東方人形誌   作:サイドカー

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クライマックスが近いとか言っておきながら
まったく関係ない思いついたネタはやる


ご無沙汰です。月に一度はサイドカーでございます。
今宵は節分、豆や恵方巻きを肴にごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


追記(2017.2.14)
サブタイトルが入っていなかったことに気づきました……
第63話ってどういうことだってばよ!? と思われた方、申し訳ありませぬ(土下座)


第五十六話 「sweet little brother」

「アリス、何をしているんだ?」

 ついつい気になって声をかける。

 話し相手になってもらうつもりでリビングに顔を出すと、黙々とテーブルに向かっているアリスの背中が視界に入った。てっきり毎度お馴染みの人形作りかと思いきや、後ろから覗き込んでみてビックリ。見慣れた作業光景じゃなかったもんで意表を突かれてしまった。卓上に所せましと広げられているのは、人形遣い愛用の裁縫道具ではない。これがまた懐かしいというか、小学中学を思い出すブツだった。

 ビーカーやフラスコに試験管などなど特徴的な形状のガラス容器。いずれも薄ら色を帯びた半透明の液体を内包する。少女の手前には魔導書と思しき分厚いハードカバーの洋書が見開きで置かれ、辺りには魔法の森で採取したのだろう草花や鉱石、クリスタルの欠片なんかが散らばっている。魔理沙が好んで拾ってそうな赤紫色の毒々しいキノコまであった。

 後半はともかく、理系大学の学生ではないものゆえ、こういった器具を目にするのもご無沙汰なわけで。興味を引かれるのもさもありなん。

 手にしていたビーカーをテーブルに一旦戻し、アリスが答える。

「ちょっとした調合実験よ。素材になる特殊な植物や鉱石を魔法薬品と混ぜて反応を見ているの。魔法を研究する上での基礎ね。マジックアイテムが生まれるきっかけにも繋がるの」

「ふむふむ、なるへそなぁ。パッと見じゃ理科の実験と見分けがつかんのだが、やっぱ違うんやね。禁書目録でもオカルトだとか神話的な意味合いを絡めたりして魔術の術式ができるもんな。不可視のナニカは確かに存在するってことか。んで、この実験はどんな感じのやつなんだ?」

 童話に登場するいかにもな魔女のばっちゃまがやるような、大鍋に適当なゲテモノ放り込んで「フヒヒw」とかプチ発狂しながらグツグツ煮込む感じではない。傍から見る限り学校の授業と遜色ないまともなサイエンスだ。

「典型例は混ぜた薬品に含まれている魔力が増量したり、素材が持つ特性そのものが変化したりするわね。あと、素材自体に魔力を与えると反応を示すケースもあるわ。組み合わせは多岐にわたる以上、得られる結果も膨大かつ未知数よ。それだけ魔法は奥が深いの。あくなき探求心とブレインがないと魔法使いは務まらないんだから」

 ふふん、とアリスはどこか誇らしげに胸を張った。ちょっぴりイタズラ染みた得意げな顔で。彼女にしては珍しい表情だ。もっとも、魔法使いが魔法について語るのだから当然といえば当然なのだが。それよりもお茶目な仕草が繰り出すギャップ萌えに胸キュンが止まらない。世界の中心で萌えを叫びたい。

 金髪碧眼の少女が見せた貴重な一面を前にして、もちろん俺がじっとしていられるはずもなく。

「なぁ、俺にも手伝えることない? さすがに魔力供給とかは無理だけどさ、そういうの以外だったら雑用なり何なりご要望があればいくらでも申し付けてくれ」

「そう? じゃあ、お願いしちゃおうかしら。今回は材料を混ぜるだけだから優斗でもできるはずよ」

「おうよ、じゃんじゃんバリバリやったるで!」

「もう、どれだけ張り切っているのよ?」

 勇ましくドンと胸を叩く俺を、アリスがくすくすと可笑しそうに笑った。

 こんなことなら白衣も常備すべきだった。フゥーハハハとかできたのに。誠に遺憾である。

 

