ただ、最後に急展開があるのでどうかそこまで我慢して読んで頂けると嬉しいです。
2日目 7:00 3F 相川の個室
「オマエら、朝7時になりましたカバ!さぁ今日も1日張り切っていきましょうカバー!」
この絶望ヶ丘大学に連れてこられてから迎える初めての朝。うちはモノカバのうるさいアナウンスに叩き起こされた。
「うるさいなぁ………もしかしてこれ毎日流れるの?」
愚痴を言いながらゆっくり起き上がる。一瞬昨日の事は全部夢で起きたら自分の家だった、なんてのを期待したけど、現実はそう甘くない。
「ちょっと早いけど食堂に行ってみようかな」
特にやる事もないし、食堂に行く事に決めた。多分、今日の当番の人達が準備を始めてるはずだ。行くついでになんか手伝いでも出来ればいいんだけど。
うちは早速身支度を始めた。顔を軽く洗ってから髪を昨日購買で買ったクシで整えて、服をジャージから私服に着替える。うちはファッションについてはかなり無頓着なので、同じような服しか持っていない。だからモノカバが昨日服を届けに来た時は全く同じ服を何着も持ってきた。というか、うちが同じ服しか着ないのをなんでモノカバが知ってるのかって話なんだけど。
なので、今日も昨日と同じ上はグレーのパーカー、下は長めの赤と黒のチェックのスカートという女子力の欠片もない格好で行く事にする。
「よし、今日も頑張るぞ!!」
うちは軽く自分の頬を叩いて気合いを入れた。
廊下に出ると、ちょうど出てきたであろう銀山さんと遭遇した。着ているのは変わらず着物だが、柄や色は昨日とは違うものだ。相変わらずその凛々しい表情や雰囲気からは大和撫子を彷彿とさせる。
「銀山さんおはよう!!」
「おはよう、相川。昨日よく眠れたか?」
「まあまあかなー。銀山さんは?」
「私はよく眠れた。モノカバの用意した場所で快眠出来たのは少し癪だが」
それは確かにそうだ。ああ、アイツの顔思い出しただけで腹が立つ。
「そうだ、うち今から食堂に行こうと思うんだけど一緒に行かない?」
「是非そうさせてもらおう。私もちょうど食堂に行く所だったんだ」
そう言ってうちらは歩き出す。
「そういえば相川、今朝自分のモノマネー残高を見たか?」
「いや、見てないけど…何かあったの?」
「ああ、私が今朝見たらモノマネーが増えていた」
銀山さんがうちに画面を見せてくれた。すると、画面には
現在の所持モノマネー 10100円
今日プラスされたモノマネー 100円
今日マイナスされたモノマネー 0円
と書いてあった。
「本当だ。100円増えてるね。銀山さん、何かプラスされるような事したんじゃない?」
「私には全く心当たりが無いんだが………」
「うーん……あ!銀山さん、今日起きたのって何時くらい?」
「今日は6時に起きたが………ああ、そういう事か。7時に鳴るアナウンスより前に起床したから生活態度良好、と見なされたのか」
モノマネーがプラスされる条件は規則正しい生活をする事だとモノカバは言っていた。だとすれば早起きするとモノマネーが増えるというのは至極最もな条件だと言えるだろう。だとすると毎日早起きする度にプラスで増えていくって事になるのかな?
「そうなると、うちはどうなのかなー………ってうちも増えてた」
うちも自分の所持モノマネーを見ると、銀山さんと同じ様に100円プラスになっていた。
「相川は今日何時に起きた?」
「うちはアナウンスで目が覚めたから7時ちょうどくらいかな?」
「そうか。じゃあとりあえず7時頃に起きれば100円プラスになる、という事で大丈夫だろう」
なるほど、規則正しい生活っていうのはこういう事だったんだ。とりあえず今日この情報を知れて良かった。後でみんなにも教えてあげよう。
うちらが雑談しながら食堂に入ると、中からは悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっと霞ヶ峰さん!?!?!?火が強すぎますよ!!!!火事にでもなったらどうするんですか!!!!」
「心配は無用でござる!こんなのサッと炒めて後で水をぶっかければなんの問題もナッシングでござる!!」
「何バカな事言ってるんですか!?あっ!?霞ヶ峰さん!!袖に火が引火してますよ!!」
「北条殿、いくら拙者がバカでもそんなチンケな嘘には騙されない………ギャャャャア!!!!!!!!本当でござった!!!このままだと火ダルマになってしまうでござる!!!!!!」
「そんな状態になるまで放置する訳ないじゃないですか!!水かけますよ!!せーの!」
「ぷはっ!!!!ふぅ、まさか食材ではなく自分自身に水をぶっかける事になるとは………料理とは奥が深いでござる」
「普通はありえないですから!!!!というか料理に水をかけるっていうのもおかしいんですよ!?」
「……………………………」
「……………………………」
うちらは黙って顔を見合わせた。
「手伝いにいった方が良さそうだね」
「そうだな。このままでは大惨事になりそうだ」
すぐに厨房へと向かった。
「業ちゃん!!良かったらうちらも手伝うよ!」
厨房へ入ると、さっきの騒ぎで散らかった物を片付けている業ちゃんとずぶ濡れで寒そうにしている霞ヶ峰さん、そして奥では黒瀬君にマンツーマンで料理を教えている千野君がいた。
「あ!!凛さん、銀山さん!助けてください!!私1人じゃ手に負えないです〜!!」
業ちゃんがうちに泣きついてきた。うん、相当苦労してたに違いない。
「ま、まぁ今回はちょっとばかし失敗したでござるが、次は必ずフランベ成功させてやるでござるよ!」
「今作ってたのスクランブルエッグですよ!?フランベする必要性皆無ですから!!!!というかフランベって何か知ってます???」
「………………これはかなり重症だな」
「うん。なんか料理が下手以前の問題な気がする」
確かにこれは業ちゃん1人では手に負えないかも。
「お!相川殿と銀山殿も参戦でござるか!賑やかになってきたでござ………ぶへぇっくしょん!!!!!!」
すると、寒くて身体が冷えたのか、霞ヶ峰さんが盛大にくしゃみをした。
「おいおい!?私の着物に何か飛んだぞ!?せめて口を塞いでくれ!!!」
「す、すまんでござる…さっきので身体が冷えてしまって………へ、へ、ぶひゃぁっくしょん!!!!!!」
「………………………」
今度は鼻水が飛んだ。しかもまた銀山さんに。
「お前………ワザとやってるんじゃないだろうな……」
「わ、ワザとじゃないでござる!!拙者は必死にくしゃみを押さえようとしてるでござる!!」
「と、とりあえず霞ヶ峰さんはシャワー浴びて着替えてきた方がいいと思うよ。ついでに銀山さんも汚れちゃったし着替えてきちゃった方がいいんじゃない?」
銀山さんにこれ以上被害が出る前にと思い、うちは慌ててそう提案した。
「だが、そうすると相川と北条の2人になってしまうぞ」
「大丈夫!うちらでなんとかするから!」
