ダンガンロンパ キャンパス   作:さわらの西京焼き

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大変長らくお待たせ致しました。
4章死体発見編です。



(非)日常編④

 

 

 

 

 

「……………………」

モノカバが去った後、教室は静寂に包まれた。

顔が青ざめる者、厳しい表情を浮かべる者、何かを考え込む者、周りを鋭く睨みつける者、不気味な笑みを浮かべる者。

表情や仕草は皆それぞれ異なるが、声を発する者はいない。

 

 

 

 

「拙僧はこれにて失礼します」

初めに動いたのは千野君だ。うちらに一瞥もくれず出口へと歩いていく。

「千野君………。あなたはこれからずっと1人で動くつもりなの?」

「拙僧らの中に紛れるスパイが全員いなくなるまではそのつもりです。何か問題でも?」

声をかけたうちに対して、彼は鬱陶しそうに答えた。

「それに今回の動機、どう考えても1人で行動した方が命の危険がありません。他人と手を組むメリットがまるでないのですよ」

「そんなこと………」

「もう結構です。あなたと話すと疲れる。拙僧に干渉しないで欲しいですな」

千野君は強引に話を打ち切ると教室を出て行ってしまった。

「ボクも1人で行動するよ。もう誰も信用出来ないんだ………」

「ま、万斗君!!」

千野君が出て行った後、万斗君もそう言い残すと早足で出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達も行きましょ、凛さん♪」

すると隣にいた業ちゃんが、うちの手をがっしりと掴んだ。

「………え?」

「あの男が言った通りです。こんな奴らと協力するメリットは1ミリもありません。私が凛さんを守ってあげる以上、凛さんは私を求めてくれるだけでいいんです。コイツらは凛さんには必要ないですよ」

「ちょ、ちょっと…………!」

業ちゃんは強引にうちを引っ張り出口へと向かう。

 

 

 

 

………違う。

みんなが必要ないだなんて………あるはずがない。

今まで業ちゃんを刺激しないように色々話を合わせてきた。

けど、やっぱりこの方法じゃ駄目だ。

この動機は全員で協力しないとまた殺人が起きてしまう。

「業ちゃん、待って!うちは………」

「凛さんの言いたいことは分かりますよ。一刻も早くここから離れて私と2人きりになりたいんですよね♪」

うちは必死に業ちゃんを説得しようとするが、彼女は聞く耳を持たない。

「違う!だから………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

「…………………」

突如業ちゃんの動きがピタッと止まった。

横に視線を向けると、優月ちゃんが業ちゃんの腕を掴んでいた。

彼女の表情は、これまでにないくらいの怒りに染まっていた。

「もう我慢の限界です。私達はいつまでこの茶番に付き合えばいいんですか?」

「………離せクソ女」

「その言葉、そっくりそのままお返しします。とっとと凛の手を離して下さい」

「………殺すぞ」

「やれるものならやってみては?貴方ごときじゃ私を殺すのは無理だと思いますが」

業ちゃんの脅しに対して優月ちゃんは挑発で返す。

いつも冷静な優月ちゃんがこんな態度を見せるなんて………。

「………もう忘れたんですか?あなた達は数日前に私に3対1で負けてるんですよ?それを1人でやってみろだなんて………本当に愚かで醜い生き物ですね」

「………前回は油断しましたが、今回はそうはいきません。御託はいいから早くやってみてはどうですか?」

「…………………殺す」

業ちゃんは怒りで強く歯軋りをすると、うちを掴んでいた手を離す。

そして懐からナイフを取り出す。

「凛さん。少し下がっていて下さい。…………前々から殺してやりたいと思っていたんだよ、お前は。凛さんを傷モノにしただけじゃ飽きたらず、凛さんに近寄り独占しようと企み、しまいには私と凛さんの邪魔まで………!お前が罪の呵責に苦しんでとっとと自殺すればよかったんだ!!!!!」

「………前も同じような話をしましたよね?確かに私は凛に許されないようなことをしました。ですがそんな私にも彼女は歩み寄ってきてくれた。こんな救いようのない私と友達になろうと言ってくれたんです。なら私は彼女のために、そして全員が脱出するために力を尽くすのみ。こんなところで死んでなんかいられないんですよ」

「死ねえええええええ!!!!」

「…………………舐められたものです」

ナイフを持ち一気に加速して突っ込む業ちゃん。

「待って!!危ない!」

思わず出たうちの叫びと共に、業ちゃんのナイフが優月ちゃんの体に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!!」

しかし優月ちゃんは冷静にそれをかわすと、手刀で業ちゃんのナイフをはたき落とし、彼女の体を掴むと背負い投げのような形で思いっきり地面に叩きつけた。

「ぐわっ!?」

「………一応私、軍にいたので。スナイパーですが最低限の護身術くらいは身につけているんですよ」

そう言って地面に業ちゃんを押さえ込む優月ちゃん。

「は、離せ!!!殺す!!殺してやる!!」

業ちゃんは必死に暴れ拘束を解こうとする。

細身の体からは考えられないような力だ。

「大人しくしやがれ!」

しかし、そこで黒瀬君とジャック君も加勢し業ちゃんの手足を押さえつける。

「………テメーマジでいい加減にしろよ。そろそろガチでキレそうだぜ」

「この獣ガ。いつまで好き勝手にするつもりダ」

「み、みんな………どうして………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「助手」

うちが目の前で起きている現状に呆然としていると、明智さんが隣に並んだ。

「あの後ワタシ達で色々考えたのだが、やはり北条クンの問題は助手1人に任せるべきではないという結論が出てな。こうして皆に働いてもらったというわけだ。…………済まなかった。キミ一人に重荷を背負わせるような真似をして」

「そんな…………!明智さんが謝ることじゃないよ!それに働いてもらったって………まるでこの展開になるのを予測していたような………」

「当然だ。ワタシを誰だと思っている。世界一聡明な探偵だぞ。どんな動機であれ、北条業クンが助手を強引に連れて出て行く展開など容易に想像がつく」

明智さんはうちに対して笑みを浮かべると、拘束されている業ちゃんの前へと進む。

「お、お前が凛さんを誑かしたのか………!この悪魔が………!!」

「………キミは本当に救いようがないな」

明智さんはしゃがみ込むと業ちゃんの顔をじっと見つめる。

「キミと初めて会った時、ワタシがキミに言った言葉を覚えているかね?『恋は盲目という言葉があるが今回のケースはまさしくそれだと言えるだろう。その少女も粘着質なキミに付き纏われてさぞ苦労しているだろうな』とワタシは言った。その言葉をもう一度繰り返そう。キミのしている行為、言動は重度のストーカーそのものだ。キミの勝手な妄想で助手の気持ちも考えず振り回し、そして他人にさえも迷惑をかけている。ハッキリ言おう。助手はキミを恋愛対象として見ているなんて事は絶対ない。妄想するのは自由だが、キミの脳内恋愛ファンタジーに周りを巻き込むのはやめてくれたまえ。非常に迷惑だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ふふ」

