3F 個室前
うちらはまず、3階にある個室へと向かった。向かって左側が女子、右側が男子の個室らしい。順番は手前から
女子 相川 北条 霜花 喜屋武 幸村 錦織 銀山 独島 霞ヶ峰
男子 分倍河原 柴崎 ジャック 万斗 千野 黒瀬 中澤 飛田
となっている。ドアにはうちらを模したドット絵が描かれていて、誰の部屋か一目で分かる様になっていた。ドアノブの横にはカードリーダーみたいなのが付いている。多分このカバフォンが鍵の代わりになっていて、それをタッチして入る仕組みなんだろう。
「あ!?やった!!相川さんと部屋隣ですね!わぁい嬉しい!」
「う、うん…そうだね…」
うちの腕にくっついたままはしゃぐ北条さん。なんかキャラがさっきまでとまるで別人なんだけど。
「じゃあそれぞれの個室を探索しようか」
「そうっすね」
「え〜私と一緒じゃないんですかー?」
「部屋調べる時まで一緒じゃなくていいでしょ!?」
「あれ?いいんすか?北条さんに嫌われちゃいますよ?」
「そうですよ!嫌っちゃいますよ!」
「うるさいから!ほら、さっさと自分のとこに行く!」
無理矢理2人を部屋に押しこんでから、うちは自分の個室に入った。
相川の部屋
個室の構造は至ってシンプルだった。8畳くらいの大きさの部屋に、シングルベットが1つとイスと机のセットが1つ、壁にエアコンが付いているだけ。後は特に何も見当たらない。
そして窓には分厚い鉄板が付けられている。自力で取るのはまず無理だろう。
「寂しい部屋だなぁ……」
うちは思わずそう呟きながら部屋の右に扉があったのでそこを見てみる。
中は洗面所とシャワールームだった。シャワールームは人が2人やっと入れるくらいの狭い空間だが、設備は意外にもしっかりしていて、ちゃんとリンスやトリートメントも完備されている。こういうとこで妙に気が利いているのがまた気味が悪い。
洗面所にはモノカバカラーの歯ブラシが1本とモノカバの顔が書かれたコップがあった。誰が使うか気色悪い。
洗面所を出て、今度は机を漁ってみる。机の上にはペンと消しゴム、それに何やらスタンド見たいのが置いてあった。ここに何か置けって事かな?
引き出しの中にはノートが一冊とピンク色のプラスチックケースが入っていた。
中を開けてみると、トンカチ、ナイフ、スパナという何やら物騒な物が3つが入っていた。
「何これ……」
うちが戸惑っていると、
「それは殺人手助けキッドカバ!!!!」
「ぎゃあああああ!!」
机の下からモノカバが飛び出してきた。
マジで心臓止まるかと思った。しかも下品な驚き方しちゃったしもう最悪。
「びっくりさせないでよ!!というかどっから出てきたの??」
「この大学にはオイラ専用の隠し通路が至るところにあるカバ!だから呼んでくれればいつでも参上するカバ〜!」
「絶対に呼ばないから。で、これは何?さっさと説明して」
「カバ………相川サン、素っ気なすぎカバ………オイラ泣くカバよ?泣いちゃうカバよ??」
知らん。勝手に他所で泣いてくれ。
「…………リアクション薄いカバ…これは殺人手助けキッドと言って、殺人を未経験なオマエらでも、簡単に人を殺せるように用意した凶器セットカバ〜〜」
余計な事を。そんな小細工しても無駄だ。うちらは絶対にコロシアイなんかしない。
「ちなみに、男子と女子だと中身は同じだけどケースと凶器の取手の色が違うカバー。男子は青で女子はピンクカバ」
「いやどうでもよくないその情報!?」
「いやいや、もしこれを使った殺人が起きた時、この情報が役に立つかもしれないカバよ〜」
「バカバカしい。あぁ、後このスタンド見たいのは何?」
「それはカバフォンの充電用スタンドカバ。試しにそこに置いてみるカバ」
うちは言われた通りカバフォンをセットした。
すると、画面に「充電中 現在操作は出来ません」 と出てきた。
「え?もしかして充電中は使えないって事?」
「そうカバー。充電中はスリープモードになるカバ。でも心配しなくてもいいカバよ。スリープモードでもメッセージはちゃんと届くようになってるカバ」
「ふーん。意外と不便なんだね。これ」
「ガ、ガーン……………………。またディスられた……………。ショックで立ち直れないカバ………」
モノカバは静かに去っていった。よほど今の一言が胸に刺さったらしい。
「ふぅ…。一通り調べたし、2人と合流しようかな」
そう言って廊下に出ようとすると、コンコンとノックの音が聞こえた。そっか、この個室、インターホンないんだ。
「はーい、今開けまーす」
そういってドアを開けると、北条さんが立っていた。
「あれ?北条さん?自分の個室の探索終わったの?」
すると、北条さんはさっきとはまた別人のような真剣な表情で
「相川さん。2人だけで話したい事があるので、中に入れてもらってもいいですか?」
部屋にはイスが1つしかないので、北条さんはイスに、うちはベットに腰掛けた。
「それで、話っていうのは何かな?しかもうちら2人きりでって………」
「はい、実は………………その…………」
北条さんは話し始めた瞬間、顔が赤くなり、もじもじし始めた。ん?どうしたんだろう。トイレにでも行きたいのかな。
待てよ。2人きりでって事は誰にも聞かれたくない事。しかも顔が赤いという事は…
「私、相川さんの事が好きです!!付き合って下さい!!!!」
みたいなパターンしか考えられないじゃん!!え?どうしよううち。確かに北条さん清楚でうちより全然可愛いし、いい人そうだけど……うち、同性は恋愛対象として考えたこと無いし…かといって無下に断れば北条さんを傷つけちゃうし……ヤバいテンパってきた。どの選択が正しいのか分かんない。
「あの………相川さん?」
「えっ!?う、うん。なんでもないよ。それよりどうしたの?緊張しなくていいからゆっくり話して。うち、急かさないから」
「……ありがとうございます。あの、私…」
本当は早く聞きたいのにゆっくり喋ってなんて言い出したうちバカすぎ。なんか心臓がバクバクする。定期テストの結果が帰ってくる時よりバクバクする。
「私……………………………相川さんと……」
「とっ、友達になりたいんです!!わ、私とお友達になってもらえませんか!!!」
ほぇ??????