「そうです!私達のコンビなら怖いものなしです!」
うちらは顔を見合わせて言う。実際、業ちゃんとだったらうまくいきそうな気がする。
「………………………………」
すると、銀山さんは悲しげというか何というか、負の感情がこもった目でうちらを見てきた、ような気がする。
「………?どうしたの、銀山さん?」
「………………いや、何でもない。すぐ戻る。それまで料理は任せても大丈夫か?」
「任せて!銀山さん達もそんなに急がなくてもゆっくり戻ってくればいいから!」
「面目ないでござる………」
2人は食堂を出て行った。
「……………………」
「業ちゃん?」
「いいえ、何でもないです。それより先に料理の続き、やっちゃいましょう」
8:00 1F 食堂
朝ご飯を食べる集合時間の8時になると、ほとんどの人が席についていた。いないのは…
「分倍河原ちゃん、霜花ちゃんがいないのは仕方ないとして………柴崎ちゃんと独島ちゃんがまだ来てないね」
「では、誰か起こしてきた方がいいのではないでしょうか?このままだとせっかく作って頂いた食事は冷めてしまいます」
「じ、じゃあ灯里さんはボクが起こしに行くよ!ボクが直々に出向いておはようの挨拶とキスを………」
「アンタは絶対ダメ。論外。アタシが起こしに行くよ。柴崎ちゃんは………」
「じゃあウチが起こしてきまーす!!」
幸村さんがダッシュで食堂から飛び出して行った。朝から元気だなぁ。
「じゃあアタシらが起こしに行ってる間先に食べてていいよ。料理冷めちゃうだろうし」
「サンキュー清子!じゃあ………」
「……………………………」
「そ、そんな顔で見なくても分かるぜ流理恵!いただきますだろ!よーしみんな手を合わせて!」
黒瀬君、完全に喜屋武さんにビビってる。
「いただきます!!」
「うめーな!!やっぱ自分で作った飯は格別にうめーぜ!」
「……………おいバスケ部、てめえが作ったのどれだ?」
「あ?この豆腐の味噌汁だけど。それがどうかしたのか?」
「味が薄い、具が少ない、汁が多い、豆腐の切り方が雑。お前本当に考えて料理してんのか?料理舐めてんだろ」
「なっ………テメー流石に文句多すぎだろ!!」
「いやいや。黒瀬殿は初心者にしてはとても良く出来ていましたよ。和食作りのセンスがあると拙僧は思います」
「マジか!ほら見ろ!!李玖もオレのこと褒めてるぞ!」
「フン、どうだかな」
「ご、ごめん……うちが作った料理も味薄かったよね…うち料理作ると何でも薄味になっちゃうんだ」
「全然!!凛さんの作ったスクランブルエッグ程よい味付けでとっても美味しいよ!卵もフワッとしてるし文句の付け所がない美味しさだね!!」
「コイツ驚く程態度が違うな…二重人格なんじゃねぇのか?」
「おいフットサル野郎、ボクを二重人格とかいうサイコと一緒にするんじゃねぇ!」
「いや、どうみても貴様は二重人格のサイコパスだろウ。変態で倫理観が欠如してる時点で間違いなイ」
「たけのこ医者は黙ってろ!!」
そんなんで万斗君vsイケメン3人というどう考えても万斗君に勝ち目が無い戦いが勃発していると、
「おはようっす。少し寝坊しちゃったっすね」
「う〜ん、、、、、おはようみんなー。今日もいい天気だね〜」
眠たそうな柴崎君と、まだ夢の中にいるであろう独島さんが来た。独島さんは錦織さんにおんぶされてるけど。
「柴崎殿は寝坊するタイプでは無いと思ってたでござるが…意外でござるな」
「僕、朝めちゃくちゃ弱いんすよ。ふわぁ、眠い………」
「こら、独島ちゃん!食堂着いたよ!いい加減起きな!」
「まだ眠いよ〜。あ、錦織ママー、わたしの代わりに焼き魚の骨とっておいて〜」
「誰がママだい!?ったくしょうがないねぇ………」
「なんか本当に親子みたいだね」
「はい。とても微笑ましいです」
こっち側はなんか平和だなぁ。
「相川さんはこの後の講義に出る予定なんですよね?」
みんなが食事を終える頃、喜屋武さんが声をかけてきた。
「うん。もしかして喜屋武さんも?」
「ええ。もしよろしければご一緒してもよろしいでしょうか?」
「全然オッケーだよ!正直1人で受けるの心細かったし、喜屋武さんがいると百人力だよ!」
「あまりお力になれないと思いますが…よろしくお願いします。では、私は先に教室に行っていますね」
そう言ってお皿を下げに厨房へ戻って行った。良かった。初回からぼっちは流石に避けたかったし、とりあえず安心かな。
「凛さん!わ、私も一緒に講義受けてもいいですか!!」
すると、今度は業ちゃんがうちに勢いよく来た。相変わらず一対一での会話はまだ慣れないみたい。
「もちろん!じゃあ教室まで一緒に行こうっか。あ、ちょっと待ってもらってもいい?もうすぐ食べ終わるから」
「はい!!全然、何時間でも待ちますよ!!」
そう言ってうちが食べ終わるのをじっと見てる業ちゃん。いや、そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんだけど…
「相川、北条。私も君達と同伴させてもらってもいいか?」
うちが慌てて残りのご飯をかきこんでいると、皿を下げ終わった銀山さんが来た。
「ふがふがふが!!(良いよ!!一緒に行こう!」
急いでいたので口に物が入ったまま喋ってしまった。
「相川、何を言っているか全く聞き取れないんだが…………」
「多分、一緒に行こう、って言ってるんだと思いますよ」
「北条、よく分かったな………」
「いやいや、凛さんだったらこう言うんじゃないかって予想しただけですよ」
「…………………………」
「銀山さん??」
「………………いや、すまない。少しボーッとしていた」
「よし、全部食べ終わった!!行こう、2人とも!!」
「ちょっ、凛さん!!そんなに慌てなくても大丈夫ですよ!」
「相川、あまり急ぐ必要はないと思うぞ」
うちは2人を連れて教室へ向かった。
08:55 1F 101教室
講義開始5分前。教室にはうちを含めて全部で8人が揃っていた。業ちゃん、銀山さん、喜屋武さん、柴崎君、錦織さん、ジャック君、万斗君、それにうち。逆に言えば残りの9人は来てないという事になる。
さっき講義に出ようと思った理由をみんなに聞いてみたけど、柴崎君とジャック君はとりあえず様子見がてら来てみたらしい。利益にならないと判断したらすぐ出て行く、と言っていた。正直ジャック君が来るのはかなり意外だったけど。錦織さんと万斗君は情報収集だそうだ。まあ錦織さんはみんなを引っ張るリーダーだし、万斗君はあれでも「情報屋」という肩書きを持ってるわけだから特に不思議な事はない。
キーンコーンカーンコーン
雑談しているとチャイムが鳴った。どうやら今から授業が始まるらしい。
「はーい皆さんグッドモーニング!!!!これから授業を始めるでチューーーーー!」
すると早速、あのうるさいカバが飛び出してきて………あれ?カバじゃなくてネズミ??