明智さんの言葉を聞いた業ちゃんは、静かに笑い出す。

「なるほど、そういう事ですか。凛さんは完全に洗脳されているんですね。あなたがさっきのような言葉責めで凛さんを洗脳したんですね」

「業ちゃん………!お願いだから話を聞いて!うちは洗脳なんてされてないし業ちゃんだって………」

「いいんですよ凛さん。私がいつか必ず凛さんの目を覚まさせてあげます………ふふ、凛さんと私は運命の赤い糸で繋がっているんですから……」

「おいおい、コイツマジでどうしちまったんだよ………」

業ちゃんの異常ともいえるその様子に、黒瀬君は思わず顔を引き攣らせる。

「考えるのは後ダ。それよりまずこの女をどうにかするゾ」

一方、ジャック君はあくまでも冷静に対処しようとしている。

しかし彼も業ちゃんの様子に驚きを隠せないように見えた。

「明智さん。ロープをお願いします」

「ああ。………助手。北条業クンは拘束する。彼女が精神的におかしくなっているのは明らかだ。話し合いで解決できる問題ではないことは、もうわかっただろう?」

「…………」

明智さんにそう問われ、うちは黙るしかなかった。

「………………これはキミのせいではない。もちろん今動いている彼らのせいでもない。全てワタシの責任だ。責めるならワタシを………」

「ううん。明智さんの責めるなんてとんでもないよ。むしろありがとう。うち、やっぱり甘かったみたい」

「…………」

うちの呟きに、明智さんは何も答えず、帽子を深く被り直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロープで縛られた業ちゃんは、黒瀬君とジャック君によってどこかへと運ばれていった。

「それで?キミ達がここに留まった理由は何かね?」

それを見送った明智さんが次に目を向けたのは、今の騒ぎをずっと傍観していた柴崎君と独島さんだ。

「いやー、僕も北条サンの処遇についてどうするのか気になってたんで観戦させてもらっただけッスよ」

作り笑いを浮かべて彼はそう答える。

内心、また一つ悩みの種が増えたと頭を抱える思いなんだろうけど。

「キミは今回も単独行動かね?またワタシ達を嘲笑いながら邪魔でもするつもりなら是非やめて欲しいものだが」

「いやいや、今回は別に僕もアンタ達に協力してもいいと思ってるッスよ」

「………実に怪しいな」

自分から協力を申し出た柴崎君に対して明智さんは警戒心をあらわにする。

「まあまあ明智さん!あの柴崎君が自分から言ってくるってことは、今回の動機も1人じゃどうにもできないってことを分かってるんだよ!だからここは協力してもらおうよ!」

「そうッスよ。好意は素直に受け取っておくもんスよ」

怪しむ彼女にうちは慌てて意見を述べる。

柴崎君がわざわざ協力を申し出るのには理由があるはず。

彼の考えは後で聞くとして、まずは柴崎君が動きやすいようにしてあげなきゃ。

「………まあいい。妙な真似をしなければワタシも文句はない」

「分かってるッスよ。じゃあ僕は戻るんで、何かあったら呼んで下さい」

柴崎君は手をヒラヒラ振りながら教室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「独島灯里クン。キミはどうしてかね?」

「わたしも柴崎くんと同じ理由だよ〜。北条さんのこと、すっごく気になってさ☆」

残ったもう1人、独島さんはへへへと笑いながら答える。

その様子を見たら、どうしても彼女がスパイとは思えなくなってしまう。

「………独島さん。あなたはこの動機について何か知ってるの?黒幕からどんな指示を受けたの?」

「ん〜?実はわたし〜、この動機についてなんの説明も受けてないんだよね〜。別に誰かを殺せとか、こういう風に動けとか全く指示がないんだ☆」

「………そうかね」

独島さんの言葉に明智さんは考えこむ仕草を見せる。

「明智さん?」

「………いや、なんでもない。それよりキミはこれからどう動くつもりかね?」

うちの質問に明智さんは首を振ると、柴崎君へした質問を独島さんにも投げかけた。

「ふふふ〜。それ言ったら面白くないでしょ〜?だからヒミツだよっ☆」

独島さんはそう答えると、ステップを踏みながら出口へと向かう。

「あ、これだけは言っておくね☆わたし、明日からもみんなに話しかけに行くから☆みんなに嫌われてようが警戒されてようが、わたしはみんなのこと友達だってずっと思ってるからさっ☆」

前と同じような台詞を残して、彼女は去って行った。

「ふむ、彼女の行動はまるで読めないな………」

明智さんはそう呟く。

けど、その表情は困ったというよりむしろ興味深いと思っている風に見える。

「うち、独島さんがスパイなの未だに信じられないんだよね。ちょっと態度は変わったけどさ」

「それにはワタシも同意だ。しかし、かといって彼女がスパイではないという証拠はない。彼女を盲信するのは危険だ」

「……そうだね」

出来れば独島さんはスパイではないと信じたい。けど、それを証明するものは何もない。明智さんの言う通り、彼女には常に疑いの目を向けなければならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、明智さんの声かけで食堂に集まり動機の対策をみんなで考えたけど、結局大した案は出ず、今日のところはひとまず解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

PM09:30 相川の個室

 

 

 

 

「………疲れた」

個室に戻ってきたうちはドサッとベットに倒れこむ。

そして自分に手首に付けられた銀色のバングルを改めて見つめる。

「………………ふざけてる」

恐らく黒幕は、毎日違う病気が発症することに耐えきれなくなった誰かが殺人を犯すと踏んでいるのだろう。

どこまでうちらを嘲笑えば気が済むんだろうか。

「えっと、確かバングルの症状は………」

うちはメモしておいたバングルについての説明をもう一度見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[動機]モノカバングル

 

 

 

・誰かが死亡後1時間が経過するまで外れないバングル

・自力で外すのは不可能

・付けられた次の日から、毎日下の10個のうちからいずれかの症状が発症する。

 

 

 

 

 

①くしゃみと鼻水が止まらなくなる

②全身に酷い倦怠感、寒気

③酷い頭痛に襲われる

④高熱にうなされる

⑤食欲が失せ、吐き気が止まらなくなる

⑥幻覚が見えるようになり、意識が朦朧とする

⑦殺人衝動が抑えきれなくなり、常に誰かを殺したいと考えるようになる

⑧手足が麻痺し、歩く事が困難になる

⑨気分が高揚し、自分で何でも出来ると思い込むようになる。

⑩変化なし(健康のまま)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日の朝には、既にどれかの症状が発症してるというわけだ。

「特に注意するのは…………⑦かな」

明確に『殺す』という文字が入っている時点で危険でない筈がない。

さっきみんなとは、症状がこの⑦であった場合どう対処するかを色々議論してたけど…………結局有効的な策は見つからなかった。

「殺人なんて…………もううんざりだ」

学級裁判も、モノカバも、人の死を見るのも、もううんざりだ。

だから、今回こそは阻止してみせる。

そのためならなんだってやってやる。

「よし!」

うちは机に向かい、しばらく放置してあった日記を手に取った。

決意表明も兼ねて日記を書くとしよう。

 

 

 

 

 

軟禁生活31日目

 

 

 

 

 

