ただ、事件は前回より複雑になってるかもしれません。
「私は、自分の料理で笑顔になってくれる人を見るのが何より嬉しいんです」
「相川さんが私の開いたお店に来てくれるの、楽しみにしてますから」
将来自分のお店を建てたいと張り切っていた喜屋武さん。そして、建てたらうちに1番に伝えると言ってくれた。うちはお客さん第一号になるつもりだった。
そんな喜屋武さんが、首を吊って死んでいる。
ああ、またアレが始まってしまうのか。
仲間同士で糾弾し合う、学級裁判が。
非日常編
「……またですか」
霜花さんはいつもと同じ声のトーンでそう呟く。
「これは夢でござる!!喜屋武殿が………、死ぬ訳がないでござるよ!!」
霞ヶ峰さんは腰を抜かしたまま慌てふためく。
「くだらない事言ってないでさっさと死体の元へ行きますよ」
霜花さんが霞ヶ峰さんの頬を引っ張る。
「い、痛いでござるよ霜花殿!?あれ?痛いという事は夢じゃない………?」
「貴方も何をボサッとしているんですか?もしやモノカバの仕業じゃないかなんていうバカな事を考えてはないですよね?」
霜花さんはうちがまた綺麗事を言うんじゃないかと思ったのかキツイ口調でそう尋ねる。
「いや………流石にそうは言わないよ。うちらの誰かが喜屋武さんを殺した。それは間違いない」
うちはそう返した。また誰かが外に出る為に喜屋武さんを殺した。前回と全く一緒だ。
「…………ならいいです」
「おい!!!!今のアナウンスってどういう事だ………、嘘だろ………流理恵……」
黒瀬君を筆頭に続々とみんながアナウンスを聞いて集まってきた。
「じ、冗談だよねー………」
「喜屋武………」
「クソッ!誰だよ、誰が流理恵さんを殺したんだよ!」
駆けつけたみんなは数々の負の感情を曝け出す。
「お、第二の殺人ッスか。今回は僕を楽しませてくれる謎はあるんすかね〜。やば、テンション上がってきたッス」
そうでもない人もいるけど。
「カバカバカバ〜〜〜〜〜〜!!いやぁ、まさか動機初日にコロシアイが起こるとは!!予想外すぎる展開カバー!」
すると、前と同じくモノカバがニヤニヤした表情をしながら飛び出してきた。
「モノカバ………」
「オイラとしてはちょっと複雑な気持ちカバー。そりゃあコロシアイが起きたのは大変喜ばしい事なんだけど、これじゃ我が大学の単位制度がますます形骸化してしまうカバよ〜」
「そんな事はどうでもいいので早くファイルを渡して下さい。どうせ今回も用意してるんでしょう?」
「霜花さん酷い!?少しはオイラの悩みを聞いてくれてもいいのにカバ………。霜花さん、絶対友達いないでしょカバ」
「………………………………………」
霜花さんがとてつもない殺気を放っている。
「おや図星?まあそんなの分かりきってることだしどうでもいいカバー!じゃあ前回と同じく、オマエらのカバフォンにファイルを送るカバ〜」
すると、全員のカバフォンが同時に鳴った。
「では、健闘を祈るカバ〜。今回は前回より難しいから気を抜くと全員お陀仏カバよーー!」
そう言ってモノカバは消えていった。
「凛さん!!大丈夫ですか!?」
「業ちゃん……。うちは平気だけど、喜屋武さんが……」
「そうですね………。あの、凛さんを疑ってるわけじゃないですけど、喜屋武さんを殺したのは凛さんではないですよね?」
「当たり前だよ。うちは喜屋武さんを殺してなんかいない」
「ですよね。その言葉が聞けて良かったです。………その上で提案なのですが、今回の捜査、私も凛さんに同行しても良いですか?」
「え?」
業ちゃんの意外な言葉にうちは目を丸くする。
「凛さんの表情から、絶対犯人を見つけてやるという強い意志が伝わってきます。だからどうか、私にも手伝わせて下さい!必ずお役に立って見せます!!」
うちにとってはありがたい申し出だ。前回も、一応柴崎君と一緒に捜査したおかげで見つけた証拠もいくつか見つけられたわけだし、1人で捜査するよりも確実に捗る。
「………うん、ありがとう。一緒に頑張ろう。絶対犯人見つけようね」
「もちろん!!凛さんも私も、こんな所で死んでられないですから!!あと1秒でも多く凛さんと一緒にいたい!もっとデートしたい!今の私の頭にあるのはこれだけです!!」
業ちゃんが一緒に捜査をしてくれる事になった。
動機は不純すぎるけど。
「……まずは喜屋武を降ろそう。あのままでは捜査が出来ないし、何より喜屋武が可哀想だ」
「死体に可哀想も何も無いと思うッスけどねー」
「………何?」
「武史テメェ!!」
「あー黒瀬サン僕に近寄らないでもらえますか?バカと無能が移るんで」
「ッ!!どいつもこいつもオレの事細菌扱いしやがって………!」
「喧嘩しないで!!!!」
黒瀬君が柴崎君の胸ぐらを掴もうとすると、幸村さんが大声で黒瀬君を止めた。
「雪……」
「それよりもさ、1つ言っておく事があるんだけど」
そして幸村さんは柴崎君の前に立つと、
「たけくんは捜査時間の間、プール内立ち入り禁止ね」
「え???」
幸村さんの言葉にみんなは困惑した。なんで柴崎君だけなんだろう。
「いやいや、なんで僕だけ立ち入り禁止なんスか?捜査する権利は誰にでもあるッスよ。僕だって死にたくないッスからね」
柴崎君は当然反論する。
「なんでって………。きゃべっちを殺したの、たけくんでしょ?」
幸村さんはさらに衝撃の一言を発した。柴崎君が、今回の事件のクロ?
「えええ!?それは本当かい⁈」
「本当だよ。ちゃんと証拠もあるし」
「え〜酷くないッスか?捜査もしてないのに犯人扱いなんてー。絶対犯人幸村サンッスよー。皆サンはどっちの言い分を信じるんッスか?」
「満場一致で幸村さんを信じると思うよ〜」
「僕ってそんな信用ないッスか?」
「逆にあると思ってる事が驚きでござる」
「いつまで無駄な議論に時間を費やすつもりですか。さっさと捜査始めますよ。どうせここでぐだぐだ話し合ったって真相は分からないんですから」
すると、霜花さんが痺れを切らしてそう言った。
「霜花の言う通りだ。まずは喜屋武を降ろして、それから見張りを決めよう。柴崎は悪いが、プール内以外の捜査をしてくれ。納得はいかないだろうが、そうでないと話が進まない」
香織ちゃんがそれに賛同する。
「………はぁ、しょうがないッスねー。僕は幸村サンと違って有能だし、心が広いからそれでいいッスよ」
「………………………」
幸村さんはジッと柴崎君を睨んでいる。柴崎君があっさり引き下がった事によってこの話は終わったが、幸村さんは一体何を知ってるんだろう。後で話を聞いた方が良さそうだ。
「………喜屋武を降ろすのは俺がやろう。ついでに見張りも俺がやる」
「剛!オレも手伝うぜ」
「2人とも助かる」
「検死は俺がやル。構わないだろウ?」
「ああ。よろしく頼む」
前回と同じく、見張りは黒瀬君と分倍河原君、検死はジャック君がやってくれる事になった。
「私達も捜査始めましょうか」
「うん、そうだね」
さあ、捜査開始だ。
「最初にモノカバファイルを確認しておこっか」
「はい!」
うちらは早速カバフォンを開いて確認する。
[モノカバファイル②]
被害者は《超高校の調理部》、喜屋武 流理恵。
死体発見場所はB棟のプール。
飛び込み台で首を吊っている状態を発見された。
死亡推定時刻は20:25頃。
腹部に刺し傷が2箇所あり、頭部にも軽い切り傷がある。
「死亡推定時刻は夜の8時半付近………。業ちゃんはその時個室に居たんだよね?」
「はい。8時15分から9時まで少し仮眠を取ろうかと思って、凛さんにメッセージを残して個室に行ったんです。なのでそこから爆発音を聞くまではずっと個室に居ました」
「なるほどね………。ん?腹部に刺し傷が2つ?首を吊ってたのに?」
「私も気になっていました。自殺する人間の腹部になぜ傷があるのんでしょうか。詳しく調べる必要がありそうですね」
後で検死をしてるジャック君に色々聞いてみよう。
コトダマゲット!
