについていく。やがて俺達が訪れたのは、件の場所からすぐ近くに位置する小高い丘だった。

 斜面になっている草原を上り続けて、ようやく丘の一番上に辿り着く。到着と同じくして口から漏れたのは疲れの溜息ではなく、視界一杯に映る光景にただ感嘆する声だった。

 

「はぁああ、こりゃまたなんともスンゴイなぁ~」

「でしょう?」

 

 まるで絨毯が敷かれているかと錯覚するほどに、眩しくも鮮やかな黄色が一面に広がっている。太陽の畑と呼ばれる由来が一瞬にして理解させられた。本当に、太陽の欠片が落ちてきた拍子に花になったんじゃないかとすら思えて。日本の夏を象徴する大輪の花が、美しく、逞しく、精一杯に背伸びしている。

 現代の田舎ですらめったにお目にかかれないであろう、広大なヒマワリ畑が俺たちの来訪を待っていた。

「たまげたなぁ。これを幽香氏が一人で管理しているんだっけ? 牧場物語もビックリだべ」

「幽香は『花を操る程度の能力』を持っているから相性がいいのよ。それよりも、本人を探しましょう。どこかにいるはずなんだけど……」

「んじゃ、俺が探してくるからアリスは昼飯の支度しておいてくれないか? さくっと見つけて連れてくるぜ!」

「あ、ちょっと!?」

 アリスの制止の声も待たずに高原を駆け降りる。ここまでずっと歩き通しだったし彼女には休んでいてもらおう。あと近づく途中で分かったのだが、ここのヒマワリは思っていた以上に背が高い。場所によってはアリスの背丈では隠れてしまいかねない。もし二手に分かれて探していたら、合流するのが大変だっただろう。結果オーライだ。

 目の前にある花畑に走る俺の背中にアリスの声が重なる。

「幽香はいつも日傘をしているわ! あと、意地悪してくるときがあるから気を付けてねー!」

 

 

「幽香殿ぉー! 風見幽香殿はいらっしゃらぬかー!」

 ご本人の名前を呼びながら奥に進む。こういう場合、向こうさんから来てもらうのが一番手っ取り早い。整備された通路らしきものがあったので道筋に沿う。おそらく件の風見氏が作ったのだろう。おかげでヒマワリを掻き分けていかずに済んだ。ありがてぇ。人様の花畑に勝手に手を出したら怒られかねない。

 結構歩いたつもりだが、なかなかどうして人っ子ひとり見つからない。とはいえ、「いませんでした」とアリスに報告するのは自分から言い出した手前もあってカッコ悪い。

 もう少しだけ奥に行ってみようと思った矢先、やや離れた位置に黄色以外の色が視界に飛び込んできた。周りにある鮮明なカラーとは対照的な淡い桃色。はじめは別の花かと思ったが、それが傘の広がりと気づくのにさほど時間はかからなかった。

「日傘? とすればあの人がそうか!」

 目的の人物を見つけた喜びから一直線にショートカットしそうになるがここは自重。ルートから外れることなく駆け足で目印を追いかける。

 ついに、どうにかこうにか相手のもとまで追い付いた。アンブレラで顔が隠れているが、とりあえず近づいて声をかけてみる。

「もし、そちらのお嬢さん。あなたが風見幽香さんでしょうか?」

 

「ええ、私が風見幽香よ。何の用かしら?」

 

 凛とした女性の声が鼓膜に届く。立て続けに日傘の持ち主が振り返った。

 やや癖のある緑色の髪。凛々しさある声に違わない切れ長の瞳が俺を捉える。赤いチェック柄のベストと、同じ色彩のロングスカートが非常に似合っていた。花妖怪というから、てっきり幽々様みたいなポワポワしたおっとり系かと思ったら真逆だった。だが、これだけは合っている。スゲー美人や。

 キリッと顔を引き締めて対面するレディに申し上げる。

 

「貴女を探していました。この身は貴女に会いたくてここに馳せ参じた次第であります」

 

「そう」

 幽香さんは吐息にも似た短い言葉を返した。手にしていた日傘をクルクルと回しながら俺の前まで歩み寄ってくる。ピッタリくっつきそうな間隔まで来てようやく足を止めた。って、いくらなんでも近すぎませんかね。美しい女性に密着しそうなほどに迫られるのはやぶさかではないのですが。

 彼女はその整った顔に挑発的な笑みを貼り付け、俺の耳元まで口を近づける。そして、妖艶な声で囁いた。

 

「ねぇ、気持ちいいことしてあげましょうか?」

 

 エロゲ級の急展開キタコレ。

 おいおいおいおい、一体どうなってやがんだ!? ええい、とにかく落ち着け俺よ。いきなり美人からアダルティな誘い文句が来たからって動揺していたんじゃ男としてダサすぎる。クールになれ、女性に紳士な天駆優斗が持ちうる理性をフル動員するのだ!

 大人の余裕を失わず、かつ真剣な眼差しで彼女の赤い双眸を見つめ返し、

「ぜひとも」

 この勢い、もはや脊髄反射である。ああ、やっぱり今回もダメだったよ。男ってやつぁよ、たとえそれが甘い罠だとわかっていても飛び込まずにはいられないものなのさ。悲しいね、バナージ。

 俺の返事がお気に召したらしく、幽香氏がくすりと笑みをこぼす。一見するとお淑やかな、だがどこか妖しげな微笑だった。

 表情を維持したまま彼女は地面を指さし、ある言葉を紡ぐ……

 

 そして、気が付けば俺はその場で四つん這いになり、背中の上に幽香氏が腰かけている構図が出来上がっていた。

 ……………ん?

「女王様と下僕!?」

 色々と問題ありな態勢になってた急展開其の弐に、ただただビックリしすぎて叫ぶしかなかった。いやまぁ確かに、彼女に言われるまま四肢を地に着いた俺も大概だけど! っていうか、なしてこの女性は初対面の男性に堂々と跨っているんだ!? しかも妙に様になっているし!

 驚愕しっぱなしの俺とは正反対に、彼女はこともなげに口を開いた。

「あら、もっと悦びに悶えるのかと思ったのだけど意外な反応ね。ところで貴方は誰かしら?」

「天駆優斗といいまっしゅ……」

 人を腰かけにしたまま名前を尋ねる女性と、その女性を乗せたまま自己紹介する男。もはやこの場にツッコミ要員はいなかった。

 こちらの名乗りを聞いた幽香氏は、自身の膝の上で頬杖をついて少々考える素振りを見せる。ほどなくして、名案を思い付いたとばかりにこう言った。

「じゃあポチね」

「いやいやいやいや、んな犬みたいな――」

「いい子ね、ポチ」

「わんっ」

 なんと凄まじい圧倒的までの逆らえないオーラ。どう見てもキケンな絵面だというのに、情けなくもあっさり返事してしまった。しかしなんだろう、この背徳感は。悔しい、でも感じちゃう。

 ごめんよアリス、もう俺は戻れないかもしれない。君といられた輝かしかったあの日々が遠のいていく。僕は新世界に旅立ちます。どうか、お元気で。

 我が生涯において一度たりとも開かなかった禁断の門がゆっくりと……

 

「な、な、ななッ……何やってるのよぉおおおおおおおお!!」

 

 人形遣いの絶叫により、ギリギリのところで解き放たれずに済んだのだった。

 

 

つづく

 




サイドカーはいたってノーマルです。
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