ダンガンロンパ キャンパス   作:さわらの西京焼き

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ギリギリ3月中に3章を終わらせる事が出来ました………!
次からは4章に入ります。
4章は個人的にずっと書きたいと思っていた章なので、出来るだけ早く次の話を投稿出来るように頑張りたいと思います。



オシオキ編

 

 

 

「カバカバカバ〜〜〜〜〜〜!!!なんとなんと三連続で正解カバ!!《超高級の棋士》銀山 香織サンを殺したのは、《超高級の空手家》分倍河原剛クン、そしてその分倍河原クンと《超高校級の激運》幸村雪サンの二人を殺したのは、《超高校級の動画投稿者》霞ヶ峰 麻衣子サンでしたーーー!!三人が退場するハラハラドキドキの学級裁判だったカバ〜。オイラ大満足カバ!」

 

 

 

 

 

 

 

「拙者は犯人じゃない拙者は犯人じゃない拙者は犯人じゃない………」

うちらの辿り着いた結論は全て正しかった。霞ヶ峰さんが二人を殺したという事実に誰もが納得し、そして誰もが認めざるを得なかった。…………当の本人は除いて。

霞ヶ峰さんは頭を抱えて何かをぶつぶつ呟きながらしゃがみこんでしまっている。体はガタガタ震え、まるで彼女だけ極寒の地にいるようだ。

「貴様…………何故ユキを殺しタ!!!!」

ジャック君はそう言い放つと霞ヶ峰さんの元へ駆け寄り無理矢理胸倉を掴んだ。

「ひっ………!?だ、だから拙者は誰も殺してないでござる!!拙者は無実でござる!!」

「ッ………!!」

怯えた表情を見せながらもまだ自分が犯人と認めない霞ヶ峰さんに、ジャック君の胸倉を掴む力も強くなる。

「往生際が悪いですよ。あなたは凛さんに全てを暴かれて負けたんです。素直に敗北を認めたらどうですか?」

業ちゃんが呆れたように言う。

「お願い、霞ヶ峰さん。もう犯人は………あなたしか考えられないんだよ。だから罪を認めて全てを話して欲しい。あなたが何で殺人をしようと思ったのか、どうして幸村さんと分倍河原君を狙ったのか」

「拙者は………!せ、拙者は………」

うちが霞ヶ峰さんに訴えかけると、彼女は何かを言おうとして黙り込んでしまった。

「………この期に及んで黙秘するつもりカ………!」

「ジャックくんー、多分胸倉掴んだままじゃ霞ヶ峰さん話しづらいと思うよー。一回離してあげたほうがいいんじゃないー?」

その様子を見てさらに問い詰めようとしたジャック君に独島さんがストップをかける。

「………チッ」

ジャック君は素直に手を離す。彼にまだ理性が残っていて良かった。

霞ヶ峰さんは手を離されても下を向いたままだった。

「なあ麻衣子。テメーのした事は許される事じゃねーよ。けどな、別にオレらだってテメーが殺人を楽しむ最低のクズとまでは思ってねー。何かワケがあるんだろ?それを話してくれよ」

「貴方が本来殺人を犯すような外道ではない事くらい、交流の少ない私でも分かります。………殺人に手を染めた理由を聞かせてはくれませんか」

「ボクも君みたいな優しい女の子が誰かを殺したなんて信じられないよ………。君を殺人に走らせたものは一体なんだったんだい?」

「キミが殺人をしようと考えた理由、それをここで全て話すべきではないのかね?それがキミの最後の義務であり、殺された二人に対する罪滅ぼしだとワタシは思うが」

他の人も霞ヶ峰さんに声をかける。

それを聞いて話す決心をしたのか、彼女はやっと顔をゆっくり上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って欲しいでござる。理由を話す前に聞きたいのでござるが、何で拙者こんなに責められているのでござるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げうちらを見渡した彼女の視線は………驚くほど冷たかった。そして…………顔から表情が全て消え失せていた。完全な無表情だ。

「え…………」

「だって拙者、何も悪いことしてないでござるよ。それなのにこんなに責められて、罵られて………、拙者の心は深く傷ついたでござる。全く、本当のクズは一体どちらでござるか?」

声にも感情が一切こもっていない。さっきとはまるで別人だ。

さっきまで震え怯えていた彼女は霞ヶ峰さんではないんじゃないかと錯覚してしまうくらい、態度が変わった。

「貴様………一体何を言っているんダ?」

ジャック君は信じられないといった表情で小さく呟く。

他のみんなも同じようなリアクションをとっている。

「な、何言ってるの!?あなたは………幸村さんと分倍河原君を殺したんだよ!!それがどんな事かはあなたが一番良く分かって……」

「それの何がいけないのでござるか?」

「………え?」

うちの発言を遮って彼女はそう言い切った。

「いいでござるか?拙者は『悪者を退治した』だけでござる。平和を脅かす異物をここから排除したのでござるよ。それの何が悪いのでござるか?」

彼女の発言に反応する人はいなかった。…………何を言っているのかさっぱり分からないからだ。

「だったラ………だったらユキを殺さなくても良かっただろウ!!あのスパイならともかく、ユキは敵ではない筈ダ!」

「面白い冗談を言うのでござるねジャック殿。幸村殿も立派な敵でござるよ。幸村殿が裏切り者だった事、もう忘れたのでござるか?」

「アイツは既に改心して俺達の味方になっタ!もう敵ではなかった筈ダ!!」

「どうしてそう言い切れるのでござるか?また裏切る可能性もあるでござろう。それに一度裏切った時点で大罪なのでござるよ。罪は裁かれなくてはならない。ジャック殿が裁判中に言っていた事でござる」

「クッ…………」

いつもなら口喧嘩ならジャック君が勝つのに、今は圧倒的に霞ヶ峰さんが優位に立っている。

………これが彼女の本性なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ拙者が責められてる理由は後でじっくり聞くとして………拙者が幸村殿と分倍河原殿を殺した理由、それは拙者らの敵を倒してみんなのヒーローになりたかったのでござる」

「ヒーロー?」

唐突に出たこの場に相応しくないその単語に戸惑いを覚える。

「拙者らの敵であるあの二人を排除すれば、拙者はみんなにとってのヒーローになれるでござる。よくあるでござろう?ヒーローもので宇宙から地球を侵略する為やってきた怪獣をヒーローが倒して、みんなから英雄と呼ばれる展開。それと同じでござる」

「え…………?」

「裏切り者共を成敗した事によって…………拙者はもっと持て囃される。もっと崇めてもらえる。もっと褒めてもらえる。もっと人気者になれる」

「待ってよ………何言ってるの………?」

彼女の発言を理解出来る人なんてこの場にいなかった。

全員の思考がフリーズする。

「もっと支持してもらえる。もっと存在感を示す事が出来る。もっと偉くなれる。もっと輝ける。もっと明るくなれる。もっと認められる。もっと名声を得られる。もっと自分に自信を持てる」

「か、霞ヶ峰殿?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はまた表情を一変させ、自分の席を何度も叩きながらそう叫び続けた。目は血走り、鬼の形相でうちらを睨みつけている。

「ひゃあ!?」

「ま、麻衣子………?」

「拙者はもっと褒められていい筈なのに!!何故皆は拙者の事を非難するのでござるか!!!!スパイの分倍河原殿は正しくてそれを止めようとした拙者は悪者とでも言うのでござるか!?」

「情緒不安定すぎませんか、この人」

業ちゃんの言う通り、彼女の情緒はこの数分で目まぐるしく変化している。

「そうは言ってないけど………。でも殺人は絶対駄目なんだよ!!いくらあの男が最低だからって………」

「万斗殿は悪を倒す為でも殺人は良くないと言うのでござるか?それは甘いでござる!!敵はどんな手段を用いても排除しなければならないのでござる!!これは拙者がヒーローになるための正しい方法でござる!」