[モノカバファイル②]
被害者は《超高校の調理部》、喜屋武 流理恵。
死体発見場所はB棟のプール。
飛び込み台で首を吊っている状態を発見された。
死亡推定時刻は20:25頃。
腹部に刺し傷が2箇所あり、頭部にも軽い切り傷がある。
「そういえばさ、爆発が起きてうちが外に飛び出した直後、ドアをロックするとかいう放送が流れたけど、本当にロックされてたの?」
「ああ、そうですね。あの放送が鳴った直後、ドアにロックがかかって出られなくなりました。ロックが解除されたのは15分後くらいだったと思います。あれ?じゃあ凛さんはどうやって保健所から出たんですか?」
「なんか爆発起きた時、保健所のドアちゃんと閉まってなかったみたいなんだよね。だからロックはかかんなかったんだ」
「なるほど、それで外に出られたんですね」
爆発の直後にロックされた………つまりその間ドアのある部屋にいた人は身動きが取れなかったってわけだよね。これはみんなのアリバイを把握するのに役立つかもしれない。
コトダマゲット!
[ロックされたドア]
爆発が起きた瞬間、アナウンスが流れると同時に全てのドアの鍵がロックされ、中にいる人間は出られなくなった。鍵がロックされた状態は15分程続いた。
「ずっと気になっていたんですけど、このプールの周りは夜なのに随分と明るいですね。照明があちこちに付いてるからでしょうか?」
「確かに……。夜でも泳げるナイトプール仕様なんじゃない?」
B棟にあるプールは屋外にあるので、夜になると真っ暗になるはずなのだが(ちなみにこの運動エリアは、外を忠実に再現してあるのでちゃんと昼と夜の区別が存在する)、ここだけは照明のおかげで夜でも昼と同じくらい明るい。むしろ眩しすぎるくらいだ。
「相川サンご名答カバーーー!!」
「キャッ!?」
すると、急にプールからずぶ濡れのモノカバが現れた。
「は?なに凛さんの事驚かせてるんですか腹の綿引き裂きますよ」
「怖っ!?やっぱメンヘラの北条サンがいる時に相川サンにちょっかいかけるのはまずかったカバね………」
「誰がメンヘラだ炙り殺すぞ」
「業ちゃんストップ。それよりモノカバ、ご名答ってどういう事?」
モノカバは濡れた自分の布を絞りながら説明を始める。
「さっき相川サンが言ってた通り、ここは24時間いつでも泳げる『超高校級の水泳選手』の教室なんだカバ!だから夜も、このハゲオヤジの頭並みに光ってる照明のおかげで昼と同じように泳げるカバー」
ハゲオヤジの頭はこんなに光ってねーよ。
「照明は何時から付くようになっているんですか?」
「夜の9時からカバー。オートで付くようになっているから誰かがスイッチを入れる必要は無いカバ」
「この話って誰かにした?」
「この話をしたのは相川サン達が初めてカバー!」
「分かりました。でしたらもう用は無いので消えて下さい。そして二度と私と凛さんの前に現れないで下さい」
「ヘッ!こっちだってメンヘラ処女の北条サンとなんか2度と口聞きたくないカバ!あばよっカバ!」
モノカバは捨てゼリフを吐くと、またプールの中に潜っていった。さっき布絞ってた意味ないじゃん。
「私はメンヘラじゃないし、それに処女の何が悪いんですか、あの綿野郎………。あ!もちろん私の処女は凛さんに捧げるつもりですよ!」
「気持ち悪い事言わないで」
「ひ、酷いです凛さん!?私は本気ですよ!」
「はいはい」
業ちゃん、これさえなければまともな人なのに………。はぁ、前みたいなただの友達関係に戻れないのかなぁ。
コトダマゲット!
[プールの照明]
夜でも泳げるように、21:00以降になるとプールサイドや天井に付いている照明が付くらしい。光度は相当高く、真っ暗でもプールの底面がはっきり見えるほど明るい。これを知っているのは相川と北条だけ。
「………ん?業ちゃん、プールの底に何か沈んでない?」
「……本当ですね。もしかしたら重大な手がかりかもしれません。モノカバにでも取らせましょうか」
「なるほど、それはグッドアイディア」
こういう業ちゃんのずる賢い所、うちは嫌いじゃない。
「モノカバ!ちょっと頼みたい事があるんですけど」
業ちゃんが呼びかけると、モノカバが今度はプールサイドにある溝から飛び出してきた。
「もぉーーー何回呼び出せば気が済むカバ!!今度は一体何の用カバ!」
「プールの底に沈んでいる物を取って欲しいんですけど」
「ハァーーー!?そんなのオマエらで勝手に取れよ!!何でオイラがわざわざずぶ濡れになるような事しなくちゃいけないんだカバ!!」
さっきプールからずぶ濡れの状態で出てきただろ。
「……もしかしたら、その沈んでる物が裁判をさらに盛り上げるかもしれないですよ」
すると、業ちゃんは今度は言葉で懐柔を試みる。
「え!?裁判が盛り上がる!?」
あ、釣られた。
「ええ。ハラハラドキドキの学級裁判が盛り上がるのは、あなたにとっても都合が良いでしょう?」
「勿論、オイラは学級裁判が盛り上がってくれればそれでいいカバ!
………分かったカバ。オイラが取りに行ってやるカバ。ただし、北条サンが責任を持って裁判を盛り上げるカバ!!これは約束カバ!」
「勿論。あなたの期待してる展開を見せるつもりですよ」
そう言ってモノカバは一瞬で消えた後、すぐずぶ濡れの状態で戻ってきた。
「ゼェ…ゼェ……まったく、せっかくのオイラの美しい生地が台無しカバ……」
ゼェ、ゼェって。ぬいぐるみなのに疲れるのはおかしくない?
「ありがとうございます。これは………スマホですね」
どうやら、沈んでいたのは誰かのカバフォンみたいだ。
「動く?」
「いや、うんともすんとも言わないですね。まあ水に沈んでいたのならしょうがないでしょう」
「じゃあ……オイラは………もう帰るから……。ああ、体が重い………」
水を大量に吸ってふやけたモノカバは、体を引きずりながら消えていった。
「ちなみに業ちゃん、モノカバとの約束は………」
「約束?そんなのしましたっけ?」
「悪いねぇ………」
コトダマゲット!
