(非)日常編①
北条 業side
軟禁生活15日目 AM5:00
「…………」
まだ誰もが眠りこけているであろう時間帯。
私は朝食を摂る為に食堂へと向かっていました。
何故この時間に起きて食堂に向かっているのか。
理由はただ一つ。他の人達に接触したくないからです。
二度も殺人が起こった上に、私達の中にスパイが潜んでいた事も判明しました。そうなると、スパイが分倍河原剛以外にもまだ存在している可能性も出てきます。つまり、もはや私は凛さん以外誰も信用出来ないということです。
私には凛さんしかいらない。凛さんが全てなんです。
だから昨日凛さんが剣に貫かれた時、私は気を失いそうになりました。
それと同時に、凛さんがああなってしまった原因を作った霜花優月に尋常ではない殺意を抱きました。一夜明けた今でもその殺意は変わりません。
あの女はいつか私が殺す。
たとえ凛さんが気にかけている人間だとしてもあいつだけは許さない。
………いけないいけない。朝からこんなに殺気を立ててたらついうっかり殺しに行ってしまいそうです。あの女の事はひとまず忘れましょう。わたしの今やるべき事はさっさと朝食を食べて新エリアへ凛さんを探しに行く事。
昨日は結局あの後新エリアを見に行く前に力尽きて泥のように眠ってしまいました。日頃の睡眠不足と裁判での疲れが原因でしょう。けれど、昨日寝たおかげで今日の体調は万全です。これで効率よく凛さんを捜索することが出来ます。出来れば他の人達が来る前に凛さんを発見したいんですが………
そんなことを考えているうちに食堂に着きました。
こんな早い時間帯だから流石に誰もいないでしょう。
私は静かに食堂の扉を開けます。
「おや…………、こんな時間に誰かと思えば昨日居なかった少女ではないか。キミもモーニングコーヒーを楽しみに来たクチかね?」
開ける前から嫌な予感はしていましたが、案の定先客がいました。それも私の知らない人です。
「…………誰ですか、あなた」
「おっと、自己紹介がまだだった。ワタシの名前は明智 麻音。超高級の探偵だ。昨日からキミ達の仲間として加わる事になった。以後よろしく頼むよ、北条 業クン」
「あなたが例の転校生ですか。というか、どうして私の名前を………」
「何故キミの名前を知っているか、かね?その疑問に対する答えは単純明白。私がキミと同じコロシアイ生活に巻き込まれた生徒にここにいる全員の詳細を聞いたからだ。ワタシは転校生だからね、誰がどのような人物か一切知らないわけだから情報を少しでも得たかったというわけだよ」
…………なんですか、この鼻につく喋り方は。今少し会話した瞬間に分かりました。私はこの人が苦手です。
「そうですか。で、話したのはあなたという事でいいんですよね?銀山さん」
「ん?ああ、そうだが。何か問題でもあったか?」
私は、緑茶を飲みながら明智さんと一緒にくつろいでいる銀山さんにそう問いかけました。
「………あなたまでボケてしまったんですか?どう考えても怪しさ満点じゃないですか、この人。下手に情報を開示するのはどうかと思うんですけど」
「勿論その通りだ。だが名前と性格くらいは話しても問題ないだろう。もし仮に明智が敵だったとしてもこれくらいの情報は私が話すまでもなく把握している筈だしな」
「……黒幕側でもない第三者だとしたら?それこそ新たな敵に情報を与えてしまった事になりますよ?」
「少し落ち着きたまえ、北条業クン。ワタシはタダで情報を教えてもらったわけではない。銀山香織クンとは情報交換をしたのさ」
「情報交換?」
「そうだとも。一方的に情報を得るのはフェアではないからね、ここにいる生徒のプロフィールを教えてもらう代わりにこちらも牢屋で得た黒幕に関する情報を提供した」
「こっそりと情報交換ですか」
「安心したまえ。この情報を銀山香織クンにのみ教えるつもりはない。キミ達全員にも提供するつもりだ。ワタシも晴れてキミ達の仲間になったからな、得体の知れないワタシは信用を得る為にも何かアクションを起こす必要があるのさ」
「あっそうですか。なら今ここで私にも教えてください」
「それは無理な相談だ」
「は?」
明智さんはコーヒーを飲み干すと、ワタシの目をジッと見ながら言った。
「…………ふむ、キミはやはりある人以外を信用していないみたいだな。昨日銀山香織クンにチラッと聞いたが、どうやらスパイとやらを疑っているのかね?」
「………だったら何ですか。こんな状況で疑わない方がおかしいでしょう」
「キミが好意を抱いている少女は一切疑わずに、か?それは都合が良すぎるのではないかね?その少女も黒幕側の一員である可能性もゼロではないだろう」
「凛さんが敵なわけありません。次変な事言ったら殴りますよ」
「………これは重症だ。『恋は盲目』という言葉があるが今回のケースはまさしくそれだと言えるだろう。その少女も粘着質なキミに付き纏われてさぞ苦労しているだろうな」
「黙れ。殺すぞ」
ワタシはテーブルを叩きつけました。カップがその衝撃で横倒しになります。
「…………失敬。少し喋りすぎてしまったようだ。ワタシの悪い癖なんだ、許してくれたまえ」
「落ち着け、北条。明智に悪気はないのは本当だ。………彼女の言いたいことは『今一度私達を信用してはくれないか』という事なんだ」
「信用?」
「その通り。確かにワタシ達に害なす敵が潜んでいる可能性は否定出来ないだろう。ただ、そうやってお互いに疑心暗鬼になる事こそが黒幕側の思う壺だと思わないかね?」
「…………」
「それに、今は前とは大きく違う点がある」
「違う点?」
「それは…………このワタシの存在だ!!」
…………は?
