ダンガンロンパ キャンパス   作:さわらの西京焼き

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大変お久しぶりです。なんとか生きています。
実に約1年半ぶりの更新となります。
全人類から存在を忘れられないうちに、ひとまず5章おしおき編までを目標に頑張って更新出来たらなと思います………





(非)日常編④

 

 

 

 

 

 

時は、千野李玖からのアナウンスが流れる数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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軟禁生活40日目  AM7:00 相川の個室

 

 

 

 

 

 

 

「…………朝か」

目が覚めると、うちは仰向けのままぼーっと天井を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

この『希望ヶ峰大学』と呼ばれる現実ではない電子空間に閉じ込められてから40日目の朝を迎えた。

1ヶ月弱の日が過ぎたせいか、ここでの生活にすっかり慣れてしまった。

この個室も、今はまるで自分の家の自分の部屋なんじゃないかって錯覚するくらい安らげる場所となってきている。

コロシアイをさせられている、にも関わらずだ。

「『慣れ』って怖いな」

そんな独り言を呟きつつ、身支度を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず千野李玖からのアクションがないため、最近のうちの生活パターンは固定化されつつある。

まず朝は、少し早起きして厨房に行き、優月ちゃんと2人で全員分の朝食を作る。

勿論、朝食の食材の購入にかかるモノマネーは後でみんなから徴収する。

最初は明智さんと黒瀬君も手伝おうかと言ってくれてたけど、作る量もそんなに多くないし、あまり厨房に人数が集まっても窮屈になっちゃうからという理由で申し出だけありがたく受け取ることにした。

ちなみに柴崎君は、『相川サン達いるし僕いらないッスよね?』とか言って手伝う事を初めから放棄していた。

あの薄情者め。

 

 

 

 

 

朝食が出来た後は、寝起きの悪い柴崎君をうちが起こしに行く。

彼は自分でも言ってた通り、本当に寝起きが悪い。

どれくらい悪いのかと言うと、個室のベルを何十回と連打し、起きろ起きろと声を何回もかけ、お玉でフライパンをバンバン鳴らしてやっと起きるくらいだ。

柴崎君が出てくる時は既にうちはクタクタになっているくらい、うちは彼を起こすのに超頑張っている。

なのに彼は『………相川サン、おはよッス』と寝ぼけた様子で挨拶するだけ。

その顔を見る度に頬を引っ叩いてやりたくなる。

けど、前まで散々煽られてきたのに比べると、こんなのは全然大した事じゃない。

その点で考えたらある意味、柴崎君のあのうちらを煽る演技は、煽り耐性を付けるという点では有効だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

柴崎君を叩き起こして朝食をみんなで食べた後は、解散して各々がやりたいこと、やるべき事をしている。

 

 

 

 

柴崎君は、最近はずっと霞ヶ峰さんの研究教室に籠り、コロシアイのプログラムの解析に追われている。

どうやら柴崎君によると、霞ヶ峰さんの研究教室にあった大量のパソコンには、このコロシアイに関わる重要な情報が入ったデータファイルが大量に残されていた。

もしかしたら、霞ヶ峰さんが裁判で処刑される直前に何か知っているような様子を見せたのは、この中にあるデータの一部から真実を知ってしまったから、かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その中でどうやら【モノカバ等の機械の制御プログラム】なるものがあったと柴崎君から報告があった。

何故霞ヶ峰さんの研究教室のパソコンにそんなのが入っているのか、では彼女は黒幕側の人間ではないのか、なんていう当然の疑惑がうちらの中で出てきたけど、後で灯里ちゃんに聞いたら『それは絶対にない』って否定していたので、恐らく黒幕がうちらにコロシアイの謎を解かせるためにわざと用意したヒントか何かだろう。

 

 

 

 

だから、それを解析してプログラムを起動させれば、千野李玖がどんなコロシアイを仕掛けてきてもコロシアイを未然に防ぐ事が可能かもしれない。やれる事はやっておきたいから自分にやらせてくれ、と柴崎君は立候補した。

『僕がお願い出来る立場じゃないのは重々承知ッス。けど、この役立たずの未来機関の人間に挽回のチャンスをくれないッスか』といつもの五百倍真剣な表情で言った時は少し驚いた。彼なりに今までの失敗を取り返そうとしているという強い意志を汲み取ったうちらは、そこまで馬車馬のようにしっかり働いてもらおう、ということで信用して任せることにした。

 

 

 

 

 

 

他のみんなはというと、明智さんは図書室で読書や今までの生活で判明した事実や疑問点の整理、黒瀬君はB棟でひたすら身体トレーニング、優月ちゃんはエリア全体の見回りと点検、時々黒瀬君のトレーニングに付き合ったりしているという。

 

 

 

 

 

そしてうちはというと……………一日かけて全員の元を回っていることが多い。

明智さんの話し相手になったり、黒瀬君のトレーニングに参加させてもらったり、優月ちゃんと一緒に校内を回ったらしたり、柴崎君の様子を見に行くついでに簡単な作業を手伝ったり………

要するに『何でも屋』みたいなことだ。

これでいいのかな、と最初は疑問に思っていたけど、『これは助手にしか出来ない事だ』なんて明智さんに肩を叩かれながら言われてしまい、うちは思わず頷いてしまった。

けど、何にも特技がない平凡なうちにもできる事がある、ということならやるしかない!と思い日々頑張ってるつもりだ。

 

 

 

 

 

そして夜になるとまた厨房へ行き、優月ちゃんと全員分の夕食を作り、みんなで夕食を食べる。

その後は()()()()へ足を運び、()()()()と話をして、個室に戻り寝る。

これが最近のルーティンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その『ある施設』、『とある人』とは何なのかというと………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………さん。相川さんってば」

「…………ん?どしたの灯里ちゃん」

「『どしたの』じゃないんだけど。ぼくの話聞いてるの?」

「んー?ちゃんと聞いてたよー?」

「じゃあ、ぼくが今何の話してたか言ってみてよ」

「え?えーっと、そのぉ…………『灯里ちゃんが路上で一発芸やってそれがつまらなすぎて通行人にパイを顔面に投げつけられた』って話だよね?」

「1ミリも話聞いてないじゃん?今からその顔にパイ投げつけてもいい?」

「ご、ごめんなさい………実は全く聞いてませんでした………」

「何でそんな秒でバレる嘘つくかな」

「へへへ………温泉が気持ちよくてついぼーっとしちゃうんだよねえ」

「………まあ、それは分かるけどさ」

 

 

 

 

そう、『ある施設』というのはC棟にある温泉施設。

監視カメラがない、そしてリラックスしながら話が出来ると言う理由でここに集まっている。

 

   

 

 

そして、『とある人』というのは……………独島灯里ちゃんのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このコロシアイを引き起こした絶望の残党の組織の1つである『絶望の庭』の幹部であるとカミングアウトした独島灯里ちゃんは、実は絶望のために組織に入ったのではなく、同じ『絶望の庭』幹部の千野李玖を殺すために、現在は組織に身を置いている。

過去に彼女の住む村を襲撃し、彼女の家族を含む村人全てを殺害し、更に自身を今でも凌辱し続ける千野李玖を灯里ちゃんは恨み、憎み、そして仇を取るために千野の側で虎視眈々と復讐する機会を伺っていた。

その話を聞かされたうちらは、結論から言うと【彼女と手を組む】ことにしたのだ。

灯里ちゃんからはこのコロシアイや『絶望の庭』に関する関する情報を提供する代わりに、灯里ちゃんが千野李玖に復讐(殺す)する事を邪魔しない。

そんな協定を結んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

うちは彼女の話を聞いて、『どんな理由があれ、殺すのは駄目だよ』なんて綺麗事を彼女の目の前で言うことは出来なかった。

何故ならあいつは、千野李玖は灯里ちゃんだけじゃない、うちの大事な友達の銀山香織ちゃんにまで手を出した。許せない気持ちはうちも一緒だ。

だからうちらは、彼女の復讐を手伝うもまではいかないけど、少なくとも邪魔はしないことにした。

 

 

 

殺しを見逃すなんて、普通なら人間として最低のことだ。

でも。

それでも。

………灯里ちゃんの気持ちを考えると、もし彼女の悲願である復讐を成し遂げられなかったらって考えると………その場での偽善で止める事が………どうしても出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「それで、そっちは大丈夫そうなの?」

