4章開幕です。
(非)日常編①
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「…………順調だね」
「………ああ。私達の計画は順調に遂行されている。世界が絶望に染まるのも時間の問題だ」
「………でもやっぱ凄いよあなたは。こんな大掛かりな計画を思いついて、それを実行に移せるなんて」
「………別に大した事はしてない。学友達に絶望の素晴らしさを広めていただけだ」
「………そっか。でも楽しみだね。計画が完全に完了した時…………」
「………ああ。私達は本当に
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「………これからどうするの?」
「………どうするもこうするもねえだろ。言われたことに従うだけだ」
「………でも、色々イレギュラーなことが起きてる。計画は破綻したのも同然じゃない?」
「………ふざけた事抜かすな。あんなのは想定内だろ。それに俺らはやるしかねえんだよ。途中で止めるなんて選択肢は最初からねえ」
「………そうだね。ここまで来たからには必ず成功させよう。
「………チッ」
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軟禁生活27日目
AM7:40 A棟 相川の個室
「ん………あれ?もう朝?」
目覚めたうちはゆっくりとベットから体を起こす。
…夢を見てた気がする。
確かその内容は…………………あれ?思い出せない。
「おかしいな?夢の内容を忘れるなんて事、今まで無かったのに」
まあ忘れるって事は大した内容じゃなかったって事だろう。
「よし、とりあえず着替えて食堂に行こう」
まだ半分開いてない目をこすりながら準備を始めた。
顔を洗いながら昨日の霞ヶ峰さんの言葉を思い出す。
『相川さん。苦しんで足掻いて、そして真実を見つけなさい。それが私達罪人に課せられた使命よ。………地獄で待ってるわ。また会いましょう』
彼女は一体、何を知ったのだろうか。
うちら全員が罪人………。
彼女の言葉を普通に捉えれば、うちらは何かしらの罪を犯した犯罪歴のある人間だと考えられる。
それとも、犯罪という程ではないけど何らかの罪を背負っているという事なのだろうか。
どちらにしろ、今ここで答えの出せる問いではない。
それを解く鍵は霞ヶ峰さんがいた研究教室にあるだろう。
他にも彼女は情報を掴んでいたみたいだし、脱出に必要な手がかりやこの大学の謎について何か分かるかもしれない。
後で行って確かめる必要がありそうだ。
「よし、今日も頑張ろう」
うちは頬を叩き気合を入れた。
「そういえば昨日の柴崎君の話、衝撃的だったな………」
完全に準備が終わって、さて外に出ようかとドアに向かう時ふと思い出した。
昨日の裁判後に彼に呼び出された時はびっくりしたけど、その後に聞いた話はそれを上回る衝撃をうちらに与えた。
話は昨日の裁判後、柴崎君が自分と業ちゃんの正体を明らかにした時まで遡る。
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「業ちゃんが…………予備学科生………?」
「しかも放火魔とは………。随分と大きな爆弾を投げ込んできましたね……」
立て続けに衝撃の事実を知ったうちと優月ちゃんは唖然とした。
「ちょ、ちょっと待って。じゃあなんで業ちゃんはうちらと一緒に連れてこられたの?それに柴崎君が未来機関の一員って事は超高校級じゃなくて………ええっと」
「どんだけ混乱してるんすか………。今から順を追って話すんでまずは落ち着いて下さい。ほら、ゆっくり深呼吸して」
柴崎君にそう言われ、うちは大きく深呼吸をした。
「………はー落ち着いた。こんなにあたふたしたの久しぶりだよ」
「私もかなり驚きました」
「まあ、それはそうっすよね。アンタ達絶対知らない情報だったと思うんで」
柴崎君は机から立つと、うちらを見ながらゆっくりと口を開いた。
「まず僕についてっすけど、僕はさっきも言った通り未来機関に所属する人間っす。スカウトされたのはちょうど希望ヶ峰学園からスカウトされた時っす」
「え?じゃあ柴崎君は元々希望ヶ峰学園に入学する予定だったの!?」
「そうっす。『超高校級の歴史学者』としてスカウトされたのは紛れもない事実っす。その後さらに未来機関に勧誘されて入ったんす」
「未来機関に入った理由はなんですか?」
「僕スパイみたいな陰で暗躍する仕事に憧れてたんす。未来機関は裏で動く仕事もあるみたいだったんで、速攻入る事に決めたっす。当時の僕は人生に退屈していて………、ああ、これは関係ない話っすね」
………柴崎君らしいな。
「それで晴れて僕は未来機関の一員になったわけっすけど、そこで最初に言い渡された任務が、『希望ヶ峰学園88期生の護衛とある予備学科生の監視』だったんす」
「その予備学科生って…………」
質問してはみたけど、誰を指すのかは容易に想像がつく。
「業、というわけですか」
「そうっす。あの女は数多くの建物を焼き、多くの人間を殺した悪魔っす。そんな女が予備学科とはいえ希望霞ヶ峰学園に入学するとなると、秩序が乱れて大変な事になる。だからその監視係として僕が派遣されたんすよ」
「業の罪に関して詳しく教えて下さい」
「あの女が初めて放火を行ったのは、小学一年生の時っす」
「小学………一年生………」
まだ小学校に上がったばかりの子供が放火をしたというのか。
「あの女は家にあった灯油を寝ている両親に浴びせ、さらにライターで両親と家に火をつけて燃やしたんす。当然両親は死亡。本人は逃げて無事だったっす。なんでそんな事をしたかなんすけど、近所の人の証言によれば、どうやら両親とその日大喧嘩をしたらしいんすよ。本人は何もないって言ってたらしいっすけど、それが引き金になったのは間違いないっすね。日常的に虐待を受けてたんじゃないかって説もあったっすけど、真相は未だ分からずって感じっす。その事件はあの女が殺したっていう明確な証拠が見つからないまま、事故として処理されたっす」
喧嘩しただけで両親を殺すなんて………。よっぽど不満がなければそんな行動には出ないだろう。