今日、第四の動機が発表された。

手首に銀色のバングルを付けられ、毎日病に侵されるというものだ。

でも、うちらは絶対負けない。

今度こそ必ず殺人なんか起こさせない。

モノカバの思い通りにさせてなるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軟禁生活32日目  AM6:30

 

 

 

 

バングルを付けられてから迎える初めての朝。

何故かいつもよりも早く起きてしまった。

「…………症状は?」

布団の中でひとまず手や足が動くか確認する。

「………うん、ちゃんと動く」

この時点で、うちの症状は手足の痺れではないことが明らかになった。

一度起き上がり、自分の体に異変がないか確かめる。

頭痛や倦怠感、熱などはない。

くしゃみや鼻水も出てないし、幻覚も見えていない。

誰かを殺したいとも思わないし、テンションが上がる感じでもない。

「もしかしてうち、いきなり当たり引いちゃった?」

10人のうち、1人だけ症状が出ないことは既に知っている。

となると、今日それに当てはまったのがうちだと考えるのが自然だ。

「そっか。なら今日はうちが頑張ってみんなのサポートしなくちゃね」

そう考えてベットから出ようとする。が………

 

 

 

 

 

「うっ!?」

立ち上がった瞬間、うちは猛烈な吐き気に襲われた。

慌ててトイレに駆け込む。

そして思いっきり吐いてしまった。

「…………」

トイレから出てきたうちは胸を押さえながら口をゆすぐ。

なおも収まらない吐き気。

この症状は…………間違いなく⑤の食欲不振と吐き気だ。

「一瞬喜んだうちが馬鹿みたいじゃん…………。うっ!?また出る………!」

結局、朝食の時間になるまでうちは何度もトイレとベットを往復する羽目になった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう………」

吐き気が少し治りなんとか動けるようになったところで、昨日打ち合わせした通り食堂へと向かう。

中に入ると、いつもより厚着をした優月ちゃんと皿を運ぶ黒瀬君、そしてジャックの3人がいた。

「凛、おはようございます…………」

うちに気がついた優月ちゃんが挨拶をしてくれた。けど、声はいつもより弱々しく、とても健康な状態には見えない。

「優月ちゃん大丈夫?顔真っ青だけど………」

「今日の私の症状は②みたいです。倦怠感が酷くて寒気が止まりません………」

ガクガク震える彼女の姿は見ていて辛かった。まるで一人だけ雪山にいるみたいだ。

「ちなみにオレは超健康だぜ!」

厨房から戻ってきた黒瀬君は元気が有り余っている様子。

誰がどう見ても健康そのものだ。

「黒瀬君が⑩なんだね。ジャック君は………」

「特に体に異常はないガ、信じられない程気分がいイ。今なら俺一人でも黒幕を倒せるだろウ」

そう興奮気味に話すジャック君。

彼がここまでテンションを上げて話すのをうちは初めて見た。

恐らく彼は⑨の気分が上がる症状だろう。

「…………頼みますから早まった真似はしないで下さいよ………」

「何故ダ。俺の手にかかれば貴様らに無理をさせずに一人で全ての問題を解決出来るのだゾ?なんなら今すぐにでもモノカバの元へ……」

「待て待て!?ちょっと冷静になれよジャック!?」

今にもモノカバの元へ駆け出しそうなジャック君を黒瀬君が止めるという、いつもとは逆の構図になっていた。

 

 

 

 

 

 

「えーっと………来てるのはこれだけ?」

「………ええ」

いつもいないメンバーを除いても、人数がやけに少ない。

明智さんや柴崎君はどうしたのだろう。

「みんなの症状の確認もしたいし、うち個室見てくるね」

「………待って下さい」

うちが様子を確認しに食堂を出ようとすると、優月ちゃんに呼び止められた。

「一人では危険です。行くなら敦郎も連れて行って下さい」

「え?オレ?なんでだよ?」

「元気なのは貴方だけでしょう………」

「俺の方が元気だガ?」

「貴方はいつものジャックじゃありません。危なっかしいのでここに居残りです」

立ち上がろうとするジャック君の首根っこを優月ちゃんは掴み座らせると、こちらを見て申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。本来なら私がやるべきことなのですが………」

「大丈夫だよ。うちも吐き気はあるけど元気な方だし。それにただ見に行くだけだから。すぐ戻ってくるよ」

「………どうかお気をつけて」

「大丈夫だって!オレが付いてるし、暴れそうな奴いたら速攻で押さえてやるから問題ねーよ!」

「貴方の問題ないは信用性に欠けるんですよ………」

呆れ果てるような優月ちゃんの声を聞きながらうちらは食堂を出た。

 

 

 

 

 

 

個室前に到着した。

途中気持ち悪くなってトイレに2回程駆け込んだのはここだけの話。

まずは万斗君だ。

「万斗君?いる?」

ドアを数回ノックして声をかけてみるものの、返事はない。

「いねんじゃねーの?」

「どうだろう………。無視してるだけかもしれないし」

ドアの向こうに気配をなんとなく感じるから、恐らく無視しているのだろう。

「………出ないね。じゃあ他の部屋に………」

「……………………なんだよ」

するとドアの向こうから声が聞こえた。

「万斗君?ごめん朝に来ちゃって。みんなの今日のバングルの症状について聞いて回ってるんだ。万斗君は大丈夫?」

「…………………」

出来るだけ優しく声をかける。しかし彼から返答はなかった。

「おい輝晃。別にオレらはテメーをどうこうしにきたんじゃねーよ。ただ心配で様子を見に来ただけなんだよ。そんくらい答えてくれてもいいんじゃねーの?」

 

 

 

 

 

「心配…………?」

万斗君は黒瀬君の言葉を鼻で笑うと、何かをドンと叩いた。

「………心配してどうなるんだよ。ボクのバングルでも外してくれるのかい?」

「輝晃………」

「もう終わりだよ。今回も誰かが誰かを殺して、それで学級裁判でまた誰か死ぬ。その繰り返しだ」

腹の底から絞り出したような声。

「スパイはまだ灯里さんを含めて3人もいる。スパイにぐちゃぐちゃにされてそのまま破滅。………結局、ボク達は黒幕の手のひらで転がされてるだけなんだよ」

「頭の中がぐちゃぐちゃで…………誰を信じればいいのか、何を信じればいいのかもう分かんないんだよ!!!!!!…………………あれ?ボクは何者なんだ?なんでボクはこんなところにいるんだ?どうしてコロシアイなんかさせられてるんだ?ボクは………」

「おい輝あ………」

「行こう、黒瀬君」

なおも声をかけ続けようとする黒瀬君を引き留める。

「万斗君は今、自分自身と戦ってるんだよ。だから今うちらに出来ることは、あれこれ口出しするんじゃなくて彼を見守ってあげることだと思う」

万斗君の心が折れる寸前なのは間違いない。でも彼は、その瀬戸際で戦っている。

完全に諦めて絶望するか、踏み止まるか。

「分かった」

黒瀬君も頷き扉から離れる。

「万斗君。うちらはまだ、あなたのこと信じてるから。だから負けないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次にうちらは千野君の個室を訪ねた。しかし彼は不在だった。