灯里ちゃんはふやけたうちに対してぶっきらぼうにそう尋ねてきた。

「ん?大丈夫って?」

「柴崎君だよ。彼、ずっとデータの解析してるんでしょ?」

「うん。あともう少しみたいなんだけどね。『モノカバの制御プログラム』は相当複雑なんだって」

まあ、このコロシアイを牛耳る黒幕が操る機械だし、複雑なのは当然なんだけど。

「そっか。ぼくが知っていればよかったんだけど、モノカバとかの機械関係についてはボスと千野李玖(クソ野郎)しか知らないし………」

「灯里ちゃんは心配しなくても大丈夫!うちらに任せておけば心配ないよ!」

「相川さんのその自信はどこから来るわけ………」

呆れ顔をこちらに向けてくる灯里ちゃん。

数日前彼女と温泉でお互いの本音を打ち明けてから、彼女はうちに本来の性格で話してくれるようになった。

結構毒舌で、今のように思ったことをズバズバ言う。

なんか、出会ったばっかりの頃の優月ちゃんと似てる気がするなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………まあいいや。あと少しなら大丈夫だろうけど、一応伝えておくよ」

「……もしかして、もう【最後のコロシアイ】が始まる?」

「…よく分かったね。そう、千野は今日、ぼくにおおよその準備は終わったって言ってきた。だから多分、今日から三日以内に放送で呼び出しがかかると思う」

「その【最後のコロシアイ】の内容って………」

「明智さんが予想していた通りだよ。みんなと()()()()達でサバイバルゲームをさせるみたい」

サバイバルゲーム、か………。

………………()()()()だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明智さんは数日前、定例会議のようなものをしてた時、こんな事を言っていた。

 

 

 

 

 

 

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『さて、これからワタシ達参加者がやらされるゲームについてだが………大方予想はつく。恐らくサバイバルゲームだろう』

 

 

『千野李玖クンはどうやらワタシ達5人全員を生存させるつもりはないみたいであった。とすれば、コロシアイのような何が起きるか分からず不確定な要素が多いものではなく、サバイバルのような手っ取り早く人数を減らせるゲーム方式を選ぶと考えるのが自然だ』

 

 

『次にそのゲーム形式についてだが、ワタシ達5人同士で殺し合わせてもいいだろうが、あの男はワタシ達を苦しめいたぶってから死なせたいようだから、自分の支配下にあるモノカバを使いワタシ達を殺しにくる、というのが一番しっくり来るな。生存者であるワタシ達vs千野李玖クンが操るモノカバの銃撃戦というわけだ』

 

 

『加えて、彼の性格からも予測することが出来る。彼のようなプライドが高く傲慢で自分の頭が良いと思っている愚かな人間は、自身は高みの見物を決め込む事が多い。つまり、自身がゲームマスターとなり、ワタシ達参加者を見せ物として楽しむ。そのようなルールを選ぶことが統計上極めて多いのだ』

 

 

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やっぱり、明智さんの予想は正しかった。

というか明智さん、予想とはいえドンピシャで当てるなんて……流石は[超高校級の探偵]。恐れ入る。

「うん、分かった。ありがとう」

「ごめん。これ以上はぼくも話せない。千野李玖(人間の屑)に口止めされてるから」

「うん、灯里ちゃんの立場もあるもんね。寧ろ()()()()()()()()()()()()()のが分かっただけでも大収穫だよ!」

「………そっか」

彼女はどうしてだろうか、少しだけ悲しそうな表情をこちらに向けた。

「それよりも灯里ちゃんは大丈夫?うちとこの時間に会ってるの、千野にバレてるんでしょ?後で灯里ちゃんが千野に酷い事されたりとかしないよね?」

「ああ、それなら大丈夫。ぼくもあいつから『相川凛達の動きを探って報告しろ』って命令を受けてるから。だから接触しても問題なし。申し訳ないけど、相川さん達のおおまかな動きは伝えちゃってるよ。あ、その『モノカバ制御プログラム』とかの重要な部分は伏せてるから心配しなくていい」

「ありがとう!………じゃあ、そろそろ覚悟を決めないとね」

「………覚悟、ね」

灯里ちゃんは湯船から立ち上がる。

 

 

 

 

 

「相川さん。ぼく達が接触するのは今日で最後にしよう。お互いにもう、やらなくちゃいけないことがあるわけだし」

彼女の真剣な眼差し。

その瞳には、黒い炎が映っているように見えた。

その黒い炎の燃料は、当然()()

彼女がどれ程の思いでここまで生きてきたか。

 

 

 

 

「………そうだね。分かった。今まで色々教えてくれてありがとう」

「……お礼を言われるようなことはしていないよ。ぼくは相川さん達を巻き込んだ責任があるし、寧ろ罵倒される側だと思うけど」

「その話は前もしたでしょ?うちが灯里ちゃんを今罵倒してもコロシアイは終わらないし、現状は何も変わらないんだから」

「…………そうだね」

灯里ちゃんはタオルで体を拭くと、脱衣所に向かう。………が、扉を開ける直前、改めてこちらを振り返る。

そして口を開きかけて、言いづらそうに口を閉じた後、一度深呼吸をして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなをコロシアイに巻き込んだぼくが言っていい台詞じゃないと思う。けど、これだけは言わせて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対生き残って。そしてまた会おう。ここじゃなくて、現実の世界で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決意に満ちた表情。

 

 

 

 

 

 

 

 

うちは、彼女が復讐を終えた後の世界について考えていることに嬉しさを覚えつつ、笑みを浮かべ拳を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!絶対会おう!」

彼女はそれに対して、困ったような顔で拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

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そして時は現在に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピーンポーンパーンポーン…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おはよう、下等生物の諸君。ご機嫌いかがかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これから【最後のコロシアイ】の説明を始める。今すぐにA棟101教室に集合しろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

千野李玖はそれだけ言うと、すぐ放送を切ってしまった。

「…………………」

相変わらず偉そうな態度だ。

………あの男の見下す態度が本当に気に食わない。

自分も同じ人間のくせに。

お前にうちらの命を奪う権利があるのか。

目の前に現れたら思いつく限りの罵詈雑言を浴びせてやりたい。

うちは遅れないようにてきぱきと身支度を済ませる。

そして、机の上に置いてあるとある物に手を伸ばす。

それは、香織ちゃんの研究教室で見つけてから肌身離さず持ち歩いている『香』の将棋の駒。

………香織ちゃん。

あなたの分までうち、頑張るから。

「………行こう」

うちはそれをポケットに入れると、個室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A棟 101教室

 

 

 

「みんなおはよう」

「おはようございます、凛」

「………おう」

「来たか、助手」

「………………どもッス」

うちが到着すると、既に明智さん、黒瀬君、優月ちゃん、柴崎君の4人が揃っていた。

優月ちゃんはいつも通り丁寧に挨拶してくれたが、黒瀬君は挨拶する余裕はないのか、軽く会釈しただけだった。

明智さんもいつもより表情が険しい気がする。

柴崎君は…………ああ、明らかに寝不足だ。

とんでもない隈が目元に出来てるもん。

 

 

 

 

 

 

「あの放送………ついに仕掛けてくるんだね」

「ええ。………結局、私達に何をさせたいのか分かりませんでしたが」

「なあ、【最後のコロシアイ】とかいうのは本当だよな?これを生き残れば、オレらは帰れるんだよな?」

「どうだか。あの悪意の塊みたいな男が本当のことを言うとは思えないッスけどね」

「柴崎武史クンに同意だ。あの男を信用しない方がいいとワタシが思うがね」

明智さんの言うとおりだ。

あの男が何を言っても信用に値しない。

そのくらいうちも、それにみんなも怒っている。

 

 

 

 

 

 

 

「千野李玖と灯里ちゃんはまだ来てないみたいだね」

「………あの野郎、自分から呼び出しといて遅刻かよ。ふざけやがって」

黒瀬君が怒りを露わにしながら入口を睨みつけている。

「独島灯里クンも千野李玖クンと一緒にいるだろう。あの2人は『仲間』なのだからな」

「ま、普通そうッスよね」

いくら千野李玖の事を憎んでいるからって、うちらと一緒にいたら裏切ったって事がすぐバレる。

だから彼女は今もあいつの側にいる筈だ。

 

 

 

 

 