「そこからあの女は放火に快感を覚えたのか、建物に火をつける行為を繰り返したんすよ。しかも念入りに証拠隠滅をするという徹底ぶりっす。警察もまさか小学生が放火魔してると思わないし、証拠が無いから捕まえる事も出来ない。だから重要参考人として呼ばれるものの、捕まる事は一切なかったんす」
「今の話だけだと………とても希望ヶ峰学園に入れる人物とは思えないですね。………!!もしかして彼女の苗字が変わった事に関係が………!」
「その通りっす。さっきチラッと言ったっすけど、あの女の苗字は『不破』だったんす。けど何故か高校入学前には『北条』に変わってたんすよ」
「じゃあ、希望ヶ峰学園に入る為にそのタイミングで苗字を変えたって事?」
「両親が死んだ時にあの女は、どうやら叔母に引き取られたらしいんすよ。その時にも苗字を変える話はあったらしいっす。けど何故か本人はそれを拒否したんす。だから暫く苗字もそのままだったんすけどね………」
「とにかく、業ちゃんは自分が放火魔だとはバレずに予備学科に入学出来たんだね」
高校に入るまで数多くの放火事件を起こし、そして入学の際には特定されないように苗字を変えた。
それが今の業ちゃん………。
「そんな犯罪者が予備学科に入るとなると、本学科の生徒達が危険に晒される可能性がある。そう考えた未来機関は僕みたいな未来機関の下っ端を本学科の入学生として潜り込ませ、北条業から生徒を守り安全に学生生活を過ごしてもらおうとしたんす」
「そういう事ですか。私達を業から守る為裏から見守っていたというわけですね」
「そうっす。ちなみに僕の他にも未来機関所属の人間は複数送り込まれてるって話っすよ。誰がそうなのかは知らないっすけど」
「………と、まあ経緯はこんな感じっす。そこから高校時代については、アンタ達と同じで記憶を消されてるんで分かんないっす。はい、これで僕からの話は以上っす」
「…………え?」
さあ次はどんな話をするのかと待ち侘びていたうちらに対して柴崎君は、信じられない事に話を終わらせた。
「………冗談だよね。もしうちらの事からかってるならそこにある本の角で殴るよ」
「いやいや相川サン僕に対して暴力的すぎないっすか。別にもう喋らない、なんて言ってないじゃないっすか。質問があるなら受け付けるっすよ」
「なんだ、そういう事ね」
なら遠慮なく聞きたい事を聞かせてもらおう。
「まず聞きたいんだけど、柴崎君のその性格って演技なの?それとも素なの?」
「………最初に聞く質問がそれすか。もっと他の質問ないんすか」
思わず頭を抱えてしまう柴崎君。
似たような台詞を明智さんと初めて会った時にも言われた気がする。
「え?だって凄く気になるんだもん!!未来機関だったらあんなクソみたいな性格な筈ないし!」
「アンタは未来機関にどんな幻想を抱いてるんすか………。えーっと、その質問に対する答えとしては、『半分演技で半分素』っていう回答っすね」
文句を言った割にはあっさりと答えてくれる。
「半分、ですか?」
「僕が無能が嫌いなのは本当っす。なんか仕事を失敗しまくる奴とか見てると腹立つんすよ。同じ人間なのに何故普通の人間が出来ることが出来ないのかって。自分の邪魔するなら視界から消えろカスって常日頃から思ってるっす」
「手厳しいですね………」
「でも、それは普段心の中で思ってるだけっす。ここに来てからみたいに他人を侮蔑したり、死者を冒涜したり、コロシアイを楽しいだなんて発言したのは全部演技っす。なんでか分かります?」
「………他の生徒の輪から孤立する為ですよね?」
「お。元ぼっちの霜花さん大正解っす。クールぶって見事に輪から外れてたっすね」
「言わないで下さい………。恥ずかしすぎて顔から火が出そうです」
迷惑をかけない為にうちらにわざと冷たい態度をとって孤立していた過去がある優月ちゃんはすぐ答えが分かったみたいだ。
既に彼女の中で黒歴史化しているのか、恥ずかしさから顔を手で覆ってしまった。
「まあ僕は単純に、一人の方が行動しやすかったからなんすけどね。僕はここに来てからすぐ、自分が未来機関の一員である事を思い出したんす。そしてこの異常事態を切り抜ける為には、まずここの情報を集めなくちゃいけない。その為には一人の方が都合が良かったんすよ」
「でも最初はみんなと普通に話してたじゃん」
「最初は全員を観察したかったんすよ。参加者の中に敵勢力が混じってる可能性も考慮してたんで。どんな人間がいて誰が信頼に値するのか。それを見極めてたんす」
「じゃ、じゃあうちに今まで酷いこと言ってきたのは………!」
「どこまでも踏み込んでくる相川サンを遠ざけたかったからっす。あの成長うんぬんもアンタが僕を気味悪がって近寄ってこなくなるように言ってたんす」
「うちになんだかんだ言って助言をくれたのは………!」
「それは僕も当然裁判を生き残って黒幕を捕まえなくちゃいけないからっすよ」
「喜屋武さんの事件の時、喜屋武さんの死体を吊ったのは………!」
「分倍河原サンに好き放題させるわけにはいかなかったからっすよ。間違っても裁判が盛り上がる為、とかいう理由じゃないっす。喜屋武サンにはホントに悪いことしたと思ってるっす。吊る前に何度も彼女に土下座したくらいっすから」
「うちが飢えで苦しんでる時お菓子を恵んでくれたのは………!」
「被害者である超高校級の生徒を死なせるわけにはいかないからっすよ」
今までの常人には考えられない言動、行動は彼の演技だった。
それが分かった瞬間うちは、何故か安堵して
「良かった〜〜〜!」
まあまあ大きな声でそう言ってしまった。
「良かった?」
「だって柴崎君が普通の男子だって分かったんだもん。うちらの味方って事だよね?」
「まあそう考えてもらって結構っす」
「ほら!柴崎君頭いいし戦力になるよ!!また脱出に一歩近づいたね!」
「……アンタは疑うって事を知らないんすか?僕が嘘をついてる可能性は考えないんすか?」
呆れた、という風にうちを見る柴崎君。
「う〜ん………。でも柴崎君の目を見たけど嘘ついてなさそうだから大丈夫!」
「なんなんすかこの人………頭痛い」
なんでそこまで呆れられるか分からないけど、とにかく今は嬉しい気持ちで一杯だった。
「私からも質問していいですか?」
うちが喜ぶその横で、優月ちゃんが控えめに手を挙げた。
「はいどうぞ」