うちは気が抜けてベットに倒れ込んだ。
「え??相川さん!?もしかして私と友達になるのは嫌という…………」
「違うよ。うちは北条さんがとんでもないこと言い出すかと思ってドキドキしてただけ。なんか気が抜けちゃった」
「とんでもないこと…?」
「そう。北条さんがうちに告白するのかと思ってた」
「こ、告白!?!?そんな事するわけないじゃないですか!!!!!!私正真正銘女ですよ!!」
さっきより顔を真っ赤にして北条さんが抗議する。いやいや、その可能性は無いとは言い切れないんだってこれが。
「ゴメンゴメン。というかうちはさ、初めて会った時からその人は友達だって決めてるから」
「え?じゃあ私とも………」
「とっくに友達のつもりだよ。だから初対面の時、才能が分からないって言った北条さんを信じたんだよ。そんなの何を今更って感じ」
「そ、そうだったんですか………」
「そうそう。というか、さっきまで北条さんうちにやたらとベタベタしてきたじゃん。それに初対面の時も結構普通に話せてたのに、なんで友達になろうって言う時だけ、あんな恥ずかしがってたの?」
すると、北条さんはまた恥ずかしがりながら
「実は…………私、コミュニケーションをとるのが苦手で………友達がいた事無いんです…」
「えーーー!?」
ウソ!?初めて話した時とかそんな風に感じなかったけどなぁ。
「でも、今まで全然そうは見えなかったけど」
「恐らく、それは複数人で会話してたからだと思います。私、一対一での会話が苦手なんです………」
ああ、なるほど。確かに最初購買で会った時他にも銀山さんと千野君がいた。だから普通に会話出来てたんだ。後、食堂でも話せてたけど、あの時は周りにみんないたし、全然問題無かったって事かな。
「じゃああのベタベタしてきたのって………」
「は、はい………友達がいた事がないので、人との距離の詰め方が分からなかったんです。だから無理して相川さんと友達になりたい一心でくっついてみたんです……」
「あと、私が一対一でのコミュニケーションが苦手なのを隠したくて………見栄をはってしまいました。やっぱダメですよね……?」
そういう理由があったんだ。なんか理由が分かってちょっとホッとした。
「う〜ん……うちは別に大丈夫だったけど、人によっては急に距離を詰められると嫌がる場合もあるから、あんまりやらない方がいいんじゃないかな……?」
「やっぱりそうですよね………」
北条さんは暗い顔で俯いてしまった。北条さんなりに苦労してるって事かなぁ。でも、せっかくわざわざ勇気を出して友達になりたいって言ってくれたんだ。うちもそれに答えないと。何か力になってあげたいし。
「はい!細かい話はまた今度じっくり考えよう!とりあえずもううちと北条さんは友達!今日はこれでオッケー!これからもっと仲良くなろう!!」
「う、うぅ…………ありがとうございます………私、感動です。人生初の友達が相川さんで良かった………」
「そんな大袈裟な。じゃあさ、せっかくだし、これからお互いに名前で呼び合わない?」
「えぇぇぇぇ!?い、いいんですか!!」
「もちろん!うちはいつでもウェルカムだからね!北条さんはどうかな?」
「も、もちろんです!!じゃあ、これからは『業』と呼んでください!!」
「分かった。じゃあうちも『凛』でいいよ!改めてよろしくね、業ちゃん!」
「はい!よろしくお願いします!凛さん!」
うちらはお互いに握手をする。良かった、こんな場所に閉じ込められてから最悪な事ばかりだったけど、友達が出来たのは大きな救いだ。後はこんな息苦しい場所から早く出れれば文句なしなんだけど…
「あ、そろそろ外出ようか。柴崎君のこと、結構待たせちゃってる気がする」
「あ、凛さん、最後にちょっと気になる事を教えておきます」
うちが出ようとすると、業ちゃんが呼び止めた。
「大事な事って?」
「はい。といってもこれは私の憶測でしかないんですが…」
そう言って業ちゃんはうちの耳元に近づき、小声でこう言った。
「恐らく、私達17人の中に裏切り者がいます」
廊下に出ると、柴崎君が腕を組んで待っていた。
「随分長い時間イチャイチャしてたんすね。もしかしてもうアレもしちゃったりしたんすか?」
「アレがなんの事か分かんないけど絶対何もいかがわしい事は何もしてないから。それは誓える」
「そ、そうですよ!!私達がそんな不健全な事、するわけないじゃないですか!!」
柴崎君は急に態度の変わった業ちゃんを不審そうに見るが、
「そうっすか。まあ僕にとっちゃどうでもいいんすけど」と言って目を逸らした。
じゃあ何で聞いたんだよ。
「それより、相川さん達の部屋はどんな感じだったんすか?」
うちらは、自分の部屋について説明した。どうやらうちと業ちゃんの部屋は全く同じ構造みたいだった。
「なるほど………僕の部屋も同じような感じだったんで、部屋の構造自体は男女で違いはなさそうっすね」
「うん。違うとすれば工具セットの色ぐらいかな」
「そうっすね。さぁ、担当の場所も調べ終わったし、さっさと食堂に戻るっす」
そう言って柴崎君は欠伸をしながらさっさと歩き出してしまった。
ん?なんか初対面の時と態度が変わってる気がする。それだけうちら打ち解けたって解釈してもいいのかな?
1F 食堂
食堂に入ると、なにやらいい匂いが漂ってきた。この匂いは………
「カレーっすかね?」
そう、間違いなくカレーだ。けど、何でカレーの匂いが…と思ってたら、厨房から喜屋武さんが巨大な鍋を持って現れた。
「あれ?相川さん達もう探索は終わったのですか?」
「うん。というか喜屋武さんそれって………」
「はい。みなさんが探索から戻ってくる前に、時間も時間だし昼食を作って待機しておこうかなと思っていたのですが、想定してたより時間がかかってしまって………やっと今終わった所なんです」
鍋を覗き込むと、大量のカレーが中に入っていた。うわぁ、めちゃくちゃ美味しそう!