「ん?」

「どうしたの、優月ちゃん」

「何か聞こえませんか?機械音のような………」

優月ちゃんがそう言った直後、教室前方の天井からモニターが降りてきた。

「………何だ?ありゃ」

「分かんないッスけど、あのモニターを見ろって事じゃないッスか?」

うちらは前方へと近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごきげんよう、下等生物の諸君』

うちらがモニターに集まった直後だった。

モニターにある映像が映し出された。

そこには………千野李玖、そして隣には灯里ちゃんがいた。

 

 

 

 

 

 

 

「テメーどこいやがんだコラ!姿みせろ!」

『何故支配者である私が貴様らみたいな下民の前に姿を見せる訳がないだろう。黒瀬敦郎、貴様は本当に最後まで成長しなかったな。図体だけデカいお荷物。貴様にはそんな称号がピッタリだ』

「黒瀬サン堪えて。安い挑発ッスよ」

黒瀬君が拳を握りしめたのにいち早く気がついたら柴崎君が、黒瀬君を諌める。

「分かってんよ…………………よし、堪えたぜ」

怒りをぐっと堪えた黒瀬君。

あの男は黒瀬君が成長してないなんて言ってたけど、そんなことはない。

感情をコントロールすることが出来るようになった黒瀬君は確実に成長している。

 

 

 

 

 

『ん?何だ?誰1人として守れていない無能未来機関構成員が保護者気取りか。これが敗北した者の哀れな末路か。どうやら裏でコソコソとやっていたみたいだが全て失敗に終わったみたいだな。ハハハ、手のひらで転がされていたと知った今の気持ちを是非私にも教えてくれよ』

すると千野は、標的を変え柴崎君に対しても挑発を仕掛けてくる。

「武史。乗るんじゃねーぞ」

「誰に言ってるんスか」

けれど、柴崎君の表情はいつもと変わらない。

多分心の中では超ムカついてると思うのに、流石のポーカーフェイス。

「アンタ、今自分がなんか無理してキャラ作りしたけど失敗した超イタい奴ってことに気がついてない感じッスか?……あ、すんません、自分のことを『支配者』なんて言ってる厨二病の馬鹿に言っても意味なかったッスね。失敬失敬」

そして、お返しとばかりの挑発。

ヘラヘラした柴崎君の態度に千野の眉がピクリと動いたのが分かった。

 

 

 

 

 

 

『…………つまらない男だ。………おや?自分勝手な行動で相川凛を命の危機に晒した貴様が何故仲間ヅラをして隣に立っているんだ?』

今度はうちの隣に立っている優月ちゃんにも矛先を向ける。

「………今度は私ですか」

『言い返せないということは、心当たりがあるということか。ハハハ、それはそうだろうな!今も相川凛は貴様の事を憎んでいるだろうし、貴様は誰からも仲間だとは思われてないかもしれないからな!』

「言いたい事はそれだけですか?」

『…なに?』

「私は確かに罪を犯した。しかしそんな私を彼女達は許してくれた。私を仲間だと言ってくれた。だから私は恩返しがしたい。その信念でここに立っています。貴方の言葉程度で私の信念は揺るがない」

「優月ちゃんかっこいい………」

「ちょっと、あまりからかわないで下さい」

隣でこっそりそう伝えると、優月ちゃんは照れていた。かわいい。

 

 

 

 

 

 

「というわけだから。無意味な話はやめた方がいいよ」

うちは胸を張り、モニター越しに千野李玖を睨みつける。

「黒瀬君も、柴崎君も、優月ちゃんもあんたなんかの挑発には乗らないんだから」

「助手よ、ワタシはどうなのかね?」

「明智さんは最初から心配してないよ。明智サンが口喧嘩で負けるわけないからね」

「………フッ、流石は我が助手。ワタシのことをよく分かってるじゃないか」

明智さんは自身の被る帽子のつばを触りながらにやりと笑う。

 

 

 

 

 

 

「………というわけだ。その聞くに堪えない稚拙な挑発を止めて、さっさとワタシ達を呼び出した要件を言いたまえ。ワタシ達も暇じゃないからな」

明智さんからの追及。

この空気がピリピリした状況でいつも通りのトーンで質問出来る明智さんの度胸にあっぱれ。

『………言いたまえ、だと?貴様、自分の立場をまだ理解していないようだな。貴様らの命は私が握っている。つまり私の機嫌次第で貴様らを今この場で虐殺することなど造作もない事なんだ。私の機嫌を損ねないように気をつけるべきだと思うが?そもそも明智麻音、貴様に発言を許可した覚えはない』

こめかみに青筋を浮かべる千野李玖。

しかし明智さんは全く動じない。

「キミ如きの小物にワタシの発言権を奪われる覚えもないな。個々の発言権は表現の自由として、日本国憲法第21条で保障されている。もし日本国憲法より更に上の守るべき法律があるのであれば今ここで詳細を教えてくれたまえ。あ、キミはそもそも『表現の自由』というものが何か理解出来なかったか。いやあ、済まない。ワタシレベルの知識にキミのような凡人の脳がついて来れる筈がなかったな。では解説しよう、『表現の自由』とは、思想や意見、主張、感情などを自由に表現する権利であり……」

 

 

 

 

 

 

 

『黙れ!!!!!』

明智さんの煽りに対し千野は堪忍袋の尾が切れたのか、顔を真っ赤にしてスピーカー越しに音割れする程の大声で怒鳴り、拳を机に叩きつけた。

『下等生物が俺に偉そうに講釈垂れてくるんじゃねえよ!!!今ここで殺してやろうか!!!』

口調が荒々しく変化し、目は血走っている。

きっとこの場にいたら明智さん即射殺されていただろう。

「………なーんかあの男、明智サンにだけ当たりが強くないスか?アンタ、やっぱ昔なんかあったんじゃないッスか?」

「………いや、覚えがないな。一方的に嫌われているだけだろう」

『……決めた。お前だけは今ここで殺してやる。この世に生まれた事を後悔する程無惨に、残酷に、そして全身をぐちゃぐちゃにして殺してやる。そしてこの俺に口答えしたことを後悔………』

「そうかそうか。なら御託はいいから早く見せてくれ。キミが言う『この世に生まれたことを後悔する程』というのがどの程度のものなのか、ワタシも興味がある」

千野の怒りが鎮まらない状態で、明智さんはさらに燃料を投下する。

「ちょっと明智さん!?」

流石に煽り過ぎだと思ったので、うちは明智さんの口を塞ごうとする。

もしうちのお腹を貫いた時みたいな剣がまた襲ってきたら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと落ち着いてよ』

それとほぼ同時だっただろうか。

千野が映る画面の端にもう1人の人間が現れた。

「灯里ちゃん………」

それはもう1人の『絶望の残党』であり、千野を深く恨んでいる灯里ちゃんだった。

しかも、うちと密会してた時のダウナーなテンション、つまり本来の喋り方に戻している。

『そんなんじゃいつまで経っても始められないじゃん。開始遅れちゃうけど』

『………お前、なんで喋り方戻した?俺がいつ戻せって言ったんだ、おい?』

『別にもういいでしょ。どうせこのゲームでこいつらとの馴れ合いも終わりだし』

『………フン、それもそうだな。じゃあさっさと説明しろ』

『はいはい』

千野に命令された灯里ちゃんは準備を始め、当の本人は画面外へと消えてしまった。

 

 

 

 

 

「………おい凛。今の灯里の言葉、流石に()()だよな?」

「………うん。きっと灯里ちゃん、多分うちらと和解した事がバレないように演技してくれてるんだよ」

黒瀬君に小声で聞かれたので、うちはそう返す。

千野は灯里ちゃんにうちらの動きを探ってこい、っていう指示は出したから、うちらと灯里ちゃんが接触した事は分かっている。

けれど、灯里ちゃんの復讐のことや、うちらと手を組んでいることまでは把握していない筈。だからそれを悟られないように、灯里ちゃんはわざお冷たい態度を取っているのだ。

………そうだよね?灯里ちゃん、信じていいんだよね?

しばらく待っていると、灯里ちゃんがホワイトボードを持って現れた。

『じゃあ、早速説明するから。一度しか言わないからよく聞いておいて』

彼女はそう言うと、ホワイトボードにぎっしり書かれた文字を読み始めた。

 

 

 

 

 

 

『これから君達にやってもらうゲームは、ぼく達【絶望の庭】と、君達参加者で戦うデスゲーム。ルールは簡単。ぼく達が操る大量のモノカバ軍団から逃げながら、そして時には応戦しながら各棟にある鍵を探して、ぼく達がいるE()()【黄金の間】に持ってこれたら終了』

E棟?それに黄金の間って………?

