お久しぶりです………。
色々バタバタして中々更新出来ませんでした………。本当に申し訳ないです。
一応、軽くあらすじを載せておいたので、前回までの話を忘れてしまったという方は是非そちらをご覧になってみて下さい。
〜〜〜前回までのあらすじ〜〜〜
相川凛達生徒に与えられた4度目の動機。
それは、手首に付けられたバングルによって毎日何かしらの病気に犯される、というものであった。
相川はこの動機は他人同士で争う必要がないため協力していこうと提案するが、千野李玖を始めとする数人は彼女に反発し、単独行動を始めてしまう。
どうにかしようと考える相川であったが、動機発表から2日目の朝、北条業により拉致されてしまう。北条の目的は相川と最後に一緒の時間を過ごし、その後全員を殺害して自分達も自害するという酷く身勝手なものであった。
相川の言葉に北条は耳を貸さず、このまま死ぬのを待つしかないかと覚悟した相川であったが、翌日の朝、探しに来た霜花優月により無事救出される。
バングルが外れている事に気がつき、全員の安否を確認しようとしていた霜花と一緒にB棟を駆け回っていると、黒瀬敦郎の悲鳴が才能研究棟から聞こえてきた。
すぐ現場に向かうと、そこ(超高校級の機械工の研究教室)には首が切断された死体と、ホルマリン漬けにされた北条の生首が置いてあった…………。
「業、ちゃん…………?」
「…………業」
目の前にある業ちゃんだったものを見つめ、うちは呆然と彼女の名を呟く。
「嘘、だよな………?こんな事が現実にあるはずねーよ。どうせ武史か誰かのイタズラだろ?この首も偽物に決まってるって」
黒瀬君はハハハと顔を引き攣らせて笑いながらうちらを見る。
うちもそう信じたかった。
これは現実じゃない。
夢だ。
こんなミステリー小説でもあり得ないような殺人が起きる筈がない。
「………信じられないのも分かります。ですが………………恐らくこれは本物の業でしょう」
しかし、優月ちゃんがそれを否定する。
「な、なんでだよ…………?」
「仮にこの業の首が偽物だとしましょう。だとすると、この首が切断された死体の説明が付かないんですよ」
首のない死体の近くにしゃがみ、優月ちゃんは観察する。
「少なくともこの死体は間違いなく本物です。となると………この首も本物と考えるのが自然だと思います」
「じゃ、じゃあ業は…………」
「まだ断言は出来ませんが、私達の誰かに殺された可能性が高いと思います」
「そ、そんな………」
黒瀬君は顔が真っ青にして後ずさる。
「………やっぱりそうだよね。そんな甘いわけないよね」
「………凛」
うちは業ちゃんの生首に近寄る。
「業ちゃん」
つい数時間前まで生きていた業ちゃん。
それが…………こんな状態で再会することになるなんて。
どうして。誰がこんなことを。
………非人道的とかいうレベルじゃない。
どうやったら今まで一緒に過ごしてきた人をこんな風に殺せるのか。
確かに最近の業ちゃんは暴走していた。
でもここまでする必要はなかった筈だ。
「………待って下さい」
すると首のない死体を観察していた業ちゃんが、突如上を見上げた。
「どうしたの、優月ちゃん?」
「………何故、『死体発見アナウンス』が鳴らないのですか?」
「あ?」
「『犯人以外の3人が死体を発見した』時になるアナウンスが鳴っていません。私達3人が既に発見してるにも関わらず、です」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
うちは思わず立ち上がる。
「じゃあ、うちら3人の中に犯人がいるってこと………?」
「…………断定は出来ません。ですが………」
「!?」
「嘘、だろ?」
うちら3人のうち、犯人が1人いれば死体発見アナウンスの条件は満たされない。
それはつまり、この中に業ちゃんを殺した殺人犯がいると言っているようなもの。
「ま、待てよ!?オレはやってねー!オレは業を殺したりなんかしねー!」
「落ち着いてください。まだそうと決まった訳じゃないです」
慌てふためく黒瀬君を宥めて、うちの方を向く。
「凛。色々不明な点が多いですが、まずは現状の把握を優先しましょう。どう動きますか?」
「え…………?」
「私は凛の指示に従います。これまで幾度となく私達を導いてくれた貴方を、私は信じていますから」
「!?」
どうして、そこまでうちを信じてくれるのだろう。
何も成し遂げていない、何の力もないうちを。
「………駄目だよ」
「………え?」
「うちに、真実を導く力なんて、ない。何の役にも立たない、口だけの女だよ。だからもう…………」
もう頼らないで欲しい。
頼られる度に、自分の無力さに打ちひしがれるだけだから………。
「ハァ、ハァ…………オマエらお待たせカバ」
その時だった。
モノカバがどこからか現れた。
「テメー何してたんだよ!!」
「いやあ済まないカバ。実は色々起こりすぎてバタバタしちゃってカバ」
「色々?どういう意味ですか」
ハンカチで汗を拭うモノカバは疲れ果てた表情でこちらを見渡した。
「…………説明するの面倒カバね………。まあ一言で言うと、
「………は?」
突然わけの分からない事を言い出すモノカバにうちらは呆然とする。
「だからオイラは残りの奴らの現状把握に追われてここに来るのが遅れたって事カバ」
「ちょっと待って。うちらまだ3人しかいないんだよ?あと6人いるはずなのに、全員が意識ない状態ってそんなのおかしいでしょ!?」
「そんな事オイラに言われても困るカバ!とにかく、オマエらは今から残りの全員を見つけてくるカバ!じゃないと学級裁判が始められないカバ!!」
「どこにいるのか分かんねーのに探せって無茶だろ!?」
「ちゃんとオイラが場所を言ってあげるカバ!A棟自室、D棟図書室、D棟中庭、D棟音楽ホールカバ!ちゃっちゃと探して来るカバ!!」
モノカバは早口でそう言うとすぐ消えようとする。
「待ってください。一つ聞きたいことがあります。…………私達が業の死体を発見した時、『死体発見アナウンス』が鳴りませんでした。これはつまり、私達の中に犯人がいる、ということでいいんですよね?
「…………あー、それについてなんだけどカバ………。その…………えーっと………」
「んだよ!言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」
「…………流すの忘れちゃったカバ」
「………今、何て言いました?」
「あまりにもバタバタしすぎて流すの忘れちゃったカバ!」
「は、はぁ!?」
「………どこまで私達を虚仮にすれば気が済むのですか?」
「わ、悪かったカバ!と、とにかく北条サンに関しては死体発見アナウンスはなしってことで!」
そう言い残すとそそくさといなくなってしまった。
「………アイツ、ふざけた事抜かしやがって」
「…………死体発見アナウンスに関してはもういいです。それより他の人を探し出すのが先でしょう。他の人達が来ない以上、モノカバの言葉には信憑性があります。探しに行くべきでしょう」
「…………だな。まずはA棟に行こうぜ」
モノカバに言われた通り、うちらは残りの人達を探し始めた。
A棟 3F 個室前
「柴崎君、千野君、ジャック君、万斗君、明智さんはいないね」
「となると残りは…………」
「灯里しかいねーな」
個室がある3Fに着くと、いない人の個室を順番に訪ねていった。
捜査時間は全ての部屋の鍵が空いているので、プライバシーもお構いなしにそれぞれの部屋に入らせてもらった。しかし誰も部屋にはおらず、残りは独島さんのみとなった。
「独島さんいる?いたら起きて!!」
大きめの声と共にノックを数回する。しかし返事はない。
意識がないという話だからそれは仕方がない。
問題は彼女が今どういう状態なのかだ。
「まさか………!!」
「やべえぞ!!もしかしたら灯里は………!」
最悪の光景が頭をよぎる。
「とにかく開けよう!ごめん独島さん!ドア勝手に開けるね!」
うちらは半ば強引にドアを開けて中に入った。
「……………………ぐー…………」
パジャマ姿の独島さんがお腹を出した状態でぐっすり寝ていた。
「心配させんな!!!!!!!!」
黒瀬君は独島さんに大声でツッコミを入れた。
「………んー?ふぇ!?なんでみんながわたしの部屋にいるの〜?」