「これ全部喜屋武さんが1人で作ったんですか??すごいです!!」
「いえ、このくらいだったら全然平気です。大人数のご飯を作るのは慣れていますから」
いつもと変わらず優しい笑みを浮かべながら話す喜屋武さん。天使かな?
「というか、食材はどうやって手に入れたんっすか?」
柴崎君が不思議そうに尋ねる。
「食材でしたら、厨房付近にある、こちらの機械で買えますよ」
喜屋武さんが指差した厨房の近くには、前にうちが来たときには無かった巨大な自販機がいくつも置いてあった。
1番手前にある「野菜」と書かれた自販機を見ると、人参じゃがいもタマネギピーマンキャベツナスほうれん草大根小松菜など…………すごい。うちが知ってる野菜は全部揃ってる。
「これについては皆さんも利用する機会があるでしょうから、全員が揃ってから説明しますね」
「ちょっと待って!?じゃあ今日使った食材は全部喜屋武さんが全部自分で買ったって事?」
「そうですね。ああ、心配なさらなくても大丈夫です。普段の市場と違ってそれぞれの食材の値段は安く設定されていたので。そんなに出費はしてませんよ」
「そ、そうだとしても………いい人すぎますよ喜屋武さん………」
「………………」
「それに、調理部の私としては、自分の作った料理を他の人に食べてもらう事が何よりの幸せなんです。だから皆さんには美味しく、そして仲良く食べていただけると私は嬉しいです」
そう言って、またあの綺麗なお辞儀をしてから厨房に戻る喜屋武さん。その姿はうちが今まで見てきた中で、1番嬉しそうであった。
うちらがただ待ってるのも申し訳ないので喜屋武さんの昼食の準備を手伝っていると、続々とみんなが探索から帰ってきた。結局、集まったのは、まだ絶対安静の分倍河原君と霜花さん以外の15人だった。
「よし、じゃあみんな揃ったし、喜屋武ちゃんが作ってくれたカレーを食べてから報告会を始めるよ!」
そう言ってみんなでまずカレーを食べ始めた。うちも早速一口いただきます。
美味い。程よい辛さと深みのある味。こんな美味しいカレー今まで食べたことない。絶品だ。
「あの………一応カレーはここにいない2人の分も作ってあるのですが、どうしましょうか?」
「分倍河原ちゃんの分は後でアタシが持ってくからいいよ。霜花ちゃんはさっき探索の時会ったから声かけてみたけど逃げられちゃった」
「そうですか………分かりました」
喜屋武さんが悲しそうな表情で頷いた。霜花さん………なんでそこまでうちらを避けるんだろう………?
「でも意外だな!ジャックはこういうの絶対参加しないと思ったのに」黒瀬君がカレーにがっつきながら言った。
「そこの女に無理矢理連れてこられたんダ…………」
ジャック君が錦織さんを睨みつける。あー、錦織さんならやりかねない。
「霜花ちゃんを逃しちゃったから、せめてジャックちゃんは、と思ってね。暴れ回ったから連れてくるの大変だったよ」
「確かにあの暴れ具合は凄かったですな。普段のジャック殿からは考えられませんでした」
千野君が笑いながら言う。というか失礼だけど千野君がカレー食べてるとなんかすごい違和感を感じちゃう。なんでだろう?
「あれ?ジャック君、人参を全然食べていませんが………もしかしてアレルギーとかありましたか?」
喜屋武さんがジャック君の皿を見て尋ねる。確かに、ジャック君の皿には人参だけまだ大量に残っている。
「いヤ、人参は昔からただ嫌いなだけダ。食べると気持ち悪くなるル。俺はこれを食材とは認めていなイ。だから後で捨てておいてくレ」
「ププっ!!そんな見た目と性格で人参嫌いだって………面白すぎるんですけど………」
「幸村殿………笑うのは失礼ですぞ………プププ………」
「貴様ラ………後で解剖してやるから覚悟しロ」
幸村さんと霞ヶ峰さんが笑いを堪えてるのをコメカミに血管をピキピキと浮かべながら睨むジャック君。完全にブチ切れてるなアレ。
しかし、もう今のやり取りでキレている人がもう1人いた。
「アレルギーではないのでしたら、今日はとりあえず残さず食べて下さい。次回からは気をつけますので」
「ふざけるナ。何で俺が貴様の命令を聞かなければいけな……………」
「食べて下さいね」
「だから、なぜ俺が………」
「何度も言わせないでください。食べて下さい。残したらもったいないですから。そうだ、いい機会ですからこの場で人参嫌いを克服するというのはどうでしょうか。私がお手伝いしますから。さあ、ジャック君、口を開けてください。ほら、あーん」
「ば、馬鹿にするのも大概にしロ!!俺は絶対人参は食わないと決めているんダ。だから俺は………むぐっ????」
喜屋武さんは目にも止まらぬスピードでジャック君の口に人参を突っ込んだ。いや怖すぎ。もしかしてさっき人参をディスられたから怒ってるのかな??
