なので3章に入るのはもう少し先になります………
狙撃手の独白
私は5歳頃親に捨てられました。
母が最後私言った言葉は今でも覚えています。
「ごめんなさい………。これ以上あなたを養う事が出来ないの。………お母さんを許して」
そう言われました。
正直、捨てられた事に対して怒りは抱いていません。
捨てられるまで私はとても大切に育てられてきました。なのでむしろ育ての親には感謝の気持ちを持っています。今でも会って気持ちを伝えたいと思っているくらいです。
…………まあ今も生きているかどうか分かりませんが。
そして私は約1年間、スラム街でゴミのような日々を過ごしました。
生きる為にあらゆる場所から食料を盗み、それを邪魔する者は全て排除してきました。
最初は勿論喧嘩には全く勝てませんでした。
しかし、生まれつき格闘の才能があった私は経験を重ねる事によってどんどん知識や技術を吸収し、自分のものにすることで強さを得ていきました。
最終的にはその地区どころか、周辺のスラム街でも負けなしの強さを誇るようになりました。
そんな時でした。ある軍人がスラム街にやってきて私のことを拾ってくれたのです。
身長が2メートル近くもあるその男は私を簡単に捻じ伏せると、有無を言わさずある場所に連れて行きました。
そしてこう言ったのです。
「お前の才能、人を助けることに使わねぇか?」
当時やさぐれていた私にこの言葉は衝撃的でした。
自分を守るためだけに使っていたこの力が他人の為に使える。
それをこの言葉で知ったのです。
私は自然と「はい」と答えていました。
「よし。そんじゃあお前は今日から俺の弟子、俺はお前の師匠だ。よろしくな、優月」
満面の笑みで私の頭を優しく撫でるその人の顔は忘れられません。
そして私は数年間かけて、師匠からあらゆる技術を学びました。
護身術にナイフ術、それに暗殺術など私が教わった技術は枚挙に暇がありません。
私は最初人を守るのに人を殺す技術を学んでどうするのかと問いました。
それに対し師匠はこう言いました。
「俺達は神じゃねぇんだ。だから全員を救うなんて事は出来やしねぇ。努力すれば全部救えるなんて考えてる奴は傲慢だ。だから俺達は優先順位をつけて守りたいと思う奴だけを守るしかねーんだよ。今お前が学んでるのはその守りたい人を守るための技術だ」と。
師匠は様々な技術を私に授けてくれましたが、特に力を入れて教えたのは遠距離からの狙撃の技術でした。どうやら私には格闘の才能以上に射撃の才能があったみたいで、それを見抜いた師匠は私に自分の持ちうる射撃に関する全てのスキルを教えてくれました。
そして私は10歳の頃、初めて戦場に立ちました。
場所は中東に位置するある国で、そこでは政府軍と絶望の軍勢が内戦を繰り広げていました。
そこに私はいきなり放り込まれ、政府軍に敵なす絶望に呑まれた軍勢を皆殺しにするように命令されたのです。
私は師匠の教え通り、守るべきものは守り、それ以外の敵なす存在を全て狙撃で撃ち抜きました。
無事勝利し日本に帰ってきて師匠と再開した時、彼は私にこう言いました。
「本当によくやった。お前は俺の自慢の弟子だ、優月」
その時、私は師匠の弟子になって本当に良かったと思いました。そしてこのままこの関係が続けばいいなと思いました。
しかし、それも長くは続きませんでした。
彼はあっさり戦死しました。
それも、私を庇って。
もう何回目かも分からない絶望との戦争。
そこで私は失態を犯します。
調子に乗って狙撃手なのに戦場のかなり中心地に近い場所まで出てきてしまったのです。
きっと今まで無傷だったし今回もきっと余裕だろうという傲りが出たのでしょう。
「馬鹿野郎、前に出すぎだ優月!!」
「大丈夫です師匠!!全部撃ち抜いてみせますから!」
師匠の言葉を無視して前線に出る私。
「戻れ優月!!…………危ねぇ!!」
案の定、私は死角から突然現れた伏兵に襲われました。
「パン!!」
師匠は私を銃撃から庇って倒れました。
私は敵をすぐ撃ち殺すと、師匠の元へ駆け寄りました。
「師匠………!しっかりして下さい!!」
「おう………、怪我はねぇみたいだな………」
「ごめんなさい…………私が、私が師匠の忠告を聞かなかったばかりに…………」
「へっ………、弟子の尻拭いをするのも師匠の役目だからな……」
口から大量に吐血しながら師匠は笑います。
「お願い……死なないで師匠……」
「優月………俺からの最後のレクチャーだ………」
「!?最後って………!」
「いいか………よく聞け。…………お前が一生命を懸けて守りたいと思えるような相手を探せ。そうすれば………いつかきっと………幸せを掴み取れるだろう………」
「嫌です………待ってよ師匠………、私を置いて行かないで………」
「……泣くな。最後くらい、笑ってくれや………」
「無理、だよ………だって……………………。師匠?」