「悪を裁く為なら殺人も正当化されると。全く、馬鹿馬鹿しいにも程があります。それに殺人を犯した人間をヒーロー呼ばわりする人間などいる訳がないでしょう。そんな事少し考えればすぐ分かる事だと思いますが?」

「それは北条殿の考えでござろう。普通の人間は強大な敵を倒した者を、たとえどんな手段をとって敵を滅ぼしたとしてもヒーローに見えてしまうのでござる。それが人間の心理でござる」

「………話にならないですね」

誰の話にも耳を貸さずひたすら自分が正しいと主張する霞ヶ峰さん。

彼女が殺人に手を染めた理由。それは端的に言えば自分がヒーローになってみんなから褒められたかったからだった。

そんな自分勝手な理由で殺人が正当化される筈がない。

「そんな理由で…………」

「なるほどなるほど。霞ヶ峰サンの言いたい事は良く分かったッス」

「柴崎君!?」

うちが反論しようとしたその時、意外な人物がそれを遮った。今までずっと黙って傍観していた柴崎君だ。

「アンタはずっとヒーローになりたかったんスよね。別に僕はそのやり方、間違ってないと思うッスよ。敵である分倍河原サンとまた寝返る可能性があった幸村サンを始末するのは道理にかなっているッスもんね」

「貴様もユキを侮辱するのカ………!!」

「事実を述べたまでッスよ」

「おおお!!柴崎殿は分かってくれるでござるか!!そうでござる!!拙者のした事は言わば害虫駆除でござる!!それを非難される筋合いはないのでござるよ!!それで!柴崎殿は拙者の事どう思ってるのでござるか!?尊敬したでござる?凄いと思ったでござる?それともヒーローに相応しい人間だと思ったでござるか!?」

「…………………」

柴崎君は深くため息をつくと、今か今かと返答を待ち侘びている霞ヶ峰さんに向かって口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事はどうでもいい。僕が知りたいのはただ一つ。アンタの本性だけだ。早くその()()()()()()()()よ、臆病者が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………!!!!」

霞ヶ峰さんが今の言葉で驚愕する。

「僕は今のアンタになんかこれっぽっちも興味ないんスよ。いや、むしろ見ててムカつくッスね。その喋り方も、そのやたらハイテンションな性格も、全てが鼻につくッス」

「ど、どういうことなのー………?」

「柴崎武史クン。キミが彼女が本性を隠してると思う根拠は何かね?」

「………勘ッス」

「か、勘だと!?」

「僕はアンタ達無能と違って心理学もかじってるんで、なんとなく分かるんスよ。あ、コイツ本性隠してるなって」

「そんな勘だけで決めつけるのはどうかと…………」

「いや、実際当たってるんじゃないですか?そこのクソ男が言った瞬間、霞ヶ峰さんの表情が急変したのがその証拠です」

確かに霞ヶ峰さんは柴崎君に言われた瞬間、驚きを隠せずにいた様子を見せていた。

「で、実際はどうなのかね?キミは柴崎武史クンの言う通り、まだ本性を隠しているのかね?もしそうであるならばキミはすぐそれを見せるべきだと思うが」

「どうせアンタはこれから死ぬんスよ。なら最後にアンタの中身、全部ぶちまけてから死んで欲しいッスね」

明智さんと柴崎君の呼びかけに、驚きで固まってしまっていた霞ヶ峰さんは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不気味な笑い声が裁判場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

「ふふ、ごめんなさいね。まさかバレてるとは思わなくて。驚きすぎてつい笑いがこみあげてきちゃったのよ。やっぱり殺すのはあなたにしておけば良かったかしら。ねぇ柴崎くん?」

クスクスと笑いながら柴崎君を見る霞ヶ峰さん。

「それがアンタの本性ッスか。………僕はアンタみたいな奴に殺されるなんて死んでもごめんッスね」

「あらそう?ふふ、それは残念だわ」

「あなたは………あなたは一体誰なの?」

突然の豹変っぷりに思わず口からそう出てしまった。

「相川さんったら、びっくりしすぎてボケちゃったの?私は正真正銘、《超高校級の動画投稿者》霞ヶ峰麻衣子よ」

口調も纏う雰囲気もさっきとは全く違う霞ヶ峰さん。喋り方が違うだけで人はこんなに印象が変わるのか、と呑気に考えてしまった。

「麻衣子、なのか………?」

「それにその口調どうしたのー………?」

「さっき柴崎くんが言った通りよ。これが素の私。今までの私は………そうね、彼の言葉を借りるなら『仮面を被った偽りの私』ってところかしら?」

髪の毛をかき上げながらそう言う彼女。その仕草が………とても大人っぽく見えてしまう。ただ語尾にござるを付けなくなっただけなのに、どうしてこうも別人に思えてしまうのだろう。

「ふーん。それがあなたの本性ですか。で?今までずっとそれを隠してた理由はあるんですか?」

「それは勿論あなた達に怪しまれない為よ。バカでハイテンションなキャラを演じておけば警戒されにくいでしょ?このバカに殺人トリックを作るのは無理だしそもそも殺人なんてしないだろう、ってね」

「つまり貴方は、虎視眈々と誰かを殺す機会を待っていたという訳ですか」

「その通りよ。それに誰が敵で誰が味方かしっかり見極める必要があったから慎重に行動してたの。私がヒーローになる為にね」

「だからそのヒーローってのは何なんだよ!?オレにはさっぱり理解出来ねえ!」

「それはそうよ。だって黒瀬くんは人生の中でずっと目立ってきた存在、言わば陽キャって奴でしょ?日陰者の私の考えなんて理解出来る筈がないもの」

「………?」

「ほらピンと来てないじゃない。あのね、あなたみたいな人が目立つ一方で、目立ちたくても目立てない人間もたくさんいるのよ。心の中ではもっと目立ってみんなからチヤホヤされたいって思っているけど、容姿が醜い、性格が悪い、他の人に人気を取られたみたいな理由で苦渋を味わってきた人達。私もそのうちの一人なの」

つまり彼女は………元々地味なグループに属しており、中学校とかでクラスの中心にいた人物のような人気者に憧れていた。そして分倍河原君と幸村さんという『悪』を排除することで全員から崇められる、いわば『ヒーロー』のような存在になりたかった、という事だろうか。

 

 

 

 

 

 

「だから私は分倍河原君と幸村さんを殺したの。(ヴィラン)を倒して全員から注目を浴びて英雄(ヒーロー)になりたかったから。動機はそれだけよ」

臆面もなくハッキリと言う霞ヶ峰さん。

「そんな…………そんな私欲の為だけにユキを殺したのカ!!」

それを聞いていたジャック君はまた霞ヶ峰さんの胸倉を掴む。

「そうよ。幸村さんには私がヒーローになる為の犠牲になってもらったの。………まあジャック君には少し悪い事をしたわね。それは謝るわ」

「そんな軽い謝罪で許されると思うのカ!!」

「はいはいそこまでカバ!!殴るのは禁止カバよー!」

ジャック君が激昂して殴ろうとしたその時、モノカバがそう言って謎のアームを出現させ、ジャック君を拘束した。そして口に猿ぐつわを噛ませた。

「…………!!っーーーーー!!!!」

「ほらほら暴れないカバ。ジャッククンはこのまま最後まで拘束させてもらうカバ」

「危ない危ない。危うく私の可愛い顔に傷が付くところだったわ」

危ないと言いながらも全く恐れる様子がない霞ヶ峰さんは拘束されているジャック君へ向かって、

「ジャックくん。私は確かに謝罪はしたけど、別にあなたに許して欲しいわけじゃないの。だって私自分のした事に対して後悔してないし、なんなら実はそこまで悪いって思ってないから」