その声で彼女はまぶたをこすりながら目を覚ました。
「いいから起きろバカ!業が殺されちまったんだよ!!」
「ふええ?ころされた?」
どうやら寝ぼけているようだ。
「まだ意識が朦朧としているようですね………」
「とにかくほら!緊急事態だから来て!」
「えええ〜。まだパジャマだよ〜」
うちは独島さんを引っ張って廊下に出た。
「なるほどね〜」
独島さんに走りながら状況を説明した。
彼女も目が覚めてきたようで状況をしっかり理解できたようだ。
「でもみんな親切だね〜。灯里スパイなのに声かけてくれるなんてさっ☆」
「………スパイでも何でも人手が必要なんだよ」
明るくポーズをする独島さんに顔をしかめながら答える黒瀬君。
「でもこんなに誰も居ないなんて変だよね〜?なんでだろう〜?それに北条さんをわざわざ首切って殺した理由も気になるよね〜?黒瀬くんも気にならない〜?」
「テメーのそのテンションうっとおしいわコラ!てか人死んでんだぞ!?」
まるで何事もなかったかのように会話をする独島さん。
それを見て改めて、独島さんが絶望の残党である事を実感させられる。
「ねえ独島さん。あなたは………犯人じゃないよね?」
「さてどうでしょ〜☆」
ニコニコしながら話をはぐらかす。
彼女が何を考えているのか全く分からない。
「それよりもD棟に着いたけどどこ行くの〜?灯里はどこからでもいいよっ☆」
「もうテメーは黙ってろって!!」
「っ!!あれを見て下さい!」
すると優月ちゃんが中庭を指差した。
その先には………煙を上げる窯があった。
「………何で、煙が………」
とてつもなく嫌な予感がした。
「とにかく、近くまで行きましょう!」
窯に着くと、遠くから見た通り煙が高く上がっていた。
「やはり何か燃えているみたいですね………」
「え〜こわーい。何か出てきそう〜!黒瀬くんに抱きつく準備するね〜☆」
「するなコラ!!」
「……開けるよ」
うちは取手に手をかけゆっくりと扉を開いた。
ピンポンパンポーン………
「死体が発見されたカバ!一定の捜査時間の後、学級裁判を開くカバ!オマエら、現場のD棟中庭に全員集合するカバ!」
あまりにも受け入れ難い現実が突きつけられた。
中にあったのは、焼け焦げた
「ま、マジかよ………!!」
「嫌な予感はしていたのですが………。やはりそうでしたか………」
「うっわ〜。スパイのわたしもドン引きだよ〜」
「………そんな」
誰かの焼死体がある。
その現実にうちは軽く目眩をおこした。
命って、こんなにも簡単に消えるものなのだろうか。
「誰、なんだよ………。もう誰かも分からないじゃねーかよ!!」
黒瀬君は悔しそうに窯を叩く。
「ひとまず他の人を探すの優先じゃな〜い?そうすれば自ずとこの身元不詳の仏さんの正体も判明すると思うよ☆」
独島さんはテンションを一切変えることなくそう提案する。
「そう、ですね………。ひとまず残りの生存者の安否確認が優先ですね。4人でまた探しますか?」
「………4人いるし二手に分かれて探そうよ〜。黒瀬くんと霜花さんは音楽ホール、わたしと相川さんで図書室みたいな感じでどう〜?」
「………分かりました。それで行きましょう」
「分かったぜ!」
「相川さ〜ん、わたしたちも行こうよ〜」
「………え?う、うん」
2人と別れ、うちらは図書室へと急いだ。
「相川さん元気なくな〜い?」
「…………」
図書館に向かっている途中、独島さんにそう声をかけられた。
「………仲間が死んだから元気がないのは当然でしょ」
軽いノリで尋ねられたことに腹が立ち、思わず棘のある言い方になってしまった。
「う〜んと、そうじゃなくて〜」
しかし独島さんが言いたいのはそういうことではないようだ。
「相川さんって、今まで誰かが死んでもテキパキと誰かに指示出したり元気ない人を励ましたりしてたでしょ〜?けど今回はただわたしたちについて来てるだけ〜。まるで自分にはその資格がないよ、みたいな顔してる☆」
「!?」
自分の考えてることを当てられ、うちは思わずビクッとなる。
「あはは〜図星だねっ☆」
「………だって、みんなうちを頼ってくれるのに………何も出来てない。みんなを引っ張る資格なんて………」
「そんな深く考えなくてもいいのに〜」
うちがとぎれとぎれに言葉を紡ぐ中、独島さんは被せるようにそう言った。
「みんなが相川さん頼ってるのは、単に推理が出来るからじゃないよっ☆というか相川さんに成果なんて誰も求めてないと思うけどな☆」
「え?どういうこと?」
よく分からず間抜けな声で聞き返してしまった。
「ほら、そうこうしてるうちに着いたよ〜図書館」
しかし彼女はそれには応えず図書館へ到着したことを伝えた。
扉にゆっくり手をかける。
心臓がバクバクしている。
これは走って疲れただけじゃない。
緊張しているせいだ。
「………開けるよ」
「ほ〜い」
静寂に包まれ快適な空間である図書室。
今も静寂に変わりはない。
ただ、今の状況はあまりにも快適とはかけ離れていた。
そこにいたのは、血の海に沈む千野君と明智さんであった。
「明智さん!!千野君!!」
2人に駆け寄り声をかける。
「明智さんしっかりして!!!!」
慌てて明智さんの手を取り脈を確認する。
「…………生きてる!」
微かだが、明智さんの脈はしっかり動いている。
彼女はまだ死んでいない。
「千野君!!」
となると心配なのは千野君の方だが…………。
「………良かった。千野君も生きてる」
彼の脈も動いているのが確認できた。
2人の生存を確認したうちは安心して息を深く吐き出した。
「………待って。でもじゃあこの血の量は………?」
こんな大きな血溜まりが出来る程出血したら、間違いなく人は死ぬだろう。
でも、2人は死んでいない。
これは一体………。
「う、うぅ…………」
「千野君!?」
すると、うちに抱えられた千野君が苦しそうな呻き声を上げながら目を覚ました。
「しっかりして千野君!!もう大丈夫だよ!!」
「………………相川、殿ですか。拙僧を………笑いに来たのですかな?」
「そんなわけないでしょ!!誰にこんなことされたの!?一体何があったの!?」
「…………まんまとやられました。今回の犯人は…………恐らく『絶望の庭』のスパイです…………」
それだけ言うと、千野君はぐったりとしてしまった。
「千野君!?ど、どうしよう!!このままだと………」
「明智さんは意識ないみたいだね〜」
独島さんは倒れた明智さんの方を見てそう言った。
「そ、そんな…………」
「相川さんっ☆ひとまず落ち着こっ☆」
予想外の事態にオロオロしていると、独島さんうちの両肩に手を置いた。
「2人ともモノカバに治療してもらえばいいんだよ〜。モノカバも学級裁判に参加する人が減って裁判が盛り上がらなくなるのは避けたいだろうし〜、きっと治してくれるよっ☆」
その意見は確かに的を得ている。
「……そうだね。じゃあモノカバを呼ぼう。………モノカバ!!聞こえてる?」
「はいはい呼びましたカバー!!」
「この2人を治療して」
「そう言うと思って既に手配してるカバー!」
モノカバがピーっと笛を鳴らすと、医者のコスプレをしたモノカバが現れて二人を担架に乗せ、どこかへと運んでいった。
「あ、ちなみに黒瀬クン達も1人見つけたみたいカバよ!」
「誰?誰がいたの!?」
「万斗クンカバ!音楽ホールで倒れてたから同じく運んでおいたカバー!」
「万斗君も!?」
一体何が起こっているんだろうか。
死体が2つに負傷者が3人………。
どう考えても異常だ。
犯人は無差別にうちらを殺害しようとしたのか。
「あれ〜?そういえば柴崎くんとジャックくんはどこにいるの〜?全然話には出てこなかったけど〜
独島さんの問いにうちは体を震わせた。
まだ行方の分かっていないのは独島さんの言う通り柴崎君とジャック君だけ。
つまり…………あの焼死体の正体のうちどちらかという事になる。
「………カバカバカバ。それについては今から説明してやるカバ!ひとまずオマエら2人は中庭に集まるカバ!!残りの2人も呼んであるカバ!」
ケタケタと笑いながらモノカバは姿を消した。
「あらら〜行っちゃった☆ほら、早く行こうよ相川さん〜」
独島さんは立ち上がると手を差し伸べてきた。
「………うん」
この状況でも楽しそうに笑う独島さんに複雑な感情を抱きながら、彼女の手を取った。