「ちょっと待てよ!E棟ってなんだよ!オレらD棟までしか行った事ねーぞ!それに【黄金の間】ってなんなんだよ?」

「今から説明するって。少しは待てないのかな黒瀬くんは」

早速質問する黒瀬君に対して冷たい態度をとる灯里ちゃん(演技だと信じたい)。

『じゃあ詳細はこのボードを見ながら聞いて。勝利条件、敗北条件とかも含めてさっと説明しちゃうから』

灯里ちゃんは持ってきたホワイトボードを指差しながら説明する。

 

 

 

 

 

 

 

ルール

 

①参加者は生存者5名(相川、黒瀬、柴崎、霜花、明智)。千野と独島はゴール地点に待機。

②参加者は各棟(A棟、B棟、C棟、D棟)に散らばっている鍵を1つ手に入れ、それぞれの棟で入手した鍵を使いE棟の扉を開ける。E棟の扉は全ての鍵が揃わないと開かない

③E棟にある【黄金の間】に辿り着いたら終了。このコロシアイから脱出することができる

なお、コロシアイから脱出出来るのは先着2名までとなる

もし仮に全員無事に【黄金の間】に辿り着いたら、コロシアイから脱出する2名をその場で選んでもらう(残りの3名はその場で射殺される)

 

 

 

 

終了条件

①参加者のうち2名が【黄金の間】に辿り着く

③参加者のうち3名以上が死亡する

 

 

 

注意点

①各棟には大量のモノカバが配置されている。モノカバは参加者を殺そうと襲ってくるため、死亡しないよう立ち回る必要がある

②今までの学則等は適用されないため、モノカバに攻撃は許可される。また、武器の使用も自由

③A棟〜D棟にはそれぞれ1名、もしくは2名しか入る事が出来ない(例えば、A棟に5人全員が入り攻略することは不可能)

④制限時間は2時間。開始は明日の午前9時から。制限時間を過ぎると、各棟に仕掛けられた爆弾が爆発する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…………」

ホワイトボードに書かれたルールを見たうちらは驚愕した。

「つまり、この【最後のコロシアイ】は………」

「………どう足掻いても僕達全員が生存する事は不可能ってことッスか」

「……ワタシの予想が的中してしまったか。やはりそうくるだろうと思ってはいたが」

『以上が今回のルールだよ。みんなのカバフォンにも同じ内容を送っておくから後で確認して。じゃあ』

「ちょ、ちょっと待って!」

うちは画面外に立ち去ろうする灯里ちゃんを引き止めた。

『……なに?質問は受け付けないよ』

「この【コロシアイから脱出出来るのは2名まで】ってどういうこと!」

『言葉通りの意味。このゲームをクリア出来るのは先着2名。後の3人はここで死んでもらう』

「なっ………!?」

「ざけんじゃねーぞ!!!」

うちが絶句していると、黒瀬君が大声で怒鳴りつけた。

「こんなメチャクチャなルールがあってたまるかよ!!!」

『…………』

画面越しの灯里ちゃんが冷たい目で黒瀬君を一瞥する。が、言葉を発することはない。

「おい!答えろよ灯里!!オレは納得しねーぞこんなクソゲー!」

『…………納得してないみたいだけどどうする?』

『……フン、手間を取らせやがって』

灯里ちゃんが千野李玖伝えると、千野李玖が画面端から出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様らが納得しようがしまいがこの場は俺様がルールだ。もし従わなかった場合この場で射殺する』

「クッ………!!この野郎………!」

「どうやら、僕達には選択肢なんて存在しないみたいッスね……大人しくこの場は引き下がるしかないみたいッスよ」

『……フン、未来機関の塵でもそれくらいは理解出来るみたいだな。そいつの言う通り、貴様らには選択肢なんてハナからないんだよ。………ああ、それと追加ルールを伝えておく』

「追加ルール、だと?」

明智さんがそう聞き返すと、千野李玖は不気味な笑みを浮かべた。

『貴様らが使用する武器だが、C棟遊園地武器庫にある武器を使用してもらう。今の話が終わったら、すぐにC棟に行って武器を準備しろ。その後は各々の個室に戻れ。それ以降、明日アナウンスが鳴るまで個室から出る事を禁止する。くれぐれも()()()()()()()()()()()()()()

「………チッ」

それを聞いた柴崎君が小さく舌打ちした。

………もしかして、柴崎君がモノカバの制御プログラムをいじってた事までバレてる?

『話は以上だ。…………貴様ら下民の愚図が惨めに足掻き、醜く仲間割れするところを楽しみにしているよ』

『………………』

そう言い残し、モニターの画面は切られた。

 

 

 

 

 

「………最低のルールだけど、やるしかないよね」

「ええ。………どうやら敵前逃亡は死罪みたいですから」

「まあ、作戦はこの後武器準備しながらたてましょうよ。まずは武器庫に行かなくちゃッスね」

「そうだな。時間は1秒たりとも無駄にはできん。……ほら黒瀬敦郎クン。キミも行くぞ」

「お、おう。そうだな………」

 

 

 

 

 

 

 

C棟 武器庫

 

 

 

3回目の殺人事件が起きた後、厳重に管理されていた武器庫に着いたうちらは、武器に詳しい優月ちゃんの指示のもと、使えそうな武器を次々と持ち出していく。

拳銃、アサルトライフル、手榴弾、C4爆弾などなど………。

「ひとまず皆さんは自衛用の武器を持っていって下さい。爆発物は私が持っていく形でも大丈夫ですか?

「それが懸命だろう。扱い方が分からないワタシ達素人が所持していたら大変なことになる。黒瀬敦郎クンなんかに爆発物を持たせたら、きっと3分もしないうちに自爆してしてしまうだろうからな」

「うぅ………何も言い返せせねえ………つーか優月、オレ銃じゃなくて金属バットでもいいか?銃上手く扱える自信がねーんだよな……」

「確かにそうですね。敦郎はそれでも大丈夫です。……武史は拳銃で大丈夫ですか?」

「僕、黒瀬サンと違って非力なんで。このくらいの軽さじゃないと動き回れないッス」

「助手とワタシも同様に拳銃の方がいいだろう。アサルトライフル等はワタシ達には扱いきれまい」

「そうだね。………けど、銃なんて使い方分からないよ……」

「大丈夫です。今から全員に使用方法を教えますから。やり方はそれほど複雑ではないのですぐに覚えられると思います」

そしてうちらは、順番に優月ちゃんから銃の使い方について教わっていく。

今この手にある銃は、指一つ動かせば人を殺せる凶器だ。

けど、うちらはをこれを仲間に対して決して使わない。

これは………生き残るためにモノカバという機械に対して使うのだ。

だから大丈夫。きっと撃てる。

そう何度も何度も自分に言い聞かせた。

けれど…………手の震えは止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

「さて、武器の準備も済んだことだ。最後の作戦会議を始めようではないか」

持っていく武器、C棟に置いていく武器を選別して準備を終え一息ついた時だった。

明智さんが張り切った様子でうちらに呼びかけた。

「え?けど千野は武器の用意終わったらそれぞれの個室に戻れって言ってたよ。この場で作戦会議なんて始めちゃっていいのかな……」

「『武器の準備を終えたら()()戻れ』とは言ってなかっただろう?つまり、ここで話し込んだ後個室に戻ったとしても指示に逆らったことにはならない」

「屁理屈だねえ……」

「なら、またぐちぐちと言われる前にさっさと済ませちゃいましょうよ」

「ええ、そうですね」

うちらは円になるような形で座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「今回のデスゲーム、通称【最後のコロシアイ】だが、ワタシの概ね予想通り『千野の操るモノカバvsワタシ達』だった。しかし、細かなルールはワタシの予想外だったものもある。そのうちの一つが【()()()()1()()()()()()()2()()()()()()()()】というものだ」

うちらは5人なのに対して、攻略すべき場所はA棟〜D棟の4つ。つまり、誰か2人はペア、残りの人達は単独で鍵を探すことになる。

「だとすると、そのペアをどうするかが大事になってきますね」

「その通りだ。単純に考えたら戦闘力が一番低い者と一番高い者がペアを組むのがベストだろうな。とするとペアになるのは………」

「あのー、それについてなんスけど」

明智さんが話を続けようとした時、柴崎君が手を挙げた。

「僕、説明受けてからここに来るまで考えてたんスよ。どうするのが一番生存率が高いのか」

「ほう。聞かせてもらおうではないか。キミのことだ。適当に組み合わせを決めたわけではないのだろう?」

「当然ッス」

柴崎君が強く頷く。

うちらも自然に柴崎君に注目する。

 