中に誰かいる気配もない。

「こんな時間にどこ行ったんだろう………?」

「知らねーよあんな奴。次行こうぜ」

輪を乱すような行動が嫌いな黒瀬君の、千野君に対する当たりが段々強くなってきている。

注意というか、あんまり強く言わないでと言いたいところだけど、彼の態度の急変にはうちも正直疑問に思わざるを得ない。

「次は………柴崎君か」

「アイツも放っとけばいいと思うけどな。どうも信用出来ねえ」

「そんなこと言わないの。それに柴崎君、昨日自分から協力してもいいと的なこと言ってくれたでしょ?彼があんなこと言うの初めてだよ?なら多少は信じてみてもいいんじゃないかな」

「どうだかね」

悪態をつく黒瀬君なだめながら、彼の個室をノックする。

 

 

 

 

 

「柴崎君おはよう。様子を見にきたんだけど、大丈夫?」

「………ん?相川サンッスか?ちょっと待って下さい」

すると意外なことに、すぐ返事が返ってきた。

そしてドアが開き、辛そうな表情をした柴崎君が姿を表した。

「………どうもッス」

「大丈夫………じゃなさそうだね」

「まあそっスね。想像以上に辛いッス」

頭を押さえ柴崎君は苦しそうに答える。

「テメーがそこまで弱ってるの初めて見たぜ」

「僕のことなんだと思ってるんスか。…………アンタ達が来たのは症状の確認ッスよね?僕は④ッス」

彼はうちらの目的を察したのかすぐ教えてくれた。

④というと………確か症状は高熱にうなされる、だったはず。

「信じられないなら僕のおでこでも触ってみます?激熱っすよ」

「ホントかよ………?熱っ!?なんじゃこりゃ!?」

疑問に思った黒瀬君が柴崎君のおでこを触り、驚愕する。

「体温計ないから分かんないッスけど、多分40度近くあるんじゃないッスかね」

「40度!?それって救急車で運ばれるレベルじゃん!?」

「そうッス。だから今から『超高校級の薬剤師』の教室にある解熱剤を取りに行くところッス」

「大丈夫?うちらが取ってこようか?」

「いいッスよ。取りに行くだけならなんとか行けるんで。それよりも他の人を心配した方がいいんじゃないッスか?熱よりもっと酷い症状あったッスよね」

うちらの提案に対し首を振る柴崎君。

「…………分かった。くれぐれも安静にね。動き回っちゃ駄目だよ」

「はいはい気をつけるッスよ」

ひらひらと手を振りドアを閉める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ大丈夫かよ?フラフラだっだぞ」

「心配だけど、他のみんなの様子を見なくちゃだし、こうするしかないよね……」

柴崎君一人に付きっきりという訳にもいかない。

「次は………独島さんだね」

今度は独島さんの番だ。ドアをノックしてから声をかける。

「独島さん?相川だけど」

「相川さん〜?」

するとドア越しからいつもの間延びした返事が返ってきた。

声は元気そうだけど………。

「ごめん急に来ちゃって。今みんなの症状の様子を確認して回ってるの。独島さんは大丈夫?」

「えーっとね〜。大丈夫かと言われたら微妙だけど〜、まあ1日くらいはどうにかなるでしょって感じかな〜?」

「…………ん?」

非常に曖昧な返事。

そこまで重い症状ではないと解釈して大丈夫だろうか。

「なんだそりゃ。もっとハッキリ答えろよ」

「あれ〜?黒瀬くんもいるんだ〜。じゃあ確かめたければ入ってきてよ〜。多分一発で分かるからさっ☆」

「………どうすんだよ」

「………行こう。独島さん。じゃあ入るね」

「どうぞどうぞ〜」

うちらはは誘われるがままに彼女の個室へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「おはよう〜」

最初に目に入ったのはぐちゃぐちゃに乱れた物が散乱した部屋と、ベットに仰向けになり微動だにしない独島さんだった。

「………部屋汚すぎだろ」

「最初に乙女の部屋に入って抱いた感想がそれ〜?もっと『あ、女の子の香りだ』とか『ちょっとドキドキして落ち着かないな』とか思わないの〜?」

「思わねえよこんな汚い部屋で!!」

衣類やらゴミやらで足の踏み場のないくらい汚れた部屋。

そして天井を向いたまま動かない独島さん。

………もしかして。

「独島さん…………あなたの症状って………」

「相川さんの想像通りだよ〜。わたし、今手足が全く動かないんだ☆」

「はあ!?」

「独島さんの症状は⑧。今彼女は手足が麻痺して歩けない状態なんだと思う」

黒瀬君と話してる時も体勢を全く変えない彼女をみてふと思いついたのだ。

「せいか〜い。痛みとかは全然ないんだけど〜、手足が石みたいに重くて動かないんだ〜。だからさっき曖昧な返事しか出来なかったんだよ☆」

なるほど。だからあんな返事をしたんだ。

「灯里。テメーオレらが来なかったらどうするつもりだったんだよ。それじゃあ飯も食えないしトイレも行けねーだろ」

「ん〜?」

独島さんは不思議そうに首を傾げる。

「イモムシみたいに地面を這っていけばいけそうだし、最悪1日だけなんだから我慢すればいいと思ってたけど☆」

「いや、流石にそれは無理があると思うよ………」

「めちゃくちゃだなオイ………」

 

 

 

 

 

「とにかく、あなたが今どんな状態か知れてよかった。まだ全員のところを回れてないから、また後で来るね」

「…………なんで?」

うちらがひとまず部屋を去ろうとした時。

独島さんが声をかけてきた。

「なんでわたしのこと気にかけてくれるの〜?わたしスパイって言ったと思うんだけど〜?相川さん達からしたら敵だよね〜」

「………」

うちは一瞬考えると、振り返り口を開いた。

「…………正直、『絶望の庭』を許すことは出来ないと思う。うちらの命を弄んで、結果多くの友達の命が失われた。でも、だからといって敵であるあなた達の命を粗末にしていいとは思ってない」

「…………」

「それに、うちは本当に悪いのはあなた達の言う『あの方』、つまり黒幕だと考えてるんだ。あなた達はそれに従ってるだけ。たとえ自分の意思だとしても指示を出しているのは黒幕の方。だからうちはまず黒幕を倒したい。あなた達を問い詰めるのはその後」

「…………」

「甘いよね、うち。でも、不思議と分倍河原君を含めてあなた達を憎んでいないんだよ。…………要するに、うちはもう誰も死んで欲しくないって事」

「…………」

うちの言葉を聞いても、彼女は天井に目を向けたままだった。

 

 

 

 

 

「オレも大体同じだぜ」

隣にいた黒瀬君も独島さんへ向けて声をかける。

「テメーらのしてる事は微塵も理解出来ねーし、許すつもりもねー。でも、だからってテメーらを殺したいとかまで思うことはねーよ」

「………」

「灯里。オレはテメーの考えてることが全く分かんねーし、スパイだっていうのも未だに信じらんねー。けどな、これだけは覚えとけ。オレは今でもテメーをダチだと思ってるし、テメーがスパイとして悪い事するっていうなら全力で止めるぜ。それがオレのするべきことだ」