「???あれ?皆さんあまり驚かないチュー。もしかしてあっしの事知ってるでチュー?」
カバの代わりに飛び出してきたのは大きな2つの丸い耳が付いた汚いネズミだった。その容姿は一言で言うと小汚いミッ◯ーマウスって感じだ。うちらが茫然としていると、
「あれ、みんな無言でチュー?ダメでチュー。対話は人間のアイデンティティの1つでチュー。それを捨てるのはチンパンジーに戻るのと同義だって誰かが言ってたチュー。」
「………まさか、モノカバの他に誰かいたとはね」
「あれれ?本当にモノカバ学長から聞いてなかったでチューか?じゃああっしとは初対面でチュー?それなのにあのリアクション?全然ダメチュー。リアクションはもっとオーバーにとらないと。リアクションをとれるのも人間だけチュー。そう、リアクションを捨てる者もいつか………」
「チューチューうるさいな!分かったよ言いたい事は!!」万斗君がたまらず話を止めようとする。しかし、
「あれ、あっしの話を途中で遮っちゃうんでチューか?それはよくない事チュー。言葉を軽んじると言う事は大事な人の言葉を聞き逃す事を意味するチュー。それは愚者の行いでチュー。オマエらは愚者のままでいいんでチュー?いや、そんなわけないでチュー。少なくともここには進んで愚者になろうとする変人に該当する生徒はいないはずチュー。ではオマエらが賢く、そして優れた人間になる為にはどうすればいいか。それはさっきも言った通り…………」
「うわあマジでウザい」
うちは思わず今の心情を口に出してしまった。はっと口を押さえたが時すでに遅し。
「そこのオマエ、今あっしの悪口言ったでチュー?じゃあ減額チュー」
ピロリンとまた携帯から残念な音が聞こえる。
コイツ………本当に1発殴りたい。うちはここに来て1番の怒りを抱いた。思わず立ち上がろうとすると、
「相川、少し落ち着け。腹が立つ気持ちは分かる。私も同じだ。けど今は堪えてくれ。所持モノマネーも減るし、暴力も禁止だ。相川にとって何一つメリットが無い」
「そうです凛さん。私、せっかく凛さんと友達になれたのに、ここでいなくなっちゃったりしたら………私、もう………」
両隣の2人に止められた。うちはクールダウンして座り直す。
「ごめん、2人とも。うちが冷静じゃなかった」
「いや、怒る事自体は間違ってない。ただ相手が悪い。ここは我慢するしかなさそうだ」
「うん、ありがとう」
「あれれれ?もう怒り収まっちゃったでチュー?つまんないチュー。ここで愚者を1人早速処分できると思ったのにチュー。残念チュー。さて、さっきの話の続きチューが、そもそも愚者と賢い者の違いとは…………」
「オマエしつこいんだよ!!!!とっとと講義始めろカバ!!」
すると、いつものように突然現れたモノカバがネズミにドロップキックをかました。
「ギャ!?が、学長!?何をするんですチュー!」
「オマエは本当に面倒くさい奴カバ!!オイラがオマエに出した指示は『生徒に講義をする』カバ!『説教しろ』とは一言も言ってないカバ!」
「で、でも………学長はやり方はあっしに任せるって………」
「それにしても初回の講義でいきなり説教かます奴がどこにいるカバ!そんな事したら次回からみんな来なくなるだろカバ!少しは頭使えカバ!!」
「でもあっしは、生徒に相応しくない愚者を積極的に取り除こうと…………」
「いちいち口答えしやがって………愚者はオマエカバ!いいから早く始めろカバ!じゃないとクビにするぞカバ!」
「ヒィっ!!すみませんでチュー!」
ネズミのお尻をガシガシ蹴るモノカバ。やってる事はダメなんだけどだけど、なんかスカッとする自分がいる。
「なるほど、上司と部下、という関係みたいですね」
「それにしても随分酷いパワハラっすね。まあ、微塵も可哀想だとは思わないっすけど」
「当たり前だよ。しかも悪口呟いただけで凛さんを愚者扱い………ボクは今とてつもなく憤慨してるよ!!」
「いや、さっきのはうちが悪かった。挑発に簡単に乗っちゃって…ホントダメだねうち」
「いやぁ、あれはあのネズミが悪いよ。アンタは悪くないさ。」錦織さんが肩を叩いて慰めてくれる。
「そうですそうです!!気にしなくていいんですからね!」
業ちゃんも頬を膨らませてネズミを見ながら言う。みんなの優しさに思わず涙が出そうになった時、
「おイ。いつまで茶番を続けるつもりダ?早く講義とやらを始めたらどうダ?」
ジャック君が腕を組みながらモノカバ達を睨みつける。顔からイライラしてるのが一目で分かる。
「チェッ!?オイラまでなんか悪いみたいになってるじゃないカバ!ほら、さっさとはじめろよ!!あと、オマエ後で説教カバ」
またゲシっとネズミのお尻を蹴るとモノカバはそそくさと消えていった。
散々足蹴にされたネズミは無言で立ち上がると、教卓に立ち、
「………………あっしが言語担当のモノチューだチュー」
言語担当 「モノチュー」
「言語って事は、外国語もあなたが教える、ということですか?」
「…………そうチュー。これからよろしくチュー」
さっきとはまるで別人のような態度で話すモノチュー。いつもそうしてろっての。
「…………じゃあまずはオマエらの学力を測る為のテストをするチュー。その後講義に入るチュー。チッ、どうしてあっしがこんな愚者のお守りなんか………」
こうしてうちらは、あっという間に1時間半の講義を受け終わった。
10:40 1F 食堂
「あーーーーあいつムカつく!!!!」
うちは水の入ったコップをドンとテーブルに置く。一緒にいる喜屋武さんは苦笑いだ。
ちなみにモノマネーがあるのになんで無料の水を飲んでいるかと言うと、さっき引かれたモノマネーの分を気にしているからだ。アイツ、300円も引きやがった。もう絶対にアイツの授業行かない。たとえうちの好きな外国語の授業だとしても。
「相川さんの怒りはごもっともです。私も正直かなり腹が立ちましたから」
そうは言うものの喜屋武さんは相変わらず涼しい表情だ。顔を真っ赤にしてるうちとは正反対。
「うちああいうネチネチ言ってくる奴大嫌いなんだよねー。喜屋武さんの身近にそういう奴いなかった?」
「ええ。確か小学校にそういう教師がいました。周りからも嫌われていましたね」
ほらやっぱり。ああいうタイプで好かれる奴なんかいる訳ないんだ。改めて分かって満足した気分になった。
「それより、なんかごめんね。うちの愚痴に付き合ってもらっちゃって」
「いえ。私もちょうど食堂に用がありましたから」
今食堂にはうちと喜屋武さんしかいない。業ちゃんは購買で買いたいものがあるらしく、銀山さんは部屋で詰め将棋をすると言っていたので講義が終わってすぐ別れたのだ。
ちなみに個室には人によっては自分の才能に準じた物が置いてあるらしい。うちの個室には無かったけど。
「喜屋武さんの個室には何かあった?才能に関する物」
「料理本がいくつか置いてありましたね。正直、基本的な料理のレシピは覚えているので必要ないですが」
すごい………さすが調理部。
「ところで喜屋武さんってなんで調理部に入ろうと思ったの?」
せっかくの機会なので聞いてみる。
「ああ、それはですね………タダで広い調理室を使えるからです」
「え???」
「ふふっ、失礼。いきなりこんな事言われても困りますよね。少し長くなるんですけど私の話をしても大丈夫ですか?」
「うん!めっちゃ気になる!!」
喜屋武さんは息を吐くと静かに話し始めた。
「私の家は私の他に弟が2人、妹が3人、そして父と母、祖父母の10人家族です。普段父と母は共働きで祖父は腰を痛めて動けない状態なので、実質家事が出来るのは祖母と私だけなんです。かといって祖母にばかり無理をさせるわけにはいかないので、私が家事全般、祖母には兄弟のお守りをお願いする、という事でずっとやってきました。