「っ!?っーーーーーーー!!」

ジャック君はますます暴れるが、きつく拘束されている為身動きは取れない。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ全部バレちゃった事だし、聞きたいことがあったら答えてあげるわ。どうせ今から死ぬんだし」

自分の席に戻った霞ヶ峰さんはさっきと同じように髪をかき上げながらうちらを見渡す。

「ではワタシからいいかね?」

まず手を挙げたのは明智さんだった。

「お、流石は探偵。好奇心旺盛じゃない」

「キミが分倍河原剛クンと協力関係を結んだ経緯についてだ。それは……」

「あら。その話ならあなた達の言う通りよ。私、分倍河原君が銀山さんを襲ってるところ見ちゃったの。だからその時点で私は彼を脅して協力させる計画を思いついたわ」

明智さんを遮り、あっさり彼女はそう答えた。

「誰も聞かないから聞きますけど…………あなたもしかして、『絶望の残党』ですか?」

次に業ちゃんが質問したが、その内容に全員が表情を変化させた。

…………正直、うちもその考えが頭によぎっていた。そしてそれが正解であって欲しいと願っていた。

霞ヶ峰さんが分倍河原君と同じ『絶望の庭』所属のスパイであり、仲間である分倍河原君と協力してこの事件を作り上げた。これなら話の筋は通るし、何よりこんな残酷な事が出来たのは、彼女が『絶望の庭』のスパイだから、と納得する事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ………そうね。あなた達は私がスパイであった方が都合がいいわよね。…………けど残念。私は『絶望の庭』の所属じゃないし、そもそも絶望の残党ですらないわ。つまりただ巻き込まれただけの被害者よ」

しかし、霞ヶ峰さんからの返答はうちの期待を裏切るものであった。

「嘘、だよね………。じゃあ麻衣子さんはスパイとか絶望の残党とか関係なしに人を殺したの………?」

「そうよ万斗君。今回の事件は、ただの高校生が二人殺したなんの面白みもない事件よ」

「………キミが高校生なのは理解した。ではキミと分倍河原剛クンにどのようなやりとりがあったのか。それについて教えてくれ。ワタシはそれが気になってしょうがない」

明智さんは再び霞ヶ峰さんに質問する。

「妙なところを気にするのね。………まあいいわ。長話するのは嫌いだから手短に話すわね」

彼女はまた髪の毛をかき上げる仕草をすると、一から話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………ふふ、見ーちゃった」

「…………!!」

私が散歩がてら園内を歩き回ってる時、偶然ミラーハウスの扉が半開きになってるのに気がついたのよ。恐る恐る中に入ってみると、ちょうど銀山さんが分倍河原くんに襲われて倒れてるところだったわ。

彼、私に見られた時はかなりびっくりしてたけど、すぐ冷静になって私に近づいてきたわ。

「あァ、何でお前がここにいるんだァ?」

「何でって………扉が半開きになってたから?ちょっと気になってねー」

「半開き、だとォ………?俺様は確かに扉は閉めた筈だがァ………」

彼のリアクションからして、どうやら彼以外の誰かが扉をわざと半開きにしたのかもね。

「まあそんなのはどうでもいいなァ。どのみち見られたからお前も殺すんだし、大した問題じゃねぇよォ」

すぐに私の元へ向かって殺そうとしてきたわ。それはそうよね。私を放置しておくと銀山さん殺害の事実を喋ってしまうもの。ここで口封じの為に消すのが最善策よね。

「………いいのかしら?そんな事して」

「………あァ?」

けど私もしっかり警戒はしておいたわ。

「勿論私は無策でここに来たわけじゃないわ。事前にボイスレコーダーを武器庫から盗ってそれをポケットに入れておいたの。念のためそれをミラーハウスに入った瞬間からオンにしておいたから、今までの会話は筒抜けってわけ」

「…………」

「もしあなたが一歩でも前に出て来れば、この音声を他の全員に流す。そうすればあなたの犯行はすぐにバレるでしょうね。あ、それに大声も出すわよ。私の声のうるささ、あなたも知ってるでしょう?」

「………チッ、俺様を脅そうって訳かァ。いい度胸してるなァ。それになんだ、その薄気味悪ぃ喋り方はァ」

「あなたと同じ、本性を隠してたって奴よ。それとももしかして、前の喋り方の方がお好み?」

「どっちも気色悪ィが、強いて言うならまだ今の方がマシだなァ」

「あら、嬉しい」

「…………だがお前は甘ェ。俺様が死を恐れてないのを知ってんだろォ。もしここでお前を殺して俺様の犯行がバレたとしても痛くも痒くもねぇよォ」

「………ふふふ、あなた本当に嘘が下手よね。前の裁判で霜花さんが言った通り。本当はもう一度黒幕さんに満足してもらえる事件を起こして学級裁判を盛り上げて、そして黒幕さんに認めてもらいたいんでしょう?ならあなたはここで犯行がバレて犬死にするのだけは避けたいんじゃないかしら?」

「………!!」

「あら、もしかして図星だったかしら?」

「………テメェ………!!」

あの時の分倍河原くんの顔は凄かったわね。今にも血管が破裂しそうなくらい真っ赤になってたもの。

「ごめんなさいね。まさか当たってるとは思わなくて。あ、別に私あなたを煽る為にここに来たわけじゃないの。あなたとは協力関係を結びたいの」

「………あァ?」

協力、という言葉に彼はすぐ食いついてきたわ。

「私も殺したい相手がいるの。だからそれに協力してちょうだい。そうすればこの音声はすぐ破棄すると約束するわ」

「………俺様が協力するメリットはァ?」

「私も誰かを殺せば連続殺人になって事件はより複雑になる。そうすれば学級裁判はもっと盛り上がると思うわ。これはあなたにとって願ったりかなったりじゃないかしら?」

「……お前が殺人を犯す目的は何だァ?」

「ソイツが憎いから。それ以外に理由は必要?」

「もし真相を暴かれたらお前は死ぬぞォ。それでもやるつもりなのかァ?」

「別に私ここから出たいわけじゃないもの。あなたと同じでバレてもダメージは無いわ」

「………………へッ、お前も相当狂った女だったってわけかァ。面白れェ、その提案乗ってやるよォ」

「物分かりが良くて助かるわ。じゃあ交渉成立ね。時間もないし、早速始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふー、手短にって言ったのに随分長く喋っちゃったわ」

分倍河原君との間にあった出来事を話し終えると、彼女は深くため息をついた。

「そういう事か。これで合点がいった。協力関係にあったという話が出た時からどうしても疑問に残っていたんだ。感謝するぞ、霞ヶ峰麻衣子クン」

「お役に立てたのなら何よりだわ」

うちらの予想通り、分倍河原君は霞ヶ峰さんに香織ちゃんを襲ったところを見られていた。霞ヶ峰さんはそれを交渉材料として分倍河原君と手を組むことにしたんだ。

「ちょっと待って下さい。あなたは偶然分倍河原剛の犯行を見たって言いましたけど、ボイスレコーダーを所持していた事はどう説明をつけるんですか?たまたまボイスレコーダーを持っていた、なんて言い訳は通用しませんよ。そんな事、普通あり得ませんから」

「ああ、それはね………。元々ボイスレコーダーは殺人トリックに色々役立つと思って事前に盗んでおいたの。ミラーハウスを覗いた時持ってたのは本当にたまたまよ」

「まさかそんな………。私が在庫チェックをした際にはボイスレコーダーもちゃんとあった筈です。いったい、いつ盗んだのですか………!」

霞ヶ峰さんと一緒に見張りをしていた霜花さんが信じられないといった様子で尋ねる。

「さあ、それはどうしてでしょう?これについては約束もあるし教えられないわ。悪いけど自分で考えてちょうだい」

「約束………?」

悪いと言いながらも全くそうは思っていない表情を見せる霞ヶ峰さん。

…………約束ってどういう事?