「びっくりだね〜。まさか集まれるのはうちら4人だけなんて〜。これって灯里達はまさに選ばれし勇者って事だよね☆」
「だよね、じゃねーよ!どんだけポジティブに捉えてんだ!?」
「輝晃に麻音、それに李玖まで………。一体何がどうなっているのでしょうか………」
「…………」
モノカバに言われた通り中庭に集まったのは、うちと独島さんと黒瀬君と優月ちゃんの4人。
みんなは………大丈夫だろうか。
「カバカバカバー!お待たせカバー!」
するとモノカバが地面からもぐらみたいに顔を出した。
「モノカバ!!みんなは大丈夫なの!?」
「全員命に別状はないカバよ〜。万斗クン、千野クンの2人はもうすぐこれから始まる捜査に参加出来るカバー。ただ………」
「……ただ?」
「明智さんに関しては中々怪我が重症で、治療にもう少し時間がかかりそうカバ。捜査は勿論、学級裁判も参加できるか怪しいカバ」
「そんな………」
「じゃあ麻音なしで裁判やれって事かよ!?」
「明智さんいないのキツくない〜?」
探偵の才能を持ち、優れた観察眼や推理で前回の裁判に大きく貢献した明智さんの不参加。
うちらの命運に暗雲が垂れ込める。
「じゃあ柴崎君とジャック君は!?どっちかはちゃんと生きてるんでしょ!?」
「ああ、それカバ。それについては…………言いませんカバー!!」
「………は?」
「今回発見されたのは身元が分からない焼死体カバ。なら、せっかくだからその被害者不明という状況を利用するカバー!という事でモノカバファイル配るカバ!」
すると四人のカバフォンが同時に鳴った。
早速ファイルを確認する。
[モノカバファイル⑥]
被害者は《超高校の???》北条 業。
死体発見場所はB棟才能研究棟2階『超高校級の機械工』教室。
[モノカバファイル⑦]
被害者は???。
全身を酷く損傷している為、見た目からは誰か判別することは出来ない。
死体発見場所はD棟中庭の窯。
焼却前、被害者の体には薬物を摂取した形跡があり、全身に蕁麻疹が発生していた。
また、両足は切断されており、両足の太ももには刺し傷が存在した。
「被害者が…………不明?」
「そうカバ!オマエらも4回目の裁判で大分慣れてきた頃だと思うカバ。だから学級裁判の難易度を少し上げようと思うカバー!」
今回送られてきたモノカバファイルは2枚。
1人目のファイルは業ちゃんのものだ。
添付された生首の写真を見て思わず顔を背けてしまう。
そしてもう1人のファイルは、さっきモノカバが言った通り被害者の名前が書かれていない。
写真がある筈の場所も「?」と書かれている。
「難易度を上げる?どういうことですか?詳しく説明してください」
「ハイハイ。霜花サンはせっかちカバね〜。えーっと、オマエらにはまず、この『身元不明の被害者』を特定して投票してもらうカバ。その後2人を殺した犯人を見つけて投票してもらうカバ。つまり投票が2回あるってことカバ」
被害者の特定からの犯人の特定。2ステップって事か。
「その1回目の投票も間違えたらクロ以外が処刑なの?」
「当然カバ!!だから難易度が上がってるって言ったカバ!」
「そ、そんなの犯人に圧倒的に有利じゃねーかよ!?」
「3回も乗り越えたオマエらなら大丈夫カバ!まあオイラは公平性を保つために情報の偏りが出ないようにはするカバ」
「じゃあオイラはこれで退散するカバー!あぁ、今回は人数も少ないし、多めに捜査時間とるから安心していいカバー」
「分かったからとっとと失せやがれ!」
「…………オマエらの態度が日に日に冷たくなっていくのを感じるカバ………」
モノカバは背中を丸くしながらとぼとぼと去っていった。
「現状を整理しましょう」
優月ちゃんは至って冷静な表情でうちらを見渡す。
「現在動ける状態なのはここにいる4人。李玖、輝晃、麻音の3人は何者かに襲撃され現在治療中。特に麻音は重症で裁判に参加出来るかどうかも怪しい。残るジャックと武史は行方不明。つまりこの焼死体は、既に死亡が確認された業を除いた2人のうちのどちらかと推測される。…………こんなところでしょうか」
「しかもわたしたちはその正体がどっちかって事と、2人を殺した犯人をちゃんと当てないといけないんだよね〜」
「じゃ、じゃあオレら4人で捜査しなくちゃいけねーのかよ!?」
「それしかないでしょう。………どうしますか、凛?」
「………」
「………凛?」
優月ちゃんに声をかけられた。けどうちは反応する事が出来なかった。
足の力が抜けるのと同時に、地面へと座り込んでしまった。
「凛!?」
「お、おい!?大丈夫かよ!?」
「どしたの〜?どこか怪我でもした〜?」
「無理だよ…………」
「………え?」
みんなに心配され、つい本音が漏れ出てしまった。
「………今までみんなと一緒に脱出するために、コロシアイを起こさせないために色々偉そうな事を言ってきた。みんなのリーダー的存在だった錦織さんや香織ちゃんがいなくなって、だからうちがどうにかしてまとめなくちゃなんて勝手に思い込んで…………」
泣くつもりなんてなかったのに、涙がどんどん零れ落ちていく。
「なのに………また2人も死なせてしまった。本当に口だけの女だよ………。もううちに誰かに指図する権利なんてない…………。だからもう、うちはみんなに指示は出さない。出す資格がないから…………」
もう無理だよ。もうこれ以上、自分のせいで人が死ぬのに耐えられない。
「顔を上げなさい」
「………え?」
言われた通り顔を上げると、優月ちゃんが少し怒ったような表情でこちらを見ていた。
「………本来、私は凛にこのような事を言える立場ではありません。ですが、今だけは言わせて頂きます。………顔を上げなさい、相川凛」
彼女の口調、雰囲気がさっきとは大きく変化した。
ここに来て初めて会った時に戻ったみたいだ。
「………まず前提として、貴方がそこまで責任を背負い込む必要は全くありません。今回の事件も、そして今まで起こった事件も、貴方だけのせいなんて事はないんです。寧ろ殺人を止められなかった私達生存者全員に等しく責任があります」
「で、でもっ!?」
「でもじゃありません。………それに貴方は口だけの女なんかじゃない。貴方は既に私達にとって大きな支えとなっているのです」
「そんな事………!だって団結するって言っておいて、結局みんな離れていって………」
「確かに単独行動する者も出てきました。ですが一方で凛に精神的な面で救われた者もいるのも事実。………勿論私もそのうちの1人です」
そう言い切った後、優月ちゃんはうちに手を差し伸べた。
「貴方のその前向きな性格を皆信頼しています。だからこそここまでついて来たんです。…………私達は貴方に成果を求めているんじゃありません。凛、一緒にもう少し頑張りましょう。もう1人で抱え込まないで下さい。背負えなくなったら私達が背負います」
彼女の台詞にうちはハッとさせられた。
………さっき独島さんが言っていた事と全く同じことを優月ちゃんが言ったからだ。
「おう!オメー1人じゃねーんだからもっと仲間を頼れって!」
黒瀬君も笑いながらそう言ってくれる。
…………何やってんだ、うち。
こんなの…………うちらしくない。
「ごめん。なんか物凄くネガティブになってた」
うちは両手でパンと頬を叩き気合を入れる。
「うじうじするのはもうやめ!!!!これから先、どんな事があってもうちは下を向かない!前を向いて進む!!」
「………良かった。いつもの凛です」
ホッと安心したような様子の優月ちゃん。
「ありがとう、優月ちゃん」
「………礼を言われるような事ではありません」
お礼を言うと、彼女は何故か顔を背けた。
耳が赤くなっているを見ると、どうやらお礼を言われて恥ずかしくなってしまったらしい。
「ほらね、言った通りでしょ☆」
すると近づいてきた独島さんがそっと耳打ちする。
「だーれも相川さんにコロシアイを止めてくれ、なんて頼んでないでしょ〜?相川さんに求められているのは精神的支柱としての役割なんだよ〜」
「スパイって自称してるあなたがそれを言うの………」
独島さんの言葉に思わず苦笑いする。
でも、彼女の言う通りなのも事実だ。
「ありがとう、独島さん」
「う〜ん?お礼を言われるような事してないよ〜?」
結局、彼女の目的は何なのだろうか。
敵であると宣言した割には、うちらの為に助言をしたり仲間だと言って一緒に行動しようとしたり。