「このパーフェクトウーマンであるこのワタシがキミ達の仲間になった以上、ワタシの完璧なリーダーシップでキミ達を導いてみせよう!」
「…………」
「…………」
何を言っているんでしょうか、この人。私は銀山さんの顔をチラッと見ると彼女は呆れた目で明智さんを見ています。どうやら昨日から明智さんはこうだったみたいですね。この人、
「…………おや、どうしたふたりとも。ワタシの宣言に感動して声も出ないのかね?ふふ、それもそうか。この天才探偵、明智麻音が味方に加わるというのだ。このような反応になっても仕方があるまい。まあ、大船に乗ったつもりでいたまえ」
やはり、私はこの人が苦手です。
AM8:15
結局、私は1人で探索には行かず他の人と一緒に探索をすることになりました。
本当は死ぬ程嫌なのですが、明智さんに『ここで待たないとワタシはキミに永遠に得た情報を開示しない』と言われたので仕方なく待つ羽目になりました。あのエセ探偵が。とことんムカつきますね。
「ふぁ〜あー。みんなおはよう〜」
集合時間から15分程遅れて独島さんが到着しました。この人、ここに来てから寝坊してないのを見たことがないです。ある種の才能じゃないんですかね。
「おはようじゃねーよ!テメーは本当に時間守らねーな」
「ごめんごめん〜。朝どうしても弱くてさー」
「よし、全員揃ったな」
「これで全員かね?」
「………分倍河原はスパイだし昨日の状態を見るに改心などは有り得ないだろう。ここに呼ぶ理由はない。柴崎は一応ここに来る前に個室のドアを叩いてみたが反応は無かった」
「反応あったとしても来ないと思うのでござるが」
「そうだよ。彼は放っておいていいさ」
「………きゃべっちがいなくなっちゃったから、もう最初から4人も減っちゃったんだよね………。それにりんりんも行方知らずだし………」
「…………」
「そうだな。………だが諦めるにはまだ早い。新エリアも解放されたし、きっとそこに彼女はいる筈だ。………では本題に入る」
銀山さんの声かけで全員の視線が彼女に集中します。
「今この場で話す事は3つ。1つ目は私達にコロシアイをさせている黒幕の実態。2つ目は私達の希望ヶ峰学園の記憶について、そして3つ目は新エリアの探索についてだ」
「ひとつめについてはウチから話すよ。昨日そう言ったし」
裏切り者であった幸村さんが手を挙げます。
「分かっている全ての事実を隠さず話セ。でないと俺は信用しなイ」
「………うん。まず、昨日みんなも聞いたと思うんだけどフランケンが所属してるグループは『絶望の庭』ってとこらしいんだ」
「拙僧も昨日その単語は耳にしましたが、その組織とは一体何なのですか?」
「ウチも詳しくは聞かされてないんだけど………、みんなは『絶望の残党』って覚えてる?」
絶望の残党………。人類史上最大最悪の絶望的事件の首謀者であり、希望ヶ峰学園でのコロシアイを起こした黒幕、江ノ島盾子の遺志を継ぐ個人や集団を指す言葉でしたっけ。
「わたし知ってるよ〜。盾子さまーって叫びながら悪いことする人でしょー?」
「当然理解していル。あのイカれた連中を知らない者などいないだろウ」
「それで、絶望の残党がどうしたんだよ?」
「フランケンは最初ウチに『俺様達は盾子様の遺志を継ぐ選ばれた存在だ』って言ってた。だから、フランケンがいる『絶望の庭』は絶望の残党が集まる集団だと思う」
「えぇ!?では分倍河原殿は絶望の残党だったのでござるか!?」
なるほど。だったらこのコロシアイが開催された理由も納得出来ます。江ノ島盾子に少しでも近づく為コロシアイの模倣をして希望ヶ峰学園の生徒を絶望させようという魂胆でしょう。くだらない。単に真似をしたからって本人になれるわけでもないのに。絶望とやらによって脳みそを破壊されてしまってるようですね。既に死んだ人間に執着するなんてくだらなすぎて哀れにすら思えてきますよ。
「ちょ、ちょっと待ってよ雪さん!絶望の残党はボク達が希望ヶ峰学園に入学する時には既に排除されたって言っていたじゃないか!?なのに絶望の残党が今回のコロシアイを起こしたってなんだかおかしくないかい?」
万斗さんが幸村さんの情報に疑問を呈します。
「確かに………。拙僧らは絶望の残党の脅威が消えたからこそ、新しくなった希望ヶ峰学園に入学出来たのでしたな」
「そうだな。幸村、それについては何か知っていることはあるか?」
「…………ごめん、それについては何も分かんなくて……」
「絶望の残党がまだ潜んでいた、もしくは私達が記憶を消された3年間の中で何かが起こったかと考えるのが妥当じゃないですか?」
「………え?」
私も話し合いをスムーズに進める為に口を挟みます。
「前者は簡単です。絶望の残党を処理しきれていなくて、潜伏してた残りカスが台頭してまた活動を始めたというパターン。後者の場合は、私達が希望ヶ峰学園に通っている最中に何らかの事件、事故が発生して絶望の残党に似た勢力が現れたというパターンです。………というか、どうせ幸村さんも知らないんだしこの話はいくらしても無意味だと思うんですけど」
「一理あるでござる……」
いや一理じゃなくて百理ありますから。なんでここの奴らは無駄話しかしないんですかね、ホントに。
「………なら次ダ。他に何を知っていル」
