さあ、一体誰なのでしょうか………。
(非)日常編④
「………………………ん…………ここは……?」
目が覚めると、白い天井が見えた。
ここは……………………見覚えがある。多分、保健所だ。
うち、確かモノカバが居なくなってから倒れたんだっけ………。って事は誰か運んでくれたのかな。
「うっ………!?」
うちは突然の頭痛に頭を押さえた。ダメだ。頭がズキズキする。なんか頭もボーッとしてきた。まだ寝てた方がいいのかもしれない。そう考えてもう一度布団に潜ろうとすると、ガラガラと扉が開いて、
「凛さん!?」
タオルや水を持った業ちゃんが中に入ってきた。
「………業ちゃん。ごめん、うち……」
「凛さんーーーーーーーーー!!!!!!」
業ちゃんは持っていた物を放っぽり出してうちに抱きついてきた。
「ぐえっ」
「凛さん!!!!良かった!本当によかった!!私、凛さんが死んじゃうんじゃないかって…………ずっと心配だったんですよ〜〜〜!!!!」
「ごめんね、心配かけて………。というか、苦しい……」
「ご、ごめんなさい!!」
業ちゃんは慌ててうちを解放する。
「業ちゃんがうちの事ここまで運んでくれたの?」
「いえ、凛さんをここまで運んだのは分倍河原さんです。その後、ジャックさんが凛さんの事を診てくれたんですよ」
分倍河原君とジャック君が………。後でお礼言わないと。
「ジャックさん呼んできますね。凛さんが目覚めた事を報告しないと」
業ちゃんはそう言って出口へ向かう。
「業ちゃん………色々ありがとね。うちなんかの為に」
そう言うと、業ちゃんは一度止まり、笑顔を浮かべた。
「何言ってるんですか。愛しの凛さんの為だったら私は何でもしますよ。だからそんな悲しい顔しないで下さい。凛さんの今の顔も好きですけど、私は笑っている凛さんが1番好きですから」
「……………特に異常は見当たらないナ。恐らク、日頃のストレスとさっきの心的ショックが原因だろウ。頭痛は薬を飲んでしばらく寝れば治るはずダ」
あの後業ちゃんに呼ばれて来たジャック君は、うちの経過観察に加え、薬まで処方してくれた。
「ありがとう、ジャック君。色々迷惑かけてごめん」
「礼を言われる筋合いはなイ。俺は医者として当然の事をしたまでダ」
ジャック君はいつもの冷淡な態度でそう言った。
「ジャック君はさ……今回の動機についてどう思う?」
「………………………」
ジャック君は少し沈黙した後、掛けている眼鏡を直しながら質問に答えた。
「………受け入れるしかないだろウ。今回のような動機を俺達生徒が出されたラどうしようもなイ」
「でも、まだみんなを救える可能性が………」
「あると思うのカ?」
「それは………」
「貴様の言いたい事も分からなくはなイ。だが、世の中にはどうにもならない問題がいくつも転がっているんダ。今回のもそのうちの1つと言えるだろウ。だったら大人しく自分が助かるように行動するしかなイ」
「なんで………なんでそんな割り切れるの………?うちらの中でまた誰かが死ぬんだよ!!なんで………」
「俺が好きでこんな事言ってると思うカ?」
ジャック君が悲しそうな表情でうちの言葉を遮った。
こんなジャック君の表情を見るのは初めてだ。
「俺は医者ダ。人命の尊さを何よりも知っていル。出来るなら誰も死なせたくなイ。だが、抗う術がないだろウ。どうしようもないんダ」
「………………」
うちはジャック君の言葉に対して言い返す事が出来なかった。ジャック君の言っている事はド正論だ。救えるんだったらとっくにやっている。だが無理だ。モノカバに抗ったらそれこそ全員地獄行き。脱出なんて夢のまた夢だ。
「そうだね、ごめん」
「………………」
「凛さん……」
業ちゃんは心配そうな表情でうちを見る。
ジャック君は黙ったまま腕を組み下を向いている。
すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
誰かうちの様子を見に来てくれたのだろうか。
「誰ダ?」
ジャック君の問いかけと同時に1人の少女が入ってきた。その人物は、
「久しぶり、倒れたって聞いたけど大丈夫?りんりん」
ずっとみんなの前に顔を出していなかった幸村さんだった。
「幸村さん!?どうしてここに………?」
「さっきジャックきゅんにりんりんが倒れちゃったって聞いたからさ。お見舞いに来たんだー」
幸村さんは手にリンゴとナイフを持っていた。
「オイ、そのナイフは………」
「大丈夫だって、前みたいに自殺しようとなんかしないよ。ただりんりんの為にリンゴ剥いてあげたいから持ってきただけ」
「………………」
「え?自殺って……どういう事?」
「そう、それも含めてりんりんと久しぶりに話したいんだ。だからさ………………、2人にしてくれない?」
「えっ?」
「あなたと凛さんが2人で……?何を企んでいるんですか、幸村さん?」
「別に何も企んでなんかないよ。ただ世間話がしたいだけ。政子、そんな怖い顔で見ないでよ〜」
幸村さんは薄く笑って返答する。
「動機発表後ですよ。疑うのは当たり前じゃないですか。それと、私の事政子って呼ぶのやめて下さい。なんか腹立つので」
「えー。いいじゃん。政子ってあだ名、可愛いし」
「………信用していいんだナ?」
ジャック君はそんな幸村さんの目を見て言う。
「……大丈夫だよ。ジャックきゅんの言った事、忘れてないから」
「………………そうカ、ならいイ。俺は入り口で待っているから、何かあったらすぐ呼べ」
「うん、ありがとう」
ジャック君は幸村さんの返答に納得すると、保健所を出てってしまった。
「………ハァ。仕方がないですね。私も入り口で待ってます。手短に済ませて下さいよ、幸村さん」
「分かってる。そんなに長くは時間取らないよ」
「では凛さん、また後で」
「うん、協力ありがとう業ちゃん」
そして業ちゃんも出て行き、部屋にはうちと幸村さんの2人だけになった。
「さて、………りんりんと話すの久しぶりだね」
「そうだね。幸村さんは………その………大丈夫なの?裁判の日から、ずっとやつれてたし」
「うーん……。まあ、あの時に比べたらだいぶマシになったかな」
「何があったのか………聞かせてもらってもいい?」
「もちろん。だってその為にウチ来たんだもん」
幸村さんはゆっくりと話し始めた。
「ウチさー、裁判の時何も出来なかったじゃん。みんなの役に立てなかった。しかもどうせこの先もまたコロシアイが起きて、みんなで疑い合って、犯人を処刑して………。そんな事の繰り返しでしょ?だったら死んだ方がマシだって思ってたんだ」
「そんな………」
「でもさ、そんなウチをジャックきゅんは全力で止めてくれたんだ。お前は皆にとって必要な人間だ。だから死なせないってね」
「ジャック君が?」
「そうそう。ウチ、ものすごく嬉しかった。誰かにそんな事言われたの初めてだったし。だから、もうちょっと生きてみようって考えてるんだ。生きてって言ってくれたジャックきゅんの為に、そしてウチを必要としてくれている人の為に」
幸村さんはリンゴの皮を剥きながら嬉しそうに話す。
「うん、ジャック君の言う通りだと思う。うちも、幸村さんがいなくてずっと寂しかったんだよ。幸村さんの明るさが今の私達には必要だと思う」
「そ、そうかな………。そう言ってもらえるとなんだか嬉しいなあ」
分かりやすく照れる幸村さん。その様子が面白かったので少しからかってみる事にした。
「それにしても………幸村さん、ジャック君と超いい感じじゃない?もしかして付き合ってるの?」
「は、ハァ!?ちょっとりんりん何言ってるの!?ウチがジャックきゅんと付き合ってるだなんて………そもそも別に好きじゃないし!!!!」
