東方人形誌   作:サイドカー

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秋の訪れとともに今宵も現るサイドカーでございます。


予定通りのシナリオなのに急に不安になってくる症候群
それでも、スランプなんかに絶対に負けたりなんかしないッ! ←即堕ち2秒前

何はともあれ最新話でございます。
此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第六十五話 「賽は地上高く投げられた」

 しばらくぶりの再会にもかかわらず、感動を分かち合いなど欠片もない。兄と弟が対峙する様は、下手をすれば一騎打ちによる決闘の幕開けにも映りかねない。

 まったく、その何事にも動じないスーパードライな眼光も変わっちゃいない。お茶の間のチビッ子が見たら泣くで。

 先に声を発したのはまたしても正面に立つ男だった。だが、それは「久しぶり」の一言とは到底似ても似つかぬもので、

「やはり此処に居たか」

「そいつぁこっちのセリフだっつの。つか、何でいんだよ?」

「身内が行方不明という情報を得て調査した結果、この地に辿り着いた。それと調査を進めていく中でコレを拾った。お前の落し物だ」

 最後の一言と同時に何やら小さい塊を無造作に放り投げてきた。地面に落ちる前に掴み取ってその物体に視線を落とす。見覚えのある品物だった。てっきり失くしたかと思っていた、

「俺のケータイ……?」

「当時まだ充電が残っていたおかげで持ち主はすぐに分かった。お前の居場所を特定する手がかりとしても役に立った」

「いやいやいや、そもそも身内が行方不明ならサツに通報した方が良くね?」

「この程度であれば自分で調査した方が早い」

 ふんと鼻を鳴らし、つまらない質問だと言いたげに兄は俺の意見を一蹴する

 あー、そうだった。そうでしたそうでしたよ。さも当然のようにこういうこと言うんだったわ、この人は。常識の有無は判断材料としないというか。曰はく、存在しないことを証明できないのであれば可能性はゼロではない。それこそ、そいつで状況の説明がつくなら神隠しだって視野に入れる。

 ズレているようでトンデモなく頭は良いのも事実。現実的思考の堅物に見えて非現実的なオカルトも否定しない。故に、彼は幻想郷の入り口となる箇所を見つけた。狙い通り、行方を眩ました弟の痕跡を。

 改めて思い知らされるキチガイ一匹狼を前に、ひとまずタバコを携帯灰皿に押し付ける。

 奴と向かい会っていると、ふいに誰かがシャツの裾を掴んできた。

「優斗……もしかして、この人が?」

 いつのまにか俺の傍に戻ってきていたアリスが不安げな声で問う。脈絡なく現れた見知らぬ男、しかも社交的とはいえない雰囲気。戸惑うのも無理はない。どの辺から聞いていたのかはわからないが、状況は察しているようだ。

 昨晩のシリアス場面を思い出したのか、彼女はシャツから手を離すと今度は右腕をぎゅっと抱きかかえてきた。

「お察しの通り、俺の兄貴その人だ」

「おいおい、ちょっと目を離したすきに一人知らないヤツが増えているんだぜ?」

 アリスに続いて魔理沙も駆け寄ってきた。無駄に緊張感を伴う微妙な空気だったので、陽気な彼女の介入はありがたい。

 二人の少女が立て続けに俺の近くまでくる様子を眺めていた兄貴が「なるほど、そういうことか」とか言って一人で納得し始める。いや、どういうことだってばよ。

 そんな自己完結型ブラザーにアリスが「あ、あのっ」と少し上ずった声で話しかけた。兄貴メッチャ警戒されとるがな。ごめん、それ俺のせいだわ。

「あんたは?」

「アリス・マーガトロイドといいます。優斗とは、その、今は一緒に住んでいます。あっ、でもそういう関係じゃなくてあくまで居候ですから! こほん。えっと、立ち話もなんですし良かったらどこか移動しませんか? 近くに私の家もありますし」

 アリスの提案もごもっともだ。積もる話もあれば立ち話で済ませられる内容でもない。落ち着ける場所で腰を下ろしてじっくりとっくり腹を割って話そうではありませんか。

 兄貴が答えるよりも早く、人形遣いの意見に白黒魔法使いが口を挟んだ。

「だったらうってつけの場所があるじゃないか。外来人絡みなら一つしかないだろう?」

「それってもしかして……」

 

 

「――んで、ゾロゾロとうちに押しかけて来たってワケ?」

「ごめんね、霊夢。もしかして都合悪かったかしら?」

「アリスが謝る必要なんてないわよ。魔理沙の言う通り、外来人絡みなら私も無視するわけにはいかないし」

 仕方ないわ、とぼやきながら紅白巫女が緑茶を啜る。ちょうど喉が渇いていたところだったし俺もいただくとしよう。アリスも手伝ったおかげで既に人数分のお茶が卓袱台に並んでいる。さりげなく気配り上手なアリスさんの女子力よ。