「………後はウチら学生の中に紛れている『絶望の庭』のメンバーの数なら聞いた。………人数は、フランケンも含めて4人いるらしいんだ」
「は!?!?!?!?」
「よ、よにん!?そんなにいるのでござるか!?」
「ふむ、では分倍河原剛クンを除いてもあと3人絶望の残党がワタシ達の中に紛れているというわけか」
全員に衝撃の事実が走りました。
あのゴミみたいな奴があと3人もいるとは。笑えない冗談ですね。ますます誰一人として信用出来なくなりました。
「これを知ってるのは………ウチと『絶望の庭』のメンバー、それにりんりんとゆうちゃんも知ってる筈だよ」
「え………」
「相川と霜花が知っているだと?」
「…………!!」
名前を呼ばれた事で隅の方で一言も喋らず話を聞いていた霜花優月の方へ視線が集中しました。私も怒りを込め奴を睨みつけます。
「霜花、その話は本当か?」
「…………ええ、その通りです。私と彼女には第一の動機の際、『現在、生徒の中には5人の裏切り者が潜んでいる』という内容の秘密が送られてきました」
「何故隠していたのですか?」
「確証のない情報を広げて混乱されたくなかったんですよ」
「妙だナ。ずっと単独行動をしていた貴様が俺達にそんな気遣いをするとハ」
「…………」
「貴様が『絶望の庭』の一員だとバレないように情報を隠した、という事なら納得は出来るがナ」
「違う、私はただ……」
「リンに情報を隠せと指示したのも貴様だろウ。あの女は口が軽そうだし口止めしないとベラベラ喋りそうだからナ」
「…………」
「ジャック、霜花を責め立てすぎだ。……これに関しては相川からも事情を聞く必要がある。霜花は相川の話次第では追求は免れない事を理解しておいてくれ」
「…………分かりました」
チッ。この女、凛さんに口止めまでしてやがったんですか。アイツが口止めさえしなかったら凛さんは間違いなく私に相談してた筈です。それなのに………。
「それで〜?幸村さんはその残りのスパイが誰かって知ってるの〜?」
すると、満を辞して独島さんが尋ねました。そう、誰が絶望の残党なのか。私達が一番知りたい情報はそれです。しかし、
「ごめんなさい。それも知らなくて……」
まあ、そううまくはいきませんよね。潜伏してるのにわざわざ情報を漏らすバカはいません。
「フン、知らない事ばかりだナ。情報をまだ隠してるんじゃないのカ?」
「違うよ!!本当にこれがウチの知ってる情報の全部なんだよ!」
「…………」
ジャックさんはとことん疑ってるみたいですね。まあ私も同意見なんですけど。一度裏切った人間をもう一度信用するのは難しいですから。どうせなら腹を軽く切るなりなんなりして誠意を見せてもらいたいですね。
「ジャックテメーどんだけ疑ってるんだよ!もういいじゃねぇか!!」
「雪さんこれ以上責めたらその白衣血に染めてやるぞゴルァ!!」
「なんて残酷な事言うのでござるか!?」
「黙れ馬鹿どもガ。俺は一度裏切った人間の言葉を簡単に信用する程お人好しではなイ。それに俺は貴様の事をまだ許すつもりはなイ。何故だか分かるカ」
「え…………」
「前回の事件、ルリエが自殺という結果であったとはいえ貴様がルリエを刺そうとした事、そして俺達を騙してた事は事実ダ。それに対するはっきりとした謝罪をまだ聞いていなイ。それとも何ダ、俺達に謝罪は必要ないと考えているのカ。もしそうであるなラ俺は今後一切貴様と関わるのを止めるつもりダ」
「ジャックきゅん……」
へー。ジャックさんがやけにつっかかってたのは謝罪を求めてたからですが。随分と甘いですね。謝罪さえしてもらえば許すなんて。私だったら絶対許しませんけど。
「そう、だね。うん、順番を間違えてるね、ウチ」
そう言って幸村さんはこれ以上ないほど頭を下げました。
「みんな、ホントにごめんなさい!!!!ウチ、一時の感情に流されてみんなの事信じきれなかった!!それに、きゃべっちの事も、謝って許される事じゃないけどごめんなさい!!!!」
「……いいんじゃねーか?雪もここまでしてるんだし。オレは許すぜ」
「ボクは最初から雪さんさんの事は信じてたよ!」
「私も君を信じる。ここまで情報を提供してくれたんだ、信じないわけにはいかないな」
「わたしも〜」
「拙僧も右に同じです」
「拙者もでござるよ!」
「ワタシは一切知らない出来事だが………、このような素直で曇りのない謝罪を受けたら許さないなんていう選択肢は出てこないだろう。ワタシもキミ達に全面的に同意しよう」
「みんな………」
幸村さんの謝罪に対して許すと考える人が大半みたいです。ただ私はそうは思いませんでした。甘い、甘すぎる。
「北条業クン、何か言いたそうな顔をしているな。……ワタシがキミの考えてる事を当ててやろう。キミはこの程度の謝罪で裏切り者であった幸村雪クンを許すのは甘い、もっと信用に値する何かを提示しろ、そう思っているのではないかね?」
「………!?」
私がそれを言おうとした瞬間、明智さんに私の言いたいことを全て言われてしまいた。………なんなんですか、この人。
「そうなの、政子?ウチの事、まだ、信じてもらえないかな……」
「………なんですか、その目は。そんな目で見られても私は絶対に信じないですよ」
「北条、君の気持ちは分かる。………だが考えてみて欲しい。もしここに相川がいたらどのように反応するだろうか」