でも、兄弟達が成長するにつれて食事の量が増えて、家の狭いキッチンで全員分作るのが難しくなってきました。なので調理部に入って広い調理室を使って家族の分のご飯を作れたらなと思ったんです」
「じゃあ喜屋武さんは毎日調理室で家族の為に料理して、それを家に持ち帰ってたって事?」
「そうです。もちろん、事前に顧問にも事情を話して許可も取ってありました」
「そんな理由があったんだ………」
「はい。最初は家族の為、と思って調理部に入ったので特に料理に対して何の感情も抱かなかったのですが、次第に私の作った料理を食べて笑顔になる家族や友人の姿を見て、もっと美味しいものを作ってみんなに笑顔になって欲しい、と思って夢中になるうちにいつの間にか料理が好きになっていました」
「なるほど………喜屋武さんはじゃあ今は料理が大好きなんだね!」
「はい、大好きです」
喜屋武さんが優しく微笑んだ。やっぱり喜屋武さん、料理の話をしている時が1番幸せそうだ。
「将来はじゃあ料理人になるつもりなの?」
「ええ、実は私、恥ずかしながら将来、資格を取って自分の店を建てたいなとずっと思っていて………」
喜屋武さんは恥ずかしそうにそう言った。
「全然恥ずかしくなんかないよ!!すごい夢じゃん!」
「そ、そうでしょうか………」
「そうだよ!あ!じゃあ喜屋武さんが店建てたらうちが1番目の客として店に行くよ!絶対!だから店立ったらうちに連絡して!」
「相川さん…………はい!必ず真っ先に相川さんに伝えますね」
そう言ってお互いに指切りした。
喜屋武さんと友情が深まったひと時だった。
11:30 1F トレーニングルーム前
食堂を出たうちは、1度個室に戻りジャージに着替えてからトレーニングルーム前に来ていた。実は個室を探索した際には気がつかなかったのだが、ベットの下には替えのジャージや下着等がたくさんしまってあったのだ。昨日着替えを届けに来たモノカバに下着の替えが無いことについて文句を言ったら教えてもらった。「そんな事も分からないカバ〜〜??」とか言われて散々バカにされたけど。だってしょうがないじゃん、普通そんな所まで見ないでしょ。
トレーニングルームに来た理由は、ここにまだ来た事がなかったから興味が湧いたのと、昼ごはんの前にお腹を空かせる為に軽く運動したかったからだ。
早速ドアをそっと開けてみる。
「失礼しまーす…………ってあれ?」
中に入るとベンチプレスを上げてる人がいる。どうやら先客がいたようだ。
「ぐっ…………47、48、49…………」
その正体は黒瀬君だった。その表情は真剣そのもので、苦しいながらも懸命に取り組んでいるのが一目で分かる。うちが入ってきたのには気付いてないみたいだ。
「ぐっ……………………50!ハァ………疲れた………」
黒瀬君がベンチプレスを終えたみたいだ。このまま黙って見てるのもアレだし、声をかけに行く。
「黒瀬君、お疲れ。すごいね!あんな重たい物何回も持ち上げられて」
「おわっ!?凛!?いつからいたんだよ⁈」
「ほんのちょっと前だよ。黒瀬君、真剣にやってたし声かけない方がいいかなって」
「いや、怖ぇから言ってくれよ!!それより凛、お前その格好って事はトレーニングしに来たのか?」
「トレーニングというか、ちょっと軽く運動したいなーっと思って。昼ごはんの前にお腹空かせたいんだ」
「そうか!じゃあそんなお前にぴったりのやつがあるぜ!」
なんか嫌な予感がする。黒瀬君はうちをその設備へと連れて行く。そこには…………
「ほら!これなんかおすすめだぜ!」
「出来るか!!!!!!!!!!!!」
ショルダープレスと呼ばれる、巨大なバーベルを垂直に持ち上げるマシンだった。
「あ?なんでだよ?こんくらいだったら余裕だろ」
「どこが!?うちの力こぶ見て!ほら!こんな非力なんだよ!」
うちは腕をまくって二の腕を見せる。腕には筋肉はほとんど付いておらず、ぷにぷにの脂肪があるだけだ。ちなみにうちは運動するのは好きだが、大の苦手だ。
中学の体育の成績は大体3で、ひどい時は2だった事もある。
「というか軽い運動だって言ったじゃん!!」
「あれ?そうだっけ?すっかり忘れてたわ。アハハハハ!!」
いや忘れたというか聞いてないだけでしょ。適当だなおい。
「じゃあこれならどうだ?これだったら凛でも大丈夫だろ!」
黒瀬君が指差したのはルームランナーだった。確かにこれならうちでも出来そうだ。というか、最初からコレをやるつもりだったけど。
「うん、じゃあうちコレやるよ」うちはルームランナーに乗った。
「よっしゃ!オレも付きあうぜ!!」すると、黒瀬君も隣のルームランナーに乗った?
「え?黒瀬君、うちに無理して付きあわなくたっていいんだよ?疲れてるでしょ?」
「いや、オレも休憩したらこれやる予定だったしな。ちょうど良いタイミングだ!」
そう言って走り出す。なんか申し訳ないな。そんな気持ちになりながらうちも走り始めた。
「ゼェー………ゼェー…………も、もうダメ…………し、死ぬ………」
「お前、流石に体力無さすぎだろ………今までどうやって生きてきたんだ?」
10分後、うちはルームランナーを早々にリタイヤして床に寝っ転がっていた。体力が無いのは自覚してたけどまさかここまでとは….
「ゼェ………黒瀬君はすごいね……さすがは超高校級のバスケ部………」
「まあな!バスケは体力ないと出来ねぇからな!」
黒瀬君はまだまだ余裕そうだ。なんか黒瀬君がすごいのかうちがダメダメなのか分かんなくなってきた。いや、両方か。
「そういえば黒瀬君ってなんでバスケをやろうと思ったの?」
気になったので、休憩がてらちょっと聞いてみることにした。
「あ?どうした急に」
「いや、なんかちょっと聞いてみたくなって」
「お?もしかしてお前もバスケに興味を持ったか!!いいぜ!オレの話を聞けばきっとバスケがしたくてしょうがなくなると思うぞ!」
バスケに興味があるから聞いたわけじゃないんだけど…そう言う前に黒瀬君は話し始めた。
「オレの親父は元々バスケの選手だったんだ。まぁアマチュアのだけどな。その父親が昔読んでたバスケ漫画が家にあったからオレも読んでみたんだよ。そしたらそれがメチャクチャ面白くてよ!それでオレもバスケやってみてえってなって始める事にしたんだ!確か小学校入ってすぐだった気がするな。そこから練習しまくってたらいつの間にか全国優勝してたな!ハッハッハッ!!」
「な、なるほどね………ちなみにそのバスケ漫画ってス◯ムダンクだったりする?」
「おお!!よく分かったな!!そう!凛読んだ事あるのか?」
「読んだ事は無いけど、バスケ漫画のバイブルと言われたらまず出てくるのがそれだから」
「ばいぶる?なんだそりゃ?なんかのお菓子か??」
「…………………簡単に言うと、自分の人生に大きな影響を及ぼした物の事」
「へぇー初めて聞いたなその単語。さすがは超高校級の外国語研究家だな!」
「いやバイブルって普通に日本語として使われてるから外国語じゃないよ黒瀬君」
バスケバカ。黒瀬君が陰で呼ばれてるあだ名だけど今すごく納得出来た気がする。
「オレはオレと一緒にプレーしてくれた中学のチームメイト、コーチ、それにオレに一からバスケを教えてくれた親父にまだ恩を返せてねぇ。………後剛にもだ。だから必ずここから出てやる。もちろん、殺人なんて下らない真似せずにだ。それに、こんな狭苦しい所じゃ満足にバスケも出来ないしな」
さっきとは一変、決意に満ちた表情で話す黒瀬君。分倍河原君の件で随分落ち込んでたみたいだけど、もう完全に立ち直ったみたいだ。
「なんか今、黒瀬君がすごく頼もしく見えたよ」
「そうだろ!!そうだろ!!これからもどんどん頼ってくれてもいいぞ!」