 

「優斗、この実をすり潰してもらってもいいかしら? 表面が硬くて力の入れ具合が難しいのよ。なかなか上手くできなくて」

「よしきた、ここは俺に任せて先に行け!」

「どうして不穏な言い方するのよ……」

 役割分担はいたってシンプル。力仕事は俺が引き受け、アリスは調合とその結果の記録に集中してもらう。

 すり鉢と麺棒を受け取る。すり鉢には木いちごにも似た赤い実がいくつか入っていた。試しにコンコンと軽く叩いてみるが、一粒も潰れることなく原形をとどめている。確かに思っていたより頑丈なヤツらだ。ある程度まで粒を細かくしてからじゃないと、粉状にもっていくのは厳しいだろう。

 ざっくり作戦を立て、麺棒をトンカチ代わりに木の実を砕いていく。多少粗めの粒になったところですり潰す段階に移る。だが、大きさにむらがあるせいか途中で引っかかり難航する。なるほどアリスが苦手とするのも頷ける。強引に力押しする荒っぽい作業である。

「ふふ、優斗がいてくれてよかった。すごく助かるわ」

「その言葉でさらにやる気が出たぜ」

「お願いね。あとでお茶淹れてあげるから頑張って?」

「イエス! オラオラオラオラオラ、オラァッ!」

 アリスの笑顔という飛びっきりのエネルギーが充電されて動きがさらに加速する。今こそ男を見せる時。頼りになるイカした益荒男スピリットをアピールするのじゃ。セプテットの舞じゃ!

 第三部のラッシュと脳内イメージで気分はすっかり承太郎。猛スピードでゴリゴリと実を挽いていく勢いはさながら原始的な火おこしのごとく。あっという間に粒がみるみる細かくなっていき、胡椒のような褐色の粉末と化した。

 一仕事終えた達成感を込めた息を吐いて、人形遣いの方を向く。

「よーし、できたぞ。この後どうすればいい?」

「それなら、ついでに右側の試験管の薬品と混ぜておいてくれる? ほんの数滴垂らすだけでいいから」

 アリスがこちらを見ることなくテキパキと指示を出す。彼女も彼女で真剣な眼差しで実験に取り組んでいる。フラスコ内の液体が色を移り変えていく経過を一瞬たりとも見逃すまいと、ひたすらに用紙にペンを走らせていた。むやみに話しかけるのはむしろ邪魔になってしまう。そっとしておくべきだ。

 とりあえず、俺は俺で仕事をこなすのが最優先事項でござる。

「さて、と」

 ゴチャゴチャと大小様々なアレやコレやがごった返すテーブルを見渡す。目的の試験管はすぐにわかった。同時に、彼女がわざわざ補足を入れてきたワケも理解する。

 なぜならば試験管は二本、それもピッタリ並んであった。片や赤い液体、片や緑色の液体。左右タイプの信号機を連想させる。緑じゃなくて青だったら導火線をイメージしていただろう。時限爆弾を止めるためにはどちらかを切れっていうお約束ね。

「えーっと、確か数滴でいいんだよな。入れすぎて爆発するオチは避けねーと」

 オチを未然に防ぐ独り言をぼやきつつ手を伸ばす。()()()()()()()にあった試験管の中身を二、三滴ほど落とし――

 

 ボンッ!!

 

「おぼぁッ!?」

 被爆。

 瞬く間もなく空気が爆ぜる。火山の噴火と紛うほどの、一斉に湧き出た大量の煙が全身を包む。もちろん発生源は手元の器に他ならない。無論、俺はその煙を顔面直撃レベルでモロに浴びた。間髪入れず辺り一帯がピンク色に染まった。エロい意味ではなく、物理的な意味で。