………………。
「きっと彼女なら幸村を暖かく迎え入れるだろう。相川が帰ってきた時、幸村が仲間外れにされてると知ったらどう思うだろうな」
………………。
「相川は悲しみ、君の事を………」
「ああもう分かりましたよ!凛さんに免じて幸村さんを許す事にします。ただし、変な真似したらすぐ拘束しますから」
「ありがとう政子!」
ハァ………なんかもうどうでもよくなりました。この茶番劇、とっとと終わらせて欲しいんですけど。
「君は納得したか?ジャック」
「…………………俺を二度と失望させるナ。それが貴様を許す条件ダ」
ジャックさんは横を向きながらそう答えました。何故横を向いているか。それはジャックさんの顔が赤い事から容易に想像出来ました。
「…………ありがとう!!!」
「なっ!?」
それを見て幸村さんは、何を血迷ったのかジャックさんに抱きつきました。
「あ…………」
「……………」
「ご、こめん。つい興奮しちゃって………」
「………別にいイ。いちいち謝るナ」
顔を真っ赤にしてもじもじする幸村さん。眼鏡を上げる仕草で誤魔化すジャックさん。
「ひゃーーーーー!!ちょっと幸村さーん!許された途端大胆だねー!もしかして既に恋のリミッター解除しちゃったー?愛するジャックくんに突撃する暴走機関車になっちゃった〜?」
「ちょっ………!?な、なに言ってるのどくちゃん!?今のは、その、ちょっと舞い上がっちゃって……」
「嘘つけ〜。ジャックくんも幸村さんに抱きつかれて嬉しかったんでしょー?で、抱きつかれた感想はー?好きな子にあんな事された瞬間どう思ったのー?ほれほれー」
「さ、触るナ!この脳内お花畑女ガ!」
「お!!ジャック照れてるじゃねーか!もっと素直になれよ!!」
「ほっほっほ。良いことですな、このように仲が深まるのは」
「あ………ああ………。ボクの雪さんがクソ眼鏡の毒牙に………」
「万斗殿の物ではないでござるよ。ここは男らしく、素直に身を引くべきでござる」
「独島!!興奮しすぎだ、少し落ち着け!」
「ふむ、閉鎖空間での同級生同士の恋愛成就……。実に興味深いな。そう至った過程を是非ワタシにも教えてくれたまえ。そしてワタシもワタシのようなプリティーガールにふさわしい伴侶を見つけることにしよう。将来に備えて身を固めるのは悪いことではない筈だからな」
幸村さんを中心にギャーギャー騒ぎ始めました。………くだらない、と私は最初思いましたが、凛さんとああいう関係になれたら私はどれほど幸せになるのかと考えてしまいました。
「案外………こういうのも悪くない、のかも」
「よし、では次の議題に移るぞ。次は私達が消された希望ヶ峰学園での3年間の記憶についてだが、これは明智から話してもらう。明智、説明を頼めるか?」
「任せてくれたまえ。ワタシはこれでも会話のスキルはかなりのものだと自負している。キミ達が完璧に理解出来るような説明なんぞ朝飯前だ」
バカ騒ぎが落ち着いたところで、銀山さんが次の議題を提示します。
………私達の抜け落ちた記憶についてですか。確かに知りたい情報ではありますが、それを説明する人物の胡散臭さが心配です。あの自称探偵が信用に値する人物かどうかはこれからの説明にかかってる、といってもいいでしょう。
「頼むから長ったらしく話すのだけはやめろよ。オレはそういうのうんざりなんだ」
「心配は無用だ。ワタシの話術は超一流だからな、短気で堪え性がなくて頭の回転が非常に鈍い黒瀬敦郎クンにも分かりやすい短くかつ丁寧な説明をするつもりだ。あぁ、でも内容が内容だし、ワタシもキミ達の境遇を完全に把握しているわけではないから流石に少し説明に手間取るかもしれない。それでもキミ達の中の短い、という定義から外れることはないだろうからそこも心配はしなくてもいい。あと、ワタシの話し方に……」
「それがもう長ったらしいんだよ!!!!あと今さりげなくオレの事バカにしたよな!?」
「恐ろしい程にペラペラしゃべるでござる」
「実は腹話術師だったりして……」
この人の話を聞いてると情報量が多すぎて目眩がしそうです。
「ではそうだな………、まずは確認なのだが、本当にキミ達は希望ヶ峰学園で過ごした3年間の記憶が無いのかね?」
「それは間違いないよ。ボクはここにいるみんなを全く見覚えがないんだ」
「拙者もでござる!」
「………ふむ。なら1つ1つ説明した方が良さそうだ。まず事実として、ワタシを含めたここに集められた18人は確かに希望ヶ峰学園の生徒であったが、クラスまで同じだったわけではない」
「は!?オレらは同じクラスだったから集められたわけじゃねーのかよ!」
「てゆーかー、クラスっていくつあったのー?」
「クラスは3つ。キミ達はそれぞれA組、B組、そしてC組の3つに分けられ、そのクラスで3年間を過ごした」
「……!まさか、この携帯に出てくる学籍番号の前にあるアルファベットというのは……私達の希望ヶ峰学園での組を表しているのか?」
「恐らくそうだろう」
「ん???どういう事?」
「例えば………幸村雪クン。キミの学籍番号とやらを見せてくれたまえ」
「いいけど………はい」
「ふむ、キミの学籍番号は『MB017』か。ワタシが今言っているのは前から2番目のアルファベットについてだ。キミの場合はB、とあるからキミはB組に所属していた事になる」