彼は静かにこの世を去りました。
私のせいで師匠は死んだ。
私が師匠を殺したんだ。
私はその日初めて、涙が枯れる程泣きました。
それ以来、私は師匠の遺言通りずっと探し続けてきました。
私が命を懸けて守りたいと思える人間を。
しかし、出会うのは自分が生き残る為に他人を騙し、裏切り、醜く生きようとする腐った人間ばかりでした。
そしてある時私は、ついに誰一人として信用する事が出来なくなり、それと同時に早く死にたいと考えるようになりました。
私は師匠を死なせてからずっと罪悪感に苛まれてきました。
その罪悪感から逃げるように生きてきましたが、もうそれも限界でした。
自分の恩師を殺してまで生きたいとは到底思えません。
そんな時でした。師匠の知り合いから学校に通う事を勧められたのは。
「学校には行っておいた方がいい。学がないと将来食いっぱぐれる事になるからな。それに………お前が本当に守りたいと思える人間が同級生の中にいるかもしれない」
気は進みませんでしたが、師匠の知り合いの紹介を無下には出来ず、結局私は『超高校級の狙撃手』として希望ヶ峰学園という場所に入学することになりました。
しかし、気がついたら私を含めた17人が謎の場所に閉じ込められ、コロシアイという名のデスゲームをさせられる事になりました。
ここで私は恐怖と同時に良かった、という気持ちが芽生えました。
ああ、やっと死ねる、と。
死に場所を探していた私にとってまたとないチャンスだったのです。
このコロシアイなら誰かに迷惑をかけずに死ねる。
私がわざと隙を作って誰かに殺されればいい。
それか遺書を残して自殺するのもアリか。
そんな事を考えるようになりました。
とにかく、もう誰も私のせいで傷ついて欲しくなかったんです。
その為、まずは他の人達と距離をとることにしました。
もし仲良くなって、そこから私が死んだらその人を悲しませることになるのは分かっていました。
だからわざと嫌われるような言動、行動をとり、私が集団から孤立するように工作しました。
しかし、相川さんは違いました。
彼女は私にどんなに酷いことを言われても決して私との接触を止めようとしませんでした。
私と友達になりたいという一心で孤立した私に声をかけ続けました。
そんな彼女の行動に私は酷く嫌悪感を覚えました。
私と正反対の立場にある彼女は、何事も諦めなければ必ず達成出来るという考えを持っていました。
そんなわけないじゃないですか。
努力すれば、頑張れば必ず希望が叶えられるなんて本気で思ってるんですか。
違う。
希望なんてもう何処にも存在しない。
私はもう生きる意味なんてないんだ。
何度そう言おうとしたか。
しかし、結局言えませんでした。
何故なら………彼女の笑顔が、師匠の笑顔にそっくりだったからです。
どうしても彼女と師匠を重ねて見てしまいます。
それを見る度に心苦しくなります。
だから彼女とは特に接触したくなかった。
しかし彼女は私のそんな思いを知る由もなく、より一層私との交流を求めてきました。
極めつけは先程の裁判での発言。
「なんですぐ生きるのを諦めようとするの!!」
貴方が私の何を知っているのですか。
私がすぐ諦めたと思ってるんですか。
一体どれだけ苦悩してこの結論に辿り着いたことか。
知ったような口を聞かないで下さい。
私はそのような思いを込め大声で相川さんを拒絶しました。
あんな大声を出したのは何年ぶりだったでしょうか。
それでも彼女は、私が学則違反で処刑されることが決まった時泣きながら止めようとしました。
本当に鬱陶しい人ですね。
処刑される寸前まで嫌な気分にさせた相川さんにうんざりしました。
でも…………………正直嬉しかった。
私の為に泣いてくれる人なんて師匠以外だと今までいなかった。
だから、相川さんが必死に止めようとしてくれる様を見て、たまらなく嬉しかったんです。
人の為に泣ける彼女を私はとても羨ましいと思ってしまいました。
彼女とは普通に出会っていれば………もしかしたら仲良くなれたのかもしれません。
ともかく、これでやっと死ねる。
やっと師匠に謝りに行ける。
けれど、相川さんは私を庇い代わりに剣で貫かれました。
どうして。
ああ、また私のせいだ。
私のせいで誰かが死ぬ。
幸いにも一命は取り止めたみたいですが彼女はどこかに連れ去られてしまいました。
私は今、あの時と同じような罪悪感に苛まれています。
なんで罪人である私が生き残って、善人である彼女が生死を彷徨っている状態なのか。
彼女は他の人にとっても必要なのに。無能で役立たずの私が生き残っても意味なんてない。
いっそこのまま死んでしまおうか。
でも、そうしたら相川さんが庇ってくれた意味がなくなる。
仲間思いの彼女は私の死さえも大層悲しんでくれるでしょう。
彼女をまた傷つけてしまう。
私は、これからどうしたらいいんでしょうか。