 

 

 

 

 

「じゃあまず僕なんスけど…………僕は『B棟』を担当するッス」

「B棟?それはなんで?」

「そりゃB棟には『才能研究棟』があるからッスよ。僕はそこで『モノカバ制御プログラム』の最後の仕上げをやらなくちゃいけないんス」

「あ、そっか!」

「ですが、今日に至るまで解読する事は出来なかったと言っていませんでしたか?」

「90%は終わってるんであと少しなんスよ。本当はデスゲームが始まる前に解析を終わらせてモノカバを機能停止に追いやる予定だったんスけど、千野は僕達を個室に帰らせることでそれを封じてきた。ならゲームが始まってからやるしかないんスよ」

「ふむ、それについては理解した。キミがそれを成し遂げてくれればワタシ達の生存確率は大幅に上がるからな。しかし、恐らく千野李玖は最優先でキミを狙いに来るぞ。一番危険な役だがいいのか?」

明智さんの問いに柴崎君は笑みを浮かべると

「そんなのは百も承知ッス。けど、これが僕の役目なんスよ。『未来機関』の人間として、僕がこれをやらなくてはいけないんス………」

唇を震わせ、拳を握りしめる柴崎君。

その震えは怒りというより、自分が死ぬかもしれないという恐怖からくるものだろう。

彼のこんな表情、ここにきて初めて見た。

 

 

 

 

 

 

「……柴崎君」

「なんスか。言っておくッスけど、止めても無駄ッスよ」

「ううん。違うよ。柴崎君とうちがペアになるのはどう?って提案をしたいんだ」

「!?」

うちの提案にみんなが目を見開く。

「だって、柴崎君は解析中パソコンにずっと向き合ってるわけでしょ?ならその間は完全に無防備になるよね?ならその間柴崎君を守ってあげる人が必要でしょ?」

「で、ですが凛!貴方は銃を使うことに慣れていないのでしょう!?武史を守りながら自分の身を守るなんて………!」

焦った様子の優月ちゃんが反対する。

「みんなが心配するのも分かるよ。けど、これが一番ベストな組み合わせだとうちは思うんだ」

「ほう。随分と自信満々ではないか。そう助手が考えた根拠を聞かせてもらおうか」

それに対して明智さんはじっとうちを見つめ説明するのを待っている。

 

 

 

 

 

 

 

「理由はそんな難しくないよ。各棟には1人、もしくは2人しか入れないって言ってた。棟は4つあるわけだから、1人、1人、1人、2人の組み合わせで棟を攻略しなければならない。ここまでは黒瀬君も大丈夫だよね?」

「お、おう。ばっちりだぜ」

「その時点でうちは、銃の扱いに慣れてて一番戦闘力が高い優月ちゃんと、運動能力が高い黒瀬君は1人で挑んだほうがいいと確信した」

「な、何故ですか………?」

「今回のゲームの目的は【各棟にある鍵を集めてE棟の中にある黄金の間に入る】だよね?なら、最優先ですべきことは鍵を探すこと。うちみたいな運動が苦手な足手纏いを守りながら探すより、1人で探す方が効率がいいでしょ?」

「そ、そりゃ1人の方が動きやすいって言われたらそうだけどよ……」

「だから、優月ちゃんと黒瀬君には速攻で鍵をゲットしてきてもらいたいんだ」

「で、ですが………」

優月ちゃんは不安そうな顔で俯く。

 

 

 

 

 

「それで残りの3人はどうするかだけど………間違ってたら申し訳ないんだけど、明智さんって()()()()()()()()()()()()()だったりする?」

「………何故そう思う?」

一瞬驚きの表情を見せた明智さんがうちに理由を問う。

「『探偵』って多分、事件を解決するために情報収集は必要不可欠だよね。なら、その時相手にバレないように潜入したりバレたときに逃げたりする場面って時にはあると思うんだ。だから明智さんはそういうの慣れてるかなーって。どうかな?」

「………お見事。大正解だ。確かにワタシは力はないが、この小柄な体を生かした隠密行動には自信がある。隠密は探偵には必須のスキルだ」

「ホントかよそれ………忍者と勘違いしてねーかそれ」

「知らないのか黒瀬敦郎クン。探偵の先祖は忍者だ。忍者の仕事が減り困り果てていた時に始めた次の仕事が探偵だ。辞書にも書いてあるぞ」

「嘘つけ!!!」

「と、とにかく隠れたりするのが得意な明智さんなら、ペアで行動するより1人の方が力を発揮できるんじゃないかって考えたんだ。どうかな?明智さん」

「反対する理由はないな。キミの言う通り、ワタシは単独でコソコソ動くのが性に合っている。だから1人で鍵を探すほうが圧倒的に効率がいい。非力なのも戦闘を避ければ何の問題もないしな」

明智さんはうんうんと何度か頷く。

 

 

 

 

 

 

「となると残ったうちと柴崎君がペアで決定、っていうのがうちが考えてた事なんだけど………みんなどうかな?」

「僕は相川サンと全く同じ事を考えてたッス。だから当然賛成ッスね。僕は黒瀬サンとか霜花サンに比べたら戦闘能力は皆無ッスけど、一応男なんで。道中相川サンを守るくらいは出来るッス」

「まあ………正直オレは不安な気持ちが大きいけどよ、凛の言ってる事も間違ってねーと思う。だからオレもそれでいいぜ」

柴崎君、黒瀬君は賛成派。明智さんもさっき賛成って言ってたから、残りは………優月ちゃんだ。

「………私は反対したいです。だって、凛は私達の要なんです。凛を失えば私達の希望は潰える。だから私が凛とペアになって彼女をなんとしても守る。それが一番だとずっと考えていましたし、今もそう思っています」

「優月ちゃん……………」

「…………ですが、このゲームをクリアするためには鍵を探さなくてはならない。なら、私は1人で動いた方がいい。…………その通りだと思います」

「だから…………私も凛の案に従います」

「………ありがとう、優月ちゃん」

「ただし、絶対に死なないと約束して下さい。………必ず、必ず生き残って下さい」

「うん。絶対に死なないよ。約束する」

うちらは顔を合わせて頷きあう。

 

 

 

 

 

その後、いくつかの打ち合わせを行い、うちらはお互いの個室に戻った。

寝る準備を済ませ、ベットに寝転がろうとする。

「………そうだ」

うちは久しぶりに日記を書くことにした。

机に広げっぱなしの日記。

ペンを持ち、自分の決意、思いを書き記す。

 

 

 

 

 

 

 

軟禁生活40日目

 

 

明日、千野李玖が主催するデスゲームに参加することになった。

あんな奴の好き勝手にさせない。

絶対生き残る。

そしてあいつを止めて…………このコロシアイを終わらせてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軟禁生活41日目

 

 

 

 

 

朝9時前。

うちら5人は昨日と同じ教室に集合していた。

「みんな、コンディションはばっちり?」

「おう!オレは元気100倍だぜ」

「私も問題ありません」

「愚問だな。このパーフェクト探偵明智麻音のパフォーマンスは常に完璧だ」

「眠ぃッス………」

みんないつも通りリラックスした状態みたいで安心だ。

うちも昨日はぐっすり眠れたおかげで体調は万全。準備万端だ。

『みんな揃ってるね』

すると、また昨日のモニターが作動し、今度は千野李玖ではなく灯里ちゃんの姿が映し出された。

「じゃあこれから【最後のコロシアイ】を開始するから、各自棟の入口に移動して」

灯里ちゃんが淡々と指示する。

うちらはそれに従い、昨日決めた担当の棟の扉の前に移動する。

黒瀬君がA棟、うちと柴崎君ペアがB棟、明智さんがC棟、優月ちゃんがD棟。

 

 

 

 

「みんな、うちから最後のお願いがあるの。それは………」

「分かってんよ。『死ぬな』だろ?散々昨日聞いたぜ」

「う、うん。ごめん、何回も同じこと言っちゃって。でも本当にお願い。もう、仲間が死ぬところなんてもう見たくないから」

「凛の思いは皆理解しています。全員で生きてここ出る約束ですもんね」

「何回同じこと言うんスか相川サン。なんかガミガミうるさい姑みたいッスねえ」

「ぶっ飛ばすぞマジで!」

『開始まで、5.4.3………』

「軽口はそれまでだ。さあ、始まるぞ」

「なんでテメーは笑ってんだよ………」

『2.1………』

「さあな。…………それと助手、()()()()()、忘れるなよ」

「…………………うん」

 

