この心の穴は幻想入り動画を片っ端から観て埋めるしかない(ダメ人間の発想)
そんなわけでこの物語もいよいよ大詰め?
読んでいたラブコメが次々と完結する波に、サイドカーも乗るしかない!
GWもいよいよスタート、まずはごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。
寺子屋で教師のマネゴトをこなした数日後、俺はお馴染みのバイト先である香霖堂を訪れた。戸をあけてすぐさま、ガラクタおっとコレクションが増えているのに気付く。どうやら俺の知らない間に無縁塚で調達していたと思われる。
ただし今日の俺は店員ではない。ここに来た理由はいわばビジネスだ。河童印のホログラムマシンをイイ値段で買い取ってくれると言われたので持ってきたのである。もとより寺子屋の仕事が片付いたら使い道がなかったわけで、こちらとしてもオイシイ話だった。買い取ってもらった立場で言うのもアレだが、そのうち倉庫行きになるのは想像に容易い。また掃除せんとなぁ。
その後も店内でのんべんだらりと過ごしていた折、ふと思ったことを聞いてみた。
「霖之助さんは出店やらないんすか?」
「何の話だい?」
「ほら、明日って人里のお祭りある日じゃないっすか。香霖堂は何かしないのかと疑問に思いまして」
「ああ、そういうことか。特に予定はないよ。そもそも僕が出店を開いて誰彼構わず客引きをする性格に見えるかい? あいにく明日もここで静かに過ごすつもりさ」
「果てしなく納得っす」
この人もブレないわね。とはいえ、祭りでワッショイするタイプとは思えないし、露天商のおっちゃんみたいなノリで道行く男女を呼び込んでアクセサリーを売る姿も想像できないんだけど。たまに宴会にも参加しているし、騒がしいのが苦手というわけではないのだろう。寡黙で落ち着いた雰囲気を漂わせるが、その辺はやはり幻想郷の住民というべきか。
男同士の他愛のない会話を繰り広げていると、同じく店でくつろいでいた仲良し三人娘の一人が加わってきた。白黒魔女ファッションで金髪ロングの活発な少女がニヤリと口の両端を吊り上げて、霖之助さんに右手を差し出す。
「魔理沙、おおよその察しはつくがこの手は何かな?」
「もちろんお小遣いの要求だぜ。任せろって、香林の分も代わりに私がお祭りを楽しんできてやるからさ」
「まったく、君という子は……」
霖之助さんが呆れ返った溜息を吐きつつも懐から財布を取り出す。てっきり断るなり諭すなりすると思ったのだが、やけにすんなり受け入れるのが妙に気になった。
気を抜いていたせいでポロッと疑問が口に出てしまった。
「イイんすか? あっさりオーケーしてますが」
「被害は少ないに越したことはない。また引き出しの中を勝手に物色されるのは勘弁してほしいからね」
「ヨシヒコォォオオオオ!」
家に上がり込んで引き出し漁るって、お前はどこのドラクエだよ。もしや壺を持ち上げて床に叩き付けて割ったりとかしているんじゃなかろうか。言っておくけどそこの壺(水煙草というらしい。使い方は俺も知らぬ)は店主のお気に入りなんだから止めろよ。絶対に止めろよ!