「………………………………」
「ほら、ちゃんと食べてみると意外と美味しいでしょう。よく味わずに食べ物を悪く言うのはダメですよ」
喜屋武さんはにこやかに言うが、ジャック君の顔は真っ青だ。まるで映画に出てくる毒を盛られた人みたいだ。
「この調子で全部食べて下さいね。あと、誰かにあげる、なんていう姑息な真似は禁止ですから」
「ギャハハハハ!!!!ジャックお前面白すぎだろ!!!!流理恵に完全敗北してるじゃねぇか!」
「ウヒャヒャヒャ!!本当に面白い!!お腹痛いよ………」
黒瀬君と幸村さんが抱腹絶倒している。そこまで笑わなくても………。でも普段口が悪くて人を寄せ付けないオーラを持ってるジャック君の意外な一面が見られたのはうちもちょっと面白かったかな。
そんなこんなでカレーを完食したうちらは早速探索の結果を報告しあう事になった。
「じゃあまず、アタシらAチームから報告するよ!アタシらは2階にある教室全部と各階にあるトイレを調べた!」
「教室と会議室は机の中等をもう1度詳しく調べたが、特に手がかりは無かった。ああ、後講義で使うのは主に教室の201〜203教室だけらしい。会議室は普段は使用許可を取らないと使えないとあのカバが言っていた」
「トイレは各階にあるけど、全部携帯を入り口にあるバーコードリーダーにかざして入るシステムになっていたよ。天井にはガトリングガンが付いていて、異性のトイレに携帯をかざしてドアを開けて入った瞬間、蜂の巣だってさ」
は、蜂の巣!?異性のトイレに入ろうとしてガトリングガンで死ぬなんてまっぴらごめんだ。
「そうそう。あ!?そうだ、それに関してまた学則が追加されたって言ってたねぇ」
学則が追加?うちが早速アプリを開いて確認してみると
13 異性のトイレに入ることを禁じます。
14 カバフォンの貸与行為は禁止です。
なんか禁止されてる事ばっかりじゃん。けど、この学則はありがたい。なぜなら………
「そうなんだよ!!これのせいでボクは女子トイレに潜んで女子がズボンを脱いで用を足す瞬間を見るという計画が崩れちゃったんだよ!!」
このド変態の侵入を阻止してくれるから。
「アンタ、本当にいい加減にしなよ…」
「うわぁ、最低ですね」
「てるるん、マジでキモい!!」
「万斗殿、二度と拙者に近づかないで欲しいでござる」
錦織さん、業ちゃん、幸村さん、霞ヶ峰さんからまるで汚物を見るかのような目で見られている万斗君。ちなみにこの手の話題に滅法弱い銀山さんは例の如く、茹でダコの様に真っ赤であわあわ言っている。
「万斗………お前いつか絶対捕まるぞ」
「おいおい、それは流石にヤベェよ………」
「チッ、頭にウジが沸いた変人ガ。その気持ち悪い口を今すぐ閉じロ」
中澤君、黒瀬君、ジャック君も続く。あ、でもその3人が言うと……
「あ?うるせぇこの腐れイケメンどもが!!」
万斗君が発狂した。やっぱり。
「女の子達に変態だなんだって罵られるのは別にいいけどテメェらみたいなイケメンに言われるのは我慢ならねぇんだよ!!!!!!特にそこのクソメガネタケノコ医者!!」
え?女子に言われるのは別にいいの?完全にドMじゃん。というかタケノコ医者??
「なんでも知ってる銀山さ〜ん。タケノコ医者ってなあにー?」
「わ、私は別になんでも知っている訳ではないんだが…タケノコ医者とはヤブ医者にも至らない、とても未熟な医者の事を指す言葉だったはずだ」平常心を取り戻した銀山さんが独島さんに教えてあげる。
「やっぱり知ってるじゃ〜ん。ありがとう〜」
タケノコ医者ねぇ。それはジャック君も怒るわけだ。
「貴様………その口メスで削ぎ落としてやろうカ………」
ジャック君はポケットからメスを取り出した。
「え?ちょっとジャックきゅん!?」
幸村さんが驚きの声を上げる。というかジャックきゅんって………
「じ、上等だ!!そのメガネかち割ってやるよ!!!!」
一瞬ビビった万斗君だったが、すぐ戦闘態勢に入る。やばい、早く止めないと。
「バン!!!!!!!!」
すると、
「はい、茶番は終わり!!!!ただ報告するだけなんだからさっさと済ませるよ!!喧嘩だったら後でいくらでもしていいからさ」
錦織さんがテーブルを叩き、みんなを黙らせた。
「そうっすよ。うるさいんで喧嘩するんだったら他所でやって欲しいっすね」
「拙僧も騒がしいのは苦手なので、諍いは正直やめてほしいですな」
「まぁまぁみんな落ち着いて〜。まずはゆっくり深呼吸ー」
この中でも比較的冷静なメンツがそれに乗っかる。
「チェッ!」
「…………フン」
2人の怒りも収まったみたいだ。良かった。うち何もしてないけど。
「さて、気を取り直して、次はBチーム!報告よろしく!」
あ、うちらのチームだ。
「えっと、うちらBチームは3階の個室を調べたよ。個室には………」
うちは、代表して個室について調べた事を発表した。
「なるほど………じゃあ個室については各自で後で把握しておく事にして、次はCチーム!」
「はーい。じゃあCチームはわたしが発表しま〜す」
「いや、独島ちゃんは駄目!アンタ喋るの遅いから時間かかるだろう。飛田ちゃん、頼めるかい?
「えっ!?僕!?う、うん。分かった………」
「え〜〜〜?錦織さん酷いよ〜」
「おい!なんで俺じゃないんだよ?」
「アンタバカそうだしちゃんと報告できなそうだからね。だったら飛田ちゃんの方が信頼性があるよ」
「清子ちゃんに全面的に同意するよ。アイツ、脳みそどうせ空っぽだろ」
「この変人と同じ意見なのは癪だが、同意見だナ」
「ふざけんな!脳みそちゃんとあるっつーの!多分小ちゃいけどな!」
いや小さかったらダメじゃん。
「えっと、話しても、いいかな…僕たちCグループは、購買を念入りに、調べてたんだけど…物が乱雑に置いてあるだけで、手がかりは、見つからなかったよ………」
「物を購入する時は、出口の近くにある機械に、商品と携帯を近づけると、自動的に精算、してくれる、みたい」
「あと、商品が無くなったら、モノカバ、が補充、してくれるみたいだよ」
「なるほどね。じゃあ最後、Dグループ!」
「はーーーい!ウチらDグループは、一階の大教室と、トレーニングルームを調べましたーー!!」
「大教室に秘密の抜け道が無いかと思い、壁や床を調べたでござるが、見当たらなかったでござるね………」
「トレーニングルームにも特に変わった点は無かったぜ。ただ、奥に開かない扉が1つあった。モノカバによると、講義の時間に使う場所らしいから、出口では無いだろうな」
「みんな報告ありがとう。まぁ予想してた事ではあるけど………」
「まぁ、そう簡単に出口が見つかる訳ないっすよね」
そう、出口はどこにもないのだ。霜花さんの言う通り、扉はない事はないが、全て封鎖されていて、学則のせいで壊すことも出来ない。まさに軟禁されている、という訳か。
「じゃあ出口がない以上、ここでしばらく助けが来るまで過ごさなくちゃいけないって事〜?」
「そ、そういう事に、なるね…」
「まあ、いつか助けが来るだろうし、それまで待てばいいだろ!」
「あ、じゃあ私からもよろしいでしょうか?