[プールに沈んでいたカバフォン]
誰のか分からないカバフォン。水に沈んでいたからか、完全に壊れてしまっている。
「凛さん、どうやら喜屋武さんを降ろし終わったみたいです」
「本当だ。行ってみようか」
うちらは、地面に寝かされた喜屋武さんの元で検死をしているジャック君、そして見張りとして立っている黒瀬君と分倍河原君の元へ向かった。
「あれ?そういえば分倍河原君はなんで道着姿なの?」
うちは、近くで仁王立ちしている分倍河原君に声をかけた。
前も一回見たけど、分倍河原君が道着着てると強者感が凄いというか、尋常じゃない圧を感じるというか………とにかく頼もしい。その一言に尽きる。
「……話すと少し長くなるのだが……いいだろうか?」
「全然大丈夫だよ!もしかしたら分倍河原君の証言が犯人を見つける手がかりになるかもしれないしね!」
「……俺は爆発が起きる前、自分の研究教室でトレーニングをしていたんだ。………だが、途中でいつも飲んでいるプロテインを個室に忘れた事に気がついた。オレは道着のまま個室へ行き、プロテインを手に取って戻ろうとした。だが、その瞬間大きな爆発音が聞こえて慌てて外に出ようとしたが、ロックがかかって出られなくなった。そしてロックが解除されてすぐ、死体発見アナウンスを聞いて慌ててここに駆けつけてたというわけだ」
「なるほど、それは大変だったね…」
「貴様らカ。捜査は進んでいるのカ?」
「ぼちぼちかな。ジャック君、邪魔はしないからさ、うちらも喜屋武さんの事調べさせてもらってもいい?」
「………好きにしロ。だが、妙な真似はするナ」
「こんなガッツリ見張りがいるのに怪しい事するバカなんかいませんよ」
「おい業!!今オレの事見たよな⁈」
「気のせいです」
「いーや気のせいじゃねぇ!オレがバカだって言いたいんだろ!」
「言ってません。バカが凛さんに移っちゃうんで凛さんの前で喋んないで欲しいんですけど」
「……………凛。オレ泣いてもいいよな?」
「………う、うん。いいんじゃないかな……」
黒瀬君、最近バカでいじられる事多い気がする。
残念ながら完全に間違ってるって言えないのがまたかわいそうだ。ごめんね黒瀬君。うちもこればっかりは庇ってあげられないよ。
ジャック君の許可を貰ったので、早速うちらは捜査を始めた。
「うーん………。特に気になった所は無いかなぁ」
「いや、1つ妙な点があります」
「え?」
「喜屋武さんの全身を見てください」
うちは業ちゃんに言われた通り、喜屋武さんの全身を見てみると………
「あれ?髪も服もびしょじょだ。しかもまだ殆ど乾いてない。という事は………」
「つい数時間前にプールに一度落ちた、もしくは落とされたのでしょう。しかし、首を吊るのに何故プールに………?」
「首吊りに失敗しちゃったとか?そしたら飛び込み台の下はプールだから落ちてずぶ濡れになるけど」
「う〜ん、どうでしょうか。それか前回の事件同様、1度喜屋武さんをプールに落として溺死させ、それを自殺に見せかせた、という可能性もありますね」
喜屋武さんがずぶ濡れな理由か。もしかしたらこれが犯人を見つける手がかりになるかもしれない。一応覚えておこう。
コトダマゲット!
[喜屋武の全身]
髪から服まで、全身がずぶ濡れだった。
「貴様ラ、検死の結果を聞くカ?ある程度は終わったからナ」
どうやらジャック君の方もひと段落ついたみたいだ。
「ありがとう!!お願いします!」
「まズ、モノカバファイルの情報に間違いは無かっタ。死亡推定時刻にも齟齬はなイ。後は………首にある縄の痕だナ。この痕は首を一周せず前方にだけあっタ」
「つまり、ロープで首を絞められた可能性は無いと?」
「そうダ。………それから腹部にある2つの傷だガ、傷の深さが違ウ。1つは浅めだガ、もう1つはかなり深イ。内臓の近くまで達しているようダ」
「………酷い」
深く刺したという事は、それだけ殺意が強かったという事になる。喜屋武さんに何か恨みを持つ人が今回犯行に及んだのかな。そう考えると酷く悲しい気持ちになる。あの優しい喜屋武さんが恨まれてたなんて。
「待ってください。傷が2つあるというのはつまり、それぞれ別の人が刺した可能性があるって事ですか?」
「断定は出来なイ。俺は警察ではないからナ。だが、同じ人物が刺したとは思えなイ。傷の深さだけでなくク、傷口も大分違うからナ。傷が深い方ハかなり粗いガ、傷が浅い方はかなり傷口が綺麗ダ。俺はどうも違和感を覚えル」
「じゃあ、犯人以外のもう1人の2人が喜屋武さんを刺したって事?一体何の為に……」
「凛さん、まだ別々の人が刺したと決まった訳じゃありません。ひとまずは頭の片隅に入れておくぐらいでいいと思います。それで、他には何か分かりましたか?」
「あア。後はルリエの肺には水がなかっタ。つまり溺死の可能性は低いという事ダ」
「まあ、流石に前回と同じ殺し方を選ぶバカはいないですよね」
「それと、気になる事がもう一つあル。ルリエの顔色をよく見てみロ」
ジャック君に言われたので、辛いけど喜屋武さんの顔を見る。
喜屋武さんは、前回の飛田君とは真逆で、なんだか安心しきったような表情だった。驚愕、苦痛といったマイナスの感情は一切読み取れない。
「喜屋武さんの表情が……苦しくなさそう?」
「それに、顔色も綺麗ですね。赤……いや、ピンクっぽい色をしてます」
「両方正解ダ。このような表情をしているという事ハ、つまり苦痛を伴う死に方では無かったというと結論づけられル」
「これは………死因を特定する手掛かりになりそうですね」
「あア。次に顔色だがガ、かなり血色が良イ。だガ、正直、俺の持つ知識ではこれが何を表すのか分からなかっタ。つまり、この2つからは死因は特定出来なかっタ。自分の知識不足に腹が立ツ」
「いやいや全然そんな事ないよ!!ありがとう!!すごく助かった!」
「………俺に礼を言う暇があったラさっさと他の場所に行ケ」
ジャック君はうちから顔を逸らしながら言った。
「うん!あ、最後にさ、みんなに事件が起きた時と爆発が起きた時何してたか聞いてるんだけどさ」
「………俺はずっと個室にいタ」
「オレは両方とも食堂にいたぞ!麻衣子と灯里と一緒に勉強してたんだ!」
「……俺は事件が起きた時は幸村と一緒にトレーニングルームにいた。爆発が起きた時はさっきも言ったが個室にいた」
「分かった!ありがとう!」
コトダマゲット!