 僅かに目を離していた間に近距離から爆発が起こったとなれば、集中モードのアリスもさすがに動揺の声を上げざるを得ない。

「ちょ、ちょっと何なの!? 上海、とにかく窓開けて!」

「シャンハーイ」

 アリスと上海の声に次いでガチャッと窓が開け放たれる音が耳に届く。

「優斗、大丈夫なの!?」

「僕は死にましぇん!!」

 いかん、錯乱し過ぎてなぜか金八になってしまった。

 ほどなくして外の新鮮な空気と入れ替わり、桃色の謎気体が外へと逃げていく。失われていた視界が徐々に晴れていった。やっとこさ景色が完全に戻り――

「……………えぇえ?」

 呆然と、俺の口からはなんとも気の抜けた声が出ていた。

 なんでだろう、景色が完全に戻ってなかった。むしろ初めて見るものになっていた。

 まるで大平原のど真ん中に立ち尽くしているかのような、全方向に広がりゆく大地。そのはるか遠くで、もし世界の果てが壁だったらまさにこんな具合なのだろうと思わせる巨大な壁がそびえ立つ。

 

 ありのままに起こったことを一言で説明するならば、

 

 俺が知らない間に世界がとんでもなくデカくなっていた。

 

 さらに、驚きは留まりを知らない。

 

「ゅ、優斗……」

 

 頭上から聞こえてきたよく知った声にゆっくりと顔を上げる。

「ぶっ……!?」

 危うく鼻水が噴き出るところだった。

 俺の視線の先には今の今まで同じ部屋に居た少女と同一人物なのだが、明らかに違うところが一つ。

 ()()()()()()()()()()()()()()が驚愕に青い瞳を大きく見開き、口元を両手で覆いつつ俺を見下ろしていた。

 ビックリのオンパレードがここまで続くと逆に冷静になるもので、俺は前に読んだマンガでこれとよく似た展開があったのをふと思い出した。周りをよく見れば彼女だけではなく俺以外のすべてが巨大化している現象が示すところは……

 おそるおそる、俺は自身の数倍はあろう彼女に確かめる。

「アリス……たぶんだけど、皆がデカくなったわけじゃない、んだよな……?」

「う、うん……その、優斗の方が……小さくなっているわ」

 お目目をパチクリさせてコクコクと頷いているのが小動物みたいでまた可愛らしい。

 俺は「そうか」と頷き返した。そして、すぅぅっと大きく息を吸い込んで、

「なんでさぁああああああああああ!?」

 お約束として、まずは叫ばなければいけないような気がしたので叫んでみた。

 

 

「うーん、これは予想外かも。さっきの煙に包まれた副作用でしょうね。すぐに換気したから時間経過で元に戻れる範囲の軽い症状とは思うけど」

 すぐに落ち着きを取り戻したアリスが辺りを調べていき、その結果、どうやら俺が彼女の指示したものとは違う薬品を混ぜてしまったのが原因であると判明した。

 さほど珍しい状況ではないのかしら。対応が手馴れすぎていてかえって心配になる。一緒にパニックに陥られても困るんだけど。

 まぁ、何はともあれ。

 そんなわけで俺こと天駆優斗は小人さんになってしまいましたテヘペロ。

「いやはや俺もびっくりだ。びっくりするほどユートピアってやつだぜ。まさか上海に身長で負ける日がくるなんて……なぁ?」

「シャンハーイ」

 ドンマイ、と言いたげにポンと肩に手をかける上海氏。ちなみに定規で測ってみたら、現在の俺の身長は十五センチほど。元のサイズと比べて十分の一以下である。今ならガンプラと肩を組んで記念撮影もできる。

 テーブルにあぐらをかいてアリスを見上げる。もはやここだけでも一部屋分は余裕で確保できる。

「ごめんなさい。私が優斗を手伝わせたから……」

「どうしてアリスが謝るんだ? 百パー俺のミスだって。むしろアリスに被害がいかなくてよかったぞ。俺はアリスが無事ならイイんだよ。まぁ、二人とも小さくなっていたらお手上げ侍だったネHAHAHA」