「…………」

「行こうぜ、凛」

「う、うん。だから独島さん。少なくともうちと黒瀬君はあなたを見捨てたりはしないよ」

そう言い残しうちらは部屋を出た。

結局、彼女は最後まで口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

一人になった独島は、天井を見つめたまま彼女らに言われた言葉を思い出していた。

「…………みんな、優しいんだね」

そしてポツリと心情を呟く。

「特に黒瀬くんとか、まだわたしのこと友達とか思ってるとか言っちゃって。どんだけお人好しなんだって話。笑っちゃうよね」

ハハハと空笑いをする。

そして彼女の瞳からは…………涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………辛いよ。苦しいよ。わたしはいつまでこんなことしなくちゃならないの…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は明智さんだね」

「麻音のヤツが来ないの珍しいよな。寝坊でもしたのか?」

「その可能性もあるけど………」

まず疑うべきなのはバングルによる症状だろう。

「明智さんいる?相川だよ」

「…………来るな」

「………え?」

ドアをノックして声をかけた瞬間、向こうから険しい声が聞こえた。

間違いなく明智さんの声だ。

「明智さん?どうしたの??」

「私の症状は⑦だ。助手なら意味が分かるだろう………」

それを聞いた瞬間、うちは反射的に身構えしまった。

「な、なんだよ?⑦ってそんなにヤバいのだったか?」

「ヤバいって言ったらあれしかないよ。………『殺人衝動に駆られる』」

「!?」

黒瀬君も気が付いたのか、ゆっくりと警戒態勢に入る。

「私は今、キミ達の声を聞いた瞬間無意識にキットに入っているトンカチを手に持っていた。このまま面会すればキミ達に襲いかかるだろう」

「そこまで押さえられないの?」

「ああ。酷い言い方をすれば、『誰かを殺したくてたまらない状態』だ。悪いが治まりそうにない」

そうか。だから明智さんは今朝食堂にこなかったのか。

「だからワタシは今日一日部屋に篭る。だからキミ達もワタシの部屋に近づかないでくれたまえ。このままでは…………キミ達を襲うのも時間の問題だ」

「………分かった。明日また会おうね、明智さん」

「負けんなよ、麻音」

「誰にものを言っているのかね、黒瀬敦郎クン。世界で1番精神の強い探偵と言えばこのワタシだ。この程度の衝動、すぐ抑えこんでみせるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

明智さんの部屋を後にしたうちらは、最後の人の元へと向かっていた。

「おい凛。本当に行くのかよ?」

「彼女だけ放っておくわけにもいかないでしょ?」

「そうだけどよ………」

その人物は、かつて明智さんが囚われていた食堂の隠し扉から入る牢屋に拘束されていた。

一度食堂に戻り、何かあった時のために優月ちゃんとジャック君には待機してもらう。

そして隠し扉から牢屋へと続く通路を進む。

「…………あ!凛さん!!!!」

「……業ちゃん」

牢屋に囚われていた人物、北条業はうちの姿を見た瞬間、ぱあっと明るい笑顔を見せた。

「ああ、ついに凛さんが自ら私の元へ…………!洗脳が解けたんですね!それにその格好!なんて美しいんでしょう!女神です!まさしく女神ですよ!」

「…………」

「凛さん!もう他の奴ら全員殺してこんな場所早く脱出しちゃいましょう!!そして海外で結婚式を挙げるんです!!!あぁ、結婚式場とか色々考えなくちゃ………」

「…………」

業ちゃんの目にはもはやうちの姿しか映っていない。

もう何を言っても無駄だろう。

錯乱状態にあるといってもいい。

何故急にこんな状態になってしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「業ちゃん、今日のあなたの症状って何かな?」

「私ですか?私は至って健康ですよ!」

「うちの周りに何が見える?」

「それはもう…………ドレス姿の凛さんしか見えません!!」

「………やっぱり」

業ちゃんが最初うちを見た時格好について指摘した時から変だとは思っていた。

彼女は間違いなく⑥の幻覚症状が出ている。

「凛。コイツが最近おかしくなったのって……」

「でも業ちゃんは昨日から変だったでしょ?この動機は業ちゃんが変になったのを助長してるだけだよ」

「あ、そっか」

「凛さん、誰と話してるんですか?」

業ちゃんは不思議そうにうちを見る。

本当にうちの存在しか認識していないみたいだ。

「なんでもないよ。じゃあ、また来るから大人しくしててね」

「えー!凛さんこの拘束解いて下さいよー!私早く凛さんに抱きつきたいんですー!」

「………駄目」

「むー。まあ凛さんがそう言うならそうしますけど」

「………行こう、黒瀬君」

「お、おう」

うちらはニコニコしている業ちゃんに背を向け牢屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうですか。とにかく、今朝は何も起こっていないということですね」

食堂に戻ったうちと黒瀬君は優月ちゃんにみんなの様子を報告した。

「………となると、今朝の症状はこんな感じですか」

 

 

1日目

 

①くしゃみ/鼻水 千野or万斗

②倦怠感/寒気 霜花

③頭痛 千野or万斗

④高熱 柴崎

⑤食欲不振/嘔吐 相川

⑥幻覚/意識朦朧 北条

⑦殺人衝動 明智

⑧手足の麻痺 独島

⑨気分高揚 ジャック

⑩無症状 黒瀬

 

 

 

 

 

残る①と③は千野君か万斗君のどちらかだけど、死に直結するような症状ではないから心配はなさそうだ。

「今日はどうすんだ?」

「そんなのは決まっていル。武装蜂起して黒幕の元へ向かうのダ!今の俺なら黒幕を倒しこの空間から脱出をすることも夢ではなイ!!」

「はぁ………そのような力技で黒幕を倒せるならとっくにそうしていますよ……貴方は大人しくしていて下さい」

席を立とうとするジャックを無理矢理座らせる優月ちゃん。

この光景さっきも見たような………。

「それで、さっきの敦郎の質問の答えなのですが、今日一日この食堂にいるのがいいと思います」

「なんでだ?」

「比較的症状が軽め、もしくは無症状の人間が今集まっています。ならお互いの安全や看病の為に別れるよりここで固まっていた方が効率的だと思います」

「そっか。ここにいるならもし何かあった時お互いに助け合えるもんね」

「ええ。それに今のジャックを放置するのも心配です。なので彼の見張りも兼ねてここにいるべきかと」

「俺の見張りだト?何故俺ガ………」

「あーそれは必要だな。分かったぜ」

今の発言でここに留まる必要性が一瞬で理解出来た。

絶対ジャック君を1人にしちゃいけない。

 

 

 

「凛」

優月ちゃんが心配そうな表情を浮かべながらこちらを向いた。

「この中で1番重い症状は恐らく凛です。提案した私が言うのもなんですが、食堂にずっといるのが無理そうなら個室で休んでもらっても構いません。もしそうなら定期的に敦郎が凛の様子を見に行くので」