この食堂の利用方法についていくつか報告したい事があるのですが」
「じゃあ喜屋武ちゃん、報告頼むよ。ここに何日かいる事が確定した以上、ここを利用する機会もあるだろうしね」
「ありがとうございます。では………」
喜屋武さんが説明してくれた事を軽くまとめるとこんな感じだ。
・食事を取る方法は2つ
1 食材を専用の自販機から買ってそれを自分で調理する
2 調理済みの料理(多分モノカバが作った)を食券で購入して食べる
・食材は比較的安い
・調理済みの料理は値段が高めに設定されている(だいたい定食が1000円〜1500円くらい)
・調味料は無料で使える
ちなみに、自販機も購買と同じように無くなったら自動的に補充されるらしい。
「ちなみに喜屋武ちゃん、今日の昼ごはんは合計いくら使ったんだい?」
「今日は全員分で3500円くらいですね。節約するために、少し具材を減らしたので。すみません」
「謝る事はありません。貴方の作ったご飯、とても美味しかったですよ。拙僧は大満足でした」
「そうでござるよ!!とても美味だったでござる!さすがは超高校級の調理部でござる!」
「ありがとうございます。その言葉が何よりの幸せです」
「それより、この食券で買って食べるのは論外っすね」
「え?なんでだよ。料理しなくていいんだから楽でいいんじゃねぇの?」黒瀬君が疑問を口にする。
「貴様は計算もロクに出来ないのカ?今俺達が所持している金額は10000円ダ。一食1000円の食事を3食毎日食べてたら4日も待たずに所持金が0になり死ヌ」
「そ、それくらいの計算は出来るわ!ただ、毎日じゃなくても、2日に1食くらいは食べてもいいんじゃね?って思ったんだよ」
「それでも僕はオススメしないっすね。いつ助けが来るかわからない以上、少しでも節約するべきっすよ」
「マジかよ…………俺料理全く出来ねぇんだけど」
「ウチもーー!自慢じゃないけど目玉焼きすら作れません!!!!」
「私も、料理はちょっと自信が無いな…」
「拙者、生まれてこの方、料理をした事は1度も無いでござるな」
料理経験のない人が続々と手を上げる。うちも出来ない事は無いけど、なんかいっつも味が薄いって言われるんだよね…だから最近はほとんど作って無いからちょっと心配かも。
「では、今日みたいに私が皆さんの料理を作るというのは………」
「それは駄目だよ喜屋武ちゃん。そうしたらアンタの負担が大きくなっちゃうじゃないか。」
「ですが…」
「よし!じゃあこうしようか!料理が出来る人を中心にグループをいくつか作る。そのグループで毎日当番制にして食事を作るんだ。そうすれば喜屋武ちゃんの負担も減らせるし、万々歳だろ?」
「なるほど。それなら平等だな。私は賛成だ」銀山さんが賛成の意を唱える。
「俺もだ。あんまり人に借りを作るのは好きじゃねぇ。自分の飯は自分で作る」
「拙僧も賛成ですな。誰かにずっと作ってもらうのは心苦しいものがあります」
中澤君、千野君もそれに続く。
「うちもそれでいいと思うよ!喜屋武さんにだけやらせる訳にはいかないもんね」
うちも賛成意見をとりあえず言っておく。
「皆さん………私なんかの為にありがとうございます」
「よし!じゃあ早速グループ分けするよ!まず料理を出来る人は手を挙げてくれないかい?」
手を挙げたのは、喜屋武さん、錦織さん、中澤君、北条さんの4人だった。ちなみにうちは自信が無かったからあえて料理が出来る事を隠しておく事にした。みんな、ごめんなさい。
「じゃあこの4人を中心にグループを組むよ!」
「俺は抜けさせてもらウ。群れるのは嫌いなんダ。貴様らで勝手にやっていロ」
すると、当然ジャック君が立って外に出ようとする。ジャック君、ホントにブレないな。
けれど、意外な人がジャック君を引き止めた。
「あれれれれ?ジャックきゅん、逃げるのー
?逃げちゃうのー?」
幸村さんだった。あれ?幸村さんもしかして挑発してる?