魔理沙に小銭を手渡すイケメン眼鏡に心より同情を捧げる。すると今度は、その様子を眺めていた紅白巫女が口を開いた。
「ねえ、私にはないの?」
「さりげなく自分も要求してきおったでこの巫女さん」
「そうくると思ったよ……まさかとは思うが、君まで同じこと言わないだろうね?」
霖之助さんに問いと疑惑の視線を向けられた少女、七色の人形遣いがゆるやかに首を横に振る。臨時収入を手にした親友二人の浮かれっぷりに苦笑いを浮かべ、
「心配しなくても言わないわよ」
「フッ……大丈夫っすよ。なぜなら、明日アリスと一緒に行くのはこの俺なんすから。なぜなら私は魚雷だから! そこんところはバッチコイコイ!」
「別に優斗が出さなくても自分の分は自分で――」
アリスが咄嗟に口を挟もうとするが、両サイドから伸びてきた霊夢と魔理沙の腕に遮られる。そのまま二人に店の隅っこまで引っ張られていった。さらに、なぜか俺を見ながらニヤニヤ笑いで彼女に耳打ちし始める。
「まーまー、そこは素直に甘えとけって」
「魔理沙は自重しなさいよ。ツケも溜まっているのにお小遣いまで貰うなんて、霊夢も」
「気にしない、気にしない。それよりもせっかくのお祭りデートなんだから、こういうときくらい頼っちゃいなさいって」
「だ、だからっ! そんな……でっ、デートとかじゃないんだってば!」
よく分からんがとりあえず、美少女たちの内緒トークの様子をしかと目に焼き付けておく。霊夢に何かを言われた途端、アリスがカァアアッと顔を紅潮させて焦ったように否定しているみたいだが、ひそひそと喋っているせいでうまく聞き取れない。誠に遺憾である。
にしても、霖之助さんも立派に保護者しておられますなぁ。慧音さんといい、幻想郷のインテリは人格者が多い気がする。そういえば……
「魔理沙が使っているマジックアイテム……ミニ八卦炉でしたっけ。あれ作ったのって霖之助さんなんすよね?」
「確かにそうだけど、それがどうかしたのかい?」
「いやー、剣と魔法が普通にあるファンタジー世界にいるからには、どうせなら俺にもその類が得られないものかと。つまるところ、そういうのないっすかね?」
「要は外来人でも使えるマジックアイテムが欲しいと。ちなみに、優斗君は魔力を宿しているのかい?」
「実はこれが全然まったくミジンコの欠片もございやせんでした。以前、紅魔館で魔法を試しましたが頭にタンコブできるし力が入らなくなるしで大変でしたぜ」
「何をやっていたのかは聞かないでおくよ。そうなると使い手が持つ魔力をエネルギーにする構造では無理だね。できるとすれば道具そのものに魔力を宿らせる方法か……」
ブツブツと独り言を呟きながら思考の海に沈み込んでしまった。難しい顔をして腕を組んで唸り、「これなら……」「いや……」などと言葉をときどき漏らす。ここでバイトをしていて分かったのだが、彼は仮説を立てたり考察を人に聞かせるのが特に楽しいらしい。なにせ一度熱く語り始めたら止まらないときたもんだ。この間も夜になっても一向に終わらず、俺の帰りが遅いと心配したアリスが迎えに来たほどである。かたじけのぅござる。
と、先ほどまでの俺と霖之助さんの会話を聞こえていたのか、再び魔理沙が話しかけてきた。女の子同士のナイショのオハナシはいつの間にか終わっていた。
「ちょっといいか? 今更なんだけど優斗ってどうやって幻想入りしたんだぜ?」
「本当に今更だな。かくいう俺もつい最近まで気にしてなかったんだがね。そういやアリスにもちゃんと話してなかったな。これはあくまで俺の推論だが――」
せっかくの機会だ。ここらで推理パートといこう。
いつぞや稗田邸で得た外来人に関する情報をもとに、俺なりに考えた幻想入りルートを彼女たちに聞かせる。現代にいたときに見つけた一本の樹木から感じた違和感のようなものがすべての始まり。それ自体かあるいはすぐ傍にあったものが幻想入りする瞬間に俺が触れてしまったために、結果として巻き込まれる形となったのではないかという可能性まで。俺が思いつく限りを一つずつ追って説明していった。
「――とまぁ、こんな感じで幻想入りしたんじゃないかと思うわけですよ」
「その話、詳しく聞かせていただけます?」
突如、虚空から女性の声がした。
「こいつ、直接脳内に……!?」
「そんなわけないでしょ」
すかさず人形遣いの冷静なツッコミが入る。言ってみただけなんです。ファミチキください。唐揚げ棒でも可。