[ジャックの検死結果]
腹部の傷の深さが違うらしく、1つは内臓付近にまで達していた。また、喜屋武の顔色はピンク色のかなり良い顔色をしていて、苦痛の表情は読み取れなかった。加えて、肺には水が入っていなかった。その為、溺死の可能性は低いとの事。
また、首の縄の痕から絞殺の可能性もないらしい。
「次はどこ行きますか、凛さん?」
「やっぱり、爆発が起きた研究教室が気になるよね。事件に関係ない訳ないもん」
「ですよね!じゃあ行きましょうか!」
「なんでそんなウキウキなの……」
「だって凛さんとラブラブ捜査デート出来てるんですもん!そりゃあ浮かれますよ!!」
「捜査デートってなんだよ………」
才能研究棟 1F 調理部の研究教室
「おー相川さんに北条さんー。いらっしゃ〜いー」
教室の前まで来ると独島さんが何故かドヤ顔でドアの前に立っていた。
「なんであなたそんなに偉そうなんですか」
「えーだって〜わたしここの門番なんだもーん。ほらー、ド◯クエとかでもいるでしょー?序盤は門の前に立ち塞がって通せんぼうしてるけどー、物語中盤になると通してくれる門番ー。あれと一緒にだよー。だからわたしは今とっても偉いんだ〜」
そう言って胸を張る独島さん。いや別に門番=偉いとはならないと思うんだけど………。
「何でもいいですからそこ退いてください。私と凛さんはここを調べに来たんです」
そう業ちゃんが言うと、独島さんは困った表情を見せた。
「うーんわたしも通してあげたいのは山々なんだけどねー、霜花さんに捜査終わるまで誰1人入れるなーって言われてるんだよね〜」
「えっ?霜花さんが?」
今回の事件、霜花さんはうちにとってお互いの潔白を証明できる唯一の人物だ。後で色々と情報交換しておきたい。
「なんですかそれ。凛さんが捜査するんです。あの人にそれを阻む権利なんてないですよね」
「相変わらずアツアツだね〜2人ともー」
業ちゃんが怒っていると独島さんがうちに耳打ちしてきた。
「独島さん、ちょっと面白いと思ってるでしょ?うちこれでも結構困ってるんだよ」
「だってー、わたしの身近に百合が咲いている事なんて今までなかったんだもーん。こんなの面白がるに決まってるじゃーん」
「うちが恋してるみたいに言わないで」
「まあそう照れずに照れずにー。わたしは陰ながら応援してるよ〜。恋に限界なんてないんだからねー」
「いやあるから。バリバリあるから」
「ちょっと独島さん私の凛さんとこそこそ何を話してるんですか。
なんて冗談をコソコソ言い合っていると、
「………………貴方達ですか。ちょうど良かった」
ドアが開き、霜花さんが出てきた。
「ちょっと霜花さん、どうして封鎖なんかしたんですか。おかげで私と凛さんが無駄な時間を過ごす羽目になったんですよ」
業ちゃんが霜花さんに詰め寄る。
「現場を荒らさせたくなかったからです。何か文句でも?」
「ッ………!この女……」
霜花さんは鬱陶しそうに業ちゃんにそう言う。
業ちゃん、日に日に言葉遣いが荒くなってるよ。
「もう調べ終わったので入っても大丈夫です。それと………」
霜花さんは私の腕を掴んだ。
「この人を少し借ります」
「えっ?」
「は?」
「おぉ〜」
霜花さんの予想外の発言にそれぞれが驚きの表情を見せた。
「何言ってるんですか。ダメに決まって………」
「貴方に指図される筋合いはありません。貴方が相川さんに執着するのは勝手ですけど、それを周りに誇示して迷惑をかけるのはやめて下さい。目障りです」
「………………………殺す」
「ちょっとストップ〜。流石にそれはダメだってーー」
独島さんは拳を振り上げる業ちゃんを慌てて押さえる。
霜花さん、人を怒らせる事に関しては日本一かも。
「貴方もさっさと行きますよ。捜査時間もあと僅かなんですから」
「あ、ちょっと!?業ちゃん、すぐ戻るからそれまで待っててね!」
うちは、怒り爆発数秒前の業ちゃんに声をかけながら引っ張られていった。
霜花さんは才能研究棟を出て、裏の誰も来ないような場所へうちを連れて行った。
「ここならいいでしょう」
「霜花さん……。さっきのもう少し棘のない言い方で言っても良かったんじゃないかな……」
「私がなんであの人に気をつかわなくちゃいけないんですか。それより、聞きたい事が幾つかあります」
霜花さんはうちの顔を見ると、
「貴方、裏切り者について何か知っていますよね?」
うちは思わず体をビクッとさせてしまった。
なんで霜花さんがそれを………?誰にも話してないのに。
「な、なんで………?」
「前回の裁判終了後、柴崎さんが『裏切り者がいる』と発言したのに貴方は何も反応しませんでした。普段の貴方なら間違いなく反応する筈なのに」
「それは、その……実は、それが演技だったりして……」
「………演技な訳ないでしょう。貴方嘘付くの下手そうですし」
「ひ、ひどい………」
なんとか誤魔化そうとしたけど無意味だった。うち、嘘付くのもうやめよう。正直に生きよう。
「とはいえ、一方的に情報を出せというのもフェアじゃないですね。なので、まずは私の情報から見せます」
そう言うなり、霜花さんは自分のカバフォンを取り出すと、画面をいじってからうちに見せてきた。
「現在、生徒の中にはスパイが複数人潜んでいる」
「えっ!?これって………」
「前回配られた私の動機です。私はこれと柴崎さんの発言で確信が持てました。柴崎さん、そして貴方が『裏切り者』について何か知っているという事を」
うちは驚愕した。霜花さんにも同じような動機が配られてたなんて。でも、ここまで知っているって事はうちも動機について秘密にする必要はないよね………。
「柴崎さんはどう考えても教えてくれそうにないので、貴方に聞こうと思ったんです」
「そっか………。分かった。うちも知ってる事全部教えるよ」
「………話を持ちかけた私がいうのも何ですが、そんなに簡単に信用してもいいんですか?私がスパイの可能性もあると思うんですが」
私が即決するのを見て、霜花さんが困惑した表情を見せる。
「いいんだよ。うちは自分が信じたいって思う人を信じるだけだから。これでもし霜花さんがスパイだったら、うちの見る目がなかっただけの事だから」
けど、実際もし霜花さんがスパイだったら、見る目が無かったじゃ済まされないよね………………まあいっか!何とかなるでしょ!
「それに、霜花さんだってスパイかもしれないうちに情報話してくれてるじゃん。それってつまりうちの事信用してくれてるからでしょ?」
「……!それは……」
「だったらうちも霜花さんを信用しないわけにはいかないじゃん?」
「………………………」
霜花さんは驚きの表情を見せたまま黙ってしまった。
「ん?うちなんか変な事言った?」
「………………………なぜでしょう。貴方の言葉はいちいち私の胸に刺さります。それに、私の価値観を壊す言葉ばかりです。それ故に、貴方の事が嫌いな筈なのに、話す度に関心を持ってしまう。なんなのでしょうか、この気持ちは…」
「えっと、霜花さん?」
「………何でもありません。それより、貴方が知っている情報、私にも教えて貰えるという事でいいんですよね?」
「うん!じゃあ、あんまり時間もないし、かいつまんで説明するね」
うちは、「現在、生徒の中には5人の裏切り者が潜んでいる」という動機と、裁判後にモノカバに聞いた事を話した。
「……そうですか。では、言い方に違いがあるとはいえ、少なくとも現在、私達の中に敵が5人いると。なんとも頭の痛くなる話ですね」
霜花さんはため息をついた。
「いやでもさ、その中の1人は無理やり従わせられてる可能性もあるから………」
「説得できる可能性はあると?私は難しいと思いますけどね」
「そんな事ないよ!あ、それより霜花さんは何で今この話をしたの?」
「そんなの今回の事件と関係あるからに決まってるじゃないですか。少しは頭を使ったらどうですか?」
「は、はい……すみません」
霜花さんにキッと睨まれて思わず敬語で謝ってしまった。ごめん、今度から頭使うからそんな目で見ないで。
「昨日の爆発直後、私達の携帯に送られてきたメッセージですよ」
そう言って霜花さんはまたカバフォンを操作して画面を見せてきた。
「スパイは既に動き出した。お前の対応の遅さが招いた結果だ。お前には誰も救えない」
「あっ!?うちらが保健所で爆発聞いた時に届いたやつ!」
「忘れてたのですか?呆れ果てますね、まったく」
思い出した。そう、うちと霜花さんが保健所にいる時に届いた差出人不明のメッセージだ。
「嘘である可能性もありますが、スパイがいると分かった以上警戒するべきですね」
「霜花さんはもしかして、スパイが誰かって分かってたりするの?」
「………何人か検討はついています。ただ、不確定な情報で混乱されても困るので貴方には教えません」
「そっか。分かったよ」
「今回の裁判も、私は嫌ですけど出来る限り貴方のサポートに努めます。私は貴方の推理能力だけは買っていますから、くれぐれも犯人当てを間違えて全員破滅、なんて事にならないようにして下さい」
霜花さんは今回もうちの手助けをしてくれるみたいだ。うちの事嫌いと言いながらも手伝ってくれるあたり、やっぱ霜花さんは優しいなぁ。
「ありがとう!霜花さん!!」
「………!ちょっと、急に何ですか………」
うちは、霜花さんの手を取ってぎゅーっと握手をした。
「貴方、人との距離感というものを1から学び直した方がいいですよ」
「えー!いいじゃん!!これもスキンシップの一種だよ!あ、なんならハグしてもいいよ。霜花さん可愛いし」
「もしそのような行動に出たら貴方を半殺しにしてプールに沈めます」
「冗談だよ!?というかそれ、半殺しどころかほぼ死んでるよね!?」
前より多少話してくれるようになったけど、まだ距離がある気がする。もっと仲良くなりたいんんだけどなぁ。
コトダマゲット!