「な、成る程!!さすがはまおぴょん!!すごいね!!」
まおぴょん………。おやおや、随分こっ恥ずかしいあだ名をつけられてしまいましたね。案の定、明智さんは渋い顔をしながら、
「まおぴょん、とはワタシのことを指しているのかね?…………だとしたらそれは人違いだ。ワタシの名前に『ぴょん』などといういかにも頭の悪そうな語尾はつかな………」
「麻音さん!それ以上はストップ!!」
「………?」
「ん?何か言った?」
「いやいや、何でもないよ!」
「何故止める、万斗輝晃クン。彼女のネーミングセンスはどう考えても……」
「それも彼女の個性だから!スルーして!」
「………仕方ない。大人であるワタシがここは目を瞑ろう。………それで、話を戻すがキミ達の学籍番号がそのまま希望ヶ峰学園時代のクラスに対応している。これはもしかしたら何かのヒントにあるのではないかね」
「そう、なのかなー?」
「あっ!!!!!!」
「どうかされたのですかな、霞ヶ峰殿?」
「拙者、そういえばこれを見せるのを忘れてたでござる!」
そう言いながら霞ヶ峰さんはスマホを操作し、ある資料を見せてきました。
希望ヶ峰学園 入学者
A組
外国語研究家
探偵
神父
軍医
動画投稿者
機械工
棋士
運び屋
ハッカー
医者
秀才
鍵師
薬剤師
投資家
情報屋
生物学者
完全記憶能力
17名
B組
達人
スリ
喧嘩屋
バスケ部
不運
狙撃手
くノ一
十種競技王
水泳選手
バイク便ライダー
フットサル選手
テニスプレーヤー
ボディビルダー
空手家
サッカー選手
バトミントン部
激運
17名
C組
オカルト研究家
ピアニスト
作曲家
調理部
芸人
かるたクイーン
歴史学者
カメラマン
合唱部
茶人
スタイリスト
漫画家
自宅警備員
サブカルマニア
グルメリポーター
女将
マジシャン
17名
計51名
A組
相川 凛【外国語研究家】
明智 麻音【探偵】
天草 京介【神父】
綾辻 澪【軍医】
霞ヶ峰 麻衣子【動画投稿者】
喜界島 造 【機械工】
銀山 香織【棋士】
車丘 平五郎【運び屋】
ケヴィン マイケル【ハッカー】
ジャック ドクトリーヌ【医者】
司 拓郎【秀才】
灰掛 威和男【鍵師】
原 薬子【薬剤師】
益谷 保人【投資家】
万斗 輝晃【情報屋】
湯川 キリコ【物理学者】
宵崎 ひまり【完全記憶能力】
17名
B組
蒼葉 邦彦【達人】
飛鳥 圭【スリ】
風神 雷哉【喧嘩屋】
黒瀬 敦郎【バスケ部】
無悪 烈火【不運】
霜花 優月【狙撃手】
不知火 椿【くノ一】
百々海 真凛【水泳選手】
飛田 脚男【バイク便ライダー】
中澤 翼【フットサル選手】
錦織 清子【テニスプレーヤー】
武井 王【十種競技王】
ハルク ゴンザレス【ボディビルダー】
分倍河原 剛【空手家】
本川 佑也【サッカー選手】
結城 晴翔【バトミントン部】
幸村 雪【激運】
17名
C組
円城寺 霊夜【オカルト研究家】
北桜 千尋【ピアニスト】
北桜 八尋【作曲家】
喜屋武 流理恵【調理部】
近藤 笑美【芸人】
佐々木 莉央奈【かるたクイーン】
柴崎 武史【歴史学者】
写実 真平【カメラマン】
鈴原 花音【合唱部】
千野 李玖【茶人】
立華 未森【スタイリスト】
手ノ森 弘美子【漫画家】
問井 新斗【自宅警備員)
独島 灯里【サブカルマニア】
桃林 林檎【グルメリポーター】
薬師院 月乃【女将】
夢寺 蓮【マジシャン】
17名
計51名
「なんダ、これハ」
「拙者が自分の研究教室から見つけたデータでござるよ。多分、拙者らの代の名簿ではないでござろうか?」
「すごいじゃんかすみー!でもなんですぐ言ってくれなかったの?かなり重要な手がかりじゃん」
「まさかテメー剛と同じスパイなんじゃねーのか?」
「ち、違うでござる!!拙者は断じてスパイなどではないでござる!拙者は相川殿に口止めされてて……」
「また相川さんじゃんー。もしかして相川さんもスパイ…………じょ、冗談だって北条さんー、そんな鋭い眼光で見られたらわたし、石になっちゃうよー」
ふざけた事をぬかそうとした独島さんを睨みつけて黙らせてから資料を見ます。
私の才能はこの中のうちのどれかに該当する筈です。けど……パッと見てこれだ、と思えるような才能はないですね。
私の才能は………一体いつ判明するのでしょうか。
というか、そもそも私の学籍番号は………。
「ではこれで自分の希望ヶ峰学園時代のクラスが判明したな。一応、全員の学籍番号を見せてくれ。含まれているアルファベットと組が一致するかどうか確かめる。これが後々役に立つかもしれないからな」
銀山さんは全員の学籍番号を確認し始めました。私も仕方なく銀山さんに見せます。
「北条………これは………」
「私のはいいのでさっさと他の人の奴確認して下さい」
銀山さんは一瞬硬直しましたが、すぐ確認を再開しました。
「………出来た。現時点で分かるのはこのくらいか」
そう言って全員メモした内容を見せました。
A組
・相川 ???
・明智 MA018
・霞ヶ峰 MA003
・銀山 SA004
・ジャック MA008
・万斗 MA016
B組
・黒瀬 MB005
・霜花 MB007
・飛田 ???
・中澤 ???
・錦織 ???
・分倍河原 ???
・幸村 MB017
C組
・喜屋武 ???
・柴崎 ???