「何故この話を私と凛に打ち明けたのですか?私達がもし『絶望の庭』のスパイだったらどうするのですか?」
それはうちも聞きたかった。
なんでうちらを選んだろう。
「あーそれっすか。それはアンタ達がスパイでない可能性が極めて高いからっす」
「根拠はありますか?」
「僕の観察の結果っす。前にも言ったっすけど、僕心理学かじってるんすよ。だから誰が何を考えてるか、ある程度は分かるっす。………相川サンは裁判での活躍、そして普段の団結を図ろうとするスタンスからしてスパイの線はないと判断したっす。それにアンタ演技下手そうだし」
「うぅ………味方認定されたのに嬉しくない………」
「霜花さんは2回目の裁判のいざこざの時、本気で相川サンに感情をぶつけてたっす。あんな心の底から感情を曝け出すような真似したら目立つに決まってるっす。スパイは潜まなくちゃいけないのにそんな行動に出たって事は、スパイである可能性は低いって事なんすよ」
「………なるほど。確かにそれはそうですね………」
………よく考えれば、分倍河原君も正体を表す前は寡黙であまり表に出るタイプではなかった。
「納得してくれたっすか?」
「ええ。説明感謝します」
「なので、この話は他言無用でお願いするっす。もし話が漏れたら………分かってるっすよね?」
「なんで脅迫してくるの!?」
不気味に笑う柴崎君。
なんだか最初に会った時を思い出す。
こんな風に彼がボケてうちがツッコむ感じ。
「………もうこんな時間か。そろそろまずいな」
すると柴崎君がカバフォンを見て小さく呟いた。
「ん?どうしてまずいの?」
「………アンタ達に提案があるっす」
うちの問いをスルーすると、柴崎君は至って真面目な顔でこちらを見た。
「このコロシアイを終わらせる為に僕と組んで欲しいっす」
「組む………ですか?」
「情報を集めるまでは一人で出来るっすけど、全員にコロシアイをさせないとなると僕一人では無理っす。実際昨日まで極力犠牲者を出さないよう裏で色々工作してきたっすけど、全部失敗したっす。だからアンタ達の手を借りたい」
「勿論だよ!!うちとしても柴崎君が協力してくれるんだったら大歓迎だよ!」
「まあアンタはそう言うと思ったっす。………霜花サン、アンタはどうっすか?」
何故かうちに対してため息をつくと、今度は優月ちゃんの方に顔を向ける。
「…………正直、私は貴方を完全に信用したわけではありません。ですが、私は凛を信用しています。だから凛が貴方を信じて協力し合うというなら、私に
異存はありません」
「優月ちゃん………ありがとう!」
「協力感謝するっす。じゃあ早速今後の方針についてなんすけど………。まず僕とアンタ達が協力関係にある事はまだ隠しておいて下さい。まだ潜んでる『絶望の残党』が誰なのか分かってない状況で話すのはリスキーでしかないんで」
「じゃあこれからも柴崎君は今までみたいにうちらに酷いこと言うし一人で行動するけど、それは全部演技ってことだね!」
「そうっす。僕は決して悟られないようにするんで、アンタ達もいつも通り僕に構わないで欲しいっす。特に相川サン、うっかり僕に今みたいに友好的に話しかけるとかやりかねないんで気をつけて下さいよ」
「も、もちろん!」
やばっ。柴崎君に注意されなかったらうち、普通に話しかけてたかも。気をつけないと。
「それとこうして集まるのは基本的には僕が召集をかけた時だけっす。頻繁に集まると誰かに悟られる危険性があるんで。何か有ればチャットでやりとりするっす」
「分かりました。チャットですね」
「新たな情報を仕入れたら逐一アンタ達に報告するっす。………役割としては、相川サンと霜花サンで表でコロシアイが起きないようにうまく全員をまとめる、僕は裏で色々情報を集めるって感じっす」
「分かった!」
「じゃあそろそろ解散するっす。長い時間一緒にいると勘付かれるんで」
「うん!」
うちらは協力関係を結び、コロシアイ防止に向けて一致団結して取り組む事になった。
「あ、そうだ。最後に一つ」
「ん?」
出ていこうとしたうちらに対して柴崎君はこんな言葉を残した。
「恐らく明日、千野サン、万斗サン、独島サンの3人がアンタ達に反発して別行動したいと言ってくるっす。それをどうにか出来るのはアンタ達しかいないっす。だから………頼んだっすよ、相川サン」
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正直、今まで何度彼に腹を立てたか分からない。
演技だとしても言い過ぎじゃないかって思う場面もあった。
だとしても、柴崎君がうちらの為に色々動いてくれてたという事実に喜ばざるを得なかった。
そして、何よりうちを頼りにしてくれている。
頼られたからにはそれに応えなければならない。
………うちも頑張らなくちゃ。
廊下に出ると、誰もいないせいかとても静かだった。
……前までは香織ちゃんがドアの前で待ってくれていた。
そして香織ちゃんとお喋りしながら食堂へ向かうのが日課だった。
その光景を見る事は二度とない。
「………香織ちゃん」
………また泣きそうになってきた。
昨日柴崎君達の前で泣いて、さらに自分の部屋に戻っても大泣きしたのに。
どんだけ泣き虫なんだうちは。
「……香織ちゃん。天国で見てて。うち、必ずここから無事に出るから。みんなと一緒に」
こぼれ落ちた涙を袖で拭き、食堂へと向かった。
1F 食堂
食堂へ入るとなんだかいい匂いが漂ってきた。
厨房を覗いてみると、優月ちゃんが忙しなく動いていた。
「優月ちゃんおはよう。ごめんねご飯作るの任せちゃって」
「おはようございます、凛。いえ、私が自分で言い出した事なので。凛が謝る必要はないですよ」
微笑みながらそう言うと、彼女はまた作業に戻った。
四人もいなくなり朝食当番の班も成り立たなくなってしまった為、班当番制度は廃止になった。
そして今後は各自で勝手に朝食を摂るという方針に決まった。
けど、いきなり明日の朝から自分で作るのは大変だという事で、優月ちゃんがみんなの分の朝食を作ると言い出したのだ。
これにはみんな驚いて、柴崎君でさえ
「……え?」
と聞き返したほどだ。
優月ちゃん曰く、
「今まで迷惑をかけてしまったお詫びがしたい」
との事だった。おまけに食材のお金も全て出してくれると言ってくれた。