何か目的があるに違いないけど、いまはそれを確かめる術はない。
「よし、うちのせいで遅れちゃって申し訳ないけど、早速捜査始めよう」
改めて捜査開始のために動き出す。
人数が少ない分、やるべきことも多い。
迅速に動かないと。
捜査開始
まずは、身元不明の死体を窯から取り出す作業から始まった。
落としたりしないようみんなでそっと取り出す。
「ホントに誰だか分からないね〜」
「………酷い有様です」
「………これがジャックか武史のどっちかなんだよな?」
あらゆる場所が完全に燃え尽きてしまっている為、どんな顔をしているかも、どんな服を着ていたのかさえも分からない。
柴崎君か、それともジャック君か。
どっちかは分からないけど、この人はどのような思いで殺されてしまったのだろう。
「検死…………は出来そうにないですね」
「………そうだね。正直、この状態だとどこを見ればいいのか………」
「というか検死なんて意味ないと思うけどっ☆」
今までは必ず検死を行ってきた。
けど、今回は難しいだろう。
焼け焦げた死体から死因等を特定するなど、プロの解剖医でもなければ無理だ。
前回やってくれた優月ちゃんは素人より少し詳しい程度の知識しかないと言っていた。
「人数も少ないし、今回は優月ちゃん入れたみんなで捜査しよう」
「了解です」
「分かったぜ!」
「りょーかいっ☆」
人数がこれしかいない以上、見張り等に人員は割けない。
なら全員で一緒に捜査した方がいいだろう。
こうしてうちらは、早速さっきもらったモノカバファイルを確認することにした。
まずは業ちゃんのファイルを改めて開いてみる。
「………ほとんど情報が書いてない」
「んだよコレ!役立だずにも程があんだろ!!」
前回までのモノカバファイルとは違い、情報は皆無に等しい。
書いてあるのは死体発見場所のみだ。
「ということはつまり、ここに載ってない情報がこの事件を解決するためのキーになるって事だよね」
もう捜査も4回目だ。
何故このようなモノカバファイルを渡してきたのかは想像がつく。
前回までのパターンからして、犯人にとって不利益になると判断されたからモノカバは情報を伏せたのだろう。
「書いてないのは…………死因と死亡推定時刻、それに死体の特徴かな」
要するにこの3つの特定が急務、って事だよね。
「まーそう怒らないで黒瀬くん〜。何かわけがあるんだよ〜きっと☆」
「テメーが言うと何でも白々しく聞こえるぜ」
「え〜酷いな〜」
「よし、ひとまずこのファイルは後でまた見よう。次は………」
うちらは2枚目のモノカバファイルを開いた。
「…………死亡推定時刻が書いてない」
業ちゃんのファイルとは違い、ある程度情報は記されていた。でも全てじゃない。
「つまりいつ死んだかが重要になってくるってことかなっ☆」
「………そうだね」
独島さんの発言に同意する。
「この『薬物を摂取した形跡あり』という記述は気になりますね。この被害者は、普段から何か薬でも飲んでいたのでしょうか?」
「ん〜?もしかしてシャブでもやってたのかな〜?」
「んなわけあるか!!」
薬物を摂取………。つまり被害者は死ぬ前になんらかの薬物を体内に入れたって意味だろうけど、これが毒薬なのか、それともただの風邪薬みたいな無害なものなのか分かんないな………。
「両足が切断されてるけど、なんでなんだろうね〜?灯里超気になるっ☆」
「太ももの傷ってのも気になるよな。犯人にやられたってことだろ?」
2人の言う通り、他にも気になる情報がいくつか書かれていた。
どれも重要そうだし、頭にしっかり入れておこう。
コトダマゲット!
[モノカバファイル⑥]
被害者は《超高校級の???》北条 業。
死体発見場所はB棟才能研究棟2階『超高校級の機械工』教室。
[モノカバファイル⑦]
被害者は???。
全身を酷く損傷している為、見た目からは誰か判別することは出来ない。
死体発見場所はD棟中庭の窯。
焼却前、被害者の体には薬物を摂取した形跡があり、全身に蕁麻疹が発生していた。
また、両足は切断されており、両足の太ももには刺し傷が存在した。
次に窯周辺を調べることにした。
「それにしても立派な窯だよね〜。あ〜ここで肉とかピザとか焼いて食べたら美味しいんだろなあ〜」
「ああ、絶対うめえよ。………って、そんな事言ってる場合かよ!!」
「黒瀬くん途中まで乗っかってたじゃ〜ん」
黒瀬君、最近ツッコミに回ることが多くなった気がする。
うちとしては仲間が増えて嬉しい限りだけど。
「この窯は………造りは古いようですが思っていたよりしっかりしていますね」
中庭の中央に位置するこの窯は、レンガで作られたとても大きくて丈夫なものだった。ハンマーで殴った程度ではびくともしない頑丈さだ。
「外側には………特におかしな点はないね」
「ええ。やはり調べるべきは窯の中でしょう」
窯の扉を開け、中を覗く。
「うえ〜〜〜。こげくさーい」
「当たり前だろうが!さっきまで燃えてたんだぞ!!」
「さっきまで燃えていた………」
黒瀬君の言葉を聞き考え込む仕草を見せる優月ちゃん。
「どうしたの?」
「ああ、いえ。さっきまで煙が上がっていたという事は、犯人がこの窯を利用して被害者を焼いたのは数時間前だと仮定することが出来るので、そこから犯人を絞れないかなと考えていたところです」
「それはそうだね〜。1日前とかに燃やしたものが今日まで煙が上がってるなんて事はあり得ないもんねっ☆」
とすれば、今から数時間前のみんなのアリバイを調べればある程度犯人の目星は付けられるかもしれない。
被害者を焼くには犯人が窯があるこの場所にいなくちゃいけないからね。
「………ん?なんか奥にあるぞ?」
すると黒瀬君が、奥に何かあるのを見つけた。
「本当?取れる?」
「やってみるわ。………………おしっ、取れたぜ」
彼は窯に腕を突っ込みそれを取り出した。
手に握られていたのは…………何かの燃えカスだった。
「なんでしょうか、これは?」
「ただのゴミじゃなーい?」
「でもよ、人燃やした時にこんなゴミ出るか?」
「確かにそうかも」
焦げててそれが元は何だったのかは判別出来ないけど、人間を燃やして出る物ではないのははっきり分かった。
しかもこれ………なんか既視感があるんだよなあ。
………あ!もしかして………!
「これってさ…………お菓子の袋じゃない?」
「………確かに!」
「本当だ〜。言われてみればそうだねっ☆」
「なるほど。ポテトチップス等が入ってるあの袋ですか」
思いついたことを言ってみると、みんなから賛同を得られた。
「しかし何故、そのような物が窯の中に………?」
「被害者が焼かれる前お菓子を持ってたってことでしょ〜?そんなに気にすることじゃないと思うけどなっ☆」
「………いや、待てよ」
黒瀬君は改めて窯を覗き込むと、腕を突っ込み何かを取り出し始めた。
「おいおい、さっきみたいなゴミ、めちゃくちゃ出てくるぞ!」
そう言いながら次々と中から取り出す。
結果、お菓子袋の燃えカスもどきは小さな山が出来る程にまでになっていた。
「これは…………流石に多すぎですね」
「うん。いくら被害者がお菓子を持ってたって言っても、この量は流石に持ち歩かないと思う」
何でこんなにお菓子袋の燃えカスが出てくるんだろう………?
コトダマゲット!
[お菓子袋の燃えカス]
窯の中に残されていたお菓子袋の燃え残り。
小さな山が出来る程大量に残っていた。
「相川さ〜んこれ見てよ〜」
独島さんに呼ばれたので行ってみると、彼女は窯近くの地面にしゃがみ込んで何かを見つめていた。
「どうしたの?」
「こんなところに何か通った跡があるよっ☆」
「え?」
彼女の指差した場所を見ると、確かに何か通った跡があった。
しかもその色は赤だ。
……赤と言えば血しか思い浮かばない。
「これ………車輪の跡みたいだね」
「そうそう〜。誰かスケボーでもしてたのかな〜?」
「ははは………」
断言する。スケボーは絶対ない。
「けど、何か車輪が付いた物がここを通ったのは間違いなさそうだね」
そして赤色ということは、血痕があった場所を通ったのだろう。
犯行に使われたと考えてよさそうだ。
「問題はそれが何かだけど…………」
何となくだけどこの車輪の跡の正体は分かった気がする。
でも確証は出来ない。
あの場所を後で確認しに行こう。
コトダマゲット!