・千野 MC009
・独島 MC010
不明
・北条 015
「ふむ………見た所、学籍番号と組に違いがある者は居なさそうだ。しかし北条 業クン。キミは学籍番号すらないのかね?」
明智さんは顎に手を当てながら私の方を見ます。こっちに話を振るな。そんなのは見たら分かるんだよ。
「それは私が知りたいですよ。まさか才能だけじゃなくて学籍番号すらないとは」
「………………」
一度私をじっと見てから明智さんは視線をメモに戻します。
「後は………あ、かおりんだけ頭文字が違うね。1人だけSだよ」
「相川さんも確かMじゃなかったよ〜。何の文字だったか忘れけどー」
「ああ………。だがこのアルファベットが何を意味するのか分からない以上、相川と私だけ文字が違う理由も分からないな」
「この学籍番号から何か情報を得るのは難しそうですな」
「分からない事をいつまでも考えるのは時間の無駄ダ。話を戻セ」
明智さんを見ながらジャックさんは言いました。
「そうだな、少し話が逸れてしまった。………そしてワタシ達希望霞ヶ峰学園88期生は3年間の高校生活を経て無事卒業した。そして各々が自分の才能を存分に生かせる分野へと進んでいった。そして現在に至るという訳だ」
「どうやら、希望ヶ峰学園在学時の記憶が消されたというのは間違いないようですな」
「しかしおかしな点が一つある。キミ達の容姿についてだ」
明智さんは難しそうな表情を見せます。
「容姿ー?」
「先程も言ったがワタシ達は既に希望ヶ峰学園を卒業している。だから年齢は18歳、もしくは19歳の筈だが………、キミ達の容姿はどう見ても15歳、つまり高校入学時の見た目にしか見えないのだよ」
「え………?」
「例を挙げるなら…………、霞ヶ峰麻衣子クン」
「拙者でござるか?」
霞ヶ峰さんは自分を指差しました。
「キミは現在セミロングヘアだが、ワタシの記憶を辿る限り、卒業時キミの髪はロングヘアだった」
「そ、そうなのでござるか!?」
「それと黒瀬敦郎クン。キミは今耳に何もつけていないが、卒業時キミは右耳にピアスを付けていた」
「なんだそりゃ?オレピアスなんか付けた事ねぇぞ?」
「ワタシの記憶に間違いは無い」
つまり本来18歳の容姿である筈の私達は何故か15歳の容姿のままであると。おかしな話ですね。
「麻音さん、3年間の高校生活で何かおかしな事は無かったかい?ボク達が記憶を消されたって事はその3年間に何か起きたって事だと思うんだけど」
「いや、正直全く思い当たる事がない。ワタシ達は3年間普通の高校生として過ごしていた。多少の揉め事はあったが、このような事件に繋がる出来事は無かったと断言できる」
「影で『絶望の残党』とやらがコソコソ動いていたんじゃないですか?」
「その可能性は否定出来ない。だが、判断するには情報が少なすぎる」
「じゃあ、現時点じゃ何も分かんないってこと?」
全員が沈黙に包まれます。そう簡単に分かったら苦労はしないですよ。大体、この胡散臭い探偵の話を鵜呑みにするのもどうかと思いますけど。
「ひとまずこの話はここで終わりにしよう。私達が過ごした3年間で何かあった事が分かっただけでも大きな進歩だ」
すると、銀山さんが手を叩き話を中断します。
「明智、貴重な情報提供助かった」
「すまないな、どうやら大した役に立てなかったみたいだ」
「お。流石の麻音も落ち込んでんのか?気にすんなって、まだチャンスは」
「だが!!この天才探偵明智麻音、必ず黒幕の尻尾を掴んでキミ達を勝利へ導いて見せよう!!なに、安心するといい!ワタシの手にかかればこの程度の謎、子犬を探すより簡単な事だ!キミ達は安心してワタシについてきたまえ!!」
慰めようと黒瀬さんを遮り、明智さんは突如大声でそう言いました。うるさい。少し黙れ。あとそのドヤ顔やめろ。
「って、慰めてやろうとした瞬間これかよ」
「近年稀に見るナルシストでござる」
「んーいいね〜、わたしたちには唯我独尊、みたいなキャラが居なかったからねー。益々楽しくなりそうだよー!」
「よし、では最後に新エリアの探索についてだが……、ひとまず私はすぐ行くべきだと思う。何か脱出の手がかりが見つかるかもしれないし、何より相川もきっとそこにいる筈だ。彼女の安否を確認しなくてはならない」
凛さんの名前が出た瞬間、私の他に反応した人物が2人。明智さんと霜花優月です。明智さんは大方、銀山さんに存在を教えてもらったのでしょう。明智さんは好奇心の為、霜花優月は謝罪の為に凛さんの元を訪れるつもりなのでしょうけど、アイツらは絶対凛さんに近づけちゃいけない。私が何としても先に見つけなくては。
「次の場所は………C棟、遊園地だって!!」
幸村さんは携帯を見て大はしゃぎしています。遊園地ではしゃぐって……小学生じゃあるまいし。あ、でも凛さんと遊園地でデートしようとか言われたら……私は喜びの余り卒倒してしまう自信があります。
というか、まずなんで大学に遊園地があるんですか。大学って学問を学ぶ場所である筈なのに何故娯楽施設があるんですか。
「ねぇジャックきゅん!遊園地だって!!ジャックきゅんは遊園地行った事ある??
「いちいち騒ぐナ。俺は幼い頃一度行った事があるくらいダ。別に好きでも嫌いでもなイ」
「えー!勿体無いよ!!じゃあウチが遊園地の面白さいっぱい教えてあげる!!」
幸村さんはジャックさんの袖を引っ張りました。
「ナ……」
「ほら、早く行こう!!ねえかおりん、もう行ってもいいでしょ??」
「ああ、だが調査も忘れるなよ。それと昼になったらまた食堂へ集合してくれ」
少し呆れた表情で銀山さんはそう答えます。
「りょーかい!!!じゃあ遊園地へレッツゴー!!」
「袖を引っ張るナ!!おイ、誰かコイツを止めロ!」
「ジャック………お幸せにな」
「羨ましい限りですな。あのように愛されるのは」
「ケッ!面白くねぇなぁ!!」
「貴様ラ………」
「じゃあみんな後でねー!」
こうして幸村さんは文句を言うジャックさんを引っ張って食堂を後にしました。
「では私達も動こうか。まず、探索はペアで行ってくれ。今9人居るからひとまず4組作れる筈だ」
今いるのが私と霞ヶ峰さん、銀山さん、霜花優月、独島さん、明智さん、黒瀬さん、千野さん、万斗さんの9人。1人余る計算になります。なら当然私はその余りとして1人で行動させてもらいましょう。誰と探索なんて死んでもごめんですから。あ、当然凛さんは別ですけど。
「1人余るのはどうするのでござる?」
「1つの組は3人で動いてもらう。スパイの件もあるし単独行動は控えて欲しい。皆を信用していない訳じゃないが後で何かが起こっても遅いんだ。理解してくれ」
「りょうか〜い」
「まーしょうがねーわな」
…………チッ。そんな事だろうと思いましたよ。まあ銀山さんの言い分には一理ありますけど。
「妥当な判断だ。だがペアの組み合わせはどうするのかね?先程の2人のように好きな者と組む方法で良いのか?」
明智さんは腕を組みながら聞きます。……百歩譲ってペアを組むのはいいとしてもコイツと組むのだけはやめてほしいです。この人マジで苦手です。お願いします。
「ああ、自由に組んでくれて構わない」
「そうかね。なら、ワタシはペアに北条業クンを志望する」
「嫌です」
私は被せ気味で言いました。なんとなく嫌な予感はしてたんですよ。
「おやおや、随分と嫌われているようだ。キミとは友好関係を築きたいと思っているのだがね。ワタシの何がそんなに嫌なのか参考までに教えてもらいものだ」
「いや全部ですよ。胡散臭い笑顔、話が長い、ナルシスト、妙に気取ってる…………数え上げたらキリがないです。一言で言うと生理的に受け付けないです」
「…………………………そうか」
私がマシンガンの如く早口でそうまくし立てると、明智さんは帽子を押さえて下を向いてしまいました。
「北条………流石にそこまで言うのは………」
「業………やっちまったなぁ」
「北条さんいけないんだー」
な、なんですかこの空気は。この人がこの程度悪口で落ち込む訳ないじゃないですか。絶対演技ですよ。そんな事も分からないんですか………ってええ?
