捜査編です。
人数が少ないので、だいぶ犯人は絞りやすいかも?
天井に設置されているスプリンクラーによって水浸しの『黄金の間』。
目の前には全身ずぶ濡れで眠るように死んでいる女子。
奥には苦悶の表情を浮かべ、血塗れで絶命している男子。
なんだ、この空間は。
夢か、はたまた地獄か何かか。
そうだ、そうに違いない。
………………頼むからそうであってくれ。
捜査編
「……………なんなの、これ」
全員が沈黙する中、辛うじてうちが出した言葉。
それは、誰もが知りたい答えの問い。
この状況は何なのか。
何故、先程まで行われていたデスゲームの主催側である2人が死んでいるのか。
「どうして………………2人が…………」
「………なんでこうも、予想外のことばかり起こるんスかね」
「おかしいだろ!!なんで灯里と李玖が死んでんだよ!?」
「………惨いですね」
「…………」
各々が驚愕したり、目を背けたり、沈黙したり………
今の状態を受け入れるには、それなりの時間が必要だった。
「………生存確認はするまでもないッスね」
「ご丁寧に『死体発見アナウンス』が2回も鳴ったんだ。まず間違いなく死んでいる」
「灯里………!クソがっ!!」
改めてうちはこの部屋の異様な光景を視界に捉える。
灯里ちゃんは、部屋の中央で椅子にワイヤーのもので縛られて拘束されている状態だ。
しかし、その表情は生前苦痛等を受けた事を想像させるものではなく、寧ろ安らかな笑みを浮かべている。
そして、ちょうど彼女の真上の天井にあるスプリンクラーからは今も絶えず水が吹き出し、彼女の身体を濡らし続けている。
一方、千野李玖は部屋奥の机の傍で倒れているため、スプリンクラーの水はかかっていない。
その代わり、夥しい量の血で彼の身体は赤に染まっており、生前の小綺麗な姿は面影もない。
………灯里ちゃん。
なんて声をかけたらいいか分からず、うちは彼女の姿から目を逸らした。
「1つ疑問なんスけど」
すると、柴崎君が死体を観察しながら口を開いた。
「学級裁判はどうなるんスか?モノカバの操作権限は千野が持っててずっと操ってたわけッスけど、彼は死んだし、そのせいかモノカバも出てこないッスよ」
「確かにそうですね………。もしこのままモノカバが現れなければ学級裁判の主催者がいないことになります。そうなれば開催する意味もありません」
「そ、そうじゃねーか!モノカバの奴アナウンス鳴っても出てこねーし、ってことは学級裁判やんなくていいってことだろ!」
黒瀬君の言う通り、普段はすぐ飛び出してくるモノカバは未だに姿を見せていない。
もし千野李玖が死んだことによってモノカバが完全に機能停止に陥ったのであれば、学級裁判どころかコロシアイだって終わりになる。
うちらは晴れてここから出ることが出来る。
………あれ?じゃあどうしてさっき『死体発見アナウンス』はちゃんと鳴ったんだ………?
『カバカバカバ…………なーんかオイラがいない間にとっても面白いことになってるカバね』
そんな甘い希望を持った直後だった。
「何?今の声……」
「………やはりか」
どこからかとても聞き覚えのある、耳障りなあいつの声が聞こえてきた。
「カバカバカバーーーーー!!!オマエら久しぶりカバー!!!」
その直後、声の主であるモノカバが地面から元気よく飛び出してきた。
「…………クソが!!!やっぱ出てくんのかよ!!」
「そうカバよー!みんなのアイドル、モノカバカバー!……おや黒瀬クン、真っ先に反応してくれたってことは、やっぱオイラを待ち侘びてたって事カバー?いやー、モテるカバはつらいカバー」
「誰が待ち侘びるかコラ!」
「………貴方が出てきたということは、コロシアイはまだ続くし、学級裁判も行うということですね」
優月ちゃんがモノカバを睨みつけながら質問する。
「当然カバー!コロシアイあるとこにオイラあり!カバー」
「………ふむ。では、『千野李玖が死亡すればコロシアイは終了する』という我々が望んでいた
「あんな一時的に権限取られたくらいでコロシアイが終わるわけないカバ!あの
モノカバはケラケラと笑う。
千野李玖も結局のところ、
「ま、待てよ!じゃあ李玖はテメーが殺したんじゃねーのか!?だってテメーにとってアイツは裏切り者なんだろ!?」
「だから、これは何度もオイラ言ってるカバ!オイラは
その言葉に、うちらは互いに顔を見合わせる。
つまりは………クロはうちら5人の生き残りの中にいる?
「………これまでの展開も全部あんたが言ってた『シナリオ通り』ってわけ?」
「まあ、流石に権限を乗っ取られたのは少しびびったカバ。けどアイツがオイラに尋常じゃない殺意を抱いていたことも分かってたし、いつかオイラを裏切ることも分かってことカバ。だからその備えは事前にしておいたカバ。なーんにも慌てる必要はなかったカバ」
部下の裏切りすら展開も予想していたなんて。
一体、『シナリオ』というのはどこまで万能なんだろうか。
「けど、どっかの誰かさんには感謝しないとカバね。あの馬鹿はいずれ始末するつもりだったのに、殺してくれるなんて手間が省けたカバ」
「なるほどなるほど。千野李玖を殺したのはアンタではないと。……じゃあ、ここで死んでる
目の前のモノカバに対し、柴崎君は灯里ちゃんを指差す。
「当たり前カバー!なんか勝手に死んじゃったみたいだけど、自分の可愛い可愛い部下である独島サンをオイラが殺すわけないじゃんカバー!」
「………ッ!!」
思ってもいない事を………!
うちはモノカバの物言いに腹が立ち、モノカバを睨みつける。
「おや?なんで相川サンは怒ってるカバ?………あ、もしかして相川サンは独島サンの事情を聞いたのカバ?」
「………だったらなに」
「なら相川サンもオイラと同じ気持ちなんじゃないカバ?」1人の男を憎み続けて人生を捨ててまで絶望に染まった結果、ちっぽけな復讐を果たしてあっけなく死んだ、とんだ
「お前…………!!」
「助手よ」
完全に頭に血がのぼっていたうちがモノカバに詰め寄ろうとした瞬間だった。
明智さんがうちの手を掴んだ。
「またキミの悪い癖が出ているぞ。仲間想いなのはいい事だが、キミは少しそれが過剰すぎる。冷静になりたまえ。安い挑発に乗るんじゃない」
「!?」
うちは、明智さんの言葉でモノカバに手を出そうとしていたことにようやく気がついた。
…………何やってんだ、うちは。
「…………ごめん。うち、また……」
「謝罪、言い訳は後で聞こう。……それよりモノカバ。早く『例のモノ』を出したまえ」
「カバ?明智サンはそんなに『捜査』がやりたいカバ?前と変わらず、本当に薄情カバね?敵側とはいえ、一時は仲間として行動を共にした2人が死んでるのに………」
「話が長い。早く出したまえ。ワタシは意味のない長話で時間を浪費させられるのが一番嫌いなんだ」
「………」
モノカバは一瞬無言になる。そして
「………本当に明智サンはからかい甲斐のない人カバ〜?ほら、2人分の『モノカバファイル』を送っておいたカバ」
モノカバがそう言うと同時に、みんなが所持するカバフォンからピロンと着信音が鳴った。
「ご苦労。では急く失せたまえ」
「ひ、酷い………久しぶりの登場で張り切ってたのに………」
モノカバはシクシクと泣きながら消えていった。
「みんな。その………さっきはごめん」
うちはすぐみんなの方へ向き直り、頭を下げた。
「どうしても灯里ちゃんを馬鹿にされたのが許せなくて………」
「ああ、別に謝罪とかいいッス」
うちが言葉を続けるようとしたら、柴崎君が手を振りいらないとアピールする。
「相川サンが異常なくらいのお人よしで仲間を馬鹿にされるとすぐ怒りで周りが見えなくなるのはいつもの事だし」
異常なくらいのお人よし………怒りで周りが見えなくなる………
……………何も言い返せないよ。
「うぅ………本当にごめんなさい………」
「………それに、腹立てるのはアンタだけじゃないッスから」