幸村さんは明らかに動揺した様子を見せた。
「いやいや、さっきジャック君の話してる時の表情でバレバレだから。隠してもムダだよ」
「ひぇっ!?」
「あと、多分みんなも気付いてると思う」
「ひ、ひょえーーーーーー!?」
幸村さんは恥ずかしさのあまり奇声を上げながら近くの布団に潜ってしまった。
「幸村さん、何もそんなに恥ずかしがらなくても………」
「だって、ウチがジャックきゅんを好きなの、みんなにバレてたんでしょ!恥ずかしくて表歩けないよ……」
「そんな大袈裟な。それに恥ずかしい事じゃないよ。むしろ微笑ましいもん。少なくともうちは笑わないよ」
独島さんとかはニヤニヤしながら食いついてきそうだけど。
「そ、そうかな……」
幸村さんは布団から顔だけ出して言った。
「そうだよ。なんならついでにコクっちゃえば?」
「ムリムリムリムリ!!そんなの絶対無理だよ!?」
「いけるって。多分脈ありだよ」
「ぜーーーったい無理!!」
うちらはしばらく恋バナで盛り上がった。
「あー楽しかった!じゃあ、そろそろ行くね。あ、そうだ。大事な事を言うのを忘れてた」
「ん?」
幸村さんは出口へ向かおうとしたがまたすぐウチの方を振り向いた。
「ん?何?」
「りんりん、あまり気負いすぎないでね」
幸村さんは真剣な表情でうちの目をしっかり見ながらそう言った。
「え?」
「りんりんの事だから、多分動機の件で色々気を揉んでると思うけど、あんまり考えすぎると疲れてまた倒れちゃうよ。たまには誰かに頼ったり、少し休んだりしてもいいんだからね」
「けど、今回の動機は呑気に休んでる暇なんかないよ。だって………」
「大丈夫。今回の動機に関しては心配いらないよ。ウチに任せておいて!」
幸村さんはウチの方を見てサムズアップした。
「えっ!?何か策があるの?」
「あるけど秘密。それよりりんりんは早く体調治しなよ〜。じゃあね!!」
「ちょっ、幸村さん!」
幸村さんはスタスタ歩いて出てってしまった。
策ってなんだろう。すごい気になるな………。
その後は、ありがたいことに何人かがうちのお見舞いに来てくれた。
香織ちゃんはフルーツ缶を、黒瀬君と分倍河原君はスポドリを持ってきてくれた。運んできてもらったお礼を言うと、分倍河原君は顔を真っ赤にして狼狽えていた。
他にも、万斗君が何やら怪しい薬を持ってきて見張りの業ちゃんに追い返されてたり、独島さんが何故かうちの前で寝始めたりとまあ色々あった。
うちはその後ジャック君から貰った薬を飲んで、また寝ることにした。ちなみに学則には決められた場所以外で寝るのは禁止って書いてあったけど、この保健所は病人は寝てもokらしい。最初学則に気がついた時はやばい寝ちゃったってパニックになったけどね。
とにかく、早く体調整えて今回の動機の対策案を考えないと。うちはこんな事で誰かを死なせたくない。だから絶対に諦めるもんか。
北条 業サイド
数時間前 1F 食堂
「ジャック、相川の容体は?」
「ストレスと心的ショックから来る過労だろウ。命に別状は無いから休息を取ればじきに目覚めル」
「そうでござるか………。それは安心したでござる」
「急に倒れた時は流石にびっくりしたよー」
「ボクも、凛さんが死んじゃったんじゃないかってヒヤヒヤしたよ!」
「おいおいそれは大袈裟だろ輝晃」
「名前呼ぶなカス!イケメンが移る」
「イケメンが移るってなんだよ!!オレを菌扱いすんな!!」
他の人達が喜んでいる中、私は思わず力が抜けて椅子にドサッと座り込んでしまいました。
「北条、大丈夫か?まさかお前も……」
「いえ、凛さんが無事だと分かって力が抜けただけです。お気遣いなく」
私は分倍河原さんの親切を丁重に断ってから、自分の中で今回の動機について考え始めました。