[相川に送られたメッセージ]
爆発直前に送られてきた差出人不詳のメッセージ。霜花にも全く同じメッセージが送られている。
「スパイは既に動き出した。お前の対応の遅さが招いた結果だ。お前には誰も救えない」
霜花さんと別れてまた研究教室に戻り、ドアを開けて中に入る。
「何これ………」
中はうちが思っていた以上の惨状だった。
机は全て焼け焦げ、天井や壁は真っ黒になってしまっている。
特に損傷のひどい教室の後方は、もはや何があったか分からない程全てが燃えて炭化してしまっていた。一部まだ煙が上がっているところもある。
「凛さん!!」
業ちゃんが駆け寄ってきた。
「あの女に乱暴されたり罵倒されたりしませんでしたか?」
「そんな事ある訳ないって」
「いえ。さっきので確信しました。霜花さんは危険です。今度から近づかないようにしてください。もしあっちから来たら私が迎撃します」
迎撃って……。ミサイルじゃないんだから。
「それはとりあえず後にして………。何か手がかりは見つかった?」
「それが……私が思ってた以上に見つかりましたよ」
「本当!?」
やはり爆発が起きたこの教室には犯人を突き止める為の証拠が多く存在するらしい。
「はい。まずは………さっきモノカバから聞いた情報なんですけど」
そう言って業ちゃんはカバフォンにまとめたであろうメモを見せてくれた。
調理部の研究教室で起きた爆発について
・20:40頃発生。原因はガス漏れによる引火
・爆発は部屋全体にまで及んだ。その後、あちこちから出火。
・準備室は無事だった。
「教室全体に及ぶほどの爆発かー。そりゃA棟にいるうちらにも音が聞こえるよね」
「準備室が無事だったのは不幸中の幸いですね。準備室まで燃えてたら今回の事件、犯人を見つけるのは困難になってたでしょうから」
「ん?じゃあ準備室にも何かあったの?」
「はい。それもかなり重要な証拠です。後で凛さんにも見せますね!」
研究教室での爆発………。そもそも何で犯人は爆発なんか起こしたんだろう。誰かを殺す為とかなら分かるけど、この爆発で負傷した人は誰もいないし。もしかして、爆発には何か別の目的が………?
コトダマゲット!
[調理部の研究教室で起きた爆発]
20:40頃発生。爆発原因はガスに引火した為。火は天井に設置されたスプリンクラーとモノカバによって消火された。爆発の規模は教室全体を包み込む程であった。しかし、準備室には爆発は届かず、無事であった。
「業ちゃん、このガス漏れってどこから漏れたか分かる?」
「もちろんです!こっちにありますよ!」
うちは業ちゃんの後ろをついて行く。すると、そこでは千野君が焼け跡にある何かをジッと見つめていた。
「千野君、捜査は順調?」
「おお、相川殿。いやぁ、こうも全て焼け焦げてしまっていると中々捜査は捗りませんな」
そう、千野君の言う通り、捜査といっても殆どの物が爆発で消し飛んでしまったので調べようがないのだ。あ、じゃあ犯人はこれを狙って………?
「ですが、拙僧も1つ面白い物を見つけましたよ」
すると、千野君は持ってた何かをうちに見せてきた。
真っ黒に焦げているので何かは非常に分かりづらいけど………。
「これは………、ホース?」
「そう、これは恐らく机の下にあったガスホースでしょう。拙僧が見たところ、何か鋭利な物によって切断されていますね」
ガスホースを切断?犯人はじゃあ、ガスに引火させて爆発を起こしたって事?
「ちなみに、他の机にあったガスホースも同様に切断されています。犯行に使用されたのは明らかですね」
業ちゃんがさらに補足する。全部切断するって事はつまり………。
これはかなり重大な手がかりみたいだ。しっかりメモしておかなくちゃ。
コトダマゲット!
[切断されたガスホース]
机の下にあるガスホースが全て切断されていた。ここからガスが漏れていた模様。
「ちなみに千野君は事件直後どこにいたの?」
「拙僧はずっと自室に居ました。静かな場所で考え事をしたかったので」
「そっか。ありがとう!」
「凛さん、次は準備室に行きましょう!」
「うん、どうやら重要な証拠が残されてるみたいだし」
準備室
「お、凛さんも来たんだね!」
「北条殿に相川殿。お主らもここが気になったでござるか」
中には万斗君と霞ヶ峰さんがいた。
「霞ヶ峰さん………。もう大丈夫なの?」
「心配は無用でござる。先程は見苦しい姿を見せてしまったでござるね」
霞ヶ峰さんは大丈夫だよ言う風に頷く。けど、うちは気がついてしまった。霞ヶ峰さんは明らかに無理をしている。
そんな霞ヶ峰さんに聞くのは凄く申し訳ないけど、これは聞いておかないといけない。
「霞ヶ峰さん。辛いと思うんだけど、喜屋武さんを見つけるまでの流れを教えてもらってもいいかな?」
「………了解したでござる。拙者、ドアのロックが解除された後、どうしても気になって研究教室まで見に行こうと思ったのでござる。そしたらこのような写真が送られてきたのでござる」
霞ヶ峰さんはカバフォンの画面をうちらに見せてくれた。
画面には、喜屋武さんが飛び込み台で首を吊っているところを撮った写真が写っていた。
「何これ………嘘でしょ?」
「拙者はこれを見て慌ててプールに向かったでござる。そして、喜屋武殿を見つけた瞬間、例の死体発見アナウンスが鳴ったでござる」
「そっか………。ん?ちょっと待って?霞ヶ峰さんが見つけた瞬間にアナウンスが鳴ったんだよね?」
「そうでござるが………、拙者、何かおかしな事言ったでござるか?」
「………霞ヶ峰さんがプールに行った時、他に誰かいた?」
「いや、誰もいなかったでござるよ」
「何か引っかかる事でもあるのかい?」
「死体発見アナウンスは『犯人以外の3人が死体を見つけた時』に鳴るアナウンスです。なので、霞ヶ峰さん以外にもう2人死体を発見した人がいるはずです。ですが………」
「今のところ、死体を発見したっていう人は出てきてないんだ」
「では、死体を見つけた事を隠している者がいるという事でござるか?けど、隠す理由がないでござるよ。自分が無実だって証明出来るのに」
うちはそこで1つの考えに辿り着いた。
「もしかして………今回の事件、共犯者がいるのかもしれない」
「えっ!?」
「でも、前回の事件でも言ってたじゃないか。犯人の共犯者になっても実際脱出できるのは殺した犯人だけだって」
「自分は死んでもいいから誰かを外に脱出させたい。そう考える人がいても不思議ではありません」
「そ、そんな………。無茶苦茶でござるよ」
ここに来て出てきた共犯者の可能性。まだ全員に聞いてないから確定ではないけど、もしいたとしたら事件はかなり複雑なり、犯人を見つけるのは一筋縄ではいかなくなる。これもちゃんと覚えておこう。
コトダマゲット!