「バカガ。これのどこが逃げているんダ。少しは考えて発言しロ。というかなんだその呼び方ハ。気持ち悪いからやめロ」
「えーいいじゃん可愛いし。あ、それともこっちにする?ジャックきゅん(笑)。なんかこっちの方がしっくり来るね!じゃあこれにしよう!よろしく、ジャックきゅん(笑)」
「貴様…………よほど俺に捌かれたいらしいナ………」
ジャック君の顔がみるみる赤く、そして険しくなっていく。
「あと逃げてるっていうのも間違ってないよ。だってジャックきゅん、料理出来ないからビビってるんでしょ?だからグループ組まないとか言い始めたんだよねー。うんうん、じゃあしょうがないね〜!素人のジャックきゅん(笑)には無理だもんね!全然逃げても大丈夫だよ〜ごめんね引き止めて!」
いやいやそんな挑発したらダメでしょ!?幸村さん、もしかしてさっきバカ呼ばわりされた事、まだ根に持ってるのかな………
すると、挑発が効いたのかジャック君はまたイスに座り直し、
「おい、キヨコ。早くグループ分けを始めロ」
「え?でも、いいのかい?」
「そこの脳内にヘドロが詰まってる運しか取り柄の無い粗大ゴミより料理が出来ることを証明してやル」
「は、はぁ!?女の子に酷すぎでしょその言い方!!なんだよー!このやぶ医者メガネ!」
「バカにしやがっテ…………それよりも貴様、本当に女なのカ?なんだその貧相な体は?特にその胸。まるで崖じゃないカ。そんな崖みたいな胸しかない奴に女を名乗る資格は無いと思うがナ」
「……………は?」
やばい、それは幸村さんにとって禁句………
「こ、コイツうちの胸貧乳って言いやがった!!!!ぶっ殺してやる!!!!!!!!」
「お、落ち着くでござる!!幸村殿!!!!」
いや、巨乳の霞ヶ峰さんが止めた所で…
「うるさい!!というかなんだそのおっぱいは!!!!メロンでも入れてるのか!!ウチをバカにしてんのか!!!!」
「ぶへ!!!!」
霞ヶ峰さんは思いっきりビンタされて伸びてしまった。ああ、アーメン。
「相川さん、やっぱり同じ貧乳の相川さんが止めるしかないっすよ」
「誰が同じ貧乳だし!今とんでもなく失礼な事言ったの分かってる!?」
相変わらず無表情で観戦してる柴崎君がうちを見ながら失礼なことを言いやがった。後で殴ってやる。
「凛さん、私からもお願いします!!凛さんだけが頼りなんです!」
「このままでは一向に話が進みません。どうか相川さん、お願いします」
「アタシからも頼むよ。今は相川ちゃんだけが頼りなんだ!!」
業ちゃん、喜屋武さん、錦織さんからも後押しされる。うわ、みんなうちより巨乳じゃん。なんか釈然としない。
「はぁ、分かったよ………なんとかやってみる」
うちはため息をつきながら、暴れてる幸村さんを後ろから羽交い締めにした。
「幸村さん、落ち着いて!!話進まないから!」
「黙れ!!この………り、りんりん!!!うわぁーーーーーーん!!!!!!」
うちだと気づいた瞬間、今度は泣きついてきた。
「ウチだって好きでこんな体に生まれてきたんじゃないのにーーー!りんりんだってそうでしょー???」
「う、うんそうだね………で、でもうちらにはまだ可能性があるじゃん!小さい程大きくなる可能性も大きいと思うよ!」
「うぅ….そ、そうかな….?」
「そうだよ!うちらにはまだ未来がある!諦めちゃダメだよ!未来は自分で切り開かないと!」
あーもう自分で何言ってるのか分かんない。なんだよ胸の成長について未来を切り開くって。まあいいや勢いでなんとかするしかない。
「………よし!まだウチは諦めない!まだチャンスがある!やっぱうちの味方はりんりんだけだよ!」
幸村さんはまたうちに抱きついてきた。ハァ、なんとか収まったか….….なんとどっと疲れた。
「ジャックちゃん!あんたのせいでこうなったんだ!なんか詫びの1つでも入れときな!」
「……………………フン」
ジャック君はこっちを見ようともしない。この2人は水と油だな…
そして中断してたグループ決めについて話し合った結果、
A中澤 相川 銀山 霜花
B北条 黒瀬 霞ヶ峰 千野
C喜屋武 ジャック 柴崎 独島 分倍河原
D錦織 飛田 万斗 幸村
こんな感じで決まった。
そしてルールとしては、
・朝(8時)と夜(7時)には全員で食堂に集合して食べる事
・当番は1日ごとに交代
・食材は、前日にあらかじめ個人で買って、当番の人に渡しておく
この3つを守ろう、という事になった。
「よし!じゃあ今日は夕食まで解散!各自自由に過ごしていいよ!!」
「モノカバの講義とやらはどうするんっすか?出席は自主判断でいいんすか?」
「そうだねぇ。出たい人だけ出るみたいなスタンスでいいんじゃないかい?どうせ何年もここにいる訳じゃないしね」
「………………なるほど、了解っす」
柴崎君はイマイチ納得してない様子だった。けど…その時、
「おいおい武史!お前あのクソカバの講義受けるつもりかよ!やめとけって!」黒瀬君が柴崎君の肩を掴んだ。
「いや、まだ受けるとは一言も言ってないんすけど….というか暑苦しいんで離れてもらってもいいっすか?」
「そんな冷たい事言うなって!よし!じゃあより友情を深める為に今からトレーニングルーム行こうぜ!!」
「絶対に嫌なんすけど。まず俺インドアなんで。え?人の話聞いてます?マジですか?」
柴崎君が黒瀬君に引きずられていく。ご愁傷様。
でも、柴崎君と同じく、うちもちょっと疑問に思っている。なんだろう、このモヤモヤした感情は。漠然としないけど、マイナスな要素なのは間違いない。このままだといけない気がする。うーん、なんか不安だ。みんな講義は出る気ないって言ってたけど、うちはとりあえず一回出てみようかな……そう考えていると、
「相川さん、中澤さん、銀山さん。今日の夕食の準備、よろしくお願いします」
喜屋武さんがそう言ってお辞儀した。そっか、うちらAグループだから早速今日から当番か。
「うん、任せて!絶対美味しい料理作ってみせるから!頑張ろうね、中澤君!、銀山さん!」
「随分張り切ってるな………まあ、与えられた仕事だ、きっちりこなすさ」
「ああ、私も微力ながら全力でサポートするつもりだ」
うちらは夕食が始まる1時間前に集合する事を約束して、解散となった。
3F 相川の個室
うちはベットに仰向けになりながら、ぼーっとカバフォンを眺めていた。現在の時刻は16時。集合まで2時間もある。かといってどこかブラブラ歩き回る気分にもなれなかった。
「なんか疲れたなあ………」
うちはカバフォンを放り投げて呟いた。