 俺たちが訪れたのは毎度お馴染み博麗神社だった。迷い込んだ外来人を「外」に送り返す場所でもあり、安全地帯としても申し分ない場所である。境内で掃き掃除をしていた霊夢に、俺の兄が幻想入りしていたことだけでも先に伝えると、ひとまず居間に全員集合と相成った。

 中身が空になった湯呑を卓袱台に戻し、形勢逆転とばかりに今度は俺が兄貴を見据える。

「じゃあ兄貴、ご説明願いましょうか。何がどうなってあんたまで幻想郷に来ているのか洗いざらい吐いてもらうぞ」

「言われんでも説明する。そもそも原因はお前であることを忘れるな」

「ぐぬぬ……!」

 訂正、やっぱり逆転できていませんでした。

 

 男同士の牽制合戦もとい謎の睨み合いが続く一方、女の子たちもまた身を寄せ合いヒソヒソと小声で会議を繰り広げていた。

「ふ~ん、あれが優斗のお兄さんねぇ。似てないわね」

 初めて見る外来人を横目に霊夢が気のない感想を漏らす。近寄りがたい一匹狼オーラを放つ男性に対しても、何物にも縛られない少女はいつも通りだった。

「うん、似てないよな。むしろキッチリ反対方向を向いているというかさ。兄弟だなんて言われないと分かんないぜ」

「でも、幻想郷に来ても取り乱した様子もなかったみたいだし、そのあたりはやっぱり似ているのかもしれないわね。優斗のときもあっさり信じたもの」

 三人の少女に注目されていても件の男性は気にも留めていない。気付いていないというより、本当に関心がないのだろう。顔立ちが整っているだけあって、そのクールさも加わって一部の女性陣からはキャーキャー言われそうなものだが、生憎この場にいる彼女たちには効かなかった。

「なんか、相手にしていると調子狂いそうだぜ。反応が淡泊で張り合いがない。優斗を弄ってる方が面白いぜ」

「そうね、あれ霖之助さんや慧音以上の堅物だわ。下手すりゃ閻魔といい勝負よ。アリスも優斗が良いわよね?」

「うん……って、えぇええ!? ち、違うの! 優斗とは過ごした時間がそれなりにあるからであって今のは別に特別な何かがあるとかってわけじゃなくて!」

「あーはいはい、わかってるわよー」

「だぜだぜー」

「~~~~~ッ!! 絶対わかってないでしょ二人とも!?」

 小声で怒鳴るという器用なマネをする人形遣いに、紅白巫女と白黒魔法使いは慈しみと生温かさが合わさった絶妙な笑顔で軽く流すのだった。

 

 

 兄貴の話は耳が痛くなるものだった。ついでに頭も痛くなってきた。

 結論から言えば、大学から実家に俺が留学先に行ってないと連絡があったらしい。幸か不幸か、その時に両親共々外出しており電話に出たのがこの男だったというわけだ。大学から事情を聞いた彼は、こちらで対処するので問題ないと返答(この時点で早くも兄貴クオリティが炸裂)。

 後日、俺が通う大学まで遠方から遥々やってきて調査を開始。出発予定日の前夜まで行動を共にしていたという弟の友人から当時の状況を聞き出した。さらにアパートの大家さんに言って俺の部屋の鍵を開けてもらい、旅立ちの荷物が置き去りにされてあるのも確認したという。魔理沙よりもこっちのが探偵っぽいことしてやがる。つーか俺の部屋に勝手に入りおってからに。三番目の引き出しが開けられてないことを切に願いたい。

 かくして、俺とダチが最後に解散した自然公園をわざわざ当時と同じく午前二時過ぎに捜索し、例の樹木があった場所で俺のケータイを発見するに至る。その場を中心に周囲の木々や地面を調べていく途中、奇妙な違和感に襲われて視界が歪んだかと思えば、次の瞬間には幻想郷に居たらしい。QED。

「おそらくは両世界の境目が完全に成立していない、混合して曖昧になっている時に接触したためにこちら側へ足を踏み入れる結果となったのだろう」

「さらりとそういう分析をするあたり、ホンマ大概っすわ。此処、幻想郷についてはどうやって知ったんだ?」

「森の中に店を構えていた骨董品屋の男性から聞いた。無縁塚という場所に外界のものが流れ着くと聞いて調べもした。妖と思しき血の気の多い獣と相対したのは悪くない腕試しになった。近辺にいた子供に人里の場所を聞き出せたのも収穫だ。訪問した日と夏祭りが重複したのは想定外ではあったが」