今一度明智さんを見ると椅子に座り込んで空を見つめています。まるで試合後の力尽きたボクサーみたいです。なんですかこの人、あんな性格してるのに打たれ弱いんですか。
「……北条、こうなったのは君の責任だ。お詫びとして彼女とペアを組んであげるべきだろう」
「な、なんで私が…………、分かりましたよ、ペア組めばいいんでしょう?」
これ以上この私が悪いみたいな空気に包まれるのが面倒だったのでペアを組む事を承諾します。
「………お、ワタシと組んでくれるのか。これでペア成立だな」
すると明智さんは何事も無かったかのようにスッと立ち上がり満足そうに頷きました。コイツ………!!私の事騙しやがったのか。
「どういうつもりですか、あなた」
「当然今のは演技さ。ワタシがキミの言葉に対して落ち込んだと見せかけて同情を誘う作戦だったが…………思ってた以上にうまくいった。キミは素直だな、北条業クン」
明智さんは私を見てニヤリと笑いました。私は恥辱で体温が上がり顔が真っ赤になるのが分かります。
「ギャハハハハハ!!業テメーチョロすぎるだろ!!!どう考えても嘘だろ今の!」
「北条殿優しすぎるでござるよ!!今のはどう考えても嘘でござる!」
「北条殿は優しいですな。なんだかんだ言いながら明智殿とペアを組むとは」
周りの人間からも笑われ、私の恥ずかしさは頂点に達しました。
「皆、あまり笑うのはやめてあげてくれ。北条、君は明智とペアでいいか?こうなった以上、他に選択肢があるかと言われれば微妙だが……」
「………もう、好きにして下さい」
こんな奴らに笑われるなんて………屈辱でしかない。あの探偵を信じたのがバカだった。もう嫌だ。凛さん、助けて下さい………。
「じゃあわたしたちも好きに決めていいんだよねー?……霞ヶ峰さーん、一緒に行こうよー」
「ん?拙者でござるか?」
「そうだよ〜。一緒にジェットコースター乗ろうー」
「そ、それだけは絶対嫌でござる!!拙者、極度の高所恐怖症なのでござる!!だから絶対に乗らないでござる!!」
「ふ〜〜〜〜〜ん。いいこと聞いちゃったー。じゃあ早速行こうかー」
「独島殿!?今のはフリとかではなくマジの話でござるよ!!………聞いてるのでござるか!?」
「おぉ!なんだか面白そうな事になってんなー!オレも混ぜてくれよ!!」
「お、黒瀬くんもジェットコースター行けるクチ?」
「おう!あんな楽しい乗り物ねえだろ!!」
「だよね〜。よし、じゃあまずはジェットコースターに向けてしゅっぱーつ。銀山さんー、わたしたち3人で組むねー」
「ああ。だが探索もしっかり頼むぞ」
「はーい。ほら行くよー、霞ヶ峰さーん」
「悪魔でござる!!この人悪魔でござるよ!?だ、誰か助けて欲しいでござるーーーーー!!!」
黒瀬さんと独島さんは嫌がる霞ヶ峰を引きずって出ていきました。霞ヶ峰さん、あの嫌がり方はマジですね。きっと帰ってきた頃にはゾンビのような顔をしていることでしょう。なんか、私と同じく不幸な目に遭っている霞ヶ峰さんを見て少しスカッとしました。
「霜花、私と組まないか?」
「…………私ですか」
「ああ。私は君と組みたいと思っているのだが……どうだろうか」
「…………別に誰でもいいです。お好きにどうぞ」
「ありがとう。では行こうか」
「…………………」
「ちょ、ちょっと待って。そうなるとボクは……」
「余っている拙僧とになるでしょうな」
「そ、そんなぁ………。ボクも女の子とデートしたかったのに………」
「男の拙僧で申し訳ありませんが、致し方のない事ですよ。愚痴なら拙僧がいくらでも聞きますから。気を落とさずに探索しましょうぞ」
「せ、千野君………。う、うわぁぁぁぁぁん!!!!なんでボクだけモテないんだよぉぉぉ!!!」
「ほら、歩きながら全て聞きますよ。拙僧、これでも悩みを聞く事は得意なのです」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
こうしてペアが全部決まり食堂から出ていきました。食堂に残ったのは私と明智さんだけ。
「では北条業クン。ワタシ達も探索へと向かおうではないか」
「…………」
「キミが出来る最大限の拒絶の顔をしているな。あらゆる顔のパーツが歪んでいる」
「誰が歪んでるだぶっ殺しますよ。あなたと会話をする気はないです。ほら、さっさと凛さん探しにいきますよ」
「ふむ、そうだな。ではこの探し物のプロと呼ばれるワタシについてきたまえ。ワタシの手にかかればあっという間に発見出来るぞ。何故ならワタシには超高度体内探知レーダーが付いているからな。感謝したまえ」
「あなたのそういう言動本当に無理です」
こうして私達は駆け足でC棟と呼ばれる遊園地エリアへと向かいました。
09:00 C棟 遊園地エリア
「………おかしくないですか、この規模」
「ふむ、ワタシが想像していた以上に遊園地だったな。地方にある今にも潰れそうな遊園地をイメージしていたのだが」
C棟に足を踏み入れるとそこには大規模な遊園地が広がっていました。
規模だけで言うならディ○ニーランドにも劣らないと言ってもいいでしょう。
あらゆる場所が煌びやかに飾り付けされ、どこからか流れるリズミカルな音楽は私達のテンションを高揚させます。
「しかし……なんだねあの趣味の悪い装飾は。せっかくの遊園地気分が台無しになる」
明智さんはある場所を見て顔をしかめています。私もそちらを見ると、体はミッ○ーマウス、そして顔にモノカバという気色悪いキャラの看板がありました。うわぁ………萎えますね、アレは。
「カバカバカバカバーーーー!!ようこそ夢の国へ〜〜〜!」
すると、近くにあるゴミ箱からモノカバが飛び出してきました。