色々あって一時はどうなるかと思ったけど、錦織さんのおかげでみんなうまく団結出来たし、ひとまず人間関係に関しては問題は無さそうだ。
1人を除いて。
そう、うちは唯一単独行動をすると宣言した、霜花さんの事でずっと悩んでいた。
「霜花さんとも仲良くなれないかなぁ…」
そう思ってはいるのだが、なにせ初対面からあんなに嫌われたのは初めてだ。恐らく霜花さんにとってうちみたいなタイプは1番嫌いなはずだ。流石に嫌われている、と分かってる相手の所に行くのは腰が引ける。
「でも、このままじゃダメだよね。よし、霜花さんに会いに行こう」
最初はダメでも話し続けていれば、いつか分かり合えるはず。そう思ったうちは早速霜花さんの個室に行く事にした。
「霜花さーん。いるー?ちょっと話したい事があるんだけどー」
霜花さんの個室をノックしながら声をかけたけど、返事が無い。個室にはいないのかな。
いや、もしかしたら居留守の可能性もある。そう考えたうちはさっきよりも大声で呼びかけた。
「しーもーばーなーさーん!いますかーー」
「どんだけ馬鹿デカい声を出せば気が済むんですか。迷惑なので辞めて下さい」
すると、心底不機嫌そうな表情で扉を数センチだけ開けて霜花さんが顔を覗かせた。
「ご、ごめんね!部屋にいないかと思って….うち、霜花さんともっと仲良くなりたいなぁとか思って来たんだけど…」
「結構です。さようなら」
「は、早いから!ちょっと待って!!」
扉を閉めようとする霜花さんに抵抗する。
「私は誰とも仲良くする気はないですし、信用してないので」
「そ、そんな事言わずにさ!うちは霜花さんともっと喋りたいんだよ!」
「私は喋りたくありません」
「だ、ダメだよそんな風に拒絶しちゃ!今日も7時からみんなで夜ご飯食べるから、霜花さんも….」
「それはさっき錦織さんから聞きました。ですが絶対行きません」
「ど、とうして!?」
「誰かが毒を混ぜるかもしれないじゃないですか。そんな状況でみんなで食事なんて、まっぴらごめんです」
「そんな事ある訳ないじゃん!!」
「ハァ………またこの話ですか。やはり私とあなたは一生相入れないみたいですね」
「え???」
「もう金輪際私に話しかけないで下さい。私はあなたの事が嫌いだし、あなたも私の事が嫌いでしょう。無理して話しかける必要は無いですから」
そう言ってうちの力が緩んだ隙にドアはバタンと閉まった。うちは呆然としばらくその場に立ち尽くしていた。
うちはその後フラフラと自分の個室に戻りベットに突っ伏していた。ああ、へこむ。真正面から嫌いって言われたのは初めてだから正直かなり心にキテる。
でも、それと同時に謎の闘志が燃え上がっていた。ここまで来てるんだ。絶対に諦めない。何回嫌な顔されようが罵られようが絶対友達になってやる。
新たな目標を見つけた瞬間だった。
18:00 1F 食堂
集合時間になったので食堂に行くと、既に中澤君と銀山さんが準備を始めていた。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
「いや、時間ぴったりだ。私達は少し早く着いたから先に始めていただけだ。何も気にすることはない」
「そうだぜ。それより相川、寝癖付いてるぞ。昼寝でもしてたのか?」
「バレちゃった….実はさっき寝落ちしちゃって」
そう、霜花さんの件の後、ベットに寝っ転がった瞬間うちはいつの間にか寝てしまったのだ。そして起きたら集合時間の3分前で慌てて来たという訳だ。
「よし、じゃあ始めるか。どうせ霜花は来ないだろ」
「ごめん、さっきも来るように説得しようとしたんだけど………」
「別に相川のせいじゃねぇよ。錦織が言っても聞かないんだろ?だったら誰の言う事も聞かねぇよ。」
「それより準備だ。とりあえず食材は全部錦織が自腹で用意してくれたからな」
「えっ!?でもさっき自分達で買って当番に渡すって………」
「今日は初日だし奢りでいいだってさ。太っ腹だよなアイツ」
そう言いつつ中澤君はバラバラに置かれた食材を整理していく。
「これは………ハンバーグの材料か?」
「よく分かったな。そう、今日はハンバーグを作ろうと思う」
ハンバーグか………確かひき肉をこねて形作って焼く、みたいな感じだっけ?いや、ハンバーグがそんな簡単に出来るはずがない。絶対何か忘れてる。ダメだ。全然思い出せない。
「その前に、お前らの料理の腕前を聞いておきたい。どんくらい出来るんだ?」
「私は………さっきも言ったが料理経験はほとんど無い。家庭科の授業で包丁を数回握った事があるくらいだ」
「うちは………一応出来るけど最近はほとんどやってなかったからあんまり戦力としては期待出来ないと思う」
一応保険をかけておく。大きな口叩いて失敗したら恥ずかしいし。
「なるほど…じゃあ相川はサラダとスープを作ってくれ。俺がハンバーグの準備するから。あと、それが終わったら俺の手伝いに回ってくれると助かる」
「分かった!!」
「銀山は相川と一緒にサラダ作りを頼む。多分サラダだったら料理初心者のお前でもいけるだろ」
「了解した。やれるだけの事はやってみよう」
こうして2手に分かれて調理をする事になった。
19:00
決められた夕食の時間になると、続々と人が集まってきた。
「うおっ!?なんでござるかこのいい匂いは!」
「なんとも食欲を唆る香りですな」
「やった!!ハンバーグじゃねぇか!!オレ大好きなんだ!もう食べてもいいか?」
「もうちょっと待って!!まだ準備終わってないから!」
皿を運んでいたうちは、今にも食いつきそうな黒瀬君を止めた。でも自分達が作った料理でこういうリアクションをしてもらえるのは正直嬉しい。まあ、ほとんど中澤君のおかげだけど。
ちなみに、さっきの準備については中澤君が優秀すぎてうちらは完全に足手まといだった。なんとか2人でサラダは作れたが、スープは作ってみたらまるでただのお湯なんじゃないかっていうくらい薄味に仕上がってしまった。中澤君の助けが無かったらただのお湯をみんなに出す所だった。
「よし。全部運び終わったしもう食べてもいいぞ」
「よっしゃ!じゃあ早速ハンバーグから………」
黒瀬君は待ちきれないと言うばかりにフォークでハンバーグ丸ごと刺してかぶりつこうとした。すると、
「いてっ!!」
「黒瀬君。まずはいただきますを言いましょう。食事前の挨拶は常識ですよ」
喜屋武さんが黒瀬君の手を叩いた。さすが調理部。食事のマナーに関しては厳しい。
「いいじゃねぇか。俺腹減ってるんだよ!だから早く………」
「何か言いましたか?」
「いや…なんでもないです」