[車輪の跡]
窯の近くにあった車輪が通ったような赤色の跡。
「一応、窯周辺で気になることは調べ終わりましたね。凛、次はどこを調べるつもりですか?」
「そうだね………。時間がもったいないし、先にD棟で調べられるところは調べておこうと思うんだ。どうかな?」
「オレはそれでいいぜ!」
「異議な〜し」
「私も賛成です。気になるところはどんどん調べていきましょう」
という事で次は、明智さんと千野君が倒れていた図書館に向かうことにした。
D棟 図書館
「これは…………!」
「な、何だよこの血の量………!本当にアイツら大丈夫なのかよ!?」
初めて図書館を訪れた2人は、血塗れの光景に戦慄した。
「こんな血出たら普通死んじゃうよね〜。生きてるのが奇跡だよ〜」
独島さんの言う通りだ。
いくら2人分だとしてもこの血の量は多すぎる。
「それに分からないことはまだあるよ。どうして明智さんと千野君が狙われたのか。それに2人がどうして図書館にいたのか。いったいいつ襲われたのか、とかね」
「当事者である2人に話を聞けないのは痛手ですね………」
確かに2人に話を聞ければ誰に襲われたのかすぐ分かっただろう。
けど、2人はとても口を聞ける状態じゃない。
「それが犯人の狙いだったのかもしれねーな」
「それはまだ何とも言えないけどね。ひとまず辺りに何か残ってないか探してみよう」
うちらはさっきと同じように手分けして捜査を始める。
「………ん?」
うちはふと、机に広げられた沢山の書物に目を向けた。
きっと明智さんか千野君が襲われる前読んでいたのだろう。
この乱雑な置き方は…………きっと明智さんだな。
「この椅子、血が付いてる………」
引かれた椅子の背もたれに鮮血が飛び散っている。
恐らく、座って本を読んでいた時に背後から襲われたのだろう。
でも、何か妙だ。
「やっぱり血の量が少なすぎるよね………」
椅子に付着した血の量を見ても、この血溜まりは明らかに不自然だ。
となるとこの血溜まりの正体は2つ考えられる。
1つは飛田君が殺された事件の時みたいに、『輸血パック』を使って犯人が偽装した可能性。
もう一つは、ここで業ちゃんの首やもう1人の被害者の足を切断した可能性…………。
「これも確認する必要があるね………。あれ?」
開かれた書物の中に手帳のような物を見つけた。
「明智さんの手帳だ!」
どうやら彼女が肌身離さず持ち歩いていた手帳のようだ。
何故これが明智さんのだと分かったかと言うと、表紙に『世界的名探偵 明智麻音のマル秘ノート』と書かれていたからだ。
「秘密なら名前書かなければいいのに………」
相変わらずの明智さんに苦笑する。
「ごめん明智さん。捜査のためにノート見せてもらうね」
ここにいない彼女に謝りつつノートを開く。
そして最後のページにある記述を見つけた。
動機発表2日目
熱で朦朧としている中、トイレに行こうと個室を出た。
すると、廊下をフラフラと彷徨っているジャック・ドクトリーヌ クン相川凛を見つけた。
彼女はB棟へ向かって向かっていた。
一体、こんな夜更けに何の用があってB棟なぞに行くんだろうか。
実に怪しい。
後をつけてみようと思う。
「え…………!」
うちは思わずその記述を何度も読み直した。
「ちょっと待ってよ………。何これ………!」
驚きのあまり声が出ない。
何故なら、この記述は全くデタラメだからだ。
うちは動機発表から2日目の時点で、業ちゃんに体育倉庫に監禁されていた。
廊下を彷徨いていることなんて出来る筈がない。
………待って。明智さんは高熱によって意識朦朧だった。それなら彼女が見間違えた可能性も?
「でも………うちと誰かを見間違える?」
身長的に見間違える可能性があるのは、優月ちゃん、業ちゃん、万斗君の3人。
けど万斗君は性別が違うし、優月ちゃんは髪型が違う。
そして業ちゃんはうちとずっと一緒にいた。
そうなると、該当する人がいなくなってしまう。
「明智さん………あなたは一体何を見たの?」
彼女に聞けない以上、この記述の真偽を見抜く方法はない。
何にしろ、この記述は間違いである事は明らかだし、かと言って明智さんが嘘を書くとも思えない。
「どうなってるの……ん?これ………」
記述を今一度見直していると、妙なところを見つけた。
相川凛、と書かれた場所の隣が黒く乱雑に塗りつぶされている。
書き間違えにしてはやけに念入りに消しているような………。
それに文章の書き方も違和感がある。
「………どういうことだろう?」
この文章の真偽が議論の展開を大きく変えることになるかもしれない。
コトダマゲット!
[明智の手帳]
図書館に残されていた明智の手帳。
最後のページにある記述が残されていた。
動機発表2日目
熱で朦朧としている中、トイレに行こうと個室を出た。
すると、廊下をフラフラと彷徨っているジャック・ドクトリーヌ クン相川凛を見つけた。
彼女はB棟へ向かって向かっていた。
一体、こんな夜更けに何の用があってB棟なぞに行くんだろうか。
実に怪しい。
後をつけてみようと思う。
「あれ?この本………」
地面に視線を向けると、複数の本が散らばっていた。
何かの衝撃で本棚から落ちてしまったのだろうか。
「ん?この本………」
そのうちの1つの本に目を向けると、角に血が付着していた。
「角にだけ血が………」
これは妙だ。
なんとなく想像はつくけど、一応ちゃんと覚えておこう。
コトダマゲット!
[角が血で染まった本]
図書館に落ちていた本。角にだけ血が付着している。
「黒瀬君、ちょっといい?」
「ん?なんだよ凛」
うちは今のうちに、黒瀬君に頼み事をすることにした。
「2階の保健所に輸血パックがどれくらい残ってるか調べてきて欲しいんだけど………」
「輸血パック?まあ全然いいけどよ、なんか気になる事でもあるんか?」
「うん。この血の量がどうしても気になってさ」
「あーなるほどな。分かった、すぐ見てくるぜ」
「ごめんね、よろしく」
黒瀬君は快く承諾してくれた。
「ハァ………ハァ………全力で走ったから疲れたぜ………」
数分もしないうちに戻ってきた黒瀬君は、全力疾走したのか息がだいぶ乱れている。
「無理させちゃってごめんね………」
「ハァ………オレが勝手に走っただけなんだから謝る必要ねーよ。………それだ輸血パックなんだけどよ………」
「うん」
「一個もなかったぜ」
「………一個も?」
「………一個も」
確か1回目の事件後ちゃんと補充されていたはず。
それがないという事は…………。
「分かった。ありがとう黒瀬君」
「オレは難しいことは分かんねーからな。頭使うのはテメーらに任せたぜ。そのかわり動き回るのだったら任せとけ!」
「え〜?学級裁判で頭使わないって要するに役立たずってことじゃな〜い?」
「うるせーぞ灯里!!」
コトダマゲット!
[保健所の輸血パック]
保健所に沢山あった輸血パックが一個も無くなっていた。
「みんな、ちょっといい?」
図書館の捜査を一通り終えたところで、うちはみんなに声をかけた。
「どうしました?」
「今回の事件って多分アリバイが重要になってくると思うんだ。だから動機が始まってからのみんなの行動をまとめておきたいなと思って」
「なるほどね〜。そこからアリバイがない人を疑っていくって感じだねっ☆」
「それとこの3日間、どのような症状だったかもハッキリさせておいた方がいいですね」
というわけで、まずはこの4人の3日間の行動を共有することになった。
「なるほどね」
うちはみんなの話をカバフォンにメモしていった。
コトダマゲット!