「また俺かよ!?」

「ううん、大丈夫。トイレとここ往復する形になるけど、うちはみんなと一緒にいたい。その方が安心するから」

「………そうですか。苦しかったら無理せず私や敦郎に言って下さい。出来る限りの看病はします」

「ありがとう。うちも余裕があれば優月ちゃんのこと看病するよ」

「………助かります。敦郎、貴方には色々働いてもらいます。覚悟しておいて下さい」

「なんか怖えーな!?まあ無事なのオレだけだしいいけどよ………」

こうして、うちら4人は一日食堂で一緒に過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM11:00 相川の個室

 

 

夜になり、うちらは各自自分の個室へと戻ってきた。

結局、うちが今日トイレに嘔吐しに行った回数は計10回。

食欲も全く出ないため今朝から水以外は何も口にしていない。

前回のC棟遊園地に閉じ込められた時を思い出す。

「これが連続で続くとヤバいな………」

明日以降の症状は完全にランダムだ。

なら明日も嘔吐の症状に当たってもおかしくはない。

「全員が限界に達するまでにどうにかしないと」

この動機から解放されるために必要な事は勿論知っている。

けど、だからといってこのまま何もしないわけにもいかない。

「ひとまず今日は寝よう……」

今日一日で消耗した体力の回復を図るために、うちはさっさとベットに潜ることにした。

瞼を閉じる。

睡魔が襲ってくるのにそう時間はかからなかった。

徐々に薄れていく意識。

まだ明日がある。

そう、まだ明日が…………。

なんてことを考えながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

瞼を閉じてからどれくらい経ったのだろうか。

うちは何故か息苦しさを感じて目を覚ました。

今日の症状は何だ。この息苦しさは症状から来るものなのか。

色々考え独り言を呟こうとした時だった。

 

 

 

 

「………!?」

口にガムテープが貼られている。

そして全身を拘束されている。

「………〜〜〜〜!!」

身に覚えのない状況にパニックになり全身を動かして拘束を解こうとする。

しかし、拘束を解くどころか満足に手足を動かすことすら出来ない。

「………!!」

その瞬間、うちは確信した。

今日のうちの症状は…………手足の麻痺。

昨日の独島さんと同じ症状だ。

 

 

 

待って。

じゃあうちは今何で拘束されてるの?

昨日自分の部屋で寝てたはずなのに。

というかここはどこなの?

見覚えのない天井がうちの瞳には映っているけど、こんな場所知らないよ。

様々な思考が交差する。

そして、徐々に底知れぬ恐怖が湧き上がってくる。

「〜〜〜〜〜!!!!!」

必死に声を出そうとするがうまく声が出ない。

助けを呼ぶ事も出来ない。

それでも、うちは無駄だと分かっていながらも必死にもがいた。

せめて何か物音を出せれば…………。

そう考えた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きたんですね。おはようございます、凛さん♪」

突如耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。

「!?」

「凛さんの寝顔、本当に可愛かったですよ。思わず食べちゃいたいくらいでした♪」

声の主である業ちゃんは、うちの顔をうっとりとした目で見つめてくる。

何で牢屋で拘束されている筈の業ちゃんが自由に動けてるの?

まさか…………自力で拘束を解いた?

「………〜〜〜!!!」

「あ、そういえばガムテープを付けたままでした。一旦剥がしますね」

業ちゃんは口をもごもごさせるうちに近づき口に貼られたガムテープをそっと剥がした。

「業ちゃん………!一体どういう事!?」

「ああ、慌てふためく凛さんも愛おしいです…………!!ですけど、今はとりあえず落ち着いて下さい。ちゃんと説明してあげますから」

うちの怒気を孕んだ発言にも業ちゃんは動じる様子はない。

軽く腕を組むと微笑みながら話し始めた。

 

 

 

 

 

「まず、ここはB棟にある体育倉庫です。ちょっと埃っぽいですけど我慢して下さいね」

「体育倉庫………」

そう言われてハッと思い出した。

B棟が開放された時、一度見に行った場所だ。

数分しか滞在しなかったから記憶に残っていなかった。

「そうです、体育倉庫です。2人きりになれる場所としては打ってつけの場所ですよ♪」

「………どうやってうちの部屋に入ってきたの?」

「秘密です♪」

「………うちをここに連れてきた目的は?」

「秘密です♪」

「真面目に答えて!!!!!!」

「ふふふ、冗談ですよ♪部屋へ入った方法は言えませんけど、凛さんを連れてきた理由はただ一つです。…………凛さんを私のモノにするため」

「!?」

悪魔的な笑みを浮かべながらそう言う業ちゃんに対してうちは自分の顔が引きつるのを感じた。

「………もう我慢出来ないんです、私。こんなクソみたいな場所で長時間他の害虫どもと一緒に閉じ込められて………。排除しようにも学科裁判とか2人以上殺害禁止なんていう厄介なルールがあるし、もどかしくてしょうがなかったんですよ………」

天井を見上げながら彼女は強く歯ぎしりをする。

「でも、もうルールとかどうでもいいです。どうせ殺人以外でここを出ることなんて不可能なんだし、なら最後に凛さんと最高の時間を過ごしてお別れした方がいいなって思ったんですよ」

「お別れ………?な、何を、言ってるの…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は凛さんと今日一日過ごしたらここに火を放ち、凛さんと私を含めた全員を焼き殺します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ…………!?」

予想だにしていなかったその発言。

うちは言葉を失った。

「ああ、害虫共を駆除しながら最後に凛さんと一緒に心中出来るなんて、私はなんて幸せ者なのでしょう………!」

「ば、バカなこと言わないで!!!!!!」

うちは怒鳴りつけるような形で業ちゃんにそう叫んだ。

「どうしたんですか?急にそんな大きな声を出して」

「 そんな、そんな身勝手なこと許されるわけないでしょ!!!!人の命をなんだと思ってるの!?みんなは害虫なんかじゃない!れっきとした人間なんだよ!みんなを殺して最後は自分も死ぬなんて………狂ってるとしか思えないよ!!」

「流石は凛さん!ゴミ虫共にさえ慈悲をかけるなんて………なんていう優しさの持ち主でしょうか!!でも心配は無用です。アイツらは死んで当然なんですから、凛さんが心を痛めることはなーんにもありませんよ♪それに凛さんも私と心中したいって、ずっと思ってたんですよね?私、凛さんのこと何でも知ってますから♪」

「!?」

駄目だ。全く話が通用しない。

このままだと全員殺される。

大声で助けを呼ばないと………!