一瞬で大人しくなった。喜屋武さん、やっぱ怒らせたら1番恐いな。
「よし、じゃあみんな手を合わせて!いただきます!」
「いただきます!!!!」
「もぐもぐ………なにこのハンバーグ超ウマいじゃん!!!!これ全部りんりんたちが作ったの⁈」
「いや、ハンバーグ作ったのは全部中澤君だよ」
「ふぇぇ!?これ全部ざわさんが作ったの!?すごい!!イケメン!!」
「これはお世辞抜きで本当に美味しいです。料理教室とかに通っていらっしゃったのですか?」
「そんなの行ってねぇよ。家族の為に日頃から料理していたから勝手に出来るようになってたんだよ」
「本当に美味しいです!!中澤君、プロの料理人目指したらどうですか???」
「一緒に調理している私の目から見ても洗練された動きだった。今度私にもその技術を教えてはもらえないだろうか?」
「やめろやお前ら………あんまり褒められると恥ずかしいんだよ………」
女子たちにベタ褒めされて珍しく照れる中澤君。なんか、イケメンの照れる姿ってイイ。すごくイイ。
「くぅぅぅぅぅぅぅ!!!!なんであんなカスフットサル野郎に女の子が集まるんだよ………ボクはまだ負けてない、負けてないぞ!よし、今度アイツの料理にコショウ大量に振ってやろう。そうすればあの野郎の評判はガタ落ち、ボクの評判はうなぎ登り。そしてボクは夜な夜な彼女たちと………ウヒョヒョ!」
万斗君が歯軋りしながら中澤君を睨みつけて、独り言を呟いている。もうそんなゲスみたいな考え方してる時点でアンタの負けだよ。
「おい!灯里全然食べてねぇじゃんかよ!!俺にハンバーグくれよ!」
「だめー。わたし食べるの遅いだけだからー。味わって食べてるの〜」
「確かに、咀嚼スピードがとんでもなく遅いっすね」
「ジャック殿は随分と食べ方が綺麗ですな。拙僧はどうしてもうまく食べられないから羨ましい」
「フン、他の奴らが汚いだけだろウ。それに貴様はフォークとナイフは慣れていないのだロ?だったら仕方がないだろウ」
「………バレていましたか」
「見れば分かル。才能柄、あまりフォークとナイフを使う機会が無いと言う事がナ。それに貴様より汚い食べ方をする奴もいル。あまり気にする事はなイ」
「ははっ、ジャック殿には敵いませんな」
「あ!!ジャックきゅん、また人参残してる!!いーけないんだいけないんだー!!」
「チッ、よりによって1番見つかりたくない奴に見つかるとハ………黙れこのドブネズミ。今から食べようとしているんダ。話しかけるナ」
「なんだよドブネズミって!!!!女子に対して失礼だよ!!ジャックきゅんモテないぞ!」
「黙レ。前にも言ったが俺は貴様を女とは認識していなイ。それになんだその食べ方ハ。ソースがテーブルにはねているシ、口には食べカス。品性の欠片も無イ。まさにドブネズミに相応しいと言えるだろウ。仮にも女を名乗るなラ食べ方くらい綺麗にしたらどうダ?」
「ムキーーーーーー!!酷い!!ジャックきゅんとは絶交!謝るまで許してやらないもん!!!!」
「謝るも何も、俺は貴様のダメな所を親切に指摘してあげただけなんだガ?そんな事も分からんとハ。やはりドブネズミ、いや、ミジンコと言ったほうが正しいかもしれんナ」
「………………………………」
「それに、貴様と友達になった覚えも無いから絶交、という言葉も間違っていル。あア、ちょうどいい機会ダ。これを期に俺に二度と話しかけるナ。そうすればお互いにイーブンだロ?」
「………………………………」
「おいおい幸村ちゃん涙目じゃないか!?アンタ達どんだけ仲悪いんだい?」
「でも………なんか僕には………むしろ仲良さそうに…見えるな………」
「は?フライマジで言ってるの??こんなやぶメガネとウチが仲良い訳無いじゃん!!」
「そうダ。貴様の目は節穴カ?これを仲が良いと本気で思ってるなラ、今すぐ病院に行って医者に診てもらったほうがいイ。」
「いや医者はアンタだろう!?」
「いや………その………ごめんなさい………」
「ほら!飛田ちゃんまで落ち込んじゃったじゃないか!!あれ??アタシのハンバーグが無い?誰だい食べたの!!!!!!」
とても賑やかな食事だ。うちは一人っ子でお母さんも海外を飛び回ってたから、食事は大体1人かお父さんとの2人だけだった。だからなんかすごく新鮮に感じる。あと、なんかめっちゃ楽しい。
「?どうしたんですか、凛さん?」
隣で上品に食べていた業ちゃんが声をかけてきた。
「なんか、こういう大勢で楽しくご飯を食べるのが久しぶりで………すごく、楽しい」
「そうですか…あの、私も、うまく言えないんですけど…………友達の凛さんと、ご飯一緒に食べられるの、すごく、楽しいし、嬉しいですよ」
業ちゃんが照れながらそう言ってくれた。確かに、友達と一緒に食べられるの嬉しさもあるかも。
「私も、こうやって大勢でご飯が楽しく食べられるの、すごく嬉しいです」
正面で静かに食べていた喜屋武さんもそう口にする。
「拙者も、こういう食事は本当に久しぶりでござる!!!!テンションマックスでござる!!」
口に食べ物を詰め込みながら霞ヶ峰さんも言う。
ああ、このままこんな平和で楽しい日常が続けば良いのになぁ。そう思った瞬間だった。
「カバカバカバ。仲良しこよしがいつまで続くか見ものカバね」
「『アイツ』もそろそろ指示通り動いてくれるだろうし………これは目が離せないカバね。カバカバカバカバ……………………」
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
⁇002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
⁇003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
⁇005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
⁇006 柴崎 武史《歴史学者》
⁇007 霜花 優月《狙撃手》
⁇008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
⁇009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》
⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
⁇014 分倍河原 剛 《空手家》
⁇015 北条 業 《???》
⁇016 万斗 輝晃 《情報屋》
⁇017 幸村 雪 《激運》
残り17人