[霞ヶ峰の証言]
喜屋武が首を吊っている写真が送られてきた為、霞ヶ峰が慌ててプールに行き喜屋武の死体を見た瞬間、死体発見アナウンスが鳴ったという。
「凛さん、これを見てくれるかい?」
すると今度は、万斗君がある場所を見ながらこっちに手招きしていた。うちらは早速駆け寄った。
「万斗君、何か見つけたの?」
「ここにある空いたスペース、何があったと思う?」
万斗君が指差した先には調理で使う道具が収納されていた。しかし、端の方に不自然に隙間が空いている。
「この並びと場所的に………、包丁、だよね」
「ご名答。流石凛さん。ここには恐らく包丁があるはずなんだ。しかも2本ね。けどそれが無い」
包丁が2本もない………。犯人が2本持ち出したのか、それとも別々の人が1本ずつ持ち出したのか。
「ボクはモノカバファイルを見て凶器がありそうなここを真っ先に探したけど、ビンゴだったね。ほら、これが証拠だよ」
万斗君はポケットから袋に入れられた何かを取り出した。中身はさっきのホースと同じで黒焦げになっている。けど、どう見てもこれは………。
「もしかして、無くなった包丁?」
「そう。ボクが偶然落ちてるのを見つけたんだ。焦げて原型を留めちゃいないけどね」
「なるほど。、先端に血のような物が付着していますね。犯人は喜屋武さんをこれで刺した後、包丁を教室に放置したんでしょう」
「となると、やっぱ凶器はこれで決まりかな?他に凶器になりそうな物なんて無いし」
「一応、ジャックさんに照合をしてもらいましょう。この包丁と傷口が一致するかどうか。私が後で持っていきますね」
「ありがと。万斗君、この包丁借りてもいい?」
「もちろんだよ」
業ちゃんは万斗君から包丁を受け取った。
「けど、どうしてももう1本の包丁が見つからないんだよ。いったいどこにいったんだろう」
「う〜ん、ここ探しても無いんだったら、既に処分されちゃったんじゃないの?」
「………とりあえずボクは時間ギリギリまで探してみるよ」
万斗君はまだ包丁を見つけるのを諦めてないみたいだ。
「ありがとう!!凄く助かるよ!!」
「とんでもない!ボクはレディーの為なら何でもする男だからね。これくらい当然の事さ!あ、じゃあさ、ボクにご褒美をくれないかな………?」
「ん?ご褒美?」
嫌な予感がする。
「そう、ご褒美だよ。例えば、凛さんの発展途上の胸。それに業さんの健康的でツルツルすべすべのお尻。それをボクに触らせてく……」
「「フンッ」」
「グエッ!?」
うちらは、同時に万斗君に腹パンをかましていた。
「そ、そんな………何で……」
「やっぱそんな事だろうと思った。感謝したうちがバカだったよ」
「穢らわしい。2度と私と凛さんの半径10メートル以内に近づかないで下さい」
「せめて……先っちょだけでも……」
「先っちょって何だよ」
というか、また胸が小さい事言われた。うちも好きで胸が小さくなったわけじゃないんだよ。こんちくしょう。
コトダマゲット!
[準備室の包丁の行方]
準備室から包丁が2本消えていた。一本は研究教室内に落ちていた。先端には血が付着している。もう1本の行方は不明。
「あのー、北条殿?相川殿も来たし、そろそろダイイングメッセージとやらについて説明して欲しいんでござるが」
すると、霞ヶ峰さんが困ったような表情でこっちを見ていた。
「ああ、そうですね。すっかり忘れてました」
「ダイイングメッセージ?」
「うっ……。業さんがさっき見つけてたんだけど、凛さんが来るまで見せないって」
「私が見つけた証拠はまず凛さんに見せるに決まってるじゃないですか。
「今物凄い失礼な事言われた気がするでござる」
業ちゃんはポケットから1枚の紙を取り出して開いた。
「これが準備室に残されていたダイイングメッセージです」
そこには、こう書かれていた。
「TはKaであり、NはGである」
「これが………ダイイングメッセージ?」
「TはKaでNはG?………全然分かんないよ」
「拙者もさっぱり分かんないでござる」
「諦めるのが早すぎるって。これが手がかりなのは間違いないんだから」
「そうでしょうか?」
「えっ?」
うちの言葉に業ちゃんが疑問を示す。
「すみません。凛さんの言葉を否定するのは非常に心苦しいんですけど、私はこれは喜屋武さんが書いた物ではないと思っています」
「根拠はあるのかい?ダイイングメッセージは普通、被害者が死ぬ直前に残す犯人の手がかりだと思うんだけど」
「当然です」
業ちゃんはうちらを見渡してから説明を始めた。
「理由は2つあります。1つ目はこの紙があった場所です。これは、そこにある冷蔵庫に入っていました」
「冷蔵庫にでござるか?なんでわざわざ見つかりづらい場所に入れたのでござろうか?」
「そう、ダイイングメッセージは被害者が生きている人の為に残した手がかりです。それなのにわざわざ冷蔵庫のような探さないと見つからない場所に入れるのは矛盾しています」
「確かにそうだね……」
「2つ目は、字が綺麗すぎる事です。これが本当に喜屋武さんが書いた物だとしたら、恐らく喜屋武さんは刺された後、残りの力を振り絞って、自分の血でこれを書いたんだと思います。ですが………この字、血で、しかも刺された後書いたにしては綺麗すぎませんか?」
「本当だ。こんなに綺麗なのはなんだか不自然だね」
「喜屋武殿が達筆だっただけではござらんか?」
「その可能性も否定出来ません。けど私にはどうしても喜屋武さんがこれを書いたとは思えません」
「う〜ん、言われてみればそうかもしれない…」
「ですよね!!凛さんならそう言ってくれると信じてました!!」
「北条殿、相川殿の事になると途端にチョロくなるでござるなぁ」
うちはダイイングメッセージについて別に詳しくはないけど、確かに死の直前に書いたダイイングメッセージを冷蔵庫にわざわざ入れる、という行動には違和感がある。これも、さっきの共犯者と大きく関係してるのかもしれない。
コトダマゲット!
[ダイイングメッセージ]
準備室にある冷蔵庫に、血文字で「TはKaであり、NはGである」と書かれた紙が入っていた。死の間際に書かれたにしては非常に達筆であった。
「じゃあ次はどこ行こうか?」
「すみません、凛さん。ちょっと調べたい事が出来たので少し別行動させてもらってもいいですか?」
「あ、そうなの?いいよ全然」
「すぐに戻れると思います。それに私、凛さんと極力離れたくないし、凛さんの近くにしばらくいないと発狂しちゃうんで」
「いや怖すぎるから。あとうちを精神安定剤として見ないで」
そんな事されたらうちまで白い目で見られるかもしれない。
「あ、凛さん!あとさっき見つけた物渡しておくよ。きっと裁判で役に立つと思う」
そして、うちらが研究教室を出ようとした時、万斗君が1枚のプリントを渡してきた。
「これは……備品の説明書?」
「机とかは燃えちゃって原型を留めてないからね。元の形を知っておいた方が理解もしやすくなると思ったんだ」
「ありがとう、万斗君!!流石は超高級の情報屋だね!」
「フフン、こんなの朝飯前さ!」
万斗君はドヤ顔を浮かべる。うちはこの後、てっきり調子に乗ってまた下ネタでも言い出すかと思ったが………。
「ボクはね、今回の犯人を絶対に許すわけにはいかないんだ」
万斗君は真剣な表情でうちを見た。
「か弱い女の子を………しかも皆に優しく、温かい料理をたくさん振る舞ってくれた天使のような人だった流理恵さんをあんな残酷に殺した犯人を、絶対に許さない。たとえそれが女の子だとしてもだ」
最後の方は声が震えていた。彼が普段何よりも大事だと考えている女子でさえも、犯人であるとしたら許さないと言っているのだ。
相当の覚悟があって言ったのだろう。
「万斗君………。うん、喜屋武さんが死んでいい理由なんて全くないもん。絶対犯人見つけようね」
「うん。必ず突き止めてやる」
コトダマゲット!