そんな俺らをスルーして、霊夢がスンゴイ面倒くさそうなしかめっ面で嘆息し、虚空に向かって声を放つ。
「紫、出てきなさい」
「ふふふ。バレてしまいましたわ」
「相変わらず白々しいやつだぜ。誰でもわかることだってのに」
「あら手厳しい」
どこか芝居じみた声に続いて、何もないはずの空間に切れ目が入る。姿を現したのは長い金髪と白い帽子が特徴の知的な美女。優雅で、それでいてどこか掴みどころのなさも見え隠れする微笑をたたえる。余裕に満ちたその様相たるやまさに策士。さもありなん、彼女こそがこの世界の創設者なのだから。
「どうも、紫さん。ご無沙汰してます」
「こんにちは。アリスと仲良く……いえ、仲睦まじくしている?」
「はい、おかげさまで毎日がエブリデイでハッピーデイ――むぐぅっ!?」
「ちょっと紫!? へ、変な言い回ししないで!」
俺が答える途中でアリスが飛び込むように間に割って入ってきた。さらに口を手で塞がれてしまって喋れなくなる。ちょ、待て……い、息が……
ますます人が増えて余計に騒がしくなったせいか、思考の海にハチワンダイブしていた霖之助さんもさすがに顔を上げた。彼は窒息しそうな俺よりも紫さんの存在に気づき、
「おや、賢者様のご来店とは珍しい。ご入用で?」
「残念、用があるのは貴方ではなく彼ですわ。優斗くん、今の話は本当なの? 他者の幻想入りに紛れて此処に来てしまったというのは」
「確たる証拠はないですけど、俺の中では正解に一番近いのではないかと。じっちゃんの名にかけて!」
無駄に自信満々にそう答えると、紫さんが顎に手を添えて考える素振りをみせる。ほどなくして彼女の瞳が俺を射抜く。次いでかつてないマジトーンを耳にする。
「その場所まで案内してもらえる? 霊夢もついてきなさい。他の二人は、言われずともついてくる気でしょうね」
「当たり前だぜ。事件のニオイがプンプンするぜ!」
「目の前でこうも不穏なやり取りされたら誰だって気になるわよ……それにその、優斗が関係することなら尚更、ね」
「んむ? 俺がどうかしたって?」
「ななっ、何でもないわ! ほら、早く案内して」
「お、おう? したっけ霖之助さん、また後日っす」
名前を呼ばれた気がしたのだが、ほんのり頬を赤く染めたアリスに急かされて早々に店の外へ出る。俺たちに続いて紫さんたちもぞろぞろと香霖堂を後にした。あれだけ人がいた店内も、今やすっかり店主ひとりだけとなる。
パタン、と扉が閉まる音を最後に静寂が訪れる。
「やれやれ、さながら台風一過といったところか」
静まり返った店内で霖之助がひとりごちる。その後、先ほどの考え事の続きをしようと椅子の背もたれに寄りかかろうとした時、再び入口の扉が開き、呼び鈴がカランカランと乾いた音を響かせた。
香霖堂の店主が来客と向かい合う。
「いらっしゃい、何をご所望かな?」
そんなわけで目的地に来ました。
幸いにも香霖堂が魔法の森の入り口にあるため、わりと早く着いた。てっきりスキマを使ってテレポートになるかと身構えていたのだが、そもそも行こうとしている場所を知っているのが俺だけという理由から歩いていく次第となった。座標でスキマを開く位置を特定しているのだろうか。そんな能力者いたな。レベル4くらいだっけ?
科学と魔術が交錯する世界に思いを馳せつつも、かつて己が幻想郷に足を踏み入れる原因となったであろうご神木(仮称)を指差す。この辺がさほど変わってなかったのを差し引いても、我ながらよく覚えていたものだと感心さぜるをえない。アタイやればできる子。
「ありましたよ、あの木です。俺が不可視の違和感、いうなればオーラ力を感じ取って根元の穴に落っこちて気が付いたら幻想郷に居たんですよねぇ。そんでもって、そのあとにアリスと出会ったんです」
「そう……」
あのときの出来事は今でも忘れない。当たり前だ。身に覚えがないってのにいつのまにやら不思議な森に迷い込んでいて、そんな中で天使と見間違えるほどに可憐な金髪碧眼の美少女と出会った。そんな衝撃を忘れるわけがない。その前に上海との遭遇があったわけだけど、それはそれ。いいね?
俺が指し示した樹木を賢者が真剣な顔でまっすぐに鋭い視線をぶつける。見れば霊夢も似たような目つきで周辺を窺っている。意外にもガチな雰囲気にアリスも魔理沙も静かに見守っている。
いいや、限界だッ! 五人全員が沈黙している空気が耐えられん! 俺は沈黙を破るぞ、ジョジョーッ!
