東方人形誌   作:サイドカー

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俺ガイル1~2期をブッ通しで観てたせいで昨日投稿し損ねたテヘペロ

大晦日の前日にサイドカーでございます。
年内完結は無理でしたが、今年ラストの最新話でございます。ついに主人公が……?
年の瀬にごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。

皆様良いお年を。



第七十一話 「色彩 ~ナナイロ~」

 アリス邸を後にして歩き続けること幾しばらく。やがて目的の場所に辿り着き、立ち止まる。ここまで来てしまった以上、後戻りは不可能。まぁ、するつもりもないけど。

 待ち合わせの約束なんざしちゃいない、しかし予想通り奴は一足先に訪れていた。感情の籠っていない冷たい目つきが俺を補足する。

「来たか」

「何でもかんでもお見通しな態度にはもう慣れたけどよ。実は未来予知の能力が覚醒しとったとかそういうオチか?」

「お前の思考および行動のパターンを推測したに過ぎん」

「さいですか」

 適当な軽口を案の定つまらなそうに流される。特に意味のないやり取り。

 予感はあった。終止符を打つ舞台があるとしたら、それは始まりの場所でもある此処になるだろうと。魔法の森、タイミングは違えど俺と兄貴が幻想入りしたスタート地点。

 確信もあった。兄貴なら、常に俺の数歩先を行くこの男なら、俺が選ぶ行動くらい容易に読んでいるだろうと。だから奴が先に来ていたとしても、別に驚きはしない。

 スタンド使いがスタンド使いと引かれ合うように、兄と弟もまた一つの場所で会い見える。

「んで、どうするつもりなんだ? 昨日も言ったけど霊夢――あの巫女さんが協力してくれないと帰れんぜよ。兄貴めっちゃ睨まれとったやんけ」

 ちょいと意地悪く軽い質問で揺さぶりをかける。

 実際のところ、昨日見た博麗の巫女の剣幕を考えれば、兄貴の要求をすんなり受け入れてもらえるとは到底思えない。むしろ怒りの火山が噴火して、何か言うよりも早く俺まで巻き添えで退治されるやもしれぬ。我々の業界ではおっとそれ以上はいけない。

 俺が指摘すると、そいつぁ盲点だったと頭を抱える――なんて展開は残念ながら微塵もなかった。さも当然といわんばかりに兄貴は斜め前方に顎をしゃくって示した。

「問題ない。そこで様子見している人物が対処できる筈だ」

「へ?」

 

「あらあら? 気配は消していたつもりでしたのに、掴みどころのない殿方ですこと」

 

 どことなく余裕のある大人びた女性の声を伴い、数メートル先にある空間にスゥッと亀裂が生じる。俺はその正体を、その能力の持ち主を知っていた。

 スキマと呼ばれる固有結界の内側から現れたるは、長い金髪をもつ美女。幻想郷を創り出した妖怪の賢者にして普通に知り合い、八雲紫その人の姿があった。

 紫さんは出てくるなり俺たちに向かって「はぁい」なんてニコニコと手を振ってくる。呑気だなぁと思いつつも、美女に微笑まれながら手を振られたなら返さないわけにはいくまい。どうも、と軽く頭を下げて応じる。手ぇ振らないのかって? そりゃお前、一応の礼儀ってやつだよ。

 自らの存在が観察対象にバレていたと知ってもなお、彼女は平然としていた。むしろ面白そうにしている節さえある。この人も底知れないところがあるし、こちらの考えていること全部読まれてそう。いや、心を読めるのはさとりんか。たまにアリスからも読まれたりするのは俺が分かりやすいのだろうか。

 微笑を浮かべたまま、紫さんが兄に尋ねる。

「なぜ私が見ていると分かったの?」

「視線を感じた」

「なるほど、感覚が鋭いのね。お見事」

「いやいやいや、紫さんはそれで納得できるんですか。色々とオカシイと思いませんこと?」

「優斗くんだって最初に私と会ったとき『えーと、どちらさんで?』で済ませたじゃない。二人とも外来人なのに私のスキマを見て全然驚かないんだもの。どちらも似たようなものですわ」

 やや呆れ顔でそう言うと、紫さんは愛用の扇子をパッと広げて口元に添えた。悔しいが事実を指摘されてはぐうの音も出ない。誠に遺憾である。他に言うことなかったのか、あの頃の俺よ。