その気持ちだけで死ぬほど嬉しいのに、こんな事までしてくれるなんて。
優月ちゃんには感謝しかない。
「てゆうか優月ちゃん、料理出来たんだね………」
「一人暮らしの期間が長かったので。一応一通りの料理は出来ます。まあ私は食にそこまで興味がないので味は美味しくないですが」
淡々とそう言う優月ちゃん。
一人暮らしか………。うち料理も出来ないし片付けとかしないから絶対無理だろうなあ………。
「うちも準備手伝うよ。何もしないまま待つのは申し訳ないし」
「ありがとうございます。ではそこの食器を取ってもらえますか?」
「これだよね?了解」
言われた通り食器を運ぶ。
「こういうの初めてです」
「………え?」
優月ちゃんを見ると、嬉しそうな表情で朝食をお皿に盛りつけていた。
「誰かと………食事を準備するなんて生まれて初めてで………なんだか楽しい気持ちになってしまいます」
「あれ?でも前話してくれたお師匠さんとは?一緒にご飯とか作らなかったの?」
「師匠は危険だからと言って私に作らせてくれませんでした。………私の事を心配してくれてたんでしょうけど、子供扱いされてると分かった今は少し腹が立ちますね」
師匠、めっちゃ過保護じゃん。
「誰かと何かをするのがこんなに楽しいなんて………。私がこう思えたのも全て凛のおかげです。本当にありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる優月ちゃん。
「そ、そんな!!うちは何もしてないよ!?」
「いえ、凛は私の人生を変えてくれた恩人と言っても過言ではありません。………凛に謝っても許されない事をした私が言う事ではありませんが」
「それはもういいの!!お互いに謝ったでしょ!そうやってうちに負い目を感じたまま接するのは禁止!」
「ですが………」
どうやら、うちとまだ対等な関係になったとは思ってないようだ。
うちは黙って優月ちゃんの目の前に拳を突き出した。
「………?」
「黒瀬君に聞いたんだけど、男子は友情の証として、お互いに拳を突き合わせる習慣があるんだって。あと嬉しい事があった時とかもこうするらしいよ」
「私達は男ではないですが………」
「それはいいの!!とにかく、うちと優月ちゃんが対等な友達だって証として、そして絶対に脱出しようっていう意気込みとしてやろうよ!」
早くしろという風に腕をブンブン振り回す。
言い出しっぺのうちが言うのもおかしな話だけど、正直、こういうノリはちょっと恥ずかしい。
「………貴方がそう言ってくれるのなら、私が応じない理由はありません」
しかし優月ちゃんは素直に、そしてとても嬉しそうに拳を出してくれた。
「必ず一緒にここを出ましょう。私は凛ともっと沢山話がしたいです」
「うん!!うちも優月ちゃんとここを出てしたい事いっぱいあるよ!だから無事にここを出よう!約束だからね!!」
そしてお互いに拳を合わせた。
AM8:15
「なんだこれ!?めっちゃうめーな!!」
「この食事、全てキミが作ったものかね?見事な出来栄えだ」
「ええ………。皆さんのお口に合うといいのですが………」
「凄く美味しいよ!!流石は優月ちゃん!」
「そうですか………。それは良かったです」
8時を過ぎると、柴崎君を除いた全員が食堂に集まり、優月ちゃんが作ったご飯を食べ始めた。
裁判の後だしもう少し集まりは悪いんじゃないかと思っていたけど、みんなちゃんと来てくれたみたいだ。
心配だったジャック君もいつも通り黙って食事を摂っている。
………しかし、来てはいるものの、様子が明らかにおかしい人も何人かいる。
正面に座る業ちゃんは空を見つめながらぼーっとしている。食事も全然進んでいない。
「業ちゃん?あんまり元気ないみたいだけど………大丈夫?」
「………!!は、はい!!全然平気です!むしろ凛さんに声かけてもらって元気100倍です!」
「………そう?無理しないでね」
「心配してくれてありがとうございます!………私は平気ですから」
そう言って食事を再開するも、手は止まりがちだ。
………やはり昨日の事を気にしているんだろうか。
霞ヶ峰さんに隠し事をしていると指摘された時の業ちゃんは、明らかに動揺していた。
業ちゃんが隠している事なんて………才能についてしか思い当たらない。
「…………」
そして千野君と万斗君、独島さんの三人が何故かうちらとは離れた席に座っている。
まるでうちらを避けてるみたいに。
「テメーら、なんでそんな遠くに座ってんだよ?ここ空いてるぜ?」
黒瀬君が近くの席を指すが、
「フン、うるせー」
「い、いや〜。わたしたちはここでいいかなー……」
「………」
万斗君はしかめっ面で、独島さんは誤魔化すようにそう言って目を逸らす。
千野君に至っては無視して黙々と食べ続けている。
…………もしかして。
「カバカバカバーーーーー!オマエらぐっとモーニングカバーーー!」
するとモノカバが床から思いっきり飛び出してきた。
「朝からうるせーんだよコラ!!!!」
「キミの声も大概だと思うぞ、黒瀬敦郎クン」
「おや、昨日あんな事があったのにほぼ全員集まって仲良く食事とは………、ん?どうやらそうでもないみたいカバねー」
完全に黒瀬君を無視したモノカバは千野君達を見てニタニタと笑う。
「それデ?貴様は一体俺達に何の用ダ?また新しい場所でも解放されたのカ?」
食事の手を止めたジャック君が鋭くモノカバを睨みつける。
「おや?もしかしてキミは昨日大事な幸村サンを殺されたジャッククンじゃないカバ?部屋に篭って泣いてなくてもいいカバー?」
「ちょっとそんな言い方………!!!」
「…………」
うちが思わず頭に血が上って言い返そうとした時、ジャック君がうちにやめろとジェスチャーする。そして腕を組み直すと、
「今貴様がどれだけ俺を挑発したとしてモ、俺はそれに動じる事は無イ。時間の無駄ダ。さっさと用件を言エ。それとも貴様はここで全く実りの無い時間を過ごしたいと願ウ頭のおかしいイカレた黒幕、というレッテルを貼られても構わないと解釈していいのカ?」
弾丸のようなジャック君の反応に、モノカバが一瞬無表情になる。そして、
「………うわー、ジャッククン超つまんないカバー!せっかくオイラがからかってジャック君が飛びかかって処刑されてみんな絶望に染まる、みたいな展開を期待してたのにカバー!」
