投稿が遅くなったうえに、OVA後編と思いきやここにきて三本立てになっちゃってアへ顔さらすサイドカーでございます。
「かまわん、やれ」という寛大なご処置をオナシャス ←土下座
というわけでOVA続きでございます。
此度もごゆるりと読んでいただけると嬉しいです。
「いや~んカワイイ~! ほらほらパチュリー様見てくださいってほらほらほら!」
「分かったから。いい加減に作業に戻りなさい」
「もうちょっとだけ! あと少しだけでいいですから!」
「却下」
キャーキャーと黄色い声を上げる小悪魔と、我関せずを貫くパチュリーの漫才が繰り広げられる。
図書館の魔女は余所を一瞥たりともせず、次から次へと本を手にとっては流し読み、閉じては横に積み重ねる。本の塔が倒壊する寸前ギリギリなところで、ようやく持ち場に戻った小悪魔がせっせと片付けを始めた。今でも名残惜しそうにチラチラとこっちを見ながら。
先ほどの眼福な絶景にしばし思いを馳せる。やんやんと腰をくねらせて悶える小悪魔の動きがどことなくエロかった。こあちゃんサキュバス説を唱えざるを得ない。コペルニクス先生の地動説に匹敵する大発見かもしれんで。
そんな小悪魔のこあちゃんが歓声を上げていた原因というのが、こちらでございます。
「ちゃっ、ちゃっ」
「こっちよフラン。がんばれ、がんばれ」
四つん這いになってハイハイする赤ちゃんフランと、両手を広げて迎え入れようとするアリスがいた。二人とも金髪なのもあって、うら若きママと愛娘の触れあいを連想させる。こりゃ堪りませんわ。清い鼻血が出そうであります。清い鼻血って何ぞや。
大好きなアリスを見つけたフランがニッコニコの笑顔で彼女を目指してまっしぐら。ヨチヨチと辿り着いた幼子を、金髪碧眼の少女が抱き上げて頬を重ねつつ褒める。
「イイ子ね。よくできました」
「たー!」
「頑張ったな、フラン。エライぞぉ」
これぞ何物にも代えがたい幸せな一ページ。守りたい、この笑顔。
いやはや、いざやってみると子守りへの懸念などスッパリなくなっておったわ。それどころか楽しいまである。たーのしー!
「アリス、俺も俺も」
「はい、あまり強くしちゃダメよ。そっとだからね」
「おう」
チョイチョイと自身を指差して抱っこの交代を要請する。プリーズプリーズ交換しましょ。
ふと冷静に考えてみると、今の言い回しって下手すりゃ俺にも頬ずりしてほしいみたいなニュアンスにも取れそうでもあった。いかんいかん、いい歳してバブみに目覚めてしまうところだったぜ。はーいちゃーんばっぶー。マグロ、ご期待ください。
俺の鼻っ柱をおててでペチペチと叩いてくるフランちゃんを、言われた通り力加減に気を付けながら脇の下から支える。いつものこの子も純真無垢だが、今の状態はそれに輪をかけてピュアッピュアでござる。
「おー、よーしよしよしよしよし」
「あぅ?」
「ほーれ。たかいたかーい」
「きゃー♪」
お約束に高々と掲げ上げればご満悦の声も上がる。やべぇ、顔が緩む。俺の中に眠るパパンスイッチのレバーが切り替わっちゃいそうです。
何かに目覚めそうになりながらも高い高いを繰り返し、さらに遊園地のコーヒーカップみたくグルグルと回る。こちらもお気に召したらしく、フランはますますご機嫌になった。
俺とフランの戯れに、アリスも表情を和らげた。
「ふふっ、優斗ったらすっかりお父さんね」
「そうか? いや~、でもまぁ悪くないもんだなハッハッハッ」
「これはまた、とんだ親バカ――いえ、子煩悩ね」
やや離れた場所で椅子に腰かけていたレミリアが、肘掛けに頬杖をつきながら呆れた風な面立ちで呟いた。いやそれ、言い直した意味なくない?