「うん、全力で頼らせてもらうよ。みんなで無事に脱出しようね」
「おう!!!!」
黒瀬君と握手をする。そうだよ。こうしてみんなで団結すればきっと上手くいく。なんでも出来る。どんな困難にも立ち向かえる。そう改めておもえた瞬間だった。
「よし、じゃあトレーニング再開するか!凛、これからチェストプレス50回を3セットやるんだが一緒にどうだ?」
「いやだから出来るか!!!!!!!」
2日目 夜 22:00 3F 相川の部屋
「オマエら、午後10時になりましたカバ!良い子は寝る時間だカバ!夜更かしはモノマネーマイナスの対象だから程々にするカバ!ではいい夢を〜!」
昨日も鳴ったが相変わらずムカつくアナウンスだ。こんな所でいい夢が見れる訳無いじゃん。
うちは服を寝巻き用のジャージに着替えてベッドに仰向けになった。
今日もいろんな事があった1日だった。
うちは一旦起き上がると、机からノートを取り出した。
誰にも言ってないけど実は昨日から日記をつけている。元々自分で言うのもなんだがマメな性格ではあるので、日記をつける事自体あまり抵抗は無かった。早速今日あったことを書き記していく。別に誰かに提出して添削してもらうわけではないから、文章というより箇条書きで稚拙だし、字も汚い。けど、うちはここで起きたことをどうしても何かに残しておきたかった。不謹慎だが、こんな体験をすることは多分一生無いと思うから。
軟禁生活2日目
今日もたくさんの人と触れあえた1日だった。
朝……廊下に出ると銀山さんと遭遇。相変わらず凛々しくて可愛かった。
霞ヶ峰さんの料理の下手さにびっくり。業ちゃんはいつも通り優しく色々教えてくれた。モノチューがとてつもなくウザい。ウザすぎてじんましんが出そうだった。喜屋武さんと大事な大事な約束をした。将来が楽しみだ。黒瀬君のバスケに懸ける想いを聞いた。かっこいい。でもバスケバカだった。
昼………霞ヶ峰さんが野菜嫌いなのを喜屋武さんにバレていた。どうやら今まで他の人の皿にこそこそ自分の野菜を乗っけてたらしい。こっぴどく叱られていた。幸村さんとジャック君は相変わらず喧嘩していた。横で独島さんが「お、これは恋愛フラグか………これからの展開が楽しみですな〜」と呟いていた。2人に全否定されてたけど。
夜………夕方には体育の講義に出た。講師は何故か今日はモノカバらしく、チームでリレーをやらされた。飛田君の足が尋常じゃないくらい速くてびっくり。運動が苦手なうちと霞ヶ峰さん、独島さんは完全にチームのお荷物だった。3人で運動音痴トークで盛り上がった。
夜ご飯は中澤君と黒瀬君が早食い競争をしていた。2人とも途中で喉に詰まらせてた。万斗君は大笑いして、錦織さんはそれを蹴飛ばして黙らせ、千野君と一緒に2人を優しく介抱していた。
明日も平和で楽しい1日が過ごせるといいな。
7日目 7:30 3F 廊下
「ふわぁ〜眠い………」
うちは歩きながら大きく伸びをした。
「大丈夫か?最近段々起きる時間が遅くなっているようだが」
隣にいる銀山さんがそう尋ねる。
「うーんなんか最近スッキリ起きれなくて………ごめんね、今日も待たせちゃって」
「問題無い。私の中で相川と話しながら食堂に行くのが小さな楽しみになっているんだ。少しくらい待つさ」
初日に偶然廊下で会ってから、うちは銀山さんと一緒に食堂に行くのが日課となっていた。けど、昨日と今日はうちが寝坊して約束の時間(7時15分)に遅れてしまった。
「………………今日で1週間だね。閉じ込められて」
「………………ああ」
うちらが閉じ込められて1週間が経った。相変わらず救助が来る気配は無い。
「なぁ、相川。君は外からの救援が来ると思うか?」
銀山さんは真剣な表情でうちに聞いてきた。
「それは………………」
「私は来ないと思っている。前にも錦織が言っていたが日本の警察、自衛隊は優秀だ。誘拐された人間が1人ならともかく、17人同時にいなくなったのを見つけ出すのに1週間もかかるとは到底思えない。
恐らく、よほど私達が未知の場所にいるか、何らかの方法で封じられていると考えるべきだろう」
「でも、突撃準備が出来てて待機してるだけかもしれないよ」
「だとしてもおかしい。警察が突撃してくるなら、地上だけでなく普通ヘリも空中で待機しているはずだ。それとマスコミのヘリなどもいるはずだろう。だがそれらしきものも見当たらない。ヘリが来たら音で分かるからな。間違いない」
銀山さんはそう言って黙り込んでしまった。確かに、銀山さんの言う通りだ。このまま待っても絶対に助けは来ない。でも、うちはまだ諦めてない。可能性が0にならない限り、信じて待ち続ける。
「銀山さん。確かに助けは来ないかもしれない。でも可能性は0じゃない。だったら信じて待ち続けようよ!来ないって切り捨てるのは簡単だけど、それじゃ前には進めないでしょ?ポジティブにいこう!」
「相川………そうだな、悪い、少し悲観的になっていた」
「うん!!とりあえず朝ご飯食べよう!そうすれば元気になるよ!」
「ああ。早く行こう」
そう言って2人で食堂に向かった。
「あ、相川さんに銀山さん。おはようございます」
「おはよう!!」
「おはよう」
「ジャック君もおはよう!」
「………………………………」
食堂に入ると厨房から喜屋武さんが顔を覗かせた。
食堂にではテーブルの準備をしているジャック君もいる。
あれ?というか今挨拶無視されたよね?というか怒ってる?
「今いるのは2人か?後の2人はどうしたんだ?」
「………………寝坊ダ。あの穀潰しどもガ………」
ジャック君はそう答えた。今日の当番は………あ、柴崎君と独島さんだ。それなら納得だ。いやダメなんだろうけど。
「……だからジャック君怒ってたんだね」
「ああ。ジャックはルーズな奴が嫌いだからな。相当イライラしているだろう」
「貴様ラ全て聞こえてるんだガ」
うちと銀山さんがコソコソ話してたらジャック君に聞かれてしまった。苦笑いでごまかす。
「特にあのオタク………時間通りに来ないわ食べるのは遅いわ………悉く俺を苛立たせル……チッ」
オタク………独島さんの事か。なんか前にもいつまでも食べてるから皿を片付けられずに困る、みたいな事ぼやいてたな。
「申し訳ないんですけど相川さんと銀山さん、2人を起こしてきてもらってもよろしいでしょうか?流石に2人だと人手が足りないので」
「アイツらが来た所で何か変わるとは思えないがナ」
確かにこれはしばらく起きてこなさそうだし、起こしてきた方がいいかもしれない。
「うん!どうせ暇だしいいよ!銀山さんはどうする?ここで待つ?」
「いや、私も同行しよう。分担した方が早い」
うちらは早速から出て個室に向かった。
15分後
「連れてきたよ………ハァ………疲れた….」
「遅イ。何をノロノロしてたんダ」
「ごめん……全然起きなくって」
「zzz………」
「おい、まだ相川の背中で寝てるぞ」
「まったく、独島さんには本当に困ったもんっすね」
「貴様が言うナ」
独島さんは本当に起きなかった。ノック30回くらいしても起きず、チャットでひたすらメッセージを送っても反応無し、と言うことで電話しまくること5分。やっと起きた独島さんだったけどドアを開けた瞬間眠ってしまったので着替えから身支度まで全部やってあげて、しかもおんぶしてきたので死ぬ程疲れた。
ちなみに柴崎君は個室前に行った瞬間出てきたので起こさずに済んだらしい。起こしに行った銀山さんはいきなり無表情の顔がでてきたから心臓止まるかと思ったらしいけど。
「じゃあ続きをやりましょうか。柴崎君、独島さん、寝坊した分しっかり働いてもらいますよ」
「了解っす。期待に応えられるように頑張るっすよ」
「りょーか〜い」
「うちらも手伝うよ!」
「じゃあ貴様ラはこれを皿に盛りつけるを手伝エ」