誰かが霞ヶ峰さんに協力したっていう意味なの?

 

 

 

 

 

  

「分倍河原君と手を組んだあなたは、彼に武器庫の武器を運ばせたりしたんだね。でも何でそんな事を?」

「ぶっちゃけ、剣以外の他の武器を持ち出させたのには深い意味は無いわ。ただ武器が沢山無くなればあなた達は混乱するんじゃないかって予想したのよ。一応は彼に学級裁判を盛り上げると約束しちゃったからねえ、事件を複雑にする為に色々動いてもらったの」

「貴方は初めから剛を切り捨てるつもりだったのですか?」

「勿論よ。だって私のターゲットは初めからあの二人だったんだもの。利用するだけ利用して油断したところで殺す予定でいたわ」

「分倍河原君のモノマネーをゼロにしたのは………」

「あれもあなた達の推理通りよ。一瞬モノカバのシステムにハッキングして分倍河原くんのモノマネーをいじったの」

「ムキーーー!!オイラの事をハッキングする輩がいるとは思いもしなかったカバ!!」

「高校生にハッキングされる程度のセキュリティにしてるのか悪いのよ。あっさり侵入出来て拍子抜けだったわ」

「そ、そんな事出来たのかよ………」

「これでも動画投稿者よ。ある程度機械に明るいのは当然でしょ?……まさか相川さんがその事を覚えてたとは思わなかったけど」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私からも聞きたい事があります。香織の事件についてですが、香織を斬った際に出た返り血を剛はどう対処したのですか?手を組んだあなたなら知っているのではないですか?」

今度質問したのは優月ちゃんだ。

「ああ、その事ね。別に難しい事じゃないわ。彼、銀山さんを襲った時、上は()()()()1()()だったのよ」

「インナー?」

「彼、ここに閉じ込められた時道着姿だったでしょ?けど銀山さんを襲う時は上を脱いでインナーを一枚着てただけだったのよ。だから血を浴びてもそのインナーを脱いで、道着を普通に着ればなんの問題もないってわけ」

「待って!でも分倍河原君の死体を見たけど、下にインナーを着てたよ!なら………」

「………道着の下に2()()インナーを着ていたのか」

うちが反論しようとすると、明智さんがそう呟いた。

………まさか。

「その通りよ。彼、なんでか知らないけど道着の下にインナーを2()()()()()の。だから1枚を血塗れにしてもあと1枚あるから、普通に着れば誰にもバレないでしょ?」

「じゃあ下は〜?下も白の道着だしー、血が飛んじゃったら結構目立つよねー」

「襲う前に裏返しにして道着を着たとかでしょう?そうすれば仮に血飛沫が飛んだとしても、また表に返して着ればバレません」

分倍河原君は血飛沫を道具で防いだ訳でも、衣類を洗濯した訳でもなかった。自分の身につけている物で返り血をバレないよう工作したんだ。

「では、その返り血をあびたインナーはどう処分したのですかな?」

「爆弾の近くに置いて爆発と一緒に処分したわ。私が協力してあげたのよ」

「道理で園内で見つけられない訳だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと聞きたいんスけど」

すると今度は柴崎君が手を挙げた。

「えー、もう疲れたわよ。こんな質問責めされるの久しぶりだし、もう勘弁してほしいわ」

「敗者にそんな事要求する権利なんてないんスよ」

「あら、手厳しい」

「改めて聞くッスけど………アンタ、何でこんな事したんスか?」

柴崎君の質問は非常にシンプルだった。

「ん?私の聞き間違いかしら。その質問にはさっき答えた筈だけど」

「聞き間違いじゃないッスよ。…………アンタはヒーローになりたいって言ってたッスけど、殺人を起こしてヒーローって明らかに矛盾してるんスよ。さっきアンタは人間の心理だから殺人起こしてもヒーローに見えるとかなんとか言ってたッスけど、この閉鎖空間でそんな理屈が通じる訳ない。それを分かっていながら何故殺人を起こしたか、って聞いてるんス」

「それさっき私が言っただろうが潰すぞカス」

「でもー、確かにそうだよねー。二人も殺して学級裁判を開いた時点でー、その人を凄いだなんて言うはずないもんねー」

柴崎君の説明に業ちゃんと独島さんが反応する。

「これは僕の憶測ッスけど、アンタは僕らの為に事件を起こしたんじゃないッスか?」

柴崎君は霞ヶ峰さんにそう問いかける。

「……………」

「はぁ?」

「どういう意味ですかな?」

「あのまま遊園地に閉じ込められていたら僕らは間違いなく餓死していた。だからまず殺人を起こして閉鎖空間から脱出させた。そして学級裁判で僕らを勝たせる。そして自分の命を犠牲にして僕らを助ける。このシナリオならアンタは僕らにとってヒーローになるッスよね?」

「え?じゃあヒーローになるって………二人を殺した事でヒーローになるんじゃなくて、殺人と裁判を起こしてうちらを勝たせて、そして生き残らせる事でヒーローになるって事なの?」

「そうッス。そうすれば多少はヒーローに見られるんじゃないッスか?まあ僕はそうは思わないッスけど」

「…………」

そう言いつつ霞ヶ峰さんをチラッと見る。霞ヶ峰さんは真顔で黙ったままだ。

「どうなんだよ麻衣子!!本当はオレらの為にこんな事したのかよ!?」

黒瀬君は必死に呼びかける。

それに対し彼女は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳ないじゃない。くだらない妄想も大概にしてもらえるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の返答は酷く素っ気なかった。いや、寧ろ怒りすら抱いていた。

「あなた達の為に二人を殺した?あんまり滅多な事言わないでちょうだい。何で私があなた達の為にこんな事しなくちゃならないのよ。そもそも私………あなた達の事()()()だし」

「ま、麻衣子さん………?」

霞ヶ峰さんは顔を歪ませ心底嫌そうな顔をしながら話を続ける。

「あーあ。このまま隠しておくつもりだったけど、柴崎君の気持ち悪い発言でつい本音が出ちゃったわ。いいわ、もうどうでもよくなったし、全部ぶちまけてやるわよ。………どいつもこいつも超高校級だから個性があってこんなクソみたいな空間でも生き生きしてて…………そして私より目立ってる。ずっと腸が煮えくり返るほどムカついてたわ」

「じゃ、じゃあヒーローになりたいっていうのは………」

「それは本当よ。ただ、私がヒーローになりたいのは()()()()()()()。外の世界でなの。私はあなた達みたいな()()()をここでまとめて退治して、外の世界でみんなから崇められるヒーローになるつもりだったの」