[相川達の行動記録]
・相川
1日目………症状は⑤の食欲不振と吐き気。黒瀬、ジャック、霜花と一緒に一日中食堂にいた。何度か食堂を離れる機会はあったが、それも5分程度。
2日目………症状は⑧の手足の麻痺。気がついたら北条にB棟体育館倉庫に監禁されていた。一日中北条と一緒であった。
3日目………症状は①の鼻水とくしゃみ。霜花が助けに来てくれるまで体育館倉庫に監禁状態にあった。
・霜花
1日目………症状は②の倦怠感と寒気。相川、黒瀬 ジャックと一緒に一日中食堂にいた。独島の様子を何度か見に行くために食堂を抜け出す機会はあったが、それも数分程度。
2日目………症状は⑦の殺人衝動。1日目の明智と同じく、誰かと接触しないように自室に閉じこもっていた。
3日目………症状は⑥の幻覚。夜中に目が覚め幻覚症状が現れた。そのまま部屋でじっとして過ごし、その後眠り目が覚めた時バングルが外れていた為、状況を確認しようと部屋を飛び出し人を探していたところ、監禁された相川を見つけた。
・黒瀬
1日目………症状は⑩の無症状。相川、霜花、ジャックの3人と一緒に一日中食堂にいた。
2日目………症状は恐らく⑨の気分の高揚。いつも通り過ごし、外も普通に出歩いていた。
現在いないジャックや万斗とも会ったという。
3日目………症状は⑧の手足の麻痺。夜中に目が覚め動けない状態のまま過ごし、その後眠り目が覚めるとバングルが外れ、霜花と同じく誰かを探していると北条の死体を見つけた。
・独島
1日目………症状は⑧の手足の麻痺。一日中自室にいた。
2日目………症状は⑤の食欲不振と吐き気。時々外を出歩いていたが、基本的には自室にいた。
3日目………症状は不明(寝ていたため)。相川達に起こされるまでずっと寝ていた。
「にしても凛、テメーよく生きてたな………」
「ね〜。北条さん、『凛さんを殺して私も死にます』とか平気で言いそうだし、無理心中とかに巻き込まれなくてよかったじゃん☆」
話終えると、何故か黒瀬君と独島さんに同情されてしまった。
正直死ななくてよかったと思う気持ちはあるが、業ちゃんが代わりに死んでしまったので素直には喜べない。とても複雑な気持ちだ。
「とにかく、これで私達の3日間の行動は共有し終えましたね。疑問点はたくさんあると思いますが、ひとまずそれは学級裁判で話すことにして、ひとまず捜査を続けましょう」
優月ちゃんの呼びかけに全員が頷いた。
「うん。となると次は………」
「業のとこか………」
夥しい血が撒き散らされ、業ちゃんの生首と死体が放置されているあの部屋のことを思い出し、独島さんを除いたうちら3人の顔はサッと青ざめる。
「ん〜?みんな顔真っ青だよ〜?どうしたの☆」
「………テメーも見れば分かる」
「とりあえず移動しようか」
うちらは頭にハテナマークを浮かべている独島さんを連れて、B棟へと向かった。
B棟 才能研究棟 超高校級の機械工の教室
「うわ〜こりゃ酷いね〜」
死体発見現場を見ると独島さんは顔をしかめ自身の鼻をつまんだ。
確かにその気持ちは分かる。
それくらい血の匂いで充満しているし、このままずっといれば気分が悪くなるのは間違いないからだ。
「とりあえず私は検死をしてみます。少し時間を下さい」
「検死ってまさか………あの頭も見んのかよ」
「ええ。業の頭部から何か手がかりが見つかるかもしれませんから」
ホルマリン漬けにされた業ちゃんの生首を優月ちゃんは見る。
「ごめんね。優月ちゃんも本当はやりたくないだろうけど………」
「大丈夫です。私達が生き残るために必要な事なので。少し心苦しいですが、頭部も含めて調べてみようと思います」
「ありがとう!うちらはじゃあ周辺から調べてみよっか」
「おう!」
「おっけ〜」
優月ちゃんにお礼を言い、うちら3人は部屋の捜査を開始した。
「それにしても何この血の量………」
改めて辺りを見渡すと、床や机、壁などあらゆる箇所に血が飛び散っている。
床は特に酷く、流れ出た血液がほぼ全てを真っ赤に染め上げていた。
「ん?でも思ってたより乾いてるな………」
うちはしゃがみこみ床の血痕に触れてみた。
手に軽く血は付くけど、だいぶ血は乾いていた。
ということは、業ちゃんが殺されたのは数時間前ってことかな。
「少なくとも1時間前とかではなさそうかな」
まあ業ちゃんを殺害してしかも首まで切断するわけだから、ある程度まとまった時間が必要なわけだし。
コトダマゲット!
[乾いた血痕]
飛び散った血痕はだいぶ乾いていた。
「この周り、特に酷いな………」
機械工の教室だけあって様々な機械が置かれているが、血痕が多いのはこの場所だった。
機械の細部に渡るまで血がべっとりと付着している。
「この電気ノコギリなんて………」
部屋の端に置かれていた電気ノコギリに至っては、機械のほぼ全てが赤く染まり、元がどんな色なのか判別がつかなくなっていた。
「………!!」
そこでうちはあることに気がついた。
この機械にだけ使用した形跡があるのだ。
「………つまり、これを使って業ちゃんの首を切断したことだよね」
犯人は何らかの方法で業ちゃんを殺害した後、その首をこの電動ノコギリで切断したと考えるのが自然だ。
けど、やはり疑問なのは何故わざわざ首を切断したのかだ。
手間と時間がかかる上、誰かに見つかるリスクも高まる。
「もしかして、うちらにわざと見せつける為とか………?」
だとしたら犯人は相当性悪な人物だ。
けど、これは憶測でしかない。
真意は犯人じゃないと分からない。
「…………」
うちは無言でその場を後にした。
コトダマゲット!
[電動ノコギリ]
機械工の教室にある電動ノコギリにのみ使用された形跡があった。
「黒瀬君、何か見つかった?」
「…………」
入口付近にいる黒瀬君に声をかけると、彼はうちの声に反応せず地面をじっと見ていた。
「黒瀬君?」
「………お、おう。悪ぃ、気が付かなかった」
うちに気づいた黒瀬君が慌ててこちらを振り返った。どうやら彼は自分の手にある何かを見つめていたみたいだ。
「ううん、大丈夫だよ。それよりさっきから何か探してるみたいだけど……」
「おう、実はこれ見っけたんだ」
黒瀬君が手にしてるのは、血で赤く染まった糸だった。
「なんか入口に一本だけ落ちてるから気になったんだよな」
「本当だ」
普通なら床にゴミの一個落ちていてもおかしくはない。
けど、この教室は今黒瀬君が見つけた糸以外にゴミが一切落ちていないのだ。
…………まるで犯人が証拠を隠滅したみたいに。
「なんかこれ役に立ちそうか?」
「まだ断定は出来ないけど………これも一つの重要な証拠だと思う。ありがとう黒瀬君」
「凛の役に立ちそうならなによりだぜ!」
この情報、もしかしたら重大な手がかりにつながるかもしれない。
しっかり覚えておこう。
コトダマゲット!
[落ちていた糸クズ]
入口に落ちていた血に染まった糸クズ。
他にゴミは一切落ちていなかった。
「う〜〜〜〜〜〜ん」
教室の端の方で唸り声のようなものが聞こえるので視線を向けてみると、独島さんが壁を見ながら首を傾げていた。
「独島さんどうしたの?」
「相川さんこれどう思う〜?」
独島さんが指差したのは、壁にめり込んだ謎の物体だった。
うちはなんだろうと思い顔を近づけて確認する。
「これって…………銃弾!!」
予想外のものであった為、思わず大声を上げてしまった。
「そうなんだよね〜。わたしも最初びっくりしたよ〜」
いつもと同じく間延びした口調でそう言うと、不気味な笑みを浮かべながらこちらを見た。
「察しのいい相川さんなら分かるよね〜?銃弾が残ってるってことはつまり…………どういうことかなっ☆」
「………誰かが拳銃を使った」
「それがここで起きたってことは〜?」
「………被害者が銃で撃たれた」
「正解っ☆」
独島さんはパチパチと拍手をした。
「霜花さんの検死結果がまだだから何とも言えないけど〜、恐らくそういうことだとわたしは思うよ〜」
うちは改めて壁にめり込んだ銃弾を見る。
試しに触ってみると、かなり深くめり込んでいて取り出せそうにない。
独島さんの言う通り、業ちゃんは恐らく………。
コトダマゲット!
[めり込んだ銃弾]
教室の壁に銃弾がめり込んでいた。
「凛、少しこちらに来てもらえませんか?」
死体の検死を行なっていた優月ちゃんに声をかけられた。
「もしかして………」
「ええ。ある程度検死が終わりました」
ふぅと一息つく優月ちゃん。
「まず死因についてですが………先程そっちで凛と灯里が話してた通りです。頭部、正確にはこめかみの辺りに銃弾が貫通した痕があります。間違いなく業は射殺されたのだと思います」
やっぱりそうだ。
業ちゃんは誰かに撃たれて殺されたんだ。
「それと身体の方ですが、外傷は何一つとしてありませんでした。恐らく業は不意打ちで撃たれたのだと思います」
「もし犯人と揉み合いになった結果撃たれたなら、何らかの傷が残っててもおかしくないもんね」
まあ正直、身体能力の高い業ちゃんが他の人と取っ組み合いになって怪我するとは思えないけど。
「次に死亡推定時刻ですが、恐らく死後数時間経過してると思われるので……」
優月ちゃんはカバフォンを開き現在時刻を確かめる。
実は言うと、さっきまで監禁状態だった上に色々バタバタしていたから今何時か分かっていない。
うちも同じように時間を確認する。
「今は………朝の7時15分だね。となると業ちゃんが殺されたのは夜中とかになるのかな?」
「そうですね。夜10時から〜夜中3時頃だと思われます。ちなみに凛が業を最後に見たのはいつ頃か覚えていますか?」
「ごめん、完全に自由を奪われてたから何時かは正直分かんないんだ。………あ!」
昨日何があったかを思い出していると、一つ引っかかることがあったのを思い出した。
「どうしました?」
「そういえば業ちゃん、チャットを見て外出て行ったんだよね。まるで誰かに呼び出されたみたいな」
確か彼女は画面を見ながら『私を誘い込むつもりか、ぶっ殺してやる』みたいな事を言っていた。
「………怪しいですね。もしかしたら業はそのタイミングで犯人に呼び出されて………その後殺されてしまったという可能性も出てきます」
犯人はチャットを使って業ちゃんをこの機械工の研究教室へと呼び出した。
それなら彼女がここで殺された理由も納得がいく。
「ですが、もしそうであるなら疑問があります。何故業は凛を置き去りにしてまで素直に呼び出しに応じたのでしょうか。頭のいい彼女のことですから罠であると予測は出来た筈です」
「うちもそれ考えてた。業ちゃんなら警戒して絶対行かないはずなのに」
それ程行かなくちゃいけない理由でもあったのかな。
コトダマゲット!