「くだらン。俺がそのような思慮に欠けた行動を起こす筈がないだろウ」
昨日の裁判でそれに近い行動を取ってたよ、とツッコミを入れようとしたけどやめた。
それ言ったらメスで捌かれそうだ。
「カバー!!じゃあツマンナイジャッククンは置いといてー、まずは裁判を突破したご褒美カバー!もう気がついてる人もいると思うけど、モノマネーを20000円プレゼントしておいたカバー!」
「あーはいはいモノマネーね。分かったから」
「相川サン反応薄すぎカバ!?次は………新エリアの解放カバ!」
「ジャックの言う通りじゃねーか。んで?どういうとこなんだよ?」
「今回解放されたのはD棟、通称『芸術棟』カバー!!本大学最大規模を誇る図書館、美術室、音楽ホール、演劇ホールなどの芸術に関する全ての施設が詰まった棟カバー!」
芸術棟か。前回の遊園地に比べたら大学っぽいけど………。
「ふむ、芸術棟か………。非常に興味深いな。遊園地に比べたらこちらの方が遥かにワタシにとって有益だ」
「芸術全然興味ねーんだよな………まーあの騒がしい遊園地よりマシだな」
芸術棟への意見はそれぞれだ。けど、遊園地より良いという意見は共通している。………うちもそうだけど。
「カバカバカバ………オマエら絶対気に入ると思うカバ。さらにさらに………オマエらの才能教室がまたいくつか開いたカバよーーー!今回開いたのは、銀山サン、霜花サン、ジャッククン、独島サン、中澤クン、万斗クンの教室カバーー!」
「そんな所もあったナ」
「あれ?うちの教室は?」
「相川サンの教室はまだカバー!残念でしたカバー!」
ぶっ飛ばすぞ。
とにかく、これでまだ自分の才能教室が空いてないのは、うちと、千野君、飛田君、業ちゃん、幸村さん、明智さんだけになった。
「じゃあオマエら、今日もしっかり大学生活満喫するカバーー!」
モノカバはケタケタ笑いながら消えていった。
「芸術棟と才能教室だって。みんなどうする?」
うちはみんなに声をかけてみる。
「当然ワタシは行く。図書館とやらに興味を惹かれた。ワタシの知的好奇心を満たしてくれる場所であればいいのだが」
「わがままを言うようで申し訳ないんですが、私は自分の才能教室に行ってみたいです」
「オレは芸術棟とやらに行ってみるぜ。興味ないって言ってもやっぱ新しい場所は気になるからなー」
「俺は自分の才能教室を見に行ク。危険な物があるかもしれないからナ」
「私は………凛さんが行くところに行きます」
それぞれ行きたい所があるみたいだ。
けど、単独で行動するのはやっぱ避けたい。
「じゃあ、前みたいにペアか三人で行動しよう。そうすれば………」
「その事についてですが、拙僧から話があります」
うちがそう提案した時だった。
今まで沈黙を貫いてきた千野君がゆっくりと口を開いた。
「千野君………?」
「拙僧はこれから独島殿と万斗殿と三人でグループを作り行動する事にします。皆さんと行動する事はもうありません」
そう言い切る千野君。いつもの朗らかな彼の姿はそこにはなく、冷酷でかつうちらを仲間とは微塵も思ってない様子であった。
「ど、どうして!?今こそみんなで団結する時じゃないの!?」
「団結?………馬鹿馬鹿しい。相川殿、綺麗事を並べるのはもうやめて頂きたいですな」
「………え?」
うちの反論に対し、千野君は嘲笑しながらそれを一蹴した。
「拙僧は今まで相川殿の言葉を信じて皆さんを信じてきました。しかしその結果どうです?8人もの人間が死に、ここから出る手がかりは一つも見つかっていない。事態は全く好転しておらず寧ろ悪化している。……相川殿、あなたは一体今まで何をしてきたのですか?」
「ちがう………そ、それは…………」
「あなたの理想論の押し付けには正直もううんざりです。だから拙僧らは自分達で脱出方法を探ります。その方が遥かに生存できる確率も高まるでしょう。
それに皆さんの中にまだスパイが潜んでいます。誰がスパイであるか分からない状態で皆さんと一緒に行動するのも限界です。いつ殺されるかと怯えて過ごすくらいなら少数で動く方がましでしょう」
「そ、そんな………」
「テメーいい加減にしろよ李玖!そんな言い方はねーだろ!!凛はオレらの事を考えて色々やってくれてるんだぞ!」
「凛は私達の為に力を尽くしてくれています。それを悪く言うのは許せません」
黒瀬君と優月ちゃんがうちの為に怒ってくれる。
「何を言われようと拙僧は意見を変えるつもりはありませんぞ」
でも、彼はそれを聞き入れようとはしない。
「ふむ、
明智さんがカップを置き、千野君をじろりと見る。
「万斗殿も独島殿も多少考えは異なりますが、それでも拙僧の話に同感してくれました。二人も相川殿に対して思うところがあるという事ですな」
二人を見ると、万斗君は気まずそうに下を向き、独島さんは苦笑いをしながら視線を外す。
千野君の発言に嘘はないようだった。
「んー?あれ、アンタら今日も一緒に食べてるんスか。人が死んだ次の日なのによくもそう他人と仲良くしてられるッスね」
しばらく沈黙が続いた後、柴崎君が食堂に入ってきた。
「あれ?もしかして仲間割れッスか?微妙な空気が漂ってる気がするんスけど僕の気のせいッスかね?」
「………柴崎殿。よければあなたも拙僧達のグループに入りませんか?相川殿の団結や絆を強調するやり方をあなたは否定していたでしょう。拙僧らと組んだ方があなたにとってプラスになるのではないですかな?」
「グループ?」
楽しそうに笑う柴崎君に対して、千野君はニコリともせずそう提案した。
それに対して柴崎君は一瞬真顔になり、
「はあ?僕がグループなんか入るわけないじゃないッスか。アンタら無能と組んでも僕は何にも得しないんスよ。むしろストレスで禿げるッス。だから僕は勝手にやらせてもらうッスよ」
ムリムリという風に手を全力で振り断った。
………柴崎君の言動が演技だと分かっているうちでも軽くムカつくくらいうまい演技だ。
「………そう言うと思いました。あなたの様なじゃじゃ馬は拙僧らには扱いきれますまい」
「じゃあなんで聞いたんスか」
「物は試し、と言うでしょう」
そう言い残すと、千野君は席を立ち、食堂の出口へと向かう。
「待って千野君!!」