「なんで偉そうなんだ………」
8:30
食堂にはいつものメンバーが揃った。
「あれ?今日ジャックきゅんが作ったの?」
「そうダ。貴様が作ったのより数万倍美味しい物をナ」
「いやいや、どう考えてもウチの料理の方が美味しかったし!ね?みんな!」
みんなはすぐ目を逸らした。
「え!?酷いよみんな!!!!なんでウチと目合わせないの!?」
実は3日前、幸村さんは食事当番でキッチンに立ったのだが、料理が壊滅的に下手だったらしい。本人曰くおにぎりを作っらしいのだが、出てきたのはとてもおにぎりには見えない炭化した何か得体の知れない物体だった。
「でも食べられない程じゃなかったよね!?ね?てるるん?」
「もちろん!……って言いたいところだけどさすがにあれはボクも食べれないかな………」
あの女子に激甘な万斗君でさえこのリアクション。幸村さん、あれはうちも擁護できそうにないよ。
「はいはいご飯が冷めちゃうよ!!!みんな席につきな!」
錦織さんがいつものようにリーダーとしてみんなを統率する。
「よーしじゃあみんな手を合わせろよ!!いただきます!」
「いただきます!!!!」
黒瀬君のいただきますの号令で食事が始まる。いつもの光景だった。
「なんだこれメチャクチャうめぇな!!」
「本当でござる!!これ全部ジャック殿が作ったでござるか!?」
「ええ。今日はジャック君メインで私はサポートに回らせていただきました」
「というかジャック君って料理出来たんだ………」
「当然ダ。そこらにいる凡人とは訳が違ウ」
今日は洋食メインらしく、テーブルにはクロックムッシュ、スクランブルエッグ、オニオンスープ、フルーツヨーグルトまである。昨日なんか多めにモノマネーを請求されたのはこれを作ろうと思ってたからか。でもこれは本当に美味しい。多めに払った価値はある。
「…………………」
幸村さんは悔しそうにクロックムッシュを頬張っている。
「なんか言いたそうだナドブネズミ。俺の料理の感想が言いたいのなら聞くガ?」
それを見たジャック君は今までのお返しとばかりに煽る。
「ふ、ふんっ!!まあまあだね!ウチの作った料理の方がまだ美味しいけど!」
まだ言ってる。申し訳ないけどこれはジャック君の圧勝だと思う。
「フン、負け犬の遠吠えカ。全く、貴様は本当に哀れだナ。料理はロクに出来ズ胸も無クおまけに頭も悪イ。救いようが無さすぎて同情すらしていまウ」
「ぶっ殺す!!!!!!!!!!」
幸村さんがまた暴れ出そうとしたのを隣にいた中澤君が押さえつける。この2人、なんでこんな仲悪いのかな………
「今日で1週間でござるね。拙者らが閉じ込められてから」
すると、突然霞ヶ峰さんが低いトーンでボソリと呟いた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
一瞬で場が静まる。
「………………す、すまんでござる!!場が白けてしまったでござるね!気にせず食べて欲しいでござる!」
「いや、俺も後で言おうと思っていた。というか他にも考えてた奴はいるんじゃねえか?」
中澤君は深刻な表情でみんなを見渡す。
「俺は正直外からの救助は望めないと思ってる。だからこれからは俺らで脱出する方法を探るべきだと思う」
「で、でも………前に一回、探索した時は、何も手がかりは、無かったと、思うけど………」
「前はな。ただ、講義に出てみて分かったことが1つある。それは教師達が必ずしも全員仲良くしてるとは限らないって事だ」
「なるほど。確かに教師の中にはモノカバに不満を覚える奴や他の教師に敵対心を持つ奴もいた。そこを狙うというわけだな」
「というか敵ってモノカバ以外にいるのか????」
「ウチも初耳なんだけど!?どんな奴がいるの??」
「アンタらね………」
体育以外の講義に全く出てない黒瀬君と幸村さんは揃って首を傾げる。
「えっと………多分大学内にいるのは全部で6体だと思う」
そう言ってうちはメモしておいた紙を出す。
「りんりんすごーい!!!全部メモしたの???」
「うん。なんかどこかで役に立つかなーと思って」
「これは助かるよ!相川ちゃん!」
錦織さんに頭を撫でられる。なんか恥ずかしいな………
ちなみに書いたメモはこんな感じだ。
学長(トップ)………モノカバ
語学担当……………モノチュー ねちっこい ウザい
経済学担当…………モノウシ 喋るの遅い 動作も遅い
法学担当……………モノトラ 熱血系 うるさい
社会系担当…………モノウサギ 穏やか へっぴりごし
理科系担当…………モノタツ 偉そう 声ガラガラ
「というか、相川さん悪口しか書いてないじゃないっすか。もしかしてこれが相川さんの本性すか?」
「違うから。余計な事言わないで」
「………………………」
「今のはどう考えてもキミが悪いよ…柴崎君」
「万斗さんに言われたらいよいよ終わりっすね」
「………キミもだいぶ口悪いと思うよ」
男2人のこそこそ話は放っておいて、うちらはメモを見る。
「多分、さっき中澤君が言ってたのはこのモノチューだと思う」
「ああ。コイツは英語の講義中、ずっとモノカバや他の教師の悪口を言っていた。多分、一匹狼タイプなんだろう」
「じゃあこのモノチューさんを味方にうまく引き入れるって事ですか?」
「ああ。手間はかかりそうだがな」
「このモノウサギはどうですかな?拙僧が見たところ、意志が弱く、周りに流されてる印象を持ちましたが」
「コイツは後回しだ。確かに意志は弱いが口が軽そうだ。俺らの作戦がバレる可能性がある」
「確かに〜。あのウサギちゃん、思わず喋っちゃった、とか慌てて言いそう」
「他の教師達はどうするんですか?みんな仲間にしちゃいますか?」
「駄目だ。あんまり大勢を仲間にするとモノカバに感づかれる。それにアイツらは多分無理だ」
「なんででござるか?」
「モノウシは多分確固たる意志を持ってるタイプだろ。俺らの説得ごときじゃ多分動かない。モノトラは頭が悪そうだし、話が通じなさそうだ。だからパス。モノタツは喋り方から老人っぽいし頭が固そうな気がする。だから無し。てなわけで消去法であの2人が残る」
「なんかモノトラって聞いた感じあっくんにそっくりだよね!!バカな所とかさ!」
「一緒にすんな!!!!俺の方が10倍頭いい自信あるね!!」
「だから、これからはこの2匹を懐柔して脱出を目指す作戦にしたいんだが、どうだ?」
中澤君がみんなに提案する。うちはもちろん大賛成だ。
「もちろん!!これならみんなで協力して出られるしね!!うちは賛成だよ!!!!」
真っ先に賛成の意を唱える。
「凛さんが賛成なら私もっ!!」
「ボクも愛しの凛さんがそう言うなら!」
「アタシも賛成だよ。これ以上の案は浮かばないしね」
そこから、続々と賛成の声が挙がる。
「よし、他に賛成する奴は………」
「俺も…………その作戦、協力させて貰っていいか?」
えっ?あまり聞き覚えのない声が入り口から聞こえたような…
「分倍河原………?」
「おおっ!!分倍河原ちゃん!!」
「分倍河原君………ご無事でしたか」
なんと、保健所でずっと寝たきりになっていた分倍河原君が姿を現した。
「バカな!?!?貴様、とても歩き回れるような怪我では無かったはズ………」
ジャック君が驚愕の表情で彼を見る。確かに、あの怪我がそう簡単に完治するとは思えない。
「ああ。俺は自然治癒能力が高いらしくてな。ある程度傷が塞がったらあっという間に治るんだ」
「それにしてもこの回復速度ハ………いや、あり得なくは無いのカ…………」
「ジャック、お前のおかげで俺は助かった。お前は俺の命の恩人だ。礼を言わせてくれ。ありがとう」
分倍河原君はまだ戸惑っているジャック君に頭を下げた。
「…………フン、俺は目の前で誰かに死なれると目覚めが悪いから治療しただけダ」