[霜花の検死結果]
北条の頭部に銃弾が貫通した痕があるため、死因は銃殺の可能性が高いとの事。
死後数時間が経過しており、死亡推定時刻は夜10時から〜3時頃と予想される。
頭部以外に外傷は全く見られない。
「よし、この部屋で調べられる事はこれくらいかな」
「お、終わりか………?ならオレ外出るぜ………。流石にキツいわ………」
「わたしも〜。服に血の匂いが染みついちゃいそうだしねっ☆」
うちが一息つくと、黒瀬君はグロッキーな顔で、独島さんは若干嫌そうな顔をしながら教室の外に出た。
「うちらも出よっか」
「ええ」
うちらも2人に習い外に出た。
「ふう…………だいぶ調子が戻ってきたぜ」
「あの部屋にずっといるのか辛いよね………。うちも大分ヤバかったよ」
外に出て少しの間休憩したうちらは次捜査する場所を話し合う事にした。
「次はどこ行くの〜?」
「次なんだけど…………。二手に別れようと思う」
「何でだよ?今まで4人だっただろ?」
「それは死体付近の捜査をするに当たって証拠隠滅の可能性を防ぎたかったからだよ。でも、もう既に死体の捜査は終わったし、ここからはそれぞれ捜査した方が効率的だと思う」
「成程、理解出来ました。では、どのように分かれますか?」
「さっきはうちと独島さん、優月ちゃんと黒瀬君だったから、今度はうちと優月ちゃん、黒瀬君と独島さんのペアでどう?」
「了解しました」
「異議な〜し」
「こいつとかよ………」
黒瀬君は若干不満そうだけど、ひとまずペアは決まった。
「それで2人には捜査して欲しい場所があるんだ。それは…………」
うちは2人に調べてきて欲しい場所を伝える。
「おっけ〜。そこを調べてくればいいんだね〜」
「うん、お願いしてもいい?」
「いいぜ。じゃあさっさと行くか」
「ほいほ〜い」
2人はある場所へと向かっていった。
「では凛。私達も向かいましょうか」
「うん」
2人の背中を見送ったうちらは、別の場所へと向かっていった。
《超高校級の薬剤師》の研究教室
うちらが訪れたのは、業ちゃんの死体があった《超高校級の機械工》の研究教室の並びにある《超高校級の薬剤師》の研究教室だ。
勿論、ここに来た理由はちゃんとある。
「そうですか………。武史はそんなことを言っていたんですね」
「うん。確かに彼は『超高校級の薬剤師の研究教室』に解熱剤を取りに行く、って言ってたんだ。だから何か手がかりがないかなって思ってさ」
柴崎君は動機開始1日目に高熱を発症していた。
そして様子を見にいったうちらに対して、今から解熱剤を取りに行くから大丈夫と発言した。
柴崎君は間違いなくここに来たはずだ。
「早速入りましょう」
「うん」
うちらは教室の中へと足を踏み入れる。
「…………ビンゴですね」
「…………そうだね。間違いないよ」
中は酷く荒らされていた。
地面には様々な薬剤や液体が散乱し、鼻がツンとするような匂いが充満していた。
「ここで柴崎君は誰かと遭遇した、って事だよね?」
「恐らくは。ですがまだ断言は出来ません」
普通に薬を取りに行くだけならこんな状態になるわけがない。
「凛。布で口と鼻を覆いましょう。万が一吸うだけで有毒の物があれば私達も危険です」
「オッケー」
優月ちゃんの提案によりハンカチで口と鼻を覆いながら捜査をすることにした。
「えーっと………解熱剤は………」
ひとまず、柴崎君が探していた解熱剤を探す事にした。
息苦しさを感じながら、一つ一つ丁寧に見ていく。
「…………ん?」
するとうちは怪しさ万点のある物を見つけた。
・ヒエヒエ薬………熱を下げる効果があるが、副作用として口にした者の判断力を鈍らせる。
・モリモリ薬………食欲不振を改善する効果があるが、副作用として身体中が痒くなり蕁麻疹が出る。
・ビリビリ薬………筋弛緩剤の一種で、口にした者は約3日間痺れて動けなくなる。暴れる患者を抑え込む為に使われるらしい。
・モノカバドキシン………劇薬。一口飲むと全身が痙攣し呼吸困難に陥り死亡する。
注意!
なお、別々の薬を同時に服用すると副反応で死亡します。
細心の注意を払って使用して下さい。
「うわぁ…………」
思わずそんな声が出てしまった。
こんな物が存在するとは。
ドン引きもいいとこだ。
「ひとまずよく見てみよう。…………熱を下げる効果があるのはこの『ヒエヒエ薬』だったよね」
ラベルを見ると、『50度の熱が出ても大丈夫!飲んだらすぐ効くモノカバ印の万能薬!」と書いてある。50度の熱なんか出てたまるか。
「まあここで大事なのは『即効性』があるってことだよね」
これなら今回の動機で熱に苦しんでいた柴崎君が求めるのもよく分かる。
副作用も比較的軽めなものだし。
「で、次は………『モリモリ薬』だね」
同じようにラベルを見てみると、『ご飯を食べられないそこのアナタ!これを飲めば大食いファイターも真っ青の食欲を手に入れることが出来ます!地球上の食糧を食べ尽くすのも夢じゃありません!』と書いてある。食べ尽くしてどうすんだよ。その後餓死するだろ。
「副作用は蕁麻疹…………。あれ?それって……」
うちは慌ててモノカバファイルを見る。
「やっぱりそうだ。この焼死体、蕁麻疹が出てたって書いてある」
となると生前、この人はこの『モリモリ薬』を飲んだに違いない。
これは重要な情報かもしれない。
「次を見てみよう………。『ビリビリ薬』か」
『暴れ回る狂人と一緒にお住まいの方必見!これを飲めばゴジラでも一発で痺れて動けなくなります!この痺れる快感、是非体感してみては?」と書いてある。………とことんふざけてるな。
それにしても2日間とは結構な日数だ。
もし仮に動機開始1日目に飲んだら、3日目の今やっと効果が切れるくらいか。
こんな想像するのは嫌だけど、これを殺したい相手に飲ませることが出来れば簡単に殺すことが出来る。
犯人はこれを使って柴崎君かジャック君を…………。
「いやいや、まだ分からない。次見てみよう」
うちは慌てて首を振って自身の考えを否定する。
最後に見るのは『モノカバドキシン』だ。
これだけラベルが付いておらず、何故か不気味さを感じさせる。
「飲んだら死ぬ薬………」
こんなのを置いておくなんて………モノカバは本当に最低な奴だ。
しかし、うちはある点に気がついた。
「この薬…………使った形跡がない?」
つまり開封されていない状態なのだ。
殺人を企てる人なら絶対使いそうなのに。
「他のやつはどうだろう」
慌てて他の3つも確認する。
結果、他の3つには開けた使用された形跡があった。
「使われたのはこれだけなんだ。ちゃんと覚えておこう」
後でこれが何かの役に立つかもしれない。
コトダマゲット!
[薬剤師の研究教室にあった薬]
・ヒエヒエ薬………熱を下げる効果があるが、副作用として口にした者の判断力を鈍らせる。
・モリモリ薬………食欲不振を改善する効果があるが、副作用として身体中が痒くなり蕁麻疹が出る。
・ビリビリ薬………筋弛緩剤の一種で、口にした者は約2日間痺れて動けなくなる。暴れる患者を抑え込む為に使われるらしい。
・モノカバドキシン………劇薬。一口飲むと全身が痙攣し呼吸困難に陥り死亡する。
注意!
なお、別々の薬を同時に服用すると副反応で死亡します。
細心の注意を払って使用して下さい。
なお、使用されたのはヒエヒエ薬、モリモリ薬、ビリビリ薬の3つのみで、モノカバドキシンは未開封。
「凛、ちょっといいですか?」
後ろからツンツンと肩を叩かれ振り返ると、優月ちゃんがとある場所を指差していた。
「何かあったの?」
「ええ。これを見てください」
言われた通り視線を移すと、割れた瓶と飛び散った血痕があった。
「これって血だよね?それに派手に割れた瓶………」
「ええ。この瓶を見て欲しいんですけど、瓶にも血が付着しています。つまり……」
「この瓶で誰かが殴られたって事だよね?」
うちの問いかけに優月ちゃんは静かに頷いた。
なんとなくここで起きたであろう出来事を想像出来た。
誰かと誰かがここで争う。棚にあった瓶等が荒れて地面に落ちる。そして片方が落ちていた瓶を拾ってそれで殴りつける。こんな感じだろうか。
これも覚えておかなくちゃ。
コトダマゲット!