[調理部の研究教室にある机]
小学校の家庭科室にあるような机。
調理実習用にガスコンロが2つ端に設置されている。
下にはガスホースとガスの元栓、そして人1人入れるくらいの収納スペースがある。
「相川殿は、怖くはないのでござるか?」
すると、今度はうちらのやり取りを聞いていた霞ヶ峰さんがそうきいてきた?
「怖い?怖いって何が?」
「学級裁判の事でござる。もし間違えたら………全員死ぬのでござるよ。なのにどうして、そんなに平気な顔をしていられるのでござるか?前回もそうでござったが、拙者、震えが止まらないでござる」
「霞ヶ峰さん………。やっぱり、さっきのは嘘だったんだね。大丈夫だって言ってたの」
「………嘘でも元気だって言わないと精神が持たないでござるよ。どうすればこの震えは止まるのでござろうか。死への恐怖で、もう何も考えられないでござるよ
霞ヶ峰さんはさっきまでの元気が嘘のようにカタカタと震え始めた。そうか、全部空元気だったんだ。相当無理してたんだね。
じゃあそういう時は、これが1番。
うちは霞ヶ峰さんの手を取ってぎゅーっと握った。
「相川、どの……?」
「大丈夫。落ち着いて、うちがいる。霞ヶ峰さんが困った時はいつでも傍にいるから。そしてこうやって手をぎゅーってしてあげるから。知ってる?人って他人の温もりを感じてる時が1番精神的に安らいでるんだって」
「………………」
「霞ヶ峰さんって悩みとか不安を1人で抱え込んじゃうタイプでしょ?それは1番やっちゃダメだよ。うちじゃなくてもいいから、とにかく負の感情が爆発する前に信頼できる人に打ち明ける。これだけで全然違うと思うからさ」
「…………………」
霞ヶ峰さんは黙ってうちの話を聞いていたが、しばらくするとうちの手を握り返してきた。
「分かったでござる。では、これからずっと………拙者の命、相川殿に預けるでござるよ」
「命を預ける!?そんな大袈裟な!」
「拙者は大真面目でござる。前回の裁判で1番活躍してたのは相川殿でござる。だから、拙者は相川殿に賭けるでござるよ。それに、今、この瞬間拙者が信頼できる人物は相川殿に決まったでござる」
「えっ?」
「拙者は自堕落でござるからな。とことん頼って頼りまくるでござるよ。それでもいいでござるか?」
霞ヶ峰さんはいつもの明るい雰囲気に戻ってニヤリと笑った。
「………望むところだよ!!」
うちらは今度はお互いに拳を合わせた。
霞ヶ峰さんが立ち直ってくれて良かった。
「相川さ〜ん」
今度こそ教室の外に出ようとすると、また呼び止められた。
「独島さん?どうしたの?」
「こっち来てきてー」
独島さんは小声でそう言うとうちを引っ張って行く。
「ちょ、どうしたのそんなに慌てて!」
「しーっ。あんまり大きい声出さないで」
独島さんは教室の1番後ろまで来ると壁を指差した。
「ん?ここがどうしたの?」
「よく見ててねー」
独島さんは周りに誰も居ないのを確認すると、指差した壁を軽く押した。
すると壁が横にスライドし始めた。そしてなんと、中から謎の通路が出てきた。
「えええ!?これっていわゆる、秘密の抜け道?」
「そうそうー。どお?わたしお手柄でしょー?」
独島さんがまたもやドヤ顔をする。
「すごいよ独島さん!どうやって見つけたの?」
「えーっとね、RPGとかではねー、こういう焼け跡にはだいたい隠し通路があるんだよ〜。だったら現実でもあるんじゃないかって思ったからー、ずっと探してたんだ〜。そしたら偶然見つけちゃってさー、わたし驚きだよー」
「あはは………。そうなんだ………」
つまりまぐれってことね。
「あれ?待って、ここに付いてるのって………血痕?」
よく見ると、隠し通路の入り口にうっすらと血痕が付いている。
「ほんとだー?じゃあ犯人は喜屋武さんをここから連れ出したってことー?」
「その可能性はあるよね。じゃなきゃ普通こんな所に血痕なんて付かないもん」
という事は犯人は、事前にこの隠し通路を知っていたって事になる。どこでこの場所を知ったんだろう?
「じゃあ、わたし入ってみるね」
「え?でも危険じゃない?何か罠が張ってあるかもしれないよ」
「もしそれでわたしが死んだら骨は拾っておいてくれー」
「ちょっとシャレにならない事言わないで」
「冗談だよ〜。というか、さっき一回行ってみたから大丈夫だって〜」
「もう行ったの!?それでどこに繋がってたの?」
「んー?それは裁判まで秘密ー」
「えええ!?」
秘密って………。そんな事言ってる場合じゃないと思うんだけど………。
「あと、この通路の事誰も言っちゃダメだよー」
そう言って独島さんは通路に潜っていってしまった。
「大丈夫かな………」
コトダマゲット!
[秘密の抜け道]
調理部の研究教室の端に隠されていた抜け道。入り口には血痕が付着している。どこに繋がっているかは不明。どうやら独島は知っているようだが………。
A棟 3F 喜屋武の個室
次にうちは喜屋武さんの個室前に来ていた。
捜査時間だから鍵は空いている筈だ。
実際、中から声がするので誰か居るのだろう。
「お、相川も来たのか」
「………りんりんも来たんだ」
中に入ると香織ちゃんと幸村さんがいた。
「捜査は順調か?」
「まあまあかな。香織ちゃんは?」
「いくつか手がかりは見つけられた。後はそれをどう犯人に結びつけられるかだが……」
「だからそんな事しなくても大丈夫だよ。犯人はもうたけくんで決まってるんだから」
「そういえばさっきもそんな事言ってたね。幸村さん、何か知ってるの?」
「幸村、相川には話してもいいんじゃないか?前回の裁判での功績もある。きっと有効に使ってくれる筈だ」
「………そうだね。りんりんには話してもいいかな」
幸村さんはうちの方を向き直すとゆっくり話し始めた。
「うちね、8時前にたけくんがB棟に向かうのを見たんだ」
「え!?」
それって喜屋武さんの死亡推定時刻前だ。そんな時にB棟に向かう理由は……。
「どう考えたって怪しいじゃん。そんな時間にB棟に行くって。絶対たけくんが犯人だよ」
「決めつけは良くないだろう。ただ単に別の用事があっただけかもしれない」
「ありえないよ!!今回の犯人は絶対たけくんなんだよ!!」
「ゆ、幸村さん………?」
幸村さんは必死の形相でそう訴える。
様子がおかしい。まるで柴崎君を犯人にしたがってるみたいだ。それに………なんか余裕がないように見える。
「だから捜査なんて意味ないんだよ!!ウチ先に行ってるから!!」
幸村さんはドアを開けて出て行ってしまった。
幸村さん……本当にどうしたんだろう?
コトダマゲット!
[幸村の証言]
19:50頃、柴崎がB棟の才能研究棟へ向かうのを見たという。
「相川、これは私の勘なのだが、もしかするとさっきの幸村の発言、嘘と疑うべきかもしれない」
すると、腕を組み考え事をしていた香織ちゃんがそう言った。
「えっ?」
「昨日の7時頃なんだが、私が部屋にいる時誰かが口論をする声が聞こえたんだ。外に出て音を辿ってみると、どうやら幸村と誰かが幸村の個室で口喧嘩をしていたようだった。流石にずけずけと中に入るわけにもいかず、しばらく様子を伺っていたのだが………数分で終わったから特に問題はないと思って部屋に戻ったんだ」
「幸村さんが誰かとトラブルを起こしていた………。もしかして、今回の事件の犯人って………?」
「まだ証拠も不十分だし、彼女が犯人だと言い切る事は出来ない。だが、さっきの態度といい、口論の件といい、色々引っかかる事があるのも事実だ。一応、幸村が犯人で嘘の証言をしている、という可能性も考えておいてくれ」
「………うん、分かった」
幸村さんが犯人だなんて考えたくはないけど、そんな甘い事は言ってられない。幸村さんの態度がおかしかったのは本当だし、ちゃんと頭に入れておかないと。
コトダマゲット!
