「んー!んー!……えへへ」
ご主人様が俺の耳を撫でていた。
耳や尻尾を撫でられるのは酷く心地いい。
どこを撫でられてもいいが、俺は特にこの二箇所を撫でられるのが好きなのだ。
元々なかった場所だからだろうか、妙に鋭敏で、敏感で……えへへ。
……………………。
………………。
…………?
じゃねぇ!
違う、違うんだ。
最近ご主人様がよく一緒に寝て撫で回してくれるから幸福感で忘れていたが、俺、元は男なんだ。
今は女の子だけど!
ちょっと前にご主人様の番犬にならないとって意気込んだ俺はどこに行った!?
というわけで時が流れて下校中!
俺は、高校からの帰りに新作のホラーゲームを買ってきたのだ。
他にいくつか買ったがホラゲがメインなのだ、あの幼馴染に「恋占い勝手にしてあげたよ! 一緒に遊んでペットと飼い主の仲が急接近!」なんて突然メールが送られてきたから買ったわけではない。断じてない。俺の意思である。
ホラーゲーム、すなわち人間の作った恐怖である。
ご主人様が怖がるかは微妙だが、どうせ怖がってご主人様に抱きつくのは俺である。
いや違う、そうじゃない。
ご主人様に頼ってもらわなければならないから、ご主人様が怖がらなければならないのだ。
人が作った程度の恐怖で!
……いや待てよ、俺は守ろうとしているわけで、守るために怖がらせている……うん?
俺は思考を停止した。
◆
さて、ある全能の魔神の少女がいた。
彼女は最近困ったことがあるのだ。
そう困ったことがある。
なにか?
答えは、愛犬が可愛すぎて困っているのだ。
基本南極のログハウスにこもっていてはつまらないが、特にすることがないため、愛しいワンコの様子を水晶占いを通して見通しているのだ。
たかが水晶占いと侮るなかれ、アストラル投射、つまり幽体離脱の応用でガラスの境を使い歪曲させて水晶に見たある人物の幻覚へ霊体を飛ばすことで実際の場所を見る。
そんな離れ業を使ってこの魔神は己のペットの様子を眺めているのだ。
圧倒的技術の無駄使いであるが、それを指摘されても彼女はコレこそがこの魔術の最たる活用法であると言うだろう。
あのペットにしてこの飼い主ありなのだ。
どちらも愛し合っているのは変わらない。
「おや、どこかに寄り道するのか」
少し自分の所へ来るのが遅れるなと察した彼女は少しむくれた。
「なんだ、なんだ。私よりそのホラーゲームを優先するのか……うん? やけに2人プレイのゲームを気にして回っているな……そうか、私と一緒に遊びたいのか」
どこか満足な顔をした彼女は、今日は腹をめいっぱい撫でてやるかと楽しそうにしている。
全能であろうと、ペットの機微に一喜一憂させられると、なんとも不思議なことである。
「それにしても、あの子はどうすればヘタレなくなるだろうか……うむむ……押し倒せば行けると思うがやっぱりあの気が勇気をだして自分から求めてくる瞬間を見てみたい……どちらも捨て難い……」
ペットのTS少女のことを思って、その愛らしいペットの性格に全能は悩まされる。
◆
ある、幼馴染がワンコ少女にTSさせられた少女は唸った。
実は彼女、強力な霊感を持っていたりする。
それはもう、見たいもの見たくないものをフィルターでかけられるほどに自在に力を操れる。
近代、現代のあらゆる魔術師が羨む力を生まれながらにもっていた少女は、しかし触りしか魔術を知らない。
そして彼女自身、魔術を使わない。
そういうスタンスをとっていた。
しかしそれが今大きく揺らいでいるのだ。
原因は単純明快、幼馴染と魔神の関係がもどかしいのである。
彼女たちがイチャイチャしているのは十分に理解しているが、だが、だからこそ!
この間の出来事の後に幼馴染がヘタレたと知った時はどうしてくれようかと思ったのだ。
お祝いに赤飯を炊いて持っていこうかどうか迷っていたというのに、出鼻をくじかれた気分だった。
魔神も魔神であると彼女は考える。
彼女が楽しみに待っているパターンもわかるが、このままでは二人とも健全な関係のまま何万年と過ごしそうな勢いなのだ。
押し倒せと電波を送りたいがあいにく人間にそんな機能は備わっていない。
だからこそ、彼女は思い立ったのだ。
二人に盛る媚薬のために魔術を学ぼう。
大丈夫、恋路を邪魔しているわけではないから馬に蹴られることはなかろう。
とりあえずこっちで色々彼女たちをそういう雰囲気にさせる魔術を探すためには気取られないようにしなければならない。
ふむ、ひとまず第一歩として幼馴染にメールを送っておくか。
「うーん……興味を持ちそうな内容……ああ! 『勝手に恋占いしてあげたよ! 一緒に遊んでペットと飼い主の仲が急接近!』……と、これでいいかな」
うん、と頷いて満足した彼女は空を見上げて決意した。
「待ってて二人とも、二人が無事ゴールインできるように私頑張るから!」
健全(?)な関係の二人。