 さらに彼女は片目を瞑って流し目を送るというなかなかどうして妖艶な仕草を兄貴に向けた。

「名乗りましょう。私は八雲紫、この幻想郷を管理している者です。以後お見知りおきを。貴方が考えている通り私の能力を使えば『外』の世界に戻れますわ。でも、それを行うにはここではダメよ」

「説明を要する」

「いいでしょう――」

 この男の無礼な物言いに内心焦ったが、当人の紫さんは別に気にした様子もなく説明を続けた。やっべー、おらヒヤヒヤしたぞ。紫さんの寛容さに感謝せいよ、お前。

 

 彼女曰はく、幻想郷は忘れ去られたものたちを受け入れる安息の地であり、そして同時に全てを受け入れる残酷な場所でもある。ここでカギとなるのは現代と幻想郷を隔てる結界の存在。『外』から招き入れるならまだしも、反対に送り出すとなればどこからでもOKというわけにはいかない。もし適当な所を無理矢理に抉じ開けられて、そのせいで結界の維持に不具合が生じてしまっては、最悪の場合、幻想郷の存続にも関わってくる。もちろん、そのような事態はあってはならない。だとしたら、迷い込んだ外来人が元いた世界に戻るための出口は、結界を管理する者がいて、かつ『外』の世界と幻想郷の境目にあたる場所が最も適している。つまり、

「博麗神社。あそこが帰り道の出発駅になりますわ」

「理解した。八雲紫といったか、あんたの能力で我々を博麗神社へ頼めるか。余計な時間を消費せずに移動したい」

「承りましょう」

 兄貴の依頼に紫さんも了承の意を示す。彼女からしてみれば別に断る理由もないのだろう。

 というか、さっきから俺が置いてけぼりくらっている件について。頭が良い者同士で話がどんどん進んでいっているのですが。誠に遺憾であるワンモア。

 まぁ、いいか。どっちみち俺がやることに変わりはない。そろそろアリスも俺が残した手紙に気付いた頃だろうか。できれば口で伝えたかったけど仕方あるまい。それにこういうのも悪くはない。男は黙って何とやらってヤツだ。渋いぜ。

「優斗、ぐずぐずするな」

 不意に名前を呼ばれて我に返る。見れば、成人男性の身長を上回る大きさのスキマが俺たちの前に開いていた。躊躇なく入ろうとする兄貴の肝っ玉に今更何もツッコむまい。

「ちょっと待った。悪い、その前に一つだけ言っておかないと」

「何だ」

 踏み出しかけた足を戻し、兄貴がこちらを振り返る。顔には表れていないが早くしろと急かされているのが伝わってきた。けど、これだけは言わせてもらう。

 

 あのスキマを通り抜ければ博麗神社の境内に入る。

 その後、霊夢に気付かれないようにしながら、紫さんの助力を得て俺たちは元の世界に戻る。

 幻想郷での日々は思い出として残され、俺はまた現代で生きることになるのだろう。

 

 それが、この物語の結末。

 

 

 

 ただし、その筋書きには注釈がある。

 

 

「俺、此処に残るわ」

 

 

 この男が勝手に決めつけている展開でしかないワケで、こちとら帰るとは一言も言っていないんですよねぇコレが。

 兄貴の読み間違いを指摘し、すべての前提を覆そう。イッツ、ダンガンロンパ。

 

「……何と言った?」

 

 刹那、男の纏う空気が氷点下のごとく急激に底冷えする。ドス黒い暗闇に塗り潰すかのような禍々しい威圧感を帯びた眼光が、情け容赦なく俺を突き刺す。数年ぶりに見た完全なマジ切れ。

 だがしかし、俺だって退けない理由がある。だから受けて立つ。

 かつて、どうせ自分では敵いやしないと諦めていた相手を前にして。歳を重ねるにつれて無意識に目を逸らしていた強者に対して。俺は真っ向から反旗を翻した。

 当然ながら、この期に及んで戯言を宣う愚弟に賢しい兄が大人しく黙っているはずもない。

 静かに、けれども確かな怒気を宿した様相で睨みつけられる。そこいらのチンピラだったらチビッて腰を抜かしかねない強者の迫力で、

「自分が何を口走ったか理解しているのか。まだ逃げ回るつもりか。腑抜けも大概にしろ」

 