ジャック君はそっぽを向いた。内心ではお礼を言われて照れてるに違いない。
「あれ〜〜〜ジャックきゅん、もしかしてフランケンに褒められて照れてるの〜〜〜〜?かーわいいーー!」
「チッ………薄汚い絶壁ドブネズミガ。バラしてドブに捨てられたくなかったら今すぐ黙レ」
「コイツ殴っていい?ねぇ、いいよね。」
「つーか、フランケンって誰だよ………」
「剛!!!!!!」
すると、今度は黒瀬君が駆け寄ってきて分倍河原に向けて土下座をした。
「黒瀬………………?」
「すまねぇ!!!!オレが避けれなかったせいで剛をこんな目にあわせちまった!本当にごめん!!」
「黒瀬………顔を上げてくれ」
分倍河原君はしゃがんで黒瀬君に優しく言う。
「俺は………お前の事を守れて良かったと思ってる。それに俺の無駄に大きな体が他人の命を救うのに役立ったんだ。こんなに嬉しいことはない。だからお前が気に止む必要も全く無い。だから謝らないでくれ」
「剛………………」
良かった。分倍河原君が無事に戻ってきてくれて。ジャック君から面会謝絶って言われた時は本当にヤバいんじゃないかと思ってだけど、無事に合流出来たし、黒瀬君も無事に思いを打ち明ける事が出来た。これでまた一丸となって脱出に取り組める。
そう思ってた矢先
「カバー!!!!!!オマエら、エンジョイしてるカバーーーー」
またコイツが現れた。
「モノカバ!!何しに来たの!!」
うちは真っ先に声を上げていた。
「相川サン、そんな怖い顔しなくてもすぐ帰るカバ。こんなとこ、1秒たりとも本当はいたくないカバ。」
「どういう事だい?」
モノカバは顔をしかめると、
「オマエらの会話聞いてたけど正直クサすぎて吐きそうだったカバ。協力だの守るだの………特にさっきの黒瀬クンと分倍河原クンの会話、あれは死ぬほどキツかったカバ。よくもそんなクッサい台詞平気で吐けるなって思ったカバ」
「テメェ!!!!!!!!」
「黒瀬、やめろ!!」激昂して殴りかかろうとした黒瀬君を分倍河原君が止める。
「だってコイツ、オレとお前の事バカにしたんだぞ!!!」
「………それで用件はなんだ。こっちもお前の顔なんぞ1秒たりとも見たくないんだがな」
黒瀬君を押さえながら分倍河原君はそう言う。
「カバカバ。よくぞ聞いてくれましたカバ。今、オイラは非常に退屈してるカバ!何故かって??そう、コロシアイが起きないからカバ!!」
「ハァ?俺らはちゃんと単位を取って卒業しようとしてるんだよ。コロシアイしなくても卒業出来るんだったらそっちを選ぶだろ」
「まぁ、それでも一応卒業はできるけどカバ…………オイラとしてはこのままだとマンネリ化した平和な生活が続いて面白くないから、ここいらでパッと味変をしたいんだカバ!」
「言いたい事は分かった。それで、私達に何をさせるつもりなんだ?」
「さすが銀山サン。理解が早くて助かるカバ。コロシアイがこの閉鎖空間で全く起きない理由………それは『動機』が無いせいだとオイラは考えるカバ!」
「動機………でござるか?」
「そう!ミステリーとかで殺人が起きるのは必ず『動機』があるからカバ!恋人を盗られたから、昇進するのに邪魔だから、親を殺されたから…………数え上げたらキリが無いカバ!だからオイラがそれを提供しようという事カバ!」
「という事で今回の動機は…………『みんなの秘密カバ!!』」
「秘密………?」
「今オマエらのカバフォンに『3種類の秘密』を配ったカバ!1つ目は【自分の知られたくない秘密】、2つ目は【他の誰か1人の秘密】そして3つ目は、【この大学の秘密】カバ」
自分の秘密、他の人の秘密、そしてこの大学についての秘密………どれも殺人に結びつくとは考えにくいけど…
「この【自分の知られたくない秘密】に書いてある事ガ他の誰かの所にも送られているという事カ?」
「そうカバ〜ちなみに………」
「今日から2日以内に殺人が起きなければ、この秘密を外にいる人類の前で公表しちゃうカバーーーー!」
「じ、じゃあもし本当に知られたくない秘密だったら………」
「だ・か・ら!!!!そうして欲しくなかったら誰か殺すんだよ!!幸村さんは本当にバカカバー!」
「そんな…………」幸村さんは途端に顔が真っ青になった。
「カバカバカバ!!!!!!いい表情カバ。あぁ、あとはみ出しものの霜花サンにも伝えなくちゃカバ。じゃあオマエら、楽しみにしてるカバー!」
そう言ってモノカバは消えていった。
「これは放置しよう。誰も見ちゃダメだ。そうすれば誰かを殺してここから出ようなんてバカな考えもせずに済むはずだよ」
すると、錦織さんはすぐさまそう提案した。
「た、確かにそれは、あるね………」
「ええ。それが1番確実でしょう」
みんながそう頷く。しかし………
「僕は反対っすね。というか、普通に見たいんっすけどいいっすか?」
柴崎君がいつもの無表情でそう発言した。
「は???武史、今の話聞いてたのかよ??清子がみんな見なければ大丈夫だって言ってたんだぞ!!それに見たいってなんだよ!!」
「聞いてましたよ。その上で言ってるんす。そもそも、錦織さんの作戦には穴があるっすよ」
「穴?どんな穴だい?大きい方?それとも小さい方?」
「黙ってろっていつか殺されるぞ」
「まず、錦織さんの提案を全員守る保証がないじゃないっすか。その時点で絶対安全だなんて言い切れないんすよ。それに、例えこの場にいる全員が見なかったとしても、今いない霜花さんが見てそれを誰かに伝えでもしたら結局見た事と同じになるんじゃないっすか。だから今回は見たい人は見る、見たくない人は見ないみたいな感じでいいんじゃないっすか?」
「俺もタケフミに賛成だナ。いつか必ず約束を破る奴が出てくル。だったら今見たところで何も変わらないだろウ」
ジャック君の援護射撃が入る。
「………………………………分かった。見るかどうかは各自の判断に任せるよ」
錦織さんはしばらく考え込んでいたが、そう決断した。
「けど、絶対に誰かを殺すなんていうバカな真似はダメだよ!!それと、悩みがあったらいつでもアタシに言うんだよ!!相談に乗るからね!」
みんなにそう呼びかけた。みんなは不安な表情を拭いきれないままこの場は解散となった。
20:00 3F 相川の個室
うちはベットに仰向けになりながら、秘密を見るかどうかずっと悩んでいた。正直すごく見たい。自分のや他の人のはともかく、この大学についての秘密はかなり重要だと思うし、何よりこういう秘密とか、袋とじのような開けたら新しい情報がある、みたいなのって我慢できないんだよね。でも錦織さんが言ってた通り、この『動機』を見なければ誰かが誰かを殺す、とかいう状況は発生しないわけだから見ない方が………うーん、どうしたものか………
そんな事をベットでごろごろしながらかれこれ30分は考えている。そうだ、業ちゃんはどうするんだろう。チャットで聞いてみよう。
うちは携帯で業ちゃんにメッセージを送った。すると、すぐに既読が付き、返事が返ってきた。
相川:業ちゃん、急にごめん。動機の件なんだけど、業ちゃんはどうする?
北条:私は見ようと思います。自分の才能が分からない以上、自分に関する情報は貴重ですし、何よりこの大学について知るチャンスですから。
相川:でも、その情報が嘘かもしれないよ。
北条:情報が嘘か本当か判別出来ない以上、それはあんまり気にする必要は無いと思います。鵜呑みにするつもりは無いですが、嘘だと決め付けて切り捨てるのもどうかと思うので、とりあえず見てみるつもりです。
相川:なるほど。ありがとう。あと、この後時間あるかな?一緒にこれも含めて話したい事があるんだけど。
北条:時間は大丈夫です!!もしかしてこれが2人きりの秘密会議ってやつですか!悪の組織が漫画でよくやるやつですよね!