 

 

 

 

 

『開始』

 

 

 

 

うちは扉を真っ先に開け、中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

09:00 B棟

 

 

 

 

 

 

 

中に入ると、妙な静けさがうちらを包み込んだ。

「よいしょ」

柴崎君がうちに続いて扉から入ってくる。

そして扉を閉めた瞬間、「ガチャ」という音が聞こえた。

「嘘!?うちら閉じ込められたの!?」

「恐らく鍵を手に入れるまでこの棟から出られない仕組みなんじゃないッスか?」

「なんでそんな冷静なの………」

いつも通りのポーカーフェイスでうちの疑問に答える柴崎君。

緊張とかしてないのかな。

うちなんて今心臓が飛び出そうなくらい緊張してるのに。

 

 

 

「じゃあ昨日話した作戦通り、まずは【才能研究棟】を目指すッスよ。相川サンは僕の後ろからついてきて下さい。いいスか?基本は()()()()ッスよ」

「う、うん」

うちは武器を構えながら、柴崎君の後ろについていく。

昨日みんなで話した作戦、そして明智さんから言われた()()について思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

前日 C棟武器庫にて

 

 

「よし。では最終ミーティングを始めようか」

うちら5人は円になるようにして向き合った。

「この【最後のコロシアイ】の勝利条件は各棟にあるE棟へ入るための鍵を探し出しE棟に入り【黄金の間】とやらに辿り着く事だ。だがしかし、そこに辿り着いても生き残ることが出来るのはたったの2人のみ。これではワタシ達の目指す()()()()()()()()はどう考えても達成不可能だ。そこでワタシ達がとる作戦とは………」

明智さんはうちらの顔を一度見渡す。

 

 

 

「まず、助手と柴崎武史クンのペアがB棟内の才能研究棟へ行き、霞ヶ峰麻衣子クンの研究教室である【超高校級の動画投稿者の研究教室】にて【モノカバ制御プログラム】の解析、起動を行い、モノカバを停止させる。柴崎武史クン。起動は具体的にどのくらいの時間で出来そうなんだ?」

「恐らく………30分もあればいけると思うッス」

「そうか。ならキミがトラブルなく30分で起動出来ると信じてワタシ達も行動しよう。そして無事起動しモノカバを停止させる事が出来たら、助手が他の棟にいるワタシ達に連絡する。その後鍵を探し始める。ここまでは大丈夫か?」

「オレらはその間どうすんだよ?」

「決まっているだろう。ワタシと黒瀬敦郎クン、霜花優月クンはそれまで死ぬ気で生き残るんだ。手足が吹っ飛んでも這いつくばってでも生きるんだ」

「物騒な言い方すんなよ!?」

「ですから、基本は()()()()です。敦郎、間違っても堂々とモノカバの前に出てはいけませんよ。闘うのは見つかって逃げられなくなった時だけです」

「わ、分かってるって!ちゃんと忍者みてーに隠れてやり過ごすぜ」

 

 

 

 

 

「後は簡単だ。鍵を見つけて各棟の入口で合流。E棟を目指す。E棟内部は未知の場所であるが、モノカバが停止している状態なら特別な脅威は心配しなくていいだろう。霜花優月クンを先頭にクリアリングを行いながら進めばいい」

「くりありんぐ………?なんだそれ?」

「索敵、という意味です。危険がないかチェックしながら進むんです」

「そして【黄金の間】とやらに辿り着いたら、中にいる千野李玖クンを制圧する。間違っても殺すなよ。独島灯里クンとの協定があるからな」

「うん。うちらはあくまでこのコロシアイから脱出する方法を聞き出すのが目的だからね」

「少しくらい痛めつけてもいいんじゃないッスか?僕らにコロシアイさせてた一味の1人ッスよ?」

「気持ちは分かるけどそれは駄目。罵声を浴びせるくらいならいいと思うけど」

「おおまかな作戦はこんな感じだ。が、正直何が起こるか分からない以上、後は現場で臨機応変に対応するしかない。気を抜くなよ」

「おう!分かってるぜ!」

「了解しました」

「うす」

 

 

 

 

 

 

「助手」

「ん?どうしたの明智さん」

「キミにだけはあらかじめ言っておく。………独島灯里クンのことだが、もし仮に彼女がワタシ達の作戦の障害となるのならば、ワタシは()()()()()()()()()つもりだ」

「なっ…………!?何言ってんの!?そんなの絶対に駄目だよ!!!」

「何故だ?」

「な、何故って………!」

「この作戦はワタシ達5人全員の命が懸かっている。もし彼女のせいで作戦が失敗する可能性があるのなら、それを排除しようとするのは当然のことだろう?」

「で、でも明智さんは前灯里ちゃんと協力することについて納得してくれたじゃん!!!」

「彼女と協定を組むということについては賛成した。が、殺さないということまで約束した覚えはないな」

「そんなの………そんなのずるいよ」

「ずるくなどない。それに助手よ、独島灯里クンが千野李玖クンを殺すことは許容するのに、ワタシが独島灯里クンを殺すことは駄目というのはいささかおかしな話ではないか?同じ人間なのに、何故彼女には殺人が許される?」

「それは………彼女には事情があるから………」

「………ワタシはこの作戦が失敗しキミを失うくらいなら喜んで殺人者となろう。………そのくらいの覚悟がワタシにはあるし、他の皆にもある」

「………でも、でも………灯里ちゃんを殺すなんて………」

「そのくらいの覚悟を持て、ということだ。別に作戦が上手くいけば独島灯里クンを殺す必要はないし、彼女と共にコロシアイを脱出する事も叶うだろう。だが、もし彼女がワタシ達との協定を破り危害を加えてきた場合は、ワタシ達の手で彼女を手にかけるしかない」

「…………」

「だから約束したまえ。もし独島灯里くんのせいで仲間が危機に陥った時、迷わず引き金を引く、と。恐らく説得や対話のみで済む相手ではないからな」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「………相川サン?聞いてます?」

「ん?ご、ごめん。ぼーっとしてた」

「この状況でよくぼーっと出来るッスね。その図太さ一体どこで身につけたのやら」

「えへへ。褒められちゃった」

「今のどこが褒め言葉ッスか。………ストップ。そこの茂みに行くッスよ」

柴崎君が後ろを歩いていたらうちを制止し、茂みに向かうよう指示する。

彼の視線の先には、3匹のモノカバが歩いているのが見えた。

「………周囲を見渡しながらうちらを探してるね」

「恐らく、モノワニには音か何かを探知する機能が付いてる筈です。だから音を立てず静かにやり過ごせば………」

うちらは息を潜めてモノカバ達が通りがるのを待つ。

………ここで音を出したら死ぬ。

うちは口を押さえ声を出さないように必死に耐える。

…………早く。早く通り過ぎてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

モノカバはチラッとうちらのいる茂みに視線を向ける。

そして数秒静止。

 

 

 

 

 

 

 

その後、何事もなかったかのように通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………よ、よかった………………」

「ひとまずステルス成功ッスね」

深く息を吐き出す。

「こんな感じで研究教室までは隠れて進むッスよ。ちゃんと離れずついてきて下さい。さっきみたいにぼけーっとしてるとすぐ見つかって死にますよ」

「わ、分かってる!」

うちは軽く自身の頬を叩き集中する。

明智さんの言葉は一旦忘れよう。

そうだ。作戦を成功させれば何の問題もないじゃないか。

絶対に灯里ちゃんは死なせない。

だって、彼女と現実世界で生きて会うって約束したから。

 

 

 

 

 

 

 

 

[超高校級の動画投稿者]の研究教室

 

 

 

「……よし。ひとまずは目的地到着ッスね」

「はぁ…………はぁ………………疲れた………」

研究教室に辿り着いたうちは、床に座り込み荒い呼吸を繰り返す。

あの後、さっきと同じようにモノカバと3回遭遇しそうになった。

その度に隠れてやり過ごす事が出来たが、その時の緊張感のせいか、異常な速さ

で体力、精神力を消耗していた。

 

 

 

 

 

 