「え?」
柴崎君は拳を握りしめながら、モノカバのいた方を見てチッと舌打ちする。
「さて、じゃあ今回の配置はどうします?検死はまた霜花サンに任せていいッスか?」
「ええ。2人分なので少々時間は頂きますが、出来る限りのことはやるつもりです」
「ではキミに任せる。……そして今回の事件、見張りを置く必要はないだろう。死体は2体ともこの狭い部屋にある上に人数的にも見張りに人員を割く余裕はない。よって黒瀬敦郎クン、キミも捜査に加わってもらうぞ」
「おう!任せろ!!」
「単独調査で構わないッスよね?」
「それも仕方あるまい。ペアで行動するのは非効率だからな」
みんなはうちの失態など気にもせず、てきぱきと調査の準備に入る。
「凛?どうしました?」
その様子をうちがぼーっと眺めていると、優月ちゃんに声をかけられた。
「………ん?いや、なんかみんな手際がいいというか………慣れているというか」
「そうですね。もう5回目になれば流石に何をすべきかは全員把握しているでしょう。………しかし、それももう最後です」
「最後?」
「今まで起きたコロシアイは全て、5回の学級裁判と最後の真相を明らかにする学級裁判の計6回で終了している。今回のコロシアイは千野李玖クンがイレギュラーの事態を引き起こそうとしたが、それも失敗に終わった。つまり………」
「殺人が起きたことによる学級裁判は
「その通りだ」
明智さんは深く頷いた。
「よっしゃ!!じゃあ最後の学級裁判全力で頑張ろうぜ!これ以上モノカバの野郎に好き勝手させられてたまるかってんだ!」
「ほら相川サン、間抜けな顔して呆けてる時間なんてないッスよ。独島サンを殺した犯人、見つけるんでしょ?」
「間抜けな顔なんかしてないし!!………そうだね、ぼーっとして時間を無駄になんかしてられないよね!ここにいる皆で生きて帰るために頑張ろう!」
「本当に喜怒哀楽が激しい人ッスねえ………しかもここにいる誰かが犯人の可能性の方が高いから全員は一緒に帰れないんじゃ……」
「うるさい!そんなこと分かってるよ!柴崎君ホント意地が悪い!!」
「………ふふ、それでこそ凛です。皆で力を合わせて乗り切りましょう」
灯里ちゃんの死。
そして千野李玖の死。
2人の死の謎を解き明かし、うちらは必ず生き残ってみせる。
そして、このコロシアイを終わらせるんだ。
捜査開始
「まずはこのスプリンクラーをどうにかしたいッスね」
柴崎君は未だに作動している天井のスプリンクラーを指差す。
「そうですね。これでは捜査や検死が出来ませんし、体も冷えて風邪を引いてしまいます」
「つーか、何でスプリンクラーなんか付いてんだよ?火事なんか起きてねーよな?」
「うん、うちも不思議に思ってたんだ。スプリンクラーって火事とか起きた時に火を消すために自動で作動するものだよね?」
「その通りだ。そして一般的にスプリンクラーというものは、作動する時は自動だが、停止する時は自動ではない場合が多い。スプリンクラーを止める際には制御弁を締め、ポンプを止める必要がある」
「なら僕が探してくるッスよ」
「どこにその制御弁とポンプがあるのか分かるの?」
「恐らくあそこッス」
柴崎君が指差したのは、ここから少し離れた場所にある小さな小屋だった。
「ちょっくら行ってくるんで少し待ってて下さい」
「うん。お願い」
柴崎君はそう言って部屋を出て行った。
「よし。まずはモノカバファイルを見ようかな」
柴崎君が戻ってくるまで外で待機することにしたうちらは、まずモノカバファイルに目を通すことにした。
[モノカバファイル⑧]
被害者は【超高校級のサブカルマニア】独島 灯里。
被害者に大きな外傷は見られない。
また、薬物等を摂取した形跡も見られない。
[モノカバファイル⑨]
被害者は【超高校級の茶人】千野 李玖。
死因は首を刺されたことによる出血性ショック死。
刺し傷は首、両肩、手、脇腹、足等全身に数十箇所あり、首の傷は後ろまで貫通している。
また、全身に打撲痕があり、顔は腫れ上がっている。
薬物等を摂取した形跡は見られない。
モノカバファイルには、いつも通り簡単な死体の状況が写真と一緒に記載されていた。
「………李玖の奴、敵とはいえ流石に同情するぜ。全身滅多刺しじゃねーか」
「黒瀬敦郎クン。吐くならここではなく近くの草むらに行ってくれたまえ」
「吐かねーよ!!………流石に何度も見て慣れちまったからな。麻音は平気なのか?」
「ワタシは元より探偵業で血は何度も見てきたからな。まあここまで損壊された死体も始めて見たが……」
「凛、貴方は平気ですか?」
「う、うん。何とか………捜査のために頑張って見るよ」
「分かりました。気分が悪くなったら無理せず言ってくださいね」
「うん。ありがと」
うちは心配してくれる優月ちゃんにお礼を言いつつ、じっくりと2人のモノカバファイルに目を通す。
まず気になったのは、灯里ちゃんのモノカバファイルに記載されている情報が圧倒的に少ないことだ。
現時点で分かることは、大きな外傷がないこと、そして薬物等を摂取した形跡はないことだけ。
これだけ情報が伏せられているってことは、死亡推定時刻、死因などの基本的な情報が今回犯人を特定するために必要不可欠ってことになる。
一方、千野李玖のモノカバファイルには、死因が書いてあるけど死亡推定時刻は書かれていてない。
つまり、彼の殺された時間が今回の事件のキーポイントとなる可能性が高い。
モノカバファイルにあえて伏せられている情報は重要な手がかりとなる。
いつもと同じパターンだ。
「………ふむ。その顔は何を明らかにすべきか分かったようだな」
すると隣でファイルを見ていた明智さんが声をかけてきた。
「なんとなくだけどね」
うちは明智さんに考えている事を説明した。
「見事。流石はこのワタシの助手だ」
「褒められることじゃないよ。それにうち明智さんと違って馬鹿だし」
「助手よ。キミは自分を馬鹿だと認識しているようだが、キミは馬鹿なのではない。猪突猛進なだけだ。少し冷静に、深呼吸して客観的に物事をみる力を身につければ、キミはワタシの次くらいに優秀な名探偵になれるだろう」
「いや、別にうち名探偵になりたいわけじゃないってば」
けど、褒められたことは素直に嬉しい。あの明智さんが褒めてくれるとは。
「明智さんはモノカバファイルを見て他に何か気がついたことある?」
「………いくつかあるが、ひとまずワタシが真っ先に論点になると考えたのは、千野李玖クンの体に付けられた大量の刺し傷、それに打撲痕だろう」
「だよね。………殺すにしても、どう考えても傷が多すぎるもんね」
「普通に首をひと刺しして殺せば他の箇所に傷など付くわけがないし、ましてや打撲痕など残る筈もない。……要するに犯人は、殺すためにしなくてもいい無駄な行動をしたわけだ」
「………犯人は相当恨みがあったんだろうね」
「そう考えるのが妥当だろうな。そして、ワタシ達生き残りの中で彼に恨みを持つ者が殆どである以上、誰でも犯人になりうる可能性がある」
「…………そうだね」
やはりこの事件、誰にでも動機はあったということか。
「ひとまず霜花優月クンの検死結果待ちだな。その後はいつも通り、現場に残された証拠から論理を組み立て、犯人を炙り出す。探偵とは常にクレバーに、論理的な生き物でなれけばならない。ワタシが被害者にどんな個人的な感情を抱いていたとしても、それを調査に持ち込んではならない」
顎に手を当て、いつも通りの声のトーンでそう言う明智さん。
この冷静さ、見習いたいものだ。
「助手よ、今回もキミの力、頼りにしているよ。ワタシと助手の名探偵ペアで真実を掴み取ろうではないか」
「うん。うちは名探偵ではないけどね。明智さんも頑張ろう」
明智さんは腕を組み建物にもたれかかりながら、人差し指と中指を立てた。
………そのポーズ、どっかで見た事あるぞ。
でも突っ込まないからねうちは。
コトダマゲット!