今回の動機は非常に厄介です。必ず誰かが犠牲になる。
まあ私にとっては凛さんさえ死ななければいいので、他の誰が死のうが正直どうでもいいです。問題はそこではなく、凛さんをどう説得するかです。
凛さんはとっても優しい人です。だから目を覚ました後は必ず誰も犠牲にならない方法を模索しようとするでしょう。
けど、それは絵空事、夢物語です。凛さんには悪いですが、これはどう足掻いても私達の中から1人死者が出るようなシステムになっています。全員が生き残るというのは無理な話でしょう。だから、非常に心苦しいですが、凛さんの意見を否定して早急に全員救う事を諦めてもらう必要があります。でも、言い方を間違えると、凛さんを傷つけてしまうし、最悪、自分がみんなの替わりに死ぬなんて事を言い出すかもしれません。それだけは絶対に阻止しないといけない事です。
私は今回の動機に関してこう考えています。
この動機は私達がここで生活する上で、
このテストは当然、自分の学力が大きく関係してきます。すると、必然的に頭の悪い人間が処刑される事になります。
これは、むしろ脱出を試みている私達にとって、脱出の足を引っ張りそうなバカを消すいいチャンスなのかもしれません。
また、こうも考える事も出来ます。
この先、仮に全員で脱出するとして団結の輪を乱す人間を放置しておくのはなかなかリスキーな事です。なので、団結の意思が見られず、かつ輪をかき乱す一匹狼を消すのもアリっちゃアリです。例えば、
問題はあのサイコ野郎ですね。あいつは絶対に許さない。凛さんを弄んだ挙句、騙して泣かせるなんて。ああ、思い出しただけでムカついてきました。学級裁判なんてルールが無かったら今すぐぶっ殺してやるのに。
なので、今回の動機を利用して、
「さて、相川の無事だというのも分かった所でさっきの話の続きだが………」
「話って、さっき言ってた事か?まさか本気でそんな事考えてるんじゃねぇだろうな、香織?」
「私は本気だよ、黒瀬。今回の動機で私は
凛さんが倒れる前にもチラッと言っていましたが、どうやら銀山さんは自ら犠牲になってくれるみたいです。私としてはこれ以上有難い事はないですね。
「だとしても、何故銀山さんなのですか?貴方は皆さんをまとめるリーダーです。貴方がいなくなったら誰が代わりをやるんですか?」
「そんなのはどうとでもなる」
「なりません。犠牲になる役目は銀山さんでは駄目です。代わりにその犠牲になる役目、私がやります」
すると、今度は喜屋武さんが納得がいかないという事で自分が犠牲になると名乗り出ました。せっかく銀山さんが名乗り出たのに、なんでわざわざそんな事言うんでしょうか。理解出来ませんね。それとも何か深い訳があるんでしょうか。
「喜屋武………。これは消去法なんだ」
「消去法、ですか………?」
銀山さんは私達を見渡しながら話始めました。
「そうだ。脱出する上で力になる人間は死なせてはならない。そう考えて能力のある人を消していくと最終的に残った役立たずがこの私だったというわけだ」
「ふざけんなよ!!お前が役立たずな訳ねぇだろ!」
「そうだよ〜。役立たずは銀山さんじゃなくてわたしだよー。ずっとみんなに迷惑かけてたしー」
「拙者もどんくさいが故失敗ばかりしてるでござる!!」
「もう決めた事だ」
皆さんが自分の無能アピールをし始める中、銀山さんは話を一方的に打ち切りました。
「皆はいつも通り過ごしてくれ。講義にも出る必要はない。どうせ結果は決まりきっているのだからな」
最後にそう言うと、食堂からさっさと出ようとしました。
「銀山さん!話はまだ終わってないです!」
追いかけた喜屋武さんが銀山さんの袖を掴みます。喜屋武さんの様子がおかしい気がします。普段から、こんなに頑固な性格だったでしょうか……?