「怒涛の伏線回収ラッシュに俺のキャパがアヘり始めているのだが……オーケー、大体は把握した」

 むしろどうして今まで一度も会わなかったのか不思議なくらいだ。つーか香霖堂に行ってたんなら教えてくださいよ霖之助さん。いや、聞く限りだと人を探しているとは言わなかったみたいだな。店主を責めるのはお門違いか。

 はぁ、なんか無駄に疲れた。霊夢にお茶のおかわりを貰って喉を潤す。

「で、兄貴はこれからどうするんだ? そこの巫女さんに頼めば無事に元の世界へ帰れるっすよ」

 気が抜けたせいで半ば適当に質問を投げる。なんだかんだで家族が無事だったんだ。安心したのかもしれない。本当に低級妖怪と戦闘済みだとは思わなかったけど。しかも当たり前のように勝っているし。なんだこの主人公属性。

 投げやりな問いかけに、兄貴は眉一つ動かさずに端的に言い放った。

 

「決まっている。お前を連れて帰るのが此処に来た目的だ。理解したのならば早く支度をしろ」

 

『………え?』

 瞬間、部屋中の空気が静まり返った。凍り付いたといってもいい。俺も兄の言葉に耳を疑った。アリスから一切の表情が消える。霊夢と魔理沙も呆然と目を見開いて固まっていた。

 真っ先に声を上げたのは魔理沙だった。よほど焦っているのか思わず立ち上がって会話に割り込んできた。彼女に続いて霊夢も鬼気迫った顔で兄貴に詰め寄る。

「ちょ、ちょっと待てよ! そんなに急ぐこともないだろう!?」

「そうよ! 別れの挨拶も碌にしないでハイサヨナラなんて許されるわけないでしょう!?」

 少女たちの怒号に男が静かに目を閉じて沈黙する。思考を練る時の癖だ。どうするのが最適か彼なりに再計算しているのだろう。それを見て霊夢と魔理沙も口を噤む。もっとも睨み付けるのはそのままだが。

「優斗……」

「大丈夫、俺はまだ帰る気はない」

 隣まで寄り添ってきたアリスの声が震えている。今にも泣き出してしまいそうな顔を少しでも和らげたくて、彼女の手を握る。声だけじゃなくて手も微かに震えていた。

 わずか数分が何時間にも感じられる。やがて、その男は静かに目を開いた。こちらに向けられる視線に鋭さが増す。

「優斗」

「兄貴、悪いけど今すぐ帰るってのは俺は賛成できない。兄貴は知らないかもしれないけど、こっちに来てから世話になった人たちが沢山いるんだよ。その人たちに挨拶もお礼もなしに去るなんて無粋なマネ、俺はしたくない。そんなん紳士じゃないやろ!」

「一理ある。そこのお嬢さんには住む場所を提供してもらったというのなら、確かに相応の礼はするべきだ。わかった、幾らかの猶予をやる。その間に全部終わらせろ」

 彼を除く全員がほっと安堵の息を吐く。やれやれ、助かった。偏屈だけど人の話を聞かないわけじゃないんだよな。

 言いたいことだけ言うと兄貴はすくっと立ち上がった。

「どこに行くんだよ?」

「時間ができた以上、有効活用するまでだ。此処は身体を鍛えるには効率が良い」

「襲ってきた輩を返り討ちにして鍛える方法を効率的と申すか」

「……優斗。お前も立て」

「え? あ、ああ」

 言われるがままに腰を上げる。直後、俺は自らの油断と不甲斐なさを身を以って知ることになる。

 

ズドンッ!!

 

「ガッ……ァ……ッ!!」

 腹に抉り込むような鈍痛が襲いかかってきて、掠れた息を漏らしながら膝をつき崩れ落ちる。

 至近距離から握り拳を鳩尾に打ち込まれたとようやく理解できた時には、すでに吐き気を堪えるので精一杯でまともに動けない状態に陥っていた。呼吸が苦しい。酸素が足りないせいか視界が霞む。

 あのバカ兄貴が、本気で殴りやがった。

 女の子の悲鳴が聞こえる。悲痛な声で何度も俺の名前を呼んでいるのが分かる。分かるはずなのに意識まで薄れていくせいで返事ができない。大丈夫、そのたった一言が出てこない。

 耳までおかしくなったのか誰の声かが分からない。だけど、声では判断できないけれど、それが誰なのかは感じられた。俺にとって、大事な、

 

 ぼやける視界が徐々に暗転していく。

 

 やがて意識が完全に落ちる間際に、先ほどの言葉がやけに耳にこびりついた。

 

 ボディブロウと共に兄から放たれた――

 

 

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 だが、その意図を確かめる間もなく、とうとう完全に気を失ってしまった。

 

 

つづく

 




貪るように幻想入りシリーズの動画が観たい
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