[モノカバファイル⑧]
被害者は【超高校級のサブカルマニア】独島 灯里。
被害者に大きな外傷は見られない。
また、薬物等を摂取した形跡もない。
[モノカバファイル⑨]
被害者は【超高校級の茶人】千野 李玖。
死因は首を刺されたことによる出血性ショック死。
刺し傷は首、両肩、手、脇腹、足等全身に数十箇所あり、首の傷は後ろまで貫通している。
また、全身に打撲痕があり、顔は腫れ上がっている。
薬物等を摂取した形跡は見られない。
「………お、スプリンクラーが止まったぜ」
モノカバファイルを見ながら色々考えていると、スプリンクラーの放水が突如ピタリと止まり、そして間もなく柴崎君が戻ってきた。
「止めたッスよ。制御弁とポンプ、両方あの小屋にあったッス。『制御室』って書いてあったッスね」
「ふむ、あのぼろ小屋が『制御室』か。よくすぐに止められたな」
「………ああ、中の壁にマニュアルみたいなのが貼ってあったんでそれ通りにやっただけッスよ。後で見に行ってみたら分かるッス」
つまり、誰でもマニュアルを見ればスプリンクラーを自由に操作出来たって事か。
………でも、もし仮に誰かが手動で作動させたとして、目的は何なんだろう。
犯人が犯行を行うために必要だった、ってことだと思うけど………。
「では、私は早速灯里の検死から始めます」
優月ちゃんは灯里ちゃんの方から検死を始めるみたいだ。
他のみんなもさっき決めた通りに動き始めた。
「よし、うちもやるか」
死体の見つかった順番で言えば、まずは灯里ちゃんからだ。
優月ちゃんの邪魔にならないように灯里ちゃんの方から捜査を始めるとしよう。
椅子にワイヤーで縛られているという痛ましい姿であるにも関わらず、微笑みを浮かべている灯里ちゃん。
スプリンクラーの所為で前髪はぺたりと顔に張り付き、片目が隠れている。
服もびしょびしょで即風邪をひいてしまうような恰好だ。
ただし、
昨日まで普通に話していた彼女は、今ではもう二度と口を開くことはないただの死体だ。
「(ここが現実世界じゃないって分かってても、人の死はやっぱ辛いな)」
この世界での死は現実での死とほぼ同義である。
その事実を知ってからうちは、きっと必ず生き返る、なんて甘い希望は持たないことにしている。
希望が叶わないと知った時辛くなるだけだからだ。
……………灯里ちゃん。
あなたのずっと望んでた通り、千野李玖は死んだよ。
けど…………こんな結末があなたの望みだったの?
うちに『現実世界でも会おう』って言ってくれたのは、嘘だったの?
そんな問いかけをしたくてたまらなかったが、聞いたところで答えは当然返っててこない。
「(千野の死もあなたの死も真相を突き止めて、このコロシアイを終わりにする。うちは絶対に諦めない)」
そう心の中で改めて誓い、周囲の観察を再開する。
「………あれ?」
うちは足元に空の瓶が落ちているのを見つけた。
「なんだろう、この瓶………」
「ああ、それは『薬剤師の研究教室』にある瓶ですね」
検死を始めた優月ちゃんがうちが手に持っている瓶を見て教えてくれた。
「大抵の薬はその瓶に入って保管されています。恐らくその瓶も何かしらの薬が入っていて、何者かが持ち出したのだと思います」
「そうなんだ。………え?でもなんでそんなものがここに……?」
確か、灯里ちゃんのモノカバファイルには【薬物を摂取した形跡はない】って書いてあった。
だから、灯里ちゃんは少なくともこの瓶に入っていた薬は口にしていない筈。
じゃあ、この瓶は何なんだろう。
というかそもそも、一体何が入っていたんだろうか。
「(謎が一気に増えたね)」
とりあえず大事な手がかりだし、覚えておくとしよう。
コトダマゲット!
[空の小瓶]
独島の死体の近くに落ちていた小瓶。中身は空。
「凛。ひとまず検死が終わりました」
「え!?もう!?」
すると、優月ちゃんから検死が終了したことを告げられる。
手際が良すぎる。流石は優月ちゃん。器用だなあ。
「正直、
しかし、優月ちゃんの表情は暗かった。
「え?それはどういう……」
「とりあえずお話しますね」
優月ちゃんは死体へと向き直る。
「まず、灯里の死因なのですが…………結論から言うと、
優月ちゃんは残念そうに告げた。
「死因が分からない………?もしかして外傷がないから?」
「その通りです。見てもらったら分かると思いますが、灯里の体には傷一つついていません。首を絞められた痕などもないですし、当然刺し傷もない」
確かに、目に見える部分ではあるけれど、灯里ちゃんの体は綺麗なままだ。
となると、死因は『外傷』ではなく『内傷』ってことになるけど………。
「けど、モノカバファイルには【薬物を摂取した形跡はない】って書いてあったから……」
「ええ。なので【毒殺】もあり得ないでしょう。そうなると、私のような素人の検死で出来る事がこれ以上ないんです……」
そっか。だから優月ちゃんは『検討すべきところがない』なんて言い方をしたんだ。
医者ではないとはいえ、うちらより詳しい優月ちゃんでも死因が特定出来ないとなると………みんなで知恵を出し合いながら裁判で特定するしかないね。
「そして死亡推定時刻ですが………こちらはおおよそ分かりました。恐らく死亡してから数十分程度しか経っていません。つまり、灯里が殺害されたのは9時半過ぎ頃だと思われます」
「ええっ!?じゃあさっき殺されたってこと?」
「恐らくは」
ゲームが始まったのは午前9時ちょうど、今は9時50分過ぎ。
つまり犯人は、うちらが各棟に散らばって鍵を探している最中にE棟へ行って灯里ちゃんを殺したことになる。
………ん?それって………?
「しかし、そうなると問題があります。………凛。今回の『デスゲーム』、私達の勝利条件は覚えていますか?」
うちと同じことを思いついたのか、優月ちゃんはそう問いかけてくる。
「うん。【各棟のどこかにある鍵を集めてE棟への鍵を開けてから、『黄金の間』に辿り着く】だよね」
「ええ。つまり
「………うちらが全員揃ったのって、死体を発見する直前だよね?」
「ええ。ついさっき、正確には9時45分頃です。だからそれまで私達5人はE棟には入れなかった。となると、私達参加者が9時半過ぎに灯里を殺すことは不可能です」
「じゃあ、灯里ちゃんを殺したのって………!」
うち、優月ちゃん、柴崎君、黒瀬君、明智さんには無理ということは、残っているのは被害者の灯里ちゃんを除いたら………。
「普通に考えたら千野李玖ということになります」
あいつ…………!!!
うちは思わず拳を握りしめる。
「今の段階で決めつけるのは良くありません。私達はあくまで
「そうだね。ひとまず他の場所も捜査してみるよ。他に灯里ちゃんのことで気になる事とかあった?」
「あとはそうですね………あ、灯里のカバフォンはどうですか?何か手がかりとなるやり取りが残っているかもしれません」
「そうだ!」
うちは灯里ちゃんの懐を探り、カバフォンを取り出す。
電源を付けて起動し、チャットの部分を見るが………
「………ここ1週間のチャットの履歴が全部消されてる」
「灯里本人が消したのか、それとも犯人が消したのか分かりませんが……………どちらにしろ、これから犯人を見つけ出すの難しそうですね」
もし犯行がばれるのを恐れて犯人がチャットを消したのであれば、犯人は相当用心深い性格ということになる。
今日や昨日だけでなく、1週間分まで消去する徹底ぶり。
………そんな狡猾な犯人がうちらの中にいるなんて。
コトダマゲット!
[霜花の検死結果①]
独島の検死を行ったところ、死因の特定には至らなかった。
理由は外傷が全く見受けられず、毒殺の可能性もモノカバファイルで否定されているため。
死亡推定時刻は今から約20分前の午前9時半過ぎ。
相川達は、ゲーム開始直後で各棟に散らばり鍵探しをしている最中だった。
[独島灯里のカバフォン]
チャットの履歴が今日から1週間前の分まで消去されていた。
「優月ちゃん。もう少し灯里ちゃんの周り観察してもいい?」
「大丈夫です。私は千野李玖の検死を行いますので」
優月ちゃんが離れていったので、うちは今度は灯里ちゃんの死体を観察する。
今度は、灯里ちゃんの体や下半身を観察する。
こちらも優月ちゃんの言うとおり、特に傷等が付いている様子はない。
「(やっぱりこれだけ綺麗なままってことは、死因は体の中で起きた異変が原因なのかな。………ん?ちょっと待って)」
見落としがないか細部まで細かく観察している時だった。うちは彼女の脇腹付近にある小さな変化を見つけた。
「(これって…………
服のほんの僅かな部分が焦げて黒くなっている。
優月ちゃんは何も言っていなかったから、きっと見落としたのだろう。
正直、見落としても仕方のないくらいの小さな変化だ。
ワイヤーで縛られてた部分に重なっていたし、見つけられなくてもしょうがない。
……けど、これはなんなんだろう。
些細なことだけど、一応覚えておこう。
それに優月ちゃんにも報告しておかなくちゃ。
コトダマゲット!