「喜屋武、離してくれ」
「離しません。貴方を死なせる訳にはいきません。それに他の皆さんも納得してないです。何か別の方法を………」
「話は終わったと言っているだろう!!!!」
すると、銀山さんが聞いた事が無いくらいの大声で怒鳴りました。流石に私も一瞬ビクッとなってしまいました。
「………………申し訳、ありません………………」
怒鳴られた喜屋武さんは静かに掴んでた袖から手を離しました。
「………………済まない。こうなったのは全部、私のせいだ。君達は何も悪くない。私が悪いんだ………………」
そう言って、銀山さんは静かに食堂を後にしました。
「ど、どうしようかー。これからわたしたち」
銀山さんが去った後に流れる重苦しい空気。それに耐えられなくなったのか、独島さんがたまらず皆さんに声をかけます。
「………………」
「………………」
普段だったらお喋りの人すら何も答えません。
ハァ………。このまま黙っていたら一向に話が進みません。
私は一刻も早く凛さんの元に駆けつけたいんです。こんな所で時間を浪費したくありません。仕方ない、私が話を締めた方が良さそうです。
「いつも通り過ごせばいいだけじゃないですか?銀山さんの言う通りに」
「そんな簡単に言うんじゃねぇよ!!そしたら………香織が死ぬんだぞ!」
「本人が望んだ事でしょう。それに、銀山さんが身を挺して私達の命を守ろうとしてくれてるんですよ。そのご好意を無駄にするつもりですか?」
「それ以外の方法を考えろって話だろ!!誰も死なずに済む方法をよ!」
「黒瀬、少し落ち着け」
「けどよ!」
「………それに、仮に今回のテストをその方法で乗り切ったとしても、次また同じ動機が出されたら………」
喜屋武さんが声を震わせながら言います。確かに、また同じような動機が出されない保証もないですね。まあ、それはまた後で考えればいい話ですが。
「ぼ、ボク達、これからどうなっちゃうんだよ!!!」
万斗さんがそう叫ぶと同時に全員がギャーギャー騒ぎ出します。うるさいですね。銀山さんが自分で犠牲になるって言ってるんだからいいじゃないですか。皆さんが慌ててもしょうがないですよ。私がもう一度そう呼びかけようとした時でした。
「静粛に」
パンという音が食堂に響き渡りました。その音を出したのは……
千野さんでした。
「落ち着きなさい。今拙僧達が騒いでも何の解決にもなりません。心を静めて、また後日話し合うとしましょう。今は拙僧も含めて、頭を冷やす時間が必要です」
千野の言葉で全員が口を噤みました。
「………なら俺は帰らせてもらウ。ここに留まっていても時間の無駄だしナ」
すると、ジャックさんはそう言ってさっさと帰ってしまいました。
じゃあ、私も流れに乗って帰らせてもらうとしましょう。
「私も帰ります。凛さんの容体が心配なので」
「おい!お前ら!?」
「いいんです、黒瀬殿。みなさんも、今日は解散しましょう。北条殿、そしてみなさんも明日の朝食はいつも通り集合でお願いします。ただ、無理して来る必要はありません。体調等が優れなかったら遠慮せず休んでもらって構いません」
「分かっていますよ」
こうして、私はすたこらさっさと食堂を後にしました。
結果的に、次の日話し合いが行われる事はありませんでした。
相川 凛サイド
20:00 1F 保健所
「………………やばっ、寝過ぎた!今何時?」
うちは急に目が覚めた。飛び起きて時間を確認すると、午後8時。かなり寝てしまったようだ。
うちは業ちゃんが来てくれた昼12時頃から寝て、3時に一回起きてトイレ行った後またこの時間まで寝てたから、約8時間寝ていた事になる。
「なんかここに来てからめちゃくちゃ寝ちゃうんだよね………。前までこんな眠る事なんてなかったのに」
単純に慣れない環境にいて疲れが出てるだけかな……?まあ特に気にしなくてもいいか。そう思ってしばらく見てなかったカバフォンのチャットを確認する。すると、新着メッセージが2件あった。
「私の愛しき凛さん!目覚めたらお腹減ってるでしょうから、机にある軽食ぜひ食べて下さい!!後、私は今から軽く仮眠をとってきますが、すぐ戻るのでご安心を!凛さんはゆっくり休んで体調を治して下さい!!」
「何か緊急の用事があったら呼ベ。俺は3Fの個室にいル」
1つ目は業ちゃん、2つ目はジャック君からのメッセージだ。
うちはわざわざうちの事を気にかけてくれた2人に感謝しつつ、返信を送る。
「とりあえず、お腹減ったからお菓子食べるか」