 しゅんとしてしまったアリスに、俺はいつもと変わらないノリで言葉をかける。だって、彼女は何も悪くないのだから。

 大体、小さくなったといっても人形とさして変わらない。別に豆粒になったわけでもない。ゆえに気づかれず踏みつぶされてバッドエンドを迎える危険性も無し。ついでいえば服も一緒に小型化したので、ラブコメの展開よろしくスッポンポンにもならずに済んだ。同じく、戻った時に服が破けてキャーなオチもあるまい。

 巨大化じゃなくて良かったとつくづく思う。そっちの方が絶対に大騒ぎになる。

「せっかくだべ。戻るまでミニマムライフを楽しもうじゃん。これはこれでオモロイと思うし、俺はさして困っとらんよ。だからアリスが責任を感じる必要なんてナッシング、オーケー?」

「……うん、ありがと」

 お調子者のニヤリ笑いでおどけてみせる。つられてアリスにもようやく笑顔が戻った。そうそう、可愛い女子は笑っているのが一番よ。

 すると彼女は、上海や他の人形たちにやるのと同じように俺の頭を撫でだした。母性に溢れる優しい手で抵抗する気力すら起きない。

「うふふ。小さくなった優斗、かわいい」

「か、かわいいって……」

 全国の青少年が女の子から言われて複雑な気持ちになる台詞ナンバーワンに顔が引きつる。とはいえ、愛おしそうに触れてきて、可愛らしく顔をほころばせるアリスを前にすれば、受け入れるのもまた紳士というもの。あとぶっちゃけ心地良かったり。

 なでなでとされるがままになっていると、ふとアリスが「そうだわ!」とおもむろに声を上げた。

「ひょっとしたらパチュリーなら早く戻れる方法も知っているかもしれないわ。知識量なら私や魔理沙よりも豊富だもの」

「おお、そいつぁグレートだぜ。ついでだ、ただでさえデカい紅魔館がさらに大きくなったらどこまで迫力映像になるか試してみるか」

「決まりね」

 アリスは椅子から立ち上がり、外出の支度を始める。そして、テーブルに座る俺を両手で持ち上げて、

 

「のぉおおおおおおお!?」

 

 そのまま自分の胸に抱え込んだ。

 布越しでも伝わってくる豊かな二つの膨らみが俺の背面全体に押し当てられる。かつて体験したことのない包み込まれる柔らかさ。まさしく埋もれると呼ぶにほかない。着やせするタイプなのだろう。衣服の下に隠された大きなそれが惜しげもなく密着していた。そのうえ、落とさないようにしっかりと腕を回されたおかげで、女の子らしいイイ匂いと彼女の体温がダイレクトに伝わってくる。

 嬉しくて言葉にできない幸せに溺れる。なんか、もう、このままでもいいかなっておもえてきた。

「いきなり大きな声出してどうしたの? そのサイズじゃ紅魔館まで歩いて行けるわけないでしょう」

「ああ、うん、そだね。プロテインだね」

 もはや生返事しか出ない。

 しつこいながら俺は空を飛べず、そのためアリスから運んでもらった経験はすでに数回かある。なら今更だろうと思われるかもしれないが、感じるボリュームとかが全然違うんですよこれが。脳ミソとろけちゃいそう。

「~~~♪」

 アリスはご機嫌に鼻歌を口ずさむ。異性を抱きかかえているというのに、照れ屋な彼女が恥ずかしがる様子を一切見せていない。

「……?」

 おかしい。

 疑問という名の潤滑油が差し込まれ、ようやくお花畑になっていた頭の中の歯車がカチカチ回り始めた。何かがいつもと違う。そう、あまりに無防備すぎる。

 これではまるで猫かウサギでも抱っこしているみたいじゃ――

「は……ッ!?」

 瞬間、俺の中に閃きの電流ではなく衝撃の雷撃が落ちた。

 

(今の俺、アリスから男として見られてない!?)

 

 知らず知らずのうちに陥っていた一刻を争う絶望的かつ深刻な事態。

 かつてない危機を理解した途端、サラサラと灰と化した俺の口からはショックのあまり魂が抜けていくのを感じた。

 

 

つづく

 




某サークルの童遊という曲にハマってリピートが止まらない
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