[脇腹の焦げた痕]
独島の着ていた服の脇腹部分が焦げて黒くなっていた。
よし。灯里ちゃんの周辺は一通り調べ終わったかな。
じゃ次は………
検死をしている優月ちゃんの邪魔にならないように、遠目でもう一人の被害者を観察する。
「…………」
うつ伏せの状態で腕を伸ばし、顔をこちらに向けたまま何かに縋るような形で死んでいる、千野李玖の死体をうちは表情が見えるように横にする。
表情は目を大きく見開き、口からは血と涎が混じった液体が流れ出ていた。
その口と目も腫れ上がり、生前の顔は見る影もない。
因果応報。
千野李玖にはこの言葉がぴったりだろう。
何人もの人を殺し、苦しめてきた人間の末路。
うちは正直、微塵も悲しくないし、寧ろざまあみろと一瞬思ってしまった。
……だって、この男は香織ちゃんを苦しめた。業ちゃんを残酷な方法で殺した。灯里ちゃんの人生を滅茶苦茶にした。数多くの女の子を弄んだ。殺されて当然だ。
………けど、その気持ちと今回の捜査とは切り離して考えなければいけない。
どんなに憎い奴であれ、死の真相を暴かなければ、うちらが死ぬ。
憎い奴が死んだしスッキリした、で終わる話ではない。彼とうちらは嫌でも向き合わなければいけないのだ。
だからうちは憎しみの感情を一旦心の中にしまい、彼の周辺の捜査を始めた。
まずは顔だけど……アザでボコボコだし、鼻は折れてるし、唇はとんでもなく腫れ上がってるし………。
犯人はそれこそ鈍器か何かで何度も彼の顔を殴りつけたんだろうけど、まあよっぽど憎しみがないとここまではしないよね。
となると殴ったのは、一番千野李玖に憎しみを抱いていた灯里ちゃんが怪しいけど……
「(……いや、決めつけは駄目だ。うちらは全員彼にいい感情なんて抱いてなかったし、正直誰であってもおかしくない)」
仲間を疑いたくはないけど、生き残るためには疑うしかない。
今までの裁判で学んだことのうちの一つだ。
次にうちは、彼の胴体や足に注目してみる。
死因は首の刺し傷による出血性ショック死、と書いてあったけど、それは彼の赤く染まった首元から容易に想像することが出来た。
そして背中も元の着ていた衣類の色が分からなくなるくらい血で染まっている。
背中に着物が敗れた部分が数箇所あることから、多分何回も刺されたのだろう。
モノカバファイルの情報とも一致する。
しかし気になるのは、これだけ刺された傷があるのにも関わらず、胸だけは綺麗に刺された後がないことだ。
………もしかして、敢えて胸だけは刺すのを避けた?
だとすると犯人は、千野李玖をすぐ殺す事が目的じゃなくて、出来るだけ苦しませて殺す事が目的だった?
もしそうであったなら顔中を殴ってアザだらけにしたのも合点がいく。
「…………ん?」
うちはふと、彼の腕に傷がついているのを見つけた。
それは、何かが食い込んだような細い線の痕だった。微かに血が滲んでいたのが分かる。
よく分からないけど、ひとまず覚えておこう。
コトダマゲット!
[腕の傷]
千野の腕に細い線のような傷が付いていた。
「………あ!これって……」
彼の足元を見ると、血で塗れたハンマー、そして果物ナイフが落ちていた。
きっと凶器はこれらで間違いないだろう。
けど…………
「(なーんか
ご丁寧に足元に2つの凶器が落ちている。
そんな事あり得るのだろうか。
普通凶器は殺害方法がバレないように、犯人が持っていって処分すると思うけど………
犯人が回収し忘れたのか、それとも凶器がハンマーとナイフだとバレても問題なかったのか、はたまたこれがフェイクで実は別の凶器があるとか。
何にせよ、これも一つの情報として覚えておいた方がいいよね。
コトダマゲット!
【[果物ナイフとハンマー]
千野の足元に落ちていた。2つとも大量の血が付着している。
けど………問題はこのナイフとハンマーがどこにあったものか、だよね。
パッて思いついたのは遊園地にある武器庫だけど、今回あそこにある武器は、うちらが道具を持っていくにあたって相当厳重に管理していた。特に今回使わない武器は、持ち出しが出来ないように紐できつく縛って簡単に取れない場所に置いておいた筈だ。
だから、武器庫から持って行ったとは正直考えにくい。
「でも一応、武器庫は確認しておいた方がいいよね」
よし。後で武器庫にも行ってみよう。
けど、どうして犯人はわざわざ果物ナイフを凶器として選んだんだろう。
刺すなら果物ナイフより包丁とかの方が殺傷力に優れていると思うんだけど………。
「………ん?」
うちはふと、千野李玖が伸ばしている手の先に違和感を覚えた。
よく見るとこの状態、まるで何かを取るために手を伸ばしているように見える……。
そしえその手の先にあるのは、彼の机の引き出しだった。
「(もしかしてここの中にある物を取ろうとした………?)」
うちは引き出しをそっと開けてみる。
「(………!?これって………!)」
引き出しの中に入っていたのは、サバイバルナイフ、手錠、ハンマー、スパナ、ペンチ、ノコギリといった夥しい数の道具だった。
そして信じられないことに………この道具の端にどれも血が付着していた。
「嘘でしょ………!」
うちは思わず声を漏らす。
「どうした助手よ。何か見つけたかね?」
するとうちの声を聞いた明智さんが近づいてくる。
「明智さん………これって………」
「………………………」
明智さんは無言で道具を観察する。
「……これは拷問用の道具だな」
「!!」
「血痕が付着している事から日常の生活で使用している物ではない。であれば生物に対して使用していたということになる。この道具のラインナップ的に、恐らく彼には人間を痛める趣味があり、その際に彼はこの道具を使用していたのだろうな」
「………最低」
「…………ああ。ワタシには到底理解出来ない趣味だよ。………ん?助手よ、ここにリストのようなものがあるぞ」
明智さんが軽侮の視線を彼に向けた後、引き出しの中にあった紙を取り出した。
「どれどれ………ふむ、やはりこの中に入っている道具の一覧表のようだ」
「へえ、意外にちゃんと管理してたんだ。………うん、道具は全部揃ってるみたい」
一応リストと照らし合わせてみるも、欠けている道具はなさそうだった。
………ん?けどこの下の………
「…………あれ?この『果物ナイフ』と『ハンマー』ってこの引き出しの中に入ってないね」
「………そうだな。今の2つは机の中には入っていない。だとしたらどこへ………」
「きっとあれ、だよね」
うちはさっき見つけた、千野李玖の足元にある道具を指差す。
「………ほう。助手よ、お手柄じゃないか。引き出しに入っていなかったこの2つの道具が千野李玖クンを殺めた凶器である可能性は大いに高い」
「一応後でC棟の武器庫も確認してみるけどね。とりあえずはこれが凶器だとうちは思う」
「凶器を確定させるために他の考えうる可能性も潰しておく。うむ、推理する上で欠かせない事だ。助手よ、ワタシは嬉しいぞ。いつの間にかこんなにも成長して………思わず涙が出そうになってしまった」
あんたはうちのお母さんか。
コトダマゲット!
[机に入っていた拷問道具]
恐らく千野李玖が所持していた拷問道具。
『黄金の間』の机の引き出しに入っていた。
一緒に入っていたリストによると、『果物ナイフ』と『ハンマー』だけが引き出しの中に入っていなかった。
その後、うちは更に周りを調べてみたらけど、特に大きな収穫はなかった。
一応彼の懐も探ってみたけど、入ってたのはカバフォンだけで、そのカバフォンの中身も特に不審なやり取り等は確認できなかった。
さて、この後はどこを調べようか………。
「凛。今大丈夫ですか?」
すると、ちょうど良いタイミングで優月ちゃんから声をかけられた。
「優月ちゃん。検死の具合はどう?」
「ちょうど一通り終わったところです。聞きますか?」
「うん!お願い!」
「分かりました」
優月ちゃんは死体へと向き直る。
「まず、モノカバファイルと情報に齟齬はないです。首から腹部、太腿、足にかけて数十箇所の刺し傷が認められます。これは足元に落ちていた『果物ナイフ』によるものです。また、顔の打撲痕は同じく足元に落ちていた『ハンマー』によるもので間違いないですが、これは直接の死因ではないですね。………犯人は相当千野李玖に恨みを抱いていたのでしょう」
「まあ、ここまで刺し傷が多いとね………」
「それと、致命傷は首の傷で間違いないかと。死亡推定時刻は大体灯里と同じくらいです。今から約20分前くらいでしょうか」
千野莉久も同じくらいの時間で死んだってこと?しかも同じ部屋で?どういう状況なんだろう。
「そしてさっきの複数の刺し傷についてですが、奇妙な点が2点見受けられました」
「奇妙な点?」
「まず1点目は、これだけ刺し傷があるにも関わらず、ほぼ全てが致命傷を避けています」
「あ、やっぱりそうなんだ。うちもさっき死体を見て変だなと思ったんだ」
「流石は凛ですね。この程度のこと、私に言われなくても気がつきますよね。余計な事を言ってしまいました」
「いやいや!?優月ちゃんうちを買い被りすぎだって!」
なんかここにいる人達はみんなうちのこと過大評価してる気がするなあ。
「………こほん、次に2点目なのですが………例えばこの傷を見てください」
優月ちゃんは次に、千野の太ももの傷を指差した。
「この傷、一度
「治療???」
1回刺されたけど治したってこと?