朝から何も食べていなかったからお腹ペコペコだ。早速頂くとしよう。そう思ってうちがベットから降りようとした時だった。
ドアが開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。
「………………………」
電気が付いてないから暗くて見えないけど、このシルエットは………多分、霜花さんだ。
霜花さんは何かを取りに来たのか、棚をガサゴソと漁り始めた。
本当は早く机にあるツナ缶を取りたいんだけど、このまま出て行ったらびっくりさせちゃうよね。そう考えうちは霜花さんが出ていくまで待つことにした。
霜花さんはどうやら目当ての物を見つけられたようで、すぐ踵を返して帰ろうとした。が、すぐ動きが止まる。
「???」
霜花さんの一点を見つめて固まってしまっている。うちはその視線を追ってみると、机の上にあるツナ缶に辿り着いた。
「?????」
そして霜花さんはゆっくりとツナ缶に近づいていく。
待って霜花さん。まさかとは思うけど………。いやいや、霜花さんに限ってそんな事は絶対
パシッ
うちがそんな事を考えてるうちに物凄い速さでツナ缶を1つ取ると、懐にしまって素知らぬ顔で帰ろうとした。やりやがった。現行犯だ。
「泥棒!!!!」
流石にそれは見過ごせない。うちは飛び出して霜花さんに覆いかぶさった。
「なっ!?」
予想外の出来事に霜花さんは為す術なく下敷きになる。
「霜花さん、現行犯だよ!!捕まえた!」
「くっ…、何故貴方がここに……。」
「それは後!!とりあえず、ツナ缶窃盗の容疑で逮捕する!」
「………………………分かりました、私の負けです。重いので早く退いてください」
「それで、何で私は貴方とツナ缶を一緒に食べてるんですか?」
「ん?だってお腹空いてたからツナ缶盗ったんでしょ?だったらせっかくだし一緒に食べようかなーって」
そんな訳で、あの後罪を認めた霜花さんを座らせて一緒にご飯を食べている。
「……別に一緒に食べる必要はないでしょう。盗んだことは謝りますから、もう解放して下さいよ」
「駄目。ツナ缶盗みの罪をちゃんと償ってもらわないと」
「貴方もしかして結構根に持つタイプですか」
「それに………」
うちは霜花さんの顔を両手で掴んで正面を向かせる。
「ちょっ………何するんです……」
「霜花さん、ちゃんとご飯食べてる?」
「……………!」
霜花さんの目が泳いだ。
「最初会った時と比べて顔色が酷いよ。それに、なんか痩せ細ってる様に見えるよ」
「……貴方には関係ないでしょう。放っておいて下さい」
「放っておける訳ないじゃん!!!!!」
うちは思わず立ち上がっていた。
「……!」
「友達が弱っていくの黙って見てられる訳ないじゃん!!」
「だから、私と貴方は友達ではないと何度も……」
「何言ってるか聞こえない。とにかく、ここにある物全部食べ終わるまで帰さないから」
「………どこまで強引なんですか。貴方みたいにめちゃくちゃな人、初めて見ましたよ」
そう言って霜花さんは座り直すと、ツナ缶を再び食べ始めた。
「何で霜花さんはご飯食べようとしないの?」
「節約をしているんですよ。今はモノマネーが十分にあるからいいですが、もしモノカバがモノマネーを減らす様な動機を出してきて食料が買えなくなったら、それこそ飢え死にします。だから私は、余裕のある今出来るだけ節約して今後の動機に備えているんですよ」
霜花さんは2つ目のツナ缶を開けながらそう言った。
「それでも、何日も栄養取ってないと死んじゃうよ!」
「慣れているので問題ないです。私のいた戦場では数日間水だけなんて事もザラにありましたから」
「数日間水だけ!?しかも戦場って………。あ、そっか。霜花さんの才能って狙撃手だよね。ねぇ、霜花さんって……」
「答えませんよ」
「ええ!?まだ何も言ってないじゃん!!」
「どうせ私の才能や生い立ちについて聞くつもりだったんでしょう?何で私が嫌いな貴方に身の上話をしなければならないんですか?」
「そ、そんなぁ………」
最近は慣れてきたけど、やっぱ真正面から嫌いって言われるのはダメージが大きい。しかも霜花さんの言い方は心の底から嫌いだっていうのがハッキリ感じれるから余計にキツいよ。
「ねえ、霜花さんってうちのどこが嫌いなの?」
「そんな事聞いてどうするんですか?」
「全部治して霜花さんともっと仲良くなる!!」
「……そういうところですよ」
霜花さんが軽く舌打ちをする。え?まさかの舌打ち?