「なるほど、少しでも善人の可能性を信じた僕が馬鹿だったッスね。結局アンタは欲に駆られて人を殺した無能の大罪人って事ッスか」

「フン、さも自分は罪人じゃないみたいな言い方してるけど………私も含めてここにいる人間は全員()()()じゃない」

「………!?アンタ、なんでそれを………!」

霞ヶ峰さんの言葉に、この裁判で一度も余裕な態度を崩さなかった柴崎君が驚きと焦りの表情を浮かべた。

「大嫌いなあなた達をここで葬れるし、罪人であるあなた達を生贄に外に出てヒーローになれるし、私にとっては絶好のチャンスだったのだけれど……」

「ちょっと待てよ!?な、なんだよ。オレらが大罪人って。それに何で武史がそんなびっくりしてるんだよ」

話を続ける霞ヶ峰さんに対して黒瀬くんが慌ててそう聞くが、彼女はそれを無視し、柴崎君に対して話を続ける。

「情報を集める努力をしてるのがあなただけだと思った?私も結構頑張ったのよ。研究教室にずっと張り付いて入ってたファイルの解析をひたすらやって………。そうしたらとんでもない情報が出てくること出てくること。真面目に大学内を調査してたのが馬鹿に思えてくるくらいだったわ」

「情報?それって前霞ヶ峰さんが見せてくれた、うちら希望ヶ峰学園88期生の入学候補者の名簿の事?」

「相川さん、私に裁判で勝ったあなたがそんなすっとぼけた回答をしないでちょうだい。あんなのは大した情報じゃないわ」

やれやれといった表情で霞ヶ峰さんは呆れる。

「では霞ヶ峰殿は拙僧らが知り得ない情報を手にしたという事ですか。して、その情報とはどのようなものですかな?」

「そうね。まあ置き土産として最後に教えてもいいかもね。実は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはいストップカバーーー!!これ以上のネタバレは厳禁カバー!」

まさに霞ヶ峰さんの口から真実が語られようとしたその時、モノカバが話に割り込んできた。

「なんだよコラ!!邪魔すんなって!」

「ここでオマエらが全て知ったらこれから先つまんなくなっちゃうでしょカバ?だから詳しい内容を話すのはNGカバ!」

「ふざけないで下さい。麻衣子も私達も同じ参加者です。情報を知る権利はあるでしょう」

「それは霞ヶ峰サンが事件を起こす前の話カバー!けどこうして学級裁判が開かれて霞ヶ峰サンは負けたカバ!負け犬に口なし!!だから情報は霞ヶ峰さんの中に最後までしまっておくカバー!」

「め、めちゃくちゃだ!!」

「………だそうよ。残念だったわね」

「…このまま話さないつもりかね?それはこちらとしても大打撃になるな」

「でしょうね。けどまあ私にとってむしろ喜ばしい事だわ。だって大嫌いなあなた達に絶望を与えられるんだもの」

「………霞ヶ峰麻衣子クン。キミ本当は『絶望の庭』所属のスパイではないのかね?」

「いいえ。残念ながら違うわ。ごめんなさいね」

霞ヶ峰さんはうちらの知らない間に色々な情報を手にしていた。それをほとんど隠していたという事は…………端からうちらを嫌って味方だと思ってなかったって事になる。

彼女は………最初からうちらを殺そうと考えてたのかな。

だとしたら今まで彼女と過ごした日々は………一体なんだったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて!もう最後の交流は十分カバ!!そろそろお楽しみのオシオキと洒落込もうじゃないカバ!」

「オシ、オキ…………」

その言葉に身体中の血の気が引くのが分かった。

「あら、もうそんな時間」

「なんで…………なんでそんな冷静でいられるんだよ!?テメーはこれから死ぬんだぞ!!」

「だって私、もう未練がないんだもの。嫌いなあなた達に嫌がらせ出来たしもう満足だわ。外でヒーローになれなかったのは唯一の心残りだけど………まあ負けちゃったしこればっかりはしょうがないわね」

満足げな表情でうんうんと頷く霞ヶ峰さん。

「待ってよ霞ヶ峰さん!!こんな結末…………納得出来ないよ!!」

「あら、私を追い詰めたあなたがそれを言う?いじわるねえ、相川さんは」

「ち、違う!!うちはそんなつもりで言ったんじゃ………」

「ふふ、嘘よ。それくらい分かってる。あなたがバカみたいにお人好しだもの。あなたは私が説明不足である事を言いたいんでしょ?なら補足説明とお別れの言葉でフィナーレとしましょうか。それくらいいいわよね?モノカバ」

「え〜〜〜!?まだ続けるカバーー?もー早くしてカバー」

「麻衣子さん…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず補足説明ね。1点目は銀山さんの事よ。分倍河原君が銀山さんを狙った理由だけど、あなた達も裁判中言ってた通り、彼女が狙われたのは本当に偶然よ。あの時ミラーハウスを覗いたのがたまたま銀山さんだったから彼女が殺されただけ。つまり覗いたのが他の人だったらその人が犠牲者になってた筈よ」

「やっぱり香織ちゃんはたまたまミラーハウスの扉に気が付いたから…………」

…………香織ちゃんの生真面目な性格が彼女の命を奪う原因となってしまった。なんという皮肉だろうか。

「そして分倍河原君はちゃんと扉を閉めたにも関わらず何故扉が半開きになっていたのかだけど………。さっきも言ったけど、これは私達は全く知らないの。神に誓って言えるわ」

「となると開けたのは第三者だが………」

明智さんが顎に手を当て考え込む。

「名乗りでないという事は………やはり悪意ある行為という事になりますね」

「じゃあやっぱり『絶望の庭』のスパイの仕業かなー?」

「だとするとおかしくないですか?扉を半開きにすることにより誰かが様子を見に来る可能性は大きく高まります。分倍河原剛は見つからずに銀山さんを殺したかった筈だし、その行為はむしろアイツにとっては妨害になるんじゃないですか?」

「もしかしたら、『絶望の庭』は一枚岩ではないのかもしれません」

業ちゃんの言葉に優月ちゃんがそう返す。

「は?何言ってんですかあなた」

「同じグループではあるけど、仲は良くないという意味です。お互いに嫌いだけど、利害が一致しているから仕方なく手を組んでいる。そういったグループであれば、剛の殺人の妨害をしたのも納得出来ます」

『絶望の庭』同士は仲が良くない可能性がある。

………もしかしたらこの情報はとても重要なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「2点目は何故わざわざ幸村さんを転落死させたかについてよ。あなた達は裁判中不思議に思っていたわよね?手っ取り早く殺すなら爆殺すればよかったのに、何故犯人は幸村さんを殺すのに転落死を選んだのかって」

「………!!!!」

拘束されているジャック君が反応する。

「それはね…………、確実に見てもらいたかったからよ」

彼女はうっとりとした表情でうちらを見渡す。

その顔は、誰がどう見ても狂気的だった。

「………なんだよ、それ………」

「爆殺だと爆発のせいで死ぬ瞬間が見れないでしょう。でも転落死だったら人が死ぬ瞬間を直で見れる。私は大嫌いなあなた達に見せたかったの。『人が目の前で死ぬ』という事実をね」

「………!!!!!!!!!!」

狂ったように暴れるジャック君。

「何故幸村雪クンをターゲットにした?」

「幸村さんが一番()()だったからよ」

また彼女の表情が変化する。

「あの女は私が欲しい物を全て持っていた。唯一無二の才能、明るく大勢から好かれる性格、大切に想ってくれる異性の存在………。私が目立つ為にあの女はとにかく邪魔だった。目障りだった。だから殺したの」

「………狂っています。あなたは人間ではありません」

「………狂ってる?狂ってるのは私だけじゃない。あなた達もよ。だって私達は()()()()()()()()だもの」

「だからその大罪っていうのは何なんだよ!?麻衣子さん!!!」

「あなた情報屋でしょ?それくらい自分で調べたら?」

万斗君の必死の呼びかけに対して酷く冷たい態度で接する霞ヶ峰さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、最後に私からあなた達へ向けて少し意地悪なメッセージを送るわ」