「古傷とかじゃなくて?」
「ええ。どの傷も先程刺されたもので間違いありません。つまり犯人は、1度刺した後その傷を治療し、また別の箇所を刺す、という行動を繰り返したみたいです」
一体どういうことだろうか。
千野自身が刺された後逃げて治療したのか。
それとも犯人が意図的に治療したのか。
いずれにしろ普通なら考えられない行動なのは間違いない。
「裁判で役に立つかどうか分からないですが、一応覚えておいて下さい」
「分かった!ありがとう!」
コトダマゲット!
[霜花の検死結果②]
千野の死体の状況はモノカバファイルと一致していた。死亡推定時刻は午前9時半頃とのこと。
気になる点としては、身体中の刺し傷が殆ど急所を外れていること、さらにその刺し傷は1度治療された痕が残っていることの2点。
検死を終えた優月ちゃんが離れていった為、うちも最後に千野李玖の周辺を確認して別の場所に行くことにした。
「……………ん?」
ここでうちはある違和感に気がつく。
その場にしゃがみ込み、千野李玖の周辺に飛び散った大量の血痕に触れる。
「これ…………全部
その違和感の正体は、血痕の乾き具合だった。
血は完全に乾くまで大体平均で2時間以上はかかるってテレビで見たことがある。
でもさっき、優月ちゃんは死亡推定時刻は9時半頃って言ってた。
つまり、この血が出てからまだ20分弱しか経っていないはず。
「(なのに全部完璧に乾いてるなんて、明らかにおかしい)」
なんとなくだけど、これはかなり重要な手がかりな気がする。
きちんと覚えておこう。
コトダマゲット!
[千野周辺の血痕]
千野周辺の血痕は全て完全に乾いていた。
千野李玖周辺も大体調べ終わったので、今度は部屋の気になる箇所を調べることにした。
「(なんだろう、あれ………)」
最初に目についたのは、部屋の端の壁に付いている謎の機械だ。
パッとみた感じ、
「凛、おめーもあれ気になんのか?」
すると、後ろから黒瀬君から声をかけられた。
「黒瀬君。もしかしてあなたも?」
「おう。部屋に入った時からなんか気になってたんだよな。一緒に調べてみるか?」
「うん!」
うちと黒瀬くんは、謎の機械の真下まで近づいてみる。
そこにはどうやら文字が書いてあるみたいだけど、ほぼ天井くらいの高さにあるため、うちの身長だと文字が全く見えない。
「………めっちゃ高い位置にあるね。うちだと全く届かないよ」
「安心しろよ。そのためにオレがいんだろ?」
流石はバスケ部。頼もしい。
黒瀬君は得意げに笑うと、背伸びして
「えーっと………【制御盤】って書いてあんな」
「【制御盤】………?」
聞いた事あるような言葉だけど……。
ブレーカーと同じ電気関係の機械かな。
「なんか見た感じ色々いじれるみたいだぜ。例えば……」
そう言って黒瀬君は何かをいじろうと手を伸ばした。「待って黒瀬君!」とうちは触るのを止めようとしたが………
「ストップだ黒瀬敦郎君。迂闊にそれに触るな」
叱るような声で明智さんが彼に待ったをかけた。
急に後ろから声をかけられ驚いた黒瀬君は「うおっ!?」とよろけた。
「びっくりさせんなよ麻音。危うく倒れるところだったじゃねーか」
「それはこちらの台詞だ。キミは何度ワタシの肝を冷やせば気が済むのかね」
明智さんは深く嘆息しながら呆れた顔で彼を見上げている。
………今更だけど、黒瀬君と明智さんの身長差すごいな。
「それは
「そ、そうなのかよ!?」
黒瀬君は慌てて距離を取る。
「死にたくなければ無闇に手を触れず、観察だけに留めておくといい」
「そ、そうなんだ……。うち見ただけじゃ全然分からなかったよ」
「だろうな。天才であるワタシがこの場にいたことに感謝したまえ」
思い切り胸を張る明智さん。
「じゃあ黒瀬君。触らないようにして何か変な点がないか見てもらってもいい?うちの背だと何も見えないからさ」
「ワタシからも依頼しよう。ワタシは助手よりさらに20センチ身長が低いからな」
「おう。任せとけ!…………えーっと」
再度黒瀬君は近づき、電圧盤を覗き見る。
「………なんか古くせー機械だな。所々黄ばんでるし………ん?なんか焦げてる痕があるぜ。それにこの【黄金の間】の【電圧】ってとこだけ最大になってるな」
焦げ痕に加えてこの部屋の電圧が最大………?
「ふむ。成程。他には?」
「………いや。そんくれーだな。他に変なところはないと思うぜ」
「そうか。助かったよ、黒瀬敦郎クン。キミのその無駄な上背が珍しく役に立った」
「テメーはいちいち一言多いんだよ!オレより50センチも小せーちびすけの癖によ!」
「………ほう。このワタシを『ちびすけ』呼ばわりとは。言うようになったじゃないか」
2人が睨み合う中、うちは頭の中で今の情報を整理する。
焦げ痕はさっき灯里ちゃんの服にも残っていたものと同じだろう。
けど、何故距離の離れた2箇所で焦げ痕が残っているんだろう。
それに、電圧が最大になっているのはどうしてなんだろう。
どう考えても意図的なものとしか考えられないけど……。
コトダマゲット!
[電圧盤]
【黄金の間】の壁にある電圧を制御する装置。
一部分に焦げ痕が残っており、さらに電圧は最大になっている。
「それにしても、こんな高い場所にあるなら普段いじるのも大変そうだよね」
うちは電圧盤を見上げながら2人に話しかける。
「だな。つーかオレしか届かないんじゃねーの?」
「そうだな。普通に考えたならキミしか届くまい。
明智さんは電圧盤と並ぶように壁に設置されている、本がほとんど入っていないスカスカの本棚を指差した。
「この本棚を足場にすれば身長が足りないワタシ達でも触れることは可能だ」
「なるほど!確かにそうだね」
「麻音はこういうのだけは思いつくの早えーよな。悪知恵ってやつか?」
「賛辞感謝しよう。その調子でどんどんワタシを褒めたまえ」
「別に褒めてねーよ!」
「さて、黒瀬敦郎クンの照れ隠しは置いておくとして………助手よ、これを見たまえ」
「照れ隠しってなんだ!」と憤慨する黒瀬君を無視して明智さんが次に指差したのは、本棚の真ん中の段に付いていた
「あっ!?これって………」
「足跡、だな。しかし、これでは誰のものか特定は難しいだろう。なにせつま先部分のみの上、かなり薄いからな」
「じゃあ、明智さんの言う通り、誰かがこの本棚を利用して電圧盤を操作した……?」
「あくまで可能性の話、だがね。それに電圧盤が事件前にいじられたという証拠もない。元々電圧が最大であった可能性もあるし、そもそも今回の事件に全く関係ない可能性もある」
「まだまだ謎だらけだね」
「…それをこれから解明していくのだ。楽しみだろう?」
不敵に笑う明智さん。不謹慎だよ、と言ってもどうせ聞かないだろう。
コトダマゲット!