「相川殿。もう少し現実を見た方がいい。この場所に監禁された時点で、全員仲良くなるなんていうのは無理なのですよ」
そして彼は食堂を出ていった。
「凛さん」
万斗君も立ち上がって出口に体を向ける。
そしてうちの方を一瞬振り返ると、
「ボク、昨日麻衣子さんに言われてから気がついたんだよ。ボクのちょっとしたスキンシップや言動が女性のみんなにどれだけ不快な思いをさせてきたか。そして人間の抱える闇がどれだけ深いのかをさ。ボクはもう………人を信じられなくなってきた。みんなにいつか不快だと思われて昨日みたいに罵られるんじゃないかって考えたら、怖くて怖くてしょうがないんだ。だったらある程度信頼出来る少人数で行動した方がマシじゃないかって思うようになった。……だからごめん。ボクは君達と一緒にはいられない。仲間とか団結とか、今のボクには無理だ」
万斗君は再び背を向けると食堂から出ていった。
「みんなごめんねー」
そして独島さんも席を立つと、ごめんと手を合わせながら謝る。
「わたし千野くんの意見が全て正しいとは思ってないよー。でも間違った事も言ってないと思うんだー。相川さんのやり方、わたしは嫌いじゃないけどー、こんなに沢山の人がいなくなっちゃった以上ー、今までみたいに仲良くするだけじゃコロシアイは止まんないと思うよー。それにわたしー、千野くんに借りがあってさー、だから相川さんたちとは一緒にいれないんだー」
独島さんは駆け足で二人を追いかけるように居なくなってしまった。
「ふむ、これは中々厄介な事態になってきたな」
明智さんは顎に手を当てうぅむと唸る。
「アイツら、急にどうしちまったんだよ」
「ああなってしまうのも分からなくはありません。昨日の事件はそのくらい衝撃的でしたから」
困惑する黒瀬君に複雑な表情を見せる優月ちゃん。
「……フン」
ジャック君は腕を組み目を瞑った状態だ。
「…………」
いつもならキレてもおかしくないタイミングなのに、業ちゃんは変わらずぼーっとしたまま。
三人の離反。うちのせいでどんどんバラバラになっていく。
下を向き、悔しさから一度下唇を強く噛む。
「おやおや。相川サンのせいで友情崩壊しちゃってるじゃないッスか。大戦犯ッスね」
「武史。茶化すなら帰って下さい」
「はいはい。じゃあ邪魔者の僕はとっとと退散するッスよ」
注意された柴崎君は出口へ向けて歩き出す。
出て行く瞬間、チラッとうちの方を見た。
………どうやら、千野君達の様子がどうなったか気になって見に来てくれてたみたいだ。
彼の予想した通り、三人がいなくなってしまった。
しかもそれを知りながら止める事が出来なかった。
でも、それで諦めるうちじゃない。
「みんな、聞いて」
うちは残ったみんなに声をかける。
「確かに千野君の言う通り、うちは団結を深めて黒幕に対抗するとか、みんなと仲良くなってコロシアイを防ごうとか理想ばっかり言って、実際は何も成果をあげられなかった。沢山の人を死なせてしまった。それは本当にごめんなさい」
「でも………ここでうちらの仲が悪くなってそれぞれが単独で動くようになったら、それこそ黒幕の思う壺だと思うんだ。だからさ、全員が全員仲良くなろうとまでは言わないよ。もう一回だけでいいから協力して欲しい。これ以上の犠牲を出さない為に。そして策をしっかり考えよう。漫然と行動してたら駄目なんだ」
自分の思いを全て話す。
どの面下げて言ったんだって思われるかもしれない。
でも、うちはこうして言葉にすることしか出来ない。
「………私は貴方に命を救われました。だから貴方に恩返しがしたい。勿論協力させて頂きます」
「オレだって当然やるぜ!!これ以上黒幕共に好き勝手させてたまるかよ!」
「ふむ、ワタシも乗ろう。黒幕共の手のひらで転がされるのも癪だし、何よりワタシの可愛い助手の頼みであるならば仕方がない。黒幕が泣いて許しを乞う程の策をワタシが伝授してあげようではないか」
「俺も貴様の案に賛成ダ。ユキの為にも絶対に生き延びル。その為には他者と協力することが一番合理的ダ」
優月ちゃん、黒瀬君、明智さん、そしてジャック君が賛成してくれた。
「ありがとう………!!業ちゃんは、どうかな?」
恐る恐る業ちゃんに声をかける。
「………え!?ええと、私は大賛成です!!」
一瞬驚いた表情をした後、すぐ笑みを浮かべた。
「………ありがとうみんな。これ以上犠牲になる人を出さないように頑張ろう」
AM9:00 D棟
「うわー!?凄い規模だよ業ちゃん!」
「………え、ええ。そうですね………」
うちは目の前にある巨大な建物を見上げて驚きを露わにする。
業ちゃんは相変わらず元気がないけど、一応返事はしてくれる。
………今、うちらはD棟の建物前にいる。
あの後みんなで話し合った結果、前と同じくペアで探索をすることが決まった。
うちは様子のおかしい業ちゃんを誘ってペアを組むことにした。
業ちゃんは乗り気じゃなかったけど、このまま放っておくわけにもいかず、半ば強引にペアになった感じだ。
ちなみに他のペアについては、優月ちゃんと黒瀬君、ジャック君と明智さんが組む事になっている。
「どこから回る?うちはどこからでも大丈夫だけど………あ、でもうち音楽ホールから行きたいな。結構音楽聴くの好きだし。業ちゃんは芸術関連でなにか興味あるものとか………」
「凛さん」
「ん?」
「私に聞きたい事とかないんですか?」
「聞きたい事?」
うちが振り返ると、業ちゃんが立ち止まりこちらを見ていた。
「昨日霞ヶ峰麻衣子が私に言ってたじゃないですか。私が隠し事をしているって」
「うーん。別に隠し事くらい誰にでもあるし、悪意がなければダメじゃないと思うけどなあ」
「そういう事じゃないんです………!」
業ちゃんは首を振りうちの言葉を否定する。
「私はあんなに凛さんの事を好きだと言っておきながら隠し事をしていたんです。凛さんは私を友達と言ってくれたのに、私は凛さんを完全に信用していなかったんです………!」
泣きそうな顔をして訴える。
………そこまで悩んでいたなんて。
「………率直に聞くけど、業ちゃんはその秘密をどうしたいの?誰かに聞いて欲しいの?それともこのまま隠し通したいの?」
「そ、それは………凛さんに………聞いてもらいたいです………。これ以上凛さんに隠し事はしたくないです………」
途切れ途切れに自分の気持ちを口から出す。