「おや、ゴミ箱から登場とは。黒幕にしては随分安っぽい登場の仕方だな」
「何の用ですか」
「何の用って、初来園のオマエらに園内の施設について案内してやる為に決まってるカバ!!」
「不要だ。ワタシ達は自分で探せる。他を当たりたまえ」
「だそうです。とっとと消えて下さい」
「お、オマエら揃いも揃って………。いいから黙って聞けカバ!!!」
「面倒くさいですねホント」
「仕方ない。ワタシ達の方が大人だからな。黙って話を聞いてあげようではないか」
「な、なんか釈然としないカバ………。まあいいカバ。じゃあ説明するカバ!!」
「この遊園地は2度の裁判を乗り越えたオマエらに対するご褒美施設カバ!!だからオマエらはこの施設を好きなように使ってもいいカバ!!勿論料金もタダ!大いに遊び尽くしてもらって結構カバよーー!!」
「何がご褒美ですか。結局外には出れないくせに」
「それに胡散臭すぎる。何か設備に仕掛けでも施しているのではないかね?例えばジェットコースターが設備不良で乗った瞬間事故が起きるとか」
「そんな事オイラがする訳ないカバ!!だってオマエらに楽しんでもらう為に作った遊園地カバ!」
モノカバはこう言いますが、どう考えても仕掛けがあるとしか思えません。迂闊にアトラクションに近づかない方が賢明でしょうね。
「ひとつ質問がある。先程施設費は無料と言ったが飲食についてはどうなるのかね?ワタシの視界に自動販売機があるがあれも無料になると?」
明智さんは正面にある自販機を指差しました。
「ああ、あれは勿論有料カバ!そこまで至れり尽くせりにすると予算がね………」
「なるほど、施設に力を入れすぎて赤字なんですか」
「まあ、そうカバ。そこについて触れないで欲しいカバ………」
モノカバは後ろを向きながらブツブツと小言を言います。
その間に明智さんは自販機に近づきます。
「………なんだこの値段は。水が500円?ぼったくりもいいとこではないか」
私も明智さんに倣って見ると、確かに『モノカバ遊園地限定!美味しい水!』と書かれた水があった。これもディズ○ーと同じ手法ですか。その場所限定のラベルを貼ったりイラストを書く事によって通常よりも高く物を売る。だから同じ水でも驚くほど値段が異なるという訳ですね。
「う、うるさいカバ!!予算が限界な以上、飲食代で搾り取るしかないカバ!!文句言うなカバ!」
「何故このカバ畜生はキレているのかね?」
「………ノーコメントで」
「フン、説明はこれで終わりカバ!!せいぜい楽しむ事カバね!」
モノカバは機嫌悪そうに言うとゴミ箱に帰ろうとします。
「ちょっと待て」
私はモノカバを呼び止めました。
「ん??北条サン何か用カバ?」
「凛さんはどこだ」
「ああ、相川サン?このエリアのどこかにいるカバ。勝手に探せばカバ?」
「今すぐ場所を教えろ。さもないとこの遊園地全部燃やす」
「…………ハァ、これだからサイコパスは困るカバ。北条サンならやりかねないし、こっちとしても相川サンがいないと困るから教えてあげるカバ。カバフォンのマップを開くカバ」
私が言われた通り開くとモノカバは園内の左端を指しました。
「相川さんはこの救護室にいるカバ。けどまだ絶対安静だから………」
「…………!!」
私はモノカバが言い終わる前に走り始めていました。
「北条業クン!?」
「おい!!話はまだ途中カバ!!」
私は全速力で走ります。
凛さん。お願いですから無事でいて下さい。
あなたがいない世界なんて………私は嫌です。
あなた無しじゃ生きられない。
そしてあっという間に保健所に到着します。
扉を開けると3つの部屋があり、1番奥の扉だけ閉まっています。
「凛さん!!!」
私は叫びながら奥の扉の前へ行き、ノックもせずに中へ入りました。
「……業ちゃん?」
中には、ベッドから起き上がって外を見ている凛さんがいた。いつもの服装とは違って患者服だし、髪も下ろしてるけど、紛れもなくそれは………。
「凛さん!!!!!!!!!!!!」
その瞬間、涙腺が崩壊しました。
私は号泣しながら凛さんに抱きつきます。
「うわわぁぁぁぁぁん!!!!無事で良かったです!!!!本当に、良かったぁ………!」
「うわっ!ちょっと業ちゃん!?そんなに抱きつかないでよ!!うわ鼻水出てるし!!汚っ!?うちの服に付けないでよ!!」
「凛さぁぁぁぁん!!私の体液、全部受け止めて下さぁぁぁい!!」
「きったな!!!!!!!今すぐ離れて欲しいんだけど!!!!」
「嫌です離しません!!!」
やっと再会出来た。
私は、もう凛さんを離さない。
私は、この人をもう危険には晒させない。
彼女に付く虫は排除する。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
⁇003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
⁇006 柴崎 武史《歴史学者》
MB007 霜花 優月《狙撃手》
MA008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
MC009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》
⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
⁇014 分倍河原 剛 《空手家》
015 北条 業 《???》
MA016 万斗 輝晃 《情報屋》
MB017 幸村 雪 《激運》
MA018 明智 麻音《探偵》
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