[本棚に残された足跡]
制御盤の隣にある本棚に足跡のような血痕が残されていた。
この本棚を利用すれば、身長の足りない者でも高所にある制御盤をいじることは可能。
「よし。ひとまずこの部屋は調べ終わったかな」
うちは次は部屋の外を調べてみることにした。
部屋の外に出ると、部屋の隣ではまだ地面から煙が上がっていた。
まるで旅人が野宿の際焚き火をしていた跡みたいだ。
「(さっきの煙、結局何だったんだろう……)」
誰がこれをやったのか、そして目的は何なのか。
裁判ではこれを明らかにする必要がある。
けど………何度か裁判を経験したおかけで、うちも多少推理力が身についてきた。
だからその答えをなんとなく予想する事が出来る。
「(多分だけど、
うちはその場にしゃがみ込み、焼け跡を調べてみる。
「(………やっぱり)」
すると、すぐ近くに細長く黒い何かが燃えずに残っているのを見つけた。
「(これって………
拾ってみると、それは黒いワイヤーだった。
しかもそれは、
「(
そして、そんな事をする必要があるのはただ1人。
けれど、もしそうだとしたら疑問が残る。
「(灯里ちゃんを椅子に縛っていたワイヤーはどうして処分しなかっただろう)」
普通、証拠を処分するのが目的だとしたら、部屋中の使用した道具等をまとめて燃やす筈。
それなのに、部屋には多くの証拠品が残されていた。
「(………なんか、犯人の証拠隠滅があまりにも中途半端すぎる。証拠隠滅が出来ない程急いでいたのかな。………ともかく、これも1つの証拠として覚えておこう)」
コトダマゲット!
[外で燃えていたもの]
【黄金の間】の隣の地面で燃えていた物の中に、細長いワイヤーが落ちていた。
燃え跡から離れたうちは、次に『制御室』へと向かった。
すると、柴崎君の言う通り、今にも崩れ落ちそうな程ぼろぼろの建物があった。
早速中に入ってみると、目の前にいくつもの大きな制御盤が置いてあり、そのうちの1つに[スプリンクラー]と大きく書かれたものがある。
そこには、分かりやすく『動』と『停』というボタンと、『自動モード』と『手動モード』というボタンが配置されていた。これを押せばスプリンクラーが自動で作動するか手動にするかというのを自由に操作出来るみたいだ。
そして、現在は『手動モード』になっている。
なるほど。確かにこれは誰でも簡単に出来そう。
「(あれ………?なんか注意書きが書いてある)」
すると、うちはふと下に小さく書いてある注意書きを見つけた。
そこには、【スプリンクラーは基本的に自動で作動、停止しますが、こちらのボタンでの手動操作に切り替えられます。また、遠隔での手動操作も可能です】と書かれていた。
「これって…………『手動モード』については、この制御室でのボタン操作の他、
普通スプリンクラーが自動で作動するのは火を感知した時だけど、『黄金の間』の中で火は起こってないから、今回は誰かが『手動』でスプリンクラーを作動させたのだろう。
ひとまず大雑把にはスプリンクラーの仕組みは理解出来たかな。
コトダマゲット!
[スプリンクラー]
『黄金の間』に設置されているスプリンクラー。
相川達が入った際は、火事が発生していないにも関わらず作動していた。
スプリンクラーは『自動モード』と『手動モード』の2つがあり、現在は『手動モード』となっている。
『手動モード』は、E棟にある『制御室』でのボタン操作、システムを利用した遠隔操作の2つの方法で可能。
「(ん?これはもしかして
ボタンを離れ、『制御室』を見て回っていると、1つの端末を見つけた。
その端末を見ると……
AM9:31 手動モード
と表示されていた。
「(これは………今日の9時31分に手動モードに切り替わったってこと?」
つまり、部屋のスプリンクラーが手動に切り替わり、灯里ちゃん達が水に濡れたのが少なくとも9時31分以降………。
優月ちゃんが報告してくれた死亡推定時刻とほぼ同じだ。
「(問題はそれを誰がやったのかだけど……まだ分かんないね)」
けれど間違いなく、スプリンクラーは事件に関係している。
それだけ分かっただけでも大きな収穫だ。
コトダマゲット!
[スプリンクラーのモード切り替え履歴]
今日の午前9時31分、スプリンクラーは『手動モード』に切り替わっている。
「あれ?」
『制御室』を出て他の棟に行こうと出口に向かっていたうちは、E棟への扉の前に佇む柴崎君を見つけた。
「柴崎君?扉の前に立ち尽くしてどうしたの?」
「相川サンッスか。いやあ、大したことじゃないんスけど」
柴崎君は扉を指差した。
「このE棟に入るための扉、
うちらがE棟に入る為に通った扉。それを見ると、外からは5つの鍵を刺さないと開かないが、中からは捻る鍵(名前分からない……)の形状になっていて、誰でも簡単に開けることが出来るみたいだ。
「ホントだ。えっと、この鍵ってなんて言うんだっけ……」
「ああ、『サムターン』ッスね」
柴崎君は鍵を覗き込む。これサムターンって言うんだ。初めて知った。
「というか、スプリンクラーとかはデジタル化してる癖に、こういう所はアナログなんスね」
確かにそれはそうだ。
扉も全部遠隔操作で開けられるようにしておけばいいのに……。
コトダマゲット!
[E棟入口の扉]
外からは5つの鍵を使用しないと開かないが、中は1つの鍵を捻れば、誰でも簡単に開けることが出来る。
A棟 購買
E棟を出た後、流れでうちと柴崎君は一緒にA棟の購買へと向かった。
「相川サン。僕が1回目の裁判で使った裏技、覚えてます?」
A棟購買に到着した時、彼はそう聞いてきた。
「裏技?」
そんなものあっただろうか。
「よく思い出してください。僕がクロである中澤サンを落とすために何をしたか」
うちは柴崎君に言われた通り、必死に頭を働かせ記憶を辿る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
柴崎 武史「つまり、中澤サンの血液型を証明出来れば自分が犯人だって認めるって事ッスよね?じゃあ相川サン、しょうがないから僕が助けてあげるッスよ」
中澤 翼「………………………は?」
すると、ずっと黙って傍観していた柴崎君が急に喋り始めた。
北条 業「は?急に何喋ってんの?凛さんに話しかけたら殺すって言ったよな?」
柴崎 武史「隣から尋常じゃない殺気が漏れ出してるッスね〜」
幸村 雪「ひゃあ!!また政子のヤンキーモードが発動した!!」
独島 灯里「恐ろしや〜〜〜」
銀山 香織「北条、少し落ち着け。柴崎の話を聞くだけ聞いてみよう。反論するのはその後でもいい」
北条 業「………………はい。ただし、凛さんに変な事言ったらすぐ殺す」
柴崎 武史「分かってるッスよ。じゃあその方法ッスけど………」
柴崎 武史「情報を買えばいいんすよ。モノカバからね」
「えええええーーー!!!!」
ほぼ全員が驚きの声を出した。
ジャック「情報を買う、だト!?」
万斗 輝晃「そんな事が出来るのかい!?」
柴崎 武史「そもそも皆サン疑問に思わなかったんスか?モノカバ睡眠薬を使うにあたって、犯人がどうやって全員の血液型を知ったのかって」
幸村 雪「そんなの、血液型なんて知らなくても使えるじゃん!適当にポイって飲み物に放り込めばいいんだからさ!」
柴崎 武史「本当にバカと話すのは疲れるッスね………。いいッスか、今回の事件、いくつかの証拠から犯人は恐らくかなり前から犯行を計画していたのが分かるッス。そんな用意周到な犯人が血液型を調べもせずに睡眠薬を使う訳が無いんスよ。もし睡眠薬を盛って実は飛田サンはA型でした、とかだったらどうするんスか?今回の計画は全部パーッすよ。だから間違いなく犯人はなんらかの方法で事前に全員の血液型を把握したんスよ」
幸村 雪「バカって言うな!!でも、モノカバに頼んでそんな情報見せてくれるのかな………」
柴崎 武史「話聞いてました?だから買・う・ん・ス・よ・。モノマネーと引き換えにね」
霞ヶ峰 麻衣子「そ、そんなチートみたいな事が出来るでござるか!?」
柴崎 武史「誰も出来ない、とは言ってないッスよ。僕はモノカバに『ここにあるものは何でもモノマネーで買える』って聞いた時から怪しいと思ってたんスよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あ!柴崎君が
「正解ッス」
柴崎君は深く頷いた。