彼女は子守りに参加するでもなく、かといってパチュリーの手伝いをするでもなく、近すぎず離れすぎずの傍観者ポジションに落ち着いていた。
美鈴は門番だからしゃーないとして、そういえば咲夜さんもいない。
「てか、こっち来りゃいいのに。赤ちゃんフランなんてSSレベルのレアキャラよ? 課金ガチャがフィーバーしちゃうよ?」
「途中から何語なのか全く理解できないけれど、お気遣いどうも。でも結構、こういうのは特等席で見ているのが最も楽しいのよ」
「さよか」
こんな時でもレミリアらしいというかなんというか。
どうやら彼女は俺とアリスの子守り劇場を心行くまで鑑賞していくつもりらしい。霊夢もブレない性格だがレミリアも大概である。もっとも彼女の場合、俺たちが来る前にフランを泣き止ませるのに失敗して余計に泣かれてしまったらしいが。そん辺は言わぬが花か。
そんなこんなでレミリアと話していると、「ぅ……ぅ~」とフランがぐずり始めた。危ういことに、既に涙目になっている。
「よーしよし、どした? また高い高いすっか?」
「わぁあああああん!!」
「ぬわッ!?」
声掛けも虚しく、またしてもフランが泣き出してしまった。図書館中に赤ん坊の泣き声が響く。
「言っておくけど私のせいじゃないわよ」
「わぁーってるよ」
姉吸血鬼が念を押してくるが、もちろんここで彼女のせいにするほど外道ではない。むしろ幼子が泣くのは自然の摂理です。なんともはや、大学生――いや、
ひとえに赤ん坊が泣くとしたら、ミルクかおしめかママのいずれかのはず(偏見)。
嗅いでみたところその手の臭いはしなかったから、一つ目は除外される。赤ちゃん状態とはいえ、将来が楽しみな愛らしい幼女の下のニオイを嗅ぐとか、「外」の世界だったら一発アウトで手錠モノの案件だが、俺はロリコンではないので他意はない。だから大丈夫だ、問題ない。通報するなよ、絶対に通報すんなよ!
残るはミルクかママの二択。ならば、すぐに試せるやつからやってみるのが手っ取り早い。
「すまんアリス、頼む。俺は……無力だ……ッ!」
「はいはい。無駄に鬼気迫る顔つきしなくていいから」
「うぃっしゅ」
というわけで、絶賛ギャン泣き中の駄々っ子フランちゃんを人形遣いに託す。先ほどと同じく彼女が身体をゆったりと揺らしてあやし始める。ところが、今回はそれでも泣き声が収まる気配はなかった。
どうやらフランちゃんは空腹だったようです。そして今になって素朴かつ重大な疑問が生じた。紅魔館に赤ちゃん用のミルクなんて置いてあるのかしら。おいおい、こいつぁひょっとして詰んだんじゃなイカ?
まさにピンチかと思われたその時、美しき救いの手が差し伸べられた。
「優斗様、こちらを」
「あ、咲夜さん」
忽然と姿を消していたメイド長が音もなく傍らに立つ。彼女から子育てアイテムの一つ、その名も哺乳瓶を手渡された。いなくなっていたのはコレを調達するためだったのか。さすが咲夜さん、フォローが完璧です。そこに痺れる憧れる。やはりメイドさんは男の浪漫、はっかり分かんだね。
ちなみに哺乳瓶の中身は白かった。吸血鬼といっても、食事は全て血液というわけではなく、どっちかというと嗜好品に近いそうな。言われてみれば宴会とかでもフツーに飯食っていたわね。東京のグールみたいな体質事情じゃなくて安心した。ヒナミちゃんペロペロ。
新しいアンパン頭を運んできたパン職人のごとく、人形遣いに哺乳瓶を差し出す。
「アリス、咲夜さんが用意してくれたぜぃ。これで勝つる!」
「一体何に勝つ気なの? ちょっと待って……うん、貸してもらえる?」
「あいよ」
バランスを崩さないように片腕でフランを抱き直してから、アリスはミルクを受け取って小さな口元に近付ける。
「わぁあああ…………んっ、んっ」
すると、泣き喚いていたのがピタリと止んで、フランが容器の先端を咥えた。立て続けにちうちうと飲み口を吸い上げていく。空腹を満たすべく夢中になってミルクを飲んでいる。
さながら孤独のグルメ。「これこれ、こういうのが欲しかったんだよ」とゴローさんの心の声が聞こえてきそう。ンマヤ・ンマヤ。
「おっ、飲んでる飲んでる。いいじゃないの」
「やっぱりお腹が空いていたのね」
元気な飲みっぷりに俺もアリスも顔を綻ばせる。この子を見ていたら何だか急に……腹が、減った。
みるみるうちに容器の中身が減る。まさにドラマの追い込みシーンそのもの。モノローグだけでなくBGMの幻聴まで聞こえてきた。勝利確定。
やがて満足したのか、フランが哺乳瓶から口を離す。あわせてアリスが背中をトントンしてやると、けぷっと可愛らしい「ごちそうさま」のサインを発した。お粗末!