「霞ヶ峰さん………」

「そんな悲しい顔しないで相川さん。反吐が出るわ」

醜悪な顔で吐き捨てるように言うと、席を離れて順番に回り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは北条さんね。………あなたはいい加減、自分の正体について話すべきなんじゃないのかしら?もう隠すのも限界でしょう?」

「………は?」

「私知ってるのよ。あなたの正体。あなたが慕ってる相川さんにも秘密を隠して接してるんだから、それってつまり相川さんを信頼してないって事でしょう?酷い人よね、あんなに愛情表現してるのに実は相川さんの事を疑ってるなんて」

「やめろ!!!!!それよりも何で私のことを………!」

 

 

 

 

 

 

 

「次に柴崎くん。あなたのせいで、学級裁判は負けるし本性をバラされるし散々な目にあったわ」

「それは良かったッス。僕アンタのあのハイテンションな性格鬱陶しくて嫌いだったんで」

「分倍河原くんにも言われたわそれ。本当に捻くれてるわねあなた達。………じゃあそんな柴崎くんに私から仕返し。『いつまでその演技続けるの?』」

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

「では今回も………」

 

 

 

 

 

 

 

「千野くん。私あなたの点てるお茶が嫌いだったわ。お茶嫌いの私でも飲みやすいように作ってくれたのだろうけど、普通にマズくてびっくりしたわ」

「………霞ヶ峰殿。拙僧は貴女が殺人を犯した事、無念でなりません………」

「あら、思ってもない事を言ってくれてありがとう。あなたも心の闇が徐々に漏れ出してるから気をつけた方がいいわよ」

「………なんのことでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「霜花さん。私あなたが仲間に入れてくれって言った時本気でキレそうになったわ。今まで私達にあんなに冷たく接してきて今更なんだよってね」

「………貴方の言う事は最もです。私は人の気持ちを考えず無理矢理貴方達の輪に入りました。不快な思いをさせてしまって本当にすみませんでした」

「まあその謙虚な姿勢は嫌いじゃないわ。………でも忘れないで。あなたの存在はいつか団結に亀裂を作るわよ」

「………分かりました」

 

 

 

 

 

「明智さん。あなたの余裕ぶった態度が嫌いだったわ。こんな非日常的な状況にいるのに、どうしてそこまで冷静でいられるのかしら」

「それはワタシがパーフェクトな人間だからだ。済まないな、完璧で」

「最後までムカつくわね、あなた。……そういえば私あなたの正体だけはどれだけ調べても分からなかったんだけど……まあどうせあなたも何か秘密を抱えてるだろうし、精々バレないように気をつける事ね」

「秘密を隠してるつもりはないが、忠告は素直に受け取っておこう」

 

 

 

 

 

 

 

「《超高校級の動画投稿者》である霞ヶ峰 麻衣子サンの為に………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャックくん。無様な姿ね。幸村さん一人いなくなっただけでこの有様。いい気味だわ。私を差し置いて目立とうとするからこうなるのよ」

「……………」

「ふふ、いい眼をしてるわね。精々この先私と幸村さんの亡霊に取り憑かれて苦しみなさい」

「………!!!」

 

 

 

 

 

「独島さん。あなたのその自由奔放な性格、嫌いだったわ。ひたすらマイペースで私の事振り回して………、特にあのジェットコースターは死にかけたわよ。もううんざりしちゃった」

「そう、なんだー………。ごめんねー色々迷惑かけてー…………」

「絶対思ってないでしょあなた。まあいいわ。あなたもどうせ地獄に来る事になるだろうし、仕返し出来る日を心待ちにしてるわ。独島さん図太いし最後まで生き残りそうだけど」

「あれー………?わたし地獄に行く事前提なのー?」

 

 

 

 

 

 

「黒瀬くん。あなたは私の対極にいた存在だし一番嫌いだったわ。イケメンで男気があって目立つ存在………。どれだけ私が頑張っても追いつけない存在で目障りで仕方がなかった」

「………………オレは………………」

「なのに…………一番嫌いだった筈なのに……………いざあなたと過ごしていると…………そんな気持ちを忘れちゃうくらい楽しかったの。………なんなのかしら、この気持ち。もしかしたら私、あなたの事…………」

「どういう事だよ、麻衣子………!ちゃんとハッキリ言ってくれよ!!オレバカだから分かんねーんだよ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「スペシャルなオシオキを用意しましたカバーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「万斗君。あなたにセクハラされた事、私は死んでも忘れないわ。あなたは他の人とは別の理由で嫌いだった。チビだし、性格も良くないし、そんな人間がこの私の体を触ってた事がもう気持ち悪いもの」

「うぅ…………そこまで言わなくても…………」

「ああ、その視線が気持ち悪いったらありゃしない。あなたのそのいやらしい視線、女性を傷つけてるって事をいい加減自覚した方がいいわよ」

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

「そして相川さん。あなたには色々世話になったわ。色々な意味でね」

「霞ヶ峰さん………。どうしてこんな事を………自分のやった事に対して後悔はしてないの………?」

「まさか。むしろ大成功だと思ってるわよ。ほら、現に今だって注目を浴びてる。今一番目立ってるのは私よ」

「あなたの目的はヒーローになる事じゃなかったの!?もっとみんなを笑顔にするユアーチューバーになるんじゃなかったの!?」

「ふふ、そうね。私はヒーローになりたかった。みんなから英雄と崇められたかった。けど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく考えたら私、ヒーローになんかなれないわ。だってここにいるのは、私含めて今すぐ極刑になってもおかしくない愚かな『罪人』だもの。罪人にヒーローになる資格なんて無いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では…オシオキターイム!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相川さん。苦しんで足掻いて、そして真実を見つけなさい。それが私達罪人に課せられた使命よ。………地獄で待ってるわ。また会いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GAME OVER

 

カスミガミネサンがクロに決まりました。オシオキを開始します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が連れてこられたのは、レッドカーペットが敷かれた見覚えのない廊下だった。

後ろは行き止まりで、前に道が続いているのみ。

特におかしな点は見当たらないわね。

………ある一点を除けば。

 

 

 

 

廊下の壁に付いている大量の液晶。

そしてそれに映る大量の人間を模したモノカバ。

成程。状況が飲み込めてきたわ。

私がオシオキされる、という内容の『配信』を『視聴者』がライブかなんかで見てる訳ね。

………動画投稿者らしい最後だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《超高校級の動画投稿者》霞ヶ峰 麻衣子

        処刑執行

 

 

 

 

【衝撃】命懸けの脱出ゲームやってみた     【学級裁判/オシオキ】

 

 

 

 

 

 

 

私がどうすればいいか分からず立ち尽くしていると、後ろにあった行き止まりの壁が動き出した。

そこにはさっきまでは無かった大量の針が付いている。

………串刺しにされたく無かったら走れって訳ね。

私は全力で前に向かって走り出す。

運動音痴な私の不恰好な走りを見た視聴者は既に爆笑している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると足元からから突然、鋭利な刃物が飛び出してきた。

なんとかギリギリで避けれたけど、少し傷を負ってしまった。

さっきのように全速力では走れないだろう。

モニターの視聴者の笑いは止まらない。

こんなんで笑ってもらえるなんて………ありがたい事ね。

続いて走り出すと、左右の壁から弓矢が飛んできた。

弓矢は私の両腕に抉っていった。

「痛っ……」

傷を押さえながら走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回転するノコギリ、毒ガス、炎の柱…………。

ダンジョンにあるような典型的なトラップが次々と私に襲いかかった。

私の体はもうボロボロだ。

辛うじて足を引きずっている状態で、後ろの針壁は着実に私の元へ迫ってきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると私のその姿に飽きたのか、視聴者から笑みが消え、批判的なコメントが飛び交うようになった。

低評価が高評価を上回り、俗に言う『炎上』状態となった。

「………視聴者って本当に身勝手よね」

私が苦しげにそう呟くと同時に、廊下に付いている大量の液晶が一斉に燃え始めた。

「動画が炎上したから機材も炎上って…………随分と攻めたエンターテイメントね」

火はたちまち燃え上がり、辺りは煙で包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぇっ…………!!」

煙をモロに吸い込んだワタシはその場で嘔吐した。そして地面に崩れ落ちる。

さっき吸ったガスも相まって体の自由が効かない。

意識が朦朧としている。

けど、その中で前方にある看板の文字は辛うじて読めた。

『この先出口!!』

「…………やっと…………出られる………!」

私は最後の力を振り絞って走り出す。外の光が見える。

こんな所から出て、外で私はヒーローになる!!