「相川サン。気を抜いてる暇なんてないッスよ。まずはバリケードを作るッス」

「ば、バリケード………?」

「万が一勘付かれてモノカバ達がこの部屋に来てもバリケードがあればある程度は耐えられる筈ッス。それに相川サンもあった方が安心ッスよね?」

「た、確かに………」

こうして、うちと柴崎君は部屋の中にある机や椅子などをドアの前に積み上げた。

「………ひとまずこんなものかな」

「助かったッス。じゃあ僕は今から『モノカバ制御プログラム』の最終解析に入るッス。相川サンは部屋の前でバリケードの様子を逐一報告して下さい。もしバリケードが破られそうならすぐに………」

「うわっ!?言ってる側からもう来たよ!」

柴崎君が話すのを遮るように、部屋の外からドンドンとドアを叩くような音が聞こえ始める。

「チッ………!相川サン、頼むッスよ!」

「う、うん!」

柴崎君はそう言ってパソコンに向かい始めた。

うちは拳銃を向け、いつでも迎撃できるよう準備する。

 

 

 

 

 

 

柴崎君が解析作業に入って何分が経過しただろうか。

外の様子は分からないけど、幸いにもモノカバの数は多くないのか、バリケードは未だ破られていない。

けれど、徐々にドアが脆くなり、バリケードも壊れ始めている。

このままだともって数分。すぐに壊されてしまう。

「柴崎君まだ!?もうそろそろ限界だよ!!」

「よし!解析率95%!あと5%ッス!」

「それってどれぐらい!!」

「約3分ッス!」

3分。

カップラーメンを待つ時間。

今この瞬間、それが気の遠くなるような時間に思える。

「うわあ!?モノカバの手が隙間から出てきた!」

「じゃあ遠慮なく撃っちゃって下さい!」

うちは優月ちゃんに教わった通り、しっかり腰で構えて照準を合わせ、弾丸を放つ。

それはモノカバの手にクリーンヒットし、壊れた機械音と共に手が隙間から抜けていく。

「やった!」

しかし、今度は1体のモノカバが無理やりバリケードの隙間に顔を捩じ込んでくる。

さらに、他の隙間からも続々とモノカバが入り込もうとしてくる。

「やばい!!!もう限界だよ!!」

そう叫んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリケードが崩れ落ち、目の前の視界が一気に開けた。

そして、目の前から飛び出してきたモノカバが一斉に襲い掛かり、うちに爪を突き立てようとする。

 

 

 

 

 

そんな………。

 

 

 

 

うち、こんなあっさり死ぬの…………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちは思わず目を瞑り死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、うちが死ぬ事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちの目の前まで迫っていたモノカバ達が、一斉にその動きを停止させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に………あった?」

なだれ込んできたモノカバが1体残らずフリーズしたかのように動かなくなったのを見て、うちは思わず呟く。

つまり、柴崎君が『モノカバ制御プログラム』の無事解析を完了させたということだ。

「やった!やったよ柴崎君!柴崎君のおかげでうちらひとまず助かったんだよ!凄いよ!!!」

うちはハイになったテンションで柴崎君の元に向かう。

「…………………」

しかし、彼はパソコンの画面を凝視したまま動かない。

「どうしたの?柴崎君が普段無表情なのは分かってるけど、流石に今は喜んでるんでしょ?」

「…………」

「………柴崎君?」

あまりにも反応がないため、少し心配になり顔を覗き込む。

その顔は、理解出来ないといった驚愕に近い表情だった。

「…………てないんスよ」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、更新プログラムの解析、終わってないんスよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パソコンの画面には『解析、起動まであと2%』と表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうこと………?ほら、だってモノカバは今も止まってるよ」

目の前でピクリとも動かない大量のモノカバ達に視線を向けながらうちはそう彼に質問する。

「…………」

柴崎君は無言で考え込んでいる。

「…………素朴な疑問なんスけど」

「え?う、うん」

「今あの大量のモノカバを操作する権限は千野李玖が掌握してるんスよね?」

「まあ、そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、その()()()()()()()()()モノカバ達はどうなるんスか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

その言葉を聞いた瞬間、恐ろしく冷たい何かがうちの背中を撫でるような、ぞわっとした恐怖に襲われた。

「嘘………じゃああいつは………!」

「………これはちんたらしてらんないッスね。相川サン。ひとまず全員に連絡入れましょう。どちらにしろ、僕達はE棟に行かなくちゃいけない事に変わりはないんスから」

「う、うん!」

うちは慌ててカバフォンを起動し、全員にチャットを送信した。

 

 

 

 

 

 

『こちらB棟の相川です。応答願います』

 

 

 

 

 

『A棟の黒瀬だ!オレは無事だぜ!』

 

 

 

 

『C棟の明智だ。こちらも無事だ』

 

 

 

 

 

黒瀬君と明智さんからすぐに返信があった。けれど………

 

 

 

 

『………あれ?優月ちゃん?優月ちゃん?』

 

 

 

 

 

D棟にいる優月ちゃんから返信がない。

「………霜花サンから応答がないッスね」

「嘘でしょ………!ど、どうしよう柴崎君!!」

「相川サンはテンパるのが早すぎッスよ。少し落ち着いてください………『霜花サン?何かあったんスか?速やかに応答して下さい』

今度は柴崎君がその場に座り込み、落ち着いた様子チャットを送る。そして数秒経った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………すみません、C棟の霜花です。応答遅れました。問題ありません』

 

 

 

 

 

 

「…………良かったあ………!」

一瞬心臓が止まるかと思った。

優月ちゃんは少し焦った様子で応答してくれた。

『んだよ、ハラハラさせるんじゃねーよ優月』

『全くだ。おかげで助手が驚いて漏らしそうになっていたではないか』

『も、漏らしそうになんかなってない!!!というかうちの姿見えてないのに分かる訳ないでしょ!!』

はい、明智さんには後で説教確定。

『それで霜花サン。応答が遅れた理由、聞いてもいいスか?』

『罠を警戒して辺りを探っていたんです。それに集中していたせいでチャットに気がつきませんでした。心配させて申し訳ないです』

『そっか。ならよかったよ。それでね、みんなに聞きたいんだけど、今モノカバはどんな状態?」

『全員止まってるぜ!武史がやったんだろ!流石だな!』

『それがですね、それやったの僕じゃないんスよ』

『………どういうことだ』

『詳細は後で説明するッス。だからひとまず鍵集めて合流しません?』

『なんかよく分かんねーけど、目的は変わってねーってことだな?なら急ごうぜ!』

『了解しました。直ちに向かいます』

『こちらも了解だ。くれぐれも警戒は怠るなよ』

「さて、僕達も鍵探すッスよ」

チャットを終え柴崎君が立ち上がる。

その顔は何故か険しかった。

「わ、わかった!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あった!柴崎君、絶対あれだよ!」

「……まさかあんなあからさまに置いてあるとは思わなかったッスね」

そして鍵を探す事数分。この広いB棟でたった一つの鍵を探すのは至難の技だと思っていたけど、鍵は体育倉庫のど真ん中にある机に置いてあった。

「じゃあみんなと合流だね!」

「そうッスね。警戒しつつ戻りましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後急いでB棟入口まで戻ると、既にみんなが待っていた。

「みんな!」

「どうやら、そちらもうまく鍵を手に入れたようだな」

「そちらも、ってことはみんなも?」

「ああ、バッチリだぜ!」

明智さん、黒瀬君、優月ちゃんの手にはちゃんと鍵が握られていた。

「これで千野李玖がいるE棟に入れる筈だが」

「あ!ここの鍵穴じゃねーか?」

「みたいッスね。じゃあそれぞれ対応する場所に入れましょ」

うちらはE棟の扉にある鍵穴に、自分達の持つ鍵を入れていった。

すると、扉から「カチャ」という音が聞こえた。

「……開いたみたいッスね」

「…………私が先行して扉を開けます。皆さんは後から付いてきて下さい」

「優月ちゃん、気をつけてね」

「ええ。任せて下さい」

「ふふふ、楽しみになってきたじゃあないか。一体この先にどのような謎が待ち構えているのだろうな」

「集中しろって、麻音」

優月ちゃんを先頭にうちらは扉を開けて突入する準備をする。

「…………では、行きます」

優月ちゃんは一息つくと、慎重にドアノブに手をかけ、一気に扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、ここ…………」

