晴れて淫紋属性付きになった俺は果たしてどうしてこのようなことをやっているのか。ご主人様の趣味で俗にいう『ミニスカートの中から尻尾』状態の俺は少し考えていた。
「よいしょっ」
ご主人様が下投げで軽く飛ばしたゴムボールを四つん這いになって回収しに行く。
小さい口で加えてご主人様の手に落とすとわしゃわしゃと頭を撫でながら褒めてくれた。
これだけで心臓が締め付けられるように幸せな気持ちになる。
ご主人様が俺を見てくれるだけで、俺がご主人様の所有物であると実感するだけで安心する。
ああ、そうだ。
この安心を守りたいから、ご主人様に俺を嫌って欲しくなくてもっと興味を持って欲しい、せっかく犬なのだ番犬にでもなってしまおうと思い立って、結果こうなったんだ。『ご主人様が望むなら~』なんて思っておきながら、自分の安心を望むどうしようもなく卑しい俺に少し嫌気がした。
そも、魔術を扱えるご主人様に俺が優ることどないと……そもそもご主人様より上になろうという考えが烏滸がましいのである。
でもまあ、それでも態々ご主人様の手を煩わせる必要のないことくらいはできるようになろうとしたんだ。
一言。
「魔術を教えてください」
と言った。
いや、実際はもっと、ご主人様を守りたいとか、番犬になりたいとか言った気もする。
だが、ただハッキリしてるのは二拍ほどピタッと止まったご主人様がどこからともなく小さめのゴムボールを取り出して俺の目を引くように振ったと思ったら軽く飛ばしたことだ。
これが楽しいと考えてしまっているところ、もう既に人のそれとは精神構造が異なるのかなとか思ってしまう。
いや、もしかしたら幼馴染がご主人様に渡していた本の題名の通り元来の性質なのかもしれないが、まあそんなことはどうでもいいだろう。
「えーっと……なぜ突然ボール遊びを始めたのですか?」
「いやぁ、せっかく私におねだりする絶好の機会を与えてあげたのに湯気出すほど顔を赤くして『あ』と『う』しか話せなくなった我がヘタレで素晴らしく愛らしい眷属が、ご主人様を守りたいだのなんだのと台詞を並べたからだよ。現代人日本人っていうのは大体が、少し横にズレるだけで頭を撃ち抜かれて即死する可能性があるなんて状況じゃ前へ進めないのさ、動くこともできないものだ。できるのは特殊な訓練を受けたものだけだろう……魔術はもっと恐ろしい、そんな世界で私を守るようなことができるかい?
お膳立てされた状況で、『好きにして』とも、頷くことすらできない『人間』が」
ペラペラと妙に早口でらしくない言葉を捲し立てたご主人様に少し疑問を覚えて見てみると、不機嫌なのか嬉しいのか不安なのかよく分からない顔をしていた。
……あ、いや、もしかして、理由はわからないけど何となく。
「照れてます?」
一瞬目を逸らしたご主人様を俺は見逃さなかった。
ご主人様の感情を読めたことが少し嬉しく、尾骶骨から生える尻尾が意志とは関係なく左右に跳ねるように揺れる。
「………………ほら、このボールを取っておいで、また取ってきたら今度は抱きついて撫で回してあげよう」
「っ!」
軽く、しかし先程より少し遠くに飛ばされたゴムボールを視線で追って四つん這いで駆け出す。
ご主人様にギュッてしてもらえる!
主人公ちゃんが覚悟を決めてオネダリするのを楽しみにしてたのにヘタレられて少し不機嫌な中、そこでヘタレたくせに『守りたい』だのと
あと、『ミニスカートの中から尻尾』状態の主人公ちゃんが四つん這いで尻尾ブンブン振りながらご主人様に背を向けてボールを取りに行く。魔神ちゃんからの視界には一体何が写っいるのでしょうねぇ。