「だ、誰か!!たすけ……」

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、それは駄目ですよ、凛さん」

 

 

 

 

 

 

首元にひんやりと冷たいものが当てられた。業ちゃんが前持っていたナイフだ。

「せっかく2人きりになれたんですから。そんな野暮なことしちゃ駄目です。もし凛さんが今後大声を出したなら…………他の奴らをすぐ殺しに行きます」

「!?」

その言葉にうちは瞬時に口を閉じる。

「はい、よく出来ました♪」

「…………どうして、こんなことを………」

「うふふ、それさっきも言いましたよ。凛さんったらお茶目さんですね♪」

うっとりとした目でうちの顔を両手で掴み覗きこむ。

手が熱い。

興奮してるからなのか。

心なしか顔も赤くなっている。

「さあ凛さん、一日限りの同棲生活ですよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからうちは、何をされたかハッキリとは覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に水と謎の薬を無理矢理飲まされたことは覚えている。

 

 

その後、何故か意識がぼうっとして頭が働かなくなかった。

 

 

眠くはならなかったから、購買にある睡眠薬ではないだろう。けど、なら一体何を飲まされたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

その後、さっきと同じように口にガムテープを貼られ、完全に何も出来ない状態にされた。

 

 

 

 

 

 

時折うちの顔を覗き込む業ちゃんの目は、明らかに異常だった。

 

 

 

狂ってる人の目というか、何か薬物をやっている人の目にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

業ちゃんはうちの耳元で色々話をしたり、体温の高い手でうちの顔、全身をベタベタ触ってきた。

 

 

 

 

 

そんな時間が、何時間、何時間も続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、凛さん。見て下さい、もうこんな時間ですよ」

あれから何時間経ったのだろうか。

業ちゃんは突然、うちに自分のカバフォンを見せてきた。

時刻は午後11時過ぎを示している。

「楽しい時間が過ぎるのはあっという間ですね。あーあ、もっと凛さんと一緒にいたかったんですけど………残念です」

その言葉に対して、うちは何の反応も示さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう…………疲れた。

 

 

 

 

 

どうして何もうまくいかないんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1番初め、錦織さんの死後、みんなで仲良くなろうとパーティ開催を提案した。

 

 

 

 

 

 

でもそのパーティを中澤君は利用して、結果飛田君は中澤君に殺されてしまった。

中澤君もその後処刑された。

そして柴崎君と業ちゃんの本性が明らかになって、みんなの人間関係に亀裂が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

次は殺人なんて起こさせない、一致団結しようって張り切ったけど、結局うちは何もすることが出来ず、今度は喜屋武さんが死んでしまった。

そして、頼れる仲間だと思っていた分倍河原君がスパイで、喜屋武さんを殺そうと企んでいたことが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スパイという存在によって疑心暗鬼になっているみんなをどうにかしてまとめたかった。だからうちは必死に団結を呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

けどそれって結局、なんの解決にもなってないってことに気付かされて。

というか、気づくのが遅すぎて。

 

 

 

 

 

その結果、みんなのリーダーだった香織ちゃんとムードメーカーだった幸村さん、さらにスパイの分倍河原君までが死んでしまった。

そして犯人は、明るくて賑やかで人を殺すことなんて絶対しないような霞ヶ峰さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女には、うちの言葉は何も届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして今は、千野君に理想論ばかり並べて半端な希望を抱かせていると指摘され、万斗君は怯えていて、独島さんはスパイだって分かって、業ちゃんはあり得ないくらいおかしくなっちゃって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何一つうちは出来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛さん。私、幼い頃凛さんと一緒に遊んだ時を思い出します」

 

 

 

 

業ちゃんはうちの様子を気にもせず話し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「あの時以来、私は凛さんと会うことを人生の目標としてきました。人生を変えてくれたあなたに恩返しをするため、あなたを守るため………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなの知らない。

 

 

 

 

心の中からどす黒いもやのようや感情が溢れ出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

………そんな恩返しされるほど大したことはしていない。

それに、うちは守ってくれなんて言ってない。

誰がいつそんなこと頼んだんだ。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「…………こうして再会出来たのも、私と凛さんがお互いに想い合っていたからかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………やめろ。

気色の悪いことを抜かすな。

そっちが勝手に言ってるだけだろ。

こっちはお前のことなんか全く覚えていなかったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、座右の銘が一つあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も聞いてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『幸せになることに躊躇してはいけない』。文字通り、幸せになるには変化を恐れてはいけない。積極的に行動しなければいけないという意味です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから何だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が言いたいかというと、私は、あなたと幸せになれるなら何でもする。人だって燃やすし、物だって壊す。他人を犠牲にしてもあなたを手に入れる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめろ。それ以上何も言うな。

それはつまり………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうです。今これから死ぬ奴らは、私が凛さんという幸せを手に入れるための尊い犠牲なんです」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

すると、業ちゃんかうちのカバフォンからピロンと音がした。

今の音はチャットを受信した時のものだ。

業ちゃんは自分のカバフォンを見る。

うちは自然と、彼女の表情に注目した。

すると彼女の顔は驚愕から怒りへと染まっていった。

「………私を誘い出すつもりか…………!!ゴミの分際で…………ぶっ殺してやる」

怒りのせいなのか、拳を握りしめて全身を震わせている。

そしてうちの方を向くと、

「凛さん。少しだけ待っていて下さいね。すぐ戻ってきますから♪」

そう言い残して体育倉庫を出て行った。

ガチャンと音がしたのは鍵をかけたからだろう。

今の独り言は何だったんだろうか。

………まあ、何でもいいや。

もう今は何も考えたくはない。

というか、うちが考えても何の意味もない。

どうせ何も出来やしないんだから…………。

そう自分の中で結論づけ、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

誰かがドアをドンドン叩く音がする。

鍵をガチャガチャ動かす音がする。

 

 

 

 

 

 

 

うるさいよ。

もう放っておいて。

うちには…………どうせ何も出来ないんだから。

 

 

 

 

 

 

その耳障りな音はしばらく続いていたけど、うちの願いが通じたのか、しばらくしたら聞こえなくなった。

うちは何事もなかったかのようにまた目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

ゆっくりと意識が覚醒する。

目を開けると、数時間前と同じ光景が見えた。

茶色の天井。薄暗い部屋。

つまりうちはまだ、仰向けに寝転がされて天井を向いている状態、いうことになる。

「………あれから何時間経ったんだろう…………」

最後時間を見たのは確か昨日の夜11時頃。

業ちゃんがカバフォンを見せてくれたんだっけ。

窓もないし部屋も暗いから、今何時なのか全く分からない。

 

 

 

 

 

そして業ちゃんがまだ戻ってきていない。

一体どこに行ってしまったのか。

「………結局どこにいったんだろう…………あれ?」

口が動かしやすいな、と思ったら口に貼られたガムテープが外されていた。

どうりで呼吸が楽なわけだ。

「………でも誰が外してくれたんだろう?」

普通に考えれば業ちゃんだろうけど、彼女はうちに叫ばれるのが嫌で口を塞いだのだ。それを外したらうちが大声で助けを求めるのは分かっている筈。

それを今更なんで…………。

色々思考しながら体を軽くもぞもぞ動かしたうちは、ある事に気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手に付いていたバングルが、どこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…………で…………?」

つい数時間前までうちらを苦しめ続けてきたあの忌々しいバングル。

モノカバからの動機で強制的に付けられた銀色のバングル。

それがうちの手首から綺麗に外れていた。

「……………………ちょっと待ってよ」

モノカバ言われた条件を思い出す。

「…………じゃあうちらの誰かが…………死んだの?」

そう。

この『モノカバングル』が外れる条件はただ一つ。

誰かが死ぬ事。

「ひとまず、この拘束をどうにかしないと………」

一刻も早くみんなの安否を確認するためにも、まずら業ちゃんのいない隙にここから出ないと。

そう思い、体を色々動かして脱出を試みていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………誰かそこにいるのですか!」