「赤ちゃんって腹いっぱいになったら寝るもんじゃないのか……?」
いつから食事の後はおねむの時間だと錯覚していた?
むしろ満たされたおかげでフランちゃんはますます元気でした。漲ってきたぜと言わんばかりにテンションが荒ぶっております。10秒チャージ2時間キープ。元気ハツラツオフコース。鷲のマークの大正製薬です。
コアラみたいにひしっとアリスにしがみつくベイビーフランは「あー」とか「だー」とか赤ちゃんコトバを連発して、自己主張がハンパないの。
「無理に寝かせる必要はないんじゃない? フランが遊びたいなら遊ばせてあげるべきよ」
「せやろか、せやな。んじゃ、遊び疲れるまでとことん相手したろか。ほ~れほれ、いないいないばぁ~~」
遊び相手とならば、ここから先は俺のターンだ。
お約束第二弾「いないいないばぁ」で興味を誘う。だがしかし、始めは興味深そうにジーッと見てくれたものの、どうにもお気に召さなかったのか、ほどなくしてスルーされてしまった。
「な、なんと……!?」
「つまらなかったみたいね」
「ぐぬぬ……なら、こっちはどうだ? レロレロレロレロレロ」
ならばとアピールの方法を変えて、花京院のモノマネを試みる。ところがどっこい嗚呼無情、今度はこちらを見ることすらなかった。
「ぅー」
「あらあら」
「ついにノーリアクション!?」
俺から顔ごと背けて、アリスの胸に顔を埋めるフランちゃん。って、なにさりげなく羨ましいマネしてんでしょこの子は。
青年と人形遣いが子守りに夢中になっていたその頃。大図書館に新たな来客が現れた。
白黒ファッションと黒のとんがり帽子、ボーイッシュな口調でおなじみの少女、霧雨魔理沙その人である。パチュリーからすれば無断レンタルの常習犯であり、いっそのことアリスの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい輩だ。
もちろんそんな事情など露知らず、罪悪感を微塵も感じさせない爽やかなノリで、少女が飄々とこちらにやってくる。
「おーす、今日も本借りに来たぜ」
「パチェなら取り込み中よ。また今度にすることね」
「つれないなぁ。ん? なんだ、アリスたちもいるじゃん。仲間外れとは感心しないんだぜ」
レミリアに一蹴されて肩をすくめるが、視界の端に親友の姿を捉えて目を瞬かせる。今日も想い人と一緒にいるあたり、仲睦まじくやっているようで大変結構。
魔理沙の言葉に、吸血鬼が思い出したかのように「ああ」と一置きしてから答える。
「私が呼んだのよ。不法侵入の泥棒とは違うわ」
「ふぅん。よし、せっかくだし声かけていくか」
「お好きにどうぞ」
あいにく、ここからだと何をしているのかイマイチよく分からないが、どうにも面白いことが起きている気がしてならない。好奇心と探究心は魔法使いの必須スキル。みすみす見逃すつもりは一片たりともあるものか。
ついでに驚かしてやろうと抜き足差し足でそろりそろりと彼らのもとに近付く。二人がビックリする未来を想像して、「にしし」と悪戯っぽい笑い声が漏れる。
ところがどすこい、驚かされるのは彼女の方となる。というのも、
「プルコギッ、プルコギッ…………くっ、これもダメかッ!?」
「……ぶー」
「もう、変なこと覚えさせないでね?」
「………は?」
なぜか親友が赤ちゃんを抱っこしていたのだから。それも、彼女によく似た金色の髪をした愛らしい幼女を。すぐ傍で青年が次々と顔芸を披露しているが、それが子守りなのは彼らを見れば明らか。さっきの不審な動きはともかくとして。
(え、マジで……?)