「うちに聞いて欲しいんだよね?なら後でゆっくり聞かせてよ。それよりもほら!早く探索行こう!!」
既に業ちゃんの才能について知っている事は当然伏せておく。
うちは業ちゃんの手を引いて歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな軽い感じでいいんですか!?私が凛さんに隠し事をしていた事怒ってないんですか!?私が凛さんを完全に信用していなかった事に腹が立ってないんですか!?」
困惑している業ちゃんにうちはゆっくりと振り返る。
「あのね業ちゃん。さっきも言ったけど隠し事なんて誰でもあるの。だからうちはそんな事じゃ絶対に怒らないよ。もしそれがうちを裏切る為だとか殺す為の隠し事だったら流石に怒るかもしれないけどね。それに完全に信用出来ないっていうのも納得出来るよ。こんな状況だし」
「凛さん………」
「さっき千野君に言われちゃったけど、彼の言う通りこんな状況下で全員が仲良くなって完全に信頼し合うっていうのは無理があると思う。前までうちはそれを無理矢理そんな事ないって決めつけて行動してみんなにもそれを強制してた。本当に愚かだと思う。だからこれからはみんなに意見を押し付けない。完全にとまでは言わないけど一定の信頼を置いて一緒に脱出を図る。そんな感じでいきたいな」
そう答えると、業ちゃんはうちの顔をうっとりとした表情で見つめながら
「…………やっぱ好きだなあ」
何か言葉を口にした。
「え?」
「………いえ!凛さんは優しいなと思って!とにかくありがとうございますお陰で吹っ切れました!!凛さんに私の秘密を話してスッキリしたいと思います!じゃあ探索行きましょう!凛さんと久しぶりのデートです!!!」
聞き返したうちに対して業ちゃんは強引にうちの手を取り歩き始めた。
「き、急にテンション上がったね………。まあ元気になって良かったよ……」
不自然なテンションの上がり具合に首を傾げながら、うちは彼女に引っ張られるような形で建物へと向かった。
音楽ホール
「ここが音楽ホール………」
結局うちらは音楽ホールから探索することにした。
中に入ってみると、まず正面に見えたのは大きなピアノだった。
前方の舞台に設置されたそのピアノは、スポットライトに照らされ圧倒的な存在感を放っている。
そして入口から舞台の手前まで綺麗に並ぶ座席と明るい照明。
まさしくよくテレビで見る、クラシック音楽の演奏が催されるコンサートホールだ。
「凄いですね凛さん!!」
業ちゃんははしゃぎながら前方へと駆けて行く。
そして、「凛さーん!!こっちですよー!」と舞台前で大きく手を振った。
「うわっ!?声めっちゃ響くじゃんここ」
業ちゃんの声が響いて聞こえた事に驚きながら、うちも周りを見渡しながら舞台前へと進む。
怪しい物は特に無い、か。
それは舞台も同じであった。
「それにしても立派なピアノだなあ。誰かピアノ弾ける人いないのかな」
是非このピアノの音を聞いてみたかったんだけど。
「いなさそうじゃないですか?どいつもこいつもピアノ弾けなさそうな顔してますもん」
「どんな顔だ」
まあ言いたいことは分からなくはないけど。
とにかく、ここを利用する機会はあまり無さそうだ。
図書館
次にうちらが向かったのは図書室だ。
入口のドアを開くと、壁一面に広がる本がうちらを迎えた。
「何この本の数………」
「こんな量どこから用意したんですかね?軽く千冊くらいありそうですけど」
図書館は2階建ての木造建築であり、本棚と四方にある壁は本で埋め尽くされている。冗談抜きで千冊以上あるんじゃないだろうか。
エントランス部分は吹き抜けになっており非常に開放的だ。
天井にある洋風の照明からは柔らかな光が降り注ぎ、とてもゆったりとした空間を作り出している。
「貴様らカ」
「お、来たか助手」
閲覧用に設置されたテーブルに座っていたのはジャック君と明智さんだった。
大量の本とファイルを持ち込み読み漁っている。
「何か収穫はあった?」
「あるも何も収穫だらけだ。見たまえこの量を」
本を叩いて何故かドヤ顔をする明智さん。
「世界一探し物の上手いこのワタシなら、数ある書物の中から必要な情報を見つけ出すことなど造作もないのだ。褒めてくれても構わないぞ?」
「口より手を動かセ。そのお喋りの口を今すぐ糸で縫合してやろうカ?」
「おっと。これは失礼」
隣で黙々と本に目を通すジャック君に刺々しい口調でそう言われ、明智さんは作業に戻る。
………今は声をかけない方が良さそうだ。
けど、一応成果は聞いておいた方がいいのかな………?もしとんでもなく重大な情報だったら今耳に入れておいた方が………。
「心配するナ」
そんなことを考えていると、ジャック君が本から目を離しこちらを見た。
「後で情報は必ず共有すル。俺一人で独占したりはしないと約束しよウ。だから貴様らは安心して別の場所を探索するといイ」
「情報の公平性はワタシが保証しよう。その為にわざわざ二人で書物を漁っているのだからな。図書館の探索はワタシ達に任せて、キミ達は別の場所に行ってくれたまえ」
どうやらジャック君はうちらが情報の独占を危惧しているのだと考えたみたいだ。
そんなこと本当は微塵も思ってないけど、ここは素直に彼の言葉に甘えることにした。
「ありがとう!じゃあうちら別の場所行くね」
「そうです凛さん。ここはジャックさんとホラ吹き探偵に任せて次行きましょう」
あ。またそんな挑発じみた事言うと………
「…………………少し待ちたまえ北条業クン。訂正させてもらうがワタシはホラ吹きなどではない。天才探偵というのも本当だし、プリティーでみんなのアイドルで非の打ち所がない美少女なのも本当だ。そして………」
「………縫合の準備をしようカ」
「ま、待ってくれジャック・ドクトリーヌクン。ワタシの名誉を傷つけられたのだ。それを訂正するのは当然の………おい待て。どこからその針を出した。まさか本気じゃあるまいな?」
「ジャック君程々にねー。じゃあうちら別の場所行くよ。また後で」
「助手!?助けてくれないのか助手!?師匠のワタシがピンチなのに!?」
うちらが図書館を出る直前に聞こえた悲鳴はスルーすることにした。
美術室
「お、凛と業じゃねーか」
「二人ともご苦労様です」