相川:そんな大袈裟なものじゃないよ(笑)じゃあ10分後、業ちゃんの部屋に行くね。
北条:はい!待ってます!!
業ちゃんと後で会う約束をしてチャットを終える。
「ふぅ….………よし。見よう」
うちは覚悟を決めて見ることにした。どっちにしろうちは絶対殺人なんかしないんだし、軽い気持ちで見ても大丈夫だよね。うん。そう自分に言い聞かせ、添付された秘密を開いた。
1、相川凛は、小学校6年生までおねしょをしていた
2、霞ヶ峰麻衣子は、小中学校でいじめを受けていた
3、現在、生徒の中には5人の裏切り者が潜んでいる
は?????????????
1番はまだいい。いや、バラされるのは良くないけど、別に誰かを殺してまで守りたいっていう程の秘密じゃない。
2番も霞ヶ峰さんにとっては問題かもしれないけど、うちにとってはそこまでじゃない。
問題は3番だ。なんだこれは。裏切り者が5人?冗談じゃない。うちは前からみんなを信用してる、殺人なんて起こるはずがないって思ってた。けど、それは裏切り者が1人とかいたとしても2人ぐらいだと思ってたからだ。けど、5人もいるとなると話は別だ。たとえうちが裏切り者の1人を説得して改心させたとしても、他の誰かが口封じでうちを殺すかもしれない。そんな危険性がある。
どうしようとりあえずちょっと早いけど業ちゃんの部屋に行こう。そう思って起き上がった瞬間、
待てよ。もしその業ちゃんが裏切り者だったら。うちがこの秘密を知ったってバレたら確実に殺される。業ちゃんは黒幕にそれを報告する。みんなは疑心暗鬼の大混乱に陥る。
な、何考えてんだうち。業ちゃんは友達じゃん。あんないい子が裏切り者なわけない。ダメだ。こんな事考えちゃ。これこそモノカバの狙いなんだ。うちは気を取り直して業ちゃんの部屋に向かった。
3F 廊下
うちと業ちゃんの部屋は隣なので廊下を出てすぐ左を向く。
すると、
「どういう事だいこれは!!!!!!!!!」
下から怒鳴り声が聞こえた。
「何かあったのかな………」
うちはおそるおそる2階へ向かった。
2F 廊下
2階に降りると錦織さんがモノカバに詰め寄っていた。
錦織さんは普段絶対見せないような表情で激昂している。
このままだと殴りかねない。止めないと。
「この事はアタシ以外誰も知らないはずだ!どこで知ったんだ!答えろ!!」
「えーそんな事言うわけないじゃないですカバ〜。しかしオイラも驚いたカバねー。まさかみんなのリーダーである錦織サンがこんな事をしていたとは」
「ふざけんなよ!!」
「駄目だよ錦織さん!学則違反になっちゃうよ!!」
うちは慌てて止めようとするが、
「うるさい!触るな!!」
「キャッ!?」
文化系のうちが運動系の錦織さんに力で敵うはずが無く、弾き飛ばされてしまう。ダメだ。完全に我を失ってる。
「酷い事するカバねーせっかく相川サンが止めようとしてくれているのに。そうやって今まで助けの手を差し伸べてきた人達を拒絶してきたんでしょ。余計な事するなって」
「うるさい………」
「挙げ句の果てにこれだカバ。『錦織清子は今までテニスのコーチを2人殺している』。これは人間のクズとしか言いようがないカバ。そして今はそんな最低最悪の粗大ゴミ同然の自分を隠してリーダー気取り。カバカバカバ!!!!面白すぎて涙出ちゃうカバ!」
「黙れ!!!!!!!!!!」
「錦織さんやめて!!!!!!!!」
ドガッ
錦織さんはモノカバを殴りつけた。そして壁に何度も叩きつけて破壊してしまった。
「錦織さん………………」
錦織さんはハァハァと息を荒げながらモノカバの残骸を見下ろす。
「………………相川ちゃんも聞いただろう?アタシは本当はみんなの前に立つ資格なんか無い、ゴミクズなんだよ。」
「学則違反者発生!学則違反者発生!普段はすぐ罰として処刑だけど今回は初めてだし見せしめとして公開処刑にするカバ!オマエら、今すぐ101教室に集合するカバ!こない奴は同じくオシオキだカバ〜!」
絶望のアナウンスが流れる。
「違う環境にいたら自分を変えられるって思ってたけど、」
複数のモノカバが廊下に現れた。
「やっぱりどこへ行ってもクズはクズだって事なんだよ」
モノカバ軍団が錦織さんに猛スピードで迫ってくる。
「アタシは自分を変えられなかった。みんなをうまくまとめられなかった。リーダーの器じゃなかった。」
軍団のうちの1匹が首輪を錦織さんの首に投げた。
首輪が装着される。
「だからさ、」
「相川ちゃん、アタシの代わりにどうかみんなの事よろしくね。
それと、さっき乱暴しちゃって、ごめんね。」
錦織さんは猛スピードで引っ張られていった。
「錦織さん!!!!!!!!!!!!!!」
まだだ。急げば処刑を止められるかもしれない。うちはダッシュで1階へと向かった。
1F 101教室
中に入った瞬間、絶望がうちを襲った。
「何これ………嘘でしょ………….」
教室の正面を見ると、黒板に磔にされた錦織さんがいた。目と口は塞がれ、手足も縛られている。
うちはその場にしゃがみこんでしまった。
「オイ!!何があった!!!!」
すると、みんなが駆け込んできた。
「な、なんだよこれ………学則違反者って清子か………」
「は、早く助けないと!!」
「やめといた方がいいっすよ」
「な、なんでだよ柴崎君!?」
「ここで歯向かったら僕らも処刑されるっすよ。それでもいいんだったらどうぞ」
「クソッ………助けを求める女の子がすぐそこにいるのに….」
「相川っ!?大丈夫か?」
「凛さん!しっかりして下さい!!」
「嫌っ………………」
うちは顔を覆った。
「さあよってらっしゃい見てらっしゃいカバ!これからこの学則違反者、錦織清子さんの処刑を始めるカバ〜!一瞬で終わるから見逃さないようにカバ!!!!」
「クソッ………どうにか出来ねぇのかよ………」
「嘘だよね….姉御、ここで死ぬの??冗談だよね!?」
「こんなの………………あんまりでござる………………」
「〜〜〜〜〜〜」
錦織さんが声にならない叫びを上げる。うちは顔を覆った手の隙間から見てしまった。
「ではーーー処刑開始カバーーーーーーーーー」
錦織さんの絶望の表情を
無数の剣がありとあらゆる所から発射された。
一瞬の出来事だった。
周りには夥しい量の血と衝撃で切断された指、そして傷口から溢れでた何かの臓器の一部が散らばっていた。
超高校のテニスプレーヤー、錦織 清子は全身に剣が刺さったまま絶命していた。
生存者
LA001 相川 凛《外国語研究家》
⁇002 霞ヶ峰 麻衣子 《動画投稿者》
⁇003 喜屋武 流理恵 《調理部》
SA004 銀山 香織《棋士》
⁇005 黒瀬 敦郎《バスケ部》
⁇006 柴崎 武史《歴史学者》
⁇007 霜花 優月《狙撃手》
⁇008 ジャック ドクトリーヌ 《医者》
⁇009 千野 李玖《茶人》
MC010 独島 灯里《サブカルマニア》
⁇011 飛田 脚男《バイク便ライダー》
⁇012 中澤 翼 《フットサル選手》
⁇013 錦織 清子《テニスプレーヤー》
⁇014 分倍河原 剛 《空手家》
⁇015 北条 業 《???》
⁇016 万斗 輝晃 《情報屋》
⁇017 幸村 雪 《激運》
残り16人