「僕は最初の時、モノカバからモノマネーで購入した情報を提示して彼の犯行を暴いたッス。ここにあるものは
「でも、何でもって言っても限度があるんだよね?モノマネーさえ払えば全て教えてもらえるわけじゃないんだよね?」
じゃなきゃ、今までの裁判は全て情報を買ってさえいれば全て簡単に解決してしまう。圧倒的にクロが不利だ。学級裁判のルールとして破綻している。
「そうッス。モノカバに色々確認してみたんスけど、例えば『クロの名前を教えろ』とか『このコロシアイの黒幕は誰だ』みたいな直接的なオーダーは当然無理ッスね。それに、今回の事件のような
「そっか。それはそうだよね。…………でも柴崎君。この話を持ち出したって事は、今回も
「その通りッス。…………おいモノカバ!どうせ聞いてるんスよね?」
「おや?どうしたカバ?」
するとどこからかモノカバが現れた。
「モノカバ。『情報の交換』をしたいんスけど?」
「え〜〜〜?また柴崎クンカバー?せっかくオイラが親切に情報提供してやってるのに柴崎クンしか使ってくれないから悲しいカバーー!!!」
「知るか。アンタに今回聞きたいのは、1週間分の『A棟購買』に置いてある
「え?」
「カバ?」
不本意なことに、うちとモノカバの困惑した声が重なってしまった。
「どうしてそんなものを………」
「まあまあ、それは後で説明するんで。…………で?これくらいの情報なら可能ッスよね?別に事件解決の根本的な手がかりではないわけだし」
「まあそれくらいなら別にいいカバ。けど………なーんか癪だから今回は高めに払ってもらうカバ!金額はそう…………10万モノマネーカバ!」
「は?」
柴崎君はこめかみに青筋を浮かべた。
「ふざけてんスか?1回目の裁判の時の情報が5000モノマネーで、今回が10万?ぼったくりもいいとこッス」
「べーつに金額に納得がいかないなら買わなくていいカバよ!オイラびた一文まけるつもりはないカバ!」
「チッ………」
柴崎君は豪快な舌打ちをしながらも、きっちりモノマネーを支払った。
「まいどあり〜〜!じゃあ引き続き捜査頑張るカバー!」
満足そうな笑みでモノカバは消えていった。
「あのクソカバ………危うく僕もモノマネーがゼロになって学則違反で処刑されるところだったッス」
「ちなみに柴崎君の残高は………」
「12モノマネーッス。うまい棒くらいしか買えないッスね」
柴崎君は困ったように笑っている。
「いやいや笑い事じゃないよ!?これからの生活どうするの!?」
「いいんスよ。仮に生き残ったとしても、ここでの生活はもう終わりに近づいてるんスよ。余らせてもしょうがないッス。それにクロを当てられなかったらどのみち僕達死ぬんスから、後先のことなんて考えなくていいんスよ」
「いい、のかなぁ………?」
そう言いながら柴崎クンは、モノカバからもらった情報を早速開示する。
「相川サンも見ます?僕のなけなしの金で買った情報の中身」
「言い方………。まあ、正直中身気になるし、見せてもらおうかな」
うちは柴崎君のカバフォンを覗き込む。
14:10 レインコート×2 3000モノマネー ドクシマ アカリ
14:10 救急セット×1 2000モノマネー ドクシマ アカリ
14:10 ワイヤー×2 1500モノマネー ドクシマ アカリ
14:10 ゴム手袋×1 300モノマネー ドクシマ アカリ
柴崎君のカバフォンに表示されていたのは、4つの品の購入履歴だった。
他に表示された情報は一切ない。
「これって………灯里ちゃんが昨日の14時頃に4つ買ったってことだよね?」
「そうッス。これは予想外の収穫ッスね」
購買で物を買う。それ自体はおかしなことじゃない。問題なのは………
「
「相川サン冴えてるッスねえ。流石は学級裁判の立役者」
「茶化さないで」
うちは柴崎君の腕をつねる。「痛っ!?」と柴崎君が一瞬跳ねる。
「痛てて………まあそれは冗談として………被害者である独島サンが
「うん。これが今回の事件に全く関係がない日用品の購入………は流石に苦しすぎるよね」
「仰る通りッス」
灯里ちゃんが前日に買った4つの道具。
これは重要な手がかりになる気がする。
コトダマゲット!
[A棟購買の購入履歴]
柴崎がモノマネーと引き換えに交換した1週間分の購買の購入履歴。
23:10 レインコート×2 3000モノマネー ドクシマ アカリ
23:10 救急セット×1 2000モノマネー ドクシマ アカリ
23:10 ワイヤー×2 1500モノマネー ドクシマ アカリ
23:10 ゴム手袋×1 300モノマネー ドクシマ アカリ
柴崎君と別れたうちは、C棟遊園地にある武器庫へと向かった。
現場にあった凶器の出どころを確定させるためだ。
千野李玖の机にあったリストから、恐らく凶器の出どころはあの部屋なんだろうけど、一応確認しておかないとね。
うちは昨日みんなで確認したリストを手に取り、実際にある物と照合していく。
「(確か現場にあったのは果物ナイフとハンマーだったよね。なら、もし
つまりは、うちら5人の誰かが持ち出した可能性が出てくるということだ。
「(よかった。何も持ち出されてない)」
けれど、うちの心配とは裏腹にリストと現物は一致していた。
要するに、この武器庫から果物ナイフとハンマーは持ち出されておらず、千野李玖を殺した凶器は、元々【黄金の間】の机の引き出しの中に入っていて、死体発見時現場に落ちていた2つの凶器で確定、ということだ。
しかし、そうするとまた疑問が1つ出てくる。
「(うちらは【黄金の間】には入れなかった。ということは、凶器を入手出来たのは灯里ちゃんか千野李玖の2人だけ………)」
じゃあ千野李玖を殺したのは………。
コトダマゲット!
[C棟武器庫]
事件前、C棟武器庫から新たに持ち出された武器はない。
「あ、そうだ」
うちはふとずっと気になっていたことを思い出した。そして、
「モノカバ!聞きたい事があるんだけど!」
誰もいない空間に向かってそう呼びかける。
「ん?相川サンどうしたカバ?キュートでチャーミングなモノカバちゃんに何か用カバ?」
すると、モノカバが妙にくねくねした動きをしながら姿を現した。
……気色悪い。暴力が禁止されていなかったら迷わず顔面にパンチを入れているところだ。
「あんたが千野李玖に操作権限を握られてた事について詳細を聞きたいんだけど」
「ああ、そのことカバ?別にそんなの今回の事件に関係ないカバ?」
「関係あるかどうかはうちが決める。だから余計なお世話」
「カバっ!?相川サン、せっかくのオイラの心配をそうやって無下にして……バチが当たってもしらないカバよ〜〜〜」
………こいつとの会話は本当にテンポが悪い。
段々と話していてイライラしてくる。
「………じゃあ手短に済ませるよ。まず質問1。あんたが権限を取り戻して自由に動けるようになったのは、
「………んー、相川サンは妙なことを気にするカバね。何か心配事でもあるカバ?」
「いいから早く答えて。時間がもったいない」
「つれないカバねえ………えー、結論から言うと答えは『ノー』カバ!あの馬鹿が死んでからオイラが操作権限を取り戻すまでかなりのタイムラグがあったカバ!具体的な時間は犯人側に不公平になるから言わないカバ!」
「………分かった。次に質問2。千野李玖が死んでからあんたが権限を取り戻すまでの間、
「質問の意味がイマイチ分からないけど………オイラが権限を取り戻すまでの間、仮に命令者である千野が死んでもオイラ達はその命令に従い続けるカバ。
「………そう。よく分かった。もう行っていいよ」
「ちょ、折角教えてあげたのにその態度は何カバ!あ!もう背中向けてるし!」
うちはギャーギャー叫んでるモノカバに背を向け、今聞いた話を頭の中で整理する。
今のモノカバの話によれば、
①モノカバは千野が死亡してすぐ自身の操作権限を取り戻したわけではなく、その間にはかなりのタイムラグがあった
②千野が死亡してすぐモノカバが停止するわけではなく、前の権限者が死亡しても各棟を徘徊していたモノカバ達は命令に従い続けるようになっていた(今回だと『うちらを探し出して殺す』みたいな命令が出されていたのだろう)
③モノカバが操作権限を取り戻し、命令を書き換えることによって初めて大量のモノカバ達は止まる
どうやら千野が死んだらモノカバは停止する、という単純な仕組みにはなっていなかったみたいだ。
「(これも裁判で必要になるかもしれない。しっかり覚えておこう)」
コトダマゲット!