「あのー、紫さん? ひょっとしてマズイなにかが起こっているのでしょーか……? 主に俺のせいで。具体的に言うと俺のせいで」
「ご心配なく、大した問題ではありませんわ。少々の結界のズレがあっただけです。このあたり一帯が幻想入りしてまだ日が浅いのと、おそらくは優斗くんという異物が混入した故に生じた誤差でしょう」
「ゴプベシャぁッ……!!」
女性からさりげなく異物とみなされたショックでエア吐血が炸裂する。数歩後ずさり、その場で体育座りをしてドンヨリと負のオーラを落とした。もちろん皆に背を向ける感じで。あれ、おかしいな。目から汗が出るよ。
見兼ねた魔理沙が「よしよし」と頭を撫でてくれる。あ、なんか元気出てきた。彼女とは別に「あっ……」という小さな声が聞こえて顔を向けると、どこか躊躇っているような顔のアリスと目があった。手を伸ばす途中のような体勢で固まっていたが、俺と目があったことに気付くとパッと視線を逸らされてしまった。
待つこと幾しばらく。調査が終わったらしく、紫さんと霊夢がこちらを振り返る。体育座りの俺と魔法使い二人の様子を見て、はじめは怪訝な眼差しを向けていた紫さんだったが、すぐさま心当たりに気付いたようで、
「ごめんなさい、悪気はないの。あまりに例外な幻想入りの仕方だったもので少し驚いただけですわ。むしろ優斗くん自身は幻想郷に馴染んでいるし問題ありません。本当に、こちらが驚くくらいに此処の住民と慣れ親しんでいるもの。知っていますのよ? つい最近、あなたが古明地さとりファンクラブに入ったというのも」
「ななななななぜソレを!?」
びっくりするほどプライベートだだ洩れのピンチに体育座りどころではなくなり「な」を連打しながらバッと立ち上がる。そういやこのお方、以前に俺が鈴奈庵でドンパチやってたのをアリスに通報したんだよな。え、実は監視ついているの? 俺って観察処分者なの?
ちなみに俺の会員ナンバーは114514である。十万ボルトじゃなかった十万以上の会員がいるのか単に適当な数字を割り振っただけなのかは知らんが割と気に入っている。噂によると会員ナンバー1は実の妹と言う説が出ている。本当にありそうなのが逆に怖い。
どうやって地底まで行ったのかって? そりゃお前、文とかはたてとかもみっちゃんだよ。言わせんな恥ずかしい。特に文には何度も取材されているので快く引き受けてもらえた。そうだ、いつかにとりにタケコプターを作ってもらおう。
「あんた何やってんのよ……」
「うわー……」
霊夢と魔理沙の蔑むような視線が痛い。やめて、そんな目で見ないで。こちとら幽香氏に養豚場の豚を見る目で見下ろされて踏みつけられて「ほら、鳴いてみなさい」と妖しげに言われて堪らず「ブッ、ブヒヒィイイイ!!」と嘶いたところをチルノや大ちゃんに目撃されてドン引きされたあげくアリスに通報されてしばらく口きいてもらえなかったという前科はないのだ。断じて。
はたしてアリスはどう思っているのだろうか。未だ反応を示していない彼女をおそるおそる窺う。
「……何よ?」
「いや、その……怒ってる?」
「怒ってない」
どっからどう見ても明らかに不機嫌そうだった。頬を膨らませてむっとした表情で俺を睨むと、今度はツーンとそっぽを向いて「もう知らない」と言わんばかりのおかんむり。ファンクラブに入会したのは良くなかったのかもしれない。たまたま会ったパルスィに話したときもすっごいジト目されたもん。どことなく冷たかったし。
どうにか機嫌を直してもらおうと、両手を合わせて平謝りを実行する。情けないとか言わんでくれ。
「悪かったって。それに入会特典のさとりんの写真は帰りに文とトレードしちまったからもう手元にないし。だから許してくれ。な?」
「トレード?」
「ああ、人里で子猫と遊んでいるアリスの写真と」
ポケットを漁ってその写真を引っ張り出す。団子やの長椅子に腰かけている金髪ショートの女の子。生後間もない子猫を膝の上に乗せて喉元をこしょこしょとくすぐっているところが写っている。見ているこちらもだらしなく顔が緩んでしまいそうになる可愛らしい笑顔がたまらない。会員限定のレアアイテムを差し出すだけの価値が確かにあった。
俺が持っていた写真を目にするや否や、アリスはボッと湯気を吹き出すほどに顔を真っ赤にして神業のごときスピードでそれを引ったくった。
「~~~~~~~ッ!! ゆ、優斗のバカぁぁあ! コレは没収だからね!」
「なんですとォオオオ!?」
「泣いたって返さないんだから!」
レアアイテムを代償にして手に入れたお宝を失うという無慈悲な判決に血の涙が迸る。もう一枚あった写真、さとりんとパルスィのツーショットも橋姫に奪われたし、ひょっとするとファンクラブ入会早々にファンたる証を他者に譲り渡した報いなのかもしれない。
次に地霊殿に行ったら真っ先にさとりんに謝ろうと、俺はしかと心に誓った。
つづく
次回はGWの終わりくらいに投稿するかもしれませぬ
できなかったら許してヒヤシンス