 あー、やっぱりそうか。

 この男から「いい加減、覚悟を決めろ」とか言われた時から、何となくだが察しはついていた。今の発言でそいつが確信に変わった。

 おそらく彼奴には俺が逃げ回ってばかりのどうしようもないチキン野郎にしか見えないのだろう。ヘラヘラと上っ面ばかりを取り繕って中身空っぽな弱小者とみなした。

 まぁ、それも仕方ないか。

 もう当時のことはあまり覚えちゃいないが、俺自身きっと初めはその通りだったから。

 だけど、生憎と今はそうじゃない。ようやっと気付くことができたから。本当の答えってヤツに。

 それに、どうせアレだろ? お兄ちゃんの手で根性なしの弟くんの精神を叩き直しやるとか思っているんでしょ? そんくらい分かるよ。こっちだって伊達に兄弟しとらんわ。

 

 なればこそ敢えて言おう、だが断る。

 贋作に許された唯一つの魔術があるように。俺にもまた許された、たった一つの生き様があるのだと告げよう。

 

「勘違いしていた。俺は、一箇所に留まらない固執もしないであてもなくフラフラと寄り道を繰り返すのが自分らしいと、そんなふうに思っていた。けど、そうじゃなかった。それじゃただの根無し草だ。気分屋とは言わない」

 

 まったく可笑しな話だ。いつの間にか目的と行動の順序が入れ替わっていた。

 そうあろうと、そうあり続けようと思い描いた理想像に頑なに縋ってしまったばかりに、進むべき道を間違えてしまった。まずは形から入ろうとして、とにかく形に表すことだけに囚われてしまった。

 

「『気分』っていうのはさ、言い換えれば『思い』とか『気持ち』と一緒なんじゃないか。どんなに漠然としたものであったとしても、自分自身の心に生まれた、確かな感情なんだと思うわけよ」

 

 くっせぇ言い方すると、思いの強さが行動に繋がるというかそんな感じ。

 行ってみたいと望んだ場所を目指したり、やってみたいと憧れたことに手を伸ばしてみたり。それが例え下らないものであったとしても、己の意思に従って進み続ける。

 だとしたら、間違った道もあながち間違いではなかったのだ。なぜならば、

 

 正しくても間違っていても、俺は俺の道をちゃんと選び続けていたんだから。他の誰でもない、俺自身の意思で。

 

 どこかの誰かも言っていた。

 他人に運命を委ねるとは意思を譲ったということだ。意思なき者は文化なし、文化なくして俺はなし、俺をなくして俺じゃないのは当たり前。だから俺はやるのだと。

 

「俺はな、兄貴。これからも幻想郷で生きていきたいんだ。この『気分』が変わることは絶対にない。この世界で、何よりも大切にしたいものを見つけたもんでね」

 

 思い浮かべる。暖かな陽だまりで優しげに微笑む金髪碧眼の女の子を。

 天駆優斗が抱いた唯一無二の譲れない想いを。

 

 命を燃やすものはあるか?

 ある、出会ったんだ。

 

 覚悟はできているか?

 少なくとも、誓いはとっくに前から立てられていた。

 深い真紅に染まる館で、城主たる吸血鬼の少女に問われた際に俺は答えた。「アリスを傷つけるような結末だけは断固拒否する」と。

 

 現代と幻想を秤にかけた天秤は既に傾いている。あとはそいつを言葉にするだけで良い。

 強請るな、勝ち取れ、さすれば与えられん。

 

 

()()()()()()()()()()。帰るなら兄貴一人で行ってくれ、わざわざ来てもらってすまんけどな」

 

 

 もっとも、これくらいで引き下がってくれるような話しの通じる相手だったら、こっちだって最初から苦労はしないんですけどね。

 身内だからこそよく知っている。その男が時に俺以上に偏屈で頑固者であるとも。一匹狼が故に、誰かに計画を潰されると凄まじく腹を立てる性格であることも。

 長い沈黙の果てに、

「……そのような戯言で納得すると思うか?」

 先ほどよりも硬い声で一言だけ、奴は口にした。

 きっとこの人は、俺にいい加減に現実と向き合う覚悟を示せと言いたかったのだろう。ところがどっこい、言われた本人はその意に反して此処に残ると返しやがったのだ。そりゃ腹の一つも立つに決まっている。

 けどよ、そんなん初っ端からお互い様だろうが。

 どちらも一方的で自分勝手な考えの押し付け合い。こちらも相手も妥協するつもりは毛頭ない。

「思わねーよ。このまま口論しても平行線がオチだ。だったら手っ取り早く済ませた方がいい」

 もはや話し合いで解決できる範疇などとっくに超えている。となれば方法は一つ。所詮男はバカばっか、決着のつけ方なんて今も昔も相場が決まっている。惜しむべくは場所が河原じゃなくて森であるところか。