「他人に友情やら絆やら気持ち悪い物を押しつけてくるところ、他人との距離感が全く測れてないところ、無駄に楽観的で根拠のない希望を持ち続けているところ………まだ聞きますか?」
「いや、いいです………」
安易に聞いたうちがバカだった。もう立ち直れない。顎に強力なフックを喰らった気分だ。
「ですが………」
だが、霜花さんの言葉は終わらなかった。
「………裁判での貴方の推理力、ひらめき。この2点は、まあ、私も評価はしています」
横を向きながら、霜花さんはボソボソとうちに言った。
うちは、一瞬で気力が最大まで回復した。
霜花さんがうちを褒めてくれた。
「し、霜花さん!!!!今、うちの事褒めてくれたよね!?」
「ち、違います。ただ、私は、その、少し評価をしただけで……」
「それ褒めてるのと一緒だよ!!ありがとう!!」
「近寄らないで下さいああだからその距離感ですよ私が嫌いなのは」
おっとつい興奮してしまった。
「もう帰りますよ。あと………食事の件ですが一応礼は言っておきます。ありがとうございました」
「うん!また一緒に食べたくなったらいつでも呼んでね!」
最後にお礼を言ってうちに背を向ける霜花さん。なんか今日、やけに素直じゃない?もしかして嫌いとか言っておきながら実はうちの事好きだったりする?なんて都合のいい事を考えていると………。
ピロリンという音がまた聞こえた。メッセージが届いた合図だ。
だが、さっきと違うのは、うちと霜花さんのが同時に鳴ったという事だ。
さっきと同じようにカバフォンを確認する。
「差出人は……不明?」
謎のメッセージが届いていた。もしかしてモノカバから?いや、だったらモノカバからって表示されるはずだ。
うちはこの怪しさ満点のメッセージを警戒しながら開いてみた。
「スパイは既に動き出した。お前の対応の遅さが招いた結果だ。お前には誰も救えない」
は?え、これどういう事……?スパイって……。
その直後だった。
「ドーーーーーーーーーン!!!」
大地を震わせるの程の爆発音が響き渡った。
「……!!」
「なっ!?」
うちは思わずしゃがんで頭を押さえた。
あまりの衝撃で机の上にある物が地面に落下した。
「何?何が起きたの?」
「私が聞きたいですよ。とにかく、様子を探らないと」
そして、霜花さんはすぐ外に飛び出した。
うちも慌ててそれに続く。
「………爆発はA棟で起きたのではないみたいですね」
「みたいだね………。じゃあB棟かな?」
「それしかないでしょう」
うちらはB棟に向かう事にした。
そしていざ行こうとした瞬間、
「えー緊急事態発生、緊急事態発生。B棟才能研究棟1階、『超高校級の調理部』の研究教室にて大規模な爆発が起こりました。安全の為、一時的に全てのドアをロックさせて頂きます。消火活動が終わり次第、ロックを解除しますのでそれまでしばらくお待ち下さい」
モノカバからの校内放送が流れた。
才能研究棟?こんな夜に何で?