扉を開けた先に広がっていたのは、()()()()()()()だった。

けれど何もないわけではなくて、あちこちに剥き出しになった岩があったり、塀のようなものや地面に掘られた防空壕のようなところかあったり…………。

一言でいうならば、まさにそこは『戦場』だった。

「んだよここ。またモノカバでもいんのか?」

「いや、モノカバの気配は感じられないな。それどころか一切の生体反応を感じられない」

「モノカバを『生体』と呼べるかは疑問ッスけどねえ」

みんなが周囲を見渡すのを真似してうちも注意深く辺りを観察する。

壁の向こうに潜んでいるわけでもなさそうだし、防空壕の中に隠れているわけでもない。今までのエリアには停止していたとはいえモノカバがあんなにいたのに………。

「…………ああ、そういう事ですか。胸糞悪いことをしますね」

すると優月ちゃんが怒りの籠った目で正面を睨みつける。

「優月ちゃんどうしたの?」

「………このフィールドの配置、明らかに『銃撃戦』を想定されたものです。つまり彼の目的は、大量のモノカバを私達にけしかけることによって私達をゴールまで近づけさせず、()()2()()になるまでひたすらここで籠城戦をさせる予定だったのでしょう」

「籠城戦!?だから千野李玖は『生き残れるのは2人』って強調してたんだ……」

今みたいにうちら5人が全員生きてこのE棟に来たとしても、結局はエンドレスで戦わされてたわけか。………確かに胸糞悪い話だ。

 

 

 

 

 

 

「………んで、生き残った2人はあそこに行けばいいってわけかよ」

黒瀬君が指差した先にあったのは、金色の寺のような建物だった。

建造物で言うと金閣寺に似ている。

というか、金閣寺を模して作られたのではないだろうか。

「うわぁ、趣味悪っる………。自分が一番えらくなったって、あんな分かりやすいことします?」

「人は急に権力を手に入れると、その権力を誇示するために身なりを変えたり建物を作ったりする。似たような金の建物に金閣寺があるが、金閣寺の金箔は武家の権威を国内外に誇示し、頂上の鳳凰は【永遠の命と権力】を象徴するものだとされている。例にも漏れず、彼もそのような考えからこの建物を使ったのだろう」

「へー、金閣寺ってそんな意味があったんだ。………って、関心してる場合じゃないよ!早く中に入ってみよう!多分ここに灯里ちゃんもいる筈だから!」

「そうだな。なんか眩しくてもう見るのが嫌になってきたぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてうちらは、優月ちゃんがクリアリングして安全を確保しながらゆっくりと進んでいった。

しかしその間にモノカバが現れることは一度もなく、無事に金の建物の入口に到着した。

「………なんだ?この煙は」

すると、明智さんが建物の横にある地面から煙が上がっているのを発見した。

「……最近まで燃えてたみたいッスね」

「何か物を燃やしたんでしょうか?」

「李玖の奴が焚き火でもしてたんじゃねーの?」

「いやあ、それはないんじゃないかな………」

 

 

 

 

「それよりもこっちに集中した方がいいんじゃないッスか?」

柴崎君が目の前にそびえ立つ【黄金の間】に視線を向ける。

「……ドアノブ式ッスね。鍵穴がないみたいッスけど」

「じゃあ開いてんじゃねーか?」

「流石に不用心すぎる気がするがね」

「まあ、とりあえず開けて確かめてみようよ」

「いやいや、待ちたまえ。ここはワタシが一番先に開けよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ドアの向こうから妙な音が聞こえた。

うちらはドアの隙間から中を覗き込む。

「………何?今の音?」

「分かんねー。ってか暗えなこの部屋。停電でもしたんじゃねーか?」

黒瀬君の言った通り、部屋は真っ暗だ。

どうして?だってここには千野李玖と灯里ちゃんがいる筈なのに………

「………おかしいのはそれだけじゃありません。何か水の音がしませんか?」

「………ふむ。どうやら部屋にある『スプリンクラー』が作動しているようだ。火事でも起きたのか?」

「………開けます。準備はいいですか?」

「………うん。お願い」

優月ちゃんは頷くと、ドアを完全に開いた。

光が差し込み、中の様子が明らかになる。

うちは見るのが怖くて一度反射的に目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この部屋に千野李玖がいる。

待っていろ。

必ずうちらはあんたからこのコロシアイを終わらせる方法を聞き出す。

そして…………こんな馬鹿げたこと、もう終わりにする。

死んでいったみんなのために。

そして、これからの未来を生きるうちらのために。

……そんな強い決意を持ちながら、うちは目を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピーンポーンパーンポーン………』

 

 

 

 

 

 

『死体が発見されたカバ!一定の捜査時間の後、学級裁判を開くカバ!オマエら、現場のE棟【黄金の間】に全員集合するカバ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、世界は無情である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………なんでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶えず天井から降り注ぐスプリンクラー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、目の前の椅子に縛られて座る()()を含め、部屋全体を水浸しにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………灯里ちゃん……………………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずぶ濡れの姿、そして安らかな表情で目を閉じる《超高校級のサブカルマニア》独島 灯里は、完全にその生命活動を停止させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灯里!!!…………クソがっ!!!」

「………やはりそうなってしまったか」

「…………」

「………灯里」

目の前の惨状に全員がショックを受ける。

 

 

 

 

 

 

どうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、昨日2人で話したばかりなんだよ。

 

 

 

 

 

 

なのに…………どうして……………………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちは周りにいるみんなを見る。

こんな事残忍な事をみんながする筈がない。

………なら、こんなことをする奴は1人しかいない。

「千野だよ!あいつがきっと灯里ちゃんを殺したんだよ!」

うちが立ち上がりみんなにそう呼びかける。

「……オレもそれに賛成だぜ!灯里にこんなことするクソヤローはアイツしかいねー!」

「きっとこの部屋に隠し扉でもあってそこから逃げたんだ。だからまずこの部屋をくまなく探して………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストップッス。相川サン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ………?」

うちと黒瀬君が一緒に部屋の中へ足を踏み出そうとした時だった。

柴崎君が静かに手でそれを静止した。

「な、なんだよ武史」

「独島サンの体見て下さい。………彼女の体には外傷が一切ない。それにも関わらず…………どうしてこの部屋から血の匂いがするんスか?」

柴崎君の発言に全員がハッとする。

「武史に賛成です。これは間違いない血の匂いです。それも………()()()()()()()()()です」

「………スプリンクラーで気づきにくいが、ワタシも部屋に入ってすぐ感じたよ。………ここで確実に人の血が流れた。長年殺人事件の現場に立ち会ったことがあるワタシが言うんだ。間違いない」

「………待って下さい。あの机の奥は………」

優月ちゃんが指差した先。

そこは入って正面にある、社長室にあるような大きなデスク。

その奥から血の匂いが漂ってくる。

素人のうちでも分かるくらい、濃くて強い血の匂いだ。

「………全員で確認するッスよ。部屋を荒らさないようにして下さい。特に黒瀬サン」

「わ、分かってる」

灯里ちゃんの死体を通り抜け、うちらは恐る恐るデスクの向こう側を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピーンポーンパーンポーン………』

 

 

 

 

 

 

『死体が発見されたカバ!一定の捜査時間の後、学級裁判を開くカバ!オマエら、現場のE棟【黄金の間】に全員集合するカバ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、うつ伏せになりながら、目をこれ以上ないくらい見開き、口を大きく開けながら舌を出し倒れている()()がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸部や腹部にかけて血塗れで、付近のカーペットも血で真っ赤に染まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あっけない最後ッスね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柴崎君が思わずそうつぶやくくらい、()の結末はあっけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《超高校級の茶人》千野 李玖が絶命しているのは誰がどう見ても明らかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者

 

 

LA001 相川 凛《外国語研究家》

MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》

MC003 喜屋武 流理恵 《調理部》

SA004 銀山 香織《棋士》

MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》

MC006 柴崎 武史《歴史学者》

MB007 霜花 優月《狙撃手》

MA008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》

MC009 千野 李玖《茶人》

MC010 独島 灯里《サブカルマニア》

MB011 飛田 脚男《バイク便ライダー》

SB012 中澤 翼 《フットサル選手》

LB013 錦織 清子《テニスプレーヤー》

MB014 分倍河原 剛 《空手家》

015 北条 業 《希望ヶ峰学園予備学科生/放火魔》

MA016 万斗 輝晃 《情報屋》

MB017 幸村 雪 《激運》

MA018 明智 麻音《探偵》

 

 

 

 

 

残り5人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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