地獄のコロシアイからの唯一の生存者として崇められ、人気者になるわ!!

私は必死に地べたを這いつくばりながら、出口へ向かって手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けど、その手を落ちてきた瓦礫が無惨にも潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?」

自分の手が潰され呆然としている私の上に、勢いよく燃え上がった液晶が大量に落ちてきた。

動けなくなった私に直撃したそれの火が私に燃え移るのに時間はかからなかった。

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああ!!!!!!!!!」

あっという間に火だるま状態となり、遠くなる意識の中で私が最後に覚えた感情はこれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、大勢からの視線を浴びるってこんなに気持ち良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノカバ「カバカバカバ!エクストリーーーームカバ!!!!炎上を恐れずに活動してきた動画投稿者が、最後は自身が炎上して終了なんて、最高の笑い話カバーーー!今夜はお酒が進みそうカバー!!!」

燃え上がった霞ヶ峰さんを目の当たりにしながら大笑いするモノカバ。

「…クソッ!?なんでオレはこんなにも無力なんだよ!!」

「麻衣子さん…………」

「悪趣味にも程があります」

「何故、このような事を………」

…………処刑が終わった。

香織ちゃんを殺した分倍河原君と手を組み、その分倍河原君と幸村さんを常人には理解し難い理由で殺した霞ヶ峰さんは、焼死という無惨な最後を遂げた。

自身の罪を悔いながら死んだ中澤君とは違い、彼女は微塵も自分が悪いと思わず、うちらを嫌悪しながら死んだ。

それだけ聞けば同情のしようがない、極悪人のように思える。

それでもうちは………、どうしても彼女を恨む事が出来なかった。

同じ悪人と言える人物であった分倍河原君には、一時的ではあったが憎悪まで抱いていたのに。

 

 

 

 

 

 

「助手」

うちが下を向き歯を食いしばりながら泣くのを我慢していると、明智さんの声が聞こえた。

「間違っても自分のせいで霞ヶ峰麻衣子クンが死亡した、なんて思わないことだ。彼女は最初から狂っていた。ワタシ達ではどうしようもなかった。だから助手は悪くない。むしろワタシ達にとっては命の恩人なのだ。それを忘れないでくれたまえ」

「………だけど、やっぱり霞ヶ峰さんを追い詰めたのはうちだから。たとえ全面的に彼女が悪くても、全く責任を感じる必要はない、なんて割り切るのはうちには無理だよ」

「………やはりキミは優しいな。それでこそワタシが好きな助手だ」

帽子を深く被り直し、フッと笑う。

………慰めてくれたんだ。

「ありがとう、明智さん」

「謝意は受け取っておこう。だが何度もいうが、今回の裁判のMVPはキミだ。本来お礼を言うのはワタシ達なんだがな」

いつも通りの反応。

明智さんらしいけど、彼女の態度は今のうちにはとても心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

「凛。ありがとな。麻衣子を止めてくれて」

すると黒瀬君にも声をかけられる。

彼は………泣いていた。

「麻衣子は多分、ずっと悩んでたんだよな。だから本性を隠してオレらと接して、裁判終わったらあんなキレて………。でもオレはバカだからアイツを止める事が出来なかった。アイツが何思ってるのか全然分からなかった」

「黒瀬君………」

「なあ凛。麻衣子が最後オレに言ってた言葉………意味分かったか?」

「…………」

意味は………なんとなく理解出来た。

彼女は恐らく黒瀬君に…………

「恋してたんだよー」

「独島さん」

すると独島さんが少し嬉しそうに答えを言った。

「一番嫌いな相手だったけどー、実際喋ってみたらとってもいい人でー、マイナスの感情が吹き飛ぶくらい一緒にいて居心地がよくてー、気がついたら黒瀬くんの事好きになっちゃったみたいな感じじゃないのー?」

「………やっぱそうなのかよ………薄々感じてたけどよ………」

黒瀬君は頭をくしゃくしゃにしながら唸った。

「霞ヶ峰さんは自分でも認めたくなくてずっと黙ってたんだしー、気づかなくても仕方ないと思うよー。でもよかったねー」

「………何がいいんだよ………!最後まで気がつかなかったんだぞ………!」

「最後には気づけたんでしょー?良かったじゃんー。だってー相手に気づかれない恋ほど残酷で儚いものはないよー」

独島さんはそっと黒瀬君の背中を叩く。

「霞ヶ峰さんが自分に向けてくれた気持ち、無駄には出来ないでしょー?ならまた明日から彼女の分まで頑張ろうよー。霞ヶ峰さんもきっと、黒瀬くんのこと応援してくれてるよー」

「………ああ。アイツのしでかした事を許すつもりはねーけど、それでもこんなオレに好意を向けてくれたアイツの為にも、オレは前を向いて歩かなくちゃいけねー。バカなオレでも分かったよ」

独島さんのおかげで黒瀬君は前を向けたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カバーー!そういえばジャック君の拘束を解くのを忘れてたカバ。もうオシオキも終わったしちゃんと解放してあげるカバ」

モノカバはそう言うと、ジャック君の猿ぐつわを外し、拘束から解放した。

「………………」

ジャック君は、処刑の光景を写していたモニターとモノカバを睨むと、エレベーターに向けて歩き出した。

「ジャック君!!」

うちは何も言わずに去ろうとするジャック君に声をかけた。

「………………」

ゆっくり彼は振り返る。

彼は今、恐らく相当精神的に辛い筈だ。絶望に打ちひしがれて、自殺を図ってもおかしくない。

だからこそ心配になって思わず声をかけてしまったのだけれど………。

彼の眼には闘志のような物が宿っていた。

「あのね、その…………」

「心配は無用ダ」

言い淀んだうちに対して、ジャック君はいつも通りの素っ気ない口調で返した。

「俺は貴様が思ってるような事にはならなイ。………もう後ろは振り返らなイ。アイツの遺志を継いで前へと進ム。俺に声をかけるくらいなラ他の奴らを心配するんだナ」

そう言い残すと、さっさとエレベーターに乗り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

   

「ジャックくんー、思ったより元気そうだよー。良かったねー相川さんー」

独島さんはいつもより控えめな笑顔を見せると、続いてエレベーターへと向かう。

「一番キツいジャックがあんな風に言ってるんだ。オレも負けてられねーな!」

「今回犠牲になった人達の分も生きていかないといけませんね」

黒瀬君と優月ちゃんも前向きな意見を残して歩いていく。

けど、全員がそうではなかった。

「…………」

「ボク、今日はもう帰るね………」

「凛さん。私ももう戻ります。ごめんなさい、一緒にいれなくて…………」

千野君、万斗君、そして業ちゃん。この三人は暗い顔だった。

霞ヶ峰さんの言葉が原因なのは明らかだ。

彼女の言葉について詳しく聞きたい所ではあるけど、今は聞けそうにはないし、そんな無粋な事をするつもりもない。

「助手よ、いくぞ」

「ふぅー、今までの裁判の中で一番楽しめたっスね。大満足とまではいかないッスけど、いい余興になったッス」

この二人に関してはいつも通りだ。慣れているのか、それとも霞ヶ峰さんに対して何とも思ってないのか………。前者である事を祈る。

うちも泣きそうになるのを堪えて、エレベーターに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相川サン」