美術室へ向かうと、黒瀬君と優月ちゃんのペアが探索していた。
それを見た業ちゃんがあからさまに嫌そうな顔をする。
「凛さん。別の場所行きましょう」
「今来たばっかだよ」
当然、その意見は却下する。
「ん?業いつもの感じに戻ってね?」
業ちゃんの様子の変化に気がついた黒瀬君が声をかける。
「戻ってますけど何か?ご心配おかけしましたね黒瀬さんではさようなら」
「心配しただけなのに態度酷くね!?」
相変わらず黒瀬君への当たりが強い業ちゃん。
「それにしてもここだけなんか中学校っぽいね」
音楽ホールと図書館は、大学どころか都内の一級地にあってもおかしくない綺麗な施設だった。
けどこの美術室は、田舎の中学の美術室みたいな感じだった。一言で言うととても古いのだ。
机はおんぼろだし、床とかも絵の具の痕があちこちに付いててお世辞にも綺麗とは言えない。
「モノカバが美術に興味がないからじゃないですか?」
「そんな私情で?だとしたら最悪じゃんアイツ………」
創設者としてあるまじきことだ。今すぐクビにした方がいい。
「凛さん」
そんな話をしてると、突然腕を引っ張られた。何事かと見ると業ちゃんが不機嫌そうな顔をしてこっちを見ている。
「凛さん早くここから出ましょう。これ以上脳筋男と人殺し狙撃手と一緒の空間にいたくないです」
「業ちゃん駄目だよそんなこと言っちゃ………」
「………ハァ。もう我慢の限界です」
「え?」
いつものように業ちゃんが口撃して優月ちゃんが悲しそうな顔をしながらそれを黙って受け入れる。その展開を予想してうちが止めようとしたけど………今回は違った。
「ちょ、ちょっと優月ちゃん?」
「凛。私は貴方の全員と仲良くなろうという提案には賛成ですし、今まで迷惑をかけてきたわけですから凛を含めた他の皆さんへの手助けや協力を惜しむつもりはありません。しかし、ここまで悪口を言われ拒絶されたならもう私から仲良くする義理はありません。私はこの人が嫌いです」
そう言い切る彼女の瞳にはメラメラと炎が燃え上がり(もちろんイメージ)、静かな闘気を感じた。
「はああああ?それはこっちの台詞なんですけど。お前みたいな殺人未遂無表情女仲良くなるどころか今すぐにでも殺してやりたいって思ってるんだよ私は。凛さんに死ぬかもしれない大怪我を負わせた女がなんで凛さんと会話なんかしてるんだよ身の程を知れクズが」
「その件については既に彼女とは和解しています。凛からも対等な友達でいようと言ってくれました。だから私は普通に凛と会話もするし一緒に行動します。貴方こそ他人に殺意を振り撒くのやめた方がいいですよ。貴方のその暴走で凛が胃を痛めてること分かっているんですか?私に粘着するくらいならもっと他人に愛想よく接して凛への好感度を上げた方がいいと思いますけど」
「粘着してねえよ人殺し。言葉で言わないと分からないんですか?凛さんは私のものだからお前みたいな野蛮な女は近づくなって言ってるんだよ。それに凛さんに粘着してるのはそっちだろ」
「その言葉そっくりそのままお返しします。私は凛に独占欲など抱いていません。ただ普通に一緒に過ごせたらいいと思っているだけです」
二人の口論はヒートアップしていく。駄目だ。このままだと殺し合いとかになってしまう。
「業ちゃんそこまで!はい次の場所行くよ!」
結果うちがとった行動は、無理矢理会話を中断させることだった。
業ちゃんの背中を押して出口へと向かう。
「ちょ、ちょっと凛さん!」
「優月ちゃんと黒瀬君!ここの探索任せるよ!」
うちはこっそり二人にゴメンと言い残し美術室を出た。
「テメーら、本当に仲悪いんだな………」
「…………ええ」
「優月、もしかしてめっちゃキレてる?」
「…………ええ」
「ま、まあ相性悪い奴もいるよな。探索、続けようぜ」
「…………ええ」
「ええ、しか言わないの怖いからやめろって!?」
演劇ホール
次にうちらが向かったのは演劇ホールだった。
あの後しこたま説教したので、業ちゃんは少ししょんぼりしている。
「あ」
「あ」
早速中へ入ると、ちょうど出てくるところであった万斗君と鉢合わせになった。
「ま、万斗君………」
「ご、ごめん」
万斗君は目を合わせずそう言うと、そそくさと立ち去ってしまった。
「…………」
「凛さん。あんな裏切り者のことは放っておきましょう」
辛辣な言葉を放ちホールに入っていく業ちゃん。
うちは万斗君の背中を無言で見つめていた。
みんなは万斗君がうちらの仲間ではなくなったと考えているみたいだけど、うちはそうは思っていない。
いつかちゃんと話し合いたいけど………。
演劇ホールの中はさっきの音楽ホールとほぼ同じ作りだった。
違うのはピアノがない事と、舞台装置がいくつかある事くらいか。
舞台装置の詳しい説明は裏の楽屋みたいな場所に貼られていた。
「へえー。舞台装置ってこんな風に使うんだ。初めて知ったよ」
「関係者でもないとこういうのに触れる機会は中々ないですもんね」
ワイヤーの動かし方とか下にある物を舞台に出現させるやり方とか、とにかく色々な操作説明が書かれていた。
「うちにはちょっと複雑すぎて無理かな………」
「役者もいないですし、ここを私達が使うことは無いと思います」
ここも音楽ホールと同じく、訪れる機会はほとんど無さそうだ。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
⁇003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
⁇006 柴崎 武史《歴史学者》
MB007 霜花 優月《狙撃手》
MA008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
MC009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》
⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
⁇014 分倍河原 剛 《空手家》
015 北条 業 《希望ヶ峰学園予備学科生/放火魔》
MA016 万斗 輝晃 《情報屋》
MB017 幸村 雪 《激運》
MA018 明智 麻音《探偵》
残り10人