「やはりB棟ですか」
「というか、何でうちら出られたの?全てのドアがロックされてるって言ってたのに」
「私が保健所に入ってくる時、念の為ドアを少し開けておいたんですよ。それで鍵がかかんなかったんでしょう」
「な、何で!?」
「閉じ込められる危険性があるからです。それより、早く様子を見に行きましょう。どうやら、今のところ動けるのは私達だけみたいですし」
「分かった。十分気をつけて行こう」
「その言葉、そっくりそのまま貴方に返しますよ」
20:45 才能研究棟 1F
才能研究棟前まで来ると、建物から黒い煙が出ているのが見えた。
「どうする?中はまだ危なそうだけど」
「……私が1人で中に入ります。貴方は建物の周りを調べてください」
「霜花さん1人で行くの!?危ないよ!!」
「私はこういう場所には慣れているので問題ないです。それに運動が出来なそうな貴方がいるとかえって足手まといになるんですよ」
「うぅ………分かった。無理しちゃダメだよ」
「いちいち言われなくても分かっていますよ」
そう言って霜花さんは中に入っていった。
「うちも早く見てこなくちゃ」
うちは早速走り出した。
結論から言って、特に何も見つからなかった。爆発の規模はどうやらそこまで大きくないらしく、他の教室にまで被害が及んでる事はなさそうだ。
しかし霜花さんがなかなか帰ってこない。大丈夫だろうか。
「………もう待ってられない!うちも入ろう!」
待つのが苦手なうちは、すぐ諦めて中に入っていった。
「結局来たんですか。貴方、待つという選択肢はなかったんですか?」
「ちょっと待った!」
「ハァ………」
研究教室前まで行くと、霜花さんとモノカバがいた。
「ちょっと!?相川サンも来たカバ!?危ないカバよ!!」
「既に消火活動を始めているんでしょう?なら別に様子を見に来ても問題はありませんよね?」
「問題オオアリカバ!!もし2回目の爆発が起きたらどうするのカバ!!そしたらオイラもオマエらも木っ端微塵カバよ!!」
「ちょっと、変な事言わないでよ………」
一瞬自分が粉々になるのを想像してしまった。
「それで、どのくらいに消火は終わるの?」
「あと………あ、もう終わった見たいカバ!!」
そうモノカバが言うと、
「消火活動が終了したので、全てのドアのロックを解除しました。皆さん、お騒がせしました」
というアナウンスが流れた。
「ていうか、今喋ってたの誰?」
「ん?オイラカバ」
「いや今ここにいるじゃんアンタ」
「オイラもモノカバカバよ」
「何匹いるの?」
「秘密カバ。ちなみに今消火活動してたのも全部オイラカバ」
分身でもしてんのか。
「消火活動は終わったけど、危険だからまだ入っちゃ駄目カバ!!さあ、大人しく帰るカバよ!」
するとモノカバはドアの前に立ち、うちらを追い返そうとした。
「ええ!!中入らせてよ!もしかしたら誰か倒れてるかもしれないじゃん」
「面倒くさいカバねー!ここには誰も居ないカバよ!!はい、これでいいカバ?」
「え?」
ここには誰もいないって………?何で誰もいない場所で爆発が起こるの?
「でもでも〜。もしかしたら
「………!!」
モノカバの言い方でうちは気付いてしまった。
「行こう、霜花さん!!多分別の場所で……」
「分かってますよ。ん?あれは………」
うちらが別の場所を探しに行こうすると、霜花さんが何かを見つけた。
「どうしたの………え?霞ヶ峰さん?」
霜花さんの視線を追うと、霞ヶ峰さんがプールの方へ走って行くのが見えた。どうしたんだろう、あんなに慌てて。
「ちょっと行ってみよう!!」
「なっ………勝手に行動しないで下さい!」
うちは霞ヶ峰さんを全力で追いかけ始めた。が、
ピーンポーンパーンポーン………
「死体が発見されましたカバ!一定の捜査時間の後、学級裁判を開くカバ!オマエら、現場のB棟のプールに全員集合するカバ!!」
嫌な予感が的中してしまった。
そして、数秒もしないうちに、プールサイドでへたり込んでいる霞ヶ峰さんに追いついた。
「霞ヶ峰さん!!何かあったの!?」
「あ、あれは………一体、どういう事でござるか………?」
霞ヶ峰さんは、青ざめた顔である場所を指差す。
うちらは、自然とその方向に顔を向ける。
その先には、信じられない光景があった。
こんな事があっていいのだろうか。
いや、あっていいはずがない。
スポットライトが当てられた5メートル程の飛び込み台に何かがぶら下がっている。
いや違う。人が首を吊っているんだ。
うちは見た瞬間、遠くからでも誰が首を吊っているか分かってしまった。
あの人は、喜屋武さんだ。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
⁇002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
⁇003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
⁇005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
⁇006 柴崎 武史《歴史学者》
⁇007 霜花 優月《狙撃手》
⁇008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
⁇009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》
⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
⁇014 分倍河原 剛 《空手家》
⁇015 北条 業 《???》
⁇016 万斗 輝晃 《情報屋》
⁇017 幸村 雪 《激運》
残り13人