[モノカバの証言]
事件直前までのモノカバの動きについてモノカバが証言した。
①モノカバは千野が死亡してすぐ自身の操作権限を取り戻したわけではなく、その間にはかなりのタイムラグがあった
②千野李玖が死亡してすぐモノカバが停止するわけではなく、前の権限者が死亡しても各棟を徘徊していたモノカバ達は命令に従い続けるようになっていた
③モノカバが操作権限を取り戻し、命令を書き換えることによって初めて大量のモノカバ達は停止した
B棟 才能研究棟 《超高校級の薬剤師》の研究教室
前回の事件ぶりにうちは研究教室へと足を踏み入れる。
中は綺麗に片付けられているため、調査するのは簡単だった。
「…………うーん。やっぱりそうか」
薬品棚にある人体に有毒な薬品の数は、前回の事件から全く変わっていなかった。
量が減っている物もない。
つまり、ここから持ち出された薬品はないということだ。
「(となると、現場に落ちていたあの瓶は………?)
わざわざラベルを剥がして現場に放置してあった瓶。
うちらに死因を毒殺だと思い込ませるために犯人が偽造した………?
「ひとまず、毒が持ち出されていないことが分かっただけで大きな収穫かな」
コトダマゲット!
[研究教室の毒]
《超高校級の薬剤師の研究教室》にある毒に持ち出された形跡はない。
「あれ?また会ったッスね相川サン」
しばらく研究教室内を捜査していると、扉が開き柴崎君が入ってきた。
「柴崎君ももしかして灯里ちゃんの周りに落ちてた空き瓶が気になったの?」
「まあ、そんなとこッス。霜花サンから検死の結果とか諸々聞いて不審に思ったんで」
「そっか。………あ、そうだ。このリストって柴崎君が作ったんだよね」
うちは薬品棚に入っているリストを柴崎君に見せる。
「ああ、これッスか。作ったのは僕ッス。正確には
「僕達?」
「霜花サンと一緒に作ったんスよ。1人の作業は捏造とかやり放題だし、何より僕まだ信用がないんで。監視も兼ねて彼女に協力してもらったんス」
なるほど。確かに優月ちゃんなら視野も広いし、仮に柴崎君が悪さをしようとしてもすぐ発見することが出来る。見張りにはぴったりの人選だ。
「ちなみに薬品の在庫チェックって最後やったのはいつ?」
「昨日の夜ッス。勿論霜花サンと一緒にチェックしたッス。特に減ってる物とかはなかったッスね」
「在庫チェックは毎日?」
「そうッスね。基本毎日夜にチェックしてたッス。………あ、そういえば」
柴崎君が顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「3日前くらいに明智サンが珍しく眠れないから、って言って睡眠薬を持っていってたッスね。あ、僕と霜花サンがその時ちょうどいたんで、その場で服用してもらったッス。だから他の用途で使われたのはあり得ないッス」
明智さんが睡眠薬………?
なんだか珍しい。
けど、2人がその場で服用したのを見たって言うし、問題はなさそうかな。
コトダマゲット!
[柴崎の証言]
《超高校級の薬剤師の研究教室》内にある薬は柴崎と霜花でリストを作成し、管理していた。また、在庫チェックは毎日夜2人で行っていた。
3日前、明智が睡眠薬を取りに来たが、その場で服用し、柴崎と霜花もそれを目撃している為、他の用途で使用したとは考えられない。
ピンポンパンポーン………
「さーてオマエラら、学級裁判の始まりの時間がやってきましたカバー!さぁ、1階の101教室に集合するカバー!」
「…行きますか」
「うん」
うちらは覚悟を決め、いつもの集合場所へと向かった。
A棟 101教室
中に入ると、既に全員が集合していた。
「ごめん、お待たせ」
「これで全員ッスか。随分とスカスカになっちゃいましたねえ」
「まじてこれで全員なのかよ…………未だに信じらんねえ」
「生存者はここにいるワタシ達で全員。つまりはこのだだっ広い大学にはワタシ達以外の人間は存在しないということだな」
「最初の十数人いた光景が夢ではないかと疑ってしまう程少なくなってしまいましたね…………」
最初の裁判では確か生き残っていたのは15人。
そこから1人、また1人といなくなってしまった。
そして今はたったの5人。
おまけに、学級裁判の結果次第ではこの5人からさらに1人減ってしまう可能性だってある。
「カバカバカバ!!オマエら揃いも揃ってしけた面してるカバね!」
するとモノカバが大笑いしながら出てきた。
「せっかく千野のバカのクソゲー乗り越えたのに全然喜んでないカバ!もっと大騒ぎしてパーティでもやればいいのにカバー!」
「うるせえ、とっとと道開けやがれクソ野郎が」
「黙って開けてもらえます?アンタと話すの労力と時間の無駄なんで」
男子組がモノカバの挑発を無視してエレベーターへの道を開けるよう急かす。
「なーんだ、つまんないカバ。最近オマエらの反応が薄くて全然面白くないカバー」
モノカバはうちらの反応に飽きたのか、操作してすぐ道を開けた。
「ほら、オマエらの望み通り開けてやったカバ。オマエら、この海よりも深い心を持つオイラに感謝を………」
「みんな、行こう」
「無視カバ!?」
うちはモノカバには目もくれず、エレベーターへ向かった歩き始めた。
そして全員がエレベーターに乗ったところで、耳障りな機械音と共にエレベーターが動き始めた。
エレベーターはゴウンゴウンという不気味な音と共にどんどん下に落ちていく。
そしてうちらは無言のまま、エレベーターは裁判場へと到着した。
「カバカバカバ!ようこそ裁判場へ!オマエら、とっとと自分の席につくカバ!あ、空席が多いからって席間違えちゃダメカバよ!」
ゲラゲラ笑うモノカバを無視し、うちらは自分の席へとつく。
今回の裁判場は緑とピンクが混じった不思議な装飾となっている。
どうせ今回の犠牲者である2人をモチーフに作ったのだろう。
うちは周りに視線を向けるのをやめ、正面を向く。
超高校級のサブカルマニア、独島灯里ちゃん。
彼女はいつでもマイペースで、常にうちらのことを振り回してきた。
でもうちは、そんな彼女のことを嫌いになることはなかった。
むしろ、人にイタズラを仕掛けて喜ぶ姿や、ふにゃっとした笑みを浮かべて笑う彼女を見るのが好きだった。ここでコロシアイをさせられていることを忘れるくらい、彼女はみんなの癒しになっていたと思う。
けど、実際は彼女は笑顔とはかけ離れた人物だった。
千野李玖に家族を初めとする大切な人を殺され、本人も耐え難い屈辱を受け続けていた。
だから彼女は、千野李玖という男を殺すためだけに生きてきた。
憎み、憎み、憎み続けた。
絶望の残党として『絶望の庭』に入り、人生を捨ててまで彼を殺す機会を伺っていた。
そんな彼女は命を落とした。
千野李玖とは対照的に、安らかな笑みを浮かべながら。
その笑みは、彼を殺すことが出来たことによる満足からなのか、それとも別の理由があるのか。
今となっては知る由もない。
超高校級の茶人、千野李玖。
最初会った時の彼に対する印象は、本当に同級生なのかということだった。
閉じ込められたにも関わらず、不思議な程落ち着いて、周りを見ていて、うちらが諍いを起こした時は仲裁に入ってくれて………なんというか、いざという時に頼りになる人なんだなってずっと思っていた。
けど…………それは全て嘘だった。
彼は、このコロシアイを起こした『絶望の庭』の一員で、女性を陵辱することに何よりも喜びを感じる、最低最悪の人間だった。
そして同じ仲間であるはずの黒幕を憎み、裏切ってコロシアイを一時的に乗っ取り、デスゲームのしゅさいしゃとしてうちらを殺し合わせようとした。
人の命を何とも思っていない、極悪非道な奴とはまさにあいつのことを言うんだろう。
けど、その彼の命も消えてしまった。
全身を滅多刺しにされ、驚愕と絶望に満ちた表情で死んでいた彼の姿が、今でも脳裏に焼きついている。
憎しみが憎しみを生んだ結果起きたコロシアイ。
今回の犯人は、うちら5人の中にいるのか。
それともいないのか。
5回目の学級裁判が今、始まろうとしていた。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
MA002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
MC003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
MB005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
MC006 柴崎 武史《歴史学者》
MB007 霜花 優月《狙撃手》
MA008 ジャック ドクトリーヌ《医者》
MC009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
MB011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
SB012 中澤 翼 《フットサル選手》
LB013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
MB014 分倍河原 剛 《空手家》
015 北条 業 《希望ヶ峰学園予備学科生/放火魔》
MA016 万斗 輝晃《情報屋》
MB017 幸村 雪 《激運》
MA018 明智 麻音《探偵》
残り5人