[飛び散った血痕と血が付着した瓶]
《薬剤師の研究教室》に落ちていた。
ピンポンパンポーン………
「さーてオマエラら、学級裁判の始まりの時間がやってきましたカバー!さぁ、1階の101教室に集合するカバー!」
捜査時間終了のアナウンスが鳴り響いた。
これから4回目の裁判が始まる。
「………行こう、優月ちゃん」
「………ええ」
うちらはいつもの始まりの場所へと向かっていった。
「おふたりさんおつかれ〜」
101教室の前で独島さんと黒瀬君ペアと合流した。
「凛、テメーに言われてたこと、ちゃんと確認してきたぞ」
「ありがとう。それで………どうだった?」
「相川さんの言う通り、お菓子が大量に無くなってたよ〜」
「それに台車も無かったぜ!」
2人の報告を聞いてうちはやっぱりかと納得する。
2人には分かれる前に購買の在庫を見てきて欲しいと伝えておいたのだ。
「ありがとう。ちなみに台車って…………」
「D棟の音楽ホールですね。輝晃が倒れていた場所と同じです」
万斗君を発見した優月ちゃんも情報を教えてくれた。
この手がかりもしっかり覚えておこう。
コトダマゲット!
[購買の在庫]
事件前と後でお菓子が大量に持ち出されており、また、台車一台も無くなっていた。
A棟 101教室
中に入ると、既に先客がいた。
「万斗君!それに千野君も!!」
その正体は傷を負っていた万斗君と千野君であった。
うちは思わず喜びの声を上げる。
「2人とも大丈夫なの?」
「………平気だよ」
「………ええ。おかげさまで」
しかし2人の様子はいつもとは明らかに違った。
「万斗君?顔が真っ青だけど………」
「ぼ、ボクのことは放っておいてくれよ。それに………どうせ犯人も分かりきってるんだし…………こんな茶番、なんの意味があるんだよ……」
万斗君は非常に素っ気ない態度でうちと目を合わせず、ブツブツと喋るとすぐ離れてしまった。
そして対する千野君は不気味な程優しい笑みを浮かべ返答してきた。
前までうちらのことあんなに避けてきたのに………。
「相川殿」
その彼がうちの名前を呼ぶ。
「ん?どうしたの?」
すると千野君はうちの耳元に近づくと………。
「拙僧は容赦しません。覚悟しておいて下さい」
「………え?」
「では全員揃ったようですし、裁判場へと向かいましょう」
千野君はそれだけ言うと、うちの元を離れていった。
「………凛?李玖から何を言われたのですか?」
「………ううん、なんでもないよ」
優月ちゃんに聞かれて思わずそう答えてしまった。
…………どういうことだろう。
自分を傷つけた犯人を絶対に追い詰めるってこと?
でも、それをわざわざうちだけに言ったのはどうして?
千野君。あなたは今、何を考えているの?
「カバカバカバ!!!いいカバね!このピリピリした空気、最高カバよ!」
するとモノカバがゲラゲラと笑いながらうちらの前に姿を現した。
「テメー笑ってんじゃねえよ!!」
「カバ?この絶望的な状況笑って何が悪いカバ?」
「ぶっ飛ばしてえ………!」
「黒瀬くん怒りを抑えて〜。殴ったら黒瀬くんがこの世からぶっ飛ばされちゃうぞっ☆」
「分かってるつーの!!つーかスパイのテメーが言うなコラ!」
「てへぺろ☆」
「………モノカバ殿。全員揃ったでしょう。何故裁判場へのエレベーターが開かないのですかな?」
独島さん達のいつものやり取りを無視し千野君がそう尋ねる。
「カバ?だって全員揃ってないカバ?後1人来るカバ」
「???」
「後1人?それって………!」
「待たせたな、諸君。スーパー名探偵の参上だ」
「明智さん!!」
声がした方を振り返ると、頭に包帯を巻いた明智さんがいつもの自信満々な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「!?」
「麻音!!よく戻ってこれたなテメー!」
「めでたいね〜。よかったよかった☆」
「無事で何よりです、麻音」
「いやはや、流石のワタシも今回ばかりは死にかけた。だが、世界一頑丈な名探偵として知られているワタシはこの程度では…………うおっと」
うちは思わず明智さんに抱きついていた。
「良かった………!無事でよかったよ………!」
「…………………ふふふ。助手よ、名探偵が助手を置いて先に死ぬわけないだろう。心配性だな、助手は」
明智さんは呆れた様子で、だけどうちの頭を優しく撫でてくれた。
「さてモノカバ。これで全員かね?」
「そうカバ!じゃあ早速開けるカバね!」
いつも通り黒板が回転し、エレベーターへの道が開ける。
「このような極悪非道なことをしでかした犯人を、拙僧は許すわけにはいきません」
不気味な程落ち着いた様子で前を見据える千野君。
「心してかかりましょう。今回の裁判、相当厳しいものになりそうです」
険しい表情で拳を強く握り直す優月ちゃん。
「…………さて、今回の謎はどう攻略していこうか」
いつも通りの様子で堂々と歩みを進める明智さん。
「さてさて〜、今回はどんな楽しいことが待ってるのかな〜。灯里超楽しみっ☆」
無垢な笑顔を浮かべながら心を踊らせる独島さん。
「よっしゃ!!気合十分だぜ!!!!」
エネルギーが全身に満ち溢れた様子の黒瀬君。
「ボクは一体、誰を信じればいいんだ………。誰か教えてくれよ………」
誰も信じられず、完全に疑心暗鬼に陥ってしまっている万斗君。
「…………行こう」
全員がエレベーターに乗り込むと、扉が閉まりそれは動き始めた。
エレベーターはいつも通り、不安を掻き立てるような音を鳴り響かせながら落下していく。
最初は定員オーバーギリギリだったこのエレベーターも、今ではすっかりガラガラになってしまった。
そのせいなのか、いつもより落下速度が早く感じられる。
そんな事を考えているうちに、あっという間に目的地に着いた。
扉がゆっくりと開かれる。
「ようこそおいで下さいましたカバー!!当裁判場は、お客様によりよい絶望を味わって頂ける最高の場所となっておりますカバー!さあさあ、どうぞ自分の席でごゆるりとお過ごしくださいカバ!!!」
「旅館風に案内しないで」
ふざけたモノカバは無視して、いつもの定位置につく。
希望ヶ峰学園の予備学科生で、かつ放火魔として世間を騒がせた北条業ちゃん。
最初は、少し恥ずかしがり屋だけど素直なとてもいい子だと思っていた。
けど本性は、うちに尋常じゃない程の執着を見せ、他人を攻撃したり、うちを監禁してまで独占しようとする歪んだ愛情の持ち主であった。
正直、うちへの行動はともかく、他の人を傷つける行為は許されるものではなかった。
また、うち自身も彼女に困らさせた事も数多くあった。彼女と距離を取りたいと考えた事は何度もある。昨日なんて怒りで怒鳴ってやろうと思ったくらいだ。
それでも、頭の回転が早い業ちゃんに助けられた事があったのも確かだ。
それに形はどうであれ、業ちゃんがうちを想ってくれていたという事実はとても嬉しかった。
そんな彼女が今回………無惨に殺害された。
そして窯で焼死体で見つかったうちらの仲間。
それがジャック君か、それとも柴崎君かはまだ分かっていない。
何故身体を焼かれなくてはならなかったのか。
何故生きているもう1人の姿が見えないのか。
この裁判の最大の焦点はそこだろう。
また2人の人間がこの世から姿を消した。
今回の裁判、難易度は最高レベルだ。
負傷した3人、被害者不明の状況、そして被害者と加害者の両方を当てないとシロである人間は全員死亡というルール。
一時も気が抜けない。
常に死神に命を狙われている、と思っていいのかもしれない。
けど、うちの心は至って冷静だ。
こんな残忍な方法で仲間を殺した犯人を必ず見つけてみせる。
このまま逃げ切ろうとするなんて………うちが絶対許さない。
4回目の裁判が今、幕を開ける。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
MC003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
MC006 柴崎 武史《歴史学者》
MB007 霜花 優月《狙撃手》
MA008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
MC009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
MB011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
SB012 中澤 翼 《フットサル選手》
LB013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
MB014 分倍河原 剛 《空手家》
015 北条 業 《希望ヶ峰学園予備学科生/放火魔》
MA016 万斗 輝晃 《情報屋》
MB017 幸村 雪 《激運》
MA018 明智 麻音《探偵》
残り9人?