 きつく握り締めた右手を前方に突き付ける。

「兄貴も得意だろ? ()()が一番わかりやすいし、勝敗もハッキリする」

 正々堂々と真正面からぶつかり合う、単純にして明快な拳と拳の語り合い。男の意地をかけた一騎打ち。

 視線が交錯する。ほどなくして、兄貴はワイシャツの袖を腕まくりすると、次いで左右の指を重ねてバキバキと鳴らし始めた。

「いいだろう。まずはここで貴様の腑抜けた精神を叩き直す」

 

 さて、あとは立会人の同意が必要だ。

 これまで会話に口を挟まずにいてくれた賢者様に声をかける。

「紫さん、というわけなんで決着つくまで待っていてもらってもいいですか?」

 俺が問うと、彼女は扇子を広げたままかつてない楽しげな笑みを零して頷いた。

「ふふふ。貴方という人は本当に面白いわね、優斗くん。もちろん待つわよ。最後までしかと見届けましょう」

 なしてそこまで笑われているのかは疑問だが、とりあえず了解は得られたので良しとする。

 ついでにもう一つ頼んでおこう。恐らくないとは思うが念の為だ。

「あと、外部からの手出しも一切無用でお願いできますか? これは俺と兄貴の問題なんで……なんか、すみません」

「ご心配なく。殿方の真剣勝負に野暮な真似はいたしませんわ。ですが、こちらからも一つ。もしお兄さんが勝ったら、彼の望みに応じて貴方たち二人を『外』に送り出します。よろしくて?」

 立会人もとい審判による条件の確認。もちろん返事はイエスしかない。

「構いません。決着がついたのに約束を違えるなんて紳士じゃないですから」

「潔くて大変結構。できれば個人的には優斗くんを応援したいところだけど、果たして勝算はあるのかしら?」

 兄貴の高性能っぷりは紫さんもとっくに調べているはず。それを知ったうえで彼女は俺に問いかけた。あなたは彼に勝てるのですか、と。

 試すような質問に、俺はいつもと変わらない軽い調子で返した。

「正直言うとキツいですよ。あの男のキチガイ級は俺自身よーく知ってしますから」

「そう」

「でも、だからこそ……こういう状況で最弱が最強に打ち勝つのってなかなか燃えるだと思いませんか?」

「…………」

 得意げなニヤリ顔で答えたところ、これまた珍しいことに紫さんが意表を突かれたかのように瞼を瞬かせていた。

 それも束の間、さっきよりも大きな笑いが返ってくる。愉快痛快といわんばかりの反応だ。それさえも優雅に映るのだから美人ってのは色々とヤバいっす。

「ええ、最高に粋ですわね。でしたら、応援の代わりに一つ朗報をお伝しましょう」

「何ですか?」

 いきなり朗報とか言われてもまるで心当たりがないので首を傾げるしかない。訝しげな表情をする俺に、紫さんはパチンと閉じた扇子の先端を俺に差し向けた。

 そして、彼女の口から告げられた朗報というのが、俺にとってこの上ない激励の言葉となる。

「実をいうと先ほどアリスもそちらの男性と鉢合わせしていてね、彼が優斗くんについて悪く言っていたから怒っていたのよ。よっぽど譲れないものだったのでしょうね、彼女があれほどまでに啖呵を切るところなんて初めて見ましたわよ」

「……はは」

 そうだったのか、アリス。

 彼女が俺のためにそこまで怒りを露わにしてくれたと聞かされて嬉しくないわけがない。悪いと思いつつも頬がにやけてしまう。胸の内が熱くなってくる。尚更負けるわけにはいかなくなった。

 つっても、ここに来る前にメッセージは残してきてあるんだけどね。ただ一言だけ、

 

『ケジメをつけてくる』

 

 俺が欲しい未来は此処にある。ならば、やるっきゃないっしょ。

 弾幕ごっこもない。そもそも異変ですらない。この世界に相応しくないショボくて泥臭い真剣勝負を。

「行くぜ、兄貴。勝っても負けても恨みっこなし。これが俺たちの……たぶん最後の兄弟喧嘩になるぜ」

「……愚か者。痛い目を見ないと分からないか」

 

 幻想郷の片隅で、新聞の小ネタにもならないようなちっぽけな最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

つづく

 




アリスとのお別れになるのかと思ったぁ?
正解は現代とのお別れでしたァン!(煽り)

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