いやいやいや!と魔理沙が大げさに頭を振る。うっかり
「ふっ、あやうく同じ失敗を繰り返してしまうところだったぜ……」
帽子のつばをクイッとやって一人ごちる。謎にカッコつけたのは己を落ち着かせるための儀式か。なんで紅魔館に赤ちゃんがいるのかなど色々と疑問はあるものの、どうにか取り乱さずに済んだ。大丈夫、普通の魔法使いは狼狽えない。
なお、件の子育てカップルは魔理沙にまだ気づいていなかった。ともあれ詳しい経緯を聞こうと、魔理沙が口を開く。
「おーいア――」
「うふふ、ヘンなパパでちゅね~」
「だーぶー」
「 」
ピシッ、と。どこからかガラスにひびが入る音が聞こえた。
不可解な音を耳にしたレミリアが、魔理沙を見て唖然とする。なんと彼女はまるで乙女マンガのキャラみたく白目を剥いて固まってしまっていたのだ。心なしか顔立ちも微妙に変わっている気がする。もともと金髪ロングのせいか、逆に違和感がなかった。
ベルサイユとかガラスの仮面とか、そういう感じの作画になっている少女が、慄きながら声を震わせる。
「いつの間に……アリス、恐ろしい子ッ!」
なんか口調まで変化していた。どんだけショックだったのやら。余計な色が消えて文字通りの白黒となった普通の魔法使い、その背後に稲妻っぽい幻覚まで映る。
八割以上が白と化した白黒魔法使いの変わり様を見兼ねて、レミリアが嘆息混じりに声をかけた。
「言っておくけど、それは貴女の勘違い……ちょっと、聞いているのかしら?」
「……………」
あろうことか、レミリアのフォローを全て無視して魔理沙がおもむろに後退を始める。手の甲を口元に当てて少し仰け反った姿勢を維持しつつ、じりじりと摺り足で徐々に下がっていく。その奇行に流石のレミリアも言葉を失った。
結局、彼女はそのまま無言で去っていった。珍しく、本を一冊も借りることなく。
些細な物音レベルの扉を閉める空しげな音が、得も言われぬ哀愁を感じさせた。
「あら? レミリア、誰か来てたの?」
そして、見事な擦れ違いのタイミングでアリスたちがようやくこちらに気付くのだった。
普段よりもさらに幼くなった我が妹を抱きかかえた人形遣いが、可愛らしく首を傾げつつ歩み寄ってくる。今や閉じられた扉を一瞥してから、何事もなかったかのように視線の先を彼女へと移した。
「ついさっきまで魔理沙がね。もう帰ったけど」
「そうなの? それなら声くらいかけてくれればいいのに」
「急いでたんじゃね? のぅ、フランや」
「うー?」
そう言って、朗らかに笑いながら優斗がフランの頭をぐしぐしと撫でる。男性の大きな掌が幼子の頭に覆いかぶさる風景は、いよいよもって父親っぽい。
きっと、今しがたの人形遣いの発言さえも本人は無自覚だったのだろう。かなり大胆な発言だったのに勿体ない。ましてや、魔理沙がどんな表情で出て行ったかなんて知る由もないだろう。
「ハァ……」
「な、なしてそこで溜息つくし」
「いえ。運命というのは、残酷なものね……」
「レミリアが言うと説得力がスゴイのだが」
「えっと、私たち魔理沙に何か悪いことしちゃったのかしら?」
「気にしなくていいわ」
知らぬは当人ばかり。これは後で大変な騒ぎになりそうだが、考えてみればそれはそれで面白い展開が期待できそうでもある。かえって好都合なのかも。願わくば、彼らが自ら気付かんことを。
よって、レミリアは敢えて放っておく選択肢をとる。なにせ、もとより彼女は退屈しのぎを求めていたのだから。
事情を知らない男女のきょとんとした顔を盗み見て、吸血鬼が意味ありげな笑みを浮かべる。
「妹が世話になっているけれど……それはそれ、これはこれというやつね」
OVA後編へ
後編は今月中に投稿してぇなぁ……
あとアリスとイチャイチャしてぇなぁ……