部屋に戻ろうとすると、柴崎君に声をかけられた。

「………何?今あんたと話す気分じゃないの。次不謹慎な事言ったらぶん殴って………」

「今から僕の研究教室に来て欲しいッス」

「………え」

また最低な事を言い出すかと思いきや、彼の口から出たのは意外な言葉だった。

「前話した事、覚えてます?アンタに僕の知ってること全部教えるって話」

「それは聞いたけど………あれは嘘なんじゃ………」

「嘘じゃないッスよ。出来るだけ早くアンタの耳に入れておきたいで今声かけたんス」

「………何を企んでるの?」

思わず警戒心を強めるうちに、柴崎君は呆れ果てる。

「別に取って食おうってわけじゃないんだから、そんなに警戒しなくても………。はぁ、分かったッス。じゃあもう一人呼ぶッス。それなら一対一より安心でしょ?」

もう一人………?まあ三人なら大丈夫かな………。

「……分かった。誰を呼ぶの?」

「霜花さんッス」

「何で優月ちゃんなの?」

「あの人が一番信用出来るッスから」

そう言うと柴崎君は、素早く優月ちゃんに向けてメッセージを送った。

何で優月ちゃんなんだろう…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B棟 才能研究棟 超高校級の歴史学者の教室前

 

 

「で?こんな所まで私達を連れてきてなんの用ですか?」

そんな訳で才能研究棟まで来たうちら。

うちを守るように歩いてきた優月ちゃんが柴崎君を睨む。

「もし貴方が凛を殺すつもりなら、私は全力で抵抗します。それで痛い目にあっても責任は取れませんよ」

「そんな事しないッスよ。どんだけ信用ないんスか僕」

あると思ってる方が驚きだ。

「じゃあどうぞ入って下さい」

柴崎君はドアを開けて中に招き入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

中は非常にシンプルだった。

イスと机が一個ずつ。それに本が詰め込まれた本棚。それだけだ。

研究教室にしてはとても質素だと言える。

「イス一個しかないでどっちかしか座れないスけど」

「凛が座って下さい。私は立っています」

「え…でも………」

「今一番疲弊してるのは間違いなく凛です。私の事は気にせず、どうぞ座って下さい」

「………ありがとう」

優月ちゃんの優しさに感謝して座ることにする。

柴崎君は机に座り、優月ちゃんはドアにもたれかかる形をとった。

「さて。早速色々話したいと思うんスけど………」

そう切り出した柴崎君は、何故かうちを見た。

「相川サン。泣きたかったなら今泣いていいんスよ」

「………え?」

予想だにしない言葉に思わず聞き返す。

「さっきからずっと我慢してるんじゃないんスか?ならここでバーっと泣いちゃえばいいと思うんスけど。それに泣くのを我慢しながら聞かれてもこっちが困るんで」

「…………でも…………」

「はいそういうのいいんで。アンタには泣く権利、十分あると思うッスよ」

「私も武史に同意です。それに一人で抱え込んで泣くより、人がいる前で泣いた方がスッキリしますよ。経験した私が言うので間違いないと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言われた瞬間、うちの涙腺は崩壊した。

「うぅ………。うわあああああああああああああああ!!!!」

「凛………!」

予想以上の声だったのか、優月ちゃんが慌ててうちの背中をさすってくれる。

「大丈夫です。私が居ますから」

「また………また友達を守れなかった…………!!」

「………そうですね。でも、私は生きています。貴方のおかげで、多くの命が救われたんです」

「香織ちゃん…………!!幸村さん…………!!分倍河原君…………!!霞ヶ峰さん………!!うわあああああああああああああああああああ!!!」

私は、涙が枯れる程泣いた。

自分の無力さ、不甲斐なさに対して。

そして四人の命が失われたことに対して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気は済んだッスか?おーおー、凄い顔ッスね相川サン。写真撮っていいッスか?」

「こっち見んなバカ!写真撮ったらしばくから!!」

「凛。大丈夫です。泣き腫らした顔も十分可愛いですよ」

泣いた後のブサイクな顔をニヤニヤしながら見る柴崎君と慰めてくれる優月ちゃん。

やっぱ一人で泣いた方がよかったかも。

「で!もういい加減何を話してくれるの!!」

「じゃあ本題に入るッスね。まずは………僕の正体を明かすところからッス」

慌ててそう言ったうちに対して、柴崎君はあるバッジを自身のポケットから取り出すと、それを襟に付けた。

その紋章は………見覚えがあった。

「それって…………!」

「貴方、もしかして………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介するっすけど、僕は『未来機関』所属の高校生、柴崎 武史。希望ヶ峰学園に調査の為潜入した未来機関のエージェントっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘、でしょ………?」

「貴方、未来機関の人間だったのですか………!?」

「そうっす」

柴崎君のカミングアウトに開いた口が塞がらない。

あの柴崎君が………未来機関所属だなんて。

「じゃ、じゃあもしかして今までの態度とか言動とかって、全部演技だったりする………?」

「あーそれなんすけど…………詳しい事は後で話すんで、今は軽く流して貰えばいいっす」

面倒くさそうに彼は目を逸らす。

「いや軽く流さないでよ!?そこ色々聞きたいんだけど!?」

「それよりも真っ先に伝えたい事があるんすよ。…………北条 業についてっす」

「…………業ちゃん?」

業ちゃんの名前が出た事により、少しばかり場に緊張が走る。

「さっき霞ヶ峰サンが言ってたっすよね?『自分の正体を隠すのはやめろ』って。あの人は北条サンの正体を見破ってたからあんな事が言えたんっす」

「貴方も知っているんですか?」

「じゃなきゃこんな話しないっすよ。いいすか、今後あの女に近寄らない方が身のためっす。何故なら………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの女の旧姓は『不破 業』。希望ヶ峰学園予備学科の元生徒で、世間を騒がせた最悪の放火魔っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

LA001 相川 凛《外国語研究家》

 

 

 

MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》

⁇006 柴崎 武史《歴史学者》

MB007 霜花 優月《狙撃手》

MA008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》

MC009 千野 李玖《茶人》

MC010 独島 灯里《サブカルマニア》

 

 

 

 

015 北条 業 《希望ヶ峰学園予備学科生/放火魔》

MA016 万斗 輝晃 《情報屋》

 

MA018 明智 麻音《探偵》

 

 

 

 

残り10人

 

 

 

 

 

 

 

死亡者

 

 

MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》

→オシオキにより焼死

 

??003 喜屋武 流理恵《調理部》

→ガスによる一酸化炭素中毒で自殺

 

SA004 銀山 香織《棋士》

→分倍河原 剛により首を掻き切られ死亡

 

⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》

→中澤 翼により溺殺

 

⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》

→オシオキにより四肢と首を飛ばされ死亡

 

⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》

→学則違反により全身を剣で刺され死亡

 

⁇014 分倍河原 剛 《空手家》

→霞ヶ峰 麻衣子により学則違反となり、全身を剣で刺され死亡

 

MB017 幸村 雪 《激運》

→霞ヶ峰 麻衣子により転落させられ死亡

 

 

 

 

 

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