[銀山の証言]
19:00頃、幸村の個室で幸村と誰かが口論する声を聞いたらしい。
ピンポンパンポーン
「オマエら、そろそろ学級裁判のお時間ですカバーーー!さあさあ、その間抜け面引っ提げてとっととA棟1階101教室に集合してちょーだいな!!」
モノカバの放送が聞こえた。もうそんな時間か。
「時間のようだな」
「うん、行こう、香織ちゃん」
「ああ」
101教室に行くまでにうちは、香織ちゃんにアリバイを聞いて、みんなの事件前の行動を整理していた。
よし、これも後で役に立つだろうし、ちゃんと覚えておこう。
コトダマゲット!
20:25頃
黒瀬、独島、万斗→食堂
相川、霜花→保健所
分倍河原、幸村→トレーニングルーム
柴崎→不明
他→アリバイなし
爆発時
黒瀬、独島、万斗→食堂
相川、霜花→保健所
柴崎→不明
他→個室(点呼時に全員確認)
A棟 1F 101教室
教室前に行くと、ちょうど来たであろう柴崎君と出くわした。
「おやお2人さん。捜査は捗ったッスか?」
「君に言う必要は無いな。それより君はどうなんだ?捜査時間中、姿を見かけなかったが」
「僕は部屋で寝てたッスよ。だって犯人分かってるんスもん」
「え!?」
「戯言だ。耳を貸す必要はない」
「あれ〜?そうやって切り捨てちゃってもいいんスかねー?相川サンにだけだったら教えてあげてもいいッスよ?」
「いい。柴崎君絶対本当の事教えてくれないし」
「あらら。それは残念ッス」
「それより柴崎君。もし本当に犯人を知ってるんだったら協力して。うちらが生き残る為にも」
「う〜ん、それは僕の気分次第ッスね。気分が乗れば協力するし、乗らなければ傍観するつもりッス」
「正気か?自分の命がかかっているんだぞ?」
「当然理解してるッスよ。その上での行動ッス」
柴崎君………。話せば話すほど彼の事が分からなくなる。敵なのか、それとも味方なのか、はたまた中立なのか。そして、彼の目的はなんなのか。
「相川サン、僕の事が分からないって困惑してるッスね」
「………!!」
「ホント分かりやすいッスね。何度何を言われようと僕の目的は2つだけッス。それは………」
「1つは学級裁判、そしてこのコロシアイ生活を楽しむ事。そしてもう1つは、コロシアイ生活を通して相川凛の成長具合を観察する事。これだけッスよ」
うちは柴崎君と視線が合った瞬間、背筋がゾワッとするのを感じた。
「君はやはり狂っている。こんな状況でそんな事を考える人間など普通はいない」
「はいはい、それは何度も聞いたッス」
そして柴崎君は教室に入ろうとする。
「柴崎君!」
「相川サン、今回も僕を楽しませてくれるほどの活躍、期待してるッスよ」
そう言って中に入ってしまった。
「相川、彼の言葉を真に受けるな。いちいち反応していたらキリがない」
「分かってる。今はあいつに構ってる暇なんてないもん。行こう。多分みんなを待たせてる」
「強いな、君は。ああ、行こう」
教室に入ると、他のみんなは既に揃っていた。
「カバカバカバーーー!!全員揃ったカバねーー!!じゃあさっさと裁判場にレッツゴーカバ!!」
前回と同じくモノカバがスイッチを押すと、正面の黒板が回転して隠しエレベーターまでの通路が現れた。
「今回も絶対、犯人を見つけてみせるでござる!!」
先程の会話の影響か、いつもより気合が入っている霞ヶ峰さん。
「………勝つぞ」
掌に拳を当て、静かに闘志を燃やす分倍河原君。
「早くこんな茶番終わらせますよ。凛さんとのイチャイチャタイムを過ごすために」
なんか勝手にうちとイチャイチャしようとしてる業ちゃん。
「さてさて、今回はどんな面白い学級裁判になるんスかねー?」
今か今かと学級裁判を心待ちにしている柴崎君。
「焦らず冷静にいきましょう。大丈夫、拙僧らの力を合わせればきっと真実は掴み取れる筈です」
みんなを力強い言葉で鼓舞する千野君。
「………とっとと行きましょう」
冷静にいつも通りの様子で呟く霜花さん。
「………命がどれだけ大事な物か、俺がクロに教えてやル」
メガネをクイッと直し、戦闘態勢のジャック君。
「よーし、わたしのスーパー頭脳をフル回転させるときが来たねー。頑張っちゃうよ〜」
相変わらずマイペースな独島さん。
「おし!!前回迷惑をかけた分、今回は絶対力になってやる!!」
挽回の為にやる気をみなぎらせる黒瀬君。
「………絶対犯人はたけくんだよ。それ以外、ありえないんだから」
柴崎君を犯人だと疑い続ける幸村さん。
「流理恵さん、見ててね。必ずボクが犯人を見つけ出してみせるから」
今回恐らく1番犯人を憎んでいるであろう万斗君。
「喜屋武の仇は必ずとる。犯人を逃したりはしない」
静かに前を見据える香織ちゃん。
「よし、行こう!!」
うちは気合を入れ直してエレベーターへと向かった。
全員エレベーターに乗ると、扉が閉まりゆっくりと動き始めた。
不気味な機械音を鳴らしながら、エレベーターは地の底まで落ちていく。
前回と同じく、誰も口を開く様子はない。
沈黙の時間が流れる。
と、思ったのだが、
「凛さん、連絡事項です」
業ちゃんが周りに聞こえないくらいの小声で話しかけてきた。
「ん?」
「まず、さっきの包丁と腹部の傷は一致してました。恐らく凶器はあれで間違いないと思います。それと、さっき購買の在庫を調べていたんですけど、昨日から減っている物のうち、事件に関係ありそうなのが2つありました。ロープとマッチ、そして救命キットです。一応伝えておきますね」
「ロープとマッチと救命キット………。分かった、ありがとう」
購買からなくなってた3つの物。2つは大方何に使われたのか予想はつくけど………。あと1つは一体何に使ったんだろう………?
コトダマゲット!
[購買の在庫]
昨日と比べて無くなっていたのは、ロープ、マッチ、救命キットの3つ。
そして、エレベーターはガタンという音と共に突然止まり、扉が開かれた。
「はいはいいらっしゃいカバーー!!じゃあさっさと自分の席につくカバよー!オイラ早く裁判やりたくてウズウズしてたんカバ!!」
うちらは大人しく自分の名前が書かれた席に着いた。
超高校級の調理部、喜屋武 流理恵さん。
誰に対しても優しく、そして分け隔てなく接してくれる人だった。
普段あまり笑う人ではなかったけど、料理や将来の夢について話してる時はとても楽しそうに笑っていた。
うちはそんな喜屋武さんの笑顔が大好きだったし、みんなにとっても、きっと癒しとなっていたと思う。
そんな喜屋武さんを殺した人が、この中にいる。
今回も出来るだけ証拠は集めたけど、まだ犯人が分かったわけではない。
間違えれば犯人以外の全員が死ぬ。
けどうちは進むしかない。
どのみち逃げられるわけがないのだから。
2回目の学級裁判が今、幕を開ける。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
⁇002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
⁇003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
⁇005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
⁇006 柴崎 武史《歴史学者》
⁇007 霜花 優月《狙撃手》
⁇008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
⁇009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》
⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
⁇014 分倍河原 剛 《空手家》
⁇015 北条 業 《???》
⁇016 万斗 輝晃 《情報屋》
⁇017 幸村 雪 《激運》
残り13人