誰かの足音が聞こえたかと思えば、扉の向こうから聞き覚えのある声がうちを呼んでいた。

「…………ゆ、優月ちゃん………」

その人物は、『超高校級の狙撃手』霜花優月ちゃんで間違いなかった。

思わず感動で泣きそうになる。

「………凛?凛なのですか!!」

「う、うん………うちだよ………」

久しぶりに出す声なので、震えて上手く話せなかった。けど、ハッキリと自分は相川凛だと伝えた。

「…………良かった!!無事なのですね!!ずっと心配してたんです!!今そちらはどんな状況ですか!」

ドアの向こう側にいる優月ちゃんはとても嬉しそうな、そしてほっとしたような声だった。

「………今、全身をロープで縛られてる………。自分じゃ解けそうにない………」

「今、他に誰かいますか?誰にやられたかは分かりますか?」

「誰もいないよ………。業ちゃんにやられたんだ」

「………北条業。やはりあの女の仕業でしたか」

彼女は静かに怒りを露わにする。

「………でも、鍵がかかってるんだ。多分、業ちゃんが鍵を持ってるんだと想う」

「………そうですか。ちなみに北条業がどこにいるのかは分からないですか?」

「うん。どこに行くとかは言ってなかったから」

 

 

 

 

 

 

 

「………そうですか。ならあの女を探すのは時間の無駄ですね。素直に鍵を渡すとは思えませんですし。…………………モノカバ!出てきて下さい!」

鍵を手に入れるのは困難だと判断したのか、優月ちゃんはモノカバを呼び出した。モノカバに鍵を開けさせるつもりみたいだ。………その発想はなかった。

「……………………………」

しかしモノカバが現れる気配はない。

「………あれ?来ないけど……」

「今朝からずっとこの調子なんです。………モノカバ側に何かあったのかもしれません」

モノカバはあれでも一応機械だ。

となると何らかの不具合が生じたってことになるけど……。

今までそんなことなんて起きなかったのに。

「………仕方がありません。凛、少し待っていて下さい。今鍵を外します」

「外しますって………どうやって?」

「この鍵は南京錠です。ならピッキングで外すことが可能な筈です。えっと、近くに何か道具は…………」

そう言って優月ちゃんはピッキングの準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

凄いなぁ、優月ちゃんは。

うちなんかと比べて冷静だし、多芸だし、周りがよく見えてるし。

…………うちなんかと大違いだよ。

 

 

 

 

「………あった!この針金を上手く使えば…………」

カチャカチャと音を立てて優月ちゃんはピッキング作業を行う。

するとすぐにガチャと鍵が開く音が聞こえた。

「………凛!!」

「優月ちゃん………!」

久しぶりに見る優月ちゃんの顔。

たった1日会っていないだけなのに懐かしさを感じてしまう。

「無事で良かった…………!とりあえず、今はこのロープを解きます。感動の再会を喜びあうのは後にしましょう」

「優月ちゃん………ありがとう………!!」

涙で視界がぼやける中、お礼を言う。

「………お礼を言いたいのはこちらの方です。凛、よく生きていてくれました。私は正直、最悪のケースも想定していましたから」

「…………このバングルのことだよね」

最悪の事態、と聞いてすぐ分かってしまった。

「ええ。………よし、解けました。走れますか?」

「………大丈夫、だと思う」

「すみません、いきなり走らせるような真似をして。ですがゆっくり話してる暇がありません。今の状況を走りながら説明します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰もいない?」

体育倉庫を脱出したうちらは、B棟のあらゆる場所を回っていた。

「ええ。私は今朝、バングルが外れているのに気がついて全員の安否を確認することにしたんです。手始めに全員の個室をノックしたのですが、誰1人として応答がありませんでした。食堂や教室も覗いてみましたが、人がいる気配はなかったです」

つまり、優月ちゃんの言う通りなら、今A棟には誰もいないという事になる。

「朝なのに誰一人として個室があるA棟にいない………」

モノカバの応答がないことも含めて、どう考えてもおかしい。

一体何が起きているんだろうか。

「だから私はしらみつぶしに今行ける場所を探していたんです」

「………なんとなく状況は分かったよ。とりあえずこのB棟から、ってことだよね?」

「………はい」

返事をする優月ちゃんの顔は暗い。

誰かが間違いなく死んだのだ。

………覚悟を決めなくちゃいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず体育館に隣接する運動系の研究教室を回ってみたが、どの教室にも人がいる気配はなかった。

「誰もいないね…………。みんなどこ行っちゃったんだろう?」

「後残っているのは、この才能研究棟ですか………」

未探索なのは、この才能研究棟のみ。

ここに誰かいればいいけど………。

「よし、早速行こ………………… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然誰かの悲鳴が聞こえた。

「!?」

「この声は確か………!」

「黒瀬君だよ!!!」

黒瀬君が生きていることに安心すると同時に、彼の心の底から出た悲鳴が恐怖心を煽った。

「………悲鳴は上からですね、急ぎましょう!」

うちらは急いで2階へと上がる。

すると廊下で、黒瀬君が尻もちをついてとある部屋を凝視していた。

ひとまず彼が無事であったことに安心感を覚える。

「黒瀬君!!一体どうしたの!?」

「…………凛、優月」

弱々しい口調でうちらの名前を呼ぶ黒瀬君。

「…………あれ……………………何だよ…………………」

彼はゆっくりと目の前にある『超高校級の機械工』の教室の中を指差す。

うちと優月ちゃんも自然とその方向へと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むせかえるような血の匂いで充満した部屋の中はあらゆる場所が返り血で染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして何より部屋の入口付近に横たわる()()が、この現場の凄惨さを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()は、うちらに一瞬で恐怖を植え付けるのには十分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………え?」

「…………なんですか、これは………………」

突然目に飛び込んできた死体に、悲鳴を上げる事も忘れて呆然としてしまった。

状況が全く飲み込めない。

「…………………凛?」

そしてうちは、無意識に部屋の中央へと近づいていた。

中央のテーブルに置いてある()()は、血塗れの部屋にあるものにしてはやけに綺麗で、存在感があったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

無言でその布を取り払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにあったのは、()()()()()()()()()()()北条 業の『生首』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

LA001 相川 凛《外国語研究家》

MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》

MC003 喜屋武 流理恵 《調理部》

SA004 銀山 香織《棋士》

MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》

MC006 柴崎 武史《歴史学者》

MB007 霜花 優月《狙撃手》

MA008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》

MC009 千野 李玖《茶人》

MC010 独島 灯里《サブカルマニア》

MB011 飛田 脚男《バイク便ライダー》

SB012 中澤 翼 《フットサル選手》

LB013 錦織 清子《テニスプレーヤー》

MB014 分倍河原 剛 《空手家》

015 北条 業 《希望ヶ峰学園予備学科生/放火魔》

MA016 万斗 輝晃 《情報屋》

MB017 幸村 雪 《激運》

MA018 明智 麻音《探偵》

 

残り9人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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